第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 悪魔の薬との闘い

(1) 深刻化する覚せい剤事犯の現況
 昭和62年の覚せい剤事犯の検挙件数は3万830件、検挙人員は2万643人で、56年以降7年連続して検挙人員は2万人を超えている。過去10年間における覚せい剤事犯の検挙状況の推移は、図5-1のとおりである。

図5-1 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(昭和53~62年)

ア 4年連続して史上最高を記録した押収量
 62年の覚せい剤押収量は、約620キログラムで、前年の押収量(約350キログラム)の約1.8倍となり、4年連続して史上最高の記録を更新した。この押収量は、約3,100万人(全国民の約4分の1)もの人が同時に使用できる量に相当し、国民の健康に対する覚せい剤の脅威は、極めて深刻なものとなっている。
イ 台湾、韓国ルートを中心とする巨大密輸事犯
 62年の覚せい剤の大量押収事例(1キログラム以上を一度に押収した事例をいう。以下同じ。)は24件、大量押収事例に係る押収量は約592キログラム(総押収量の95.5%)に上った。大量押収事例に係る押収量を仕出地別にみると、台湾が約463キログラム(12件)でその78.2%を占め、次いで韓国約63キログラム(3件)となっている。また、一度に10キログラム以上を押収した事例は7件に上り、一度に密輸される覚せい剤が大量化していることをうかがわせるほか、密輸方法も、冷凍コンテナ船を利用したり、果物の缶詰を偽装するなど、ますます巧妙化している。
〔事例〕 福岡県警察は、長期間の粘り強い捜査により、2月、暴力団道仁会系森田組に係る

覚せい剤密輸、密売事件を摘発し、一度の押収量では史上最高の約253キログラム(末端価格約420億円相当)を押収した。同組は、鹿児島県の離島を根拠地とし、小型漁船を使って61年に6回の洋上取引を行い、約570キログラムの覚せい剤を台湾から密輸していた。未押収の約317キログラムは、既に関東地方等で末端にまで密売されていたことが解明された。
ウ 白い粉に群がる暴力団
 62年に覚せい剤事犯で検挙した暴力団員は、9,307人で、覚せい剤事犯総検挙人員の45.1% を占め、また、これは、暴力団員総検挙人員4万257人の検挙罪名の第1位(23.1%)に当たっている。さらに、62年に暴力団員から押収した覚せい剤は、約336キログラムで、前年(約67キログラム)の約5倍に達した。このように、暴力団は、その資金を稼ぐため、依然として覚せい剤事犯に根強く介入している。過去10年間の暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況の推移は、図5-2のとおりである。

図5-2 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況の推移(昭和53~62年)

エ 更に上昇を続ける再犯者率
 62年の覚せい剤事犯の検挙人員2万643人のうち、再犯者は1万1,437人(55.4%)であり、前年の再犯者率(53.9%)を更に上回った。これは、一度使用するとなかなかやめられない覚せい剤の恐ろしさを示すものである。最近5年間における覚せい剤事犯の再犯者の状況は、表5-1のとおりである。

表5-1 覚せい剤事犯の再犯者の状況(昭和58~62年)

オ 跡を絶たない覚せい剤乱用者による事件、事故
 覚せい剤は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらし、かつ、極めて強い精神的依存を生じさせる。また、使用をやめた後でも、少量の再使用や疲労等をきっかけに、乱用時同様の精神障害が突然現れること(フラッシュバック現象)があると言われている。このため、覚せい剤の乱用者は、凶悪な犯罪を引き起こしたり、購入資金欲しさから強窃盗等の犯罪に走ることも多い。62年の覚せい剤に係る事件、事故の発生状況は、表5-2のとおりであり、自傷、他害のおそれのある覚せい剤乱用者に対する適切な入院治療と退院後のアフターケア体制の整備が必要である。
〔事例〕 無職の男(26)は、9月、「お宅の庭にハンカチを落としてしまった」と言って隣家を訪れ、応対した主婦にいきなり刃物で切り

表5-2 覚せい剤に係る事件、事故の発生状況(昭和62年)

付け、頸(けい)部等約20箇所を刺して失血死させ、逮捕された。この男は、61年12月に覚せい剤の不法所持により検挙され、執行猶予中であり、また、62年1月には覚せい剤中毒で入院治療を受けていたが、1箇月ほどで退院となり、その後は近隣で奇行を繰り返していた(警視庁)。
(2) 多様化し、警戒を要する麻薬事犯
 昭和62年の麻薬事犯(麻薬取締法、あへん法及び大麻取締法違反)の検挙件数は2,115件、検挙人員は1,694人で、前年に比べ、件数は115件 (5.8%)、人員は76人(4.7%)それぞれ増加した。過去10年間の麻薬事犯の検挙人員及び最近5年間の主要な麻薬の種類別押収状況は、それぞれ図5-3及び表5-3のとおりである。

図5-3 麻薬事犯の検挙人員の推移(昭和53~62年)

表5-3 主要な麻薬の種類別押収状況(昭和58~62年)

ア 史上最高を記録した大麻事犯の検挙件数、人員
 62年の大麻事犯の検挙件数は1,612件、検挙人員は1,276人で、前年に比べ、件数は149件(10.2%)、人員は105人(9.0%)それぞれ増加した。 62年の件数、人員は、ともに史上最高であり、大麻の乱用拡大の兆しがみられる。また、62年の乾燥大麻の押収量は、約185キログラムで、前年に比べ約7キログラム(3.6%)減少したが、これも前年に次ぐ史上第2位の記録となっている。62年の乾燥大麻の大量押収事例は31件、大量押収事例に係る押収量は約104キログラムであり、これを仕出地別にみると、フィリピンが約73キログラム(19件)、次いでタイが約14キログラム(4件)となっている。
 一方、62年に大麻事犯で検挙した暴力団員は、198人で、大麻事犯総検挙人員の15.5%を占めているほか、暴力団関係者からの大量押収事例も相次ぐなど、暴力団が、覚せい剤に次ぐ第2の薬物として、大麻の密売に関与し始めていることがうかがわれる。
イ 新しい種類の麻薬の流入
 62年のコカインの押収量は、約1,608グラムと前年(約460グラム)の約3.5倍となり、史上最高の記録となった。これは、主として日本人旅行者が米国から密輸したものである。コカインの乱用方法は、粉末を鼻から吸うのが一般的であるが、米国で流行している「クラック」(純度が高く、作用が強烈なコカイン)のように、たばこで吸う方法も広まっている。コカインは、薬理作用が覚せい剤と酷似した興奮剤であり、我が国への大量流入が懸念されることから、警察では、厳重な警戒を行っている。
 なお、62年は、ヘロインの押収量も、4,667グラムと前年(1,339グラム)の約3.5倍に急増した。
〔事例〕 5月、タイルートによるヘロイン密輸事件の捜査の過程で、覚せい剤とヘロインの混合水溶液を注射により使用していた夫婦(夫36歳、妻43歳)を検挙した。追跡捜査の結果、同水溶液は「スピードボール」と呼ばれており、その乱用が広まっていることが判明した(京都)。
(3) 有機溶剤等の乱用
 昭和62年のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙、補導人員は、4万5,038人で、このうち少年が4万472人と89.9%を占めており、依然として少年層を中心にシンナー等がまん延している。特に、女子少年の検挙、補導人員は1万507人であり、前年に比べ3,512人(50.2%)増加したことが目立った。シンナー等の乱用は、少年の成長に大きな害悪を及ぼすほか、錯乱、精神障害等から暴力犯罪等を引き起こすなど、社会的危険性が高く、また、より薬効の強い覚せい剤等の乱用への入口ともなっている。最近5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙、補導人員の推移は、表5-4のとおりである。

表5-4 シンナー等有機溶剤乱用者の検挙、補導人員の推移(昭和58~62年)

〔事例〕 9月、海岸の小屋で中学生ら3人の少年が首をつって死んでいるのが発見された。少年たちは、シンナー遊びをしているうちに、自制心や恐怖心を失い、発作的に集団自殺を図ったものとみられる(北海道)。
 このほか、「トリップ剤」(入手が比較的容易で、多量に服用すると幻覚等をもたらす睡眠薬、接着剤等)の流行もみられる。
〔事例〕 9月、西独製の睡眠薬「ノルモレスト」のコピー薬(本物と同様、メタカロンを含有するものである。)約30万錠を密造し、ディスコ等において「トリップ剤」として販売していた医薬品会社社長(52)ら3人を逮捕し、13万8,000錠(末端価格約2億7,600万円相当)を押収した(警視庁)。
(4) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、習慣性薬物が国民の身体、精神に害悪をもたらし、社会に大きな脅威を与えていることにかんがみ、昭和62年6月に「覚せい剤乱用防止対策要綱」を制定し、その乱用の根絶を期して、総合的な諸対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 習慣性薬物のほとんどは、台湾、韓国等から、外国密輸組織、暴力団等により密輸されたものである。そして、一度国内に流入した薬物は、暴力団を中心とする巨大な密売組織によって、巧妙な手口で素早く末端にまで売りさばかれる。したがって、薬物問題の根本的な解決のためには、密輸事犯の根絶と密売組織の壊滅が必要である。警察では、こうした考えに立ち、全国的に捜査資機材を整備し、各都道府県警察が一体となった組織的、広域的な捜査を推進するほか、海空港付近の警察署、派出所等を中心に連絡、手配体制を強化して、密輸事犯の水際検挙と密売組織の検挙の徹底に努め、供給の面からの薬物対策を推進している。
〔事例〕 愛媛県警察は、県下最大の覚せい剤密輸組織である暴力団石鉄会に対する壊滅作戦を長期間にわたって推進し、11月、組長ら163人を検挙して、同会を壊滅させた。
イ 乱用の根絶
 薬物問題の根本的解決のためには、供給ルートの遮断とともに、需要の根絶が必要である。警察では、こうした考えに立ち、薬物乱用を拒絶する社会環境が作られるよう広報、啓発活動を行うとともに、末端乱用者の徹底検挙を図っている。 62年には、薬物乱用体験者の手記集「白い粉の恐怖」を6万部作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、報道機関等を通じて積極的な広報を実施するとともに、従来から各都道府県警察に設置されている覚せい剤相談電話等により、覚せい剤等で苦しんでいる人たちの相談に応じた。また、62年には、覚せい剤の慢性中毒によって自傷、他害のおそれがある者として、50人を都道府県知事に通報し、本人の医療保護と他人に対する危害の防止を図った。
ウ 関係機関、団体との連携の強化
 警察は、我が国の薬物事犯の検挙総数の約98パーセントを検挙しているが、薬物問題の根本的解決のためには、さらに、海空港における監視、取締機関や民間の薬物乱用防止団体等との協力が不可欠である。警察では、こうした考えに立ち、税関、入国管理局等と協力して、薬物事犯対象者等に対する出入国監視の強化と薬物の密輸防止に努めるほか、(財)全国防犯協会連合会や、警察庁と厚生省の共管法人として62年6月に設立された(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターと連携して、広報、啓発活動を行っている。 62年10月には、(財)全国防犯協会連合会と協力して、「ありがとう・金メダル」と題する広報、啓発活動用の映画、ビデオを約600本作成し、全国に配布した。
エ 高まりゆく国際協力の動き
 習慣性薬物の密輸事犯は、国際化の進展等に伴い、巧妙化と増加の一途をたどっており、その徹底的な検挙のためには、各国の捜査機関と密接な捜査協力を行うことが不可欠となっている。また、現在、諸外国においても様々な種類の薬物が社会的、経済的に大きな問題をもたらしており、62年6月の「第13回主要国首脳会議」や62年7月の東京における「ICPO アジア地域会議」においては、薬物問題が重要課題として取り上げられ、さらに、国連では、薬物不法取引防止のための新条約作りが行われるなど、ここ数年、薬物犯罪根絶のための国際協力の機運がとみに高まっている。こうした動きを踏まえ、警察では、62年10月、警察庁に薬物情報官を設置し、外国捜査機関との情報交換に努めている。
 また、62年11月30日から5日間、東京で開催された「第13回国連アジア・太平洋地域麻薬取締機関長会議」においては、アジア・太平洋地域28箇国・地域の薬物取締機関の責任者67人が一堂に会し、警察庁保

安部長を議長として、専門的、具体的な捜査技術、情報の交換を行い、相互の連携を強めた。そして、会議最終日には、薬物事犯に関する国際捜査の強化や、地域内治安担当閣僚会議の開催等を国連麻薬委員会に勧告することが決議された。
 さらに、62年8月27日から15日間、東京で開催された「第26回麻薬犯罪取締りセミナー」には、アジア、中南米等19箇国から19人が参加し、薬物の鑑定、国際捜査共助等について活発な討論が行われた。

2 風俗環境の浄化

(1) 風俗営業等の現況
 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営適正化法」という。)が施行されてから、昭和62年12月末で3年近くが経過したが、この間、警察は、同法の基本理念(善良の風俗及び清浄な風俗環境の保持並びに少年の健全育成)に基づき、指導、取締りを積極的に推進してきた。この結果、強引な客引き、料金等をめぐるトラブル、卑わいな看板類等が減少し、家族連れが安心して歩ける盛り場が多くなるなど、風俗環境の浄化が進んでいる。
 しかしながら、他方では、年少者に客の接待等をさせる事犯、年少者を営業所に立ち入らせて酒やたばこを提供する事犯、遊技機を使用した賭博(とばく)事犯等が増加し、また、性を売り物とする営業形態の多様化、風俗関連営業及び深夜酒類提供飲食店営業への暴力団の介入等、看過できない事案も増えており、警察では、引き続きこれらに対する重点的な視察と取締りを行っている。
ア 風俗営業の状況
(ア) 料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)
 最近5年間の料飲関係営業等の営業所数の推移は、表5-5のとおりで、漸減傾向にあり、62年12月末現在、8万4,827軒となっている。

表5-5 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和58~62年)

 62年の違反態様別検挙状況は、図5-4のとおりで、1,899件を検挙した。また、62年には、指示1,013件、営業停止580件、許可の取消し107件の行政処分を行った。

図5-4 風俗営業(料飲関係営業等)の違反態様別検挙状況(昭和62年)

(イ) 遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)
 最近5年間の遊技場営業の営業所数の推移は、表5-6のとおりである。
 このうち、ぱちんこ屋の

表5-6 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和58~62年)

営業所数は、56年以降増加を続けており、62年12月末には、1万4,478軒に達したほか、ぱちんこ遊技機等の設置台数も、343万3,809台とこれまでの最高数を示した。
 一方、まあじゃん屋の営業所数は、54年以降減少を続け、62年12月末現在、2万7,809軒となり、ゲームセンター等の営業所数も、62年12月末現在、4万4,386軒となり、前年に比べ若干減少した。
 62年の違反態様別検挙状況は、図5-5のとおりで、1,437件を検挙した。また、62年には、指示899件、営業停止118件、許可の取消 し36件の行政処分を行った。

図5-5 風俗営業(遊技場営業)の違反態様別検挙状況(昭和62年)

 検挙事犯の中では、特にゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯の増加が目立ったが、その手口も悪質、巧妙化している。このような賭博(とばく)事犯が61年ころから増加している理由としては、人の遊技技術が介入する余地のない新型遊技機が広まったこと、公営競技場等から追われ、資金源を封圧された暴力団が新たな資金源としてゲーム喫茶の経営等に手を伸ばし始めたことなどが挙げられる。

〔事例〕 喫茶店の経営者(26)は、大型冷蔵庫(裏側を切り抜いたもの)のドアから出入りできるようにした隠し部屋を設け、店内の監視カメラで客を選別してその隠し部屋に入れ、ゲーム機賭博(とばく)をさせていた。11月、常習賭博(とばく)で検挙(岡山)
イ 風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項第1号~第5号)の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表5-7のとおりで、59年以降漸減傾向にあり、62年12月末現在、1万5,292軒となっている。

表5-7 風俗関連営業所数の推移(昭和58~62年)

 62年の違反態様別検挙状況は、図5-6のとおりで、1,155件を検挙した。
 また、62年には、指示177件、営業停止176件、営業の廃止4件の行政処分を行った。

図5-6 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(昭和62年)

ウ 深夜飲食店営業の状況
 62年12月末現在、深夜飲食店営業の営業所数は、33万7,130軒であり、このうち深夜酒類提供飲食店営業の届出をした営 業所数は、25万5,509軒であった。最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表5-8のとおりである。

表5-8 深夜飲食店の営業所数の推移(昭和58~62年)

 62年の深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-7のとおりで、2,940件を検挙した。また、62年には、指示1,157件、営業停止603件の行政処分を行った。

図5-7 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(昭和62年)

(2) 売春事犯等の現況
 昭和62年の売春事犯の検挙件数は1万885件、検挙人員は3,196人で、件数は4年連続して1万件を超えた。最近5年間の検挙状況は、表5-9のとおりであり、最近は、売春防止法制定当時多かった街娼(しょう)型、管理型が減少した反面、デートクラブ等に代表される派遣型が増加し、総検挙件数の92.2%を占めるに至っている。

表5-9 売春防止法違反の検挙状況(昭和58~62年)

 また、最近出現したテレホンクラブは、62年12月末現在、全国で467軒が把握されており、営業者が、あらかじめ契約している女性に電話をさせ、売春を行わせている事例や、少女が好奇心から電話して性的被害者となる事例等が見受けられる。 62年には、青少年保護育成条例違反等で43軒を摘発したが、警察では、風俗環境の浄化と少年の健全育成の見地から、強い関心を持って監視、取締りを行っている。
〔事例〕 テレホンクラブ経営者(47)は、電話をかけてきた女子高校生に対し、「小遣いをくれる人を紹介してやる」などと言葉巧みに売春をするよう誘い込み、客に対してこの少女とそのクラスメートをあっせんしていた。5月、経営者を児童福祉法及び売春防止法違反で、客11人を県青少年保護育成条例違反で検挙(熊本)
(3) 多様化する猥褻(わいせつ)事犯
 昭和62年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は2,159件、検挙人員は2,015人であ る。猥褻(わいせつ)事犯は、社会情勢を反映して多様化が進んでいるが、特に、最近は、ビデオ機器の普及等から露骨な表現の猥褻(わいせつ)ビデオテープ等が広く一般家庭等に出回り、猥褻(わいせつ)なパソコンソフトやテレホンカードが出現するなど、青少年の健全育成にとっても憂慮すべき状況にある。62年に押収した猥褻(わいせつ)ビデオテープは、5万2,782種類、24万209巻で、前年に比べ、9,190種類(21.1%)、10万3,406巻(75.6%)それぞれ増加した。最近5年間の猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況は、表5-10のとおりである。

表5-10 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和58~62年)

〔事例〕 4月、ポルノ写真等を基に猥褻(わいせつ)図画をコンピュータで作画し、フロッピーディスクに記憶させて販売していた電機メーカーの技術者(44)ら14人を猥褻(わいせつ)図画販売等で検挙した(兵庫)。
(4) 風俗営業等に従事する外国人女性
 近年、外国人女性が観光ビザで入国し、不法残留を続けながら、風俗営業等で稼働したり、売春等の風俗関係事犯に関与する事案が増加しており、風俗環境に大きな影響を及ぼしている。最近5年間の風俗関係事犯関与外国人女性(観光ビザで入国し、風俗関係事犯の被疑者又は参考人として取り扱った外国人女性をいう。)の数の推移は、表5-11のとお

表5-11 風俗関係事犯関与外国人女性の推移(昭和58~62年)

りである。ここ数年は、特にフィリピン人女性の増加が著しく、60年以降は、全体の過半数を占めるに至っている。62年には、これらの外国人女性のうち、889人(全体の73.4%)を検挙した。警察では、暴力団等による職業あっせん事犯の摘発を重点に取締りを強化している。
〔事例〕 11月、フィリピン及びマレイシアに渡航して現地の女性を入国させ、県内外のスナックにホステスとして派遣して1人1箇月24万円の派遣料を得ていた芸能プロダクション経営者(47)を労働者派遣事業法違反で検挙するとともに、スナック経営者(48)ら20人を風営適正化法違反等で検挙した(神奈川)。
(5) ノミ行為事犯の現況
 昭和62年の公営競技に係るノミ行為事犯の検挙件数は673件、検挙人員は2,638人で、前年に比べ、件数は745件(52.5%)、人員は2,415人(47.8%)それぞれ減少した。最近5年間のノミ行為事犯の検挙状況は、表5-12のとおりである。

表5-12 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和58~62年)

 最近は、警察と施行者の連携の下に、暴力団、ノミ屋等の公営競技場からの排除措置が強力に推進されているため、ノミ行為の場が場外に拡散しており、また、転送電話等を利用するなど手口の悪質、巧妙化が目立っている。警察では、今後とも、各施行者の協力の下に、場内外におけるノミ行為事犯の取締りを強力に推進することとしている。

3 銃砲の取締りと適正管理

(1) けん銃の取締り
ア 頻発するけん銃使用犯罪
 昭和62年のけん銃使用犯罪の検挙件数は、前年と同じ219件で、罪種別では、殺人109件、強盗12件と凶悪犯罪が多数を占めている。また、けん銃使用犯罪のうち、暴力団関係者によるものは、208件で、全体の95.0%を占めている。過去10年間におけるけん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、図5-8のとおりである。

図5-8 けん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和53~62年)

イ 依然として多いけん銃の押収数
 62年のけん銃の押収数は、1,592丁で、前年に比べ142丁(9.8%)増加した。最近5年間のけん銃押収数の推移は、表5-13のとおりである。
ウ けん銃密輸事犯の状況
 62年のけん銃密輸事犯の検挙件数は22件、検挙人員は39人であっ

表5-13 けん銃押収数の推移(昭和58~62年)

た。また、62年のけん銃密輸事犯に係るけん銃の押収数は、304丁で、前年の約2.8倍となっており、銃砲刀剣類所持等取締法にけん銃輸入禁止規定が設けられた40年以降、59年に次いで2番目に多い押収数であった。最近5年間のけん銃密輸事犯の検挙状況は、表5-14のとおりである。

表5-14 けん銃密輸事犯の検挙状況(昭和58~62年)

 警察では、税関等の関係機関、団体との緊密な連携の下に、けん銃密輸事犯の水際検挙と密輸ルートの解明に努めている。
〔事例〕 フィリピン人親子(50、33)は、米海軍軍属3人と共謀の上、日本の暴力団関係者に密売するため、けん銃110丁、カービン銃1丁、実包2,349個をマニラの米海軍基地から米海軍給油船を利用して佐世保港に密輸した。3月検挙(福岡、長崎)
(2) 猟銃等の適正管理
ア 猟銃等の所持許可数の減少
 最近5年間に所持許可を受けた猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」とい う。)の数の推移は、表5-15のとおりで、昭和62年12月末現在、52万3,179丁(うち、猟銃48万5,594丁、空気銃3万7,585丁)となっており、9年連続して減少した。これは、警察が、所持許可に係る用途に供していない猟銃等(ねむり銃)について許可取消処分を行うなど、厳しく対処してきたことに加え、レジャーの多様化及び狩猟鳥獣の減少に伴い、狩猟者が減少したことによるものと推測される。

表5-15 所持許可を受けた猟銃等の数の推移(昭和58~62年)

イ 猟銃等による事故の減少
 最近5年間の猟銃等による事故の発生状況は、表5-16のとおりで、62年の発生件数は87件、死傷者数は89人であり、前年に比べ、それぞれ9件(9.4%)、12人(11.9%)減少した。

表5-16 猟銃等による事故の発生状況(昭和58~62年)

 62年に盗難に遭った猟銃等は22丁であったが、その被害状況をみると、全体の45.5%に当たる10丁が、自動車の座席、自宅の居室、無施錠のロッカー等に不用意に放置するなどの保管義務違反によるものであった。
 また、62年の猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は、39件で、このうち所持許可を受けた猟銃等を使用したものは、21件であった。最近5年間の猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況は、表5-17のとおりである。

表5-17 猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況(昭和58~62年)

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 昭和62年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は、9万6,518件であった。
 また、62年には、火薬類の盗難事件が18件、実包を除く火薬類(ダイナマイト、無煙火薬等)を使用した犯罪が28件発生した。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して積極的な立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導と取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 昭和62年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が922件発生し、344人の死者を出した。
 警察では、高圧ガス、石油類等の事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っているが、62年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、1,091件、1,129人を検挙した。特に、11月には、輸送中の危険物の安全を確保するため、危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反490件、384人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 昭和62年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等が1,064件、放射性同位元素等が293件であった。
 61年からは、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の改正により、使用者等が核燃料物質等を運搬するに際しては、警察から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととされた。警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。
(4) 毒物、劇物による事件、事故の防止
 警察では、毒物、劇物の販売業者等に対して、保管管理の徹底を要請するなど、引き続き毒物、劇物による事件、事故の防止に努めた。なお、昭和60年に多発したパラコート除草剤を清涼飲料水等に混入する事件は、62年には7件(うち、死亡3人)発生した。
〔事例〕 国家公務員(20)は、発火物の製造を企て、他人の氏名を冒用し、押印した偽造の譲受書を手渡して、薬局で劇物である硫酸を購入し、また、爆発性劇物である塩素酸カリウムを注文した。この事件では、薬局が身元確認の電話を行ったことから、男の氏名冒用の事実が判明した。7月20日、有印私文書偽造、同行使で逮捕(京都)

5 消費者被害防止対策の推進

(1) 海外先物取引をめぐる悪質商法
 国民の資産形成への関心に付け込み、正当な取引行為を装って多額の金銭をだまし取る悪質商法による被害は、昭和62年も多発した。警察では、その中でも苦情、取締り要望が極めて多かった海外先物取引をめぐる悪質商法に重点を置いて取締りを実施した。
 海外先物取引とは、海外に所在する商品取引所において行われている先物取引に日本国内から参加するものであり、一般的には、各国の取引所に上場されている商品の将来の需給変化による価格の値上がりや値下がりを予想して、その差益を期待するというものである。悪質業者は、一般に主婦や老人が先物取引の知識に乏しいことに付け込み、危険性の高い投機的な取引であることを隠し、必ず利益が上がるものであるかのように申し向けるなどして取引に誘い込む。そして、取引の保証金を出させた上、「客殺し」と総称される様々な手段を駆使して客を損勘定計算に導き、その保証金をだまし取るなどするのである。
 62年の検挙事件数は、29事件であり、判明した被害の状況は、被害者約1万1,200人、被害額約269億円に上った。
〔事例〕 海外先物取引業者(68)は、「ロンドンのガスオイルの先物取引は、絶対安全有利」などと言葉巧みに勧誘して契約を取り付け、実際は、様々な手段によって常に客を損勘定計算に導き、預かった保証金を取り込むなどして、約750人から約21億円をだまし取った。7月14日までに、詐欺で8人を逮捕(広島)
 また、悪質業者は、国内においてもパラジウム等商品取引所非上場商品の私設市場を形成して、客から多額の金銭をだまし取っており、警察では、海外先物取引をめぐる悪質商法と同様に取締りの徹底を図った。
(2) 豊かな未来への夢を食い物にする悪質商法
 社会の高齢化、情報化が進展し、また、低金利傾向、マル優制度の廃止、円高の進行等消費者を取り巻く社会、経済情勢が大きく変動している状況下にあって、消費者の少しでも有利な資産運用を求める風潮に乗じ、消費者の豊かな未来への夢を食い物にする悪質商法は、海外先物取引のほか、土地取引、証券取引等の資産形成取引をめぐって、昭和62年も多発した。
 なお、61年に社会問題化した「抵当証券商法」は、警察の先制的な取締り等により被害の拡大を防止することができ、また、新たに抵当証券業の規制等に関する法律が制定され、被害の再発防止が図られることとなった。
ア 「原野商法」
 62年も、財産的価値のほとんどない山林、原野を時価の何十倍、何百倍の値段で売り付ける「原野商法」による被害が多発した。62年の「原野商法」の検挙事件数は4事件、検挙人員は2法人49人であり、その結果判明した被害状況は、被害者3,740人、被害額約136億円に上った。さらに、この「原野商法」の被害者に「測量し、整地すれば転売できる」などと言って近づき、土地の測量代金をだまし取るという二次被害も発生した。
〔事例〕 不動産会社社長(56)らは、詐欺会社グループを結成し、旅行や財テクに関するアンケート回答者の中から資産のありそうな老人や主婦を抽出して温泉に招待し、北海道の財産的価値のほとんどない山林、原野を「新幹線が通る」などと偽り、また、契約締結に至るまで客室に軟禁状態にするなどして、地価の80倍から100倍の値段で売り付けるという手口により、883人から総額約24億8,300万円をだまし取った。7月20日までに、詐欺で5人を逮捕(千葉)
イ 証券取引をめぐる悪質商法
 客に投資資金を融資すると称して多額の取引に誘い込むなどの証券取引をめぐる悪質商法は、62年も多発した。62年の検挙事件数は8事件、検挙人員は8法人29人であり、その結果判明した被害状況は、被害者856人、被害額約32億円に上った。警察では、悪質投資顧問業者に対し、詐欺罪のほか、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律を適用して取締りを行った。
〔事例〕 会社社長(43)は、一般投資家等に「株買い付け代金の3割を出せば、残りの7割を融資する」などと言って多額の取引に誘い込む「二・八商法」により、45人から約1億円をだまし取り、会社経費や遊興費等にことごとく費消した。6月3日、詐欺で2人を逮捕、同月23日、詐欺で1人を指名手配(長野)
ウ 「現物まがい商法」
 62年には、債券の預かり運用という名目で、実際には預り証だけを交付し、客から金銭をだまし取るという手口の「現物まがい商法」が発生した。
〔事例〕 会社社長(36)は、当初、大阪を中心に、「グランドエース」と称する債券預かり運用契約名目の「現物まがい商法」を開始したが、豊田商事の会長殺害事件の発生により、客からの手仕舞が殺到し、その継続が困難になったため、新たに松山、高松に支店を設けて、証券の知識の乏しい主婦を中心に「中期国債ファンドと同じようなものです。どこの預貯金よりも高利回りです」などと言葉巧みに勧誘し、703人から総額約5億900万円をだまし取り、借金の返済、会社経費、遊興費等に費消した。6月23日、詐欺で4人を逮捕。愛媛県では、本事件検挙を契機に、老人、主婦等から成る「悪質商法追放地区協議会」が県下全地域で結成された(愛媛)。
(3) 多様化する悪質な無店舗販売
 昭和62年の訪問販売等無店舗の形態で行われる悪質商法の検挙事件数は235事件、検挙人員は754人であった。その販売商品等別内訳は、表5-18のとおりであり、トイレ・ファン、消火器、布団等従来の販売商品等のほか、電話機の自由化に伴い電話機が販売商品となるなど、社会の動向を敏感に反映している。また、その商法も、消防署等の公的機関の名をかたる「かたり商法」、長時間の居すわり等により強引に販売する「押売商法」、路上等で若者をねらう「キャッチセールス」、漏電していて危険と称してトイレ・ファンを売り付けるなどの「危険商法」、先祖のたたり等を取り除くことができるかのように思わせて、印鑑、つぼ等を不当に高額な価格で売り付ける「霊感商法」等多様化している。警察では、広報、啓発活動を強化するとともに、監視、取締りの徹底を図っている。
〔事例1〕 会社社長(38)らは、料理講習と称して家庭の主婦等を集め、アルミ製なべにひそかに炭酸水素ナトリウムを入れて湯を沸かし、

表5-18 無店舗販売の商品等別検挙状況(昭和62年)

それが白濁するのを見せて、「アルミのなべを使用するとがんになる」などと偽る「ホームパーティー商法」によって、仕入値5万円前後のステンレス製なベセットを6倍から10倍の値段で販売し、主婦等約1,600人から約4億1,800万円をだまし取った。5月22日までに、詐欺で10人を逮捕(徳島)
〔事例2〕 人生相談所及び墓碑販売会社経営者(67)らは、相談に来た者に対し、「先祖に悪因がついている」などと述べ、墓、仏壇を買い換えさせたほか、「土地に悪霊がついている。洗い清めてやるから売ってその代金を持ってこい。自分は、霊と話して人を死なせることもできる」と脅迫するなどして、4人から土地売却代金等約3億5,400万円を喝取又は騙(へん)取した。恐喝等で2人を逮捕(愛知)
(4) 健康食品等をめぐる悪質商法
 最近は、高齢化社会の進展や生活水準の向上に伴い、国民の健康や美容に対する関心が高まっている。こうした国民の関心に付け込み、効能のない食品を健康食品や医薬品と称し、その効能を標ぼうして販売し、暴利を得る悪質商法が多発した。昭和62年の健康食品等をめぐる悪質商法の検挙事件数は23事件であり、被害者は約7万7,000人、売上総額は約183億円に上った。その内容をみると、人体に有害であると指摘されている物質を製品の原料として使用したものもあり、利益の追求のためには、国民の生命、身体を侵害する危険を顧みないという業者の悪質性が浮き彫りにされた。
〔事例〕 健康食品販売会社社長(54)は、人体に有害であるとの懸念が指摘されている無機ゲルマニウムを原料とした「健康食品」を製造し、ゲルマニウムの効能を標ぼうした自著を用いる「バイブル商法」により、約10億円分を販売し、約5億円の利益を得ていた。10月7日、薬事法違反で逮捕(警視庁)
(5) 悪質な不動産業者の暗躍
 東京を中心とする都市部における最近の地価の急騰は、社会、経済の安定にとって大きな問題になっているが、地価の急騰に目を付けた悪質な不動産業者が暗躍し、不法な行為が行われるなど、治安面でも大きな社会問題が生じた。このような地価の急騰を背景とした不動産取引をめぐる不法事案に対しては、監視区域制度の導入により届出対象面積の引下げが行われた国土利用計画法や、宅地建物取引業法等の関係法令を多角的に活用して、背後関係を含めた取締りの徹底を図るとともに、悪質事案について警察への告発や関係機関の行政処分を促すなど、関係機関との連携強化を図った。
 昭和62年の不動産関係法令違反の検挙件数は743件、検挙人員は693人であった。最近5年間の不動産関係法令違反の検挙状況は、表5-19のとおりである。
〔事例〕 新宿区内の土地約5,000平方メートルの買上げ(いわゆる地上げ)を行った不動産会社社長(51)らは、他の土地の「地上げ」資

表5-19 不動産関係法令違反の法令別検挙状況(昭和58~62年)

金を得る目的で、別の不動産会社2社に対し、当該一団の土地を買戻し特約付きで総額約200億円で転売するに際し、知事への届出をしなかった。12月17日、国土利用計画法違反(無届売買)等により3法人7人を検挙(警視庁)
(6) 消費者被害防止のための諸施策の推進
 現在の社会、経済情勢を背景に多発し、多様化する悪質商法による消費者被害を防止するため、警察では、次の施策を実施した。
ア 消費者啓発活動
 悪質商法による被害の発生を防止するためには、まず消費者自身が自衛意識を持つことが必要である。そこで、警察では、様々な機会をとらえて、各種悪質商法の状況、悪質業者の手口、悪質商法への対処方法等を広報し、消費者啓発活動を行った。
〔事例1〕 悪質商法による被害の防止を図るため、警察に検挙された悪質商法のセールスマンの告白を収集し、その手口を載せた「あなたを狙(ねら)うだましのテクニック-犯人の語る悪質商法の手口!」と題するパンフレットを作成し、全国の防犯協会を通じて消費者に約23万部頒布した。

〔事例2〕 全国規模で発行されている女性週刊誌3誌に、悪質業者のセールスマンの手口とこれへの対処策を示した政

府広報を掲載した。
イ 相談への積極的対応-「悪質商法110番」の設置
 悪質商法に関する消費者からの苦情、相談に応じ、消費者被害の未然防止、拡大防止を図るため、昭和62年6月までに全国の都道府県警察本部に「悪質商法110番」を設置して、その受理体制を確立した。62年の「悪質商法110番」の受理件数は、8,073件であり、受理した苦情、相談を端緒として、多数の悪質業者を検挙した。
〔事例〕 「悪質商法110番」に苦情、相談が多数寄せられた海外先物取引会社を調査したところ、その社長(40)らが、海外先物取引に関する知識に乏しい主婦、老人等に対し、「ロンドンのガスオイルの先物取引は有利で、元利金とも保証する」などと偽り、保証金の名目で約23億円をだまし取り、会社の経費として費消していたことが判明した。9月1日までに、詐欺で6人を逮捕(大阪)
ウ 関係機関、団体との連携
 都道府県警察では、62年2月に警察庁と経済企画庁が共同で策定した「消費者保護施策推進要綱」に基づき、各都道府県の消費者行政担当課、 消費生活センター等と定期会議を設けて情報交換を行うなど、関係機関、団体との連携強化を図った。警察では、この会議を通じて得た情報を端緒として、多数の悪質業者を検挙した。
〔事例〕 山口県警察では、水上警察署を除く県下全警察署に「悪質業者対策連絡協議会」を設け、関係47機関との間で連携強化を図った。同協議会で得た情報を端緒として調査したところ、布団販売会社社長(38)らが、「お宅の布団にはダニがいる」と偽り、また、ウールマークを不正に貼(ちょう)付し、混紡布団を純羊毛布団であるかのように装って、約1,300人から約1億1,000万円をだまし取っていたことが判明した。7月25日までに、詐欺、商標法違反で3法人29人を検挙

6 知的所有権保護対策の推進

 昭和62年の知的所有権関係法令違反の検挙件数は842件、検挙人員は588人であった。最近5年間の知的所有権関係法令違反の検挙状況は、表5-20のとおりである。その内容をみると、ビデオ機器及びコンピュー

表5-20 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和58~62年)

タ機器が普及し、また、複製機器が発達して手軽に複製できるようになったことを背景に、密造工場で大量の海賊版映画ビデオテープを製造、頒布していた事件(7月、福岡)、IBMのパソコンソフトを大量に製造、販売していた事件(10月、警視庁)等映画ビデオテープ及びコンピュータソフトの海賊版を製造、頒布する著作権法違反事件が増加している。
 62年の著作権法違反の検挙件数は332件、検挙人員は214人であり、前年に比べ、件数は121件(57.3%)、人員は112人(109.8%)それぞれ増加し、押収物件は、海賊版ビデオテープ等が7万655本、ビデオテープの複製機器が455台、海賊版コンピュータソフトが1万8,862枚、コンピュータソフトの複製機器が260台に上った。また、違反態様をみると、店舗には真正品のカセットケースだけを並べておき、実際は別の場所に隠していた海賊版ビデオテープを頒布していたもの、海賊版ビデオテープであることを見破られないようにするため、カセットケースに真正品から写真印刷したラベル等をはって頒布していたもの、国内未発売の洋画ビデオテープを「かばん屋」と称するブローカーから購入し、それをマスターテープとして複製、頒布していたものなど、悪質、巧妙化している。
〔事例〕 ビデオレンタル店経営者(42)らは、合計158台のビデオデッキを設置した密造工場を造って映画ビデオテープの海賊版を製造し、自己が経営する福岡、山口両県のビデオレンタルチェーン店等で販売、レンタルして、合計約2億2,000万円の利益を得ていた。7月21日、著作権法違反で6人を逮捕し、また、この事件で、海賊版ビデオテープ約4万4,400本を押収した(福岡)。
 有名ブランド商品の偽造については、従来からある財布やハンドバッグ等の偽造品に加えて、新たにバスケットシューズ、眼鏡、ゴルフボールの偽造品を販売する事案が発生するなど、偽造の対象となる商品の種類が拡大した。ブランド商品の偽造事案については、重点的取締り、関係業界への働き掛け、消費者啓発活動等により減少しつつあるが、契約や代金の支払の際に偽名を用い、また、商品の販売に宅配便を用いるなど、巧妙化、潜在化の傾向にあり、引き続き取締りの徹底に努めている。
〔事例〕 靴製造販売会社経営者(42)らは、韓国の靴製造会社に、高校生等に人気の高い米国製バスケットシューズの偽造品を大量に製造させた上、韓国に設立した輸出会社を通じて約8万足を輸入して販売し、約2億8,000万円の利益を得ていた。3月30日までに、商標法違反で15人を逮捕し、偽造品1万1,795足を押収した(広島)。
 また、警察では、演奏権の侵害、真正品の貸与権の侵害等、不正商品という従来の概念ではとらえきれない事案が発生しているため、より広く知的所有権の保護という観点から、知的所有権を保護するための対策を推進した。その対策としては、特に、消費者の知的所有権に対する意識の向上を図ることが最も重要であることから、警察では、様々な機会をとらえて消費者に対する広報啓発活動を実施したほか、61年8月に知的所有権を有する企業等の業界8団体により設立された不正商品対策協議会は、警察と密接に連携して、パンフレットの作成、啓発活動等を行った。

7 悪質なものが目立った不正輸出入事件

 昭和62年の外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)違反の検挙件数は168件、検挙人員は83人、関税法違反の検挙件数は212件、検挙人員は83人であり、東芝機械ココム違反事件等国際的にも注視の的となる事件が摘発されるなど、経済の国際化を背景に、貿易取引に絡む計画的、悪質な事件が目立った。最近5年間のこれら国際経済関係 法令違反の検挙件数は、表5-21のとおりである。

表5-21 国際経済関係法令違反の法令別検挙状況(昭和58~62年)

〔事例1〕 貿易業者(28)らは、59年10月ころから62年2月ころまでの間に、日米繊維協定により輸出規制が行われている合成繊維織物等を、通商産業大臣の輸出承認を要しないコロンビア、モロッコ等が仕向地であると偽って米国に輸出するなど、合計約38億円分の合成繊維織物等を不正輸出したほか、62年3月に輸出証明制度が実施されてからは、偽造した証明印を押した送り状を行使して、7月までに合計約3億8,000万円分を米国に不正輸出した。また、輸出代金の回収に当たっては、偽造した関税審査印を押した輸出報告書を行使して、外国為替銀行に信用状を買い取らせていた。8月3日までに、外為法違反で5人を逮捕(兵庫)
〔事例2〕 貿易商(53)は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(通称ワシントン条約)により商業目的の輸入が禁止されている熱帯魚アジアアロワナ約1億8,000万円分を密輸入し、観賞魚卸店等に販売した。5月14日、関税法違反で1人を逮捕(愛知)

8 公害問題への対応

(1) 公害問題の現状
 昭和62年の公害関係法令違反の検挙件数は、4,289件で、その内訳は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反が3,980件、水質汚濁防止法違反が168件等となっている。
 公害問題の現状をみると、国を挙げての対策の推進により、かつての四大公害事件のように、国民の生命、身体を直接侵害する大規模な事案の発生はみられなくなった。しかし、国民のより快適な生活環境を求める意識が強まる中で、廃棄物処理をめぐる問題、湖沼等閉鎖性水域の水質汚濁の問題、騒音問題等の生活環境侵害は、いまなお大きな問題であり、警察では、積極的な取締りに努めている。
(2) 大型化した建設系廃棄物の不法処分
 昭和62年の廃棄物処理法違反の検挙状況を態様別にみると、表5-22のとおりで、不法投棄が全体の7割以上を占めている。

表5-22 廃棄物処理法違反の態様別検挙状況(昭和62年)

 62年に不法投棄又は無許可処理された廃棄物の総量は、約227万8,400トンであった。また、廃棄物の内訳は、表5-23のとおりであり、建設廃材、建設木くず等建設工事に伴って発生する廃棄物(以下「建設系廃棄物」という。)が97.2%を占め、建設系廃棄物の不法処分量が1万トンを超える大規模な事件も20事件に上った。

表5-23 不法投棄又は無許可処理された産業廃棄物の種別状況(昭和62年)

 産業廃棄物を不法投棄した業者の動機別内訳は、表5-24のとおりで、処理費節減のためという動機が約半数を占めており、利益追求のためには生活環境の破壊や住民の迷惑を顧みないという悪質業者の意識がうかがわれる。
 警察は、建設系廃棄物の不法処分に対し、廃棄物処理法のほか、不動産侵奪罪を適用するなど、法の厳格な適用によってこれら悪質業者の取締りを行っている。

表5-24 産業廃棄物不法投棄業者の動機別内訳(昭和62年)

〔事例1〕 無許可の産業廃棄物処理業者(39)は、40回を超える行政指導を無視し、61年4月から62年5月までの間に、約600の建設業者から約28万トンの建設系廃棄物を許可処理業者の半額以下の料金で受け入れ、約3億円の利益を得ていた。101法人182人を検挙(北海道)
〔事例2〕 無許可の産業廃棄物処理業者(45)は、東証第1部上場企業等数社から廃油を回収し、4月から6月までの間に、約150回にわたり約1,500トンを瀬戸内海国立公園内に不法投棄して、現場周辺の松等を枯死させた。8法人14人を検挙(兵庫)
(3) 騒音苦情への対応
 昭和62年に警察が受理した公害苦情の件数は、4万8,444件で、種類別では、騒音に関する苦情が4万6,990件と全体の97.0%を占めている。
 騒音苦情を、騒音の種類別、昼夜間別にみると、表5-25のとおりで、昼夜間別では、夜間における苦情が4万1,963件(89.3%)と圧倒的に多く、そのうちの1万7,316件(41.3%)がカラオケ音に対するものである。また、昼間では、車両音及び拡声機音に対する苦情が多く、両者で約半数を占めているが、受理した苦情については、警察官の注意や指導によりその約8割を処理している。警察では、静穏な生活環境を守るために、関係機関との連携を図りつつ、実効的な対策を検討しているところである。

表5-25 騒音苦情の種類別、昼夜間別受理状況(昭和62年)


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