第4章 少年非行の防止と少年の健全な育成

1 少年非行の現状

(1) 少年非行の概要
ア 依然として高水準で推移する少年非行
 現行少年法が施行された昭和24年以降の少年非行の推移を主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比(注)でみると、図4-1のとおりである。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

図4-1 主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移(昭和24~61年)

 警察が補導した非行少年等の数は、表4-1のとおりで、61年に刑法犯で補導した少年の数は、23万5,176人と前年に比べ1万4,956人(6.0%)減少した。しかしながら、少年非行は、依然として高水準で推移しており、また、非行少年の4倍以上に及ぶ不良行為少年が補導されている。

表4-1 警察が補導した非行少年等の数(昭和60、61年)

イ 凶悪犯と粗暴犯が増加
 刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況は、表4-2のとおりで、61年は、窃盗犯が17万7,766人と全体の75.6%を占めて最も多く、次いで粗暴犯(11.4%)、占有離脱物横領(8.9%)の順となっている。これを前年と比べると、窃盗犯や占有離脱物横領が減少したものの、凶悪犯が65人(3.8%)、粗暴犯が897人(3.5%)それぞれ増加している。
 凶悪犯の罪種別状況は、表4-3のとおりで、61年は、前年に比べ、他の罪種がすべて減少している中で、強盗が136人(23.8%)大幅に増加した。

表4-2 刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況(昭和60、61年)

表4-3 凶悪犯で補導した少年の罪種別状況(昭和60、61年)

〔事例〕 無職少年(15)ら2人は、遊興費欲しさに、顔見知りの1人暮らしの高齢者(69)宅に侵入し、タンス等を物色中、同人に発見されたためこれを殺害した上、現金等を強取した(鹿児島)。
 粗暴犯の罪種別状況は、表4-4のとおりで、61年は、前年に比べ、暴行が220人(3.6%)、脅迫が74人(38.3%)、凶器準備集合が18人(2.1%)それぞれ減少したのに対し、恐喝が988人(12.1%)、傷害が221人(2.1%)増加した。

表4-4 粗暴犯で補導した少年の罪種別状況(昭和60、61年)

 窃盗犯の手口別状況は、表4-5のとおりで、61年は、前年に比べ、万引きが820人(1.2%)増加したほかは、すべて減少した。特に、オートバイ盗が4,788人(12.0%)、自転車盗が3,443人(11.4%)それぞれ減少したのが目立つ。

表4-5 窃盗犯で補導した少年の手口別状況(昭和60、61年)

ウ 約半数を占める中学生
 61年に刑法犯で補導した少年の学職別状況は、図4-2のとおりで、中学生が11万367人と最も多く、刑法犯で補導した少年全体の46.9%を占めている。
 61年に刑法犯で補導した少年の年齢別状況は、図4-3のとおりで、14歳が4万9,272人(21.0%)と最も多く、次いで15歳(20.3%)、16歳(16.7%)の順となっている。

図4-2 刑法犯で補導した少年の学職別状況(昭和61年)

図4-3 刑法犯で補導した少年の年齢別状況(昭和61年)

エ 凶悪、粗暴な事件が目立つ無職少年による非行
 61年に刑法犯で補導した無職少年は、2万3,638人で、前年に比べ200人(0.8%)わずかに減少したが、52年の約1.9倍になっている。過去10年間の刑法犯で補導した無職少年の数の推移は、表4-6のとおりである。
 刑法犯で補導した無職少年の包括罪種別状況は、表4-7のとおりで、凶悪犯、粗暴犯が増加している。また、61年に殺人で補導した少年96人のうち、46人が無職少年であり、無職少年の凶悪、粗暴な事件が目立っている。

表4-6 刑法犯で補導した無職少年の数の推移(昭和52~61年)

表4-7 刑法犯で補導した無職少年の包括罪種別状況(昭和60、61年)

(2) 少年非行の諸形態
ア 初発型非行
 万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の初発型非行は、単純な動機から安易に行われることが多いものであるが、暴力非行、性非行、薬物乱用等の本格的な非行へ移行する危険性が高い非行形態である。
 昭和61年に初発型非行で補導した少年の数は、15万2,281人で、前年に比べ9,029人(5.6%)減少したものの、刑法犯で補導した少年全体の64.8%を占めており、これまで最高であった60年の64.5%を0.3ポイント上回った。過去10年間の初発型非行で補導した少年の数の推移は、表4-8のとおりで、56年以降は横ばい状態にあるが、61年は、52年の約1.8倍になっている。

表4-8 初発型非行で補導した少年の数の推移(昭和52~61年)

イ いじめに起因する事件
 いじめに起因する事件で補導した少年の生徒別状況は、表4-9のとおりで、61年は、845人と前年に比べ1,105人(56.7%)大幅に減少した。これは、いじめについて社会の関心が高まったことや、警察をはじめとする関係機関のいじめ防止のための諸施策が効果を上げたためとみられるが、いじめは、潜在化しやすいものであるため、今後とも注意を要する。

表4-9 いじめに起因する事件で補導した少年の生徒別状況(昭和60、61年)

 61年のいじめに起因する事件(281件)におけるいじめの原因、動機別状況は、表4-10のとおりで、「腹いせ」と「面白半分、からかい」によるものがほとんどである。

表4-10 いじめの原因、動機別状況(昭和61年)

ウ 校内暴力
 警察が処理した校内暴力事件の状況は、表4-11のとおりで、61年の処理件数は、1,376件であり、前年に比べ116件(7.8%)減少した。校内暴力事件のうち、特に問題の多い対教師暴力事件(教師に対する暴力事件をいう。)の推移は、表4-12のとおりで、58年をピークに減少傾向にあるが、凶悪、粗暴な事件も依然として発生している。
〔事例〕 中学3年生(15)ら7人は、担任教師の生徒指導に反発し、職員室に押し掛け、同教師を土下座させて殴打した上、仲裁に入った他の教師5人にも暴行を加えた(兵庫)。

表4-11 警察が処理した校内暴力事件の状況(昭和60、61年)

表4-12 対教師暴力事件の推移(昭和53~61年)

エ 家庭内暴力
 61年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力を行った少年の数は、856人で、前年に比べ251人(22.7%)減少した。家庭内暴力の対象別状況は、表4-13のとおりで、母親が63.5%と最も多い。
 また、家庭内暴力の原因、動機別状況は、表4-14のとおりで、「しつけ等親の態度に反発して」が55.8%と最も多い。

表4-13 家庭内暴力の対象別状況(昭和61年)

表4-14 家庭内暴力の原因、動機別状況(昭和61年)

オ 暴走族
 暴走族少年の補導状況は、表4-15のとおりで、61年に犯罪少年として補導した少年は、3,238人と前年に比べ465人(12.6%)減少した。これは、地域ぐるみの暴走族対策が効果を上げたためとみられるが、61年

表4-15 暴走族少年の補導状況(昭和60、61年)

は、前年に比べ、暴走族少年による凶悪犯が21人(36.8%)、粗暴犯が32人(3.6%)それぞれ増加している。
カ 薬物乱用
(ア) シンナー等の乱用
 61年にシンナー等の乱用で補導した少年の数は、3万8,542人で、前年に比べ5,171人(11.8%)減少した。シンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況は、表4-16のとおりである。

表4-16 シンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況(昭和60、61年)

表4-17 シンナー等の乱用で死亡した少年の学職別状況(昭和60、61年)

 61年にシンナー等の乱用で死亡した少年の数は、33人で、前年に比べ9人増加した。シンナー等の乱用で死亡した少年の学職別状況は、表4-17のとおりで、無職少年が21人と最も多く、前年に比べ12人増加しているのが目立つ。
(イ) 覚せい剤事犯
 61年に覚せい剤事犯で補導した少年の数は、1,708人で、前年に比べ354人(17.2%)減少した。覚せい剤事犯で補導した少年の学職別、男女別状況は、表4-18のとおりで、学職別にみると、無職少年が1,118人(65.5%)と最も多く、次いで有職少年が486人(28.5%)、学生、生徒が104人(6.1%)となっている。また、男女別にみると、女子の割合は、42.7%となっており、61年に刑法犯で補導した少年全体に占める女子の割合(18.7%)に比べ、極めて高いことが注目される。

表4-18 覚せい剤事犯で補導した少年の学職別、男女別状況(昭和60、61年)

キ 女子の性非行
 過去10年間の性非行で補導した女子(注)の数の推移は、表4-19のとおりで、52年以降59年までは毎年増加してきたが、60年以降は減少傾向にある。
(注) 性非行で補導した女子とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫(いん)行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件、刑法上の淫(いん)行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年及び不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

表4-19 性非行で補導した女子の数の推移(昭和52~61年)

 性非行で補導した女子の学職別状況は、表4-20のとおりで、61年は、無職少年が2,974人(37.5%)と最も多く、次いで中学生が1,895人(23.9%)、高校生が1,849人(23.3%)となっており、中学生と高校生で約半数を占めている。

表4-20 性非行で補導した女子の学職別状況(昭和60、61年)

 女子の性非行のきっかけ、動機別状況は、表4-21のとおりで、61年は、きっかけについてみると、「自ら進んで」が全体の約6割を占めてお

表4-21 女子の性非行のきっかけ、動機別状況(昭和60、61年)

り、動機についてみると、「興味(好奇心)から」が3,346人(42.1%)と最も多く、次いで「遊ぶ金が欲しくて」が1,939人(24.4%)となっている。女子の性非行の動機別状況を前年と比べると、「遊ぶ金が欲しくて」だけが167人(9.4%)増加しており、最近の社会における享楽的風潮の影響を受け、女子少年自身が性を商品化するなど、女子少年の性に関する規範意識が低下していることがうかがわれる。
ク 不良行為少年
 過去9年間における警察が補導した不良行為少年の数の推移は、表4-22のとおりで、61年は、132万2,368人と前年に比べ15万4,766人(10.5%)減少した。その態様別状況は、図4-4のとおりで、喫煙が40.8%と最も多く、次いで深夜はいかい、暴走行為の順となっており、喫煙、深夜はいかい、飲酒等このまま放置すれば本格的な非行に発展したり、少年の福祉を害する犯罪の被害に遭う可能性の高いものが依然として多い。

図4-4 不良行為少年の態様別状況(昭和61年)

表4-22 不良行為少年の数の推移(昭和53~61年)

(3) 少年の家出、自殺
ア 家出
 昭和61年に警察が発見し、保護した家出少年は、4万8,291人で、前年に比べ2,293人(4.5%)減少した。その学職別、男女別状況は、表4-23のとおりで、学職別では中学生が40.0%と最も多く、また、男女別では女子が53.4%と過半数を占めており、ここ数年この傾向が続いている。
 また、61年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した家出少年のうち、9人に1人(男子の場合は6人に1人)が非行に走り、23人に1人(女子の場合は13人に1人)が犯罪の被害者になっている。

表4-23 家出少年の学職別、男女別状況(昭和60、61年)

イ 自殺
 61年に警察が把握した少年の自殺者は、802人で、戦後最低を記録した前年に比べ245人(44.0%)増加した。自殺した少年の学職別、男女別状況は、表4-24のとおりである。これを学職別にみると、高校生が248人(30.9%)を占めて最も多く、次いで無職少年158人(19.7%)、有職少年146人(18.2%)の順となっており、また、男女別にみると、男子が503人(62.7%)、女子が299人(37.3%)となっている。
 過去9年間における警察が把握した少年の自殺者の数の推移は、表4-25のとおりで、ここ数年減少傾向にあったが、61年は急増した。また、その月別状況は、表4-26のとおりで、61年は、有名な女性タレントが自殺した4月が114人と最も多く、前年同月に比べ64人(128.0%)大幅に増加したのが注目される。

表4-24 自殺した少年の学職別、男女別状況(昭和60、61年)

表4-25 自殺した少年の数の推移(昭和53~61年)

表4-26 自殺した少年の月別状況(昭和60、61年)

2 少年非行対策の推進

(1) 関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアとの連携
 少年の健全な育成に資するための活動を効果的に推進していくためには、警察が、関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアと密接に連携し、少年の健全な育成についての社会全体の気運を盛り上げることが必要である。
 児童、生徒の非行や校内暴力を防止するためには、学校と密接に連携する必要があるため、全国の小学校、中学校、高校の約9割に当たる約4万校の参加を得て、約2,600組織の学校警察連絡協議会が結成されている。また、警察と職場とが緊密に連携して、勤労少年の非行を防止し、その健全な育成に努めることを目的として、全国で約1,200組織の職場警察連絡協議会が結成されている。
 これらの関係機関、関係団体との連携のほか、地域社会と一体となった総合的な非行防止運動を展開するため、昭和54年から「青少年を非行からまもる全国強調月間」が行われ、定着した運動となっている。
 また、少年を善導するためには、地域ぐるみのきめ細かな対処が必要であり、少年指導委員、少年補導員等の地域の民間ボランティアによる適切な助言や指導が幅広く行われている。少年指導委員は、全国で約3,000人が都道府県公安委員会から委嘱されており、少年を有害な風俗環境の影響から守るために、少年補導活動、風俗営業等への協力要請活動等を行い、地域における少年の非行防止意識の高揚に努めている。また、少年補導員は、全国で約5万7,500人が委嘱され、地域における一般的な非行防止活動に従事し、少年警察協助員は、全国で約1,100人が委嘱され、非行集団の解体補導活動に従事している。
(注) 少年補導員、少年警察協助員の人員、学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会の組織数は、61年4月15日現在のものであり、少年指導委員の人員は、61年6月15日現在のものである。
(2) 少年補導活動
 少年の非行は、芽のうちに摘み取り、再び非行に陥らせないようにすることが最も大切である。警察では、日ごろから、少年係の警察官、婦 人補導員等を中心に、少年のたまり場(注)の発見と解消、盛り場、公園等非行の行われやすい場所での街頭補導等を実施している。特に、少年が非行に陥る可能性の高い春季、夏季、年末年始には、少年補導活動を強化している。
 61年7月の「青少年を非行からまもる全国強調月間」中に全国で把握した少年のたまり場は、表4-27のとおりで、ゲームセンターが20.7%と最も多く、次いで喫茶店、スナック(14.3%)、アパート、マンション(12.1%)の順となっている。たまり場は、非行集団の形成の場となっており、また、そこで誘惑を受けて少年の福祉を害する犯罪の被害者となる少年も多く、少年の健全な育成の観点から問題が多い。
(注) たまり場とは、少年が日常的にたむろし、喫煙、飲酒、不純異性交遊等の不良行為を繰り返し行っている場所をいう。
 非行少年を発見したときは、少年の特性に十分配慮し、保護者、教師等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための少年の処遇についての意見を付して関係機関等に送致、通告するなどの措置を採っている。また、不良行為少年については、警察官等がその場で適切な注意や助言を与えたり、必要な場合には、保護者等に対し、適切な指導や助言を行っている。

表4-27 少年のたまり場の状況(昭和61年7月)

(3) 少年相談活動
 警察では、少年の非行、家出、自殺等を未然に防止し、また、その兆候を早期に発見するために、少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを親や教師に打ち明けることができない少年や、子供の非行、不良行為の問題で悩む保護者等から相談を受けて、心理学を履修した専門家や経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員により、適切な指導や助言を行っている。また、国民がこの制度をより簡便に利用できるように、全国の都道府県警察では、ヤング・テレフォン・コーナー等の名称で電話による相談業務を行っている。
 昭和61年に警察が受理した少年相談の件数は、12万3,847件と前年に比べ4,417件(3.7%)増加し、警察が52年に少年相談の統計を取り始めて以来最高の数となった。これは、社会における価値観の変化に伴い、保護者の子育てに関する悩みが増加したことや、少年自身にとっても相談できる適当な友人がいなくなっていることなどのためとみられる。過去

10年間における警察が受理した少年相談の件数の推移は、表4-28のとおりである。

表4-28 警察が受理した少年相談の件数の推移(昭和52~61年)

 また、61年に警察が受理した少年相談の状況は、表4-29のとおりで、これを相談者別にみると、保護者等からの相談が60.1%、少年からの相談が39.9%となっており、少年からの相談の92.4%は、電話によるものであった。相談を寄せた少年を学職別にみると、中学生、高校生が多く、また、女子が男子を上回っている。

表4-29 警察が受理した少年相談の状況(昭和61年)

 61年の少年相談の内容は、図4-5のとおりで、非行のほか、家庭、健康、交友等様々な問題に及んでいる。

図4-5 少年相談の内容(昭和61年)

(4) 少年の規範意識の啓発
 警察では、少年非行の解決に資するため、少年に社会や集団の一員としての自覚を持たせ、その規範意識を啓発する目的で、次のような活動を行っている。
ア 少年柔剣道活動
 少年の克己心や自立心をはぐくむとともに、少年に社会的ルールを身に付けさせるため、警察では、警察署の道場を開放して地域の少年たちに柔道や剣道の指導を行うなど、体育・スポーツ活動を幅広く推進している。昭和61年には、これらの活動は、1,000以上の警察署において、約11万人の少年を対象として実施された。
イ 少年の社会参加活動
 警察では、少年に主体的に社会とのかかわりを持たせることによって、社会を構成する一員としての自覚を促すため、関係機関、関係団体、地域社会と協力しながら、明るいまちづくり運動、社会奉仕活動、生産体験活動、文化伝承活動等の少年の社会参加活動を推進している。61年には、延べ約270万人の少年がこれらの活動に参加した。
ウ 少年を非行から守るパイロット地区活動
 警察では、少年を非行から守る必要性の高い地域を「少年を非行から守るパイロット地区」に指定しており、61年度には、全国で200箇所の地域を指定した。これらの地区では、家庭、学校、地域社会の協力の下に、主に小学校高学年と中学生を対象にして、非行防止ハンドブック等を利用し、非行防止のための教室や座談会を開催している。61年度には、約1万回の非行防止教室を開催し、延べ約186万人の少年が参加した。
(5) 少年を取り巻く社会環境の整備
ア 地域ぐるみの環境浄化活動
 警察では、少年を取り巻く社会環境を浄化するため、環境浄化重点地区活動を実施している。昭和61年度には、全国で304地区を「少年を守る環境浄化重点地区」に指定した。これらの地区では、地域住民や民間ボランティアが中心となって、有害図書自動販売機の撤去運動、白ポスト運動、環境浄化住民大会、「少年を守る店」の設定等の環境浄化活動を推進している。
イ 関係業界等への協力要請
 警察では、57年から「少年非行の総量抑制対策」を実施し、初発型非行を中心に、少年非行が行われやすい環境を是正するよう関係業界等に働き掛けている。デパート、スーパーマーケット等に対しては、商品の陳列方法の改善や保安体制の強化等により、万引きを行いにくい環境を整備するよう要請し、また、自転車販売業者に対しては、自転車の盗難等を防止するため、防犯登録や効果的な施錠の勧奨等について協力を要請し、自治体、駅等に対しては、自転車置場、駐車場等の整備とその適切な管理を要請している。
 さらに、最近効果を上げているシンナー等の取扱業者による自主規制について、警察では、一層の徹底を業者に対して要請している。
 また、出版関係業界に対しては、少年に有害な図書等の出版、販売を自粛するよう要請しているほか、これらの図書等を発見した場合には、都道府県知事に対し、青少年保護育成条例に基づき、少年に有害な物件として指定して青少年への販売、閲覧等を禁ずるなどの措置を採るよう働き掛けている。46都道府県で制定されている青少年保護育成条例に基づき、61年に有害図書等として指定された件数は、表4-30のとおりである。

表4-30 青少年保護育成条例による図書等の有害指定件数(昭和61年)

ウ 法令による取締り
(ア) 風俗を害する犯罪の取締り
 善良の風俗を害する犯罪は、少年の健全な育成に悪影響を与えており、警察では、刑法、風営適正化法、売春防止法等の法令により、積極的な取締りに努めている。
(イ) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 売春や人身売買等の少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」という。)は、少年の心身に有害な影響を与え、少年の健全な育成に深刻な影響を及ぼしており、警察では、その積極的な取締りと被害少年の発見保護に努めている。
 61年に福祉犯で被害を受けた少年(以下「福祉犯被害少年」という。)は、1万8,062人で、前年に比べ3,530人(16.3%)減少した。過去10年間の福 祉犯被害少年の数の推移は、表4-31のとおりで、55年以降毎年増加を続けていたが、61年は減少に転じた。

表4-31 福祉犯被害少年の数の推移(昭和52~61年)

 61年の福祉犯被害少年の学職別、男女別状況は、表4-32のとおりである。これを学職別にみると、無職少年が34.1%と最も多く、次いで高校生(26.2%)、有職少年(19.4%)の順となっており、また、男女別にみると、女子が男子をはるかに上回っている。

表4-32 福祉犯被害少年の学職別、男女別状況(昭和60、61年)

 また、61年の福祉犯の検挙人員は、1万2,989人で、前年に比べ2,067人(13.7%)減少した。過去10年間の福祉犯で検挙した人員の推移は、表4-33のとおりである。

表4-33 福祉犯で検挙した人員の推移(昭和52~61年)

 福祉犯の法令別検挙状況は、表4-34のとおりで、61年は、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為の禁止、有害図書の販売の制限等)が43.3%と最も多く、次いで風営適正化法違反(年少者に対する禁止行為)、児童福祉法違反(児童に淫(いん)行させる行為の禁止等)の順になっており、前年に比べ、風営適正化法違反と売春防止法違反が増加しているのが目立つ。

表4-34 福祉犯の法令別検挙状況(昭和60、61年)


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