第3節 外国警察との国際交流の進展

1 多方面にわたる対外協力

(1) 鑑識技術協力
ア 指紋自動識別システム
 指紋は、「万人不同」、「終生不変」という2つの大きな特性を持っており、個人識別の絶対的な決め手となることから、犯罪捜査において極めて大きな価値を有している。警察庁では、昭和57年10月、コンピュータによる精度の高いパターン認識の技術を開発し、これを応用した指紋自動識別システムの実用化に成功した。これにより、指紋照合業務の迅速化、効率化が図られ、遺留指紋による該当者の確認件数が飛躍的に増大した。このようなことから、指紋自動識別システムは、諸外国からも高い評価を得ており、米国を中心として、このシステムの導入が活発に行われているが、警察庁では、導入に際して必要な技術協力を行っている。
〔事例〕 米国カリフォルニア州で半年間に17人が殺害されるという「ナイトストーカー(夜ひそかに忍び寄る人間)事件」が発生したが、州警察においては、このシステムを活用して、人手による場合には数年を要するという指紋照合による犯人の割出しをわずか3分間でスピード処理し、60年8月、犯人を逮捕してマスコミ等から絶賛された。
イ その他の鑑識技術
 近年、主として東南アジアや中南米の発展途上国から、我が国に対し て鑑識技術協力を要請してくる例が多くなってきている。警察では、犯罪鑑識専門家を諸外国に派遣したり、外国警察職員を研修員として受け入れるといった方法により、国際協力を推進している。
 警察庁では、国際協力事業団(JICA)の海外協力事業の一環として、57年から鑑識技術職員延べ6人をフィリピンに派遣し、写真鑑識、現場鑑識、指紋鑑識等の技術協力を行っている。61年4月から任期2年で派遣された2人は、フィリピン警察の犯罪科学研究所において、現地職員に対し研修を行っている。
 また、61年は、ザンビア、フィジー、ソロモン諸島の警察職員3人を研修員として2~6箇月間受け入れ、写真鑑識、指紋鑑識、足こん跡鑑識等の研修を行った。これらの外国警察職員は、研修後、母国において鑑識技術や知識の指導、普及に当たっている。

(2) 交通警察の分野における国際協力
ア 我が国の交通警察に対する関心の高まり
 現在、世界のいずれの国においても、交通事故の増加、交通渋滞の激化等の深刻な交通問題が発生しており、その防止対策が重要な課題となっている。こうした状況を背景として、各国は、我が国が過密、混合化の進行する厳しい交通環境の中でどのような手法で交通の安全と円滑を確保しているのか、運転者管理や交通安全教育をどのように行っているのかなどの点について、大きな関心を示しているところである。
 特に、我が国の進んだ交通管制技術等に関し、各国から資料提供等の要請が多く、また、交通管制センター等の施設の視察、見学や交通管制技術、交通規制手法等についての研修等のために我が国を訪れる各国の交通警察関係者等も増加する傾向にある。
イ 国際協力の推進
 外国からの要請により、警察職員等を外国に派遣して専門的な指導を実地に行ったり、外国の警察幹部を我が国に受け入れて研修を行うなどの国際協力事例は、近年ますます増加する傾向にある。その協力の内容も、最近では、交通管制等の技術面をはじめ、交通安全教育や運転者教育、運転免許制度等を含む交通警察行政全般に及んでいる。
 中でも、アジアの各国では、急速な近代化の進展に伴う都市の交通量の増大にもかかわらず、交通安全施設の整備が立ち遅れ、交通安全教育、運転者教育も十分に行われていないことなどから、交通事故や交通渋滞が極めて深刻な問題となっており、アジアの先進国である我が国の交通警察に対する関心が非常に高まっている。現在まで、我が国は、フィリピン、シンガポール、中国、タイ、インドネシア等の国々に対し、専門家を派遣するなどの協力を行っている。
 世界各国における交通事故の増加、交通渋滞の激化等の交通問題の深 刻化に伴い、各国の我が国に対する国際協力の要望は今後ますます多くなるとともに、その内容も多様化するものと予想されるので、警察庁としても、これに十分対応できる体制を整備することが必要となっている。
〔事例1〕 フィリピンに対する国際協力
 フィリピン交通訓練センター(TTC)は、信号機の設置、運用等の交通管制技術や交通規制、交通事故分析、交通指導取締り等の手法等について専門家の養成、訓練を行うために建設された訓練施設であるが、警察庁は、関係機関と協力して、昭和52年度から57年度までの間、ここに8人の専門家を長期に派遣するなどして訓練の指導を行うとともに、TTCの教官を毎年研修員として我が国に受け入れて指導を行い、さらに、交通管制システム、信号機等(約6億円相当)を訓練用資機材として供与するなどの援助協力を行った。
 その結果、TTCでの訓練を修了した多くの者が、様々な分野で活躍し、フィリピンの交通の安全と円滑に寄与しているほか、マニラにおいて交通管制システムが導入されるなどの成果を上げている。
〔事例2〕 シンガポールに対する国際協力
 警察庁は、シンガポールに対する国際協力の一環として、60年度を初年度とする3箇年計画に基づき、交通事故分析、運転者対策、交通安全教育、交通安全施設整備等の分野において、研修員の受入れ及び専門家の派遣による国際協力を行っている。
 シンガポールでは、60年に初めて運転免許試験場が開設されたが、警察庁は、シンガポール政府の要請により、同試験場における採点の斉一性と公平性の確保、試験官の知識、技能の向上と均質化を図るため、関係機関と協力して、61年1月及び7月、専門家4人 ずつを派遣して試験官に対する実地の指導を行い、大きな成果を上げた。
〔事例3〕 中国に対する国際協力
 中国の自動車交通は、近年急速な伸びをみせているが、中国政府は、経済の発展を図るためには交通管理を適切に行うことが必要不可欠であるとの認識の下に、都市交通管理の近代化に取り組んでおり、61年12月、この分野で実績のある我が国に対して、専門家の派遣、研修員の受入れ、資機材の提供等について協力を要請してきた。
 警察庁では、関係機関と協力して予備調査団を訪中させるなど、中国に対する国際協力を推進している。
ウ 国際協力における(財)日本交通管理技術協会の活動
 (財)日本交通管理技術協会は、科学的な交通管理技術の確立を目指し、交通管理に関する施設、機器、システム等について研究開発等を行うことを目的として設立された法人であるが、国際協力の面においても大きな役割を果たし、ビデオ、パンフレット等を活用して交通管制センター、信号機等の交通安全施設や交通規制等に関する我が国の施策を諸外国に紹介するとともに、職員を海外に派遣して交通管制技術等の指導、援助を行っているところである。
 今後、交通警察の分野における国際協力を一層推進するに当たり、同協会の専門的知識及び技術の活用の必要性はますます高まると考えられるところから、同協会の組織、体制の充実、強化を図る必要がある。
エ バンクーバー国際交通博覧会への参加
 61年5月から10月までの間、カナダ・バンクーバー市において国際交通博覧会(EXPO’86)が開催され、日本政府は公式参加を行った。
 警察庁は、道路交通管理の主務官庁として、運輸省、建設省、通商産業省及び(財)国際交通博覧会協会等と協力して出展を行い、大模型ラン ド、パネル、ビデオ、文献資料等により、我が国の交通管制システム、運転者管理システム、交通安全教育制度等を紹介し、各国の関心を集めた。
オ 民間団体における国際交流
 交通警察の分野における国際協力が活発化するにつれて、民間団体における各種の国際交流も盛んになっている。
(ア) (財)全日本交通安全協会
 世界各国において、交通事故防止を目的とする民間団体として交通安全協会が設立され、政府等の援助を受けて活発な活動を行っており、34年には、各国の交通安全協会を会員とする国際交通安全協会(PRI)が設立されている。(財)全日本交通安全協会は、39年にPRIに加盟し、以後この機関を通じ、あるいは直接に各国の交通安全協会と密接な連絡を取るなどの交流を図り、我が国の交通事故防止対策等の紹介及び各国の対策についての情報収集等の活動を行っている。また、42年には、米国の全米安全協会(NSC)に海外会員として加盟し、活発な交流を行っている。
(イ) (社)日本自動車連盟
 自家用乗用自動車の所有者等を会員とする(社)日本自動車連盟(JAF)は、国際連合経済社会理事会の民間諮問団体である国際旅行同盟(AIT)及び国際自動車連盟(FIA)に加盟している。
 (社)日本自動車連盟は、AIT及びFIAを通じ、あるいは直接に各国の加盟団体との間で知識、経験、情報等の交換や人的交流を活発に行っている。61年11月には、東京でアジアでは初めてのAIT国際交通委員会が開催され、各国の抱える道路交通に係る諸問題についての情報の交換、検討等が行われた。
(ウ) (財)国際交通安全学会
 (財)国際交通安全学会は、交通及びその安全に関する諸問題について調査研究等を行い、より良い交通社会の実現に寄与することを目的として設立された法人であるが、国際シンポジウムの開催、文献資料の英訳刊行、海外との情報交換等を活発に行っており、最近では、特に東南アジア諸国との交流を積極的に推進するなど、国際交流の拡充を図っている。
(3) 情報通信技術協力
ア 通信指令システム
 韓国、タイ等のアジア諸国では、近年、都市への人口集中、モータリゼーションの進展等により、都市型犯罪が増加し、急訴事件の迅速な処理が緊急の課題となっており、我が国の警察に対し、通信指令システム及び移動無線通信を中核とした総合的情報通信システムの整備、拡充について積極的な協力、援助を求めている。
 これらの国々の要請に共通していることは、急訴事件のリスポンス・タイム(通報受理から通信指令による警察官の現場到着までの時間をいう。)の短縮及びパトカー等の移動通信の通話品質の向上とサービス・エリアの拡大であり、いずれも、我が国が優れた技術を有しているものである。
 警察庁では、韓国科学技術院の要請により、昭和60年9月から、ソウル市警察通信指令システムのコンピュータ化について、(財)保安電子通信技術協会を通じて、システム設計及び実施上の技術的諸問題に関する調査と指導提言を行っている。
 また、タイ政府の要請により、バンコク首都警察局の高機能通報受理システムの導入、車載通信系システムのサービス・エリアの拡大、指令用ファクシミリ・システムの導入等の警察通信の近代化について、JICA の海外協力事業の一環として、60年9月に警察庁の通信職員2人を2週間、61年9月に3人を約2箇月間派遣し、事前調査と技術指導を行った。

イ 情報通信ネットワーク
 ICPOの取り扱う電報は、国際犯罪の増加に伴い年々増加する傾向にあり、情報通信システムを近代化して大量の情報を迅速かつ安全に伝達する必要が生じている。このため、59年、ICPO事務総局に、ICPO情報通信ネットワークの改善方策、情報の漏えい、窃取を防止するための保秘対策等の当面の課題と将来展望を検討する「情報通信に関する常設委員会」が設置された。我が国の警察の情報通信ネットワークは、世界的にも優秀な性能と信頼性を有し、その技術が高く評価されており、ICPO事務総局の要請により、警察庁の通信職員が、60年からアジア地域代表としてこの委員会に参加している。さらに、61年5月からICPO事務総局に警察庁の通信職員1人が派遣され、ICPO情報通信システム の企画、運用及び整備の責任者として活躍するとともに、加盟各国に対する技術指導や、犯罪照会システムと事務総局内OAシステム及びこれらのシステムを統合化するシステムの設計に携わっている。
 また、最近、我が国の警察の情報通信設備等に関して、東南アジア、中近東諸国からの視察や照会が増加する傾向にある。

(4) 科学警察研究所における技術協力
 近年、科学技術の急速な発展に伴い、犯罪捜査等の合理化、効率化に寄与するための科学技術分野における捜査手法等の研究、開発は、各国が抱える共通の課題となっている。
 科学警察研究所の法医、理化学等の分野における研究及びこれらに基づく分析、鑑定検査等の技術は、先進国の間でも高い水準にあると評価されているところであり、警察では、諸外国の要請により、同研究所の研究職員を各国に派遣し、技術指導を行っているほか、同研究所において、昭和52年以降61年までに7箇国から42人の研修員を受け入れ、化学、文書、銃器等の分析、鑑定検査に必要な技術指導を行っている。

2 シンガポールへの交番制度の輸出

 我が国の派出所、駐在所制度は、明治7年の「東京警視庁」の発足に伴い、その下部組織として「交番所」が設けられたことに始まる。以来、派出所、駐在所は、地域住民から「交番」の愛称で親しまれ、地域における治安維持の中核としての役割を果たしてきた。近年、諸外国がこの交番制度に強い関心を示し、積極的に採り入れようとする動きがみられ、中でも、シンガポールでは、既にこの制度を導入し、大きな成功を収めている。
(1) シンガポールにおける交番制度導入の背景と経緯
 シンガポールでは、1970年代初めころから大規模なニュータウンが次次と建設されるなど都市化が進み、これに伴って、犯罪の増加をはじめとする様々な治安上の問題が発生した。シンガポール政府は、団地地域におけるパトロールの強化や市民と警察の協力関係の緊密化等によりこれらの問題の解決を図るため、我が国における交番制度の導入を検討し、昭和56年10月の内務大臣、警察長官を含む7人の調査団の派遣を皮切りに、合計3回の調査団を我が国に派遣した。一方、我が国の警察は、シンガポール政府の要請にこたえて、同年11月に警察庁幹部等3人から成る調査団をシンガポールに派遣し、翌57年2月には、「シンガポール警察組織再編成に伴う交番制度導入のための提言書」をシンガポール政府に提出するとともに、その後数次にわたって調査団を派遣し、指導に当たった。シンガポール警察は、我が国の提言書に基づき、58年6月にトアパヨ警察署管内に8箇所の交番を仮開設し、1年間の試験実施の結果を踏まえた上で、59年から交番制度の本格的な導入を行った。シンガポールにおける交番は、61年12月末現在、合計34箇所となっている。

(2) シンガポールにおける交番の概要
 シンガポールの交番は、団地地域の中心に設置され、住民との集会に利用するための会議室を備えるなど、その施設は我が国の交番よりも大きい。また、責任者に警部を配置し、その下に6人から9人で編成する4つのチームが置かれ、パトロール、警戒、巡回連絡その他の活動を行っており、住民から「コーバン」の名で親しまれている。交番制度導入の

表1-18 トアパヨ警察署管内における主要犯罪の発生件数の推移(昭和57~61年)

前後におけるトアパヨ警察署管内の主要犯罪の発生件数の推移をみると、表1-18のとおりで、その効果は着実に現れており、シンガポール政府は、今後、国内全域における交番の開設に向けて計画を進めているところである。

3 外国警察職員を対象とした国際研修

(1) 国際捜査セミナー
 国際捜査セミナーは、各国の犯罪捜査に関連する諸問題について研究討議を行い、法制度や捜査手法についての相互理解を深めるため、警察庁とJICAの共催により、昭和50年に開始され、60年以降は、国際捜査研修所における研修の一つとして毎年開催されているものである。このセミナーでは、我が国の警察制度、刑事手続、捜査手法等についての講義、研修員による各国の警察制度の発表等を行っており、61年までに32箇国、111人がこれに参加している。

(2) 麻薬犯罪取締りセミナー
 麻薬犯罪取締りセミナーは、薬物事犯の国際性にかんがみ、我が国でヘロインがまん延した昭和37年から、コロンボ計画に基づく技術協力の一環として、警察庁とJICAの共催により、毎年1回東京で開催されているものである。このセミナーは、麻薬、覚せい剤等の薬物事犯に関する捜査技術の研修、情報交換、討議等を行うことにより、有効適切な対策を見いだすとともに、関係国相互間の理解と協力を深め、薬物事犯の根絶に寄与することを目的としており、主に東南アジア、中南米諸国の麻薬取締り担当官が参加している。61年までに受け入れた研修員の数は、508人(50箇国、1国際機関)に達している。
 61年のセミナーは、9月25日から15日間、東京国際研修センターにおいて開催されたが、特に今回は、5月に開催された主要国首脳会議のフォローアップのため、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等における各国の取締り担当機関の上級幹部や警察庁をはじめとする我が国の関係行政機関の担当官等合計23箇国、33人が参加し、国際会議の性格を帯びたものとなった。また、今回のセミナーでは、15日間の討議を踏まえ、国際協力の推進等6項目を盛り込んだ総括文を作成して、国際連合、ICPO等の関係国際機関や関係国政府に送付し、今後の薬物事犯の取締りに資することにした。
(3) 交通警察行政セミナー
 交通警察行政セミナーは、アジア、アフリカ、中南米等の世界各国の警察幹部職員を対象として、我が国の交通事情、交通警察の組織、活動を紹介するほか、参加各国の交通警察に関する重要な諸問題について情報交換、施策の検討等を行い、各国の交通警察の分野における知識と技術の向上に貢献することにより、各国の民生の安定向上と経済の発展に寄与することを目的として実施しているものである。
 このセミナーは、警察庁とJICAの共催により、昭和41年に開始されたものであるが、49年の第3回セミナーからは隔年ごとに開催されており、61年までに受け入れた研修員の数は、128人(42箇国)に達している。
 これまでにセミナーに参加した者は、現在各国の交通警察行政において中心的役割を担っており、研修の成果が各国の交通警察行政の改善に大きく寄与しているところである。
 第9回交通警察行政セミナーは、61年10月、東京において3週間にわたり開催され、14箇国から16人の研修員が参加した。今回のセミナーでは、交通の各分野の専門家による講義のほか、交通管制センター等関連諸施設の視察を行うとともに、研修員の研究発表及び意見交換を通じて、各国共通の交通問題について問題点の把握とその解決策の検討を行った。
(4) ESCAP道路交通事故防止対策セミナー
 国際連合アジア・太平洋経済社会委員会(ESCAP)道路交通事故防止対策セミナーは、アジア・太平洋地域の各国において深刻な社会問題となっている交通事故の防止対策を検討する目的で、ESCAPの主催により、昭和61年10月、東京で10日間にわたり開催されたものであり、警察庁は、関係各省庁、団体とともにその運営に協力した。
 このセミナーには、アジア・太平洋地域10箇国の交通警察幹部等の交通専門家11人が参加し、各国における交通事故の現状等に関する発表、我が国の交通安全対策の現状等についての講義、交通管制センター等関係施設の視察等を行った。
(5) 警察大学校における研修生の受入れ
 警察大学校では、昭和28年から外国警察の幹部職員を受け入れ、新任の警部に対する教養課程において研修を行っている。研修生の資格、条 件は、日本語が堪(たん)能であること、日本人学生とともに入寮することなどであり、61年までに、韓国、タイ、フィリピン等の警察官135人が研修を受けている。

4 国際会議等への参加及び海外視察の活発化

(1) 国際会議等への参加
 薬物乱用等の国際的な対応を必要とする警察事象が増大する中で、警察としては、国際連合等の主催による国際会議に積極的に参加し、各国捜査機関との連携を図り、情報交換や取締り対策等についての討議を行っている。
 また、情報通信、鑑識等の科学技術の分野においても、警察は、各種国際会議やシンポジウムに警察庁等の職員を派遣し、我が国の現状の紹介や情報交換を行うとともに、外国における研究開発動向の調査、海外技術の吸収等に努めている。
〔事例1〕 国際連合麻薬取締機関長会議
 世界麻薬取締機関長会議は、国際連合総会の決定に基づき、その第1回会議が、昭和61年7月、81箇国、19国際機関が参加してオーストリアで開催され、我が国の首席代表として警察庁の幹部がこれに参加した。会議では、麻薬等の薬物の不正取引対策等について様様な観点から討議された後、薬物事犯に関する情報連絡官の設置を含む国際協力の推進、公海上における薬物取引を取り締まるための体制の整備等の措置に関する勧告等が採択された。
 また、アジア・太平洋地域麻薬取締機関長会議は、世界的にみて薬物の主要供給地の一つであるアジア・太平洋地域における薬物取締りの推進を図るため、地域内各国相互の信頼関係を確立し、取締 り実施面における相互協力を促進することや、各国における薬物乱用の実態、取締り技術に関する情報交換を行うことを目的とする会議であり、国際連合の主催により、地域内各国の薬物取締機関長級の上級幹部が参加して、49年から毎年1回開催されているもので、警察庁からも幹部がこれに出席している。
 61年は、第1回世界麻薬取締機関長会議が開催されたため、この会議は開催されなかったが、62年の第13回会議は、東京で開催されることになっている。
〔事例2〕 犯罪対策用電子応用技術に関するカーナハン会議
 犯罪対策用電子応用技術に関するカーナハン会議は、セキュリティ分野の電子応用技術の研究開発に関する米国ケンタッキー州立大学主催の国際会議で、警察庁からは、52年以降毎年これに参加し、警察通信に関する論文を発表している。61年は、警察庁から1人が出席し、「日本国警察における新規導入のファクシミリ交換システム」の論文発表を行い、我が国の警察通信の状況を紹介するとともに、コンピュータ・セキュリティ、「テロ」、「ゲリラ」対策に関する海外技術の吸収に努めた。
(2) 我が国からの海外視察等
 警察では、国際犯罪の捜査や各種国際会議への参加等のほか、職員を海外に派遣し、諸外国の警察の制度、組織、活動、技術等の調査、研究や我が国の治安と深いかかわりを有する諸外国の治安情勢の視察等を活発に行っている。
 これらの視察等の対象国は、主として西側先進諸国及び東南アジア諸国であり、外国警察機関等との協力関係を築くとともに、諸外国の警察制度や治安情勢等を分析、検討することによって、我が国の警察を運営する上での糧とすることとしている。
(3) 外国視察団の受入れ
 国際化の進展に伴い、我が国と諸外国の警察機関等との交流が活発化している。過去10年間に外国視察団が我が国の警察を訪れた件数の推移は、図1-16のとおりで、その数は年々増加する傾向にあり、10年間で約2.3倍となっている。昭和61年におけるこれらの視察団を派遣国(地域)別にみると、表1-19のとおりで、アジアが37.0%、北米、ヨーロッパが合わせて34.0%を占めている。

図1-16 外国視察団の訪日件数の推移(昭和52~61年)

 視察団の目的は、我が国の警察組織の調査、研究をはじめとして様々な分野に及んでいるが、最近は、諸外国の関心が高まっている交通管制システム、通信指令システム、指紋自動識別システム等のコンピュータ技術を駆使した高度なシステムを対象とするものが多い。61年には、7月にアルゼンティン大統領が、また、10月にはフィンランド大統領が警視庁の交通管制センター等を視察した。

表1-19 外国視察団の派遣国(地域)別状況(昭和61年)

5 術科指導者の交流と各種国際大会への選手の派遣

(1) 術科指導者の外国への派遣と研修員の受入れ
 警察では、国際交流基金、全日本柔道連盟、全日本剣道連盟からの要請等に基づき、外国へ術科指導者を派遣しているが、海外における日本武道への関心の高まりを反映して、近年、派遣要請が増加しており、昭和61年は、20箇国に17人を派遣した。警察では、これらの派遣要請に積極的に応じることとしている。
 また、JICAの依頼等に基づき、外国からの術科研修員の受入れを行っており、61年は、ペルーからの逮捕術の研修員1人を9月1日から11月12日まで受け入れている。
(2) 各種国際大会への選手の派遣
 警察では、柔道、剣道、ピストル、近代五種競技等の競技団体からの要請に基づき、オリンピック、世界選手権大会等の国際大会に選手を派遣している。
 昭和61年は、アジア競技大会(10種目)に22人の選手を派遣したのをはじめ、柔道は13大会に30人、近代五種競技は2大会に4人、射撃は1大会に4人、アマチュアレスリングは2大会に2人、ウェイトリフティングは2大会に2人、フェンシングは1大会に3人、スキーは1大会に2人の合計69人を派遣した。


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