第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位とし、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接執行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
(1) 定員
 警察職員の定員は、昭和60年12月末現在、総数25万3,631人で、その内訳は、表9-1のとおりである。
 60年度には、地方警察職員たる警察官の増員は行われず、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で556人と、59年度に比べて3人増加した。これを欧米諸国と比較すると、図9-1のとおりで、我が国の警察

表9-1 警察職員の定員(昭和60年)

図9-1 警察官1人当たりの負担人口の国際比較(昭和60年)

官の負担は著しく重いので、今後とも警察力の整備に努める必要がある。
(2) 婦人警察職員
 昭和60年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約4,100人、婦人交通巡視員約2,100人、婦人補導員約700人が勤務しており、主として交通整理、駐車違反の取締り、少年補導、地理案内等の業務に従事している。このほかに、交通安全教育、要人警護、110番受付、犯罪捜査、警察広報等の職種へも、女性の進出がみられる。また、これらのほか、一般職員として約9,800人の女性が勤務している。

 女子の深夜勤務については、労働基準法による制限があるが、61年1月に制定された女子労働基準規則によって、同法の深夜勤務の制限規定の適用が除外される業務として警察の業務(警察官以外の警察職員が行う場合は、女子の留置又は保護の 業務及び少年の補導の業務に限る。)が定められた。これに伴い、警察では、婦人警察職員の職域拡大の具体的方途について、現在検討を進めている。
(3) 採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。昭和60年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万5,500人で、合格した者は約8,600人(うち、大学卒業者は約3,300人)となっており、競争率は、8.8倍であった。
(4) 教養
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いので、職務執行の適正を期するため、一人一人の警察官に対して十分な教育訓練を行うことが必要である。このため、警察では、警察学校等において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合教養を実施しているほか、職場における個別指導等あらゆる機会を通じて各人の能力や職種に応じたきめ細かな教養を行っている。
 学校教養の中で特に力を入れているのは、都道府県警察学校で行う採用時教養で、昭和55年度からは、人間教育を一層充実させることなどを目的として、従来の課程を再編成するとともに、教養期間を延長した新しい採用時教養を導入している。
 教養の推進に当たっては、各階級、各職種に求められる基本的な知識、技能の教養はもとより、治安情勢の変化に対応できる各種能力のかん養に努めている。特に、60年4月に新設された国際捜査研修所においては、進展する警察事象の国際化に対応するため、国際捜査等に必要な実務知識及び外国語に関する研修を行っているほか、各種の専科教養時に、最 新かつ専門の知識、技能等についての教養を実施している。なお、国際捜査研修所では、外国からの研修員に対する研修も行っている。
 また、職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、「警察職員の信条」の実践を中心とした職業倫理教養を徹底している。
 さらに、警察官の体力、気力を養い、職務執行に必要な各種の技能を向上させるため、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練の強化を図るとともに、体育等の訓練を通じて走力、持久力等の基礎体力の充実、向上に努めている。
(5) 勤務
ア 制度
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであるので、24時間警戒態勢を確保するため、外勤警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で深夜勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官の勤務条件、給与、諸手当その他の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定数の是正、4週5休制の実施等が図られてきた。
イ 警察官の殉職、受傷及び協力援助者の殉難、受傷
 警察官は、常に身の危険を顧みず職務遂行に当たっているので、職に殉じたり、公務により受傷したりすることが少なくない。昭和60年に、職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は17人(前年比6人減)、公務により受傷した者は6,745人(前年比417人増)となっている。これらの被災職員又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償をはじめ各 種の援護措置が採られている。
 また、60年に、民間人で現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた者は、死者12人(前年比1人増)、受傷者22人(前年比8人減)となっている。これらの被災者又はその家族に対しても、警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護措置が採られている。
〔事例1〕 8月17日未明、松本警察署北深志警察官派出所勤務員桑原重治警部補(26)は、バイクにより単独で警ら中、バイクに乗った不審者を発見し職務質問をしようとしたが、逃走したので追跡し、これに追い付いて所持品を検査していたところ、窃盗事件の発覚を恐れた少年に隠し持っていた小刀で襲われ、胸部を刺され殉職した(長野)。
〔事例2〕 12月30日未明、友人と帰宅途中の大学生(20)は、大田区蒲田路上において、「泥棒、泥棒」と叫びながら強盗犯人を追跡中のスーパー従業員を目撃したので、一緒に追跡し、犯人に追い付いて捕えようとしたが、格闘となり刃物で腹部を刺され死亡した。この殉難者の遺族に対しては、遺族給付一時金及び葬祭給付約649万円が給付された(警視庁)。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算の約7割は「国費」であり、残りは都道府県警察に対する「補助金」であるが、「国費」には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察車両やヘリコプターの購入費、機動隊庁舎や警察学校の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要す る経費も含まれている。
 昭和60年度の国の予算編成においては、厳しい財政事情を反映して、「対前年度比、経常部門経費10パーセント減、投資部門経費5パーセント減」という3年連続のマイナス・シーリングが設定された。警察庁では、このような厳しい財政状況の下においても、現在の治安水準を維持するため、国家公務員の増員、警察装備資機材の近代化の促進(警察無線のデジタル化、ヘリコプターの増強等)、国際化に対応する捜査体制の整備(国際捜査研修所の設置等)、科学捜査力の強化(指紋自動識別システムの推進、自動車ナンバー自動読取りシステムの開発等)等の施策について、重点的に措置している。
 60年度の国の一般会計予算は、増額補正が行われ、補正後の警察庁予算は、総額1,616億1,200万円で、前年度に比べ49億6,400万円(3.17%)増加(国の一般会計予算総額は3.3%増加)し、国の一般会計予算総額の0.30%を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。
 なお、60年度においては、主要国首脳会議の開催準備に必要な経費

図9-2 警察庁予算(昭和60年度補正後)

図9-3 都道府県警察予算(昭和60年度最終補正後)

(70億3,100万円)について、予備費の使用が認められた。
 また、60年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は、2兆175億7,200万円で、都道府県予算総額の6.7%を占めている。その内容は、図9-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民1人当たり1万7,800円となる。

3 装備

(1) 車両
 警察車両には、捜査用車、鑑識車、捜査本部用車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、

図9-4 警察車両の用途別構成(昭和60年度)



警らパトカー、移動交番車等の外勤警察活動用車両、各種の事象に出動するための輸送用車両があり、これら以外にも、それぞれの用途に応じて使用する投光車、レスキュー車、災害対策活動用車、爆発物処理車等の特殊車両がある。現有警察車両の用途別構成は、図9-4のとおりである。
 昭和60年度は、前年度に引き続き厳しい財政事情にあったことを考慮して、治安の確保と日常警察活動に支障を来さないために、老朽車両の重点的減耗補充を図ることを主眼として整備することとし、新規車両の増強整備については、59年度中に供用が開始された高速道路用の交通指導取締り車両等の整備を行った。
 厳しい財政事情の下ではあるが、警察事象の量的増大や質的変化に対応して治安水準の維持、向上を図るためには、今後とも警察機動力のかなめである警察車両の整備、充実を進めることが不可欠である。当面、現有車両中の老朽車両について、引き続き計画的に更新整備を進めるとともに、凶悪化、広域化の度を増している各種の犯罪に対処するための捜査用車、高速交通時代に対応するための交通指導取締り用車、少年非行対策のための少年補導車、地域に密着した活動を行うためのパトカー、災害等の各種事案を処理するための特殊車両について、重点的に増強整備を図っていく必要がある。
(2) 船舶
 警察船舶は、港湾、離島、河川、湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯や密漁あるいは公害事犯の取締り等の水上警察活動に運用されており、全長8メートル級から20メートル級の警備艇及び5メートル級の公害取締り専用艇の合計201隻を保有している。
 昭和60年度は、厳しい財政事情を考慮し、老朽艇の減耗更新のみを行 ったが、今後の整備に当たっては、水上警察事象の多様化に対応するため、増強配備に努めるとともに、大型化、高速化を図る必要がある。
(3) 航空機
 警察航空機(ヘリコプター)は、災害発生時の状況把握と被災者の救助、交通情報の収集、伝達、犯人の追跡等の捜査活動、公害事犯の取締り、交通の指導取締り等幅広い分野で活動している。
 特に、8月12日に発生した日航機墜落事故に際しては、約2箇月間にわたって、全国15都道府県警察から延べ約200機に及ぶヘリコプターが出動し、各種の活動を行った。
 昭和60年度は、各種警察活動用として、岩手、栃木、和歌山の各県警察に小型ヘリコプター各1機を配備した。この結果、警察航空機は全国で42機となり、航空基地は30都道府県警察に置かれるに至った。
 警察航空機に対する国民の期待はますます高まっているので、全国的な配備に向けて計画的に整備を推進する必要がある。

4 警察活動とコンピュータ

(1) 各種警察業務におけるコンピュータの活用
 警察庁では、コンピュータによる指名手配者等の即時照会業務、運転者管理業務、指紋照合業務、各種統計業務を行っているほか、広域犯罪に対処するために、都道府県警察が収集した膨大、多様な捜査情報を組織的に分析する捜査資料多角的照合システムの開発を進めている。
 また、自動車利用犯罪に対しては、自動車ナンバー自動読取りシステムの開発を進め、昭和61年度から実用化を図ることとしている。
 各都道府県警察においても、独自に犯罪捜査等へのコンピュータの利用を進めており、犯人検挙等に大きな効果を発揮している。

〔事例1〕 被害者915人、被害総額約30億円に上る証券取引を装った詐欺事件において、約4,500点の帳簿等を証拠資料として押収したが、その整理、照合作業には人手による場合約5箇月を要することが見込まれたので、コンピュータによりこれを処理した結果、約1箇月で取引の実態を解明することができた。2月3日、代表取締役ら幹部3人を逮捕(福岡)。
〔事例2〕 8月12日に発生した日航機墜落事故の際、身元の判明しない手、足等の部分的な遺体の確認にコンピュータを活用し、確認作業の促進に役立った(群馬)。
(2) OA化の推進
 都道府県警察では、パソコン、電子ファイル(光ディスク)等を導入して、事務の合理化、効率化を図るとともに、緊急配備、犯罪捜査、交通取締り等の警察活動に役立てている。
 また、警察業務のOA化をより一層推進するため、都道府県警察が開発したプログラムの相互利用を促進しているほか、都道府県警察のコンピュータ要員に対してはOA指導者としての教養を、刑事、防犯、外勤、交通等の各分野の担当者に対しては実践的な教養を行うなど、人材の育成に努めている。
〔事例〕 運転免許台帳として電子ファイル(光ディスク)を導入したため、運転免許証の再交付等の際に行っている運転免許台帳の確認が短時間で可能となるなど、事務の合理化を図ることができた(埼玉、大分)。

5 通信

(1) 初動警察活動の中枢、通信指令システムと移動無線通信
 犯罪、災害、事故等の発生に際して、早期に犯人を検挙し、被害者を保護し、あるいは被害の拡大防止を図るためには、初動警察活動を迅速に行う必要がある。このため、警察では、110番の受理や警察官の出動指令の中枢となる通信指令システムの高機能化及び活動中の警察官の有力な通信手段である移動無線通信の充実、強化等を進めている。
ア 通信指令システムの高機能化
 迅速な初動警察活動を行うためには、通信指令業務の効率化を図る必要がある。このため、警察では、110番の受理に始まる情報の伝送処理にコンピュータの機能を大幅に活用した新しい通信指令システムの整備を進めており、昭和61年3月末現在で11都道府県に整備を終了し、リスポンス・タイムの短縮等に効果を発揮している。
イ 移動無線通信の充実、強化
 移動無線通信には、パトカー、白バイ、警察船舶、ヘリコプター等が相互に無線通話する車載通信系、街頭でパトロール活動中の警察官が携帯無線機を使っていつでも警察署や他の警察官と連絡できるように警察署ごとに構成されている署活系、小規模な警備活動等局地的な警察活動において近距離で使用する携帯通信系等がある。
 近年、無線マニアの増加等により、警察無線に対する傍受、妨害事案が多発している。このため、警察では、これを防止するとともに、音声だけでなく、データ等の多様な情報伝達が可能なデジタル移動無線通信方式を開発し、その整備を進めており、携帯通信系については、既に全国にデジタル方式の携帯無線機の配備を行い、車載通信系についても、 早期に全国整備を完了させる予定である。
ウ パトカー緊急照会指令システムの整備
 デジタル移動無線回線を経由して、パトカー内のデータ端末装置から警察庁のコンピュータへ各種照会を直接行ったり、通信指令室からの指令内容をパトカー内ディスプレーに受信表示することにより、指令の迅速性、確実性を向上させ、パトカーの活動機能を一層向上させる「パトカー緊急照会指令システム」を開発し、60年度から整備を始めており、既に5都県に整備を完了した。

(2) 災害等の重大突発事案発生時に活躍する通信
ア 機動通信隊の活動
 災害、重大事故等の発生時においては、平常時の数倍の情報量を伝達できる警察通信の確保が不可欠であり、特に、通信手段の皆無又は不十分な場所で災害等が発生した場合には、応急に通信施設を開設する必要がある。このため、警察では、警察通信職員によって構成され、応急用 通信資機材等を常備した機動通信隊を編成している。
イ 衛星通信の拡充整備
 衛星通信は、山岳や離島等の地形的な制約を受けずに国内の任意の地点間の通信が確保でき、災害時等における警察活動に最も適した通信手段である。8月12日の日航機墜落事故に際しては、衛星通信地上局設備を通信過疎地帯である現場へ直ちに出動させ、現場の生々しい映像と音声をいち早く警察庁へ送り、捜索活動に多大の貢献をした。
 現在、衛星通信の固定地上局設備を警察庁に置き、可搬形地上局設備2台を静岡県警察本部に配備している。災害等の発生時には、この可搬形地上局設備を静岡から現地へ輸送しているが、今後は、可搬形地上局設備を全国の要所に配置して、事案発生時における対応措置の迅速化を図る必要がある。

ウ 活動用統合通信システムの導入
 活動用統合通信システムは、警察庁、管区警察局及び都道府県警察本 部を通信回線で接続し、通話をしながら文字、地図、数字等の送受信を行うとともに、集められたデータをコンピュータ処理するシステムである。災害等の発生に際しては、全国的な被災状況、現場地図、警察官の出動状況等を即時に集計、編集、表示し、警察庁における状況把握、総合的な状況分析、都道府県警察に対する指導、調整を迅速かつ的確に行うことが可能となる。このシステムは、昭和60年度から導入を開始し、警察庁のほか11都道府県に既に配備したが、引き続き早期に全国配備を図る必要がある。
(3) 日常の警察活動を支える基幹通信
ア 全国を結ぶ警察通信網
 全国の警察機関を結ぶ通信回線は、警察自営の無線多重回線と、日本電信電話株式会社との契約により使用している専用回線から成っており、独自の警察電話のほか、ファクシミリ等の画像通信、データ通信等に用いられている。このうち、警察庁、各管区警察局、北海道警察本部相互間を結ぶ幹線系無線多重回線については、災害等による通信途絶と通信量の増大に備えるため、伝送路を地理的に分散した2ルート方式を採用している。
 また、将来、大幅な増加が予想されるデータ通信やファクシミリ通信に適したPCM方式(注)を採用して設備の更新を進めており、昭和60年度は、仙台・青森間を改修した。
(注) PCM(Pulse Code Modulation)方式とは、電話やファクシミリ等の信号をデジタル符号に変えて、大量、多様の情報を効率的に伝送する方式である。
イ 警察電話の機能強化
 電話に限らずデータやファクシミリ通信等多様な通信に利用できるデジタル電子交換機の整備を進めている。
ウ 高分解能写真電送装置
 指紋の微細な部分まで忠実に電送でき、コンピュータによる遺留指紋照合業務と連携して効率的な活用が図れる高分解能写真電送装置の整備を進めており、60年度は、九州管区警察局内の6県に各1台を整備し、これまでの整備台数は、合計26台となっている。
(4) 世界を結ぶ国際通信
 警察における国際間の通信網として、ICPO(国際刑事警察機構)の短波無線電信回線網がある。警察庁は、東南アジア地域通信網の地域中央局として東京無線局を設置し、パリの国際中央局や地域内無線局10局との交信を行っているほか、地域内各国に対する技術指導に当たっている。東京無線局の昭和60年中の取扱電報数は、約1万4,000通であった。
 このほか、ICPOでは、国際電話回線を利用して、世界115箇所との間でテレタイプ通信を、世界27箇所との間で手配写真等の写真電送を行っている。

6 留置業務の管理運営

(1) 留置業務の現況
 昭和60年12月末現在、全国の留置場数は、1,242場で、年間延べ約280万人の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 現在、留置業務については、捜査を担当しない総(警)務部門において処理されており、被留置者の人権を尊重した処遇を行うとともに、適正な管理運営が図られている。
(2) 留置業務に関する改善措置等
ア 留置場施設の整備
 昭和55年4月以降に新改築された警察署の留置場は、被留置者のプライバシー保護等の観点から54年11月に改正された留置場設計基準に基づいて改善されており、また、既設の留置場についても、この基準に沿った改善整備が逐次進められている。
イ 業務担当者に対する教養訓練の充実
 被留置者の人権の尊重、処遇の適正及び事故防止の徹底を図るため、留置業務を担当する警察官に対して、警察大学校、都道府県警察学校等において専門的な教養訓練を行っている。
ウ 留置場巡回視察の実施
 留置場の適正な管理運営を確保し、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について、警察庁及び管区警察局の担当官により、計画的に巡回視察を実施している。
(3) 留置施設法案の必要性
 警察の留置場については、その設置の根拠、留置される者の範囲、その処遇の内容等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。
 このため、監獄法の改正が行われるのを機会に、これらの点を明確にし、併せて法制審議会の答申の趣旨に沿って、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するために、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法案は、昭和57年4月、第96回通常国会に上程され、その後、第100回臨時国会まで継続審議案件とされたが、58年11月、衆議院の解散に伴い審議未了となった。
 しかし、この法案は、被留置者の人権を尊重しつつ、被留置者の適切 な処遇と留置場の適正な管理運営を行うために不可欠のものであり、早期成立を図ることが必要である。

7 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年非行の防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 昭和60年度における主な研究
 昭和60年度の研究は、前年度からの継続研究54件、新規研究32件の合わせて86件であるが、その主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 パラコート等農薬類の分析と代謝に関する研究
 近時、清涼飲料水にパラコート等の農薬類を混入して人を殺傷する犯罪が全国的に多発している。パラコートの毒性及びその作用機構については、今まで不明の部分が多かったので、重点的に関係の研究分析を進めた結果、パラコートが血球及び神経組織のアセチルコリンエステラーゼの活性を強く阻害することを明らかにした。
〔研究例2〕 コンピュータを用いた筆者識別法に関する研究
 現在、筆跡鑑定は、長い経験を持つ技術者が手作業で行っているが、これらを迅速、正確かつ客観的に行うため、筆跡を画像情報としてコンピュータに入力し、字画形態や字画構成の計測、規格化、統計処理等を行うことによって、犯人の検索及び異同識別を行う方法の開発を進めており、その一部は既に実用化されている。
〔研究例3〕 有害環境が少年非行に及ぼす影響に関する研究
 性風俗関連の施設等は少年非行に与える影響が大きいものと考え られるので、ゲームセンター、ディスコ、のぞき劇場等に関する少年の知識、接触体験等を調査して、それらが少年非行に及ぼす影響について分析し、非行防止活動の進め方を明らかにした。
〔研究例4〕 初心運転者に対する安全指導法の開発
 初心運転者は事故や違反を起こしやすい傾向にあるので、事故や違反に結び付く心理的要因を研究、分析し、その結果に基づいて、初心運転者専用の運転適性検査法と個別指導法を開発した。
 60年に開催された国際会議では、毛髪の元素分析による鑑定法(6月、国際毛髪鑑識シンポジウム、米国)、電子顕微鏡による物体分析法(8月、第43回アメリカ電子顕微鏡学会、米国)、不法に合成されたメタンフェタミン中の微量不純物の分析法(8月、第22回国際法中毒学会、スイス)、液化プロパンガス容器の破損解析(12月、疲労、腐食割れ、破壊力学及び破面解析に関する国際会議、米国)等についての発表を行った。また、国内の学会では、「文字鑑識面から見た日本語ワードプロセッサ印字の字画構成」、「ろ過器内製品の移し替え作業に伴うろ布の帯電」、「青少年を取り巻く有害環境と風営適正化法との関係」、「事故研究のためのニアミスデータの収集とその有効性」等についての発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁や裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、60年における処理件数は、法医学関係が70件、理化学関係が948件、文書、偽造通貨等が374件の合わせて1,392件であった。
ウ 研修
 科学警察研究所では、附属の法科学研修所において、都道府県警察に勤務する鑑定技術職員を対象として研修を実施している。法科学研修所の研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれ、60年度に は、研修生約250人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足こん跡等に関する教育訓練を行った。そのほか、科学警察研究所では、鑑識技術職員約420人の参加の下に、法医、化学、心理及び機械・物理・音声の4部会から成る鑑識科学研究発表会を開催し、研究成果の発表及び質疑応答を通じて、指導、助言を行い、鑑識技術の向上に努めた。
(2) 警察通信学校研究部における研究
 警察通信学校研究部は、警察通信の研究機関として、現場の要望に即した警察独自の通信機器を研究、開発し、警察業務運営の効率化に寄与してきた。
 昭和60年度には、警ら中のパトカーと警察本部との間でファクシミリ等の画像情報を相互に電送するシステムや、パトカーから警察庁のコンピュータに直接照会するパトカー緊急照会指令システムを実用化した。
 また、指令業務の効率化を図るため、音声を直接コンピュータが認識する技術の利用についても研究している。


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