第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 薬物事犯の取締り

(1) 高水準で推移する覚せい剤事犯
 昭和60年の覚せい剤事犯の検挙件数は3万5,587件、検挙人員は2万2,980人で、前年に比べ、件数は1,680件(4.5%)、人員は1,042人(4.3%)それぞれ減少したが、56年以降の検挙人員が毎年2万人を超えるなど、覚せい剤事犯は、依然として高水準で推移している。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況の推移は、図5-1のとおりである。

図5-1 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(昭和51~60年)

ア 史上最高の覚せい剤押収量
 60年の覚せい剤押収量は、約294キログラムで、史上最高であった前年の押収量(約198キログラム)を更に約96キログラム(48.8%)上回った。覚せい剤乱用者の1回の使用量は通常の場合約0.02グラムであるので、この量は、成人総人口8,525万人(注)の17.2%に当たる約1,470万人もの人が同時に使用できる量に相当する。
(注) 60年2月1日現在の総務庁統計局推計による。

イ 台湾、韓国ルートによる密輸入量の増加
 60年の覚せい剤1キログラム以上を一度に押収した31事例の押収量(約265キログラム)を供給地別にみると、台湾からのものが、約168キログラム(10事例)で、前年にべ約24キログラム(16.4%)増加した。また、韓国からのものは、約55キログラム(11事例)で、前年に比べ約47キログラムも激増したことが注目される。
〔事例〕 8月、台湾人と韓国人らが結託し、台湾から冷凍えび等の貨物の内部に約400キログラムの覚せい剤を隠匿して我が国に密輸入し、暴力団幹部らに密売していた事犯を摘発し、19人を逮捕するとともに、覚せい剤約72キログラムを押収した(神奈川)。
ウ 依然として根深く介入する暴力団
 60年の暴力団員による覚せい剤事犯の検挙件数は1万8,019件、検挙人員は1万1,183人で、押収した覚せい剤は、約79キログラムに達した。前年に比べ、件数は281件(1.5%)、人員は169人(1.5%)それぞれ減少したが、覚せい剤事犯で検挙された者に占める暴力団員の比率は、48.7%と前年の47.3%を更に上回った。また、暴力団全検挙人員4万8,213人のうち、覚せい剤事犯の検挙人員が1万1,183人(23.2%)と第1位を占めているなど、暴力団がその資金源とするため、覚せい剤事犯に依然として根深く介入していることが分かる。過去10年間の暴力団員による覚せい剤事犯検挙状況の推移は、図5-2のとおりである。

図5-2 暴力団員による覚せい剤事犯検挙状況の推移(昭和51~60年)

〔事例〕 8月、暴力団丁字家一家蜂谷連合会等が、東京の暴力団等と結託して大量の覚せい剤を仕入れ、道内一円に組織的に密売してい た事犯を摘発し、暴力団組長13人、構成員68人を含む関連被疑者164人を検挙するとともに、覚せい剤2.6キログラムを押収した(北海道)。
エ 更に増加する再犯者
 60年の覚せい剤事犯検挙人員2万2,980人のうち、再犯者は、1万1,537人と全検挙者の50.2%を占めており、前年の再犯者率(48.9%)を更に上回っている。最近5年間における覚せい剤事犯の再犯者の状況は、表5-1のとおりである。

表5-1 覚せい剤事犯の再犯者の状況(昭和56~60年)

オ 跡を絶たない覚せい剤乱用者による事件、事故
 覚せい剤は、一度乱用するとやめられなくなり、その薬理作用から幻覚や幻聴、妄想等の精神障害が現れる。また、覚せい剤をやめた後でも、少量の再使用や不眠、精神的疲労等をきっかけとして、乱用時の精神障害が突然現れる「フラッシュバック現象」が起きることがあると言われている。こうしたことが原因で、殺人、放火等の凶悪な犯罪や交通事故を引き起こしたり、また、覚せい剤を購入する資金欲しさから、強盗、窃盗等の犯罪に走ることも多い。60年の覚せい剤に係る事件、事故の発生状況は、表5-2のとおりである。

表5-2 覚せい剤に係る事件、事故の発生状況(昭和60年)

(2) 増加傾向にある麻薬関係事犯
 昭和60年の麻薬関係事犯の検挙件数は1,974件、検挙人員は1,640人で、前年に比べ45件(2.3%)、121人(8.0%)それぞれ増加した。これを法令別にみると、あへん法違反は、432件、426人で、前年に比べ248件(134.8%)、245人(135.4%)それぞれ激増したが、これは、農家の主婦らが観賞目的で「けし」を栽培する事犯が増加したためである。過去10年間の麻薬関係事犯の検挙人員の推移は、図5-3のとおりである。

図5-3 麻薬関係事犯の検挙人員の推移(昭和51~60年)

ア 相次いだタイ、フィリピンからの大麻密輸入
 60年に押収した乾燥大麻は、約93キログラムで、前年(約70キログラム)に比べ約23キログラム(32.1%)増加した。特に、密輸入事犯については、日本人観光客によるタイ、フィリピンからのものが目立った。一度に1キログラム以上の乾燥大麻を押収した25事例の押収量の内訳をみると、フィリピンからのものが30.0キログラム(9事例)で35.7%、タイからのものが30.5キログラム(7事例)で36.3%に上っており、両国からの密輸入によるものが圧倒的多数を占めている。
 また、暴力団員による大麻事犯の検挙件数は260件、検挙人員は169人で、前年に比べ22件(9.2%)、8人(5.0%)それぞれ増加し、大麻事犯の全検挙人員に占める割合も、15.4%と前年(13.2%)を上回り、大麻事犯に対し暴力団員の介入する度合いが強まっていることがうかがえる。
〔事例〕 12月、タイ人が、スーツケースの二重底に隠匿して、タイから乾燥大麻を密輸入した事犯を摘発し、乾燥大麻14.2キログラムを 押収した(千葉)。

イ ヘロインの押収量が史上最高を記録
 60年のヘロインの押収量は、約16キログラムで、史上最高を記録した前年の押収量(約7キログラム)を大幅に上回った。これは、主として、タイからの大量密輸入事犯を相次いで検挙したことによるものである。

表5-3 麻薬の種類別押収状況(昭和56~60年)

 これらは、いずれも我が国を中継地として外国へ向けて密輸することを企図していた事犯であったが、国内でのヘロイン乱用の増加の兆候もうかがわれることから、引き続き厳重な警戒を行う必要がある。最近5年間における麻薬の種類別押収状況は、表5-3のとおりである。
〔事例〕 8月、タイの麻薬密売組織が、日本人とタイ人を運び屋に仕立て、我が国を中継地としてヘロインを米国へ密輸しようとした事犯を摘発し、ヘロイン2.5キログラムを押収した(警視庁)。
(3) 少年にまん延するシンナー等有機溶剤の乱用
 昭和60年のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙、補導人員は、4万9,494人で、前年に比べ3,175人(6.0%)減少したが、そのうち88.3%を少年が占めており、依然として少年を中心にシンナー等がまん延していることが分かる。検挙、補導人員を種類別にみると、シンナーが全体の69.2%と最も多く、次いでトルエン13.9%、接着剤9.8%、塗料5.4%の順となっている。
 シンナー等の乱用は、成長期の少年に大きな害悪を及ぼすほか、乱用による錯乱、精神障害等から暴力犯罪、性犯罪、交通事故等を引き起こすなど社会的危険性が高い。また、シンナー等の乱用者が更に強い刺激を求めて覚せい剤等の乱用へ移行する事例も、多く見受けられる。
(4) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
ア 国際捜査協力の推進
 麻薬、大麻、覚せい剤等の薬物の乱用は、先進国、発展途上国を問わず、世界各国が直面している共通の深刻な問題である。国際的な広がりを持つこの問題を解決するためには、一国内の取締りを強化するだけでなく、国際協力を推進することが不可欠である。また、我が国で乱用されている覚せい剤等は、そのほとんどが海外から持ち込まれたものであり、この流通経路を遮断するためには、密造、密輸と関係の深い各国と 緊密な捜査協力を行うことが極めて重要である。
 このような観点から、昭和60年7月には、東南アジアを中心とする21箇国が参加して「第24回麻薬犯罪取締りセミナー」(東京)が、11月には、政府レベルの第3回目の「麻薬・覚せい剤関係日韓連絡会議」(ソウル)が開催されたほか、同月、国連の主催による「極東地域麻薬取締機関長会議」(コロンボ)に我が国からも参加した。また、警察庁は、ICPOを通じて関係各国との情報交換に努めている。

イ 広域捜査の推進
 警察では、覚せい剤の需要と供給を断つため、密輸入事犯の水際検挙、暴力団を中心とした密売組織の壊滅、末端乱用事犯の徹底的検挙を重点とした取締りを強力に推進している。特に、大規模密輸、密売事犯については、各都道府県警察相互間の情報連絡を緊密化し、全国の警察 が一体となった組織的、広域的な捜査を推進している。
ウ 乱用防止対策の強化
 警察では、本人に対する医療保護が加えられ、併せて他人に対する危害の防止が図られるよう、60年には、覚せい剤の慢性中毒症状によって自傷他害のおそれがある者として、81人を都道府県知事に通報した。また、覚せい剤の乱用を防止するため、薬物乱用対策推進本部等の関係機関、団体及び新聞、テレビ等の報道機関との連携による広報活動や映画、ミニ広報紙等を活用した啓発活動を推進するなど、覚せい剤乱用を拒絶する社会環境づくりに積極的に取り組んでいる。
 さらに、覚せい剤相談電話や相談コーナー等を各都道府県警察本部等に設置して、覚せい剤で苦しんでいる人たちの相談に応じている。

2 銃砲の適正管理と取締り

(1) 銃砲の適正管理
ア 減少を続ける猟銃等の所持許可数
 昭和60年12月末現在、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)により都道府県公安委員会が所持を許可している銃砲は、60万9,461丁で、そのうち、猟銃は52万4,512丁、空気銃は4万2,676丁となっている。最近5年間の所持許可を受けた猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)の数の推移は、表5-4のとおりで、7年連続減少している。
 これは、警察が、猟銃等の所持許可の申請に対しては十分な調査を行い、銃刀法の定める許可要件を充たしているかどうかを厳格に審査するとともに、既に許可した者についても、猟銃等を許可に係る用途に供していない場合にはその許可を取り消すなど、厳しく対処してきたことに加え、狩猟の機会が減少し、猟銃等を用いて狩猟を行う者も減少してい るためである。

表5-4 所持許可を受けた猟銃等の数の推移(昭和56~60年)

イ 減少に転じた猟銃等による事故
 60年の猟銃等による事故の発生件数は120件、死傷者数は120人で、前年に比べ、発生件数は9件(7.0%)、死傷者数は14人(10.4%)それぞれ減少した。最近5年間の猟銃等による事故の発生状況は、表5-5のとおりである。

表5-5 猟銃等による事故の発生状況(昭和56~60年)

 60年の盗難被害に遭った猟銃等は、28丁で、前年に比べ1丁(3.7%)増加した。その被害状況をみると、全体の32.2%に当たる9丁が自動車 内に放置するなどの保管義務違反を原因としている。
 また、60年の猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は35件、このうち所持許可を受けた猟銃等を使用したものは23件で、前年に比べ14件(66.7%)、7件(43.8%)それぞれ大幅に増加した。最近5年間の猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況は、表5-6のとおりである。

表5-6 猟銃等使用犯罪の罪種別検挙状況(昭和56~60年)

〔事例〕 許可を受けて猟銃を所持していた山林労務者(52)は、ゴミの捨て場所をめぐるいざこざから隣人に対して殺意を抱き、その所持する猟銃を持って隣人宅に押し入り、家族及びそこに居合わせた者に向けて猟銃を発砲し、3人を死亡させ、1人に重傷を負わせた(徳島)。
ウ 指定射撃場の指定に関する総理府令の改正
 これまでの狩猟中の猟銃事故をみると、銃の取扱いの不慣れを原因とする事故が多発していることから、指定射撃場において狩猟専用猟銃によっても標的射撃が効果的に行えるよう、60年12月、指定射撃場の指定に関する総理府令を改正した。警察では、今後、全日本指定射撃場協会をはじめとする関係団体によって、より一層遵法意識の啓発活動が推進されるよう期待している。
エ 猟銃用火薬類等の許可件数
 60年の猟銃用火薬類等(実包、銃用雷管等であって、猟銃等に専ら使用されるもの)の譲渡、譲受け等の許可件数は、10万796件で、前年に比べ2,863件増加した。
(2) けん銃等の取締り
ア 急激に増加したけん銃等の銃砲使用犯罪
 暴力団の対立抗争の激化によるけん銃発砲事件の頻発に伴い、昭和60年のけん銃等の銃砲使用犯罪の検挙件数は、254件と前年に比べ63件(33.0%)増加した。これを罪種別にみると、殺人が127件、強盗が16件と凶悪犯罪が多数を占めている。また、暴力団関係者による銃砲使用犯

図5-4 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和51~60年)

罪の検挙件数は、221件で、全体の87.0%を占めている。
 けん銃が使用された犯罪の検挙件数は、209件で、その96.7%に当たる202件が暴力団関係者によるものである。
 過去10年間の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、図5-4のとおりである。
イ 依然として多いけん銃の押収数
 60年のけん銃の押収数は、1,785丁で、前年に比べ22丁(1.2%)減少したが、依然として高水準にある。最近5年間のけん銃押収数の推移は、表5-7のとおりである。

表5-7 けん銃押収数の推移(昭和56~60年)

 押収したけん銃を銃種別にみると、CRSけん銃といわれるフィリピン製密造けん銃が多数を占めており、暴力団関係者のけん銃の入手先としてフィリピンが大きな位置を占めていることが分かる。
ウ 高水準で推移するけん銃密輸入事犯
 60年のけん銃密輸入事犯の検挙件数は48件、検挙人員は51人、押収数は226丁で、前年に比べ、検挙件数は15件、検挙人員は14人それぞれ増加した。押収数は、一度に301丁のけん銃を押収した事例もあった前年より193丁減少したものの、40年に銃刀法にけん銃輸入禁止規定が設けられて以来2番目に多い押収数であった。最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙状況は、表5-8のとおりである。

表5-8 けん銃密輸入事犯の検挙状況(昭和56~60年)

 警察では、依然として続く暴力団の対立抗争の背景として、けん銃の密輸入が大規模かつ反復的に行われているという認識から、密輸入情報の入手、税関等関係機関との密接な連携によって、けん銃密輸入の水際検挙に努めるとともに、密輸入ルートの解明及びその壊滅に全力を挙げている。
〔事例〕 フィリピン人女性5人は、日本の暴力団関係者と共謀し、自己の体にはり付けて隠匿する方法によって、けん銃48丁、実包281個をマニラ発の飛行機で沖縄国際空港に密輸入した(沖縄)。

3 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 昭和60年の火薬類の盗難事件の発生件数は、25件で、前年に比べ10件減少した。また、実包を除く火薬類(ダイナマイト、無煙火薬等)を使用した犯罪の発生件数は、23件で、前年に比べ4件増加した。
 警察では、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等の火薬類取扱場所に対して積極的な立入検査を実施し、火薬類の保管の方法等について細かく指導するとともに、悪質な違反については火薬類取締法の罰則を適用して厳しく対処している。
(2) 放射性物質の安全輸送対策の推進
 昭和60年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等が356件、放射性同位元素等が238件で、前年に比べ、核燃料物質等は60件(14.4%)減少したが、放射性同位元素等は14件(6.3%)増加した。これらの運搬届を受理した都道府県公安委員会は、運搬の日時、経路等について必要な指示、指導を行うなど、放射性物質の安全輸送対策を推進した。
(3) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 昭和60年の事業所や一般家庭における高圧ガス、消防危険物等による事故の発生件数は1,266件、死者数は466人で、前年に比べ、発生件数は134件(9.6%)、死者数は79人(14.5%)それぞれ減少した。
 警察では、高圧ガス、石油類等の事故を防止するため、関係行政機関との連携の下に、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反の取締りを行って、2,016件、2,070人を検挙した。特に、遵法精神の欠如や安全意識の希薄化等に起因する危険物輸送中における事故や違反が跡を絶たない状況にあることから、11月に危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反741件を検挙した。
〔事例〕 潜水器具や釣具等の販売会社等は、ダイバーの使用するエアーボンベの圧縮空気のガス充てん所が少ないことに目を付け、54年ころから、知事の許可を受けずに、店内等に1日30立方メートル以上の製造能力を有するエアーコンプレッサーを設置して高圧ガス(圧縮空気)ボンベを多数製造し、ダイバーや密漁者等に販売して利益を得ていた。高圧ガス取締法違反で5法人15人を検挙(広島)

4 風俗環境への対応

 風俗環境の浄化や少年の健全な育成を図るため、昭和60年2月13日、風営適正化法が施行された。60年は、その周知及び風俗営業、風俗関連営業等に対する指導、取締りを強化することにより、風俗環境の浄化等を推進した。
(1) 風俗営業等の現状
ア 風俗営業の状況
(ア) 料飲関係営業
 風営適正化法によって都道府県公安委員会の許可を受けているキャバレー、バー、料理店等の料飲関係営業(風営適正化法第2条第1項第1~6号に該当する営業)の営業所数は、昭和60年12月末現在9万6,759軒で、前年に比べ219軒(0.2%)減少した。最近5年間の料飲関係営業の営業所数の推移は、表5-9のとおりで、漸減傾向にある。
 また、料飲関係営業の違反態様別検挙状況は、図5-5のとおりで、60年は、2,563件を検挙した。

表5-9 風俗営業(料飲関係営業)の営業所数の推移(昭和56~60年)

図5-5 風俗営業(料飲関係営業)の違反態様別検挙状況(昭和60年)

 都道府県公安委員会は、このような違反に対して、指示や許可の取消し又は6月を超えない期間の営業停止処分を行っているが、60年は、指示910件を行ったほか、許可の取消し35件、営業停止839件の行政処分を行った。
(イ) 遊技場営業
 風営適正化法第2条第1項第7号に該当する営業のうち、ぱちんこ屋の営業所数は、56年以降増加を続けてきたが、60年12月末現在1万3,524軒で、前年に比べ125軒(0.9%)増加した。また、遊技機の設備台数も、294万7,605台とこれまでの最高数を示した。これは、55年に出現した「超特電(フィーバー)型」ぱちんこ遊技機の全国的な流行に端を発した店舗の大型化、郊外型への移行の進展等によるものと考えられる。
 まあじゃん屋の営業所数は、54年以降減少を続け、60年12月末現在2万9,445軒で、前年に比べ715軒(2.4%)減少した。
 遊技機を設置して客に遊技をさせる営業のゲームセンター等については、少年のたまり場になったり、賭博(とばく)事犯が行われるなど、一部に問題が生じてきたため、風営適正化法第2条第1項第8号の許可対象営業として、その健全育成を図ることとなった。60年12月末現在の営業所数は、4万5,256軒で、前年に比べ4,090軒(9.9%)増加したが、外形的独 立性が著しく小さく、法的規制の必要性が小さい小規模な営業所については、許可を必要としないことから、許可を受けている営業所数は2万6,217軒にとどまっている。最近5年間の遊技場営業の営業所数の推移は、表5-10のとおりである。

表5-10 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和56~60年)

 60年の遊技場営業の検挙件数は、789件で、その違反態様別検挙状況は、図5-6のとおりである。この中では、特に、ゲーム機使用の賭博(とばく)事犯が目立ったが、その検挙件数は462件、検挙人員は2,550人で、押収した遊技機及び押収賭(と)金は、4,241台、約2億2,354万円となっている。
 このような違反に対して、指示や営業停止等の行政処分を行っているが、60年は、指示581件を行ったほか、許可の取消し

図5-6 風俗営業(遊技場営業)の違反態様別検挙状況(昭和60年)

2件を含む59件の行政処分を行った。
イ 風俗関連営業の状況
 近年、性を売り物とする新しい形態の営業が次々と出現し、風俗環境ばかりでなく、少年の健全な育成にも多大の悪影響を与えるようになっている。このため、風営適正化法(第2条第4項第1~5号)では、個室付浴場業、モーテル営業に、いわゆる個室ヌード、のぞき劇場、ストリップ劇場、ラブホテル、レンタルルーム、アダルトショップ、個室マッサージ等を加えて「風俗関連営業」と定義し、その対象営業とした。また、風俗関連営業については、届出制を導入するとともに、従前の営業の禁止区域等の規制に加えて、年少者に関する各種行為の禁止、客引きの禁止、広告、宣伝の規制及び営業時間の制限等の規制を大幅に強化した。その結果、歩道を歩く市民に迷惑を及ぼしていた客引きが減少したほか、街頭にあふれていた卑わいな看板等が姿を消すなど、風俗環境の浄化が推進された。

表5-11 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和56~60年)

 風俗関連営業の営業所数は、60年12月末現在1万6,658軒で、前年に比べ327軒(1.9%)減少した。最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表5-11のとおりである。
 また、風俗関連営業の違反態様別検挙状況は、図5-7のとおりで、60年は、1,682件を検挙した。
 このような違反に対して、指示や営業の廃止又は8月を超えない期間の営業停止処分を行っているが、60年は、指示203件を行ったほか、営業の廃止8件、営業停止330件の行政処分を行った。

図5-7 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(昭和60年)

ウ 深夜飲食店営業の状況
 スナック、サパークラブ等の深夜飲食店の営業所は、夜間における国民の活動時間帯が広がったこと、また、風俗営業の許可を取らずに手軽に営業できることなどから、増加の一途をたどっている。風営適正化法においては、深夜の概念を従来の午後11時以降から午前零時以降とした上で、年少者に関する各種行為の禁止、客引きの禁止及び騒音、振動の規制等の規定を整備したほか、酒類を提供する深夜飲食店について届出制を導入した。
 深夜飲食店営業の営業所数は、60年12月末現在33万4,551軒で、前年に比べ8万3,582軒(20.0%)減少した。また、深夜酒類提供飲食店営業の届出をした営業所数は、24万1,675軒となっている。最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表5-12のとおりである。
 60年の深夜飲食店営業の検挙件数は、3,231件で、このうち届出をし た深夜酒類提供飲食店営業の検挙件数は、3,005件であった。深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-8のとおりである。

表5-12 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和56~60年)

図5-8 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(昭和60年)

 このような違反に対して、指示や6月を超えない期間の営業停止処分を行っているが、60年は、指示816件を行ったほか、676件の営業停止処分を行った。
(2) 悪質、巧妙化する売春事犯
 昭和31年に制定された売春防止法は、61年で制定以来30年を迎えるが、その違反検挙件数の推移をみると、制定直後に2万件を超えていた売春事犯は、その後逐年減少し、53年から57年にかけては4,000件台で推移していた。しかし、58年からは増加に転じ、59年には15年ぶりに1万件の大台を超え、さらに60年には1万1,617件と著しい増加傾向を示している。最近5年間の検挙状況は、表5-13のとおりである。
 売春事犯の態様には、大別して街娼(しょう)型、派遣型、管理型の3 形態があるが、最近は、売春防止法制定当時多かった街娼(しょう)型、管理型が減少した反面、デートクラブ、愛人バンク等に代表される派遣型が多くなり、全検挙件数の90.0%を占めている。

表5-13 売春防止法違反の検挙状況(昭和56~60年)

 さらに、近年、いわゆるじゃぱゆきさんが関与する売春、猥褻(わいせつ)事犯等の問題が生じている。60年に風俗関係事犯で検挙した外国人女性は、904人で、前年に比べ169人(15.8%)減少したが、これらの事犯に関与した外国人女性を含めると、1,568人となり、前年に比べ76人(5.1%)増加した。
(3) 多様化する猥褻(わいせつ)事犯
 猥褻(わいせつ)事犯は、社会の情勢を反映して多様化が進んでいるが、特に最近は、ビデオ機器の普及等から猥褻(わいせつ)ビデオテープが一般家庭に出回り、また、猥褻(わいせつ)公刊出版物が一般書店で大量に発売されるなど、青少年の健全育成にとって憂慮すべき状況にある。
 昭和60年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は3,267件、検挙人員は2,846人で、前年に比べ、件数は189件(6.1%)増加したが、人員は68人(2.3%)減少した。最近5年間の猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況は、表5-14のとおりである。

表5-14 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和56~60年)

(4) 潜行するノミ行為事犯
 昭和60年の公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)をめぐるノミ行為事犯の検挙件数は1,295件、検挙人員は4,941人である。最近5年間のノミ行為事犯の検挙状況は、表5-15のとおりである。

表5-15 ノミ行為事犯の検挙件数(昭和56年~60年)

 最近のノミ行為の方法は、電話の自動転送装置や自動車電話等を利用してノミ受け場所を隠ぺいするなど、悪質、巧妙化している。また、検挙人員に占める暴力団関係者の比率が49.8%とほぼ半数を占めていることや、公営競技場内において勢力争いに起因する暴力事件が多発していることからも、ノミ行為が暴力団の有力な資金源となっていることがうかがえる。
 このため、警察では、関係省庁との協議の上、各公営競技施行者と緊 密な連携を取り、60年11月以降公営競技場からの暴力団、ノミ屋の排除方策を厳しい取締りと併せて進めている。

5 質屋、古物営業の現状

 質屋営業法又は古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の推移は、表5-16のとおりで、質屋は漸減し、古物商等は漸増している。

表5-16 許可を受けている質屋、古物商等の推移(昭和56~60年)

 質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより被害者に返還できた件数は、昭和60年は、質屋については9,315件、古物商等については1,801件であった。また、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も、多くみられた。

6 経済事犯の取締り

(1) はん濫する不正商品の取締り
ア 激増した偽ブランド事犯
 国民の高級品志向が強まるにつれて、有名ブランド商品に対する国民 の需要が高まっているが、このような情勢を背景に、有名ブランド商品の模造品を製造したり、販売する商標法違反や不正競争防止法違反等の事件が多発している。
 昭和60年の無体財産権関係事犯の検挙状況は、商標法違反が642件、650人、不正競争防止法違反が500件、42人で、件数が初めて1,000件を超えた。最近5年間の無体財産権関係事犯の法令別検挙状況は、表5-17のとおりである。

表5-17 無体財産権関係事犯の法令別検挙状況(昭和56~60年)

イ 初の「月間」による集中取締り
 近年国際的な問題となっている欧米諸国との貿易摩擦問題の打開策として、60年7月、政府与党対外経済対策本部において策定された「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」の中で、有名ブランド商品の偽物等不正商品の取締りの強化、不正商品に関する情報収集等の実施が決定された。警察庁では、これを受けて、60年10月、初めての「不正商品取締り等強化月間」を設定し、全国一斉の取締りを実施した。同月間中、商標法違反、不正競争防止法違反等で518件、484人を 検挙し、約6万2,000点の偽ブランド商品等を押収した。
〔事例〕 大阪、福井等の革製品製造業者らは、卸業者やブローカーと結託し、海外有名ブランドの偽物を製造、販売して利益を上げようと企て、消費者に人気のあるルイ・ヴィトンの偽商標を付したハンドバッグ、財布等を大量に製造し、58年4月から60年1月までの間に、約19万2,000個を全国47都道府県の卸売、小売業者に販売していた。商標法等違反で49法人226人を検挙(広島)
(2) 詐欺事犯の増加が目立つ不動産事犯
 昭和60年の不動産事犯の検挙件数は1,918件、検挙人員は1,792人で、前年に比べ、件数は534件(21.8%)、人員は525人(22.7%)それぞれ減少した。最近5年間の不動産事犯の法令別検挙状況は、表5-18のとおりである。

表5-18 不動産事犯の法令別検挙状況(昭和56~60年)

 60年の不動産事犯の内容をみると、節税対策と称してほとんど無価値の土地を交換で売り付け差額をだまし取る詐欺事犯や、一定規模以上の 一団の土地の無届売買等の国土利用計画法違反事犯が目立った。
 不動産事犯の中で最も多い宅地建物取引業法違反の態様別検挙状況は、図5-9のとおりであり、他業者が売りに出している物件を自社物件と称して高く売り付ける重要事項不告知等の業務上禁止事項違反や一発ねらいの無免許営業事犯が依然として多い。

図5-9 宅地建物取引業法違反の態様別検挙状況(昭和60年)

〔事例〕 総合レジャー計画をもくろむ豊田商事の関連会社の役員(43)らは、ゴルフ場、スキー場、飛行場の用地買収に際し、国土利用計画法上の県知事等に対する届出をせずに売買契約をした。合計6法人10人を検挙(宮城、長野、岡山)
(3) 多様化する国際経済事犯
 昭和60年の国際経済事犯の検挙件数は、757件で、前年に比べ150件(16.5%)減少した。その違反形態は、密輸船を仕立てて洋上取引を行ったり、輸入規制品を不開港に陸揚げするなど、巧妙かつ多様化している。最近5年間の国際経済事犯の検挙状況は、表5-19のとおりである。
〔事例〕 水産物販売業者(61)らは、59年10月から同年12月までの間、4回にわたり、国際捕鯨取締条約の下での規制が及んでいない台湾から輸入を禁止されている鯨肉を密輸船を仕立てて不開港等に不正輸入するとともに、有害魚アブラソコムツを大量に貯蔵し、国内販売を企てた。関税法違反等で6法人54人を検挙(静岡)

表5-19 国際経済事犯の検挙状況(昭和56~60年)

(4) 悪質、巧妙化する金融事犯
ア 取締り状況
 昭和60年の金融事犯の検挙件数は886件、検挙人員は579人で、前年に比べ、件数は344件(28.0%)、人員は267人(31.6%)それぞれ減少した。最近5年間の金融事犯の法令別検挙状況は、表5-20のとおりである。

表5-20 金融事犯の法令別検挙状況(昭和56~60年)

イ 跡を絶たぬ悪質サラ金
 いわゆるサラ金については、高金利、過剰貸付け、強引な取立て等から借受人等の家出、自殺等が多発して、大きな社会問題となったため、 58年11月に貸金業規制二法が施行され、これを機に、サラ金返済苦による家出、自殺等は、次第に減少してきた。しかし、高金利事犯や強引な取立て等の悪質事犯は、依然として跡を絶たず、60年は、出資法違反で357件、372人、貸金業規制法違反で493件、166人を検挙した。
〔事例〕 暴力団組長(37)らは、組の運営資金調達のため、福岡、唐津両競艇場を舞台に、レース1節(3~7日間)ごとに1割の利息を徴収する「節イチ」と呼ばれる方法で競艇客に金銭を貸し付け、法定限度利息の約83倍に上る利息を徴収していた。出資法違反等で4人を検挙(福岡)
ウ 利殖欲をあおる預り金事犯
 貸金業規制二法の施行以来、サラ金業界は「冬の時代」を迎えたと言われるが、このような状況の中で、サラ金業者が貸付資金の確保のため銀行業務と類似の行為を行い、巨額の金銭を集める預り金事犯が多発した。その手口をみると、通帳を発行し、銀行利息の3~5倍の高利で客を募り、100億円を超える預り金をした事例や、利殖話に弱い一般顧客の心理を巧みに利用して、「銀行より有利で税金もかからない」と申し向け、受け入れた金銭を運転資金や生活費に費消していた悪質な事例が目立っている。
〔事例〕 貸金業規制二法の施行により、経営不振に陥った大手サラ金業者(58)は、「元金保証、利息年約24%の高利、引き出し自由」をキャッチフレーズに通帳を発行し、20都道府県の預金者3,450人から約166億円を受け入れ、これを貸付資金として運用するなど、銀行業務と類似の行為を行っていた。出資法違反で1法人35人を検挙(兵庫)
エ 悪質な投資顧問業者の取締り
 60年も、証券取引をめぐり、いわゆる街の投資顧問業者等が「株式売 買の資金を融資する」などと称して投資欲をあおり、顧客を証券取引に引き込んで多額の損害を与える事犯が相次いだ。一部の悪質業者は広告や宣伝の内容と全く異なる営業を行い、客の手仕舞の要求にも応じないなどのために、顧客から警察へ苦情や相談が寄せられており、悪質な事犯については、詐欺あるいは証券取引法違反で検挙した。
〔事例〕 街の投資顧問業者としては最大規模を誇るA社の会長(31)らは、客の出資金の10倍までの証券売買を行わせる方法により顧客を集め、保証金や買い付け代金として多額の金員を受け取りながら、実際には買い付けや取次ぎをせず、これをだまし取っていた。詐欺等で5法人12人を検挙(警視庁)
(5) 多様化する訪問販売事犯
 昭和60年の訪問販売等に関する法律違反の検挙件数は154件、検挙人員は102人で、前年に比べ、件数は11件(6.7%)減少したが、人員は7人(7.4%)増加した。内容をみると、主婦や高齢者に執ようかつ強引に訪問攻勢をかけ、セールスマンの長時間の居すわりや、脅迫的あるいは詐欺的言動によって、不必要な商品を不当な価格で押し付け販売する事犯が依然として多い。訪問販売をめぐるトラブルについて、警察では、消費者からの相談に対し、解決方法を教示するなどの助言、指導を行っている。
〔事例〕 清涼飲料水の自動販売機販売業者(42)は、一般家庭を訪問し、「置くだけで、居ながらにしてもうかります。販売価格165万円の頭金を払ってもらうだけで結構です」などと申し向け、巧みに自動販売機を売り付けていた。埼玉県押売防止条例等違反で3法人30人を検挙(埼玉)
(6) その他の経済事犯
 「楽をしてもうけたい」という人間の願望に付け込んだ商法が、跡を 絶たない状況にある。無限連鎖講(いわゆるネズミ講)も、その一つで、最近は、従来の単純な金銭配当組織とは異なり、商品販売を仮装したものが多い。商品販売とは名ばかりで、新規会員を紹介するだけで高額の収入を得られるという甘い言葉で消費者の欲をくすぐり、ネズミ算式に会員を増やして、子会員の支出する金銭の中からそれぞれが配当を得ようというもので、マルチ商法に類似しているところから、マルチまがい商法と呼ばれている。昭和60年は、無限連鎖講の防止に関する法律違反で83件、92人を検挙した。

7 公害事犯の取締りと公害苦情の処理

(1) 公害事犯の取締り
 昭和60年の公害事犯の検挙件数は、6,805件で、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反が6,169件、水質汚濁防止法違反が345件等となっている。過去10年間の公害事犯の法令別検挙状況は、図5-10のとおりである。
ア 跡を絶たない悪質かつ巧妙な汚水の垂れ流し
 警察では、河川や海等に汚水を直接垂れ流す排水(排除)基準違反(注)を中心に、水質汚濁事犯の取締りを積極的に行っており、60年は、494件を検挙した。
(注) 排水(排除)基準違反とは、水質汚濁防止法、下水道法、鉱山保安法、公害防止条例に定められた排水(排除)基準に違反して汚水を排出する行為をいう。
 排水(排除)基準違反の内容をみると、工場等の増設や業務の規模の拡大によって増加した廃水量に既存の汚水処理施設の処理能力が追い付か ず、完全に処理しないまま汚水を垂れ流すもの、汚水処理経費を節約するため汚水処理施設を設置せず、又は設置していてもこれを使用しないで汚水を直接垂れ流すもの、あるいは取締り等を逃れるため隠し排水口を設けるものなど、悪質かつ巧妙な事犯が目立っている。排水(排除)基準違反の原因別検挙状況は、表5-21のとおりである。

図5-10 公害事犯の法令別検挙状況(昭和51~60年)

表5-21 排水(排除)基準違反の原因別検挙状況(昭和60年)

〔事例〕 食品製造会社は、汚水処理施設の設置費用や維持管理費用を 節約するため、行政機関からの2回にわたる指導を無視してこれを設置せず、会社から600メートルも離れた草むらに排水口を隠して1日当たり100トンもの汚濁水を垂れ流していた。6月28日、水質汚濁防止法違反で検挙(茨城)
イ 建設廃材の不法処分が目立つ廃棄物事犯
 60年の廃棄物処理法違反の検挙件数は、6,169件で、前年に比べ8件(0.1%)減少した。その態様別検挙状況は、表5-22のとおりで、不法投棄事犯が、依然として多く、全体の76.5%を占めている。

表5-22 廃棄物処理法違反の態様別検挙状況(昭和60年)

 不法投棄等(無許可の埋立てを含む。)された産業廃棄物の総量は、約24万700トンであった。その種別、場所別状況は、図5-11のとおりで、種別では、建設廃材が全体の74.6%を占め、また、場所別では、山林、原野が54.2%、埋立地、宅造地が23.3%等となっている。

図5-11 不法投棄等された産業廃棄物の種別、場所別状況(昭和60年)

 その原因、動機をみると、「処理経費節減のため」というような経済的理由によるものが全体の72.1%を占めており、環境保 全意識の低さがうかがえる。
 警察では、廃棄物の不法投棄等の取締りを強化するとともに、不法投棄等された場所の原状回復の指導に努めており、60年は、産業廃棄物が多量に不法投棄等された場所で原状回復を必要とする238箇所のうち、216箇所(90.8%)について回復措置が採られた。
〔事例〕 家屋解体業者は、無許可で廃棄物処理業を行い、約1年間にわたって廃木材やコンクリート片等約8,000トンを受け入れ、野焼きしたり、不燃物を他の無許可業者に埋立処分させたりしていた。このため、付近住民は、「ばい煙、灰がひどくて洗濯物が汚れる」、「朝から狭い通学路にダンプカーが出入りして子供が危ない」と苦情を訴えていた。1月20日、廃棄物処理法違反で検挙(神奈川)
(2) 相変わらず多い公害苦情
 昭和60年に警察が受理した公害苦情の件数は、5万2,355件で、前年に比べ1,793件(3.5%)増加した。公害苦情の種類別では、騒音に関する苦情が、5万182件と全体の95.8%を占めている。最近5年間の公害苦情の受理件数の推移は、表5-23のとおりである。

表5-23 公害苦情の受理件数の推移(昭和56~60年)

 受理した公害苦情については、警察官の注意や指導によりその約8割を処理しているが、さらに、当事者間の話合いのあっせん、他機関への通報等を行って苦情の解消に努めている。

8 保健衛生事犯の取締り

(1) 悪質な医事、薬事事犯の取締り
 平均寿命の伸長に伴って老後の生活や健康に不安を持つ国民も増えており、また、国民の健康や美容に対する関心もますます高くなっている。
 最近、こうした国民の不安や関心に付け込み、主に高齢者、女子、少年を食い物にする悪質な医事、薬事事犯が目立っている。
 昭和60年の保健衛生事犯の検挙状況をみると、医事事犯の検挙件数は、168件で、前年に比べ27件(19.1%)増加した。また、薬事事犯の検挙件数は、838件で、前年に比べ152件(22.2%)増加した。最近5年間の医事、薬事事犯の検挙状況は、表5-24のとおりである。

表5-24 医事、薬事事犯の検挙状況(昭和56~60年)

〔事例〕 健康食品販売業者は、少年少女の背を伸ばしたいという切なる願いに付け込み、牛骨、乳糖を原料に全く効き目のない偽薬を製造し、少年少女向けの雑誌を利用して「1粒飲めば背がぐんぐん伸びる」などと大々的に宣伝を行い、これを信じた全国の中・高校生等約20万人に販売して、58年5月から60年5月までの間に約9億円の暴利を得ていた。薬事法違反で2人を検挙(警視庁)
(2) 農薬による死亡事案の防止
 昭和60年は、毒物及び劇物取締法によって毒物に指定されているパラ コート除草剤を清涼飲料水等に混入した殺人事件や、パラコート除草剤による自殺事案が相次いで発生し、大きな社会問題となった。60年のパラコート除草剤による死亡事案の発生件数は、1,021件で、前年に比べ427件(71.9%)大幅に増加した。過去10年間のパラコート除草剤による死亡事案の発生状況は、表5-25のとおりである。

表5-25 パラコート除草剤による死亡事案の発生状況(昭和51~60年)

 警察では、関係行政機関、団体等と緊密な連携を図り、パラコート除草剤の毒性や保管、販売上の注意事項について広く国民に呼び掛け、各種事件、事故の防止に努めている。


目次