第4章 少年非行の防止と少年の健全な育成

1 少年非行等の現状

(1)少年非行の概要
ア 依然として高い水準を維持する少年非行
 戦後における少年非行の推移を主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比(注)でみると、図4-1のとおりで、昭和26年をピークとする第1の波、39年をピークとする第2の波、そして、40年代後半から始まる第3の波があることが分かる。

図4-1 主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移(昭和24~59年)

 59年に警察が補導した非行少年等の数は、表4-1のとおりであり、刑法犯で補導した少年の数は24万8,540人と、戦後最高を記録した前年に比べ1万3,094人(5.0%)減少した。これは、ここ数年にわたって警察をはじめとする関係機関が国民と一体となって推進してきた少年非行防止のための諸施策が効果を挙げ始めたためとみられる。しかしながら、少年非行は、基本的には依然として高水準で推移し続けている。また、これらの非行少年の背後では、その数倍に及ぶ不良行為少年が補導され、しかも、その数が増加の一途をたどっている。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

表4-1 警察が補導した非行少年等の数(昭和58、59年)

イ 増加を続ける不良行為少年
 59年に警察が補導した不良行為少年の数は151万2,777人で、前年に比べ8万2,879人(5.8%)増加した。その態様別状況は、図4-2のとおりで、喫煙が41.1%を占めて最も多く、次いで深夜はいかい、暴走行為の順となっている。
 過去7年間の不良行為少年の数の推移は、表4-2のとおりで、7年間で1.8倍と大幅に増加した。内容的には、喫煙、深夜はいかい等そのまま放置すれば、本格的な非行に発展したり、少年の福祉を害する犯罪の被害に遭ったりする可能性が高いものの増加が目立っており、これらの問題行為を早期に把握し、非行の芽を摘み取っておくことが、今後の少年非行対策として重要であると考えられる。

図4-2 不良行為少年の態様別状況(昭和59年)

表4-2 不良行為少年の数の推移(昭和53~59年)

ウ 依然として中学生が非行の主役
 59年に刑法犯で補導した少年の年齢別状況は、図4-3のとおりで、14歳が5万2,132人(21.1%)で最も多く、次いで15歳(20.6%)、16歳(16.5%)の順となっているが、前年に比べ14歳5,048人(8.8%)、15歳は1,934人(3.6%)とそれぞれ減少したのに対し、16歳は2,786人(7.3%)、17歳は677人(3.2%)とそれぞれ増加しており、ここ数年続いてきた「14歳が逐年増加、17~19歳は年々減少」という傾向に若干の変化がみられる。
 59年に刑法犯で補導した少年の学職別状況は、図4-4のとおりで、中学生が11万8,745人と刑法犯で補導した少年全体の47.8%を占めて最も多く、次いで高校生(24.5%)の順となっており、依然として中学生が少年非行の主役となっている。これを前年と比べると、中学生と高校生は減少したが、無職少年が2,173人(10.4%)と大幅に増加しているのが目立つ。

図4-3 刑法犯で補導した少年の年齢別状況(昭和59年)

図4-4 刑法犯で補導した少年の学職別状況(昭和59年)

エ 凶悪犯と粗暴犯は減少
 59年の刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況は、表4-3のとおりで、窃盗犯が19万420人と全体の76.6%を占めて最も多く、次いで粗暴犯(10.9%)、占有離脱物横領(8.4%)の順となっている。 これを前年と比べると、占有離脱物横領だけが増加した。
 凶悪犯の罪種別状況は、表4-4のとおりで、前年に比べ強姦(かん)を除いて減少し、特に、強盗は98人(12.4%)と大幅に減少した。  粗暴犯の罪種別状況は、表4-5のとおりで、前年に比べ傷害を除いて減少した。

表4-3 刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況(昭和58、59年)

表4-4 凶悪犯で補導した少年の罪種別状況(昭和58、59年)

表4-5 粗暴犯で補導した少年の罪種別状況(昭和58、59年)

 窃盗犯の手口別状況は、表4-6のとおりで、万引きが34.8%を占めて最も多い。これを前年と比べると、万引きは大幅に減少したのに対し、自転車盗、オートバイ盗が増加しているのが目立つ。

表4-6 窃盗犯で補導した少年の手口別状況(昭和58、59年)

(2)少年非行の諸形態
ア 暴力非行
(ア)校内暴力等
 昭和59年に警察が処理した校内暴力事件の状況は、表4-7のとおりである。処理件数は1,683件で、前年に比べ442件(20.8%)と大幅に減少した。
 校内暴力事件のうち特に問題の多い対教師暴力事件(教師に対する暴力事件をいう。 以下同じ。)の処理件数は742件で、前年に比べ187件(20.1%)と大幅に減少した。しかし、対教師暴力事件の推移は、図4-5のとおりで、59年は53年の約4倍となっており、中学校における校内暴力事件については、今後ともその推移に注意を払う必要がある。
 校内暴力事件で送致した少年の保護者の養育態度は、表4-8のとお

表4-7 警察が処理した校内暴力事件の状況(昭和58、59年)

表4-8 保護者の養育態度の状況(昭和59年)

表4-9 学業成績の状況(昭和59年)

りで、放任が60.4%を占めて最も多く、学業成績は、表4-9のとおりで、学業成績が下位の生徒が72.3%を占めている。これらの傾向は、対教師暴力事件について特に顕著である。

 図4-5 対教師暴力事件の推移(昭和53~59年)

 校内暴力事件の多くは、番長を中心とする校内粗暴集団等の非行集団によって引き起こされてきたが、警察による暴力的非行集団の解体補導活動や関係機関による諸対策が効果を挙げ始め、ようやくその状況にも変化がみられるようになった。しかし、依然として、一部で凶悪、粗暴な内容の犯行がみられる。
〔事例〕 中学3年生3人は、生徒指導担当教師から生活態度について注意されたことなどから同教師に反感を抱き、約40分にわたり同教師を追い回し、殴るけるの暴行を加えて、全治1箇月を要する傷害を負わせた(佐賀)。
 また、最近学校内においては、生徒間のいじめに起因する事案が多発し、特に、いじめの仕返しを動機とする殺人、放火等の凶悪な事件やいじめを原因とする自殺が発生するなど、重大な社会問題となっている。59年に警察が少年相談等を通じて把握したいじめに起因する事案は2,424件で、このうち、531件を事件として処理し、1,920人の少年について送致、通告等の措置を採った。 また、これらの少年の生徒別状況は、表4-10のとおりで、中学生が全体の79.5%を占めて最も多い。今後は、これらの事件の背景を詳細に分析するほか、学校や家庭等と緊密に連携しながら、あらゆる機会を通じて、いじめをできるだけ早期に把握するとともに、いじめを原因とする事案の未然防止に積極的に努める必要がある。

表4-10 いじめに起因する事件で補導した少年の生徒別状況(昭和59年)

〔事例1〕 高校2年生2人は、同級生から理由もなく殴られたり、自転車を盗むよう強制されるなどしていじめられたため、両者共謀して同人を呼び出し、用意した金づちでその頭部を数十回殴打した上、川に投げ込み溺(でき)死させた(大阪)。
〔事例2〕 女子中学生(14)は、同級生8人からしつこくいじめられ、先生に相談したところ、「告げ口をした」として殴るけるの暴行を受けた上、猥褻(わいせつ)な行為をされた(愛知)。
(イ)家庭内暴力
 59年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力を行った少年の数は1,131人で、前年に比べ266人(19.0%)と大幅に減少した。
 家庭内暴力の対象は、表4-11のとおりで、母親が62.0%と最も多い。また、家庭内暴力の原因、動機は、表4-12のとおりで、「しつけ等親の態度に反発して」が53.3%と最も多い。

表4-11 家庭内暴力の対象別状況(昭和59年)

表4-12 家庭内暴力の原因、動機別状況(昭和59年)

(ウ)暴走族
 59年の暴走族少年の補導状況は、表4-13のとおりであり、犯罪少年として補導された少年の数は4,034人で、前年に比べ537人(11.7%)と大幅に減少した。これは、地域ぐるみの暴走族対策が定着し、効果を挙げているためとみられるが、暴走族による凶悪、粗暴な事件も依然として発生している。
〔事例〕 暴走族「クェッション」の構成員106人は、3~5人のグループとなり、それぞれ盛り場等で女子中学生を「ドライブに行こう」などと甘言を用いて誘い、車で自宅や会社の倉庫等に連れ込み、輪姦(かん)した(大阪)。

表4-13 暴走族少年の補導状況(昭和58、59年)

イ 初発型非行
 万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の初発型非行は、動機が単純であり、問題性も比較的小さいが、暴力非行、性非行、薬物乱用等の本格的な非行へ移行する危険性が高い非行形態であると考えられる。
 59年に初発型非行で補導した少年の数は15万8,746人と、刑法犯で補導した少年全体の63.9%を占めている。また、過去10年間における初発型非行で補導した少年の数の推移は、図4-6のとおりで、54年以降の急増傾向に歯止めがかかっている。これは、警察が関係機関と連携しながら行ってきた初発型非行抑止のための対策が効果を挙げたためであると考えられる。なかでも、大量販売店に対する保安体制の強化、保安設備の整備についての要請が浸透し、万引きが大幅に減少した。

図4-6 過去10年間における初発型非行の推移(昭和50~59年)

ウ 薬物乱用
(ア)シンナー等の乱用
 59年にシンナー等の乱用で補導した少年の数は4万6,636人で、前年に比べ4,747人(9.2%)減少した。学職別にみると、無職少年が1万5,119人(32.4%)で最も多く、次いで有職少年(30.3%)、中学生(24.4%)の順となっている。59年にシンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況は、表4-14のとおりである。  乱用薬物の種類をみると、シンナーが全体の68.2%を占めて最も多く、次いでトルエン(12.7%)、接着剤(12.5%)の順となっている。

表4-14 シンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況(昭和58、59年)

 59年にシンナー等の知情販売等(注)で取り締まった人員は、表4-15のとおりで、1,904人と前年に比べ289人(17.9%)と大幅に増加した。内訳をみると、取扱業者が減少したのに対し、取扱業者以外が378人(31.9%)と大幅に増加し、取扱業者の間で自主規制が徹底してきている一方で、暴力団、暴走族等によるシンナー等の供給が一層拡大していることがうかがわれる。
(注) シンナー等の知情販売等とは、毒物及び劇物取締法違反のうち、少年等が乱用することを知って、トルエン、シンナー、接着剤、塗料、充てん料を販売し、又は授与する行為(トルエンについては、無登録で、販売し、又は授与する行為も含む。)をいう。
(イ)覚せい剤の乱用
 59年に覚せい剤の乱用で補導した少年の数は2,552人で、前年に比べ

表4-15 シンナー等の知情販売等の取締り状況(昭和58、59年)

115人(4.3%)減少した。覚せい剤の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況は、表4-16のとおりで、学職別にみると、無職少年が1,528人(59.9%)と最も多く、次いで有職少年(33.7%)、学生・生徒(6.5%)の順となっている。 また、男女別にみると、女子の割合は39.6%となっているが、中学生、高校生では、女子の占める割合がそれぞれ71.7%、71.8%と極めて高いことが注目される。

表4-16 覚せい剤乱用少年の学職別、男女別状況(昭和58、59年)

エ 女子の性非行
 59年に性非行で補導した女子(注)は9,813人で、前年に比べ137人(1.4%)増加した。過去9年間の性非行で補導した女子の数の推移は、表4-17のとおりで、52年以降一貫して増加傾向にあり、59年は過去最高を記録した。
(注) 性非行で補導した女子とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫(いん)行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件、刑法上の淫行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年、不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

表4-17 性非行で補導した女子の数の推移(昭和51~59年)

 学職別にみると、表4-18のとおりで、無職少年が最も多いが、中学生と高校生で過半数を占めている。

表4-18 性非行で補導した女子の学職別状況(昭和58、59年)

 性非行のきっかけ、動機別状況は、表4-19のとおりで、きっかけについてみると、「自らすすんで」が全体の6割以上を占めており、動機についてみると、「興味(好奇心)から」が4,314人(44.0%)で最も多いが、前年に比べると、「遊ぶ金が欲しくて」が388人(25.4%)と大幅に増加しており、最近の社会一般の享楽的風潮や性の商品化傾向が悪影響を及ぼし、性にまつわる問題が一層深刻化していることがうかがわれる。

表4-19 女子の性非行のきっかけ、動機別状況(昭和58、59年)

〔事例〕 喫茶店をたまり場にしていた女子高校生(16)ら8人は、1人が喫茶店の客に誘惑され、肉体関係を持ち、金をもらったことをきっかけとして、積極的に売春の相手を求めたり、相互に客を紹介し合って売春し、それによって得た金を遊興費に充てていた(京都)。
オ その他の問題行為
(ア)家出
 59年に警察が発見し、保護した家出少年は5万1,033人で、前年に比べ5,480人(9.7%)減少した。その学職別、男女別状況は、表4-20のとおりで、学職別では、中学生が40.4%を占めて最も多く、男女別では、女子が2万7,701人(54.3%)と過半数を占めており、ここ数年この傾向が続いている。
 59年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した家出少年のうち、8人に1人(男子の場合は6人に1人)が非行に走り、18人に1人(女子の場合は11人に1人)が犯罪の被害者となっている。

表4-20 家出少年の学職別、男女別状況(昭和59年)

(イ)自殺
 59年に警察が把握した少年の自殺者は572人で、前年に比べ85人(12.9%)と大幅に減少し、戦後最低を記録した。これを男女別にみると、男子が394人(68.9%)、女子が178人(31.1%)となっている。また、学職別にみると、表4-21のとおりで、高校生が158人(27.6%)と最も多い。さらに、これを原因、動機別にみると、学業不振、入試苦等の学校問題が124人(21.7%)と最も多く、次いで家庭問題、異性問題、病苦等の順となっている。

表4-21 自殺した少年の学職別状況(昭和58、59年)

(3) 少年を取り巻く社会環境の現状
(ア) 少年のたまり場の状況
 昭和59年7月の「青少年を非行からまもる全国強調月間」中に全国で把握された少年のたまり場(注)となっている場所は、表4-22のとおりで、ゲームセンターが18.3%と最も多く、次いでスナック、喫茶店(18.1%)の順となっている。たまり場は、非行集団の形成の場を提供しており、また、このような場所において誘惑を受けて少年の福祉を害する犯罪の被害者となる少年も多い。
(注) たまり場とは、少年が日常的にたむろし、喫煙、飲酒、不純異性交遊等の不良行為を繰り返し行っている場所をいう。
〔事例1〕 中学1年生8人は、ゲームセンターをたまり場にしてテレビゲーム等に夢中になっていたが、月々のこづかいではゲーム代が足りなくなったため、盗みを計画し、100件以上に及ぶ空き巣を重ね、盗んだ金品をゲーム代に充てていた(警視庁)。
〔事例2〕 喫茶店をたまり場にしていた女子高校生(16)4人は、こづかいの不足等について話しているうち、客の1人から「友人と付き合ってみたら」と誘われ、これに応じて売春を重ねていた(秋田)。

表4-22 少年のたまり場の状況(昭和59年7月)

イ 少年の福祉を害する犯罪の状況
 売春や人身売買等の少年の福祉を害する犯罪は、少年の非行を助長する原因となり、また、少年の心身に有害な影響を与え、少年の健全な育成に深刻な影響を及ぼしている。
 59年の少年の福祉を害する犯罪の被害を受けた少年(以下「福祉犯被害少年」という。)は2万1,560人で、前年に比べ2,053人(10.5%)増加した。過去10年間の福祉犯被害少年の数の推移は、表4-23のとおりで、54年以降一貫して増加し続けている。

表4-23 福祉犯被害少年の数の推移(昭和50~59年)

 59年の福祉犯被害少年の男女別、学職別状況は、表4-24のとおりである。これを男女別にみると、女子が男子をはるかに上回っている。また、学職別にみると、無職少年が31.6%と最も多いが、次いで高校生(25.7%)、有職少年(22.1%)の順となっている。福祉犯被害少年は、その後、売春や覚せい剤の乱用等に陥ることが多い。

表4-24 福祉犯被害少年の男女別、学職別状況(昭和58、59年)

〔事例〕 暴力団住吉連合会組員6人は、組の資金を得るため、人身売買を企て、歌舞伎町をはいかいする家出少女ら20人を誘惑して肉体関係を結び手なづけた上、1人150万円の前借金名下に芸者置屋に売り飛ばし、3,000万円の不法な利益を得ていた(警視庁)。
ウ 有害雑誌等の状況
 性を露骨に表現したり、暴力的表現を誇張したりするビニール本等の出版物や映画等は、少年の性的好奇心や残虐性を刺激し、その健全な育成の上から問題が多く、これらの影響を受けた少年の性犯罪、女子の性非行等の事例が目立っている。
 46都道府県で制定されている青少年保護育成条例は、青少年に有害なものとして知事が指定した興行、図書、広告物等を青少年(18歳未満の者)に観覧、閲覧させたり、販売、掲示したりすることを禁止しており、59年にこれらの条例に基づき有害図書等として指定された件数は、表4-25のとおりである。

表4-25 青少年保護育成条例による図書等の有害指定件数(昭和59年)

〔事例1〕 高校1年生(16)は、書店や自動販売機で販売されているポルノ雑誌を読んだことから、女性の下着等に興味を持つようになり、下着盗を繰り返していたが次第にエスカレートし、下校途中の女子中学生を刃物で脅して強姦(かん)したのをはじめ、20数件の強姦(かん)致 傷、強姦(かん)未遂事件を起こしていた(愛媛)。
〔事例2〕 無職少女(15)は、少女雑誌に掲載された売春の体験記事を読み、これに刺激されて地下鉄駅構内に立ち、1回1~2万円で10回の売春を繰り返していた(大阪)。

2 少年非行の防止と少年の健全な育成のための施策

 警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成に資するため、非行に陥った少年を早期に発見して適切な処遇を行う少年補導活動、少年の問題行動を早期に発見して非行を未然に防止するための少年相談活動、少年自身の規範意識を啓発して少年非行を未然に抑止するための少年の社会参加活動及び少年柔剣道活動、少年を非行からまもるパイロット地区活動、少年を取り巻く社会環境の整備のための活動等を、関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアと緊密に連携しながら推進している。これらの活動の成果は、最近徐々に現れてきている。
(1)関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアとの連携
 少年の健全な育成のための施策を効果的に推進していくためには、警察が、関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアと密接に連携し、少年の健全な育成についての社会全体の気運を盛り上げることが必要である。
 児童、生徒の非行や校内暴力を防止するためには学校と密接に連携する必要があるため、全国の中学校、高校の約9割に当たる約4万校の参加を得て、約2,400組織の学校警察連絡協議会が結成されている。また、警察と職場とが緊密に連携して、勤労少年の非行を防止し、その健全な育成に努めることを目的として、全国で約1,000組織の職場警察連絡協議会が結成されている。
 これらの関係機関、関係団体との連携のほか、地域社会と一体となった総合的な非行防止活動を進めるため、「青少年を非行からまもる全国強調月間」が昭和54年以降行われ、定着した運動となっている。
 さらに、警察の委嘱を受けて活動している民間ボランティアには、少年補導員、少年警察協助員がある。少年補導員は、全国で約5万4,000人が委嘱され、地域における一般的な非行防止活動に従事し、少年警察協助員は、全国で約1,000人が委嘱され、非行集団の解体補導活動に従事している。
 また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律により、少年を有害な風俗環境の影響からまもるために少年の補導、風俗営業者等への協力要請等の活動を行う少年指導委員が、都道府県公安委員会の委嘱を受けて60年から活動を始めることとなっている。
(注) 少年補導員、少年警察協助員の人員、学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会の組織数は、59年4月15日現在のものである。

(2)少年補導活動
ア 非行少年等の早期発見とその適切な処遇
 警察では、非行少年等をできるだけ早期に発見するため、日ごろから、少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、盛り場、公園、駅等非行が行われやすい場所で街頭補導を実施している。特に、少年が非行に陥る可能性が高い春季、夏季、年末年始には、少年補導の特別月間を設けるなど、街頭補導を強化している。
 非行少年を発見したときは、保護者、教師等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための少年の処遇についての意見を付して関係機関に送致、通告するなどの措置を採っている。また、不良行為少年については、警察官等がその場で適切な注意、助言を与えたり、必要がある場合には、保護者、教師等に連絡して指導や助言を行っているが、このような少年を善導するためには、地域ぐるみのきめ細かい対処が必要であり、少年補導員等の地域の民間ボランティアによる適切な助言や指導が幅広く行われている。
イ 非行集団の解体補導
 警察では、日ごろから、街頭補導、少年相談等の活動を通じて、非行少年等のたまり場の実態を把握するとともに、学校等との緊密な連携を通じて、非行集団に関する情報の収集に努めている。また、非行少年の取調べに当たっては、非行集団との関係を追求してその実態を解明し、関連が認められる場合には、非行集団からの離脱を促すとともに、保護者、教師、少年警察協助員等の協力を得ながら、非行集団の解体と再非行の防止に努めている。
(3)少年相談活動
 警察では、少年の非行、自殺、家出等を未然に防止し、また、その徴候を早期に発見するために、少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを打ち明けられない少年や子供の非行等の問題で悩んでいる保護者等からの相談を受け、少年係の警察官、婦人補導員、少年心理の専門家等が適切な指導や助言を行っている。また、国民がこの制度をより簡便に利用できるように、全国の都道府県警察では、ヤング・テレフォン・コーナー等の名称で電話による相談業務を行っている。
 昭和59年に警察が受理した少年相談の状況は、表4-26のとおりで、

表4-26 警察が受理した少年相談の状況(昭和59年)

保護者等からの相談が全体の62.7%を占め、少年からの相談を上回っている。相談を寄せた少年を学職別にみると、中学生、高校生が多く、また、女子が男子より多い。
 少年相談の内容は、図4-7のとおりで、非行、交友、学校、健康等様々な問題にわたっている。なかでも、学校内でのいじめの多発に伴い、いじめに関する相談が数多く寄せられており、少年がいじめの事実を関係者に打ち明けられずに思い余って相談する事例も多い。

図4-7 少年相談の内容(昭和59年)

〔事例1〕 女子中学生(15)から、「クラス内でいじめられ、友人や教師も助けてくれない。周囲の人間が信じられなくなり、学校にも行っていない。」と相談があった。そこで、相談員が3箇月以上の間に14回にわたって少女に面接し、両親と一体となって継続的に指導、助言を行った結果、少女はいじめグループと仲直りし、再び登校するようになった(福島)。
〔事例2〕 女子高校生(16)の母親から、「娘は、高校の受験期ころから親に反抗的となり、高校に入って無断外泊を繰り返すようになっている」と相談があった。そこで、母親の過干渉が一因であることの指摘により、母親が態度を改めたところ、少女も次第に落ち着きを取り戻し、新しいクラブに加入したことをきっかけとして、無断外泊もなくなった(埼玉)。
(4)少年の規範意識の啓発活動
 警察では、少年非行の解決に資するため、少年に社会や集団の一員としての自覚や克己心をはぐくませ、その規範意識を啓発する目的で、次のような活動を行っている。
ア 少年の社会参加活動
 警察では、少年に主体的に社会とのかかわりを持たせることによって、社会を構成する一員としての自覚を促すため、関係機関、関係団体、地域社会と協力しながら、明るいまちづくり運動、社会奉仕活動、生産体験活動、文化伝承活動等の少年の社会参加活動を推進している。
イ 少年柔剣道活動
 少年の克己心や自立心をはぐくむとともに、少年に社会的ルールを身に付けさせるため、警察では、警察署の道場を開放して地域の少年たちに柔道や剣道の指導を行うなど、各種の体育・スポーツ活動を幅広く推進している。昭和59年には、これらの活動は1,000以上の警察署において、約12万人の少年を対象として実施されている。
ウ 少年を非行からまもるパイロット地区活動
 警察では、少年を非行からまもる必要性の高い地域を「少年を非行からまもるパイロット地区」に指定している。59年度に指定された全国200箇所のパイロット地区では、家庭、学校、地域社会の協力の下に、主に小学校高学年と中学生を対象にして、非行防止ハンドブックを利用し、非行防止のための教室や座談会を開催している。
 59年度には、非行防止教室は延べ約25万人の少年の参加の下に約1,700回、非行防止座談会は延べ約23万人の保護者等の参加の下に約2,900回それぞれ開催された。

(5)少年を取り巻く社会環境の整備
ア 有害環境浄化のための法制の整備
 最近の行き過ぎた営利主義や社会一般の享楽的風潮を背景に、各種の享楽的、娯楽的営業が増加し、心身共に未成熟な少年の非行を誘発、助長するとともに、その健全な育成を著しく阻害している。
 このため、有害な風俗環境の浄化、少年の健全な育成を阻害する行為の防止等を目的とする風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律が昭和60年2月13日から施行され、少年のたまり場となりやすいゲームセンター等に対して一定の規制が加えられるとともに、少年指導委員の制度が新設されることとなっている。
イ 地域ぐるみの環境浄化活動
 警察では、少年を取り巻く社会環境を浄化するため、環境浄化重点地区活動を実施しているが、59年度には、全国で312地区を「少年を守る環境浄化重点地区」に指定した。これらの地区では、地域住民や民間ボランティアが中心となって、有害図書自動販売機の撤去運動、白ポスト運動、環境浄化住民大会、「少年を守る店」の設定等の環境浄化活動等を推進している。
ウ 関係業界への協力要請
 警察では、57年以降、「少年非行の総量抑制対策」に基づき、初発型非行を行いやすくしている環境を是正するため、デパート、スーパー・マーケット等に対して商品の陳列方法の改善や保安体制の強化等を要請するほか、自治体、駅等に対して駐車場等の適切な管理を要請している。
 また、最近効果を挙げてきているシンナー等の取扱業者による自主規制を徹底するため、警察では、業者に対して自主規制の一層の徹底を要請するほか、出版関係業界との懇談会を通じて、少年に有害な図書等の出版、販売を自粛するよう要請している。
エ 法令による取締り
(ア)風俗を害する犯罪の取締り
 善良の風俗を害する犯罪は、少年の健全な育成に悪影響を与えている。警察では、刑法、風俗営業等取締法、売春防止法等の法令により、積極的な取締りに努めている。
(イ)少年の福祉を害する犯罪の取締り
 売春や人身売買等の少年の福祉を害する犯罪は、少年の健全な育成を著しく阻害していることから、警察では、その積極的な取締りに努めている。59年の少年の福祉を害する犯罪の検挙人員は1万5,809人で、前年に比べ1,254人(8.6%)増加した。過去10年間の検挙人員の推移は、表4-27のとおりで、59年は、50年の2.2倍となっている。

表4-27 少年の福祉を害する犯罪の検挙人員の推移(昭和50~59年)

 法令別にみると、表4-28のとおりで、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為の禁止、有害図書の販売の制限等)が51.2%と最も多く、次いで、風俗営業等取締法違反(年少者に接客させる行為の禁止等)、児童福祉法違反(児童に淫(いん)行させる行為の禁止等)の順となっているが、前年に比べ職業安定法違反(有害職業紹介等)が94人(70.7%)、売春防止法違反(管理売春等)が287人(69.8%)とそれぞれ激増していることが注目される。

表4-28 少年の福祉を害する犯罪の法令別検挙状況(昭和58、59年)

 59年に少年の福祉を害する犯罪で検挙した暴力団員の数は1,597人で、特に、最も悪質とされる「人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」、「淫(いん)行をさせる行為」については、暴力団員の占める割合が高く、悪質な内容のものが多い。


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