第6節 ハイテクノロジー時代の警察

 警察における科学技術は、犯罪捜査、交通管理、災害警備等警察活動の不可欠の一部として、その迅速性、確実性を左右するものであり、国民生活の安全確保にとって極めて重要な役割を果たしている。
 警視庁を見学に訪れた人1,119人に対して行ったアンケートの結果は、図1-2のとおりで、警察が現在、科学技術を十分に活用していると思っている人は751人(67.1%)であり、現段階における警察の科学技術の活用状況は、国民からかなりの程度評価されていることが分かる。
 しかし、国民は、警察における現在の科学技術の活用状況について必ずしも満足しているものではなく、このアンケートでも、警察は科学技術を今後より一層活用する必要があると思う人が968人(86.5%)いるなど、国民は、警察が科学技術をより一層充実させることを望んでいるも

図1-2 アンケートの結果(昭和59年12月~60年2月)

のと思われる。
 社会の技術革新が進む一方、犯罪をはじめとする治安事象が複雑化の一途をたどり、より迅速、的確な警察の対応が要求される現在、警察における科学技術活用レベルは必ずしも十分とは言えない面があり、今後更にその向上を図る必要がある。
 このような観点から、今後、警察は、次のような課題に重点的に取り組むこととしている。

1 ハイテクノロジーの導入

 近年、エレクトロニクス、光技術、新素材、メカトロニクス等のハイテクノロジーの進歩には目覚ましいものがあり、これら社会における研究開発の成果を警察活動により積極的に取り入れていく必要がある。これらの技術を警察活動に最適なものとして実用化していくためには、警察自らが応用化研究を行うことはもとより、国公立の研究機関、大学及び民間機関との共同研究や研究委託等の民間活力の導入の手法を活用することが重要である。

2 総合的技術開発体制の充実

 警察が必要とする科学技術の中には、犯罪捜査、鑑識をはじめ業務の特殊性から一般社会の技術開発のみには期待できず、警察独自で研究、開発しなければならない分野も多い。従来は、それらの科学技術について、警察各分野の個別のニーズごとに、個々に計画を策定し、開発、導入を行ってきたところであるが、今日、この方式では限界が生じている。
 今後は、独自に開発しなければならない技術分野を中心として、長期的、総合的な目標の下に計画的な開発、導入を行っていくため、従前の研究開発部門を統合した新たな組織を設けることを含め、技術開発体制の強化を図る必要がある。
 また、人材の面では、通信、情報処理、鑑識等の各分野にわたり、多数の技術者、研究者が活動しており、これらの専門家が警察における科学技術活用の支えとなっている。今後とも、警察が先端技術の進歩に対応していくためには、更にこれら技術者、研究者の育成を図っていく必要がある。

3 高度情報化社会と警察の対応

 我が国の社会は、情報処理技術と電気通信技術との有機的結合による情報通信システムの一般社会への普及に伴い、高度情報化社会へと移行しつつある。高度情報化は、国民生活に大きな利便をもたらすものであるが、その反面、事故や災害による社会的影響を今までより広い範囲に及ぼし、また、新しい手段を利用した犯罪の土壌となるおそれも生じさせるものである。高度情報化に伴う治安上の長期的変化を正確に予測することは困難であるが、ネットワーク化したコンピュータ・システムに係る犯罪、事故、ビデオテックス等を利用した通信販売の普及による詐欺、盗聴等によるデータの窃取等新しい形態の事件、事故が増加するであろうと予想される。
 警察では、これらの犯罪、事故を防止するため必要な知識や技術について研究した成果を国民に提供し、国民の自主的で実効性のある安全対策を促進することとしている。このため、現在、情報通信システム全般の安全対策について、法制面の整備を含めて研究しているところである。


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