第4節 情報通信ネットワークの充実

 警察の情報通信ネットワークは、警察活動における指揮、報告、連絡等の情報伝達手段として、警察運営上の神経系統とも言うべき重要な役割を果たしており、行政機関における通信機構としては、我が国で最大の規模のものとなっている。
 近年、犯罪をはじめとする治安事象の広域化、スピード化に伴い、都道府県警察の緊密な連携、協力による警察活動を展開するため、全国的な規模での情報連絡の必要性が一層高まっている。また、警察活動に関する情報は大量化し、かつ、音声、文字、映像等様々な形の情報を伝送する要請が増大している。
 このような中で、警察では、第一線警察活動の迅速性、一体性を確保するため、各種の情報通信システムの高度化を計画的に進めている。

1 日常の警察運営を支える基幹通信

(1)全国を結ぶ警察通信網
 全国の警察機関を結ぶ通信回線は、警察自営の無線多重回線と、日本電信電話株式会社との契約により使用している専用回線から成っており、独自の警察電話のほか、ファクシミリ等の画像通信、データ通信等に用いられている。

 警察自営の無線多重回線は、警察庁、各管区警察局及び各都道府県警察本部(沖縄を除く。)相互間のほか、都道府県警察本部と警察署間の一部にも設けられている。災害等による通信途絶と通信量の増大に備えるため、これらの伝送路の2ルート化を進めており、警察庁、各管区警察局及び北海道警察本部相互間については既に完了している。
 また、将来、大幅な増加が予想されるデータ通信やファクシミリ通信に適したPCM方式(注)を採用して、設備の更新を進めている。昭和59年度までに、警察庁と各管区警察局相互間の第1ルート等がPCM方式となっている。引き続き他の区間にもこれを整備していくことが必要である。
(注) PCM (Pulse Code Modulation)方式とは、電話やファクシミリ等の信号をデジタル符号に変えて、大量、多様の情報を効率的に伝送する方式である。
 今後は、複雑化する治安事象に対し、より的確に対処するため、多様な情報を生の形で迅速に伝達できるようにする必要がある。このため、警察電話については、通話と同時に文字や図形も伝送できる高機能の装置の研究、開発を図ることとしている。また、ファクシミリのうち写真電送については、色彩を忠実に再現できるカラー写真電送装置の開発を進めていくこととしている。
(2) 世界を結ぶ国際通信
 警察における国際間の通信網として、ICPO(国際刑事警察機構)の短波無線電信回線網がある。警察庁は、東南アジア地域通信網の地域中央局として東京無線局を設置し、パリ中央局との通信を受け持つとともに、地域内の無線局8局との交信を行っているほか、地域内各国に対する技術指導に当たっている。東京無線局の昭和59年中の取扱電報数は約1万2,000通で、国際捜査協力の進展に伴い、過去10年間で4倍に近い伸びを示している。
 このほか、ICPOでは、国際電話回線を利用して、世界106箇所との間でテレタイプ通信を、世界24箇所との間で写真電送を行っている。

2 災害時等に活躍する通信

 災害、重大事故等の発生時において、警察通信は、警察をはじめ関係機関の活動を円滑にするため、極めて重要な役割を担っている。したがって、このような場合には、平常時の数倍の情報量を伝達できる警察通信の確保が不可欠であり、特に、通信手段の皆無又は不十分な場所で災害等が発生した場合には、応急に通信施設を開設する必要がある。 また、万一、通信が途絶した場合には、これを早急に復旧させなければならない。
 災害時等の通信を確保するため設置された機動通信隊は、警察通信職員で構成され、応急用通信資機材等を常備し、迅速、的確に応急通信施設を開設できる体制を整えている。
(1)動く通信基地、非常用通信車と移動多重無線電話車
 非常用通信車は、災害等により警察通信施設が損壊した場合に通信機能を確保する目的で開発され、バス型車両に多重無線通信装置、電子交換機、非常用発動発電機等が装備されている。非常用通信車の電子交換機には48台の電話機を接続することができ、相互通話はもとより、全国の警察機関とダイヤル即時通話が可能である。
 現在、非常用通信車は、北海道警察本部、東北、関東、中部、近畿及び九州の各管区警察局にそれぞれ1台ずつ配備されているが、災害時等に迅速な対応ができるようにするため、更に整備を進めていく必要がある。

 移動多重無線電話車は、バス型車両に多重無線通信装置を装備し、現場において3台の電話機を応急的に使用できるものである。これは、すべての都道府県警察に配備され、緊急事案の発生時に現場活動に欠かせない通信手段として多用されている。
事例〕 11月16日午前11時50分、世田谷電話局の地下とう道内において火災事故が発生し、同局の有線回線約8万9,000回線が不通となり、一般加入電話はもとより、官公庁の通信や金融機関、企業等のオンラインシステムも不通となった。
 警察通信施設では、警視庁から世田谷、成城両警察署を結ぶ電話回線をはじめ、世田谷警察署と派出所等を結ぶ回線のすべてが不通となったほか、世田谷電話局管内の都民と警視庁を結ぶ110番回線も全面的に不通となった。
 これら通信が途絶した警察署、派出所、駐在所への対策として、警察では、非常用通信車、移動多重無線電話車を派遣するとともに、応急無線電話、応急架設有線電話等を臨時に設置して、同日午後6時45分、警視庁~世田谷警察署の回線を確保したのをはじめ、いち早く警察の重要通信回線を確保した(警視庁)。

(2)災害時等の切り札、衛星通信
 衛星通信は、地上の災害の影響を受けずに国内の任意の地点間の通信が確保でき、災害時等における警察活動に最も適した通信手段である。
 警察では、昭和58年6月から通信衛星さくら2号(CS-2)を利用して、衛星通信システムを運用し、電話をはじめ、テレビやファクシミリ等の画像通信に活用している。このシステムは、警察庁の固定地上局設備と可搬形地上局設備とから構成されており、事案の発生に対応して都道府県警察本部や災害現場等に配置する可搬形地上局設備は、現在、2台配備されている。

 今後、可搬形地上局設備の整備を進めるとともに、その小形化、軽量化を図り、テレビ中継車や現地指揮本部等に設置することにより、災害発生時等の現場出動を一層容易にし、対応措置の迅速化を図る必要がある。
〔事例〕 9月1日の総合防災訓練において、警察では、静岡市内の安倍川河川敷に、警察庁の保有する可搬形地上局設備を運搬し、通信衛星さくら2号(CS-2)を使用して、警察庁と静岡県警察本部へ訓練状況を映したテレビ画像を伝送する訓練を行った(静岡)。
(3)活動用テレビ
 近年、全国的に警察活動におけるテレビ利用の必要性が高まっている。警察が使用しているテレビには、携帯形テレビ、ヘリコプター・テレビ等の無線テレビと有線テレビとがある。
 ヘリコプター・テレビは、大規模な災害、重大事故等における現場の大局的な状況を警備本部等で視覚的にとらえることができ、総合的な判断による適切な対策をとる上で不可欠なものとなっている。また、機動性を必要とする事案や有線回線の設定が困難な場合に対処するため、無線伝送装置を装備した無線テレビ中継車が活用されている。
 今後、警察活動の機動性を一層高めるため、すべてのヘリコプターにテレビカメラを搭載するよう、整備を進めていく必要がある。
(4)活動用統合通信システム
 災害等の重大事案に当たって、警察庁が現地の状況を正確に把握し、総合的な分析、判断に基づき、都道府県警察に対して必要な指導、調整を行うことができるようにするため、活動用統合通信システムの開発を進め、昭和60年度から導入を始めることとしている。
 このシステムは、警察庁の中央装置(コンピュータ、大型表示板及び音声、文字、画像を同時に伝送することができる高機能端末装置で構成)と、管区警察局及び都道府県警察の高機能端末装置から成り、都道府県警察の端末装置から被災地の略図、被害状況、警察官の配備状況等の現場状況の報告が入力される。そして、
○ 警察庁の中央装置では、これを自動的に集計、記録し、この集 計、記録されたデータとその他のあらかじめ入力されているデータを大型表示板に表示する
○ 管区警察局及び他の都道府県警察の高機能端末装置のディスプレーにこれらのデータを表示する
ものである。
 このシステムを導入することにより、被災地の警察に対する他の都道府県警察からの支援が円滑に運営できるようになるなど、災害警備活動等をより迅速、適切に実施することができる。


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