第8章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位とし、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接執行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員には、警察官、皇官護衛官及び事務職員、技術職員等の一般職員があり、これらの職員が一体となって警察責務の遂行に当たっている。
 また、婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員等の婦人職員は、交通安全教育、駐車違反の取締り、少年補導、要人警護、犯罪捜査等多方面の業務に従事している。
(1) 定員
 警察職員の定員は、昭和58年12月末現在、総数25万3,022人で、その内訳は表8-1のとおりである。

表8-1 警察職員の定員(昭和58年)

 58年度には、都道府県の警察官が1,024人増員され、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で551人となった。これを欧米諸国と比較すると、図8-1のとおりで、我が国の警察官の負担は著しく重いので、今後とも警察力の整備に努める必要がある。

図8-1 警察官1人当たりの負担人口の国際比較(昭和58年)

(2) 採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。昭和58年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約9万1,500人で、合格した者は約1万800人(うち、大学卒業者は約4,600人)となっており、競争率は約8.5倍であった。
(3) 教義
 警察官は、逮捕、武器使用等の強い実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に処理しなければならない場合も多いので、その職務執行の適正を期するため一人一人の警察官に対して十分な教養訓練を行うことが必要である。このため、警察では、警察学校等において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合教養を実施しているほか、あらゆる機会を通じて各人の能力や職種に応じたきめ細かな教養を行っている。
 なかでも、採用時教養については、警察官としての職責の自覚、社会人としての健全な良識のかん養、外勤警察活動に必要な知識、技能の養成等を図るため、従来から特に力を注いできたところである。昭和55年から、人間教育を一層充実させることなどを目的として、従来の課程を再編成するとともに教養期間を延長した新しい採用時教養を導入することとしたが、58年12月末現在、学校施設等の条件の整備された25県がこれに移行している。
 また、警察官の気力、体力を養い、職務執行に必要な各種の技能を向上させるため、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練に力を入れるとともに、警察官の走力、持久力等の基礎体力を充実、向上させることを目的として全国警察駅伝大会を実施するなどの施策を推進している。
(4) 勤務
ア 制度
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであるので、24時間警戒態勢を確保するため、外勤警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で深夜勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官の勤務条件、給与、諸手当その他の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、拘束時間の短縮、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定数の是正、4週5休制の導入等が図られてきた。
イ 警察官の殉職、受傷及び協力援助者の殉難
 警察官は身の危険を顧みず職務を遂行しなければならない場合が多く、昭和58年に、職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は22人(前年比3人増)、公務により受傷した者は6,367人(前年比401人減)に上っている。これらの被災職員及びその家族に対しては、公務災害補償制度による補償をはじめ、各種の援護措置が採られており、その生活の安定が図られている。
 また、58年に現行犯逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた民間人は、死者が16人(前年比11人減)、受傷者が32人(前年比1人増)である。これらの災害を受けた人及びその家族に対しても警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護措置が採られている。
〔事例1〕 4月26日、交通機動隊の秋山登警部補(28)は、白バイ勤務中、国道158号において速度違反車両を発見し、赤色灯を点灯し追跡していたところ、工事現場から安全確認をしないで道路上に出てきた大型ミキサー車に激突し、肺挫傷、骨盤骨折等により殉職した(長野)。
〔事例2〕 8月12日、協力援助者(22)は、有田郡広川町海水浴場において、小学生が沖合20メートル付近でおぼれて助けを求めているのを目撃し、救助に向かい小学生を抱えて海岸に引き返す途中、高波にのまれてでき死した。なお、小学生は、リレー式で他の者により救助された。この殉難者の遺族には、葬祭給付約36万円と遺族給付一時金570万円が給付されている(和歌山)。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算は、約3分の2が「国費」であり、残りは都道府県警察に対する「補助金」であるが、「国費」も警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察車両やヘリコプターの購入費、機動隊庁舎や警察学校の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等都道府県警察に要する経費を含んでいる。
 昭和58年度の国の予算編成においては、悪化する財政事情を反映して、初めての「原則5パーセントのマイナス・シーリング」と前年度に引き続く「補助金等の一律カット」という厳しい方針が設定された。こうした状況ではあるが、警察庁としては、治安水準の低下が生じないよう、地方警察官の増員、コンピュータによる指紋自動識別システムの整備、推進、採用時教養の充実、ヘリコプターの増強等の施策について、重点的に措置している。58年度の国の一般会計予算は、増額補正が行われ、補正後の警察庁予算は総額1,563億7,800万円で、前年度に比べ8億2,200万円(0.53%)増加(国の一般会計予算総額は6.9%増加)し、国の一般会計予算総額の0.31%を占めている。その内容は、図8-2のとおりである。
 また、58年度の都道府県警察予算は、各都道府県の実情を加味して作成されているが、その総額は1兆8,898億800万円で、前年度予算に比べ386億1,400万円(2.1%)増加し、都道府県予算総額の6.6%を占めている。その内容は、図8-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民1人当たり1万6,800円となる。  なお、43年度以来一般会計で処理されてきた交通安全対策特別交付金を、交付税及び譲与税配付金特別会計に交通安全対策特別交付金勘定を設けて処理することとし、その合理的運用を図った。

図8-2 警察庁予算(昭和58年度補正後)

図8-3 都道府県警察予算(昭和58年度最終補正後)

3 装備

(1) 車両
 警察車両には、捜査用車、鑑識車、捜査本部用車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、パトカー、移動交番車等の外勤警察活動用車両、各種の事案に出動するための輸送用車両があり、これ以外にも、それぞれの用途に応じて使用する投光車、レスキュー車、災害対策活動車、爆発物処理車等の特殊車両がある。現有警察車両の用途別構成は、図8-4のとおりである。
 昭和58年度は、厳しい財政事情にあったことを考慮して、老朽車両の計画的更新を主眼に整備することとし、新規車両の増強整備は、57年度中に供用が開始された高速道路用の交通指導取締り車両に限り行った。

図8-4 警察車両の用途別構成(昭和58年度)

 厳しい財政事情の下ではあるが、警察事象の量的増大や質的変化に対応して、治安水準の維持向上を図るためには、今後とも、警察機動活動の中核である警察車両の整備、充実を進めることが不可欠である。当面、現有車両のうち老朽車両について、引き続き計画的に減耗更新を進めるとともに、凶悪化、広域化の度を増している各種の犯罪に対処するための捜査用車、高速交通時代に対応するための交通指導取締り用車、非行少年対策のための少年補導車、暴走族対策用車、地域に密着した活動を行うためのパトカー、災害等各種の事案を処理するための特殊車両について、重点的に増強整備を図っていく必要がある。

(2) 船舶
 警察船舶は、港湾、離島、河川、湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯や密漁あるいは公害事犯の取締り等の水上警察活動に運用されており、全長8メートルから20メートル級の警備艇及び5メートル級の公害取締り専用艇の合計201隻を保有している。
 昭和58年度は、厳しい財政事情を考慮し、老朽艇の減耗更新のみを行ったが、今後の整備に当たっては、水上警察事象の多様化に対応し、搭載装備の充実を図るとともに、船舶の大型化、高速化を図る必要がある。
(3) 航空機
 警察航空機(ヘリコプター)は、災害発生時の状況把握と被災者の救助、交通情報の収集伝達、犯人の追跡等の捜査活動、公害事犯の取締り、交通の指導、取締り等広い分野で活動している。
 昭和58年度は、大規模地震対策用として岐阜県警察に、各種警察活動用として青森県警察に小型ヘリコプター各1機を配備した。この結果、警察航空機は全国で37機となり、航空基地は25都道府県に置かれるに至った。警察航空機に対する国民の期待は、ますます高まっているところであるので、全国的な配備に向けて計画的に整備を推進する必要がある。

4 警察活動とコンピュータ

 警察庁は、コンピュータによる指名手配者等の照会業務、運転者管理業務、指紋照合業務、各種統計業務を行っている。
(1) 指名手配者等の照会業務
 警察庁のコンピュータには、指名手配者、家出人、盗難車、各種ぞう品等が登録されており、常時、第一線の警察官からの照会に対して即時に回答できる体制がとられている。昭和58年における照会件数は約4,440万件で、前年に比べ約380万件増加した。
(2) 運転者管理業
 警察庁では、運転免許に関する資料をコンピュータに登録し、これらに関する都道府県警察からの登録、照会に対して即時に処理、回答できるようにしている。これにより、都道府県警察において、運転免許証の即日交付が実施され、さらに、土曜日の午後や日曜日にも更新手続ができるようになった。
(3) コンピュータによる指紋照合業務
 警察庁では、コンピュータにより指紋の登録、照合を自動的に行う指紋自動識別システムを昭和57年度から運用している。
 58年10月から、警察が保管している指紋原紙と犯罪現場等から採取された遺留指紋との照合を開始したが、これまで未解決になっていた殺人事件の犯人がこれにより検挙されるなど犯人検挙に大きな効果を発揮している。

5 通信

(1) 警察活動と通信
ア 全国を結ぶ通信システム
 警察の通信システムは、図8-5のとおりで、全国の警察機関相互を結ぶ固定通信と機動性に富んだ第一線活動用の移動通信等からなっている。
 近年、警察事案の広域化、スピード化に伴って、都道府県間の緊密な連携協力による警察活動の展開や全国的な規模での情報交換の必要性が一層高まってきており、警察では各種の通信システムの整備を計画的に進めている。
(ア) 電話回線網の整備
 全国を結ぶ電話回線網は、警察自営の無線多重回線と日本電信電話公社との契約による専用回線で構成されている。昭和58年度には、警察庁、各管区警察局、各都道府県警察本部(沖縄を除く。)間を相互に結ぶ幹線系無線多重回線のうち、広島~福岡間をデータ通信やファクシミリ通信に有効なPCM方式(電話やファクシミリ等の信号をデジタル符号に変えて多量の情報を効率的に伝達する方式)無線多重回線に改修した。これによって、既設の東京~広島間のPCM区間と合わせて東京~福岡間がPCM方式となった。
 また、58年度には、皇宮警察本部と旭川方面本部の電話交換機を改修する

図8-5 警察の通信システム

とともに、全国68箇所の警察署等の老朽化した交換機を新型機に更新し、電話交換機能の向上を図った。
(イ) 移動警察電話の整備
 事案現場等に出動した車両から全国の各警察機関にダイヤル通話ができる移動警察電話の整備を進めているが、58年度には福島県警察ほか2県警察に整備した。これによって、26都道府県警察で移動警察電話を利用できることとなった。
(ウ) ファクシミリの整備
 警察のファクシミリ通信には、電話回線を通して文書や図表を送る模写電送と指紋や人相等の写真を送る写真電送とがある。このファクシミリ通信を行うため、模写電送装置や写真電送装置を都道府県警察本部や警察署に設置し、全国的に運用しており、その取扱枚数は年間約2,200万枚に上っている。58年度には、北海道ほか27県警察の県本部用模写電送装置と千葉県ほか3道県警察の警察署用模写電送装置を新型機に更新、整備した。これによって、全国の都道府県警察で県本部用装置が、8都道県警察で警察署用装置が新型機に更新された。
 また、遺留指紋の電送ができ、指紋自動識別システムに対応できる高分解能写真電送装置を警察庁ほか8道府県警察に整備し、その運用を開始した。
イ 通信指令システムと移動無線
(ア) 通信指令システム
 警察では、指令活動を円滑に行うため、110番の受理、パトカーの動態把握、無線指令、有線指令等の機能向上に努めており、既に6都道県警察の通信指令がコンピュータ技術を大幅に取り入れた新システムで行われている。
 58年度は、これらと同様の通信指令システムを旭川方面本部に整備し、その運用を開始した。
(イ) 移動無線
 移動無線には、パトカー、白バイ、警察船舶、ヘリコプター等の通信系と、街頭でパトロール活動中の警察官が携帯無線機でいつでも本署等と連絡が取れるように警察署ごとに構成している専用の通信系(署活系)とがある。
 58年度は、広い地域を管轄する郡部の警察署に対して広域署活系を整備することとし、117署の整備を実施した。
 また、57年度から、パトロール活動中の警察官が署活系無線を利用して指名手配者、盗難車等の照会ができる署活系照会システムの整備に着手したが、58年度には、警視庁と大阪府警察について整備を終了した。
 最近、移動無線に対する傍受や妨害が多発している。このため、警察では、これを防止するとともに、音声、データ等多種類の情報の伝達が可能となるよう移動無線のデジタル化を推進しているが、58年度には、パトカー通信系のデジタル化を開始した。
(2) 災害と通信
ア 機動通信隊の活動
 災害等の突発事案発生に対応して、警察活動を支える通信を確保するため、全国の警察通信職員のうち約1,300人で編成している機動通信隊は、常に応急用資機材等を準備して、迅速、的確に応急通信回線の開設ができるよう体制を整えている。
〔事例1〕 「昭和58年日本海中部地震」では、秋田県機動通信隊が直ちに出動し、津波による被害の大きかった男鹿半島の現地警備本部に応急電話を開設するとともに、半島の山地に臨時の無線基地局を開局したほか、青森、山形両県でも機動通信隊が出動し、災害警備通信を確保した。これらの活動には、機動通信隊員延べ264人が出動した。
〔事例2〕 「昭和58年7月豪雨」では、災害発生当初、島根県西部の被災地への道路が各地で寸断され、県通信部からは現地への到達が遅れたため、山ロ県機動通信隊がいち早く被災地に入り応急通信を確保したほか、中国管区と鳥取、岡山、広島各県の機動通信隊も出動し、応急通信回線を設定するなど島根県機動通信隊の活動を支援した。これらの活動には、機動通信隊員延べ413人が出動した。
イ 衛星を利用した通信
 大規模な災害が発生した場合、全国どこからでも通信ができる、衛星を利用した通信網が大きな威力を発揮する。警察庁では約2年にわたり離島を含めた7箇所において実験を行い、警察通信への有効性を検討してきた。
 この結果を踏まえて、昭和57年度から、警察庁と静岡県警察本部の衛星通信用施設の整備に着手し、58年2月に打ち上げられた我が国初の実用通信衛星「さくら2号」(CS-2)を利用した通信システムを整備して、58年6月からその運用を開始した。
 この衛星通信システムは、警察庁に固定局設備を置き、事案の発生に対応して警察本部や災害現場等に可搬局設備を配置し、へリコプター・テレビや携帯テレビ等によって、現場の状況を警察庁と警察本部に送信するほか、電

話やファクシミリ等によって重要な情報を伝達するものである。
(3) 国際犯罪と通信
 最近多発傾向にある国際犯罪に対処するため、加盟各国との緊密な連携の下にICPO(国際刑事警察機構)通信網により情報の提供、交換等を行い、国際的な捜査協力を進めているOICPO東京無線局は、東南アジア地域中央無線局として、パリの国際中央無線局やアジア地域の各無線局と交信を行うほか、国際テレックス網により世界100箇所との間でテレックス通信を、国際写真電送網により世界24箇所との間で写真電送を行っており、昭和58年には、約1万1,000通の電報を取り扱った。

6 留置業務の管理運営

(1) 留置業務の現況
 昭和58年12月末現在、全国の留置場数は1,233場で、年間延べ約270万人の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
(2) 留置業務に関する改善措置
ア 総(贅)務部門における業務の定着
 昭和55年4月、刑事部門から総(警)務部門に移管された留置業務は、警察本部や警察署における課の設置、専任幹部の配置等により、体制が整備され、その後、総(警)務部門における主要な業務として定着している。
イ 留置場施設の整備
 55年4月以降新改築された警察署の留置場は、留置人のプライバシー保護等の観点から54年11月に改正された留置場設計基準に基づいて改善されており、また、既設の留置場についてもこの基準に沿った改善整備を進めている。
ウ 業務担当者に対する教養訓練の充実
 留置人の人権の尊重、処遇の適正及び事故防止の徹底を図るため、留置業務担当者に対して、警察大学校、都道府県警察学校等において専門的な教養訓練を行っている。
(3) 留置施設法案の国会上程
 警察の留置場については、その設置の根拠、留置される者の範囲、その処遇の内容等が、法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法律体系を整備するよう、各方面から指摘されてきたところである。
 このため、監獄法の改正が行われるのを機会に、これらの点を明確にし、あわせて法制審議会の答申の趣旨に沿って、留置人の人権を保障しつつ、留置人の適切な処遇と留置場の適正な管理運営を行うために、刑事施設法案(改正監獄法)と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法案は、昭和57年4月に第96回国会に上程され、その後、継続審議案件とされたが、58年11月、衆議院の解散により、審議未了となった。
 しかし、この法案は、留置人の人権保障を明確にするなど多くの改善点を持つものであり、早期に国会に上程する必要がある。

7 警察活動科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年非行その他の犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 昭和58年度における主な研究
 昭和58年度の研究は、前年度からの継続研究58件、新規研究33件の合わせて91件であるが、その内容の主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 微量毛髪からの血液型判定に関する研究
 毛髪からの血液型判定には数センチメートルの長さの毛髪が必要であったが、免疫反応を利用して毛髪中に含まれる血液型抗原を染色することにより、数ミリメートルのごく短い毛髪から血液型を正確に判定する方法を開発した。
〔研究例2〕 コンピュータを用いた話者識別法に関する研究
 従来の声紋による判定方法とは別に、音声をデジタル信号に変えてコンピュータに入力し、その個人的特徴から話者を識別する新しい方法の開発を進めている。
〔研究例3〕 地域社会における非行防止対策に関する研究
 少年の非行防止対策の一環として推進している清掃、美化、老人慰問等各種の少年の社会参加活動について、少年の興味、参加度、評価等を調査し、非行防止に役立つ活動の進め方を明らかにした。
〔研究例4〕 渋滞路線の系統信号制御に関する研究
 渋滞交差点の混み具合に応じてコンピュータにより信号を制御し、車を円滑に流す方式は既に開発しているが、さらに、この方式を路線の信号群に連携させ、渋滞緩和を図るための新しい技術に発展させた。
 58年に開催された国際会議では、A型の血液型抗原の生成に関与する酵素の研究(7月、第7回国際複合糠質シンポジウム、スウェーデン)、電子分光によるガス分析手法を応用した高分子試料の識別(7月、第13回電子と原子衝突の物理に関する国際会議、西ドイツ)、過密状態、の重要交差点における適応制御方策の実験(8月、1983年交通工学年次総会技術部会、イギリス)等についての発表を行った。また、国内の学会では、「シモン反応による尿中メタンフェタミンのスクリーニングテスト(覚せい剤の予試験法)について」、「塩素酸塩爆薬の爆力に関する研究」、「生徒間暴力事件における加害者の社会心理学的特性に関する研究」、「交通標識に対する運転者の行動の心理学的検討」等についての発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁や裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、58年における処理件数は法医学関係が48件、理化学関係が874件、文書、偽造通貨等が323件の計1,245件であった。
ウ 法科学研修所の新設と鑑定技術職員の育成
 58年4月、全国の鑑定技術職員の専門教育機関として、法科学研修所が科学警察研究所に設置された。法科学研修所において、58年度は養成科、現任科、専攻科及び研究科の研修生計約250人に対して、法医学、化学、工学、文書及びポリグラフの分野をはじめ、指紋、写真、足こん跡等に関する教育訓練を行った。59年度には、養成科等における一部課程の研修期間の延長、専攻科における課程の新設等研修内容の充実を図ることとしている。そのほか、科学警察研究所では、鑑識技術職員約400人の参加の下に、法医、化学、心理及び機械・物理の4部会からなる鑑識科学研究発表会を開催し、「尿中覚せい剤の溶媒抽出法の検討」等140件に近い発表課題について指導、助言を行った。
(2) 警察通信学校研究部における研究
 警察通信学校研究部では、警察活動をより効率化するため、現場の要望に即した各種の通信機の開発や通信方式の調査、研究を実施している。
 昭和58年度には、警察本部、警察署等に設置するデジタル電子交換機の実用化をはじめ、多量の文書を能率よく電送する全国ファクシミリ通信網の開発、遺留指紋の電送ができ、指紋自動識別システムに対応できる高分解能写真電送装置の実用化、保秘性に優れデータ通信にも適合性のあるパトカー用デジタル移動無線機の実用化等を行った。


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