第4章 少年非行と少年警察活動

1 少年非行の現状

(1) 少年非行の概要
ア 第3の波が続く少年非行
 刑法犯少年のうち主要刑法犯で補導したものの人員、人口比(注)の推移は、図4-1のとおりで、戦後における少年非行には、昭和26年をピークとする第1の波、39年をピークとする第2の波、40年代後半から始まり現在も続いている第3の波があることが分かる。

図4-1 刑法犯少年のうち主要刑法犯で補導したものの人員、人口比の推移(昭和24~57年)

 57年に警察が補導した非行少年の数は、表4-1のとおりである。刑法犯少年の数は19万1,930人と前年に比べ7,028人(3.8%)増加し、また、その人口比も18.8人となり、共に戦後最高を記録した56年を更に上回った。この結果、触法少年(刑法)の数が6万5,926人と前年に比べ1,980人(2.9%)減少したにもかかわらず、刑法犯少年と触法少年(刑法)を合わせた人員は、戦後最高を記録した。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

表4-1 警察が補導した非行少年の数(昭和56、57年)

イ 増加を続ける粗暴犯
 57年の刑法犯少年、触法少年(刑法)の包括罪種別状況は、表4-2のとおりで、窃盗犯が19万8,701人と全体の77.1%を占めて最も多く、次いで粗

表4-2 刑法犯少年、触法少年(刑法)の包括罪種別状況(昭和56、57年)

暴犯、占有離脱物横領の順となっている。特に、粗暴犯が3万37人と前年に比べ1,568人(5.5%)増加し、内容的にも傷害、恐喝といった悪質なものが増加したことが注目されるほか、占有離脱物横領も1万7,604人と前年に比べ2,053人(13.2%)と大幅に増加した。
 凶悪犯の罪種別状況は、表4-3のとおりで、前年に比べ強姦(かん)を除いてすべて増加しており、特に、殺人は26人(43.3%)と激増した。

表4-3 刑法犯少年、触法少年(刑法)の凶悪犯罪種別状況(昭和56、57年)

 粗暴犯の罪種別状況は、表4-4のとおりで、前年に比べ傷害が1,220人(11.7%)、恐喝が2,059人(32.4%)とそれぞれ著しく増加した。

表4-4 刑法犯少年、触法少年(刑法)の粗暴犯罪種別状況(昭和56、57年)

 窃盗犯の手口別状況は、表4-5のとおりで、万引きが51年以来初めて減少に転じたことが注目される。

表4-5 刑法犯少年、触法少年(刑法)の窃盗犯手口別状況(昭和56、57年)

ウ 2人に1人が中学生
 57年の刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別状況は、図4-2のとおりで、14歳が前年に比べ15.7%と大幅に増加して5万4,881人となり、全体の21.3%を占めて最も多い。
 また、学識別状況は、図4-3のとおりで、中学生が12万7,422人と全体

図4-2 刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別状況(昭和57年)

図4-3 刑法犯少年、触法少年(刑法)の学職別状況(昭和57年)

の49.4%を占めて最も多く、刑法犯少年、触法少年(刑法)の2人に1人が中学生となった。
 過去10年間の刑法犯少年、触法少年(刑法)のうち中学生の人員、人口比の推移は、表4-6のとおりで、52年から一貫して大幅な増加を続けており、57年の人員、人口比は、共に48年の2倍以上になった。

表4-6 刑法犯少年、触法少年(刑法)のうち中学生の人員、人口比の推移(昭和48~57年)

 57年の刑法犯少年、触法少年(刑法)のうち中学生の包括罪種別状況は、表4-7のとおりで、前年に比べ各罪種とも増加しており、なかでも、凶悪犯と粗暴犯の増加が著しい。

表4-7 刑法犯少年、触法少年(刑法)のうち中学生の包括罪種別状況(昭和56、57年)

エ 急増する不良行為少年
 57年に警察が補導した不良行為少年の数は、134万1,137人で、前年に比べ14万2,739人(11.9%)と大幅に増加した。その態様別状況は、図4-4のとおりで、喫煙が42.0%を占めて最も多く、次いで深夜はいかい、暴走行為

図4-4 不良行為少年の態様別状況(昭和57年)

の順となっている。
 最近5年間の不良行為少年の数の推移は、表4-8のとおりで、大幅な増加を続けている。

表4-8 不良行為少年の数の推移(昭和53~57年)

(2) 特徴的な非行形態
ア 暴力型非行
(ア) 校内暴力
 昭和57年に警察が処理した校内暴力事件の状況は、表4-9のとおりである。処理件数は、1,961件で、前年に比べ124件(5.9%)減少し、55、56年と続いた急激な増勢に一応歯止めがかかった。しかし、内容的には、凶悪化、粗暴化の傾向が続いており、また、中学生による事件が依然として増加し、全体の94.4%を占めている。
 校内暴力事件のうち特に問題の多い対教師暴力事件(教師に対する暴力事

表4-9 警察が処理した校内暴力事件の状況(昭和56、57年)

件をいう。以下同じ。)の処理件数は、843件で、前年に比べ71件(9.2%)増加し、最近5年間でも、4.4倍と著しい増加を続けている。また、対教師暴力事件の97.9%が中学生によるものである。
 57年に対教師暴力事件で検察官へ送致した少年について、その保護者の養育態度をみると、表4-10のとおり放任が68.6%を占めて最も多く、学業成績をみると、表4-11のとおり成績が下位の生徒が82.5%を占めている。また、対教師暴力事件の75.7%が校内粗暴集団その他の非行集団によるもので

表4-10 保護者の養育態度の状況(昭和57年)

表4-11 学業成績の状況(昭和57年)

あり、しかも、その背後で暴走族等の地域粗暴集団が悪影響を与えたり、校内粗暴集団が相互に結び付いてピラミッド型の番長連合組織を形成するなどの事例も多い。
〔事例1〕 中学3年生の番長グループ員3人は、生徒指導担当教師に平素から服装や髪型のことで厳しく注意されていたことを根にもち、放課後、この教師を校舎裏に呼び出し、準備していた角材で全身をめった打ちにして全治1箇月の重傷を負わせた(熊本)。
〔事例2〕 中学3年生の番長グループ17人は、気に入らない2年生24人を学校の近くの裏山に集合させ、そのうちの1人に対して集団でリンチを加え、内臓破裂により死亡させた(大分)。
(イ) 家庭内暴力
 57年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力を行った少年の数は、1,099人で、前年に比べ95人(8.5%)減少した。これを学職別にみると、中学生が42.9%と半数近くを占めている。
 家庭内暴力の対象は、母親が62.0%を占めて最も多い。また、その態様は、殴る、けるなどの単純な暴行が65.9%を占めて最も多く、次いでドアや家財道具等を壊す物件破壊が21.7%、治療を要する傷害を与えたものが5.4%となっており、なかには死亡に至らせたものもある。
 両親の養育態度をみると、表4-12のとおりで、父親は放任が、母親は過

表4-12 両親の養育態度の状況(昭和57年)

保護、過干渉が多く、このような養育態度が家庭内暴力の一因となっているとみられる。
 また、家庭内暴力の原因、動機をみると、「しつけ等親の態度に反発して」が49.9%を占めて最も多い。
(ウ) 暴走族
 57年の暴走族少年の補導状況は、表4-13のとおりで、刑法犯少年、特別法犯少年は、共に大幅に減少した。これは、地域ぐるみの暴走族対策が効果をあげ始めたためとみられるが、凶悪、粗暴な事件も依然として発生している。

表4-13 暴走族少年の補導状況(昭和56、57年)

〔事例〕 暴走族「青龍会」の構成員5人は、中学3年生の女子2人を、ドライブを口実に乗用車に乗せ、ホテルに連れ込んで、殴る、けるの暴行を加え、輪姦した(広島)。
イ 初発型非行
 57年に万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の初発型非行で補導した少年は、16万1,154人で、刑法犯少年、触法少年(刑法)全体の62.5%を占めている。
 過去10年間の初発型非行で補導した少年の数の推移は、図4-5のとおりで、53年から急増を続けてきたが、57年は、前年に比べ2,544人(1.6%)増加したにとどまり、増加率が著しく鈍化した。これは、デパート、スーパー・マーケット等の関係業界の協力の下に行ってきた万引き防止対策が効果をあげ始め、万引きが前年に比べ5,467人(6.5%)減少したためとみられる。

図4-5 初発型非行で補導した少年の数の推移(昭和48~57年)

 57年の初発型非行の動機別状況は、図4-6のとおりで、利欲による非行が、遊び、好奇心、スリルによる非行を大幅に上回っている。しかし、利欲の内容をみると、生活充当のような深刻な動機は極めて少なく、単純な動機が大半を占めている。

図4-6 初発型非行の動機別状況(昭和57年)

 初発型非行の場所別状況は、図4-7のとおりである。万引きを行った場所は、デパート、スーパー・マ‐ケットが76.4%を占めて最も多く、また、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領を行った場所は、道路、広場と駐車場で61.1%を占めている。

図4-7 初発型非行の場所別状況(昭和57年)

 このように、最近における初発型非行の多発の背景には、少年自身の規範意識の低下に加え、少年を取り巻く環境がこれらの非行を行いやすくしていることなどの事情があるとみられる。
ウ 好奇心型非行
(ア) 薬物乱用
a シンナー等の乱用
 57年にシンナー等の乱用で補導した少年(以下「シンナー等乱用少年」という。)の数は、4万9,638人で、前年に比べ6,102人(14.0%)と大幅に増加し、47年にシンナー等の乱用が規制されて以来最高を記録した。学職別にみると、中学生が1万1,637人で、前年に比べ4,069人(53.8%)と激増したことが注目される。
 過年10年間のシンナー等乱用少年の数の推移は、図4-8のとおりである。

図4-8 シンナー等乱用少年の数の推移(昭和48~57年)

 乱用薬物の種別をみると、シンナーが全体の64.2%を占めて最も多く、次いで接着剤(16.7%)、トルエン(11.4%)の順となっている。
 57年のシンナー等乱用少年のうち検察官等へ送致したものについて、その乱用の原因、動機をみると、「好奇心から」、「仲間と遊ぶため」、「快楽を得るため」、「誘われて」といった単純な動機が全体の68.2%を占めているが、「習癖となり」も28.7%を占めている。また、乱用したシンナー等の入手方法をみると、友人からの譲受が全体の28.4%を占めて最も多く、次いで金物店での購入(11.2%)、スーパー・マーケットでの購入(10.2%)の順となっている。
 57年にシンナー等の知情販売等(注)で取り締まった人員は、表4-14のとおり1,555人で、前年に比べ585人(27.3%)と大幅に減少した。内訳をみると、取扱業者が激減したのに対し、取扱業者以外が著しく増加し、47年にシンナー等の知情販売等が規制されて以来初めて取扱業者の人員を上回った。これは、取扱業者の間で自主規制が次第に徹底してきている一方で、暴力団、暴走族等による知情販売等が増加してきたためとみられる。
(注) シンナー等の知情販売等とは、毒物及び劇物取締法違反のうち、少年等が乱用することを知って、トルエン、シンナー、接着剤、塗料、充てん料を販売し、又は授与する行為(トルエンについては、無登録で、販売し、又は授与する行為も含む。)をいう。

表4-14 シンナー等の知情販売等の取締り状況(昭和56、57年)

b 覚せい剤の乱用
 57年に覚せい剤の乱用で補導した少年(以下「覚せい剤乱用少年」という。)の数は、2,750人で、前年に比べ175人(6.8%)増加した。
 57年の覚せい剤乱用少年の学職別、男女別状況は、表4-15のとおりである。学職別にみると、無職少年が1,520人と全体の55.3%を占めて最も多く、次いで有職少年、学生・生徒の順となっているが、学生・生徒のうち中学生が、前年に比べ24.1%と著しく増加したことが注目される。また、男女別にみると、女子の割合は32.5%となっており、特に、中学生では女子が70.2%を占めている。

表4-15 覚せい剤乱用少年の学職別、男女別状況(昭和56、57年)

 過去10年間の覚せい剤乱用少年の数の推移は、表4-16のとおりで、50年から急増を続けており、10年間で約18倍にも増加した。

表4-16 覚せい剤乱用少年の数の推移(昭和48~57年)

〔事例〕 中学3年生の女子(14)ら3人は、シンナー常習者であったが、先輩から、「シンナーより気持ちがよい。」と誘われ、覚せい剤を打ってもらったことから病み付きとなり、その後、暴力団員から情交の代償として覚ぜい剤を譲り受けるなどして、その乱用を繰り返していた(大阪)。
(イ) 女子の性非行
 57年に性非行で補導した女子(注)は、9,016人で、前年に比べ454人(5.3%)増加した。これを学職別にみると、表4-17のとおりで、高校生が依然として最も多いものの、中学生が前年に比べ639人(35.1%)と著しく増加して2,461人となり、全体の27.3%を占めている。

表4-17 性非行で補導した女子の学職別状況(昭和56、57年)

 性非行のきっかけ、動機別状況は、表4-18のとおりである。きっかけについてみると、「自らすすんで」が過半数を占めており、また、動機についてみると、「興味(好奇心)から」、「遊ぶ金が欲しくて」、「セックスが好きで」を合わせて、7割以上が興味本位から性非行に走っていることが分かる。
(注) 性非行で補導した女子とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法(淫行させる行為)違反事件、青少年保護育成条例(みだらな性行為)違反事件、刑法上の淫行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年、不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

表4-18 女子の性非行のきっかけ、動機別状況(昭和56、57年)

〔事例〕 中学1年生の女子(13)は、家出中に見知らぬ男に誘われてホテルで肉体関係をもち、1万円をもらったことに味をしめ、以後、自らすすんで売春を繰り返していた(警視庁)。
エ その他の問題行為
(ア) 家出
 57年に警察が発見し、保護した家出少年は、5万6,932人で、ほぼ前年並みとなっている。その学職別、男女別状況は、表4-19のとおりである。学職別では、中学生が40.5%を占めて最も多く、男女別では、小学生は男子、高校生は女子が多い。

表4-19 家出少年の学職別、男女別状況(昭和57年)

 57年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した家出少年について、その原因、動機をみると、表4-20のとおりで、家庭、学校等で起こったトラブルから逃れようとするものが53.0%を占めている。また、これらの家出少年のうち、11人に1人(男子の場合は7人に1人)が非行に走り、21人に1人(女子の場合は12人に1人)が犯罪の被害者となっている。

表4-20 家出少年の原因、動機別状況(昭和57年)

(イ) 自殺
 57年に警察が把握した少年の自殺者は、599人で、戦後最低を記録した前年を更に21人下回った。これを男女別にみると、男子が424人(70.8%)、女子が175人(29.2%)となっている。また、これを学職別にみると、表4-21のとおり高校生が最も多い。さらに、これを原因、動機別にみると、学業不振、入試苦等の学校問題が164人(27.4%)と最も多く、次いで異性問題、家庭問題の順となっている。

表4-21 自殺した少年の学職別状況(昭和57年)

2 少年警察活動

 警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、次のような活動を行っている。
 一つは、少年自身に着目した活動で、これには、非行少年等の早期発見と適切な処遇を目的とする少年補導活動、非行、家出、自殺等を未然に防止し、また、早期に発見するための少年相談活動、少年自身の規範意識を啓発して少年非行の発生を未然に防止するための少年の社会参加活動、少年柔剣道活動、「少年を非行からまもるパイロット地区活動」等がある。
 いま一つは、少年の非行を誘発したり、少年の心身に有害な影響を与える社会環境を是正するための活動で、これには、地域ぐるみの環境浄化活動、関係業界等への協力要請に加え、少年の福祉を害する犯罪の取締り等の法令による取締りがある。
 これらの活動は、関係機関、関係団体や地域社会との緊密な連携の下に、少年係の警察官、婦人補導員等の警察職員のほか、民間有志者の協力も得て行われている。
 警察が委嘱する民間有志者には、少年補導員と少年警察協助員がある。少年補導員は、全国で約5万3,000人が委嘱されており、主として街頭補導に従事している。また、少年警察協助員は、26都道府県で約580人が委嘱されており、主として非行集団の解体補導に従事している。
 警察と学校とが協力して児童・生徒の非行を防止することを目的とする学校警察連絡協議会は、全国で約2,500組織が結成されており、小学校、中学校、高等学校の約9割に当たる約4万校が加入している。警察と職場とが緊密に連携して勤労少年の非行を防止し、その健全な育成を図ることを目的とする職場警察連絡協議会は、全国で約1,100組織が結成されており、約3万6,000の事業所が加入している。
(注) 少年補導員、少年警察協助員、学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会の人員、組織数等は、昭和57年4月15日現在のものである。
(1) 少年補導活動
ア 非行少年等の早期発見とその処遇
 警察では、非行少年等をできるだけ早いうちに発見するため、日ごろから、少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、盛り場、公園、駅等の非行が行われやすい場所で街頭補導を実施している。特に、少年が非行に陥る可能性が高い春季、夏季、年末年始には、少年補導の特別月間を設けるなど、街頭補導を強化している。
 非行少年を発見したときは、保護者、教師等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための少年の処遇についての意見を付して関係機関に送致、通告等の措置をとっている。また、不良行為少年を発見したときは、その場で注意し、助言するとともに、必要がある場合には、保護者、教師等に連絡して指導や助言を行っている。
イ 非行集団の解体補導
 警察では、平素から、街頭補導、少年相談等を通じ、また、学校等と緊密に連絡しながら非行集団に関する情報を収集し、たまり場等の実態把握に努めている。また、非行少年の取調べを通じ、背後にある非行集団との関連性を追及してその実態を解明し、非行集団からの離脱を促すとともに、保護者、教師少年警察協助員等の協力を得ながら、非行集団の解体と再非行の防止に努めている。
(2) 少年相談活動
 警察では、少年相談の窓口を設け、悩みや困りごとを持つ少年や、子供の問題で悩む保護者等からの相談を受け、少年係の警察官、婦人補導員、少年心理の専門家等が必要な指導や助言を行っている。また、この少年相談が幅広く利用されるように、ヤング・テレフォン・コーナー等の電話による相談を実施している。
 昭和57年に警察が受理した少年相談の状況は、表4-22のとおりで、相談数は、11万7,426件と前年に比べ7,438件(6.8%)増加した。相談者別にみると、保護者等からの相談が63.2%、少年からの相談が36.8%となっている。少年については、中・高校生が多く、また、女子が男子を上回っている。少年相談のうち61.5%が電話相談によるものである。

表4-22 警察が受理した少年相談の状況(昭和57年)

 少年相談の内容は、図4-9のとおりで、非行のほか、家出、異性、交友等様々な問題に及んでいる。

図4-9 少年相談の内容(昭和57年)

 これらの相談を受けて、指導や助言を行ったものが78.8%、継続して指導したものが11.3%を占めている。そのほか、関係機関に紹介したものが4.1%となっている。
(3) 少年の規範意識の啓発活動
 少年非行を根本的に解決するためには、家庭、学校、地域社会等との連携の下に、少年に社会や集団との連帯感や克己心をはぐくませることなどにより、その規範意識を啓発する必要がある。
 警察では、少年の規範意識の啓発のため、昭和57年度から次のような活動を推進している。
ア 少年の社会参加活動
 警察では、少年に主体的に社会とのかかわりを持たせることによって、社会を構成する一員としての自覚を促すため、関係機関、関係団体、地域住民等との協力の下に、明るい街作り活動、奉仕活動、生産体験活動等の少年の社会参加活動を推進している。
〔事例〕 庄原地区では、夏休みの早朝ラジオ体操の後に、子供会の少年たちが、住みよい街作りに役立とうと、体操会場の清掃を行ったことをきっかけに、以後、少年野球チームの少年たちも参加して、通学路、公園、駅等における清掃、空き缶拾い、放置自転車の整理等の「10分間奉仕活動」を行っている(広島)。

イ 少年柔剣道活動等
 少年の克己心や自立心をはぐくむとともに、少年に社会的ルールを身に付けさせるため、警察では、警察署の道場を開放して地域の少年たちに柔道や剣道の指導を行うなど、各種の体育・スポーツ活動を幅広く推進している。
ウ 少年を非行からまもるパイロット地区活動
 警察では、少年を非行からまもる必要性の高い地域を「少年を非行からまもるパイロット地区」に指定している。 57年に指定された全国278箇所のパイロット地区では、家庭、学校、地域社会の協力の下に、主に小学校高学年と中学生を対象として、非行防止ハンドブック等を利用して、非行防止のための教室や座談会の開催等を行っている。
 57年には、非行防止教室は延べ約19万人の少年の参加の下に約1,300回、非行防止座談会は延べ約18万人の保護者等の参加の下に約2,800回それぞれ開催された。

(4) 少年を取り巻く社会環境の整備
ア 地域ぐるみの環境浄化活動
 警察では、少年を取り巻く社会環境を浄化するため、昭和53年から環境浄化重点地区活動を実施している。57年には、全国で291地区を「少年を守る環境浄化重点地区」に指定した。これらの地区では、地域住民が中心となって、有害図書自動販売機の撤去運動、白ポスト運動、環境浄化住民大会、少年を守る店の設定等の環境浄化活動を推進している。このような地域住民の活発な活動により、57年に全国で撤去された図書自動販売機の数は、2,654台に上っている。
イ 関係業界等への協力要請
(ア) 初発型非行防止のための関係業界等への協力要請
 警察では、57年1月から、「少年非行の総量抑制対策」を実施し、初発型非行を行いやすくしている環境を是正するよう関係業界等へ働き掛けている。
 デパート、スーパー・マーケット等に対しては、商品の陳列方法の改善、監視ミラー、監視カメラ等の防犯設備の充実、保安要員の増強等の万引きを行いにくい環境の整備を要請している。
 また、自転車盗等の乗物盗を防止するため、自転車販売業者に対しては、防犯登録や効果的な施錠設備の勧奨等について協力を要請するとともに、自治体、駅等に対しては、自転車置場、駐車場等の整備とその適切な管理を要請している。
〔事例〕 警察では、デパート、スーパー・マーケット等との懇談会を通じて万引き防止のための協力を要請してきたが、この結果、57年中に、50店で保安要員が増強され、40店で監視ミラー、監視カメラが設置され、232店で商品の陳列方法が改善された(福岡)。
(イ) シンナー等取扱業者への自主規制の要請
 現在、シンナー等の取扱業者の間では、少年に対しては用途や目的が確認されない限りシンナー等を販売しないという自主規制がとられ、相当な効果をあげている。しかし、一部になお不徹底な面もみられるので、警察では、業者に対して、自主規制の一層の徹底を要請している。
(ウ) 出版関係業界への自粛の要請
 警察では、出版関係業界との懇談会を通じて、少年非行の実情と有害な図書等の影響を受けたと思われる非行事例を紹介するなどして、少年に有害な図書等の出版、販売を自粛するよう要請している。
ウ 法令による取締り
(ア) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 売春や人身売買のような少年の福祉を害する犯罪は、少年の非行を助長する原因となり、また、少年の心身に有害な影響を与えるため、警察では、これらの犯罪の取締りに努めている。
 57年の少年の福祉を害する犯罪の検挙人員は、1万3,400人で、前年に比べ1,270人(10.5%)と大幅に増加した。これを法令別にみると、表4-23のとおりで、前年に比べ売春防止法違反(管理売春等)、職業安定法違反(有害職業紹介等)、毒物及び劇物取締法違反(シンナー等の知情販売等)が激増したことが注目される。

表4-23 少年の福祉を害する犯罪の法令別検挙状況(昭和56、57年)

 57年の少年の福祉を害する犯罪の検挙人員のうち暴力団員の数は、前年に比べ114人(9.8%)増加して1,283人となり、全検挙人員の9.6%を占めている。特に、最も悪質な「人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」、「淫行をさせる行為」についての暴力団員の占める割合は24.0%と高くなっており、その内容も悪質なものが多い。
 57年の少年の福祉を害する犯罪の被害者は、1万8,607人で、前年に比べ499人(2.8%)増加した。 その男女別、学職別状況は、表4-24 のとおりで、女子が男子をはるかに上回っており、女子では高校生が最も多い。

表4-24 少年の福祉を害する犯罪の被害者の男女別、学職別状況(昭和56、57年)

〔事例1〕 山口組系暴力団と地元暴力団は、盛り場等で誘惑した家出少女らを売春婦として1人300万円で他県へ売り飛ばしたり、自らの支配下に置いて売春を強要するなどして、1億2,000万円に上る不当な利益を得ていた。暴力団員55人を含む被疑者111人を検挙、被害少女95人を保護(愛知)
〔事例2〕 「個室付きファッションヘルス」の経営者らは、新聞、週刊誌等で少女らを募集し、売春の手ほどきをした上で、マンションの個室で売春等をさせて約4億2,000万円に上る不当な利益を得ていた。被疑者52人を検挙、被害少女78人を保護(警視庁)
(イ) 青少年保護育成条例等による有害図書等の取締り
 46都道府県で制定されている青少年保護育成条例は、青少年に有害なものとして知事が指定した興行、図書、広告物等を青少年(18歳未満の者)に観覧、閲覧させたり、販売、掲示したりすることを禁止しているが、57年の図書等の有害指定件数は、表4-25のとおりである。

表4-25 青少年保護育成条例による図書等の有害指定件数(昭和57年)

 57年にこれらの有害図書を自動販売機で販売したことなどで検挙した人員は、76人で、前年に比べ70人減少した。しかし、より悪質なわいせつ文書を自動販売機で販売したことなどで検挙した人員は、110人で、前年の22倍と激増した。


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