第2章 健やかな少年を育てるために

-非行のない明るい社会を目指して-

 少年の非行を防止し、その健全な育成を図ることは、少年自身にとってはもちろんのこと、その家族や地域社会にとっても、さらに、今後、我が国の健全で安定した社会を保つためにもゆるがせにできない大切な問題である。
 少年非行は、昭和26、39年に続いて、現在は、戦後第3のピーク形成期にある。55年には、刑法犯少年が戦後最高を記録したが、56年は、これを更に上回り、また、全刑法犯検挙(補導)人員に占める少年の割合も5割を超えるなど、戦後最悪の状況となっている。最近の特徴は、非行が低年齢化し、一般化していることであり、また、内容的には、各種非行の入口となる万引き、乗物盗等の初発型非行が相変わらず増加しているほか、暴走族、校内暴力等にみられるように凶悪犯、粗暴犯の増加が著しく、極めて憂慮される状況にある。
 警察は、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、非行少年等の補導、少年の福祉を害する犯罪の取締り、少年を取り巻く有害環境の浄化等の広範な活動を行っているところであり、また、関係機関、関係団体等においても様々な少年非行対策がとられている。しかし、少年自身の規範意識が低下していることに加えて、少年を取り巻く社会環境はますます悪化してきており、少年の非行を助長し、健全な育成を阻害する要因は、容易には解消しないものとみられる。
 今後は、このような厳しい情勢に対処するため、少年非行の要因を的確に分析し、その要因を解消するための諸施策を積極的に推進するとともに、関係機関、関係団体や地域社会と一体となった総合的な少年非行対策を一層広範囲に進めていく必要がある。
 (注)この章で用いる非行少年、刑法犯少年、触法少年(刑法)、不良行為少年等の用語の意義については、凡例を参照

1 少年非行の現状

(1) 少年非行の概要
ア 戦後の少年非行の推移
 刑法犯少年のうち主要刑法犯で補導したものの人員、人口比(注)の推移は、図2-1のとおりで、昭和26年をピークとする第1の波、39年をピークとする第2の波、そして、40年代後半から始まる第3の波があることが分かる。

図2-1 刑法犯少年のうち主要刑法犯で補導したものの人員、人口比の推移(昭和24~56年)

 第1の波は、終戦直後の社会的混乱と経済的窮乏を背景として非行が激増したものであり、年長少年、特に有職、無職少年による窃盗、強盗、詐欺等の財産犯が中心であった。このピークも、少年警察活動の基盤が整備されてきたことと併せて、朝鮮戦争を契機として経済が好転し、安定化するとともに次第に収束していった。
 第2の波は、急速な経済成長に伴う都市化の進展、都市への人口集中、享楽的風潮の広まり等少年非行を誘発しやすい社会構造への変化を背景としており、年少少年による凶悪犯、粗暴犯が中心であった。このピークも、国民と警察とが一体となった暴力追放運動、総理府を中心とした青少年健全育成運動等の盛り上がりに加えて、青少年保護育成条例の制定、風俗営業等取締法の改正等の法令の整備とその運用により収束していった。
 第3の波は、現在もなお続いている。社会的背景としては、高度経済成長によって欧米と並ぶ経済的豊かさを達成したなかで、連帯意識の希薄化、核家族化、価値観の多様化が進み、また、青少年の間にせつな的な風潮や克己心の欠如という現象が広まったほか、少年を取り巻く有害環境が拡大していることが挙げられる。現在のピーク形成期における非行の特徴は、非行の低年齢化と一般化であり、非行形態としては、万引き、自転車盗等の初発型非行が多発しているほか、暴走族、校内暴力等の粗暴性の強い非行が著しく増加しており、また、年少少年による通り魔事件のような衝動的かつ無差別的な凶悪犯、粗暴犯の増加も目立っている。
 過去10年間の少年非行の推移は、図2-2のとおりである。刑法犯少年の数は一貫して増加しており、55年には戦後最高を記録 し、56年はこれを更に上回った。触法少年(刑法)の数も54年から著しく増加した。
(注)人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

図2-2 少年非行の推移(昭和47~56年)

イ 昭和56年における少年非行の概況
(ア) 戦後最高の人員、人口比
 56年に警察が補導した非行少年の数は、表2-1のとおりである。刑法犯少年の数は18万4,902人と前年に比べ1万8,829人(11.3%)増加し、全刑法犯検挙人員に占める割合も44.2%となり、戦後最高を記録した。また、触法少年(刑法)の数は、6万7,906人と前年に比べ1万4,023人(26.0%)増加した。この結果、全刑法犯の検挙人員(触法少年(刑法)の人員を含む。)に占める刑法犯少年と触法少年(刑法)の割合は、56年は、52%となり、ついに検挙(補導)人員の半数以上が少年であるという深刻な事態となった。

表2-1 警察が補導した非行少年の数(昭和55、56年)

 最近5年間の刑法犯少年、触法少年(刑法)、刑法犯成人の人員の推移は、図2-3のとおりである。
 また、刑法犯少年の人口比は、これまでの最高であった55年の17.1人を大幅に上回り、18.6人となり、刑法犯少年と触法少年(刑法)を合わせた人口比(11歳以上)も14.4人となり、非行が一般化しつつある傾向がうかがわれる。

図2-3 刑法犯少年、触法少年(刑法)、刑法犯成人の人員の推移(昭和52~56年)

(イ) 著しい低年齢化傾向
 56年の刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別構成比は図2-4のとおりで、14歳が最も多く、次いで15歳、16歳、13歳の順となっている。最近5年間の刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別状況は表2-2のとおりで、10歳以下と18、19歳の少年は横ばいであるが、11歳から16歳までの少年は著しい増加傾向を示している。
 また、56年の刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別の人口比は表2-3のとおりで、13歳から16歳までが、その他の年齢に比べて高くなっている。
 刑法犯少年、触法少年(刑法)の学職別構成比は、図2-5のとおりで、中学生が46.3%を占めて最も多く、高校生の26.0%をはるかに上回っており、少年非行の低年齢化傾向がうかがわれる。

図2-4 刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別構成比(昭和56年)

(ウ) 多発する窃盗犯、増加の著しい粗暴犯
 56年の刑法犯少年、触法少年

表2-2 刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別状況(昭和52~56年)

表2-3 刑法犯少年、触法少年(刑法)の年齢別人口比(昭和56年)

図2-5 刑法犯少年、触法少年(刑法)の学識別構成比(昭和56年)

図2-6 刑法犯少年、触法少年(刑法)の包括罪種別構成比(昭和56年)

(刑法)の包括罪種別構成比は図2-6のとおりで、窃盗犯が19万7,397人と全体の78.1%を占めて最も多く、次いで粗暴犯、占有離脱物横領の順となっている。

表2-4 刑法犯少年、触法少年(刑法)の凶悪犯罪種別状況(昭和55、56年)

図2-7 刑法犯少年、触法少年(刑法)の包括罪種別人員の推移(昭和47~56年)

 過去10年間の刑法犯少年、触法少年(刑法)の包括罪種別人員の推移は、図2-7のとおりで、占有離脱物横領、窃盗犯の増加が著しく、また、粗暴犯は55年から急増している。
 凶悪犯の罪種別状況は、表2-4のとおりで、前年に比べ殺人が11人(22.4%)、放火が49人(10.4%)、強姦(かん)が43人(4.4%)それぞれ増加している。
 また、粗暴犯の罪種別状況は表2-5のとおりで、前年に比べ脅迫が減少した以外はいずれも増加しており、粗暴化の傾向を一段と強めている。
 窃盗犯の手口別状況は表2-6のとおりで、万引き、オートバイ盗、自転車盗が多発し、全体の72.5%を占めている。また、絶対数は少ないが、学校荒らし、出店荒らし、倉庫破り、忍び込み等の凶悪な事件に移行しやすい侵入盗が増加していることも注目される。
ウ 56年における不良行為少年の状況
 56年の不良行為少年の総数は、119万8,398人であり、前年に比べ12万

表2-5 刑法犯少年、触法少年(刑法)の粗暴犯罪種別状況(昭和55、56年)

表2-6 刑法犯少年、触法少年(刑法)の窃盗犯手口別状況(昭和55、56年)

図2-8 不良行為少年の態様別状況(昭和56年)

2,201人(11.4%)増加した。その態様別状況は図2-8のとおりで、喫煙が最も多く全体の39.8%を占め、次いで深夜はいかい、暴走行為の順となっている。
(2) 少年非行等の諸類型
 現在の少年非行の典型としては、暴力型、初発型、好奇心型の3つがある。暴力型非行とは、暴走族、校内暴力、家庭内暴力、少年による通り魔事件等にみられるように、何らかの精神的抑圧を直接、間接の原因とし、他人に対する暴力の行使を特徴的形態とする非行である。
 初発型非行とは、万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領にみられるように、犯行の手段が容易で、動機が単純であることを特徴とする非行であるが、最近著しく増加しているばかりでなく、他の様々な本格的な非行へ深化していく危険性が高い非行である。
 好奇心型非行とは、女子の性非行やシンナー、覚せい剤等の薬物乱用にみられるように、一時的快楽を求めて、あるいは好奇心から行われる非行である。動機が単純であることは初発型と共通するが、この形態にあっては、他人に対する侵害よりもこうした非行により少年自身の心身が荒廃することが問題である。
 この3類型は、現れる形態としては非常に異なるが、いずれも、規範意識と自律的判断力が低下した少年が、不良交友関係や有害環境に接する過程で非行に走っている点では共通するものがある。
ア 暴力型非行
(ア) 暴走族
 昭和56年11月末現在、警察が把握している暴走族は、全国で770グループ、4万629人で、前年同期に比べ16グループ、1,677人増加しており、グループ数はこれまで最高だった49年の817に次いでおり、人員はこれまでの最高となっている。
 56年の暴走族のい集走行は、い集走行回数が3,272回、参加人員が16万999人、参加台数が7万2,364台で、前年に比べい集走行回数、参加人員、参加車両台数とも大幅に減少している。最近5年間の暴走族のい集走行状況は、表2-7のとおりである。

表2-7 暴走族のい集走行状況(昭和52~56年)

 また、対立抗争事案は、発生件数が77件、関与人員が2,561人で、前年に比べ発生件数、関与人員とも減少している。最近5年間の暴走族の対立抗争事案の発生状況は、表2-8のとおりである。

表2-8 暴走族の対立抗争事案の発生状況(昭和52~56年)

 56年における暴走族少年の補導状況は表2-9のとおりで、刑法犯少年は5,911人で1,980人(25.1%)減少し、特別法犯少年も2,391人で469人(16.4%)減少した。これは、暴走族に対する取締りの強化等警察の総合力による対策と地域ぐるみの暴走族対策が効果をあげたためとみられる。しかし、一方で構成員がこれまでの最高となるなど、若者の暴走志向は依然として根強く、また、火炎びん、鉄パイプ、角材等の凶器を準備した計画的な対立抗争事案や、一般車両、一般人に対する無差別な襲撃事案が発生するなど、情勢は基本的には変わっていない。
〔事例1〕 暴走族「アラビアンナイト」の構成員7人は、少年院に収容されていた会長が退院したため、その祝いと称して車両2台で暴走していたが、途中で中学2年生の女子(14)を認め、抵抗する同女を車内に押し込み、ホテルに連れ込んで輪姦(かん)した(兵庫)。
〔事例2〕 暴走族「飛龍(りゅう)連合」の構成員35人は、他の暴走族グループとともに、30台の車両で暴走中に、一般車両から文句を言われたことに怒り、その車両を横転させ、乗車していた3人のうち2人を木刀で殴打して肋(ろつ)骨骨折等の傷害を負わせ、他の1人をひき逃げして、右下腿(たい)部骨折

表2-9 暴走族少年の補導状況(昭和55、56年)


の重傷を負わせた(石川)。
(イ) 校内暴力
 56年に警察が把握した校内暴力事件の状況は、表2-10のとおりで、2,085件発生し、前年に比べ527件(33.8%)と大幅に増加した。
 特に、教師に対する暴力事件は、772件発生し、前年に比べ378件(95.9%)と激増しているが、このうち95.6%が中学校で発生している。最近5年間の教師に対する暴力事件の推移は表2-11のとおりで、著しい増加傾向にあり、56年は52年に比べ発生件数が約3.6倍、被害教師数が約3.7倍、補導人員が約4倍となっている。
 最近の校内暴力事件は、犯行内容が著しく凶悪化、粗暴化している。また、校内粗暴集団の背後に悪質な校外粗暴集団が存在し、悪影響を与えて校内暴力を悪化させたり、校内粗暴集団相互が結び付きを強め、ピラミッド型の番長連合組織を形成して暴力団を模倣する傾向もみられる。さらに、校内暴力に対する教育指導方針をめぐる教師間の対立が原因で、校長を含め教師のほぼ全員が大量処分を受けたり、校内暴力が原因で母親が息子の将来を悲観し、これを絞め殺すなど、様々な社会事象が発生した。

表2-10 校内暴力事件の状況(昭和55、56年)

表2-11 教師に対する暴力事件の推移(昭和52~56年)

〔事例1〕 中学3年生(15)は、同級生とのけんかのことで教師から再三にわたって注意されたことを恨み、その腹いせに、工事現場からダイナマイトを盗み出し、その教師の自動車に仕掛けて爆発させた(宮崎)。
〔事例2〕 暴走族「虫牙(むしきば)」の下部組織「優越会」の構成員20人は、勢力誇示と遊興費を得る目的で、中学の後輩から現金を脅し取るなどしていたが、卒業した番長グループ「庭窪(くぼ)愚連隊」に「生意気な先公がおったらやってしまえ。」と扇動し、校舎を損壊させたり、教師に対する暴力事件を起こさせていた(大阪)。
〔事例3〕 校内運動会で、応援旗のデザインをめぐって生徒間で意見の対立が生じたが、これが教師間の教育理念をめぐる対立に発展し、教師の授業ボイコットや集団欠勤が生ずるに至ったため、臨時休校措置がとられるという事態にまで発展した(大阪)。
(ウ) 家庭内暴力
 56年に少年相談や少年の補導活動を通じて警察が把握した家庭内暴力を行った少年は1,194人で、これを学職別にみると、中学生が476人(39.9%)と最も多く、次いで高校生、無職少年、有職少年の順となっている。
 家庭内暴力には、家庭内暴力のみのものと、これに登校拒否、金銭持ち出し、無断外泊等の不良行為や万引き等の非行を伴っているものがある。56年の家庭内暴力をこの類型別にみると、表2-12のとおり「家庭内暴力のみ」

表2-12 家庭内暴力の類型別状況(昭和56年)

が42.5%を占めて最も多く、次いで「家庭内暴力+不良行為・非行」が27.9%となっている。
 家庭内暴力の対象は、表2-13のとおりで、62.0%が母親で、次いで父親、家財道具等の順となっている。

表2-13 家庭内暴力の対象(昭和56年)

 また、家庭内暴力の態様は、表2-14のとおりで、殴る、けるなどの単純暴行が65.7%を占めて最も多く、次いでドアや家財道具等を壊す物件破壊が22.1%に上っているほか、暴力がエスカレートして家族に治療を要する傷害を与えたものが4.9%となっている。

表2-14 家庭内暴力の態様(昭和56年)

 両親の養育態度は表2-15のとおりで、父親は放任が最も多く、次いで普通、過保護の順となっているが、母親は過保護、過干渉が多く、このような養育態度が家庭内暴力の一因となっているとみられる。

表2-15 両親の養育態度(昭和56年)

 また、その原因、動機別状況は、表2-16のとおりで、「しつけ等親の態度に反発して」が45.9%と最も多く、次いで「非行をとがめられて」が18.0%、「物品の購入要求が受け入れられずに」が15.7%の順となっている。

表2-16 家庭内暴力の原因、動機別状況(昭和56年)

〔事例〕 高校1年生の男子(15)は、中学2年生までは成績も良かったが、3年生になると成績が下がりはじめ、登校を拒否するようになり、これを注意する母親に暴力を振るうようになった。少年の暴力は日増しにエスカレートし、ついには母親の首を電気コードで絞めるような格好までしたので、父親は、「もうだめだ。息子を殺して自分も死のう。」と決意し、眠っている息子の首に革ひもを巻き付けて絞め殺した(警視庁)。
(エ) 少年による通り魔事件
 56年に、通り魔事件(注)は、254件発生し、107件、78人を検挙(補導)した。このうち少年による事件は30件発生し、25人を補導した。通り魔事件で検挙(補導)された人員に占める少年の割合は、32.1%で、凶悪犯で検挙(補導)された人員に占める少年の割合よりも9.0%高くなっている。
 通り魔事件で補導された少年は、内向的な性格であり、対人関係や集団生活が不得手であり、知能の低い者が多い。犯行の態様は、テレビで見た通り魔事件をまねるなど、模倣性が強いものも多い。
(注) 通り魔事件の定義は、p.109参照
〔事例〕 中学1年生(13)は、両親から勉強するよう連日厳しくしかられたため反抗心を抱き、相手はだれでもよいから刺し殺そうと考えていたところ、団地のエレベーター内で幼稚園児を見ると、いきなり切り出しナイフで胸部等を刺して重傷を負わせた(北海道)。
イ 初発型非行
 56年に万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の初発型非行で補導した少年は、11万2,777人で、万引きは5万5,149人、オートバイ盗は2万7,350人、自転車盗は1万8,259人、占有離脱物横領は1万2,019人で、前年に比べて、万引きは5,565人(11.2%)、オートバイ盗は4,264人(18.5%)、自転車盗は612人(3.5%)、占有離脱物横領は1,974人(19.7%)それぞれ増加した。
 過去10年間の初発型非行で補導した刑法犯少年とその他の刑法犯少年の数の推移は、図2-9のとおりで、その他の刑法犯少年はこの10年間でわずかな増加(約1.2倍)にとどまっているのに対し、初発型非行で補導した刑法犯少年は約2.7倍にも増加している。
 また、初発型非行で補導した刑法犯少年が全刑法犯少年に占める割合も、昭和47年の42.1%から56年には61.0%と20%近い増加を示している。初発型非行は、規範意識の乏しい少年によって単純な動機から容易に行われるばかりでなく、集団化、常習化しやすく、他の様々な本格的な非行へ深化していく危険性が高いため、その発生を抑止していくことが緊急の課題となって

図2-9 初発型非行で補導した刑法犯少年とその他の刑法犯少年の数の推移(昭和47~56年)

いる。
ウ 好奇心型非行
(ア) 女子の性非行
 56年に性非行で補導した女子(注)は、8,562人で、前年に比べ457人(5.6%)増加した。これを学職別にみると、表2-17のとおり、高校生が3,023人と依然として最も多く、次いで無職少年2,213人、中学生1,822人の順となっている。特に、中学生は、前年に比べ205人(12.7%)増加し、全体の21.3%を占めている。
 性非行のきっかけ、動機別状況は、表2-18のとおりである。きっかけについてみると、「自らすすんで」が全体の50.1%を占め、次いで「誘われて」が46.5%となっている。また、動機についてみると、「興味(好奇心)から」が多く、全体の60.3%を占め、これに「遊ぶ金が欲しくて」、「セックスが好きで」を加えると、7割以上が興味本位から性非行に走っていることが分かる。
(注)性非行で補導した女子とは、売春防止法違反、児童福祉法違反(児童に淫(いん)行させる行為)、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件の被害女子少年とぐ犯又は不良行為(不純な性行為)で補導した女子少年をいう。

表2-17 性非行で補導した女子の学職別状況(昭和55、56年)

〔事例〕 女子高校生10人は、両親健在の中流家庭の子女であるが、ディスコや喫茶店で遊ぶ金が欲しくて、「友達もやっていることだし、売ちゃんでもして小遣いを稼ごう。」と相談し、1回の売春料は最低2万円で現金払いとすることなどを取り決め、売春を繰り返していた(熊本)。
(イ) 薬物乱用
a 依然多いシンナー等の乱用
 シンナー等の有機溶剤は、脳や神経や内臓を冒す作用や麻酔作用がある。56年にシンナー等有機溶剤の乱用で補導した少年は、4万3,536人で、前年に比べ1,625人(3.6%)減少したが、依然として高い水準にある。
 過去10年間のシンナー等乱用少年の補導人員の推移は、図2-10のとおりである。
 シンナー等乱用少年の学職別構成比は、図2-11のとおりで、有職少年が1万6,401人(37.7%)と最も多く、次いで無職少年1万1,692人(26.8%)、

表2-18 女子の性非行のきっかけ、動機別状況(昭和55、56年)

中学生7,568人(17.4%)の順となっている。
 乱用薬物別の補導状況は、表2-19のとおりで、シンナーが6割近くを占め、次いで接着剤、トルエンの順となっている。
b 急増する覚せい剤の乱用
 56年の少年の覚せい剤事犯の補導状況は、表2-20のとおりである。補導人員は、2,575人で前年に比べ544人(26.8%)と大幅に増加した。また、覚せい剤事犯で補導した少年は、覚せい剤事犯の総検挙人員の11.7%を占めて

図2-10 シンナー等乱用少年の補導人員の推移(昭和47~56年)

いる。これを学職別にみると、無職少年が1,320人(51.3%)と最も多く、次いで有職少年1,039人(40.3%)、学生・生徒216人(8.4%)の順となっているが、学生・生徒のうち高校生が30.9%と著しく増加したのが注目される。また、これを男女別にみると、女子の割合は33.0%となってお

図2-11 シンナー等乱用少年の学職別構成比(昭和56年)

表2-19 乱用薬物別の補導状況(昭和56年)

表2-20 少年の覚せい剤事犯の補導状況(昭和55、56年)

り、特に、中・高校生では男子を上回っている。
 56年10月の覚せい剤麻薬事犯取締り強化月間中に補導した少年508人を対象にした調査によると、覚せい剤乱用で補導された者のうちシンナー等有機溶剤の乱用経験のある者は、男子が74.6%、女子が55.8%で、シンナー等有機溶剤の乱用から覚せい剤の乱用へと移行していく過程がうかがわれる。また、覚せい剤を初めて乱用するときに気持ちが良くなることを期待した者は、男子が88.1%、女子が77.9%を占めており、安易な快楽を求めて覚せい剤の乱用に走ったことがうかがわれる。
 女子の場合は、家出中に初めて覚せい剤を使用した者が最も多く、全体の48.1%を占めている。これは、家出中の女子少年が暴力団等のえじきとなり、その過程で覚せい剤乱用を勧められることが多いためと考えられる。
〔事例〕 女子高校生(17)は、学校嫌いから家出をしたが、ボーリング場で知り合った暴力団員に「栄養剤だ。」と言われて覚せい剤を注射され、情交を結ぶうち、「2時間我慢すれば3万円になる。」と売春を勧められ、次々と暴力団関係者を相手に売春を繰り返していた(大阪)。
エ その他の問題行為
(ア) 家出
 56年に警察が発見し、保護した家出少年は、5万8,224人で、ほぼ前年並みとなっている。これを年齢別にみると、16歳が1万1,129人(19.1%)と最も多く、次いで15歳、14歳の順になっており、14歳から16歳までが過半数を占めている。前年に比べると、15歳以上の少年はすべて減少しているのに対し、12歳から14歳までの少年が2,537人(17.3%)増加している。これを学職別にみると、表2-21のとおり学生・生徒が70.2%を占めている。また、男女別にみると、小学生では男子、高校生では女子が多く、全体では、52年以降女子が男子を上回っており、56年も女子が男子を5,146人上回り、全体の54.4%を占めている。
 56年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した少年1万5,078人について、家出の原因、動機をみると表2-22のとおりで、家庭、学校等で起こったトラブルから逃れようとするものが55.1%、遊び癖、放浪

表2-21 家出少年の学職別、男女別状況(昭和56年)

表2-22 家出少年の原因、動機別状況(昭和56年)

癖等個人の性格に起因するものが34.7%、同せい、就職等何らかの目的を持ったものが9.0%となっている。
 また、強化月間中に保護した家出少年のうち、おおむね10人に1人(男子の場合は6人に1人)が非行に走り、おおむね22人に1人(女子の場合は13人に1人)が犯罪の被害者となっている。
〔事例〕 女子中学生2人(いずれも15)は、学校嫌いから新学期が始まる前に家出をした。2人連れの男から声を掛けられ、誘われるままに肉体関係を持ち、その代償として1,000円ずつ現金をもらったことに味をしめ、それぞれ約10人の男を相手に1回1,000円から2,000円の対価を得て売春をしていた(大阪)。
(イ) 自殺
 56年に警察が認知した少年の自殺者は620人で、過去最低の前年に比べ58人(8.6%)減少し、戦後最低を記録した。これを男女別にみると、男子が442人(71.3%)、女子が178人(28.7%)である。また、これを学職別にみると、表2-23のとおり高校生が197人(31.8%)と最も多く、次いで有職少年126人(20.3%)、無職少年114人(18.4%)、中学生88人(14.2%)の順となっている。さらに、これを原因、動機別にみると、「学業不振」、「入試苦」等の学校問題が165人(26.6%)と最も多く、次いで家庭問題91人

表2-23 自殺少年の学職別状況(昭和55、56年)

(14.7%)、異性問題85人(13.7%)等の順となっている。

2 少年非行の分析

(1) 少年非行の原因
 少年非行の原因としては、伝統的に、少年自身の精神的資質、経済的な貧困、欠損家庭のような家庭条件等が指摘されている。しかし、第3のピーク形成期における少年非行は、限られた数の特殊な少年によって行われているのではなく、ごく普通の家庭環境にある少年によって行われることが多く、非行少年の人口比も急増している。このことから、伝統的に指摘されている事項だけでは少年非行の原因のすべてを説明することはできなくなっており、一般の少年が非行に走りやすい素地が拡大していることが分かる。そこで、ここでは、科学警察研究所、大阪府警察本部等による調査の結果に基づき、少年自身の問題である規範意識、少年の人格形成や少年非行の態様等に大きな影響を及ぼす友人関係、少年を取り巻く有害環境について分析した。
ア 少年の規範意識
(ア) 少年の規範意識の現状
 人々が社会の規範を尊重し、遵守することは、その社会の存立と発展のための基礎である。しかし、経済成長とこれに伴う都市化の進展をはじめとする社会の各分野における変化は、連帯意識の希薄化、核家族化、価値観の多様化等による社会基盤のぜい弱化をもたらした。さらに、生活水準の向上という目標が一応達成されたことから、一般にあくせくしないせつな的な風潮が広がり、青少年の間には、無気力、無関心、克己心の欠如といわれるような意識の変化が生じつつある。そして、こうした意識の変化は、家庭の教育機能の低下、受験教育中心の学校教育の在り方等とあいまって、少年の規範意識を低下させる要因となっている。
 56年に大阪府警察本部が小学5年生から高校3年生までの358人の少年を対象に行った調査によると、自分は非行や不良行為を行う可能性があると思っている者の割合は、表2-24のとおりである。非行少年でない少年(以下「一般少年」という。)のうち男子については、約半数の者が「自動車やオートバイで暴走する」、「友人の物を了解を得ないで使う」といった行為を行う可能性があると思っており、また、2割以上の者が「だれの物か分からない自転車を黙って使う」、「スーパーや店で万引きをする」といった行為を行う可能性があると思っている。女子の一般少年については、約3割の者が「友人の物を了解を得ないで使う」、「自動車やオートバイで暴走する」といった行為を行う可能性があると思っている。このように、現在の少年は、非行少

表2-24 自分は非行や不良行為を行う可能性があると思っている者の割合(昭和56年)

年でなくても、して良いことと悪いことの境界が不明確で、規範意識に乏しいことが分かる。
 非行少年については、このような問題行為を行う可能性があると思っている者の割合が高く、特に、「スーパーや店で万引きをする」、「だれの物か分からない自転車を黙って使う」、「シンナーを吸う」といった悪性の強い行為については、一般少年との差が極めて大きい。このように、非行少年は、一般少年に比べて規範意識という点で更に問題があることが分かる。
(イ) 規範意識低下の背景
 少年の規範意識が低下した背景には、様々な要因があるが、少年に最も影響を与える家庭や学校の問題が重要である。
a 家庭
 家庭は、少年の生活基盤であり、その在り方が少年の人格形成に大きな影響を及ぼしている。
 昭和55、56年にかけて少年とその保護者を対象に警察庁が行った調査によると、家庭の雰囲気が楽しいと答えた少年は、一般少年では85.1%に達するのに対し、非行少年では55.9%と少なく、この傾向は特に女子に顕著である。
 両親について「特に立派に思う点はない」と答えた者が非行少年は一般少年の約2倍であり、非行の原因については家庭における父母の権威の低下があることがうかがわれる。また、父親に対して最も感謝している点は「良いことと悪いことをはっきり教えてくれる」ことであると答えた者が、一般少年、非行少年ともに最も多く、少年が世の中のルールを教えてくれる大人を望んでいることが分かる。このことから、親をはじめとする大人が、少年に明確な態度で規範意識を植え付け、リードしてやることが非行を防止する上で重要であると考えられる。
 誕生日、墓参り、法事等の家庭内の行事については、「必ずする」と答えた者は、一般少年の保護者が73.4%であるのに対し、非行少年の保護者が46.3%と低く、家庭内行事がきちんと行われていることが、その家庭の健全性を示すひとつの指標となっている。
b 学校
 少年は年齢が上がるにつれて生活の中心が次第に家庭から学校へ移行して

図2-12 少年が学校を楽しいと思う理由(昭和55、56年)

いくので、中学生以上の少年については、学校は家庭と同等に、あるいはそれ以上に少年の人格形成に大きな影響を与える場となる。しかし、図2-12のとおり、少年が学校を楽しいと思う理由は、一般少年、非行少年とも「友達がいるから」が庄倒的に多く、これに対し、「授業が面白いから」、「良い先生がいるから」は特に非行少年では極めて少なく、非行少年は友達以外にほとんど学校に楽しみを見い出すことができないことがうかがわれる。
 55年に東京都が行った調査によると、図2-13のとおり、教師に対して否定的な評価を示す少年は年齢が上がるにつれて増加し、中学2年生では、男子の53.6%、女子の60.3%が教師を尊敬せず、男子、女子の約半数が教師を嫌っており、こうした傾向は特に勉強のできない少年ほど顕著である。こ

図2-13 教師に対する否定的評価の状況(昭和55年)

のように、学校においては、教師の権威の低下が少年に対する適切な教育、規範意識のかん養を困難なものにしていると考えられる。
 学校は、少年達が最も多くの時間を過ごし、少年の人格形成に大きな影響を与える場であるにもかかわらず、現実の姿としては、受験教育に追われ、授業についていけずドロップアウトする少年を数多く生み出している。現在の少年非行の急増の背景には、こうした学校教育の在り方にも問題があると考えられる。
イ 少年の友人関係
 少年は、中学生、高校生の年齢になると、両親をはじめとする家族を中心とした生活から離れ、友人との関係に重点を置いた生活をするようになる。
 したがって、友人関係は、少年の年齢が上がるにつれて、その人格形成に大きな影響を与えることになる。また、少年非行は、成人の犯罪に比べて共犯率が高く、集団化しやすいことから、少年の友人関係を分祈することは、非行のきっかけや態様を知る上でも極めて重要である。ここでは、56年に大阪府警察本部が表2-24と同一の調査対象の少年に対して行った調査に基づき、少年の友人関係の状況と非行に対する友人の影響を分析した。
(ア)一般少年と非行少年の友人関係の状況

表2-25 少年は誰と一緒にいるときが一番楽しいか(昭和56年)

表2-26 親しい友人の数(昭和56年)

表2-25は、「誰と一緒にいるときが一番楽しいか」を尋ねた結果である。
 一般少年、非行少年とも年齢が高くなるにつれて「友人」と答えた者が多くなり、高校生では4分の3以上にもなる。このことからも、友人関係が少年の生活に極めて大きな比重を占めていることが分かる。
 親しい友人の数は、表2-26のとおり、一般少年は11人以上が最も多いが、非行少年は2~5人が最も多く、非行少年は、限られた範囲でしか友人を持たないことが分かる。
 親しい友人のタイプは表2-27のとおりで、男子については、一般少年は「読書が好きな人」、「スポーツをするのが好きな人」等が多く、非行少年は「人目を引くようなはでな服装をしている人」、「タバコを吸っている人」、「自動車、オートバイが好きな人」、「夜遊びをする人」等が多い。女子については、一般少年は「読書が好きな人」、「スポーツをするのが好きな人」、「人生、悩みについて話し合える人」等が多く、非行少年は「夜遊びをする人」、「人目を引くようなはでな服装をしている人」等が多い。このように、非行少年は、友人のなかに問題のある行為をする者が多いことが分かる。
(イ)非行に及ぼす友人の影響
 非行に及ぼす友人の影響を分析すると、表2-28のとおり、「友人と一緒なのでやった。一人ではしない」という群集心理の影響と「友人がうまくや

表2-27 親しい友人のタイプ(昭和56年)

表2-28 非行に及ぼす友人の影響の状況(昭和56年)

ったのを見聞きした。手口を教えられた」という非行の学習の影響が極めて強く、また、「仲間の手前しないわけにはいかなかった。しないと仲間はずれになる」という集団等の圧力の影響も強い。
 非行時の状況をみると、表2-29のとおり、「みんなで何となく」が多く、半数以上を占めている。このように、多くの場合、友人関係が非行の直接のきっかけとなっていることが分かる。

表2-29 非行時の状況(昭和56年)

 表2-30は非行、不良行為等を誘われたときに同意する理由を調査したものであるが、「友情がなくなる」と「仲間が付き合ってくれなくなる」を挙げる者は、非行少年では60%以上にも達しているのに対し、一般少年では40%に満たない。このように、一般少年と非行少年では、友人からの影響の受け方について大きな差があり、非行少年は、規範意識が低下しているだけでなく、自律的判断力が乏しく、友人からの影響をより強く受けていることが分かる。

表2-30 非行、不良行為等を誘われたときに同意する理由(昭和56年)

ウ 少年を取り巻く有害環境
(ア) 有害雑誌等
 現在の少年非行の急増の背景には、少年自身の問題とともに、少年を取り巻く有害環境の拡大がある。性を露骨に表現するビニール本等のわいせつ文書、ポルノ映画、さらには暴力を礼賛するかのようなテレビ番組の増加は、少年の性的感情や残虐性を刺激して非行を誘発し、また、これらを模倣する非行を増加させている。
 ビニール本の販売店数の状況は、表2-31のとおり4,090店で、前年に比べ1,309店(47.1%)と大幅に増加し、特に専門店が急増したことが目立った。また、7月の「少年を非行からまもる全国強調月間」中に調査した雑誌自動販売機の設置状況は、2万1,342台に上り、このうち、5,013台がビニール本の収納機である。

表2-31 ビニール本の販売店数の状況(昭和55、56年)

 有害雑誌等の影響を受けたと思われる非行事例には、次のようなものがある。
〔事例1〕 中学3年生(15)は、ビニール本に刺激され、独り住まいの女性(22)の家にマスクをかぶって侵入し、同女の帰宅を待って切り出しナイフを突き付けて脅迫し、ひもで手を縛り、わいせつ行為をしたが、同女が生命の危険を感じて「父さんからもうすぐ電話がくる。」等と言い逃れたため、強姦(かん)をあきらめ、現金を奪って逃走した(北海道)。
〔事例2〕 不良グループの番長格である中学生2人(14、15)は、他校生徒に「金を貸せ。」と恐喝する際、テレビのけんかシーンをまねて、近くにあったジュースびんを路面にたたき付け、割れたびんで相手の右肩を突き刺した(京都)。

図2-14 享楽的、娯楽的営業の推移(昭和52~56年)

(イ) 享楽的、娯楽的施設
 最近5年間のソープランド、ストリップ劇場等の享楽的、娯楽的営業の状況は、図2-14のとおりである。
 ソープランドは、ー貫して増加傾向にある。ストリップ劇場は、ほぼ横ばいの傾向にあるが、いわゆる本番ショー等の悪質なものが全国的に広がっており、56年中に公然猥褻(わいせつ)で検挙された施設数は96に上っている。風俗営業は、やや減少傾向にあるが、最近の傾向として、いわゆるピンクサービスを売り物にするものが全国的に広がっている。これらの営業は、少年に有害な影響を与え、少年の非行を助長する要因となっている。
 また、スナック、ディスコ、サパークラブ等の深夜飲食店は増加傾向にあり、ゲームセンターは54年まで急激に増加し、同年以降減少しているものの、56年は4,415店で52年の2.9倍となっている。これらの施設は、非行少年のたまり場となり、また、少年が様々な誘惑を受けやすく、少年の非行の温床となったり、少年を食いものにする犯罪に利用されやすい。
〔事例〕 暴力団員ら7人は、組の資金獲得のため、盛り場をはいかいする少年に目をつけ、ソープランドで働かせることを計画し、若い組員を使って、ディスコやゲームセンターに出入りしている少女7人を「遊ぶ金がいるだろう。いい働き口がある。」と次々に誘惑し、売春をさせていた(愛知)。
(ウ) 少年の福祉を害する犯罪の増加
 売春やいわゆる人身売買等は、少年の福祉を害するだけでなく、少年非行を助長する原因となっている。56年のこれらの犯罪の被害者は、1万8,108人で、前年に比べ1,993人(12.4%)増加した。最近5年間の被害者数の推移は、表2-32のとおりほぼ横ばいである。

表2-32 少年の福祉を害する犯罪の被害者数の推移(昭和52~56年)

 56年の少年の福祉を害する犯罪の被害者の男女別、学職別状況は、表2-33のとおりである。これを男女別にみると、女子が男子をはるかに上回っている。また、女子被害者を学職別にみると、無職少年が4,074人(32.4%)で最も多く、次いで高校生が3,795人(30.1%)、有職少年が2,400人(19.1%)、中学生が1,989人(15.8%)の順となっている。これらの犯罪の被害

表2-33 少年の福祉を害する犯罪の被害者の男女別、学職別状況(昭和56年)

者は、その後、売春、覚せい剤乱用等に走る可能性が高い。
(2) 非行少年と不良行為少年のその後
 少年は、心身ともに未成熟であり、非行に走りやすい反面、適切な教育や指導によって、健全な姿に戻る可能性も高い。したがって、非行少年のその後の非行や犯罪の状況、暴力団との関係等を調査し、分祈することは、効果的な非行防止対策を推進する上から重要である。
ア 非行少年のその後
(ア) 非行少年の再非行者率と成人後犯罪者率
 表2-34は、昭和56年科学警察研究所が2,691人の非行少年を対象に行った調査で、初めて非行を行った少年のうち、どの程度の割合の者が20歳になるまでの間に再度非行少年となり、また、どの程度の割合の者が20歳になってから24歳になるまでの間に犯罪者となったかを表したものである。
 調査対象の少年から、20歳になるまでに1度以上非行を行う少年が生じた比率(以下「再非行者率」という。)は平均34.9%で、調査対象の少年のうち2.9人に1人が後に再び非行を繰り返して補導されたことになる。また、調査対象の少年から、20歳から24歳までに1度以上罪を犯す者が生じた比率

表2-34 非行少年の再非行者率と成人後犯罪者率(昭和56年)

(以下「成人後犯罪者率」という。)は平均12.3%で、調査対象の少年のうち8.1人に1人が、成人後犯罪を犯して検挙されたことになる。
 再非行者率を初回非行時の年齢別でみると、早期型(初回非行年齢が9歳以上11歳以下の者をいう。以下同じ。)が53.0%、中期型(初回非行年齢が14歳の者をいう。以下同じ。)が41.7%、後期型(初回非行年齢が17歳の者をいう。以下同じ。)が24.0%となり、早期型の少年の1.9人に1人、中期型の少年の2.4人に1人、後期型の少年の4.2人に1人が、再度非行少年として補導されたことになる。
 また、成人後犯罪者率を初回非行時の年齢別にみると、早期型が15.5%、中期型が12.5%、後期型が11.5%となり、早期型の少年の6.5人に1人、中期型の少年の8.0人に1人、後期型の少年の8.7人に1人が成人後に検挙されたことになる。
(イ) 非行少年の再非行発生件数と成人後犯罪発生件数
 表2-35は、同一の調査対象の少年が、1人当たり20歳になるまでに年間平均で何件の非行を行い、また、20歳から24歳まで年間平均で何件の罪を犯したかを調査したものである。
 調査対象の少年が1人当たり20歳になるまでに非行を行った年間平均の件数(以下「再非行発生件数」という。)は早期型が0.29件、中期型が0.24件、後期型が0.21件で、早期型の少年は3.4年に1件、中期型の少年は4.2年に1件、後期型の少年は4.8年に1件の割合でその後再度非行を行ったことになる。
 また、調査対象の少年が1人当たり20歳から24歳までに罪を犯した年間平

表2-35 非行少年の再非行発生件数と成人後犯罪発生件数(昭和56年)

均の件数(以下「成人後犯罪発生件数」という。)は早期型が0.26件、中期型が0.22件、後期型が0.18件で、早期型の少年は3.8年に1件、中期型の少年は4.5年に1件、後期型の少年は5.6年に1件の割合で成人後罪を犯したことになる。
(ウ) 早期型の少年にみられる特徴的傾向
 早期型の少年は、成人後犯罪者率、再非行発生件数、成人後犯罪発生件数が高いことから、年少時に非行が是正されない一部の少年がその後も非行を繰り返し、さらに、成人後も罪を犯している状況がうかがわれる。
 このことから、年少時における非行を抑止し、また、少年が一たび非行に走った場合にも、その芽を完全に摘み取っておくことが、非行の再発や成人後の犯罪を防ぐ上で極めて重要であることが分かる。
イ 不良行為少年の非行者率
 56年に、科学警察研究所が1,937人の不良行為少年を対象に行った調査(注)によると、調査対象の不良行為少年から後に一度以上非行を行う少年が生ずる比率は、年間平均で13.8%と極めて高い。
 不良行為少年は、56年は119万8,398人補導されており、警察官等の注意、助言あるいは家庭、学校等への通報の措置がとられているが、以上の結果から、少年非行を有効に抑止していくためには、適切な不良行為少年対策を更に積極的に進める必要があると考えられる。
(注) 調査対象少年は、昭和54年9月15日から11月15日までの2箇月間に、全国で不良行為で補導された中学1年生から3年生までの少年(過去に不良行為又は非行のある者を除く。)である。これらの少年について、その後2年間の非行歴を追跡調査した。
ウ 初発型非行少年のその後
 万引き、オートバイ盗、自転車盗等の初発型非行は、動機が単純で、かつ、犯行の手段が容易な非行であることから、暴走族、校内暴力等と異なり、非行の程度が軽いとして、一般に安易に考える傾向がある。しかし、図2-15をみても分かるように、初発型非行を行った少年は、その後、初発型

図2-15 非行少年のその後の非行形態(昭和56年)

図2-16 非行少年1人当たりのその後の非行件数(昭和56年)

非行に限らず、一般窃盗犯、粗暴犯、薬物乱用等の幅広い非行形態に移行し、また、図2-16のとおり、その後の非行件数も他の非行形態に比べて、決して少なくない。
 このように、初発型非行は、最近大幅に増加しているだけでなく、いわば各種の非行の入口となるものであり、この発生を抑止することが当面の急務である。
エ 非行少年と暴力団
 56年12月末現在、警察庁が把握している暴力団構成員数は10万3,263人であり、そのうち1,625人が少年である。
 55年、科学警察研究所は、暴力団に加入している少年(以下「加入少年」という。)160人と暴力団構成員がリーダーとなっている非行集団に加入している少年及び暴力団構成員と交友関係にある少年(以下「予備軍少年」という。)276人を対象に調査を行った。
(ア) 補導歴
 加入少年、予備軍少年の補導歴の状況は、表2-36のとおりで、加入少年、予備軍少年のほとんどが過去に何らかの非行により補導されている。

表2-36 加入少年、予備軍少年の補導歴の状况(昭和55年)

(イ)非行集団との関係
 加入少年、予備軍少年の非行集団加入歴の状況は、表2-37のとおりで、加入少年の約3割、予備軍少年の約4割が既に中学時代非行集団に加入経験があり、中学卒業後には加入少年の6割以上、予備軍少年の7割以上が何らかの非行集団に加入していたことが分かる。

表2-37 加入少年、予備軍少年の非行集団加入歴の状況(昭和55年)

 加入していた非行集団の種別をみると、加入少年、予備軍少年とも暴走族集団が最も多く、次いで粗暴犯集団となっており、これら2つの非行集団が暴力団の有力な人的供給源となっていることが分かる。
(ウ) 暴力団との関係
a 暴力団と接触したときの状況
 加入少年が最初に暴力団と接触したときの状況は、失業中が31.3%と最も多く、次いで家出中、怠学、怠業中の順となっている。
b 暴力団加入の目的等
 加入少年が暴力団に加入した目的は、表2-38のとおりで、「かっこ良さ

表2-38 加入少年が暴力団に加入した目的(昭和55年)

に憧れて」が56.3%で最も多く、これに次いで「享楽的生活ができるから」、「自分のような者でも認めてくれるから」、「当面の生活の維持のため」の順となっている。
 また、現在なお暴力団に加入している理由は、表2-39のとおりで、「かっこ良いから」が60.0%で最も多く、これに次いで「享楽的生活ができるから」、「仕事が楽だから」となっており、ほぼ加入の目的と等しいことが分かる。

表2-39 加入少年が現在なお暴力団に加入している理由(昭和55年)

c 暴力団加入に対する評価
 加入少年が暴力団に加入したことをどのように評価しているかをみると、後悔している者が28.8%もあり、仕方がないとする者の16.3%を加えると、良かったとする者の20.0%の2倍以上となっている。

表2-40 加入継続の意思(昭和55年)

 また、これらの加入少年の多くは、表2-40のとおり、機会があれば暴力団から離脱したいと考えている。警察は、関係機関と一体となり、適切な助言、指導を行うとともに、離脱のための条件作りに努めている。

3 少年非行対策の現状と課題

 戦後第3のピーク形成期にある少年非行に対して、有効に歯止めをかけるためには、警察をはじめ少年非行にかかわりのあるすべての関係機関、関係団体が相互に有機的に連携し、それぞれの立場で可能な対策を推進していくとともに、国民の一人一人が少年非行問題に積極的に取り組んでいく必要がある。
 昭和56年には、首相の施政方針演説のなかで、15年ぶりに少年非行と青少年の健全育成問題が取り上げられ、これを受けて、2月には総理府、警察庁をはじめとする非行対策関係省庁会議において「青少年の暴力非行防止対策の推進について」の申合せがなされた。また、かねて首相から青少年問題の長期的かつ総合的な対策について諮問を受けていた青少年問題審議会は、6月、特に緊要なものについて取りまとめ、「青少年問題に関する提言」を提出した。警察庁においても、10月、庁内関係各部局の有機的連携を図り、少年非行防止のための総合的施策を検討し、推進するために、「少年非行総合対策委員会」を設置し、全庁的な取組を行っている。
(1)少年非行の各類型に対応する対策
ア 校内暴力対策
 校内暴力事件は、本来、学校当局の適切な生徒指導によって、その未然防止が図られることが望ましい。しかし、最近、学校教育の限界を超える事件が多発し、また、警察としても、その責務を果たす上で、これに適切に対処していく必要があるため、学校が教育の場であることを十分に考慮し、学校、教育委員会等と緊密な連携をとりながら、所要の措置をとるよう努めている。
(ア) 事件の未然防止対策
 警察は、校内暴力を未然に防止するため、学校、教育委員会、PTA等との各種連絡会議を通じて緊密な連携を図るとともに、校内暴力の実態と問題点を広く国民に広報している。また、補導活動を強化し、番長グループ等の解体補導を徹底しているほか、校内番長グループと暴走族や地域不良グループ等校外粗暴集団との関連の切断に努めている。
(イ) 事件発生時の対策
 校内暴力事件の発生を認知したときは、学校当局と連携をとり、速やかに現場措置を講じている。補導した生徒については、犯行に至る原因、動機、家庭環境、校内における平素の行動等を調査するとともに、家庭裁判所等の関係機関と連携して、その少年の再非行防止と健全育成のための適切な処遇に努めている。さらに、学校や地域の状況、校外の粗暴集団との関連等の背景や原因を究明して、問題の根を断つこととしている。
イ 暴走族対策
 現在発生している暴走行為を封じ込めるとともに、暴走グループそのものの解体を図り、他方、少年の暴走族への加入を未然に防止するため、警察の総合力による取締り等の徹底と地域ぐるみによる暴走族を許さない環境作りの推進の2つを柱とした対策が講じられている。
(ア) 警察による対策
a 取締り等の強化
 暴走族に対しては、事前情報収集活動の推進、警戒警備体制の強化、共同危険行為等禁止違反の徹底検挙の方針で臨んだことから、昭和56年は、暴走族のい集走行回数が減少し、その規模も小さくなるなどの成果をあげた。
 また、道路交通法施行令の一部改正により、56年1月から、共同危険行為等禁止違反に対して、1回の違反で運転免許の取消しを行うことができるようになり、その結果、56年には、共同危険行為等禁止違反による運転免許の取消しは2,888件に上り、前年に比べ1,833件(173.7%)と大幅に増加した。
 このほか、7月からは、暴走行為中のナンバーの隠ぺいに対しても、運転免許の停止等の行政処分を行っている。
b グループの解体補導
 暴走族対策は、暴走族グループ自体を消滅させることが最も効果的であるため、共同危険行為等禁止違反等で検挙、補導した場合に、これをきっかけとしてグループの解体補導等を強力に進めている。その場合、中心メンバーに対しては、検察庁、家庭裁判所等の関係機関と緊密に連携し、厳しい姿勢で臨むとともに、その他のメンバーに対しては、家庭、学校等の協力を得て再び暴走行為を行わないよう指導している。
(イ) 地域ぐるみの暴走族対策
a 関係機関、関係団体による取組
 各都道府県では、関係機関、関係団体等からなる暴走族対策会議が中心となって地域ぐるみの暴走族追放の活動を推進しており、い集場所として利用されやすい施設の管理の適正化、暴走行為を助長する自勳車の不法改造の防止等に成果をあげている。このほか、都道府県や市町村では暴走族追放のキャンペーンに努めており、また、多くの地域団体、職域団体は、機関紙その他の広報紙を利用して暴走族追放を呼び掛けているほか、暴走族追放の住民大会、パレード、意見発表会等を行っている。
b 学校における取組
 各地の中学、高校では、暴走族の生徒に対して、生徒指導担当の教師を中心に、警察等と連絡を取りながらの個別指導を進めている。また、ホーム・ルーム活動等を通じて生徒に社会的ルールからの逸脱を戒めるとともに、暴走族の反杜会性を認識させ、暴走族に加入しないように指導しており、なかには、生徒会が暴走族に加入しない決議を自主的に行っている学佼もある。
ウ 家庭内暴力対策
 家庭内暴力は、本来、家庭内で解決が図られるべきものである。しかし、警察が少年相談等を通じて家庭内暴力の相談を受けた場合には、必要な指導、助言を行い、また、児童相談所、医療相談機関等と連携して早期解決に努めている。
 また、家族に傷害を与えるなどの事件に発展した場合には、その事件の背景を十分に考慮して、処理に当たっている。
エ 初発型非行対策
 万引き、乗物盗等の初発型非行は、最近著しく増加しており、少年非行の増加の最も大きな要因となっている。しかも、第2節で分析したとおり、後に他の様々な非行に深化していく危険性を有している。したがって、初発型非行の発生を抑えていくことが、非行を抑止し、かつ、少年非行の多くを初期の段階で食い止めるという結果をもたらすことになる。
 このような初発型非行対策のために、警察では、非行少年の補導を行うだけでなく、これらの非行を誘発しやすい環境を是正し、その発生を未然に防ぐという観点からの取組も積極的に行っている。
(ア) 適切な補導と非行集団の解体
 警察では、初発型非行で補導した少年に対しては、画一的な処理に流れることなく、非行の内容、本人の性格、家庭環境、再非行の危険性等を十分に検討し、その少年の健全育成に最もふさわしい措置をとるようにしている。また、これらの非行は、集団で行われる場合も多いため、警察では、補導した少年がリーダー、サブリーダー等非行の中心的役割を果たしている少年か、あるいは単なる追随者かをよく見極め、その実態に応じた適切な措置をとりながらこれらの非行集団を解体するよう努めている。
(イ) 広報啓発活動の推進
 初発型非行は一般にこれを安易に考える風潮があるが、これを放置するとより悪質な非行へと深化する危険性があるので、警察では、マスコミ等各種広報媒体の協力を得ながら、広報啓発活動に努めている。
(ウ) 非行誘発環境の是正
a 万引き対策
 初発型非行のうち万引きを行う場所は、大部分がスーパー、デパート等の大型店舗である。これは、スーパーやデパートでは、商品が数多く並べられ、保安体制が不十分であることから、万引きを誘発しやすい環境にあるためとみられる。これに対して、従来から警察の指導の下に、スーパー、デパート

等の業者を中心として、「万引き防止対策協議会」を組織し、その防止対策を検討している。また、56年5月、警察庁からスーパー、デパート業者に対し、商品の陳列方法の改善、保安体制の強化、監視ミラー、モニターテレビの設置等の対策を進めるよう要請した。
b 乗物盗に対する対策
 警察では、駅、スーパー等の自転車置場に対する重点警らを実施し、初発型非行を行いにくくして、その未然防止に努めるとともに、自治体、駅、スーパー等に対し、自転車置場の整備とその適切な管理を要請している。さらに、56年5月、警察庁から自転車販売業者に対して防犯登録の勧奨、有効な施錠設備の取付け等について協力を要請した。
オ 薬物乱用対策
 シンナー、覚せい剤等の薬物乱用に対しては、警察は、取締りの徹底を図るとともに、啓発活動の推進により、国民各層の幅広い協力の確保に努め、また、関係業界の協力も得て総合的な対策を推進している。

(ア) 乱用少年の早期発見と適切な指導
 警察では、街頭補導、少年事件の処理、少年相談等を通じ、シンナー、覚せい剤等の乱用少年の早期発見に努めるとともに、発見した少年については、その性格、行状、家庭環境等について、調査を徹底し、乱用行為の深度に応じた適切な処理を行っている。
(イ) 積極的な広報の推進による乱用追放気運の盛り上げ
 警察では、各種の広報誌紙を積極的に活用したり、ポスターの掲示、チラシの配布を行うなどして積極的な広報の推進を図っている。また、町内会、自治会等を活用して懇談会や座談会を開催し、その地域の実態に応じた身近な資料を用いて薬物の危険性を訴えるなど、きめ細かい広報を行い、総合的な地域ぐるみの乱用追放運動を展開するようその気運の盛り上げを図っている。
(ウ) 関係機関等との協力
 警察では、総理府の薬物乱用対策推進本部をはじめ、都道府県における薬物乱用対策推進地方本部、教育委員会、学校等と緊密な連携をとり、情報交換、補導、広報等あらゆる方面での協力体制をとるよう努めている。
 また、補導した少年に対しては、家庭裁判所等と緊密に連携し、常習性を絶つための措置がとられるよう努めている。
 56年7月、薬物乱用対策推進本部において、シンナー等に対する規制を強化するため、毒物及び劇物取締法の罰則の見直しと規制対象物の拡大の検討等を含む「覚せい剤問題を中心として緊急に実施すべき対策」が決定された。
(エ) 業界への協力要請と悪質業者の検挙
 現在、シンナー等の販売業者においては、少年に対しては用途目的が確認されたもの以外には販売しないという自主規制がとられ、相当の効果をあげている。しかし、一部不徹底な面もみられるので、56年10月、警察庁から業界に対し、自主規制の一層の強化を要請した。また、同時に、少年を食いものにする暴力団や悪質業者に対する積極的な検挙活動の推進にも努めている。
(2) 少年非行対策の枠組み
 警察をはじめ関係機関、関係団体の少年非行対策は、少年自身に着目し、その非行を防止したり、非行から立ち直らせるための対策と、少年を周囲の有害環境から守るための対策の2つに分類される。また、このような対策を効果的に推進するため、関係機関、関係団体、地域社会との連携が重要である。
ア 関係機関、関係団体、地域社会との連携
(ア) 少年補導員制度
 少年補導員制度は、37年に発足し、少年の非行防止と健全育成に熱意と理解のある民間活動家が警察の委嘱を受け、地域における非行防止活動の中核として活発な活動を行うもので、街頭補導や有害環境の浄化に大きな成果をあげている。
 昭和56年4月現在の少年補導員数は、約5万3,000人である。56年7月の「少年を非行からまもる全国強調月間」中において少年補導員が補導した人員は、全国で約1万3,000人に上っている。
(イ) 少年補導センター
 少年補導センターは、地方公共団体に設けられ、ここでは、警察職員、教育関係者、少年補導員等少年非行防止活動に携わる者が協力して、街頭補導、少年相談、有害環境の浄化等の活動を行っている。56年12月末現在、全国の少年補導センターの設置数は607箇所で、約7万9,000人がここで活動している。
(ウ) 学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会
 児童、生徒の非行が著しく増加し、校内暴力事件が急増する最近の状況では、警察の少年非行対策と学校の生徒指導との連携の必要性がますます高まっている。学校警察連絡協議会は、38年から、警察と学校とが協力して児童、生徒の非行を防止することを目的として設けられたもので、56年4月末現在、全国で約2,100組織が結成されており、小学校、中学校、高等学校の7割に当たる約4万校が参加している。
 両親の下を遠く離れて就職した少年が、環境の変化による孤独感や生活の乱れから、非行に走ったり、犯罪の被害者になったりする例は少なくない。職場警察連絡協議会は、警察と職場とが緊密に連絡して、勤労少年の非行を防止し、その健全育成に努めることを目的として設けられているものであって、56年4月末現在、全国で約1,000組織が結成され、約3万1,000の事業所が加入している。
(エ) 非行防止のための国民運動
 少年の非行を防止するためには、警察や関係機関の対策だけでなく、家庭、学校、地域社会と一体となった総合的な非行防止活動を進めることが必要である。 54年から開始された「青少年を非行からまもる全国強調月間」は、この観点に立ったものであり、56年は、月間中に県民大会、懇談会、パレード等の行事に参加した人員は、延べ約50万人に上った。
イ 少年自身に着目した対策
(ア) 少年補導活動
 少年は、心身ともに未成熟であり、また、環境の影響を受けやすいため、非行に走りやすいが、その反面、非行行為や不良行為を行った場合にも、適切な指導と教育によって再び健全な姿に戻る可能性が高い。したがって、非行が深化しないうちに、非行少年等を発見し、社会的なルールからの逸脱に対して、少年に対する愛情に裏付けられた厳しさをもって臨み、適切な措置をとることが重要である。
 警察では、非行少年をできるだけ早いうちに発見し、再び非行を行わないようにするため、日ごろから、少年係の警察官、婦人補導員等が中心となって、盛り場、公園、駅等非行が行われやすい場所で街頭補導を実施している。特に、少年が非行に陥る可能性が高い春季、夏季、年末年始には、少年補導の特別月間を設けるなど、街頭補導を強化している。
 また、非行少年を補導したときは、家庭、学校等の関係者と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、少年が再び非行を繰り返さないためにはどのような措置が最も適切であるかを判断し、処遇についての警察の意見を付して少年法や児童福祉法の規定に従い、関係機関に送致し、通告している。不良行為少年に対しても、

これらの少年が後に非行に走る可能性が高いことから、その場で注意し、助言するとともに、必要がある場合には、保護者や学校に連絡し、指導や助言を行っている。
(イ) 少年相談活動
 警察では、少年の非行や家出、自殺等を未然に防止し、また、早期に発見するために、少年相談の窓口を設けている。自分の悩みや困りごとを親や教師等に打ち明けることができない少年や、子供の非行、不良行為の問題で悩む保護者等からの相談を受け、少年係の警察官、婦人補導員、少年心理の専門家等が指導や助言を行っている。また、国民がこの少年相談をより多く利用するように、全国の都道府県警察でヤング・テレフォンコーナー等の電話による相談を実施している。
 56年に警察が受理した少年相談の状況は、表2-41のとおりで、保護者等

表2-41 警察が受理した少年相談の状況(昭和56年)

図2-17 少年相談の内容(昭和56年)

(保護者等からの相談)


(少年自身からの相談)

からの相談が全体の65.5%、少年からの相談が34.5%となっている。少年については、中・高校生が多く、また、女子が男子を上回っている。少年相談のうち58.5%が電話相談によるものである。
 少年相談の内容は、図2-17のとおりで、非行のほか、異性、学業、健康等様々な問題に及んでいる。

 これらの相談を受けて、指導や助言を行ったものが80.5%、更に継続して指導したものが10.1%を占めている。そのほか、他の関係機関に紹介したものが4.0%となっている。
(ウ) 非行集団の解体補導活動
 少年非行は、集団で行われることが多く、また、第2節で分析したとおり、友人関係の影響を受けて行われることが多い。したがって、非行少年の不良交遊関係の解消、特に非行集団の解体補導活動は、少年非行対策上重要な課題である。
 警察では、平素から非行少年のたまり場の実態を把握するとともに、学校等と緊密に連絡しながら非行集団に関する情報の収集に努め、また、少年の取調べに当たっても、背後にある非行集団との関連性を追及してその実態解明に努めている。そして、取調べを通じて非行集団からの離脱を促すとともに、保護者、学校等の協力を得ながら非行集団の解体と再非行の防止に努めている。
ウ 少年を周囲の有害環境から守る対策
(ア) 風俗を害する犯罪の取締り
 風俗を害する犯罪は、少年の健全育成に悪い影響を与えている。警察では、刑法、風俗営業等取締法、興業場法、売春防止法等の法令を活用して、積極的な取締りを行っている(p.144以下参照)。
(イ)少年の福祉を害する犯罪の取締り
 警察では、少年の非行を助長する原因となり、また、少年の心身に有害な影響を与える少年の福祉を害する犯罪の取締りに努めている。56年に検挙した人員は1万2,130人で前年に比べ468人(4.0%)増加した。これを法令別にみると、図2-18のとおりで、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為の禁止、有害図書の販売の制限等)が50.9%と最も多く、次いで風俗営業等取締法違反(年少者に接客させる行為の禁止等)、児童福祉法違反(児童に淫(いん)行させる行為等)の順となっている。
 56年の少年の福祉を害する犯罪の検挙人員のうち暴力団構成員の数は1,169人で、前年に比べ51人(4.1%)増加しており、全検挙人員の9.6%を占めている。特に最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」、「淫(いん)行させる行為」について暴力団構成員の占める割合は表2-42のとおり、22.2%と高くなっており、その内容についても悪質な事例が後を絶たない。

図2-18 少年の福祉を害する犯罪の法令別検挙状況(昭和56年)

(ウ) 青少年保護育成条例による取締り
 56年12月末現在、46都道府県において青少年保護育成条例が制定されている。この条例は、青少年に有害なものとして知事が指定した図書、興業、広告物等を青少年(18歳未満の者)に対して観覧、閲覧、販売、掲示をすることを禁止している。
 この条例に基づき56年中に青少年に有害なものとして指定された映画・演劇、広告物、雑誌等は図2-19のとおりで、映画・演劇は延べ約1万、雑誌等は延べ約2万7,000に上っている。
 56年の青少年保護育成条例等に基づく雑誌自動販売機の取締り状況は表2-43のとおりで、検挙人員は1,481人と前年に比べ168人(12.8%)増加

表2-42 悪質な、少年の福祉を害する犯罪の被疑者に占める暴力団構成員数(昭和56年)

図2-19 青少年保護育成条例による雑誌等の有害指定件数と雑誌自動販売機台数(昭和47~56年)

した。
(エ) 出版関係業界への自粛の要請
 警察庁では、56年11月に出版関係業界の代表者を集め、「少年と出版物に関する懇談会」を開催して少年非行の実情を説明するとともに、有害雑誌等の影響を受けたと思われる非行事例を紹介するなどして、関係業界の自粛を要請した。また、同時に、婦人、青少年団体へも関係資料を送付し、関係業界への働き掛けを依頼した。

表2-43 雑誌自動販売機の取締り状況(昭和55、56年)

(オ) 地域ぐるみの環境浄化活動
 有害環境浄化のために、警察では、53年から環境浄化重点地区活動を開始している。56年には、全国で警察庁指定85地区と都道府県警察指定242地区を「少年を守る環境浄化重点地区」として設定した。指定を受けた地区では、地域住民が中心となって「有害図書自動販売機の撤去運動」、「白ポスト運動」、「環境浄化住民大会」、「少年を守る店の設定」等の環境浄化活動を推進している。このような地域住民の活発な活動により、56年に全国で撤去された雑誌自動販売機の数は、表2-44のとおり3,482台に上っている。

表2-44 雑誌自動販売機の撤去状況(昭和55、56年)

(3) 今後の課題
 最近の極めて憂慮される少年非行の現状に対処し、これを効果的に抑止していくためには、現在行っている諸対策を一層強力に推進するとともに、今後は、国民各層の一層の協力を得ながら、第2節で分析した少年非行の諸要因を解消するための対策を推進していく必要がある。
(ア) 少年の規範意識の啓発
 少年の規範意識の低下に歯止めをかけ、これを啓発するためには、少年の補導活動や少年相談だけでは不十分であり、今後は、家庭、学校、地域社会と一体となってより有効な施策を講じなければならない。
 このため、警察では、57年度から「少年を非行からまもるパイロット地区活動」を全国約200箇所において実施することとしている。これは、少年を非行からまもる必要性が高い地域において、小学校高学年と中学生を対象に、家庭、学校、地域社会の協力の下に、広報啓発活動の推進、非行防止のための座談会や教室の開催等を行うことによって、して良いことと悪いことのけじめを教えようとするものである。これと併せて、今後は、関係機関、関係団体等とも協力して、空きかん整理等の環境美化活動その他の社会参加活動に少年の参加を求めることによって少年に社会を構成する一員としての自覚を促し、また、各種体育スポーツ活動を通じて少年に、克己心、連帯感をはぐくむように促すとともに、社会生活のルールを身に付けさせるように努めなければならない。
(イ) 少年の不良交友関係の解消
 第2節で分析したとおり、少年非行の背景には、友人関係、特に非行集団が大きな影響を及ぼしている。今後は、地域社会と一体となって、問題のある交友関係を初期の段階で解消するよう努力するとともに、継続的に非行集団の解体補導と少年の再加入防止の活動を強力に推進しなければならない。
 このようなことを目的として、57年度には、少年警察協助員制度が発足した。少年警察協助員は、非行少年を非行集団から離脱させるとともに、その非行の再発を防止するための指導活動を行うことを任務とするものであり、少年の補導について豊富な経験と熱意と行動力のある民間有志者のなかから警察本部長によって委嘱される。今後、この制度の充実を図ることによって、非行集団の解体補導と少年の再加入の防止を徹底する必要がある。
(ウ) 総合的な有害環境浄化活動
 有害環境浄化活動は、法令による取締り、関係業界の自主規制、地域住民による環境浄化活動の3つを柱として行われている。
 今後、有害環境の浄化を一層徹底していくためには、モニターを委嘱するなどして有害環境の実態把握を徹底するとともに、関係法令の整備を検討するなどして取締りの一層の強化を図り、関係業界に対しては、更に広範囲に自粛を要請していかなければならない。これと併せて、地域社会における有害環境浄化活動の自主的な盛り上がりを図るため、これに対する助言と支援を積極的に行うとともに、これらの地域住民を中心とする活動と警察や関係機関、関係団体の活動とを相互に連動させ、地域ぐるみの総合的な有害環境浄化活動を積極的に推進していく必要がある。


 少年非行問題を根本的に解決するためには、なによりもまず、秩序と社会道徳を守り育てていく風潮が高まり、社会全体の規範が確立されることが必要である。そして、そのなかで、国民の一人一人が、自らの行動が少年の健全育成に影響を与えることを考慮して、その姿勢を正すとともに、それぞれ の家庭、学校、地域社会において、子供が社会的ルールを守り、他人への思いやりと自主性を持った少年として育つように努力しなければならない。また、少年の非行を防止し、その健全な育成を図ることは、我が国の将来を左右する重要な問題であり、今後は、これらの少年の健全育成のための努力が、単に国民一人一人のレベルでなく、社会全体に定着し、非行防止のための国民的な運動として高まっていくことが必要であると考える。


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