第5章 少年の非行防止と保護活動

1 少年非行の現状

 次代を担う少年の非行防止を図り、その健全な育成を期することは、社会の将来の発展にかかわる重要な問題である。しかし、一時期減少を続けていた少年非行は、昭和48年以降増勢に転じ、55年には、刑法犯少年が16万6,073人と戦後最高を記録するとともに、全刑法犯検挙人員に占める少年の割合も4割を超えるなど、極めて憂慮される状況となっている。
 内容的には、非行の低年齢化やごく普通の家庭の少年によるいわゆる遊び型非行の多発が目立っているが、それとともに、暴走族による凶悪、粗暴事犯や中・高校生の校内暴力事件等の集団による非行、あるいは、シンナーや覚せい剤等の薬物乱用事犯が著しく増加しているほか、家庭内暴力も顕在化してきている。
 一方、少年を取り巻く社会環境はますます悪化しつつあり、少年に有害な影響を与える出版物、広告物、映画、放送等のはん濫や、深夜喫茶店、ディスコ、ゲームセンター等の増加など、少年の非行を助長し、健全な育成を阻害する要因が依然として増大している。
 このような厳しい情勢に対処するため、警察は、非行少年等の早期発見と適正な補導を目的とする補導活動、家出や自殺の防止、福祉犯の取締り等の保護活動、有害環境から少年を守るためのいわゆる環境浄化活動の推進に努めている。また、少年の健全育成に関係する機関、団体との連携を強化し、少年補導員等民間ボランティアの協力を得て、家庭、学校、地域社会が一体となった地域ぐるみの非行防止活動の推進に努めている。
(1) 少年非行の概況
ア 非行少年等の補導数とその推移
 警察は、非行少年(注)の早期発見に努め、発見した非行少年について捜 査や調査を行い、関係機関に送致、通告し、あるいは注意、助言を行い、必要に応じて家庭、学校等へ連絡してその指導を促すなどの補導活動を行っている。
 昭和55年に警察が補導した非行少年の数は、表5-1のとおりである。
 過去10年間の非行少年の推移は、図5-1のとおりである。刑法犯で補導した少年(以下「刑法犯少年」という。)の数は、48年から増加傾向にあったが、55年は戦後最高を記録した。特別法犯で補導した少年も同様に増加傾向を示している。また、触法少年(刑法)は、52年から増加に転じ、55年は著しく増加した。ぐ犯少年と交通事故に係る業務上(重)過失致死傷で補導した少年は、40年代末からほぼ横ばいとなっている。
 このほか、非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、家出等の不良行為を行っていた少年を、55年には107万6,197人補導している。

表5-1 非行少年の補導数(昭和54、55年)

(注) 非行少年とは、犯罪少年、触法少年、ぐ犯少年をいう。
(1) 犯罪少年…罪を犯した14歳以上20歳未満の者(少年法第3条第1項第1号)。
(2) 触法少年…刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者(少年法第3条第1項第2号)。
(3) ぐ犯少年…性格、行状等から判断して、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者(少年法第3条第1項第3号)。

図5-1 非行少年の推移(昭和46~55年)

イ 戦後の少年非行の推移
 戦後における少年非行の推移を主要刑法犯(注1)で補導した少年の人員、人口比(注2)でみると、図5-2のとおりで、昭和26年をピークとする第1の波、39年をピークとする第2の波、そして40年代後半から始まる第3の波がある。
 第1の波では、18、19歳の年長少年による窃盗、強盗、詐欺等の財産犯が、第2の波では、粗暴犯、凶悪犯が、多くを占めていた。また、40年代後半から始まっている第3の波では、万引きや乗り物盗のいわゆる遊び型

図5-2 主要刑法犯少年の人員、人口比の推移(昭和24~55年)

非行の増加と、シンナー等の薬物乱用、性の逸脱行為等が目立つほか、最近は、集団の威力を背景とした暴走行為や校内暴力といった粗暴性の強い非行が著しく増加している。
(注1) 主要刑法犯とは、刑法犯のうち凶悪犯(殺人、強盗、放火、強姦)、粗暴犯(暴行、傷害、脅迫、恐喝)、窃盗犯、知能犯(詐欺、横領)、風俗犯(賭博、猥褻(わいせつ))をいう。
(注2) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導数をいう。
ウ 戦後最高を記録した刑法犯少年の人員、人口比
 昭和55年の刑法犯少年は、人員で戦後最高を記録しただけでなく、人口比は17.1人となり、これまでの最高であった54年の14.5人を上回り、戦後最高を記録した。また、全刑法犯検挙人員に占める少年の割合も年々増加を続け、55年には42.4%に上った。
 最近5年間の刑法犯少年と刑法犯で検挙した成人(以下「刑法犯成人」という。)について、その人員と人口比の推移をみると、表5-2のとおりである。

表5-2 刑法犯少年と刑法犯成人の人員、人口比の推移(昭和51~55年)

(2) 刑法犯少年の状況
ア 著しく増加した凶悪、粗暴犯
 最近5年間の刑法犯少年の包括罪種別補導人員の推移は、表5-3のとおりである。窃盗犯、知能犯は年々増加を続けており、昭和53年以降微増していた凶悪犯は、55年には前年に比べ212人(12.3%)増加し、一時減少を続けていた粗暴犯も、55年には前年に比べ3,735人(23.1%)の著しい増加となっている。このような凶悪、粗暴犯の増加は、14、15歳の年少少年による校内暴力事件や17~19歳の暴走族少年による事犯の増加がその大きな要因となっている。
 これを個々の罪種別にみると、凶悪犯では、表5-4のとおり前年に比べ強盗が36.4%、強姦が5.9%増加している。
 また、粗暴犯では、表5-5のとおり前年に比べ特に、暴行が23.4%、傷

表5-3 刑法犯少年の包括罪種別補人員の推移(昭和51~55年)

表5-4 凶悪犯の罪種別補導状況(昭和54、55年)

表5-5 粗暴犯の罪種別補導状況(昭和54、55年)

害が28.5%増加している。
 一方、刑法犯少年に占める窃盗犯の割合は依然として高く、55年は76.0%となっている。なかでも、万引き、自転車盗、オートバイ盗等犯行の手段が容易でしかも動機の単純ないわゆる遊び型非行が多い。
イ 顕著な低年齢化と増加の著しい生徒非行
 昭和55年の刑法犯少年の年齢別構成比は、図5-3のとおりで、15歳が26.0%を占めて最も多く、次いで14歳、16歳の順となっている。各年齢層とも前年に比べて増加しているが、特に、15歳は24.6%、14歳は17.3%増加したのが目立っている。また、14歳に満たない触法少年も、前年に比べ29.3%増加するなど、低年齢化の傾向は一層顕著となっている。
 刑法犯少年の学職別構成比は、図5-4のとおりで、高校生が36.4%と最 も多く、次いで中学生の34.2%となっており、中・高校生を併せると、全刑法犯少年の7割を占めている。

図5-3 刑法犯少年の年齢別構成比(昭和55年)

図5-4 刑法犯少年の学職別構成比(昭和55年)

ウ 再び増加した女子非行
 最近5年間の刑法犯少年の男女別補導人員の推移は、表5-6のとおりで、男子は52年以降一貫して増加しており、55年も前年に比べ15.0%の増加となっている。一方、女子は54年には一時減少したが、55年には再び増加した。

表5-6 刑法犯少年の男女別補導人員の推移(昭和51~55年)

2 特徴的な非行の形態

 最近の少年非行の特徴的な形態としては、集団の威力を背景とした暴走族による凶悪、粗暴事犯(第2章)や、中・高校生による校内暴力事件、家庭や社会への不適応現象としての家庭内暴力、更には社会からの逃避や遊びを目的としたシンナー、覚せい剤等の薬物乱用事犯等が注目される。
(1) 深刻化する校内暴力
 昭和55年の後半は、全国各地でいわゆる校内暴力事件(注)が続発したが、特に中学生の教師に対する暴力事件が急増して、大きな社会問題となった。
(注) 校内暴力事件とは、学校内における中・高校生の
○ 教師に対する暴力事件
○ 集団による又は集団の威力を背景とした生徒間の暴力事件、学校施設や備品等に対する損壊事件
 のほか、犯行の原因、動機が学校と密接な関係を有する校外での事件をいう。
ア 校内暴力事件の発生状況
 昭和55年に警察が認知した校内暴力事件の状況は、表5-7のとおり1,558件発生し、前年に比べ350件(29.0%)の著しい増加となった。

表5-7 校内暴力事件の状況(昭和54、55年)

 このうち、特に教師に対する暴力事件は394件発生し、前年に比べ162件(69.8%)の激増となり、しかも、これら教師に対する暴力事件のうち94.4%が中学で発生している。最近5年間の教師に対する暴力事件の推移は、表5-8のとおりで、55年は51年に比べ発生件数で約2.5倍、被害教師数で約2.3倍、補導人員で約1.9倍とそれぞれ大幅に増加している。

表5-8 教師に対する暴力事件の推移(昭和51~55年)

イ 校内暴力事件の特徴的傾向
 最近の校内暴力事件、特に教師に対する暴力事件の特徴的傾向は、次のとおりである。
○ 教師に対する暴力事件の約半数が、授業時間中の教室内で大勢の生徒を前にして行われている。
○ 犯行の手段として、木刀、鉄パイプ、ヌンチャク、モデルガンを使用したり、脅迫の言辞も暴力団まがいであるなど、凶暴性が強まっている。
○ 喫煙、シンナー乱用、授業妨害、校則違反等で教師から注意を受けたのに激高して暴力に及ぶ事件が多い反面、平素の厳しい生徒指導に対するうらみや仕返しとして、計画的かつ執ように暴力を振るう事件もみられる。
○ 校内の粗暴集団の背後には、卒業生の元番長や暴走族、地域不良グループ等校外の粗暴集団が存在し、これらの影響を受けて校内暴力事件を引き起こす場合が多い。
○ 地域的にみると、昭和52、53年ごろは、大阪、京都、兵庫を中心とする近畿地方に多く発生していたが、55年には、東京で激増しているほ か、関東、近畿等の大都市圏のみならず、地方での発生も目立っている。
○ 発生時期をみると、かつては主に卒業式前後が多かったが、現在は、年間を通じて発生している。
〔事例1〕 校内番長グループの中学3年生A(15)は、休み時間に教室でカセットテープをかけて大騒ぎしているところを教師に見付かり注意を受けた。Aを含む校内番長グループ9人は、これに激高し、竹刀を持って職員室に押し掛け、6人の教師に頭突き、足げり、顔面殴打等の暴行を加えた。この少年たちのグループは、暴走族「一寸法師」の影響下にあった(警視庁)。
〔事例2〕 卒業生で暴力団員となっている少年(18)の影響を受けて、同級生から現金を脅し取っていた校内番長グループの中学生4人(14、15)は、級友を殴ったことで教師に注意され、これに激怒し、校舎の屋上に教師6人を呼び出して革ベルト等を振り回し、殴る、けるの暴行を加えた(神奈川)。
〔事例3〕 中学3年生A(15)が音楽室横のシャッターにいたずらしているのを教師に注意されたことから、Aら仲間の中学生23人は、教師の注意の仕方が悪いと激高して職員室に押し掛け、12人の教師に殴る、けるなどの暴行、脅迫を加えた(三重)。
〔事例4〕 高校2年生(17)は、盗み等の非行で仲間の2人とともに学校から謹慎処分を受けたが、ほかの2人が既に処分解除となっているのに自分は処分解除にならないのは片手落ちであるとして、生活指導担当教師を海岸に呼び出し、ヌンチャクで頭部を殴打するなどして全治1週間の傷害を与えた。さらに、「おれも坊主になったからお前も坊主になれ。」と、その教師を理髪店に無理矢理連れて行き、丸坊主にさせた(長崎)。
ウ 校内暴力事件多発の背景等
 少年非行の増加の要因、背景としては、「少年自身の忍耐心の欠如」、「家庭におけるしつけ機能の低下」、「少年を取り巻く有害環境の存在」等が指摘されているが、校内暴力については、次のような問題点を挙げることができ る。
(ア) 少年自身の問題
 昭和55年に教師に対する暴力事件で警察に補導された少年592人を対象とした調査によれば、学業成績が下から3割以内の者が全体の85.1%を占めている。現在の学校教育のなかで授業についていけず、自分の将来に希望や目標を見い出せない少年が、力の誇示というゆがんだ形で欲求不満を解消し、自己顕示欲を満たそうとしていることがうかがわれる。
 また、非行歴をみると、過去に何らかの犯罪で警察に補導されたことがある者が50%を超え、特に3回以上補導された者が10%を上回るなど、一般少年の非行者率が6~7%(前出P32)であるのに比べ非常に高い割合となっている。犯行の凶暴さ等と併せて考えると、これらの少年たちのなかには、してよいこと、悪いことのけじめがつかない上、物事を冷静に判断することができず、短絡的、衝動的な行動に走りやすい性格の者が多いことがうかがわれる。
(イ) 家庭の問題
 保護者の養育態度は、放任が全体の72.8%、でき愛が10.8%となっており、家庭に親子の対話がなく子供の好き勝手にさせたり、あるいは親が過度に子供を甘やかしていることがうかがわれる。これらの少年の家庭では、悪い行為には相応の罰が与えられるという基本的なしつけを小さいうちからきちんとせず、保護者自身も、しつけの大切さに対する認識を欠いているような場合が多い。
(ウ) 学校側の問題
 昭和55年の教師に対する暴力事件をみると、被害教師は生徒指導担当教師や生徒の指導に厳しい教師に多い。これは、校長以下教頭、教職員に生徒指導についての明確な意思統一ができておらず、生徒の非行に対する学校全体としての対応がないため、多くの教師が生徒指導に無関心であるなかで一部の教師が個々に対応を迫られているためとみられる。また、生徒の非行を内 部的に処理しようとして適切な対応をとらず、これが逆に暴力行為を助長し、結果的に事態を悪化させている場合も多い。
(エ) 社会的風潮の問題
 最近の暴走族の問題にみられるように、社会の一部に暴力的な風潮や社会の秩序やしきたりに反抗するといった傾向があり、それらが心身の未成熟な少年に悪影響を与えている一面があることも見逃せない。
エ 警察の対策
 校内暴力は、本来、学校当局の適切な生徒指導によって、その未然防止が図られることが望ましいが、最近、学校教育の限界を超える事案が多発していることもあって、警察としては、その責務を果たすため、これに適切に対処していく必要がある。ただ、学校は教育の場であることも十分考慮し、学校、教育委員会等と緊密な連携をとりながら、所要の措置を講ずるよう努めている。
(ア) 事件の未然防止対策
 警察は、学校、教育委員会、PTA、地域社会等と各種連絡会議の活用等を通じて密接な連携を図るとともに、校外補導活動を強化し、番長グループ等の解体補導を徹底しているほか、番長グループと暴走族や地域不良グループ等校外粗暴集団との関連の切断に努めている。
〔事例1〕 葛飾、江戸川地域と多摩地域で校内暴力事件がひん発したため、警視庁は両地域を「校内暴力抑止対策特別推進地区」に指定した。生徒指導担当教師や市、区教育委員会職員との連絡会議、PTA役員や青少年対策地区委員会、防犯協会等のメンバーとの連絡会議等を開催し、連携を緊密にするとともに、少年補導員等民間ボランティアと協力して校外での補導活動を強化した。この結果、校内暴力事件は上半期に52件発生していたが、下半期には発生は19件と激減した(警視庁)。
〔事例2〕 市立中学校において、番長グループ18人が教師6人に集団暴力を加え、3人の生徒が逮捕されるという校内暴力事件が発生した。警察 と学校、PTAは連携を強化し、PTAによる校内の特別パトロールの実施等の諸対策を講じた。また、学校の生徒指導とあいまって、生徒会も非行生徒を暖かく迎えるとともに、生徒間の仲間意識を育てるため、「あいさつ運動」をスタートさせるなどした。この結果、番長グループは解散し、校内暴力事件の発生はみられなくなった(神奈川)。
(イ) 事件発生時の対策
 校内暴力事件の発生を認知したときは、速やかに学校当局と連絡をとり、現場措置を講じている。補導した生徒については、犯行に至る原因、動機、家庭環境、校内における平素の行動等を調査するとともに、家庭裁判所、少年鑑別所、少年院等の関係機関と連携し、その少年の再非行防止と健全育成のための適切な処遇に努めている。さらに、事後においても事件の再発、拡大の防止のために、学校や地域の状況、校外の粗暴集団との関連等の背景や原因を究明して、問題の根を断つよう努めている。
(2) 顕在化する家庭内暴力
ア 家庭内暴力の実態
 最近、少年が家庭内で暴力を振るう事案が顕在化してきている。家庭内暴力はすべてが届出られるわけではないので、正確な実態は握は困難であるが、昭和55年に少年相談や少年の補導活動を通じて警察がは握した件数は、1,025件に上り、男子が88.0%を占めて圧倒的に多い。また、学職別では、中学生が35.1%を占めて最も多く、次いで高校生、無職少年、有職少年の順となっている。
 家庭内暴力には、家庭内暴力のみの純型と、これに登校拒否や金銭持出し、無断外泊等の不良行為、万引き等の非行が伴っているものがある。  55年の家庭内暴力をこの類型別にみると、表5-9のとおり「家庭内暴力のみ」が41.3%と最も多く、次いで「家庭内暴力十不良行為、非行」が28.1%、「家庭内暴力+登校拒否」が17.4%、「家庭内暴力十登校拒否+不良行為、非行」が13.2%となっている。

表5-9 家庭内暴力の類型別状況(昭和55年)

 家庭で暴力事件を起こした少年は学校の成績は比較的よく、家庭外では「いい子」で通っている反面、性格は内向的で神経質な者が多い。
 このような暴力は、自立期に家庭や社会にうまく適応できない少年が緊張や不安からいら立って振るう場合が多い。特に、高学歴社会の進展のなかで保護者の保護下にある期間が延び、少年の自立が更に遅れているほか、家庭内におけるしつけ機能の低下も家庭内暴力を誘発している一因とみられる。
 暴力の対象、程度の状況は、表5-10のとおりで、対象は、61.3%が母親で、次いで父親、家財道具等の順となっている。また、暴力の程度は、殴る、けるなどの単純暴行が59.0%を占めて最も多く、次いでドアや家財道具等を壊す物件破壊が24.7%に上っているほか、暴力がエスカレートして家族に傷害を与えたものが4.8%となっている。
 両親の子供に対する養育態度は、表5-11のとおりである。父親は放任が最も多く、次いで普通、過保護の順になっているが、母親の場合は、過干渉、過保護が多く、このような養育態度が家庭内暴力の一因となっているとみら れる。
 また、その原因、動機は、表5-12のとおりで、しつけ等親の態度に反発したものが44.6%で最も多く、次いで万引き等の非行をとがめられてが24.1

表5-10 家庭内暴力の対象、程度の状況(昭和55年)

表5-11 両親の養育態度(昭和55年)

表5-12 家庭内暴力の原因、動機別状況(昭和55年)

%、バイク等の物品購入の要求が受け入れられずにが11.9%の順となっている。
〔事例〕 学校では目立たない男子中学3年生(15)は、教育熱心な公務員の家庭で育てられたが、成績の良かった兄とことごとに比較されていやけがさし、登校を拒否するようになり、それを注意する母親に殴る、けるの暴力を振るうようになった。12月の朝、母親に喫煙を発見されて言い争っているうち、少年は激高して自宅応接間に灯油をまいて放火し、家を全焼させた。母、子とも全身火傷で、母親は重傷を負い、少年は入院中に死亡した(大阪)。
イ 警察の対応
 家庭内暴力は、第一次的には家庭内で解決が図られるべきものであるが、警察は、少年相談等を通じて家庭内暴力の相談を受けた場合には、必要な指導、助言を行い、早期解決に努めている。また、専門的な指導を必要とする場合には、児童相談所、医療相談機関等に引き継いでいる。家族に傷害を与えるなどの事件に発展した場合には、その事件の背景を十分に考慮した上、処理に当たっている。
(3) 増加する薬物乱用と目立つ女子の性非行
ア 広がるシンナー等の乱用
 シンナー等を乱用すると心身に障害を受けるほか、その薬理作用により、犯罪を犯すことも多い。過去10年間におけるシンナー等乱用少年の補導人員の推移は、図5-5のとおりである。昭和47年8月に毒物及び劇物取締法の一部が改正され、シンナー等の乱用行為と販売行為が規制されたため、48年には補導人員が大幅に減少したが、その後再び増加に転じ、55年は前年に比べ4,728人(11.7%)増加した。学職別にみると、有職少年が39.2%と最も多く、次いで無職少年、高校生の順となっている。前年に比べると、無職少年の増加(21.4%)が目立っている。
 また、シンナー等の入手方法をみると、全体の49.5%の者が自転車店、金物雑貨店、スーパー等から購入しているが、暴力団や不良グループから購入

図5-5 シンナー等乱用少年の補導人員の推移(昭和46~55年)

している者も37.5%を占め、なかには、暴力団が市価の80倍もの値段で少年に販売するといった悪質なケースもあった。
〔事例〕 無職少年(18)は、1年間にわたりシンナー吸入を繰り返したため、次第に目が見えなくなり、大小便を垂れ流すなど廃人同様となった。母親は添い寝して身体をさするなど介抱に努めていたが、症状のあまりのひどさからわが子の将来を悲観し、包丁で少年を殺害した(大阪)。
 最近5年間のシンナー等の乱用による少年の死者数の推移は、図5-6のとおりで、55年は50人と、前年に比べ6人(13.6%)増加した。ビニール袋を頭からかぶってシンナー等を乱用しているうちに、神経が麻ひして自分で袋を外せなくなり、窒息して死亡する少年も目立っている。

図5-6 シンナー等の乱用による少年の死者数の推移(昭和51~55年)

イ 急増する覚せい剤事犯
 昭和55年の少年による覚せい剤事犯の補導状況は、表5-13のとおりで、補導人員は2,031人と、前年に比べ368人(22.1%)の大幅な増加となっている。これを学職別にみると、無職少年が1,057人で全体の52.0%を占めているほか、中学生が29.3%増加したのが注目される。
〔事例〕 暴力団員(38)らは、組の資金を得るため、街頭で知り合った家出女子中学生ら

表5-13 少年の覚せい剤事犯補導状況(昭和54、55年)

8人を組事務所に連れ込み、逃げ出せないように覚せい剤を打って中毒にした上、覚せい剤をえさに暴力団員や工員らを相手に売春させていた(茨城)。
ウ 依然として目立つ女子中・高校生の性非行
(ア) 過半数を占める女子中・高校生の性非行
 昭和55年に性非行で補導した少年(注)は、表5-14のとおり8,105人で、ほぼ前年並みであった。これを学職別にみると、高校生が2,989人で依然として最も多く、次いで無職少年2,008人、中学生1,617人の順となっており、中・高校生で全体の56.9%を占めている。
(イ) 興味(好奇心)から始まる性非行
 性非行に走ったきっかけをみると、表5-15のとおり誘われてが全体の48.7%を占め、次いで自らすすんでが47.9%となっている。その動機をみると、興味(好奇心)からとする者が圧倒的に多く、全体の74.0%に上る

表5-14 女子の性非行の学職別状況(昭和54、55年)

表5-15 女子中・高校生の性非行の動機別状況(昭和54、55年)

が、暴力団員等から脅されたり、だまされて売春等をしていたケースも2.8%を占めている。
〔事例〕 女子中学3年生(14)は、友人から借りたポルノ雑誌に刺激されてセックスに興味を持ち、自由に遊びたくなり家出し、発見保護されるまでの間、知り合った男数人と性行為を繰り返していた(愛知)。

3 少年の補導、保護活動

(1) 非行少年等の早期発見補導と適正な処遇
 少年の非行は芽のうちに摘み取り、再び非行に陥らないようにすることが最も大切である。警察では、非行少年の早期発見補導に努め、その処遇に当たっては、少年の特性に十分配慮しながら、少年法や児童福祉法の規定に従い、適切な意見を付して関係機関に送致、通告している。また、非行少年に該当しない不良行為少年に対しても、本人あるいは保護者に助言、指導している。
(2) 少年の保護活動
ア 少年相談
 警察では、少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを親や教師等に打ち明けることができない少年や、子供の非行、家出等の問題で悩む保護者等からの相談に対し、助言や指導を行っている。この少年相談を、気軽に、より多く利用してもらうために、45都道府県警察で「ヤング・テレフォン・コーナー」等の名称で電話相談も実施し、悩みごとの早期解決に努めている。
 昭和55年に受理した少年相談は、全国で約10万件に上り、前年に比べ6.9%増加している。相談者の状況は、表5-16のとおりで、保護者等からの相談が全体の67.6%、少年からの相談が32.4%となっている。少年では中・高校生が多く、また、女子が男子より多い。少年相談のうち56.3%が電話相談によるものである。

表5-16 相談者の状況(昭和55年)

図5-7 少年相談の内容(昭和55年)

 相談の内容は、図5-7のとおりで、非行問題のほか、異性、学業、健康等様々な問題に及んでいる。
 これらの相談を受けて、警察で指導、助言を行ったものが90.1%に上り、このうち、特に一定期間指導したものが全体の8.6%を占めている。そのほか、他機関に紹介したものが5.1%となっている。
イ 家出少年の保護
(ア) 依然として多い女子少年の家出
 昭和55年に警察が発見保護した家出少年は、表5-17のとおり5万7,620人で、ほぼ前年並みとなっている。男女別にみると、ここ数年女子が男子を上回り、55年も女子が全体の54.5%を占めている。学職別では、学生・生徒が69.2%を占め、特に、小学生では男子、高校生では女子が多くなっている。

表5-17 家出少年の学職別発見保護状況(昭和55年)

(イ) 半数以上を占める逃避型家出
 昭和55年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した少年について、家出の原因、動機をみると、表5-18のとおりである。家庭、学校等少年の生活周辺で起こったトラブルから逃れようとする逃避型が54.8%、遊び癖、放浪癖等個人の性格等に起因したものが34.2%、同せい、就職等何らかの目的をもった欲求指向型が9.4%となっている。
 また、強化月間中に保護した家出少年のうち、おおむね11人に1人(男子の場合は7人に1人)が非行に走り、おおむね20人に1人(女子の場合は12

表5-18 家出の原因、動機別状況(昭和55年)

人に1人)が犯罪の被害者となっている。
〔事例〕 女子中学生5人(14、15)は、家出してディスコ等で遊ぶうちに暴力団員と知り合い、誘われるままにホテルやモーテルで淫行された上、暴力団員、会社社長、職人等を相手に売春を強要されていた(神奈川)。
ウ 少年の自殺の実態
 ここ数年、低年齢層の少年による衝動的な自殺が目立っていたが、昭和55年に警察が認知した少年の自殺者は678人で、前年に比べ241人(26.2%)の大幅な減少を示し、これまでの最低であった45年の757人を下回り、戦後最低を記録した。
 男女別では、男子が全体の66.5%、女子が33.5%を占めており、学職別では、表5-19のとおり高校生が最も多く、次いで有職少年、無職少年、中学生の順となっている。
 原因、動機別にみると、男子は学校問題が25.1%と最も多く、次いで病苦等(12.2%)、家庭問題(12.0%)、男女関係(11.5%)の順となっている。女子は、男女関係が27.8%と最も多く、次いで学校問題(16.3%)、家庭問題(13.7%)の順となっている。(統計5-5(P310)参照。)
〔事例〕 男子小学2年生(8)は、喫茶店を経営している父親の帰りが遅く、平素から買物や旅行の約束を守ってくれず不満に思っていたが、た

表5-19 自殺少年の学職別状況(昭和54、55年)

またま午後9時ごろ帰宅した父親が実家に連れて行ってくれなかったことから衝動的に首つり自殺した(福井)。
エ 福祉犯の取締り
 少年を取り巻く環境が悪化するなかで、売春やいわゆる人身売買等少年を食いものにする犯罪が多発している。警察では、これらの犯罪を福祉犯(少年の福祉を害する犯罪)と名付け、その取締りを強力に推進し、少年非行を助長する原因を排除するとともに、少年の心身や福祉に有害な状態から、被害少年を保護、救出する活動を積極的に展開している。
(ア) 増加を続ける福祉犯と女子中・高校生の被害
 最近5年間の福祉犯の被疑者、被害者数の推移は、表5-20のとおりである。被害者は昭和51年からほぼ横ばい状態であるが、被疑者は年々増加を続け、55年は51年の約1.3倍になっている。

表5-20 福祉犯の被疑者、被害者数の推移(昭和51~55年)

 55年に検挙した福祉犯の被疑者は、1万1,662人である。これを法令別にみると、図5-8のとおりで、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為の禁止、有害図書の販売の制限等)が47.5%で最も多く、次いで風俗営業等取締法違反(年少者に接客させる行為の禁止等)、児童福祉法違反(児童に淫行させる行為、児童を支配下に置く行為等)の順となっている。

図5-8 福祉犯検挙人員の法令別構成比(昭和55年)

 一方、福祉犯の被害者を男女別にみると、表5-21のとおりで、男子が5,362人(33.3%)、女子が1万753人(66.7%)となっている。女子被害者を学職別にみると、無職少年が3,398人と最も多く、次いで高校生、有職少年、中学生の順となっており、中・高校生が女子被害者の約半数を占めている。

表5-21 福祉犯被害者の学職別状況(昭和55年)

(イ) 暴力団員による悪質福祉犯の状況
 昭和55年に福祉犯として検挙された暴力団員は、1,118人に上り、前年に比べ200人(21.8%)増加し、全福祉犯被疑者の9.6%を占めている。特に、 福祉犯のうち最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」、「淫行をさせる行為」の4形態についてみると、表5-22のとおりで、暴力団員の占める割合は22.8%と一層高くなっている。その手口も、家出少女らに覚せい剤を打ち、中毒者に仕立て上げ、覚せい剤の購入代金欲しさに売春するよう仕向けるなどの悪質な事例が後を絶たない。

表5-22 悪質福祉犯被疑者のなかに占める暴力団員数(昭和55年)

〔事例〕 暴力団組長(32)ら3人は、家出女子中学生3人に覚せい剤を打って自ら淫行した上、他の暴力団員らを相手に売春させた後、スナック等に1人当たり前借金30万円で売り渡していた(福岡)。

4 地域社会との連携による非行防止活動

 少年の非行防止の実をあげるためには、警察の活動だけではなく、関係機関、団体をはじめ家庭、学校、地域社会が一体となった地域ぐるみの総合的な非行防止活動を推進する必要がある。
(1) 地域における非行防止活動
ア 全国少年補導員協議会の結成
 少年補導員は、地域社会で自発的に補導活動、少年相談活動、啓もう活動等を行い、地域ぐるみの非行防止活動の中核として活発な活動を続けるとともに、警察と住民とのパイプ的役割を果たしており、昭和55年7月末現在、全国で約5万2,000人に上っている。少年補導員制度は、37年4月発足したものであるが、55年7月、これらの全国組織である全国少年補導員協議会が結成され、今後一層の活躍が期待されている。
イ 地域における関係機関との連携
 地域において警察と連携して非行防止活動を行っている機関として、学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会、少年補導センターがある。
 学校警察連絡協議会は、児童、生徒の非行を防止するため設けられたもので、昭和55年4月末現在、全国で約2,100組織あり、小学、中学、高校の約9割に当たる約3万6,000校が参加している。学校と警察は、この場を通じて非行防止活動の経験や資料の交換、具体的な非行防止対策の検討を行うほか、協力して街頭補導活動等を行っている。
 職場警察連絡協議会は、勤労少年の非行防止対策を推進するために設けられたもので、55年4月末現在、全国で約1,000組織あり、約3万の事業所が加入している。この連絡協議会では、各種会合を通じて勤労少年の非行防止対策について検討し、警察と協力して非行防止活動を行っている。
 少年補導センターは、地域における非行防止活動を総合的、計画的に行うための拠点として地方公共団体等により設けられており、55年末現在、全国で575箇所設置されている。このセンターでは、警察職員、教育関係者、少年補導員、民間有志等が協力して、街頭補導、少年相談、有害環境の浄化等の活動を行っている。
ウ 青少年を非行からまもる全国強調月間
 効果的な非行防止活動を行うためには、国民一人一人の非行防止意識の高揚と非行防止活動への積極的な参加が不可欠である。昭和54年から開始された「青少年を非行からまもる全国強調月間」はこの観点に立ったもので、55年は第2回目に当たる。月間中に行われた県民大会、地区大会、パレード等の行事に参加した人員は延べ約152万人に上り、非行防止意識の高揚等に大きな成果を収めた。
(2) 少年を取り巻く有害環境の浄化活動
ア 青少年保護育成条例に基づく活動
 有害環境の影響から少年を保護するため、昭和55年末現在、46都道府県において青少年保護育成条例が制定されている。この条例は、青少年に有害な ものとして知事が指定した興業、図書、広告物等を青少年(18歳未満の者)に観覧、閲覧させたり、販売したり、あるいは掲示することの禁止、制限等を主な内容としている。また、自動販売機の急激な普及に伴い、有害図書類の自動販売機への収納等を制限する県も多い。これらの条例に基づき、55年に有害興業の指定を受けた映画は延べ約9,000本、有害雑誌等の指定を受けた出版物は延べ約2万7,000冊に上っている。
イ 地域ぐるみの環境浄化重点地区活動
 有害環境の浄化のためには、青少年保護育成条例等の法令に基づく指導や取締りと併せて、地域ぐるみの住民運動や関係業界の自主規制が必要である。このため、警察では、昭和53年に環境浄化重点地区活動を開始し、55年には、全国で警察庁指定85地区と都道府県警察指定220地区を「少年を守る環境浄化重点地区」として設定した。指定された地区では、地域住民が中心となって「有害図書自動販売機の撤去運動」、「白ポスト運動」、「環境浄化住民大会」、「少年を守る店の設定」等の総合的な環境浄化活動を推進している。


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