第3章 地域に密着した警察活動

1 地域住民に身近な活動
-派出所に勤務する新任警察官の一日-

 ここに紹介する新任警察官は、神奈川県藤沢警察署藤沢駅前派出所に勤務している。同派出所は、国鉄東海道線、私鉄小田急線、江ノ島鎌倉線がそれそれ乗り入れる藤沢駅前に位置し、管内人口約9,500人、管内面積約1.2平方キロメートルで、付近は商店街、飲食店街、団地、一般住宅等が混在している。
 この新任警察官は、3箇月前に警察学校を卒業して同派出所に配置されたばかりである。昭和55年12月のある日の活動状況をその日記から拾ってみた。
 (午前9時) 「今日も1日がん張るぞ。」という気持ちで派出所勤務についた。制服を身に着けて街頭に立つと、まだ不安もあるが気持ちが引き締まる感じがする。午前中は、いつものように遺失届や拾得物の受理、地理案内等で多忙であった。
 (午後1時) 巡回連絡を始める。最初はなかなか話をするきっかけが分からなかったが、最近では、訪問先の家庭で目に付くものから話の糸口をつかむことができるようになった。今日最初に訪問した家では、お年寄りの主人と土地の歴史のことなどで話が弾み、そのうち警察に対する要望等も聞かせてもらい、みるみる30分近くが過ぎてしまった。更に6軒ほど巡回連絡を行ったが、騒音に対する苦情や暴走族に関する話等参考になる要望、意見が多かった。
 (午後5時) 家路を急ぐ歩行者が次第に増え、街の明かりが華やかさを帯びてきた。午後5時過ぎ、本署から「デパートで万引きが発生したので現場に行くように。」との指示があった。現場へ到着すると、デパートの保安室に 15、6歳の少女2人が黙って座っていた。駅前派出所では人日に付きやすいと考え、比較的人通りの少ない石上派出所へ連れてきた。2人の少女は反省の様子もなく、質問に対して反抗的であった。こちらもつい説教めいた口調になってしまう。そこで先輩から教えられた要領を思い出し、まず少女たちの気持ちをほぐそうとやさしく話し掛けた。少女たちは、しばらく押し黙っていたが、やがて「盗む気はなかったのですが・・・。」と少しずつ話し始めた。その後、少女たちを本署少年係に引き継いだが、立ち直ってくれればいいなと願った。
 (午後10時) 「酔っ払いが暴れている。」との110番があった。先輩と2人で現場へ急行した。厳しい寒さのなかで路上に座り込んでいる男は、完全に酔っ払っている。放置すれば凍死するかもしれない。男は、私たちの姿を見るなり雑言を浴びせ、私につばを吐きかけたが、黙ってその男を抱え起こして、本署で保護するために駆け付けたパトカーに乗せ、派出所に戻った。先輩から「よく我慢したなあ。」と言われ、胸に温かいものを感じた。
 (午後11時) パトロールに出る。警棒を握る手が冷たい。商店街を抜けて裏通りに入る。民家の明かりは既に消えているところが多い。少し大きな通りに出たとき、少年の運転する無燈火のオートバイが走ってきたが、「あっ」という間に通り過ぎてしまい、注意のタイミングを失ってしまった。派出所へ帰ろうとすると、目の前で自転車が急停車した。乗っているのは30歳ぐらいの男で、私の姿に驚いて急停車したようだ。自転車をよく見ると子供用のサイクリング車であり、不審に思って質問すると、男は「5年前に買った。」と主張した。新品同様であったので、所有者を確認するために無線で本署に連絡しようとすると、男は観念して盗んできたことを認めた。
 私が初めて捕えた犯人である。本署で被害者に自転車を返す際、何度も「ありがとうございました。」と礼を言われ、そのうれしそうな顔に接したとき充実感が込み上げてきた。
 (午前1時) 近くの交差点で交通事故が発生したとの110番があった。現場で交通整理に当たり、交通係の到着を待つ。しばらくして交通係員が到着 し、近くの派出所からも応援に駆け付けてくれた。事故の処理を終えたときは、既に午前3時を過ぎていた。
 新任警察官として3箇月が過ぎ、いろいろな事案の処理にもどうにか自信が付いてきた。これからは更に自信を持って仕事に当たり、人間味豊かな警察官となるよう一層努力したいと考えている。
(1) 常時警戒で地域の守り
 外勤警察は、地域住民の日常生活の安全と平穏を守るため、昼夜の別なく常に警戒体制を保ち、街頭における警戒監視、パトロールや各家庭等への巡回連絡を行い、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、各種事故防止のほか、迷い子や酔っ払いの保護、各種困りごと相談等幅広い活動を行っている。
 外勤警察の活動拠点であるとともに、警察の窓口の役割を果たしている派出所、駐在所は、全国の津々浦々に至るまで地域の要所に設置され、その数は、昭和55年4月現在、約1万5,000箇所に上る。このうち、重要な地域に設けられている派出所、駐在所には、警部補や巡査部長等の幹部を配置したり、業務負担の過重な駐在所については、地域の実情に応じて派出所への転換や勤務員の複数配置を行っている。また、本署から遠隔の地にある駐在所を対象に小型警ら車(ミニパトカー)の配置を進めている。
 このほか、機動警らに当たる警ら用無線自動車(パトカー)、都市部で集団パトロールを行う直轄警ら隊、繁華街や駅等で警戒に当たる警備派出所、幹線道路の要所で警戒に当たる検問所、沿岸等の水上パトロールを担当する警察用船舶(警備艇)等が置かれており、それぞれ連携を取りながら活動している。
ア 地域住民を守る警戒、警ら活動
 派出所、駐在所等における警戒活動や徒歩あるいはパトカーによるパトロール活動を強化するため、警察では、派出所、駐在所等における事務を合理化したり、事件、事故等の処理能力を向上させて、1人でも、1時間でも多く街頭の警戒、警ら活動ができるように努めている。警戒、警らに際しては、無線機を携帯して常に警察署やパトカー等と連絡をとりながら街頭活動 を行っているほか、パトカーと徒歩警らとを組み合わせたり、犯罪の多発地域を重点としたパトロールを実施している。パトロール中に戸締まりの不備な家庭等を見付けたときは、声を掛けたり又は「パトロールカード」に気付いた点を記入して注意を促している。また、警戒上重要な場所に設けられた立寄所への連絡、新興住宅地等での移動交番の開設等を行っている。
 このほか、家庭や事業所等を戸別に訪問して、犯罪の予防や交通事故の防止等について必要な連絡を行ったり、住民の警察に対する要望や意見等を聴くため巡回連絡を行っている。
イ 犯罪検挙の63%は外勤警察官
 昭和55年には、刑法犯総検挙人員の約63%に当たる約24万5,000人を外勤警察官が検挙している。これを活動形態別にみると、図3-1のとおりで、派出所、駐在所を拠点とした活動によるものが約75%と最も多く、次いでパトカーによるものが約22%となっている。また、外勤警察官は、覚せい剤事犯、交通法犯等の特別法犯の約56%を検挙するとともに、酔っ払いや家出人等の保護、救護の約89%を取り扱っている。

図3-1 活動形態別検挙人員(昭和55年)

 昭和55年には、外勤警察官による刑法犯検挙件数のうち約47%は職務質問により検挙したものであり、そのなかには、身の代金目的の小学生誘かい事件や現金輸送車強奪事件等、社会的反響の大きい重要事件の犯人も多く含まれている。
〔事例〕 1月23日、兵庫県宝塚市において、小学生を誘かいして身の代金3,000万円を要求する事件が発生し、兵庫県警では、捜査本部を設けて捜査を開始した。自動車警ら隊勤務のM巡査部長とT巡査の2人は、25日午後2時ごろ、パトカーで管内をパトロール中、河口付近で駐車中の 普通乗用車内で居眠りしている男を発見し、右側駐車であることなどに不審を抱いて職務質問を始めた。男は最初、「魚釣りに来ている。」と答えたが、釣り道具を持っていないことなどに一層不審を深め、後部トランク内を調べたところ、シートカバーの下からぐったりした男子児童を発見した。とっさに逃走しようとする男を取り押えて厳しく追及したところ、誘かい犯人であることを認めたので、直ちに逮捕した(兵庫)。
(2) 住民との触れ合いを深める活動
 外勤警察官は、地域住民との明るく、親切で、人間味のある接触を目指して、地域住民の要望にこたえる活動や保護、奉仕活動等を幅広く行っている。
ア 住民の要望にこたえる活動
 外勤警察では、それぞれの派出所、駐在所ごとに、地域住民が困っている事案の解決を図る運動を進めている。
〔事例〕 3月、秋田市郊外にある沼で、幼児(3)の水死事故が発生し、付近住民から沼に対する安全措置を望む声が強まった。そこで同沼を管轄する駐在所の警察官が、水利組合や市役所に対し、沼の安全措置を強く働き掛けたところ、側溝工事が施され、更に沼の水が抜かれて干しあがった状態になり、安全な環境となった(秋田)。
イ 子供や老人に対する保護、奉仕活動
 外勤警察官は、事件や事故の被害に遭うおそれの強い子供や老人の保護、奉仕活動を行っている。特に、独り住まいの老人については、日常活動を通じて努めて訪問し、被害防止の指導や困りごと相談等に当たるほか、関係行政機関や親せき、知人等への連絡を行っている。
〔事例〕 品川警察署台場派出所勤務のK巡査は、受持区内に身体の不自由な老人(62)が独り住まいをしていることを知り、パトロールや巡回連絡を通じて努めて訪問し、元気付けていた。4月、K巡査が巡回連絡の途中老人宅を訪問したところ、ドアをノックしても応答がなく、室内から人の苦しむような声がかすかに聞こえてきた。直ちに入室してみる と、老人は持病の腰痛が悪化し、身動きもできずに苦しんでいた。K巡査は、応急の措置を執るとともに、無線機で本署に連絡して救急車を呼び、病院に収容した(警視庁)。
(3) 遺失物、拾得物の取扱い
 遺失物や拾得物は、主として派出所や駐在所の外勤警察官が窓ロとなって取り扱っている。昭和55年に取り扱った遺失届は約174万1,000件、拾得届は約332万1,000件で、前年に比べ遺失届は約4万3,000件、拾得届は約1万4,000件それぞれ増加した。
 これを通貨と物品に分けると、表3-1のとおり遺失金は約239億円、拾得金は約110億円で、前年に比べ遺失金は約14億円、拾得金は約5億円それぞれ増加している。物品については、遺失届が出されたものは約282万点、拾得届が出されたものは約661万点で、前年に比べ遺失物品は約9万点、拾得物品は約33万点それぞれ増加している。また、拾得届出のあった通貨、物品の処理状況をみると、拾得された通貨の約6割は遺失者に返還されているが、物品については、その約5割が拾得者に交付されている。

表3-1 遺失届、拾得届取扱状況(昭和51~55年)

(4) 地域住民との対話
ア 住民の声を警察活動に
 都道府県警察の本部や警察署では、地域住民に対して警察活動の実態を正しく伝えるとともに、警察に対する要望や意見を聴き取り、これらを警察活動に反映させるよう努めている。このため警察では、「住民コーナー」等窓口での広聴活動を通じて住民の声を聴いているほか、「本部長と語る会」、「県 民の皆さんと話し合う会」等の名称で広聴会を開催したり、世論調査やアンケートを実施するなど、幅広い広聴活動を行って地域住民との対話の場を広げるよう努力している。
イ 地域性に富んだミニ広報紙
 全国約1万5,000箇所の派出所、駐在所のうち、約1万2,000箇所でミニ広報紙を発行し、地域の身近な情報の提供に努めている。その内容は、受持区域内で発生した犯罪や事故の状況とその具体的防止策、児童の善行、郷土の歴史、住民の要望や意見等地域性の強い素材が中心となっている。
 ミニ広報紙の発行については、多くの住民から取り上げてほしい記事の要望や回数の増加を望む声が寄せられている。そこで警察庁では、毎年1回、ミニ広報紙全国コンクールを実施し、その質の向上に努めている。

ウ 警察音楽隊の活躍
 警察音楽隊は、昭和55年末現在、皇宮警察と都道府県警察に48隊が置かれており、隊員数は約1,700人に上っている。音楽隊員の大部分は、交通取締りや派出所勤務等多忙な勤務の合間や、非番時を利用して演奏技術の向上に努めている。また、過半数の隊が、婦人警察官や交通巡視員でカラーガード 隊や鼓隊を編成しており、「見せる音楽隊」として活躍している。
 警察音楽隊は、防犯運動、交通安全運動等の各種行事で演奏活動を行っているほか、県や市町村が主催する公共的催し、小・中学校等での音楽教室、福祉施設やへき地、島部での慰問演奏会等で活躍しているが、55年には、約7,600回実施し、聴衆人員は約2,100万人に上った。定期演奏会を開催している隊も増えており、ファン層も年々広がりつつある。警察庁では、9月に第25回全国警察音楽隊演奏会を東京で開催したが、参加した38隊、約1,350人の演奏が都民の間で好評を博した。

2 初動警察活動の中枢、通信指令室とパトカー

(1) 110番通報と通信指令室
ア 年々増える110番通報
(ア) 10.9秒に1回、40人に1人が利用
 昭和55年に全国の警察で受理した110番は、図3-2のとおり約289万5,000件で、前年に比べ約12万8,000件(4.6%)増加し、10年前に比べ1.5倍となっている。これは、10.9秒に1回、国民40人に1人の割合で利用されたことになる。

図3-2 110番通報の推移(昭和46~55年)

(イ) ピークは夜間
 110番通報を受理時間帯別でみると、図3-3のとおり夜間が多い。特に、午後6時から午前0時までが多く、この時間帯だけで全体の約34%を占めている。

図3-3 時間帯別110番受理件数(昭和55年)

(ウ) 多い交通関係の通報
 110番通報の受理状況を内容別にみると、図3-4のとおり交通事故、交通違反等の通報が約79万件(27.2%)と最も多く、刑法犯被害の届出は9.3%、でい酔者保護要請は7.1%となっている。また各種情報は12.7%、続報は11.0%となっている。

図3-4 内容別110番受理件数(昭和55年)

(エ) 多様化する通報手段
 警察に対する緊急通報の手段としては、加入電話からの110番通報が最も一般的であるが、最近、自動車電話が開発され、昭和54年12月から東京都内で、55年11月から大阪市内でそれぞれ運用が開始されたことに伴い、自動車の中から110番通報することも可能となった。このほか、金融機関等に設置されている有線、無線の非常通報装置、特定郵便局に設置されている異常通報装置、会社、工場等に設置されている民間警備業者の警報装置等があり、これらの装置から直接又は間接的に通信指令室へ緊急通報がなされるなど、110番通報の手段は多様化の傾向を示している。
イ 充実、整備される通信指令室
 全国の警察本部に置かれている通信指令室は、夜間でも上級幹部が指揮をとり、110番通報を受理したときは、直ちにパトカーに対する指令、運用等 を行っている。110番があった場合にパトカー等がいち早く現場に到着できるようにするため、パトカーの現在位置が一目で分かるカーロケーター(自動動態表示装置)、現場付近の地図が簡単な操作でスクリーン上に投影できる地図自動現示装置等の機器の整備を進めるなど、通信指令室の充実、整備を図っている。
 昭和55年8月に完成した警視庁通信指令センターでは、デジタイザー方式(注)による110番通報の受理、指令システムを採用し、1日平均約1,500件に上る110番通報の処理を行っている。
(注) デジタイザー方式とは、事件等の手配に必要な事項をコンピューターで蓄積、処理してテレビ画面に表示するもので、これにより、指令業務に従事する警察官が迅速、的確にパトカーに指令することができる。

(2) 満30年を迎えたパトカーの活動
ア パトカーの沿革
 パトカー制度は、昭和25年6月1日に警視庁に発足したのをはじめとして、同年中に大阪、福岡等で発足し、55年には満30年を迎えた。25年の発足当時わずか90台であったパトカーは、その後順次全国の警察に配置され、55年末現在、約2,600台となっている。
イ リスポンス・タイム
 事件が発生した場合、警察官の現場到着が早ければ、犯人を現場やその周辺で補そくし、事件の早期解決を図ることができる。110番集中地域(注1)における110番通報のうち、刑法犯関係の事件でパトカーが出動した場合のリスポンス・タイム(注2)と現場における検挙状況との関係をみると、表3-2のとおり3分未満に現場到着した場合には、35.6%を検挙している。
(注1) 110番集中地域とは、この地域内の110番は、すべて自動的にそれぞれの都道府県の警察本部の通信指令室につながる地域のことで、全国警察署の71.6%に当たる852警察署管内がこの集中地域となっている。なお、110番集中地域外で110番すると、管轄の警察署につながる仕組みになっている。
(注2) リスポンス・タイムとは、通信指令室で110番通報を受理してから、パトカーが目的地に到着するまでの所要時間をいう。



表3-2 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙(昭和55年)

3 安全な生活環境の確保

(1) 身近な犯罪被害の実態
ア 侵入盗の実態
 昭和55年に警察が認知した侵入盗の件数は、約29万件に上り、被害場所別構成比は、図3-5のとおりである。侵入盗による被害総額は約284億円で、1件当たり約9万8,000円となっている。

図3-5 侵入盗の被害場所別構成比(昭和55年)

(ア) 「空き巣」と「忍込み」の侵入口
 一般家庭が最も被害を受けやすい「空き巣」と「忍込み」の侵入口別構成比は、図3-6のとおりで、「空き巣」では表出入口、「忍込み」では窓が第1位を占めている。
(イ) 施錠忘れ箇所からの侵入が多発
 「空き巣」と「忍込み」の侵入手段別構成比は、図3-7のとおりで、ともに施錠忘れ箇所からの侵入が最も多く、錠開けや錠破りも少なくない。そこで、警察では、「丈夫な錠前を忘れずにかけよう。」ということを広く国民に呼び掛けている。また、ガラス破りも多発しているので、防犯的観点から窓の構造等を再検討するよう関係業者に働き掛けている。
イ 自転車盗の実態
 最近5年間の自転車の保有台数は、表3-3のとおり年々増加している(日本自転車工業会調べ)。

図3-6 「空き巣」、「忍込み」の侵入口別構成比(昭和55年)

図3-7 「空き巣」、「忍込み」の侵入手段別構成比(昭和55年)

表3-3 自転車保有台数、自転車盗発生件数の推移(昭和51~55年)

 昭和54年9月、警視庁が自転車盗の被害に遭った1,920人に対して行った調査によると、85%の者が鍵をかけていたのにもかかわらず盗まれている。
 警察では、盗難予防に有効なチェーン錠等を使用するよう指導するとともに、自転車防犯登録の推進、自転車への記名の励行を呼び掛けている。
ウ 性犯罪の実態
 女性を対象とした性犯罪のうち、強姦、強盗強姦、強制猥褻(わいせつ)の最近5年間の発生件数の推移は、表3-4のとおりである。

表3-4 性犯罪発生件数の推移(昭和51~55年)

 神奈川県警察が、昭和54年に認知した性犯罪447件について分析した結果によると、強制猥褻(わいせつ)事件の発生場所は図3-8のとおりで、3分の2が屋外となっており、その逆に強姦事件は、図3-9のとおり3分の2が屋内で発生している。また、強姦事件の被害原因は、図3-10のとおりで、その3分の1は戸締まり不完全で就寝中をねらわれている。
 警察では、女子寮、アパート、マンション等被害の発生が予想される施設等に対する防犯診断を行い、各部屋と管理人室との連絡用非常ベルの設置等の防犯設備の整備と管理体制の強化について指導に努めている。このほか、発生が予想される道路、公園、寺社境内等に対する重点パトロールを実施するとともに、防犯燈の整備、増設、門燈の終夜点燈を施設管理者に働き掛けている。

図3-8 強制猥褻(わいせつ)事件の被害に遭った場所(昭和54年)

図3-9 強姦事件の被害に遭った場所(昭和54年)

図3-10 強姦事件の被害原因(昭和54年)

(2) 科学的総合防犯対策の推進
ア 地域防犯対策
(ア) 安全な都市作りの推進
 近年、都市化の進展により、共同体意識の希薄化、匿名性の増大、死角空間の増加等犯罪誘発要因が増加している。しかし、我が国では従来、都市計画の策定等に当たって、都市の防犯性についての配慮が十分になされていなかった。
 このため警察では、都市の犯罪の実態、都市の犯罪に対する住民の不安感の実態、都市の物理的、環境的犯罪誘発要因に関する調査を行い、その結果を踏まえ、工学、心理学等を応用して、防犯上望ましい都市の規模、地下道、公園等都市施設の構造や配置、防犯設備の在り方等の総合的な基準を策定し、安全な都市作りのための研究を行っている。
(イ) 防犯協会、防犯連絡所の活動
 防犯協会は、全国各地におおむね警察署単位で組織されており、警察と緊 密な連絡を保ち、各種防犯活動の組織化を推進するとともに、住民の防犯意識や防犯に関する世論の高揚に努めるなど、地域防犯活動の中心となって活動している。また、防犯協会の第一線である防犯連絡所は、昭和55年末現在、全国で約68万7,000箇所設置され、52世帯に1箇所の割合となっている。
 警察では、防犯協会や防犯連絡所の活動の活発化を図るため、地域に即した犯罪情報や防犯活動用各種資料の積極的な提供、防犯連絡所責任者研修会の開催等に努めている。今後は、地域社会に最も密着している家庭の主婦や青少年の積極的な参加を促し、自主的な防犯活動の充実を図ることが課題となっている。
イ 職域防犯団体
(ア) 職域防犯団体の育成、強化
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対する組織的な協力を求める必要がある業種を対象として、職域防犯団体の結成を進め、自主防犯対策の促進を図っている。昭和55年末現在の職域防犯団体の結成状況は、表3-5のとおりである。

表3-5 職域防犯団体の結成状況(昭和55年末現在)

(イ) 金融機関における職域防犯対策
 最近、金融機関に対する強盗事件の増加が著しく、昭和55年は、過去10年間で最高の150件に達した。その犯行手段は、人質を取り、銃器を使用し、あるいはガソリンを用いて放火するなど著しく凶悪化しており、金融機関だけでなく、社会全体の安全感、秩序感に対して大きな脅威を与えている。
 このため警察では、金融機関の自主防犯意識の高揚と防犯設備の充実を促 進するため、11月から12月にかけて全国いっせいに、「金融機関の防犯基準」に基づいた診断を実施し、指導を推進するとともに、金融機関職域防犯団体による自主防犯活動の活発化に努めている。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-6のとおりで、全体的には「安全な店舗」への転換が着実に進められているものの、農協、漁協、郵便局等の小規模店舗においては、依然として普及率が低く、今後も更に強力に設置を促す必要がある。

表3-6 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和55年末現在)

ウ 全国防犯運動
 昭和55年の全国防犯運動は、「侵入盗の防止」を統一テーマとして、10月11日から20日までの10日間、全国各地で約132万人の参加を得て実施された。この間各地で、県民大会、パレード、防犯研修会、防犯訓練等の多彩な行事が行われ、地域、職域における自主防犯意識の高揚と自主防犯活動の推進に大きな役割を果たした。
(3) 警備業の役割
 昭和55年末現在の警備業者数は約2,900業者、警備員数は約11万3,500人で、前年に比べ約300業者、約8,800人増加している。最近5年間の推移は、表3-7のとおりで、社会的需要にこたえて増加の一途をたどっており、その業務内容も、空港、金融機関、高層ビル、原子力関連施設等の施設警備から、現金輸送や雑踏、工事現場の警備に至るまで、社会の幅広い分野にわたり、民間の自主防犯を代行、補完するものとして社会に定着してい る。
 最近では、各種警報機器やコンピューターを利用した防犯システムの開発により、労働集約的な人的警備から機械警備への移行が急速に進行し、機械警備実施業者は全体の13%に上るなど、警備業の姿は大きく変化しつつある。
 55年に犯罪検挙等に協力した件数は約1万6,000件に上り、地域防犯組織や職域防犯組織と並んで、現代社会における防犯システムの一つとして重要な地位を占めている。しかし、警備員に対する教育を怠るなどの警備業者による警備業法違反や警備員による犯罪も目立っているほか、警備業者による110番通報の誤報増加という問題も生じている。警察では、警備員の資質の向上や業務の適正な運営を促進するため、警備業者に対する指導、監督の強化に努めている。

表3-7 警備業者と警備員の推移(昭和51~55年)

(4) 防犯的諸制度の整備
ア 優良防犯機器型式認定制度の発足
 従来、錠前、警報機器等各種防犯機器には、明確な性能基準がなく、防犯機器に対する国民の関心も高いとはいえなかった。
 このため警察庁では、昭和55年4月、優良防犯機器型式認定制度を発足させた。これは、防犯機器について警察庁長官が全国的に統一した基凖を示し、それに適合する製品について型式を認定することによりその普及を促進し、国民の安全な生活の確保に寄与しようとする制度である。まず、代表的な防犯 機器である住宅用開きとびら錠について基準を示した。
 なお、型式認定を受けた製品には、標章(CPマーク)をはり付けることとしている。

イ 自転車防犯登録制度
 自転車盗の防止と被害回復の迅速化を図るため、都道府県警察では、自転車防犯登録制度を実施している。これは、自転車所有者の申し出により、所有者の住所、氏名、車種、車台番号等を警察、防犯協会等に登録するものであり、昭和55年末現在の登録台数は、全保有台数の約57%に当たる2,943万台である。
 最近、放置自転車が大きな社会問題となり、55年11月、第93回臨時国会において「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」が成立した。この法律では、自転車利用者は防犯登録を受けるように努めなければならないこと、自転車小売業者は防犯登録の勧奨に努めなければならないことなどが定められているので、警察としても、この法律の趣旨に沿って防犯登録の一層の充実に努めていく必要がある。

4 保護活動

(1) 困りごと相談
 最近5年間に警察が受理した困りごと相談の件数の推移は、表3-8のとおり年々増加しており、その内容は、表3-9のとおりである。警察では、市民生活の安全を確保する立場から、市民の悩みごとや困りごとに対して積極的に相談に乗り、適切な助言、指導を行っている。
(2) 家出人発見活動
ア 未成年者、サラリーマン、主婦に多い家出

表3-8 困りごと相談受理件数の推移(昭和51~55年)

表3-9 困りごと相談の内容(昭和55年)

表3-10 家出人捜索願出数の推移(昭和51~55年)

表3-11 家出人の年齢層別状況(昭和55年)

表3-12 家出人の職業別状況(昭和55年)

 昭和55年に家出人として警察に捜索願が出された件数は、10万1,318件で、前年に比べ1.3%増加している。最近5年間の推移は、表3-10のとおりで ある。家出人の年齢層別状況は、表3-11のとおり未成年者が全体の45.5%を占めている。家出人の職業別状況は、表3-12のとおりサラリーマンと主婦が目立っている。
 なお、家庭の不和を主な原因として家出した成人女性ら26人が約2年間にわたり集団失そうしていたという特異な事例(イエスの方舟)もあった。
イ 家出原因に多い恋愛、結婚問題
 家出の原因、動機は、図3-11のとおり恋愛、結婚問題や家庭不和によるものが圧倒的に多い。恋愛、結婚問題が原因で家出した者の69.0%が女性であり、家出した10代の女性の25.6%、20代の女性の38.9%、30代の女性の30.9%がこの原因で家出している。次に家庭不和についてみると、夫婦間の不和が最も多く42.6%を占め、家出した主婦の38.9%がこの原因で家出している。

図3-11 家出の原因、動機(昭和55年)

ウ 家出人の発見状況
 最近5年間の家出人発見数の推移は、表3-13のとおりである。また、発見された家出人の発見までの期間は、表3-14のとおりである。

表3-13 家出人発見数の推移(昭和51~55)

表3-14 家出人の発見までの期間(昭和55年)

 家出人の発見の方法は、図3-12のとおりである。発見時の状態は、大部分の者が無事に発見されているものの、罪を犯した者が2,700人(2.6%)、自殺した者が1,655人(1.6%)、犯罪の被害者になった者が812人(0.8%)となっている。

図3-12 家出人の発見方法(昭和55年)

(3) 酔っ払いの保護
 最近5年間に、警察が保護した酔っ払いの数、そのうちアルコール中毒の 疑いのある者として保健所長に通報した者の数の推移は、表3-15のとおりである。

表3-15 酔っ払い保護数、保健所長への通報数の推移(昭和51~55年)

(4) 迷い子、精神錯乱者等の保護
 最近5年間に、酔っ払い以外で警察が保護した者の数の推移は、表3-16のとおりで、保護原因別にみると、迷い子が過半数を占めている。

表3-16 保護原因別保護数の推移(昭和51~55年)

(5) 自殺の実態
ア 老人に多い自殺
 昭和55年の自殺者数は、表3-17のとおりである。高年齢になるほど自殺率(注)が高く、特に、65歳以上では47.7と急激に上昇しており、老人問題の深刻さを示している。また、60歳以上では自殺率の男女差が縮まっていることが注目される。
(注) 自殺率とは、同年齢の人口10万人当たりの自殺者の数である。
イ 最も多い自殺原因は病苦等
 自殺の原因、動機は、表3-18のとおりである。男女ともに病苦等が最も

表3-17 年齢層別自殺者数、自殺率(昭和55年)

表3-18 自殺の原因、動機(昭和55年)

多く、次いで精神障害、アルコール症等となっている。男女別にみると、男性には経済生活問題が、女性には家庭問題が多い。

5 水上警察活動

 警察では、水上における警察事象に対処するため、全国に水上警察署9署、臨港警察署2署、水上警察官派出所30箇所を設置するとともに、警察用船舶195隻を主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する警察署に配備して、刑法犯や密出入国、密漁等各種法令違反の検挙、取締りのほか、水上交通の安全確保、水難救助活動等を行っている。最近5年間の犯罪検挙、保護等の水上警察活動の状況は、表3-19のとおりである。
 近年、密漁等の漁業関係法令違反や養殖魚貝類の窃取事犯等が巧妙化する傾向にある。また、レジャー活動が多様化し、釣り舟やモーターボートを利用した遊びが盛んになってきており、これに伴う事故も多発している。

表3-19 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の状況(昭和51~55年)

 警察は、これらの情勢の変化に対応するため、警察用船舶の性能向上、大型化、増強等水上警察体制の強化を図りながら、密漁等の取締りや河川、湖沼等における安全の確保に努めている。
〔事例〕 9月、納沙布(のさっぷ)岬沖合で根室警察署警備艇と警察用ヘリコプターが合同してうにの密漁取締りを実施し、うに約110kg(時価約60万円相当)を密漁して陸地に逃走した3人を陸、海、空の連携により追跡し、北海道海面漁業調整規則違反で検挙した(北海道)。


目次