第5章 少年の非行防止と保護活動

1 少年非行の現状と少年警察活動

 日本の将来を担うものは青少年であり、その健全な成長は国民全体の願いである。しかし、昭和40年以降減少を続けていた少年非行は、48年以降増勢に転じ、現在、戦後第3のピーク期を迎えるに至っている。
 内容的には、非行の低年齢化やごく普通の家庭の少年によるいわゆる遊び型非行の多発等少年非行の一般化傾向が一層顕著になるとともに、殺人、強盗等凶悪犯の増加、暴走族による凶悪、粗暴事犯の激増、中・高校生による教師に対する暴力事犯、女子中・高校生による売春、シンナーや覚せい剤等の薬物乱用事犯の増加の傾向が見られ、正に少年非行は、質量ともに深刻な状態にある。また、非行とともに、少年の社会不適応の現象である家出や自殺等も依然として多く、憂慮されるところである。
 一方、少年を取り巻く社会環境は、享楽的風潮を反映して近年ますます悪化しつつあり、特に、心身ともに未成熟な少年に有害な影響を与え、しばしば少年非行の要因となり、少年の健全な育成を阻害する要因となっている。また、こうした状況のなかで、暴力団や悪質風俗営業者等による少年を食いものにする福祉犯が増加している。
 こうした情勢に対処するため、警察としては、非行少年等の早期発見と適正な補導を目的とする少年補導活動、家出や自殺の防止等少年の生命、身体の保護を目的とする少年の保護活動を推進するとともに、少年を取り巻く有害な環境から少年を守り、また、その影響による非行を防止するため、いわゆる有害環境の浄化活動や福祉犯の取締りに努めている。さらに、少年非行防止活動の真の実効を上げるためには、独り警察の活動のみならず、家庭、学校、地域社会等が一体となった総合的な活動を推進する必要があることから、警察では、地域ボランティアである少年補導員制度の充実強化、学校等の関係機関、団体との連携の強化を図り、地域ぐるみによる非行防止活動が推進されるよう努めている。

2 少年非行の現況

(1) 少年非行の概況
ア 非行少年等の補導数とその推移
 警察は、少年の非行を防止し、その健全育成を図るため、非行少年(注1)や不良行為少年(注2)の早期発見に努め、発見した非行少年や不良行為少年について捜査や調査を行い、関係機関に送致、通告し、あるいは注意、助言を行い、必要に応じて家庭、学校等へ連絡してその指導を促すなどの補導活動を行っている。
 昭和54年に警察が補導した非行少年と不良行為少年の数は、表5-1のとおりである。

表5-1 非行少年、不良行為少年の補導数(昭和54年)

 警察が補導した非行少年の過去10年間の推移は、図5-1のとおりで、刑法犯で補導した少年(以下「刑法犯少年」という。)の数は48年から増加傾向にあり、54年は過去10年間の最高を記録した。特別法犯で補導した少年もおおむね増加傾向にあるが、54年は8年ぶりに若干減少した。また、触法少年(刑法)は48年を境に減少傾向にあったが、52年から増加に転じており、ぐ犯少年は45年以降漸減傾向にある。交通事故に係る業務上(重)過失致死傷で補導された少年は、45年以降急減し、49年からはほぼ横ばいの状況となっている。
(注1) 非行少年とは、犯罪少年、触法少年及び、ぐ犯少年をいう。
(1) 犯罪少年…罪を犯した14歳以上20歳未満の者(少年法第3条第1項第1号)。
(2) 触法少年…刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者(少年法第3条第1項第2号)。
(3) ぐ犯少年…性格、行状等から判断して、将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者(少年法第3条第1項第3号)。
(注2) 不良行為少年とは、非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、けんかその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている20歳未満の者をいう(少年警察活動要綱第2条)

図5-1 警察が補導した非行少年の推移(昭和45~54年)

イ 第3のピーク期にある少年非行
 戦後における主要刑法犯で補導した少年の人口比(注)の推移をみると、図5-2のとおりで、現在は、昭和26年、39年に次いで第3のピーク期にあり、48年以降、人員、人口比ともに増加傾向を続け、54年は人口比が13.9人と戦後最高を記録した。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導数である。
ウ 成人の5倍に達した人口比
 最近5年間の刑法犯少年と刑法犯で検挙した成人(以下「刑法犯成人」という。)について、その人員と人口比の推移をみると、表5-2のとおりで、刑法犯少年の人口比は、昭和53年に急増して14.1人となったが、54年は更に

図5-2 主要刑法犯少年の人口比、人員の推移(昭和24~54年)

それを上回る14.5人を記録した。これに対し、刑法犯成人の人口比は一貫して減少しており、その結果、54年の刑法犯少年の人口比は、刑法犯成人の5.2倍にも達した(注)。
 なお、54年の成人を含めた全刑法犯検挙人員(36万8,126人)の中に占める少年の割合は38.9%に達している。
(注) 昭和54年の14歳以上20歳未満の少年人口は約984万人成人人口は約8,025万人である(昭和51年11月厚生省人口問題研究所推計による)。

表5-2 刑法犯少年及び刑法犯成人の人員と人口比の推移(昭和50~54年)

(2) 刑法犯少年の状況
ア 依然として多発する遊び型非行と増加傾向の現れた凶悪犯
 刑法犯少年の包括罪種別補導人員について、最近5年間の推移をみると、表5-3のとおりで、窃盗犯と知能犯は年々増加を続けており、粗暴犯と風俗犯は減少傾向にある。

表5-3 刑法犯少年の包括罪種別補導人員の推移(昭和50~54年)

 昭和54年における刑法犯少年について罪種別に刑法犯成人と比較してみる

図5-3 刑法犯少年と刑法犯成人の罪種別構成比の比較(昭和54年)

表5-4 いわゆる遊び型非行で補導された少年の推移(昭和50~54年)

と、図5-3のとおりで、窃盗犯の占める割合が高く、なかでも万引き、自転車盗、オートバイ盗等犯行の手段が容易でしかも動機が単純ないわゆる遊び型非行が依然として多い。ちなみに、最近5年間のいわゆる遊び型非行の推移をみると、表5-4のとおり年々増加傾向にあり、54年に遊び型非行で補導された少年は、9万1,089人と全刑法犯少年の63.6%を占めている。
 42年以降一貫して減少を続けてきた凶悪犯は、53年に増加に転じたが、54年は更に62人(3.7%)増加するなど増加傾向が現れてきたのは注目を要する。罪種別に前年に比べると、表5-5のとおり強姦が減少した以外はすべて増加しており、特に、中・高校生による殺人、強盗の多発が目立った。

表5-5 凶悪犯の罪種別補導状況(昭和53、54年)

〔事例〕 高校1年生(16)は、祖母が日ごろから生活全般にわたって世話を焼きすぎることを逆恨みし、果物ナイフ、きり、ハンマ-等で惨殺し、自らもビルから飛び降り自殺した(警視庁)。
イ 顕著な低年齢化傾向
 昭和54年における刑法犯少年の年齢別構成比をみると、図5-4のとおりで、15歳が24.2%を占めて最も多く、次いで14歳、16歳の順となっている。

図5-4 刑法犯少年の年齢別構成比(昭和54年)

 過去10年間の刑法犯少年の年齢別補導人員の推移をみると、図5-5のとおりで、17歳、18歳及び19歳はおおむね減少傾向にあるのに対し、14歳、15歳及び16歳は増加傾向にある。特に、年少少年の増加傾向は著しく54年には45年の約1.8倍となっており、非行の低年齢化傾向を顕著に示している。

図5-5 刑法犯少年の年齢別補導人員の推移(昭和45~54年)

ウ 中・高校生が7割
 昭和54年における刑法犯少年の学職別構成比をみると、図5-6のとおりで、高校生が36.7%と最も多く、次いで中学生の33.3%となっており、中・高校生を合わせると全刑法犯少年の7割を占めている。

図5-6 刑法犯少年の学職別構成比(昭和54年)

 過去10年間の刑法犯少年の学職別補導人員の推移をみると、図5-7のとおりで、有職少年は減少傾向にあり、無職少年は横ばい状態にあるのに対し、中・高校生は一貫して増加を続けており、54年は中・高校生とも45年の約1.7倍に上っている。

図5-7 刑法犯少年の学職別補導人員の推移(昭和45~54年)

エ 若干減少した女子少年
 昭和54年における刑法犯少年を男女別にみると、男子が11万7,066人、女子が2万6,092人で、前年に比べ男子は7,415人(6.8%)増加し、女子は1,058人(3.9%)減少した。
 最近5年間の刑法犯少年の男女別補導人員の推移をみると、表5-6のとおりで、男子は52年以降増加傾向にあるが、45年以降増加を続けていた女子は54年に減少に転じ、10年ぶりに増加傾向が止まった。このため、刑法犯少年中に占める女子の割合も54年は18.2%と前年(19.8%)を下

表5-6 刑法犯少年の男女別補導人員の推移(昭和50~54年)

回った。
 なお、54年の男女別の罪種別構成比をみると、女子では窃盗が全体の94.1%(窃盗のうち万引きが90.4%)とそのほとんどを占めており、男子の73.2%に比べ著しく高い比率を占めている。
(3) 特徴的な非行の形態
ア 凶悪、粗暴化する暴走族
 昭和54年における暴走族少年に対する補導状況をみると、表5-7のとおりで、刑法犯及び特別法犯によって補導された少年は6,846人と、前年に比べ2,215人(47.8%)の著しい増加となっている。罪種別にみると、強盗以

表5-7 暴走族の少年に対する補導状況(昭和53、54年)

外はすべて増加しており、特に、殺人、強姦等の凶悪犯や傷害、暴行、暴力行為等の粗暴犯の増加が目立ち、最近における暴走族の凶悪、粗暴化傾向を裏付けている。
 なお、54年末現在で警察がは握している暴走族は、472グループ、2万5,183人に上っており、うち年齢が確認されたものは2万1,300人で、その77.6%に当たる1万6,529人が少年である。
〔事例1〕 暴走族のメンバーである少年12人(いずれも16)は、暴力団準構成員の少年(16)が暴力団を背景に日ごろから新いグループへの入会を強要したりたかりをすることから、これを恨みに思って殺害を計画し、深夜、公園に呼び出して準備していた鉄パイプ等で殴るけるの暴行を加えて意識不明にした上、湖まで運び湖上の橋から投げ落した(神奈川)。
〔事例2〕 調理師の見習少年(18)は、暴走族仲間約35人と自動2輪車で暴走中、取締りに当たっていた警察官が停止棒を振り、制止行為をしているのを認めたが、これを突破しようと60~70キロのスピードで突つ込み跳ね飛ばして殺害した(福岡)。
イ 激増する中学生による教師に対する暴力事件
 昭和54年における校内暴力事件の状況は、表5-8のとおりで、発生件数は1,208件、被害者は3,174人(うち教師328人)、補導人員は6,719人となっており、前年に比べ発生件数及び補導人員は減少しているが、中学生の補導人員が大幅な増加を示している。

表5-8 校内暴力事件の状況(昭和53、54年)

表5-9 教師に対する暴力事件の状況(昭和50~54年)

 校内暴力事件のうち、教師に対する暴力事件の状況について最近5年間の推移をみると、表5-9のとおりで、54年は50年に比べ件数は約1.6倍、補導人員は約1.7倍とそれぞれ大幅に増加しており、なかでも中学生による事件がその大半を占めているのが注目される。
〔事例1〕 中学3年生(14)は、職員室で教師の机に座ったことから注意を受け、これに激怒して3人の教師に殴りかかり、職員室にあったノミを突きつけ脅迫した。その後も、同教師らが被害届を出したことに腹を立てた3年生25人による集団暴力事件が発生するなどの事態が続き、被害教師のうち2人は「身の安全が確保されない限り学校にはもどらない」と1箇月にわたり登校を拒んだ(大分)。
〔事例2〕 中学2年生(14)は、授業中に他の生徒にいたずらしたことから教師に注意されると、いきなり殴りかかり、更に自己のロッカーに隠し持っていた果物ナイフを持ち出して「殺してやる」と振り回し、教師の左手等に全治1週間の傷害を負わせた(静岡)。
ウ 依然として増加する女子中・高校生による性非行
 昭和54年に売春や不純な性行為等の性非行で補導した女子少年は、表5-10のとおり8,069人で、前年に比べ189人(2.4%)増加した。これを学職別にみると中・高校生が全体の55.8%(4,505人)を占めており、前年に比べ

表5-10 性非行女子少年の学識別状況(昭和53、54年)

中学生が114人(7.4%)増加したのが目立っている。
〔事例〕 女子高校生6人は、いずれも両親健在の中流家庭の子女であるが、洋服代や小遣い銭欲しさから、学校内で情報を交換して「暴力団とは売春しない」、「1万5,000円では安いから2万円にしよう」等の協定を結び売春していた(愛知)。
(4) 少年の補導活動
 少年の非行は、本人自身はもちろん、家族にとっても深刻な出来事であり、できる限り早く非行を発見し、性格の矯正や環境の調整の措置を講じることにより、再非行の防止と健全な育成を図っていくことが大切である。この意味で警察としては、非行少年等の補導活動に特に力を入れているところである。
ア 非行少年等の早期発見補導
 少年は心身ともに未成熟であり、また、環境の影響を受けやすいため非行に走りやすい反面、たとえ罪を犯した場合でも性格や環境に応じた適切な指導や教育によって再び健全な姿に立ちもどる可能性が極めて高い。それが早ければ早いほど、その矯正は容易である。
 警察では、非行を芽のうちに摘み取り再び非行に陥らないようにするために、常日ごろから少年係の警察官や婦人補導員が中心となって、盛り場、公園、駅等非行が行われやすい場所で街頭補導を行っている。特に、少年が非行に陥る危険性が高い春季、夏季や年末年始には少年補導の特別月間を設けるなど、街頭補導を強化して非行少年や不良行為少年を早期に発見することに努めている。
イ 非行少年等の適正な処遇
 警察では、非行少年を発見すると家庭や学校等の関係者と連絡を取りながら非行の原因、動機、少年の性格、交友関係、保護者の実情等を十分検討し、少年が再び非行に陥る危険性があるか、再び非行を繰り返さないためにはどのような措置を講じるのが最も適切であるかを判断し、その処遇についての警察としての意見を付して少年法や児童福祉法の規定に従い、関係機関に送致、通告している。
 また、非行少年に至らない不良行為少年に対しても注意、助言し、必要のある場合には保護者等に助言、指導することとしている。
 少年の処遇に当たっては、少年の健全な育成を期する心構えと少年の心理等少年の特性に関する深い理解をもって当たることはもちろん、学校等の関係者との協力、秘密の保持等に留意している。特に、少年事件の捜査に際しては、できる限り身体の拘束を避け、取調べを行う場合は保護者に連絡し、取調べの際の言動等に注意して少年の心情を傷つけないようにするなど細心の配慮をしている。

3 少年の保護活動

(1) 少年相談
 警察では、少年の非行、家出、自殺等を未然に防止し、また、早期に発見するために、少年相談の窓口を設けている。自分の悩みや困りごとを親や教師等に打ち明けることができない少年や、子供の非行、家出等の問題で悩む保護者等から相談を受けて、経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員、少年

表5-11 相談者の状況(昭和54年)

の心理の専門家等が助言や指導を行っている。
 最近は、この少年相談を、気軽に、より多く利用してもらうため、45都道府県警察で「ヤング・テレフォン・コーナー」等の名称で電話相談も実施し、悩みごとの早期解決に努めている。
 昭和54年に受理した少年相談は、全国で9万4,071件に上り、前年より6.5%増加している。相談者の状況は、表5-11のとおりで、保護者等からの相談が69.2%、少年からの相談が30.8%となっている。少年では中・高校生が多く、また、女子が男子より多い。少年からの相談のうち、89.0%が電話相談によるものであり、いつでも、どこでも面接することなく気軽に相談できることから、少年に好まれているものと思われる。
 相談の内容は、図5-8のとおりで、非行問題に限らず、異性、学業、健

図5-8 少年相談の内容(昭和54年)

康等様々な問題に及んでいる。
 これらの相談を受けて、警察で指導、助言を行ったものが81.0%、家族等の協力を得て一定期間指導をしたものが8.3%、他機関へ紹介したものが5.4%と、相談の具体的解決に努めている。
(2) 家出少年の保護
ア 女子少年に多い家出
 昭和54年に警察が発見保護した家出少年は、表5-12のとおり5万6,333人で、前年に比べ2,042人(3.5%)減少した。男女別では、女子が男子を上回り54.1%を占めている。学識別にみると、学生、生徒が全体の67.6%を占めており、小学生では男子、高校生では女子に多いのが特色である。

表5-12 家出少年の学職別発見保護状況(昭和54年)

表5-13 家出の原因、動機別状況(昭和45、54年春季及び秋季強化月間)

イ 6割を占める逃避型家出
 家出の原因、動機を春季及び秋季の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した少年についてみると、昭和54年は、家庭、学校等少年の生活周辺で起こったトラブルから逃れようとする逃避型が55.4%、同せい、就職等何らかの目的を持った欲求指向型が10.8%、遊び、放浪癖等個人の性格等に起因したものが32.8%となっている。
 また、家出の原因、動機別状況を10年前の45年と比べると、表5-13のとおりで、学校関係、異性関係等が増加し、職場関係、都会、芸能界憧憬等が減少している。
ウ 男子少年は7人に1人が非行
 家出少年と非行との関連をみると、表5-14のとおりで、家出中に犯罪を犯した少年は総数の8.6%に当たり、約12人に1人、男子の場合は約7人に

表5-14 家出少年の非行状況(昭和54年春季及び秋季強化月間)

表5-15 家出少年の被害状況(昭和54年春季及び秋季強化月間)

1人の割合となっている。その多くは、所持金を使い果たした上での窃盗や恐喝等である。
エ 女子少年の11人に1人が被害
 家出少年と犯罪の被害との関連をみると、表5-15のとおりで、家出中に被害を受けた少年は、総数の5.1%に当たり、約19人に1人が被害者となっている。なかでも、女子は被害率が高く、約11人に1人の割合となっており、その被害の半数以上が強姦、売春、淫行等の性に関する事犯の被害者である。
〔事例〕 女子高校生(17)は、学校ぎらいから家出したところ、友人から紹介を受けた暴力団の情婦にされた上、料理店に前借金100万円で売られ、売春を強いられていた(大阪)。
(3) 少年の自殺の実態
 最近、少年の自殺が社会の関心を集めている。特に、まだ自殺の意味もよく理解していない低年齢層の少年による衝動的と思われる自殺が目立ち、問題を提起している。
 昭和54年に警察が認知した少年の自殺者は919人で、男子が70.1%、女子が29.9%となっている。学職別にみると、表5-16のとおりで、高校生が最も多く、次いで有職少年、無職少年の順となっている。

表5-16 自殺少年の学職別状況(昭和54年)

 原因、動機別にみると、表5-17のとおりで、男子は、学校問題が30.3%と最も多く、次いで家庭問題(11.0%)、病苦等(11.0%)の順になっており、女子は、学校問題(20.7%)、男女関係(18.9%)、病苦等(18.5%)、家庭問題(13.8%)の順になっている。
〔事例〕 小学3年の少女は、折り紙や雑誌を購入するのに母親の財布から現金5,000円を抜き取ったが、母親に詰問されてうそをついたことを強くしかられたため、ビルの4階から飛び降り自殺した(福岡)。
(4) 福祉犯の取締り
 少年を取り巻く有害環境がはびこるなかで、売春やいわゆる人身売買等少年を食いものにする犯罪が多発している。これらの犯罪を福祉犯(少年の福祉を害する犯罪)と呼んでいる。警察では、その取締りを強力に推進し、少年非行を助長する原因を排除するとともに、少年の心身及び福祉に有害な状態から、被害少年を保護救出する活動を積極的に展開している。
ア 増加する福祉犯
 福祉犯として検挙した被疑者及びその被害者について、最近5年間の推移をみると、表5-18のとおりで、被害者は昭和51年からほぼ横ばいの状態であるが、検挙した被疑者は年々増加を続け、54年には50年の約1.5倍となっている。
 54年に検挙した福祉犯の被疑者は1万933人で、これを法令別にみると、 図5-9のとおりで、青少年保護育成条例違反が43.1%で最も多く、次いで

表5-17 自殺の原因、動機(昭和54年)

表5-18 福祉犯の被疑者、被害者数の推移(昭和50~54年)

図5-9 福祉犯検挙人員の法令別構成比(昭和54年)

風俗営業等取締法違反、児童福祉法違反の順となっている。
イ 被害者の7割が女子少年
 昭和54年の福祉犯の被害者を男女別にみると、表5-19のとおりで、男子が5,076人(32.4%)、女子が1万600人(67.6%)となっている。また学職別にみると、高校生が5,069人と最も多く、次いで無職少年、有職少年、中学生の順となっており、男女ともに中・高校生が全体の約半数を占めている。

表5-19 福祉犯の学職別被害者数(昭和54年)

表5-20 悪質福祉犯被疑者の中に占める暴力団員数(昭和53、54年)

ウ 暴力団による悪質福祉犯の増加
 昭和54年に福祉犯として検挙した被疑者総数に占める暴力団員の割合は、8.4%(918人)であるが、福祉犯のうち最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」及び「淫行をさせる行為」の4形態についてみると、表5-20のとおりで、暴力団員の占める割合が24.3%と高くなっている。その手口も、家出少女らに覚せい剤を打ち、中毒者に仕立て上げ、覚せい剤の購入代金欲しさに売春をするように仕向けるなどの極めて悪質な事例が後を絶たない状況である。
〔事例〕 暴力団員等の覚せい剤密売、乱用グループが、街頭で知り合った女子高校生等29人に覚せい剤を打ち、クスリづけにして、覚せい剤をえさに暴力団員や大工相手に売春させていたほか、そのうち女子高校生1人(16)を覚せい剤仲間に専属売春婦として34万円で売り渡していた(福岡)。
(5) 少年を取り巻く環境の浄化活動
ア 有害環境の実態と少年非行
 最近の享楽的な社会風潮を反映して、少年の性的感情を著しく刺激したり、粗暴性や残虐性を助長するおそれのある出版物、映画、広告物、テレビ番組等が目立ち、また、非行化や転落の温床となりやすい享楽的な色彩の強いスナック、ディスコ、深夜喫茶、ゲームセンター等も増加するなど、少年を取り巻く社会環境の悪化は憂慮すべきものがある。こうした社会環境の悪化は、心身ともに未成熟な少年に対して有害な影響を及ぼし、しばしば少年非行の誘因となっている。
 こうした有害環境と少年非行との関連について、大阪府警察本部が調査したところによると、昭和54年に性犯罪(強姦及び強制猥褻(わいせつ))により補導された非行少年222人中、ポルノ雑誌やテレビ、映画などのいわゆる有害マスコミの影響を受けて性犯罪に走った者は132人(59.4%)にも上っており、有害環境と非行の関連の深さを裏付けている。
イ 青少年保護育成条例による規制
 有害環境の影響から少年を保護するため、昭和54年末現在、44都道府県において青少年保護育成条例が制定されている。この条例による規制の主な内容は、青少年に有害なものとして知事が指定した興業、図書、広告物等については、これを青少年(18歳未満の者)に観覧、販売、閲覧させたり、あるいは掲示することを禁止、制限しているものである。また、自動販売機の急激な普及に伴い、有害図書類の自動販売機への収納等を制限する県も多い。この条例に基づき、54年に有害興業の指定を受けた映画は延べ1万337本、有害雑誌等の指定を受けた出版物は延べ2万6,999冊に上っている。
ウ 地域ぐるみの環境浄化重点地区活動
 有害環境の浄化のためには、法令に基づく取締りとともに、地域ぐるみの住民運動や関係業界の自主規制により問題が解決されていくことが望ましい。このため、警察としては、かねてから少年を取り巻く環境の浄化を少年警察の重点に取り上げ、有害環境の実態は握、業者等に対する指導取締り等を行ってきた。特に、昭和53年から環境浄化重点地区活動をスタートさせ、54年には、全国で警察庁指定85地区及び都道府県警察指定218地区を「少年を守る環境浄化重点地区」として設定し、住民主導による総合的な環境浄化対策を集中的に推進し、有害図書等の自動販売機の撤去の促進や「少年を守る店」の設定を促すなどの成果を上げており、これらの結果、少年非行を減 少させた地区も多い。
〔事例〕 盛岡市河南地区少年を守る環境浄化重点地区では、少年補導センター、学校、PTA、婦人会等の関係機関や少年補導員等の地域住民からなる推進委員会が中心となり、有害図書等の自動販売機業者や少年のたまり場となりやすい深夜喫茶、スナック等の関係業者に対する自主規制の要請、青少年非行防止展示会、環境浄化研究会の開催、広報紙の発行等積極的な環境浄化活動を展開した。この結果、同地区において補導された少年の数が、53年は361人であったものが54年には307人と15.0%の減少をみた。

4 地域社会との連携による非行防止活動

 少年の非行防止の実をあげるためには、独り警察の活動のみならず、関係機関、団体をはじめ家庭、学校、地域社会が一体となった地域ぐるみによる総合的な非行防止活動を推進する必要がある。
(1) 地域における非行防止活動
ア 少年補導員
 地域社会における補導活動の中心となっているのは、ボランティアとして補導活動等に従事している少年補導員である。少年補導員の制度は、昭和37年4月に全国的に発足したものであるが、54年末現在、警察で委嘱している者は約3万7,000人である。
 少年補導員は、地域社会で自発的に補導活動や非行防止のための相談活動、啓もう活動を行っており、警察と住民とのパイプ的役割とともに、いわゆる地域ぐるみの非行防止活動の中核として活発な活動を続けている。
イ 学校警察連絡協議会
 児童、生徒の非行が増加し、また、学校内における暴力事件が多発するなどの最近の状況下において、警察の活動と学校による生徒指導との間の緊密な連携の必要性が高まっている。学校警察連絡協議会は、学校と警察が協力して児童、生徒の非行を防止することを目的として設けられたものであって、昭和54年4月末現在、全国で約2,000組織、小学校、中学校及び高等学校の約9割に当たる3万5,000校が参加している。
 学校と警察は、この場を通じて非行防止活動の経験や資料の交換、具体的な非行防止対策の検討を行うほか、協力して街頭補導等を行っている。
ウ 職場警察連絡協議会
 両親のもとを遠く離れて就職した少年が、環境の変化による孤独感や生活の乱れから非行に走ったり、犯罪の被害者になったりする例は少なくない。職場警察連絡協議会は、職場と警察とが緊密に連絡して勤労少年の非行を防止し、その健全育成に努めることを目的として設けられているものであって昭和54年4月末現在、全国で約900組織あり、約3万2,000事業所が加入している。各事業所には補導責任者が指定されており、各種会合を通じて勤労少年の非行防止対策について検討し、警察と協力して非行防止活動を行っている。
エ 少年補導センター
 少年補導センターは、警察職員、教育関係者、少年補導員等少年の非行防止活動に関係する機関、団体、民間の有志等が協力して、地域における非行防止活動を総合的、計画的に行うための拠点として、地方公共団体等により設けられているものであり、街頭補導、少年相談、有害環境の浄化等の活動を行っている。昭和54年11月末現在、全国の少年補導センターの設置数は575箇所で、約7万3,000人がここで活動している。
(2) 青少年を非行からまもる全国強調月間
 最近における少年非行の要因は、家庭、学校、地域社会の問題等多岐にわたっているため、非行防止活動が真に実効を上げるためには、国民一人一人の非行防止意識の高揚と非行防止活動への参加が不可欠である。昭和54年度からスタートした「青少年を非行からまもる全国強調月間」はそのような観点に立ったもので、月間中に非行防止意識高揚のために行われた県民大会、地区大会、パレード等の行事に参加した人員は延べ約105万人に及び、画期的な成果を上げた。今後は、この趣旨を定着させ、国民総ぐるみの非行防止運動にまで発展させていく必要がある。


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