第8章 災害、事故と警察活動

1 災害警備活動

(1) 地震防災対策の推進
 昭和53年は、1月の伊豆大島近海の地震、6月の宮城県沖地震をはじめとして、地震による災害の発生が目立った年であった。
 我が国は、世界有数の地震国といわれ、有史以来繰り返し大地震に見舞われてきており、昭和に入ってからだけでも、死者・行方不明者を出した地震は、53年末までに42回に達し、死者・行方不明者1万6,049人を出している。
 近年は、石油コンビナート、地下街、高層建築物の増加等大地震発生の際に大災害に拡大する要因が増加しており、都市やその周辺における安全な避難場所の確保の困難性に加え、学界等において東海地震発生の危険性を示唆されたこともあり、大震災対策が、緊急重要な問題となってきている。
 こうしたなかで、53年1月には、伊豆大島近海で地震が発生し、これを契機に国として大規模地震の発生に対処するための立法作業が急速に進められ、大規模地震対策特別措置法が6月15日に公布され、12月14日施行された。また、地震観測の重点地域である特定観測地域の再指定等各種の大震災対策の強化が図られた。
 また、警察は、災害の現場で終始一貫して組織的に活動し、情報収集、通信の確保、避難誘導、救出、行方不明者の捜索等災害現場での有効な措置をとり得るところから、これまで幅広い活動を実施してきたが、今後は、このような組織体制を一層効果的に生かし得る法制が整備されるよう努めるとともに広域応援体制の確立、防災関係機関との連携の強化に努め、引き続き、 災害発生の初期的段階における災害応急対策の中心的役割を担って、大震災対策及びいわゆる都市型災害対策を推進することとしている。
ア 大規模地震対策特別措置法の制定
 警察庁は、大規模地震による被害の防止と軽減を目的とする大規模地震対策特別措置法(注)の制定に当たり、関係省庁と共にその立法作業に参画し、大規模地震災害対策の推進に努めた。
 既に、警察では、東海地域に対する被害想定の見直しと危険地域の再調査も終了し、これを基に
○ 住民等への迅速かつ正確な情報の伝達
○ 危険地域の住民の安全な場所への避難誘導
○ 避難路及び物資等の緊急輸送路を確保するための広域交通規制
○ 避難地及び避難跡地等における秩序維持
等の対策を検討しているほか、警戒宣言時における迅速かつ的確な措置を行うための総合的、広域的訓練も計画している。
(注) 大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)とは、大規模な地震による災害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、地震防災対策強化地域の指定、地震防災計画の作成、地震観測体制の整備等地震防災体制の整備を図るとともに、地震予知情報があった場合における警戒宣言の発令、地震災害警戒本部の設置、地震防災応急対策の実施その他の地震防災上の措置の強化を図り、地震による被害の防止又は軽減を図ろうとするものである。
イ 大災害警備訓練
 警察は、過去2年間「南関東大震災警備訓練」「東海地震災害警備訓練」等の数府県にまたがる大震災警備訓練を行ってきた。昭和53年には、大規模地震対策特別措置法が制定されたことを契機に、9月に中部管区警察局と愛知県警察、10月に三重県警察が、地震予知情報が発表されたという想定に基づく訓練を行った。このほか、36都道府県で過去の災害や訓練の教訓を生かし、関係機関と協力して、警察官約7万8,000人を動員し、延べ54回に及ぶ大災害警備訓練を行った。
 なお、これらの訓練に参加した地域住民は、東京における6万人、大阪に おける1万人をはじめ、全国各地で約30万人にも上り、地震防災に対する住民の関心が高まっていることを示した。
(2) 災害警備活動の概況
 昭和53年における地震、台風、大雨等による主な災害は、伊豆大島近海の地震による災害(1月)、妙高高原における土石流による災害(5月)、6月の集中豪雨による災害、宮城県沖地震による災害(6月)、台風第18号による災害(8月)によるものが挙げられる。これらによる被害を含め、1年間に発生した主な被害は、
死者・行方不明者 211人
負傷者 3,651人
家屋全(半)壊、流失 8,586むね
床上浸水 9,223むね
床下浸水 4万5,708むね
で、年間に合計1万8,373世帯、7万5,231人が被災した。
 これらの災害に際して、全国で警察官延べ約7万7,000人が出動して、災害警備活動に当たった。
ア 伊豆大島近海の地震による災害
 1月14日午後0時24分ごろ、伊豆大島の西約10キロメートルの海底のごく浅い地点を震源地とするマグニチュード7.0の地震が発生した。
 各地の震度は、伊豆半島が地域によっては6に近い震度があったと推定されたほか、大島、横浜で震度5,東京、静岡、網代、三島等で震度4を記録した。
 この地震により、死者25人、負傷者139人、家屋の全(半)壊633むね、山(がけ)崩れ264箇所のほか電気、水道、ガス施設にも大きな被害が発生した。この被害の大部分は伊豆半島で発生し、なかでも静岡県賀茂郡河津町、東伊豆町、田方郡天城湯ヶ島町では、山崩れ等のため家屋や走行中の車両が埋没したのをはじめ、天城湯ヶ島町にある鉱業所の鉱さい推積場が崩壊し、毒性の強いシアン化合物を含む鉱さいが川に流失するという事態が発生した。

 この地震に際し、静岡県警察では、1月14日午前11時に静岡地方気象台から「群発地震に関する情報」が発表されると、伊豆の各警察署にこの情報を伝達し、警戒体制を強化するよう指示した。さらに、本震が発生すると直ちにいっせい指令を発し、被害状況の確認、被害者の救出等を指示した。同時に災害警備本部を設け、また、被害の大きいと判断された下田、大仁、松崎、伊東の各警察署に現地警備本部を設置してこれに対処する体制を確立し、警察官延べ約1万2,000人を動員し、被害の早期は握、行方不明者の捜索、交通規制等の活動を行った。
 特に河津町等では、民家や自動車が土砂で埋もれ、住民や観光客が生き埋めになったため、機動隊を中心とする警察部隊が救助に当たった。部隊は、これらの現場に到着するまでの間、各所で土砂崩れ等により車両を使用できなかったため、駆け足で急行し、また、現場では、絶え間なく続く余震に土砂が断続的に崩れ二次災害の危険にさらされるなど作業は困難を極めた。
 しかし、部隊は、土石に押しつぶされたバスに閉じ込められ身動きできない乗客をバスの屋根を切り開いて救助するなどの救出活動を行って被害の拡 大防止に努めた。
イ 妙高高原における土石流による災害
 5月18日午前6時25分ごろ、新潟県下の妙高山(標高2,446m)東斜面の八合目地点で雪解け水による大規模な地滑りが発生した。
 崩れ落ちた大量の土砂は、土石流となって白田切川沿いに約5キロ下流の妙高高原町新赤倉温泉地区に流れ込み、旅館や別荘等を押し流した。
 このため、死者13人、重傷者1人、家屋等の流失、埋没34むねのほか、国鉄信越線が約4箇月にわたって不通になるなど被害総額は約57億円に達した。
 新潟県警察では、直ちに災害警備本部を設置して、15日間にわたり延べ約1,000人の警察官を動員し、被災者の救出・救護、付近住民等の避難誘導、行方不明者の捜索等の災害警備活動を行った。
ウ 6月の集中豪雨による災害
 6月10日から29日にかけて、日本列島上空に停滞していた梅雨前線が低気圧に刺激され活動が活発となり、ほぼ日本の全土に及ぶ広い範囲にわたり大雨を降らせ、特に新潟県では、25日から28日までの4日間に総降雨量547ミリに達する豪雨を記録した。
 この豪雨により、新潟県で、死者2人、負傷者22人、家屋の全(半)壊49むね、家屋の浸水1万9,603むね等に上る被害を出したのをはじめ、38都道府県で、死者・行方不明者18人、負傷者56人、家屋全(半)壊73むね、家屋の浸水2万4,408むねのほか、道路、鉄道の寸断等も加わるなど大きな被害となった。
 この大雨に際し、被害が発生した各都道府県警察では、早期に被害の実態をは握するとともに、警察官延べ約1万3,000人を動員し、危険地域の警戒、被災者の避難誘導及び救助、交通規制等の災害警備活動を行った。
 特に、大きな被害の発生した新潟県警察では、警察官延べ約6,000人を動員し、危険地域の住民の早期避難誘導に努めたほか、中小河川の破堤、いっ水により孤立した村落や市街地において、救助を求めている被災者合計590人

を濁流の中で舟艇、ロープ等を活用して救出し、人的被害の発生を最小限に食い止めることができた。
エ 宮城県沖地震による災害
 6月12日午後5時14分ごろ、宮城県金華山沖約100キロメートル、深さ約40キロメートルの地点を震源地としたマグニチュード7.4の地震が発生した。
 各地の震度は、仙台、大船渡、新庄、石巻等で震度5,帯広、東京、横浜等で震度4を記録したのをはじめ、有感地域は、北海道から近畿地方まで及んだ。
 この地震による被害は、宮城県をはじめ1都8県に及び、死者28人、負傷者2,995人、家屋の全(半)壊7,549むねに達した。
 特に、宮城県の被害は大きく、門柱やブロック塀の倒壊、ガラス片の落下等により死者27人、負傷者2,940人、家屋の全(半)壊7,536むねに上ったほか、電気、ガス、水道が長期間供給不能となるなど、いわゆる都市型災害となった。

 この地震に対し、警察庁、東北管区警察局及び各県警察では、災害警備本部等を設置して厳戒態勢をとり、警察官延べ約2万5,600人を動員し、被害状況のは握、被災者の救出・救護、住民や列車乗客等の避難誘導、交通規制、危険箇所の警戒等の災害警備活動を行った。
 このうち、宮城県警察では、地震発生直後の午後5時15分、災害警備本部を設置するとともに、県下全警察署に災害非常体制を発令し、全警察官の非常招集を行うなど、初期段階における警備活動を実施したほか、その後1箇月余にわたり警察官延べ約1万8,500人を動員し、被災地の警戒警備や被害拡大防止等の災害警備活動を行ったが、その主な活動は、次のとおりである。
(ア) 住民の早期避難誘導と被災者の救出・救護
 宮城県警察では、地震発生直後の午後5時17分、津波の被害が予想された太平洋沿岸の全警察署に警戒体制を発令、約900人の警察官を動員し、4市12町に及ぶ危険地域の住民約4,300人を安全な場所へ避難誘導した。
 さらに、仙台市内の石油タンクの重油流出被害が発生したため、機動隊員約60人を現場に急行させ、現場付近の立入禁止措置、交通規制等を迅速に行い被害の発生を未然に防止した。また、地震発生直後、家屋の倒壊により下敷きとなり閉じ込められた被災者を屋根を取り外して救助したり、柱にはさまれている被災者を自動車のジャッキを使い救出するなどの救助活動を行った。
(イ) 通信の確保による被害実態の早期は握
 地震により、各種通信が一時不通となったが、宮城県警察は携帯用高出力無線機等を有効に活用し、通信体制を確立した。
 この警察通信は、現場警察官の活動とあいまって、被害状況の早期は握に大きな威力を発揮し、地震発生当初情報不足に苦慮する関係機関に対して的確な現場情報を提供する役割を果たし、迅速な初期応急対策に大きく貢献した。
(ウ) パニック防止と平穏な市民生活の確保
 今回の地震は、都市型災害といわれ、市民に与えた影響は大きく、いわゆるパニックを誘発する危険性も含んでいた。
 このため、宮城県警察では、仙台駅周辺に集まった約9,000人に及ぶ乗客等に対し、約1,000人の警察官を動員して、パトカー、投光車による広報、照明を行い、乗客や滞留者の混雑緩和と不安の解消に努め、また、交通信号機の大量滅燈に対して、約900人の警察官を配置し、主要幹線道路の交通確保と混乱防止に全力を挙げた。
 また、県下全署に「宮城県地震被災困りごと相談所」を開設し、市民の要望や相談816件を受け、これを迅速に処理するなどして、パニック防止と平穏な市民生活の確保に努めた。
オ 台風第18号による災害
 台風第18号は、9月13日沖縄諸島近海をゆっくり北上していたが、15日未明には、中心気圧970ミリバール、中心付近の最大風速毎秒35メートルの勢力で長崎県壱岐を通過して、同日夕刻には山口県に上陸し、その後若狭湾付近で熱帯性の低気圧となったが、九州をはじめ、四国、近畿、中部地方に大雨をもたらした。
 この台風による被害は、風によるものが多く、台風の経路に当たった長崎、福岡、広島県等で死者11人、負傷者108人、家屋の浸水8,669むね等の被害が発生した。
 この台風に際し、関係各県警察では、警察官延べ約2,500人を動員し、交通危険箇所に対する事前警戒、住民の早期避難誘導、交通規制を行ったほか、負傷者の救出・救護、危険物の除去を行い、被害の拡大防止に努めた。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動の現状
 昭和53年に警察官が出動して整理に当たった行楽地や催し物への人出は、延べ約6億900万人に上った。なかでも、初詣では、主要な神社、寺院等979箇所に正月三が日で延べ約6,100万人の人出があり、春の飛び石連休の9日間では、主要な行楽地や催し物1,248箇所に延べ約5,600万人の人出があった。これらの雑踏警備のため出動した警察官の数は、この1年間で延べ約67万人に上った。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表8-1のとおりである。

表8-1 雑踏警備実施状況(昭和49~53年)

 行事や観光地に集まる群集は、そのほとんどが不特定、多数人の集合であるため、無秩序で、一種の興奮状態に陥りやすく、ちょっとしたきっかけで大きな事故が発生するおそれがある。
 警察では、行事の主催者と緊密な連絡を取り、施設の状況、危険箇所の有無を確認し、主催者に必要な措置をとらせるとともに、要所に警察官を配置するなど事故の防止に努めている。また、混雑する場所でのスリや小暴力事 犯等の取締りに当たるほか、急病人の発生に備えて救護場所の設置にも配意している。
〔事例〕 1月、札幌中島スポーツセンターで開催されたイギリスのロックバンド「ブラックモアーズ・レインボー」ショーで、興奮した観客約500人が開演と同時にステージに殺到し、このため、いすにつまづいて倒れた観客が将棋倒しとなり、下敷きとなった1人が死亡、7人が負傷した(北海道)。
(2) 公営競技場警備活動の現状
 公営競技場は全国で117箇所あるが、昭和53年の入場者数は約1億3,300万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案の防止や雑踏事故の防止のため、延べ約18万人の警察官を出動させて警備に当たった。
 最近5年間の公営競技場警備実施状況は、表8-2のとおりである。

表8-2 公営競技場警備実施状況(昭和49~53年)

 53年に公営競技をめぐる紛争事案は、前年に比べ4件増の8件発生した。紛争の原因をみると、ほとんどが施行者の不手際によるものであった。
 警察では、各競技場の監督官庁を通じ、又は直接各競技関係者に対して、競技運営の適正化、自主警備の強化、施設の整備等を推進するよう指導を強化している。
〔事例〕 6月、松戸競輪場において、第8レースの着順を誤って場内放送したことから、観客約300人が「当たり券を捨てた。」などと騒ぎだし、場内の窓ガラスを壊したり紙くずに火をつけるなどの不法行為を行った。警察では、警察官約100人を出動させ、自主警備員2人に負傷を負わせた者1人を傷害罪で逮捕するとともに、不法行為の鎮圧に当たった (千葉)。

3 水難、山岳遭難の防止と救助活動

(1) 水難
ア 事故発生の概況
 昭和53年の水難事故は、発生件数4,174件、死者・行方不明者2,848人であり、前年に比較すると、発生件数で338件、死者・行方不明者で172人それぞれ減少した。
 最近5年間の水難事故発生状況は、表8-3のとおりである。

表8-3 水難事故発生状況(昭和49~53年)

図8-1 発生場所別水死者数(昭和53年)

 53年の場所別及び行為別の死者・行方不明者数は、それぞれ図8-1及び図8-2のとおりである。
(ア) 犠牲者は夏季に集中
 水難事故が多発するのは、例年6~8月であり、昭和53年のこの時期は、全国的に猛暑の日が続き、そのため、表8-4のとおり死者・行方不明者は、前年同期より36人多い1,430人となり、この3箇月間だけで年間

図8-2 原因行為別水死者数(昭和53年)

の半数を超えた。
(イ) 子供の犠牲者は減少
 昭和53年の水の犠牲者を年齢層別にみると、表8-5のとおりで、小学生以下の子供の犠牲者が減少し、なかでも、幼児の犠牲者が年々減少している。
イ 事故防止対策
 警察では、水難事故を防止するため、日常パトロールを通じて、事故が発生するおそれのある危険な場所を調べ、管理者や

表8-4 水の犠牲者(昭和49~53年)

表8-5 年齢層別水死者の状況(昭和52、53年)

関係機関、団体に対し、安全施設の整備や危険区域の指定、標識の設置等を促進するよう働き掛けている。また、巡回連絡、座談会、ミニ広報紙による広報や、報道機関の協力による広報等幅広い広報活動を行い、地域住民に事故防止に対する注意を呼び掛けるとともに、小、中学校や幼稚園に対しても、児童・生徒の事故防止について指導している。
 さらに、水難事故が多発する夏季には、主要な海水浴場に臨時の警察官、出所を設置し、海浜パトロールを行うほか、警備艇による海上パトロールやヘリコプターによる空からの監視活動を行うなど、陸、海、空の連携による活動を推進している。
(2) 山岳遣難
ア 事故発生の概況
 最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表8-6のとおりで、昭和53年は、前年に比べ発生件数は同数であったが、死傷者数では13人増加した。これは、冬山シーズンの52年末から年始にかけて天候が急変し、これに異常寒波が加わったため、年末、年始を利用して入山した登山者が、パーティーごと滑落したり、表層雪崩に遭遇するという事故が多発したためである。また、最近の登山傾向として、スリルを味わおうとする登山者が実力以上の危険な山の踏破を試みようとしたり、軽装で安易に高山に登るなどの無謀登山がみられ、こうした風潮が山岳遭難の一因となっている。

表8-6 山岳遭難事故発生状況(昭和49~53年)

イ 事故防止対策
(ア) 事故防止活動
 山岳地帯を管轄する警察では、それぞれ関係機関、団体と協力して、危険 箇所の調査や道標、警告板の設置等を行うとともに、それぞれ山岳の実情に応じた各種の事故防止対策と救助体制の確立に努めている。
 このほか、警察庁では、10月に主要山岳地帯を管轄する12都道県警察の担当者を集めて山岳遭難救助隊長会議を開催して、山岳遭難防止対策、遭難救助体制、装備、救助技術等について討議し、遭難防止対策の推進、救助技術の向上、各都県警察間の協力体制の確立を図った。

(イ) 救助活動
 昭和53年に山岳遭難救助のために出動した警察官の数は、延べ約5,800人に及び、民間救助隊員等との協力によるものも含め、年間591人の遭難者を救助したほか、遺体174体を発見、収容した。
 山岳遭難者の救助活動は、険しい岩場や雪崩の起こりやすい谷間等、常に二重遭難の危険にさらされた場所で行わなければならないため、山岳遭難救助隊員は、日ごろから訓練に励み、体力、気力、技術等の練成に努めている。

4 各種事故と警察活動

(1) 火災、爆発事故
ア 火災
 昭和53年の火災発生状況は、表8-7のとおりで、発生件数が大幅に増加し、最近5年間で最高の2万7,017件であった。また、火災による焼死者数も年々増加の傾向を示しており、53年の焼死者数は1,105人で、最近5年間の最高であった。

表8-7 火災発生状況(昭和49~53年)

 53年の火災の特徴としては、都市部における雑居ビルの火災が目立ったほか、春の乾燥時に大規模な山林火災が多発したことが挙げられる。
 警察では、火災が発生した場合、迅速に現場に出動して負傷者の救出、救護や交通規制、群集整理等に当たり、人的、物的被害を最少限度に抑えるとともに、現場を中心とする混乱を早期に解消することに努めている。
 また、一部の都道府県警察では、レスキュー部隊等の人命救助専門部隊を編成して特別訓練を実施している。
イ 爆発事故
 昭和53年のガスや火薬類等による爆発事故は、表8-8のとおりで、前年に比べ発生件数、死傷者数とも減少し、最近5年間で最低の388件、780人にとどまった。
 警察では、爆発事故が発生した場合、速やかに警察官を現場に出動させ、

表8-8 爆発事故発生状況(昭和49~53年)

負傷者の救出、二次災害の防止、交通規制、群集整理等に当たっている。
〔事例1〕 8月、出雲市の中学校校庭で催された盆踊り大会で、子供に配布中の水素入りゴム風船約200個が爆発し、子供ら32人が重軽傷を負った(島根)。
〔事例2〕 11月、東久留米市の民家で、風呂場に充満したプロパンガスが爆発し、同住宅が全壊したほか、隣接の住宅3戸が全(半)壊した。この爆発事故で、1人が死亡、6人が重軽傷を負った(警視庁)。
(2) 航空機、船舶事故
ア 航空機事故
 最近5年間の航空機の墜落等の事故は、表8-9のとおりで、昭和53年は発生25件、死者37人、負傷者15人であった。発生件数、負傷者数は前年に比べ減少したが、死者数では最近5年間の最高となった。

表8-9 航空機事故発生状況(昭和49~53年)

 事故の特徴としては、農薬散布や資材搬送中のヘリコプターの墜落事故、報道取材中のセスナ機の墜落事故等、小型航空機の事故が目立った。
〔事例〕 9月、狭山市の新興住宅地に航空自衛隊所属のT-33ジェット練 習機が墜落炎上し、とう乗員2人が死亡、民家2戸が半焼したが、一般人の被害はなかった(埼玉)。
イ 船舶事故
 最近5年間の船船事故発生状況は、表8-10のとおりで、昭和53年は前年に比べ発生件数、死傷者数とも減少したが、モーターポート、ヨットの事故等レジャー活動に伴う事故が目立った。

表8-10 船舶事故発生状況(昭和49~53年)

〔事例〕 5月、荒川本流で練習中の大学生のシエルエイトに、無免許操縦のモーターボートが側面から激突し、大学生2人が死傷した(埼玉)。
(3) その他の事故
 以上の災害、事故のほか、飼育動物(ペット)にかみ殺された事故、ハンググライダー、ラジコン飛行機等、法の規制を受けていないものによる事故、一酸化炭素中毒死事故、工事場、作業場等における労務災害事故等様々な態様の事故がある。
 昭和53年に発生したこの種のその他の事故発生状況は、表8-11のとおり

表8-11 その他の事故発生状況(昭和49~53年)

で、前年に比べ発生件数、死傷者数とも減少したが、ペットやラジコン飛行機による事故等新しい形態の事故が多発し、社会的に大きな反響を呼んだ。
 特に、猛獣等のペットによる事故が、53年に17件発生し、18人の死傷者を出したことから、警察で全国的に猛獣類の飼育実態を調査したところ、一般家庭でペットとして飼育されているライオン、とら、ひょう、くま等の猛獣の数は、1,285箇所、1,588頭(匹)に及ぶことが判明し、この種の事故の多発が憂慮されている。
 警察では、これら新しい形態の事故の実態をは握の上、関係者に対して是正措置を要請したり、事故が発生した場合には、その事故原因を究明し、再び同種の事故が発生しないよう関係者に対して指導、助言を行うなど、事故の未然防止に努めている。
〔事例1〕 3月、児玉町の新聞販売店の経営者が飼育中の生後10箇月の2頭のライオンにえさを与えようとしておりの中に入ったところ、突然、雄、雌、2頭のライオンに襲われ、頭や首をかまれて死亡した(埼玉)。
〔事例2〕 9月、大和郡山市の空地で、ラジコン愛好者2。人が集まって飛行練習中、時速約40キロメートルで飛ばせていたラジコン飛行機の操縦を誤り、次の飛行準備をしていた者に激突させ死亡させた(奈良)。


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