第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 覚せい剤、麻薬事犯等の取締り

(1) 急増を続ける覚せい剤事犯
 昭和44年以降の覚せい剤事犯の検挙状況は、図5-1のとおりで、53年は前年に比べ6,095件(25.6%)、3,293人(22.8%)増加し、全国各地で多数の検挙をみるに至った。

図5-1 覚せい剤事犯検挙状況(昭和44~53年)

ア 密輸入量は史上最高
 覚せい剤の供給源は、昭和44年ころまでは国内における密造が中心であったが、45年ころから韓国ルートの密輸入が増加し、現在、我が国に供給される覚せい剤は、韓国、香港、台湾等で密造されたもののほか、ヨーロッパ産のものもあり、マカオ、タイ等を通じて大量に密輸入されている。特に最近は暴力団関係者がこれらの国に駐在し、現地人と結託して大規模な密造密輸組織を作り、外国人船員等を使用して大量の覚せい剤を持ち込むなど、その供給量は大幅に増加している。これに伴い、図5-2のとおり覚せい剤粉末の押収量も激増したが、これは実態としての密輸入量の数パーセントを示すにすぎないものとみられる。
〔事例〕 在日韓国人(52)らのグループが、50年10月以来、数十回にわたり、覚せい剤約300キログラムを航空機又は韓国船を利用した6ルートにより密輸入し、山口組系清水組、反山口組系の松田組、大日本平和会系本多(清)組、その他菅谷組等の暴力団組織を通じて密売していた事犯を解明し、全国に密売網を有する卸元らを含む関係被疑者160人を検挙し、覚せい剤約4キログラム、同原料67グラム等を押収した(兵庫)。

図5-2 覚せい剤密輸入事犯検挙状況及び覚せい剤押収状況(昭和44~53年)

 53年の覚せい剤押収事例からみると、韓国から全体の56.4%、台湾から27.5%が密輸入されている。そのうち、羽田及び成田空港(33.2%)、伊丹空港(24.8%)等の空港から64.4%(前年64.1%)が持ち込まれ、下関港(6.6%)等の海港から35.6%(前年35.9%)が持ち込まれている。海港については、従来、横浜、大阪、神戸、下関等が中心であったが、最近は、四日市、小名浜等の中、小港に広がっている。また、53年に検挙した密輸入被疑者のうち、外国人船員が35.6%を占めており、この大半は密輸組織の内部について知らされていない末端の運び屋であった。
イ 密売ネットワークと暴力団
 昭和53年に検挙した覚せい剤事犯の総検挙人員1万7,740人のうち、暴力団関係者は、9,234人(52.1%)と前年に比べ1,198人増加した。
 従来、暴力団幹部は、覚せい剤の密輸入、密売に直接手を出さず、組員から上納金を徴収することが多かった。しかし、最近は山口組系の暴力団組長をはじめ多数の暴力団幹部が、組の資金獲得のため先頭に立ち、組員等を指揮して密輸入や密売をさせている。しかも山口組系対反山口組系等の対立抗争中の相手組織との間にあっても、覚せい剤に関しては融通し合うなど、最大の資金源としての覚せい剤に対する執着を一層強めている。
〔事例〕 上越市を根城とする暴力団極東関口一家渡辺組による関西、裏日本ルートによる密売事犯を解明、関連被疑者20人を検挙、覚せい剤3グラム、改造けん銃1丁等を押収したが、この過程で、対立抗争中の山口組系暴力団との間で、対立抗争しても覚せい剤だけは相互に融通しあう旨の密約を結んでいたことが判明した(新潟)。
 また、その密売方法についても、陸揚地から直ちに高速道路を利用して遠隔地に搬送したり、国内航空便等の利用による頒布、偽名銀行口座への振込み送金による決済等、証拠いん滅の巧妙化とともに、広域、迅速な形態の密売事犯が増加した。検挙事例からみると、国内航空便利用による覚せい剤の密売事犯は、伊丹~千歳、熊本・福岡~花巻、羽田~千歳、伊丹~宮崎、伊丹~徳島、伊丹~鳥取、南紀白浜~千歳等、複雑に全国各地に広まっている。
〔事例〕 岩手の元タクシー運転者(32)らが、熊本や福岡の暴力団幹部らと共謀し、52年7月から53年8月までの間に、計94回にわたり、毎週20~40グラム、合計約2キログラムの覚せい剤を衣類や果物の中に隠匿するなどの方法により、航空貨物として、熊本、福岡空港から花巻空港に送付させ、その代金を偽名銀行口座へ送金して支払っていた事犯を解明、関連被疑者10人を検挙し、覚せい剤48グラムを押収した(岩手)。
ウ 増加する新たな使用者
 覚せい剤事犯の検挙人員は年々増加し、昭和53年は、44年と比較して24.1倍となった。検挙人員中、覚せい剤事犯の前歴かない者が45年以降毎年7割強を占めており、その合計は約6万人にも上るなど、新たな使用者の拡大が進んだ。また、覚せい剤の密輸入、密売は、通常、暴力団の強い支配の下で行われているが、最近、密輸入から末端使用者に対する密売に至るまで、暴力団員以外の者により敢行された事犯も発生し注目された。
〔事例〕 不況で経営難に陥った建設業者(44)が、資金かせぎのため韓国から覚せい剤200グラムを密輸入し、飲食店経営者(34)と共謀の上密売していた事犯を解明、会社員、植木職人、土木作業員等計21人を検挙し、覚せい剤13グラムを押収した(栃木)。
(ア) 車両運転者等
 暴力団員を除いた一般市民層への覚せい剤の浸透状況は、表5-1のとおりで、土木、建築等の肉体労働に従事する者の増加が顕著である。また、中毒者によって悲惨な交通事故を起こしやすいタクシー等車両運転者の覚せい剤事犯の検挙状況は、表5-2のとおりで、53年における検挙人員は前年と比較して168人(32.4%)増加した。
〔事例〕 水戸市内の運送会社社長(38)が、覚せい剤を自ら注射するとともに、運転者全員(12人)に対し、仕事の前に「眠気覚ましにやっていけ。」と、約10箇月間に、一人当たり20~40回注射していた会社ぐるみの事犯を解明、計21人を検挙し、覚せい剤11グラムを押収した(茨城)。

表5-1 覚せい剤事犯検挙者(暴力団員を除く。)の職業別状況(昭和52、53年)

表5-2 タクシー運転者等車両運転者の覚せい剤事犯検挙状況(昭和52、53年)

(イ) 青年層
 年齢別検挙状況は、図5-3のとおりで、検挙者中最も多いのは、30~34歳で4,087人(23.0%)であった。また、少年については、前年に比べ74.4%増加しており、憂慮すべき状況にある。
(ウ) 一般人女性
 男女別検挙人員は、男性が1万4,842人(83.7%)、女性が2,898人(16.3%)であり、前年と比べて女性の比率が1.2%増加した。特に、暴力団関係者を除いた男女別では、図5-4のとおり、前年に比べ男性が1,465人(31.5%)、女性が630人(35.8%)増加したことが注目される。

図5-3 年齢別検挙状況(昭和52、53年)

エ 覚せい剤中毒者等による事件、事故
 覚せい剤の使用者の増加に伴い、その薬理作用による殺人、交通事故や覚せい剤購入資金目的の連続窃盗等が多発し、社会問題化しつつある。覚せい剤の薬理作用等による事件、事故の発生状況は、表5-3のとおりで、前年に比べ36.4%増加した。また、覚せい剤取締法違反被疑者のうち覚せい剤事犯の前科を有する者は27.7%であり、依然として再犯者が多く、警察等による取締りだけでなく、関係機関による覚せい剤常用者に対する行政的対

図5-4 男女別検挙状況(昭和52、53年)

表5-3 覚せい剤の薬理作用等による事件、事故の発生状況(昭和53年)

策が必要であることを示している。
〔事例〕 覚せい剤常用者である旅館経営者(25)は、女性宿泊客(28)がへびを持って子供を殺しに来るとのもう想に陥り、深夜同女の首をひもで絞めて殺害し、更に実子(6月)にも布団をかぶせて殺害した。なお、被疑者は、心神喪失と認定され殺人について不起訴となった(兵庫)。
(2) まん延の防圧
ア 捜査の壁を破る努力
 昭和20年代後半の「ヒロポン」時代においては、少年による事犯、略式命令を請求した事犯等が全体の8割以上を占めるなど、比較的単純な事犯が大半を占めていたが、45年以降の覚せい剤事犯は暴力団関係者が検挙人員の過半数を占め、広域暴力団を中心にその主な資金源として組織を挙げて密輸、密売を敢行しており、悪質かつ複雑な事犯となってきている。これに伴い、その組織性、密室性のために捜査の壁は極めて厚くなっており、特に最近、覚せい剤事犯に対する裁判で量刑が厳しくなるに従い、暴力団関係被疑者は取調べに対し徹底的に否認することが多くなっている。また、警察無線の傍受、密売所での隠しテレビを利用した監視等による捜査妨害、ポケットベルを利用した機動的密売方法等、警察の捜査に対する組織防衛手段に工夫を凝らすとともに、覚せい剤の分散隠匿等その方法も一層巧妙化してきている。
 密輸入の方法についても、従来の身体に巻きつけるもの以外に、覚せい剤を糸をつけた指サックに入れて飲み込み、先端を歯に引っ掛けたり、陶器製ウイスキー容器に入れて封印したり、すずり石、陶器製電気スタンドの中に埋め込むなどますます巧妙化し、発見のためには貨物を破壊せざるを得ないケース等が増加し、捜査が困難化してきている。
 そのため、覚せい剤関係被疑者に対しては強制捜査を基本としているが、このうち53年には検挙被疑者の5割以上に勾留が付され、さらに、捜索差押許可状は2万3,271件の発付を得、また、覚せい剤に関する鑑定実施件数は尿鑑定2万9,444件等合計7万4,535件に上った。
イ 海外からの供給をストップ
 最近、覚せい剤のほとんどが外国から供給されている。警察では、この供給ストップを目指して情報交換等のため捜査官の海外派遣を活発化するなど国際捜査共助に努力した結果、主要な供給国である韓国、香港、フィリピン、台湾等で日本向け覚せい剤の密造工場が相次いで摘発されるようになった。
〔事例〕 8月、ソウル地方検察庁は韓国人4人が釜山市内に密造工場を作り、覚せい剤36キログラムを製造し、日本人密輸被疑者2人に売りさばいていた事犯を解明し、関係被疑者6人を検挙、覚せい剤16キログラム、覚せい剤原料305キログラムを押収した。
 近年、日本人の密輸被疑者等が国外に逃亡し、外国人密造グループと共謀して密輸ルートを作ることが活発化しているため、これらの者の国外での跳りょうを許さない方針の下に、国際刑事警察機構等を通じて追跡捜査を行い、昭和53年にはフィリピンから3人、台湾から1人、タイから1人の計5人の事実上の引渡しを受けた。また、密輸入事犯等による外国人被疑者の検挙は873人に上っており、捜査員に対する外国の言語や知識についての教養の充実等国際捜査能力の向上を図る必要性が強まっている。
〔事例〕 1月、警察庁、福岡県警察はフィリピンに係官等9人を派遣し、マニラに逃亡中の日本人被疑者3人を公海上の日航機内で逮捕し、日本へ護送した。その取調べから密輸元の台湾人等を突き止め、指名手配の上台湾当局に通報した。台湾当局では5月、被疑者3人を検挙して覚せい剤密造基地を壊滅させた。
 我が国には国際空港が8、開港(注1)が109、外郵(注2)が13あるが、最近、これらすべてから覚せい剤が陸揚げされるおそれが強まっており、また羽田、成田、伊丹等従来国際便が乗り入れていた空港以外の仙台、小松、松山、長崎、態本及び大分の空港等に団体旅行のためのチャーター用国際便を発着させる制度(ITC制度)が本格化すること、更に54年から覚せい剤の主要供給源である台湾で観光目的の外国渡航が自由化されることなど、密輸入事犯の一層の増加が予想される。
 覚せい剤事犯の根絶のためには、その供給を断つことが最も重要であることから、警察としてはこれらの困難な条件を克服するために、抜本的な体制の強化を図り、密輸、密売事犯に対する取締りを一層強化しなければならない。
(注1) 開港とは、貨物の輸出及び輸入並びに外国貿易船の入港及び出港が一定量以上行われる港をいう。
(注2) 外郵とは、輸出又は輸入される外国郵便物に関する検査、鑑定、徴税等の通関事務を行う大蔵省関税局の出張所のある郵便局をいう。
ウ 国民監視の目
 覚せい剤の乱用を押さえ込むためには、国民に対して覚せい剤の有害性についての広報活動を徹底するとともに、乱用の撲滅に向けた国民の積極的協力を得ることが重要な課題となっている。
 農家の老夫婦が、覚せい剤中毒となって金をせびる息子に殴るけるの暴力を振るわれながら、長い間世間体をはばかって警察に相談せず思い悩んだあげく、他の息子たちに指示して、その息子を金属バットやナイフで殺害させ、1年余の間、その死体をなし畑に埋めていた事件が、覚せい剤密売事件の捜査を通じて11月に茨城県で発覚した。このように覚せい剤中毒等に悩む家族等は全国に数多く潜在しているものと考えられる。そこで昭和53年には、これらの人々や近隣の人々が、気軽に相談できるよう「覚せい剤相談電話」を13道府県警察において設置した。さらに、覚せい剤が注射の方法により乱用されていることに着目し、28都道府県で注射器販売業者等の協力により、その販売方法の改善措置を促進するなど、きめ細かく対策の推進に努めてきた。
 検挙被疑者のうち、覚せい剤中毒と認められる者については、精神衛生法第24条の規定により、53年には、保健所等に対し931件通報し、このうち259件(27.8%)について入院等の措置がとられた。今後も国民の協力を得て覚せい剤事犯に対する監視の目を強め、中毒者の早期発見に努めるとともに、関係機関による行政措置の促進を図っていく必要がある。
〔事例〕 覚せい剤中毒となった材木商(40)が、覚せい剤購入代金等のため約8,600万円の負債を残して会社を倒産させ、治療のため入院した。しかし、退院後もまた覚せい剤を使用し始めたため、家族から「覚せい剤相談電話」を通じて警察に相談があった。警察では家族の力で本人を立ち直らせるようきめ細かな指導、助言を行った。約1箇月後、「お父さんが覚せい剤をやめることができて、元の明るい家庭になった。」と家族から感謝の連絡があった(岐阜)。
(3) 青少年を中心に増加する大麻事犯
 最近5年間における麻薬事犯検挙人員の状況は、図5-5のとおりである。
 特に大麻事犯は昭和30年代後半から増加を続け、53年には史上最高の1,070人を検挙した。
 また、最近5年間における麻薬の種類別押収状況は、表5-4のとおりである。
 大麻は、青少年を中心にグループで吸煙するいわゆるマリファナパーティーの形態で乱用され、53年には検挙者の65.7%が25歳未満の者で占められている。
 大麻事犯が増加する背景としては、若者たちの海外旅行熱が高まっており、外国で大麻吸煙を経

図5-5 麻薬事犯検挙人員の状況(昭和49~53年)

験して帰る者が多いこと、外国人旅行者、外国人船員等が日本に大麻を持ち込むこと、シンナー等の吸入経験者が好奇心から新しい刺激を求めて大麻吸煙に移行することなどが挙げられ、遊びの一種として、あるいはファッションとして拡大していることが特徴となっている。
 我が国に密輸入されている大麻は、タイを中心に主として東南アジアで生産されているものであるが、その持ち出し地は、アメリカが52.8%、アジア地域が38.9%となっている。また一部には、北海道等の山野で自生の大麻を採取して吸煙したり、自宅で栽培してまで吸煙しようとする者も現れている。
 外国では大麻乱用がヘロイン等のより強力な麻薬乱用への「踏み石」になっていることにかんがみ、警察では、欧米にみられるような麻薬禍の我が国での発生を未然に防止すべく今後とも厳しい姿勢で取締りに当たることとしている。
〔事例〕 海外留学経験を有する新派俳優(33)らが、海外で大麻吸煙を経験して病みつきとなり、知人である暴力団員が密輸入した大麻を譲り受け吸煙していた事件で、芸能関係者3人を含む12人を検挙し、大麻50グラムを押収した。

表5-4 麻薬の種類別にみた押収量の状況(昭和49~53年)

(4) 健康侵害事犯の取締りの強化
 国民の生命や身体に直接影響を与える健康侵害事犯の検挙件数は、シンナー等の有機溶剤の吸入禁止違反等の増加もあって昭和53年は、前年に比べ 21%増の2万2,302件となった。
 健康侵害事犯を法令別にみると、毒物及び劇物取締法違反が大半を占め、次いで薬事法違反、食品衛生法違反、あんま指圧師等法違反、医師法違反の順となっている。
 健康侵害事犯の特徴的な傾向としては、医療に対する国民の要望が増大している社会的背景に乗じて医師法違反、歯科医師法違反が目立ってきている。また、いわゆる健康食品ブームに便乗して、単なる食品を医薬品として販売した事犯が依然としてみられたほか、医薬品の成分を故意に減らした不良医薬品を大量に製造販売した事犯等悪質な事犯がみられた。さらに、食品加工会社がベビーフード等の原料となる粉末野菜に放射線を照射していた特異な食品衛生法違反も発生した。
 健康侵害事犯は、国民の関心が高く、かつ、国民生活の多様化に伴い新たな事犯の発生も予想されるので、今後とも効果的な取締りを推進することとしている。
〔事例1〕 無免許医師の前歴者が、でたらめな履歴書を作成して7都府県20数箇所の産婦人科病院等に勤務し、長期間にわたり患者延べ数万人に対して診察、帝王切開等を行い不法所得約1億円を得ていた(警視庁)。
〔事例2〕 中国茶販売業者が中国茶を国内向けに「麗雲」「神農茶」等と名称をつけて加工した上、大手婦人雑誌社等と共謀して「便秘、高血圧が治る。」等と全国的に広告宣伝して、同雑誌社等を通じて通信販売方法で中国茶を医薬品として大量に販売し、不法利益約5億5,000万円を得ていた(静岡)。

2 銃器使用犯罪と銃砲の取締り対策

(1) 銃器使用犯罪の現状
 最近5年間の銃器使用犯罪の状況は表5-5のとおりで、昭和53年は前年に比べ減少したが、金融機関を対象とした強盗事件が6件発生し、そのうち 3件は実際に銃器を発射するなど凶悪化が目立っている。

表5-5 銃器使用犯罪の状況(昭和49~53年)

(2) けん銃取締りの強化
ア けん銃の押収等の状況
 最近5年間のけん銃押収等の状況は表5-6のとおりで、昭和53年の押収数は減少したが、押収けん銃全体に占める暴力団からの押収の割合は依然として高く、暴力団の武装化傾向が強いことがうかがわれ、今後とも潜在化する暴力団の隠匿けん銃の摘発を強力に推進していく必要がある。
 また、改造けん銃は依然として押収けん銃の約6割を占めているが、53年の改造けん銃押収数は、ピークであった50年に比べ433丁(42.3%)減と大幅な減少を示している。これは、52年に銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)一部改正が行われ、改造容易な金属性モデルガンの販売目的の所持が禁止されるとともに、けん銃関係事犯に対する罰則が強化された結果といえる。

表5-6 けん銃の押収等の状況(昭和49~53年)

イ けん銃密輸事犯の傾向
 けん銃密輸事犯の最近の傾向をみると、タイルートの密輸入が最も多く、現地に密買人(ほとんどが暴力団員)を常駐させ、暴力団員が運び屋として出入国する事例、あるいは現地の家具等工作品に隠匿して他人名義で輸入する事例などその手段、方法が組織的かつ計画的になってきている。警察では、捜査官を派遣して情報の交換及び捜査協力の強化に努めるとともに、税関等の関係機関と情報交換を緊密にするなどして水際検挙に努めている。
〔事例1〕 元暴力団員が、タイ製木製キャビネット内にけん銃21丁及び実包700個を隠匿し、デンマーク船籍貨物船を利用してタイから密輸入した(兵庫)。
〔事例2〕 タイから東京国際郵便局に到着した小包郵便物6個内に、分解されたけん銃32丁及び実包400個が隠匿されていた(警視庁)。
(3) 猟銃に対する指導取締りの強化
ア 猟銃による事件、事故防止と法改正
 最近5年間の猟銃使用犯罪の状況は、表5-7のとおりで、昭和53年は前年に比べ減少した。しかし、猟銃使用犯罪の約5割が暴力団員によるものであり、許可を受けて猟銃を所持している者が債権の担保として暴力団等に渡すなど猟銃が暴力団に不正に流出している状況がみられる。

表5-7 猟銃使用犯罪の状況(昭和49~53年)

 また、許可を受けた者が債権の取立てをめぐって猟銃を使用したり、事業の不振、離婚話のもつれから心中に使用したりする例がみられたので、許可審査の機会を多くし、不適格者の早期発見、早期排除を図るため53年に銃刀法の一部改正が行われ、許可の有効期間が5年から3年に短縮された。
〔事例1〕 従業員から会社の経理不明朗を追及されたことに立腹した工場長が、自己所有の散弾銃を使用して従業員を射殺した(山形)。
〔事例2〕 借金のもつれから債権者に呼び出され脅迫されたことに憤慨した債務者が、知人が許可を受けて所有していた猟銃をすきをみて持ち出し、債権者を射殺した(静岡)。

表5-8 猟銃による事故の状況(昭和49~53年)

 最近5年間の猟銃による事故の状況は、表5-8のとおりで、依然として多数の死傷者を出している。53年の人身事故の状況をみると、発生場所の6割が「猟場」での事故であり、その事故原因の多くが猟銃の「取扱い不慣れ」、「矢先(銃口の方向)の不確認」等の初歩的ミスによる事故である。こうした事故を未然に防止するため、53年に銃刀法の一部改正が行われ、新たに猟銃を所持しようとする者に対して猟銃の操作及び射撃に関する技能検定又は射撃教習が実施されることとなった。
イ 猟銃管理の強化
 所持の許可をした猟銃及び空気銃(「猟銃等」という。)については、所持者及び銃番号を警察庁のコンピューターに登録してその保有状況をは握しているが、所持者の管理の不徹底等によって盗難、紛失し、行方が分からない銃がある。最近5年間のこれら所在不明銃の状況は、表5-9のとおりで、保管管理の指導の徹底と追及捜査による発見、解明によって、昭和53年は前年に比べ97丁減の1,715丁となった。しかし、なお相当数の所在不明銃があり、これらが暴力団等の手に渡り犯罪に利用されるおそれがあるので、今後とも都道府県警察の緊密な連携による追及捜査を全国的に実施していく必要がある。

表5-9 所在不明銃の状況(昭和49~53年)

 許可を受けた猟銃等については、銃刀法によって携帯、運搬、使用及び保管について事件、事故の防止の観点から厳正な規制を加えているのであるが、53年には、猟銃等製造、販売事業所におけるずさんな製品管理から、大量の猟銃が横流しされ、また盗難に遭った。警察としては、猟銃等製造、販売事業者の監督官庁に対し、製品管理の徹底についての積極的な指導、厳正な処分等を行うよう強く申し入れを行っているところであるが、今後とも防犯指導の強化等を通じて猟銃の盗難、横流しの防止に努めていく必要がある。
〔事例〕 猟銃の大手製造メーカーであるA株式会社茨城工場の幹部、工員及び猟銃等販売店並びに暴力団員等の絡んだ猟銃の横流し事件を解明し、44人を検挙するとともに散弾銃43丁、改造けん銃2丁及び実包89個を押収した(警視庁)。
ウ 猟銃用火薬類等の保管管理の徹底
 猟銃用火薬類等には、実包、雷管、原材料としての無煙火薬等があるが、これらの不法所持等の事件は表5-10のとおりほぼ横ばいの状況で推移しており、昭和53年には1,900件を検挙している。これは他の産業用火薬類も含めたすべての火薬類取締法違反事件のうち66.0%を占める。
 これらの事件のなかには、狩猟期終了後に使い残った実包を横流しする事件や猟銃による自殺のために用いる事例もみられるので、警察では狩猟期終了後に便い残った実包の廃棄、火薬店への保管委託等について強い指導を行うとともに実包横流し事件等については徹底した追及捜査を行っている。

表5-10 猟銃用火薬類等の取締り状況(昭和49~53年)

3 悪化を続ける風俗環境への対応

(1) 風俗営業等の取締り
ア まん延するピンク商法
 キャバレー、バー、料理店、マージャン屋、パチンコ屋等風俗営業等取締法によって、都道府県公安委員会が営業の許可を与えている風俗営業の最近5年間における営業所の推移は、表5-11のとおりで、総数では、キャバレー、料理店等のいわゆる料飲関係営業等は漸減、マージャン屋等の遊技場営業は漸増の傾向にある。

表5-11 風俗営業の営業所の状況(昭和49~53年)

 これを業種別にみると、料飲関係営業等は、キャバレー、ナイトクラブを除いていずれも減少しているが、遊技場営業では、マージャン屋が増加し、逆に、パチンコ屋は減少している。
 このように風俗営業は、一部の業種を除いて横ばい又は漸減の傾向にあるが、その営業内容は、社会一般の風潮を反映して全体的に「より享楽的なもの」への指向が年々高まっている。
 このなかで、時間制、低料金等のシステムでピンクサービスと称する卑わいな接待を売りものとして営業するものが増加し、このようないわゆるピンク商法を用いて営業を営む大手業者の地方進出等ともあいまって、この種の業者は、客確保のため競ってピンクサービスに力を入れ、ホステスに卑わいな行為をさせるなど違法営業を営むものが全国的に増加する状況にあった。
 このような傾向に対応して、警察は、9月、全国いっせいに風俗営業における卑わいな接待行為の取締りを行ったのをはじめ、この種の営業に対して強力な取締りを行い、昭和53年は、前年(240件)の約2.5倍に当たる604件を検挙するなど違法営業の排除に努めているが、今後ともこの種の事犯については、積極的な取締りを行う必要がある。
〔事例〕 キャバレー等数店を経営する会社社長(32)が、各支店にピンクサービスを営業方針とするように指示し、これを受けた各店長は、ホステスの一部を全裸にして客席を回らせ、ホステス全員に卑わいな接待を行わせるとともに、なじみ客には1回1万円で客席内で売春を行わせていた(新潟)。
 53年の風俗営業の検挙状況を業態別にみると、図5-6のとおりであり、違反態様別にみると、図5-7のとおりである。

図5-6 風俗営業の業態別検挙状況(昭和53年)

 都道府県公安委員会では、このような違反を犯した風俗営業者に対しては、許可の取消し又は6箇月以内での営業停止処分等を行っているが、53年における処分件数は、取消し27件を含む3,666件となっている。
イ 風俗営業まがいの深夜飲食店
 午後11時以降営業している深夜飲食店は、風俗犯罪や少年非行の温床とな

図5-7 風俗営業の違反態様別検挙状況(昭和53年)

るおそれがあるところから、風俗営業等取締法によって、営業の場所、営業時間、営業所の構造設備及び営業行為の制限を受けているが、最近5年間におけるその数は、表5-12のとおり夜間における生活時間の拡大等国民の生活様式の変化を背景に増加を続けており、昭和53年は、25万6,768軒で前年に比べ1万6,038軒(6.7%)の増加となっており、ここ数年来では、最も高い増加を示している。

表5-12 深夜飲食店営業の状況(昭和49~53年)

 これを業種別にみると、スナック、サパークラブ等風俗営業に類似した営業を営むものが年々増加している。
 このようなスナック、サパークラブ等の増加は、風俗営業のうち料飲関係営業等が減少する原因の一つともなっているほか、この種の業者間に過当競争をもたらしている。そのため営業内容は、風俗営業に類似した営業へと移行しており、なかには、無許可の風俗営業を常態として行っているもの、年少者を雇って深夜まで客の接待をさせているもの、店内の照明を異常に暗くしてホステスに卑わいな接待を行わせているもの、警察の取締りを免れるため、店外に見張りを立てたり、店舗出人口に透視鏡や施錠設備を設けて営業しているものなど悪質なものもみられた。
 このため、警察は、9月、全国いっせいに深夜飲食店営業等における無許可風俗営業の取締りを行い、無許可風俗営業561件を検挙したのをはじめ、悪質な営業を行うものに対しては強力な取締りを行った。
〔事例〕 飲食店経営者(31)が、風俗営業閉店後のホステスを客層とするいわゆるホストクラブを営むことによって利益を倍増しようと企て、派手な宣伝を行って客を集めるとともにホスト20人を確保し、これらに接待を行わせたり、バンド演奏に合わせてダンスをさせたりして連日午前4時ごろまで無許可のキャバレー営業を営んでいた(警視庁)。
 53年の深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-8のとおりである。
 都道府県公安委員会では、このような違反を犯した者に対しては、6箇月以内の営業停止処分等を行っているが、53年における処分件数は2,520件となっている。

図5-8 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(昭和53年)

(2) エスカレートする性の商品化傾向
ア わいせつ犯罪との取り組み
 近年我が国では、海外における性解放の影響を受けて国民の性に対する意識の変化がみられているが、社会一般における享楽的風潮のまん延と一部における法無視、法軽視の傾向、更には行き過ぎた商業主義ともあいまって、性の商品化傾向は年々エスカレートする傾向にあり、善良な風俗を害する事犯が目立っている。
 警察としては、このような性風俗に関する複雑な社会実態を注視しながら悪質なものに対しては強力な取締りを行っている。
 最近5年間におけるわいせつ犯罪の検挙状況は、表5-13のとおりである。

表5-13 わいせつ犯罪検挙状況(昭和49~53年)

 公然猥褻(わいせつ)事犯では、ストリップ劇場等におけるショーが、ますます露骨になっており、男女の出演者同士による性交行為の実演、観客を舞台に上げてこれと性交するといったいわゆる本番ショーが全国的にまん延している。
 このような実態に対し、警察は、9月と12月の2回にわたって全国いっせいにストリップ劇場等に対する公然猥褻(わいせつ)事犯の取締りを行うなど強力な取締りを実施し、昭和53年は、前年(107営業所)の約2倍に当たる201営業所を摘発した。
 また、猥褻(わいせつ)物頒布等のなかでは、暴力団による組織的なわいせつフィルム等の密造密売事犯、わいせつ雑誌等の通信販売事犯、自動販売機を利用しての猥褻(わいせつ)図画販売事犯等が数多くみられた。
〔事例〕 東京、札幌、新潟等6箇所の営業所、40箇所に取次店を持っている大手のビデオコーダー販売会社の営業部次長(34)らが、ビデオコーダーを売る際、わいせつフィルムをもとに複製したビデオテープをサービス品につけてビデオコーダーの売上げを伸ばそうと計画、約1年の間、東京都内や神奈川県内の客22人にわいせつビデオテープ36巻をビデオコーダー販売時のサービスとして頒布したり、1巻4,000円から5,000円で販売していた事犯で同次長以下社員11人を検挙するとともにわいせつビデオテープ74巻を押収した(神奈川)。
イ 売春事犯の多様化
 最近5年間における売春防止法違反の検挙状況は、表5-14のとおりである。
 売春関係事犯の検挙は、売春防止法が完全施行された翌年の昭和34年を

表5-14 売春防止法違反検挙状況(昭和49~53年)

ピークに長期的には減少の傾向にある。
 最近、売春の形態は、ますます多様化しており、暴力団関係者による管理売春、ソープランドにおける売春、いわゆるパンマ売春、風俗営業のホステス等による売春、女子高校生らによるグループ売春、外国人女性らによる売春、いわゆるサラ金業者らによる借金返済の代償としての主婦売春等が目立っている。
〔事例〕 スナック経営者(39)が、外国人女性は客に人気があることから内妻である台湾人女性と共謀し、台湾人女性に売春させることによって高収入を得ようと企て、内妻が台湾で勧誘した台湾人女性6人を観光ビザで入国させ、同女らを同スナック2階に住み込ませ、ホステスとして働かせる傍ら、飲食客を相手に同店舗2階やホテル等で売春を行わせていた。なお、台湾人女性のなかには、数年前から日本に入国して売春を行い、在留期間の切れる直前に帰国し、再入国しては売春を繰り返して行っている者もいた(長野)。
 最近5年間において警察が保護した売春婦の年齢層別状況は、表5-15のとおりで、53年の総数は、3,952人であり、前年に比べ各年代ともに減少しているが、このなかで20歳未満の年少者、なかでも18歳未満の者の数が、49年(181人)の約3倍、構成比においても14.3%と前年の13.0%を上回る高い割合を示していることが注目される。
 年少者の売春事犯には、性に対する好奇心、小遣い銭欲しさといった単純な理由から売春に走る事例が少なくない。

表5-15 売春婦の年齢層別状況(昭和49~53年)

 また、53年に、売春防止法違反で検挙した者のうち、暴力団関係者は、272人(12.0%)であるが、悪質な売春関係事犯の多くに暴力団の介入がみられること、さらに、相当数の暴力団員が売春婦のヒモとなっていることなどから売春と暴力団との関係は極めて密接なものであると思われる。
〔事例〕 広域暴力団の準構成員である運送会社の社長(28)は、喫茶店等にたむろする女子高校生等に言葉巧みに近づき、甘言と暴力をもってこれらの者と次々と肉体関係を結び、10人の少女を支配下に置き、これらを顔見知りの商店主や高校のPTA役員等多数にあっ旋して売春を行わせ、売春料のほとんどを取得していた(富山)。
ウ ソープランド売春
 ソープランド営業では、半ば公然と売春が行われているといわれるが、その営業所数及びソープランド従業員の数の推移は、表5-16のとおりで、いずれも漸増傾向にある。

表5-16 ソープランド営業所及びソープランド従業員の推移(昭和49~53年)

 昭和53年に売春関係事犯によって摘発したソープランド営業所の数は、62軒であるが、この種の事犯は、客の協力が容易に得られないこと、営業者の対取締り工作が悪質、巧妙になっていることなどから捜査は困難になってきている。
〔事例〕 12都市に54店のソープランドチェーン店を経営し、業界ではソープランドの帝王と呼ばれている男(57)が、対取締り工作や税金を免れるため、名目上の会社13社を設立して経営実態を複雑にし、自らは黒幕として各店を繰っていたが、そのチェーン店の中でも最大の規模を有する福岡県下のソープランドにおいては、派手な客引きを行わせて客を集めさせ、一方、ソープランド従業員30人には、罰金制度や前借金を課すことによってこれらを拘束して売春を行わせていた(福岡)。
(3) 過熱するギャンブルブーム
ア まん延するノミ行為
 最近のギャンブルブームを反映して公営競技(競馬、競輪、競艇及びオートレース)の売上げ総額は、年々増加しており、昭和53年は48年の2.3倍に当たる約4兆6,000億円にも上っている。これとともに公営競技に係るノミ行為事犯も図5-9のとおり増加し、しかもこのノミ行為への暴力団の介入が多くみられている。

図5-9 ノミ行為検挙状況(昭和49~53年)

 公営競技はギャンブルという性格上、レジャーの範囲を逸脱すると、過熱したファンによる資金欲しさからの犯罪や返済能力以上の借財をしての家出等を誘発するおそれがあるほか、暴力団等によるノミ行為の活発化を促すとともに、行き過ぎた射幸心の助長等風俗環境の悪化をもたらすことにもなる。
 警察では、暴力団の資金源封圧、ノミ行為のまん延防止等のために積極的な取締りを実施しているところである。
〔事例〕 暴力団が公営競技場内外で大規模なノミ行為を半ば公然と行い、有力な資金源にしているとの情報を入手し、長期にわたる内偵捜査の上、広域暴力団の幹部(41)が配下組員を使って公営競技場内観覧席等でいわゆるノミ屋を設け、約6箇月の間に数千万円の利益を上げていた事犯を解明し、暴力団関係者8人を含む被疑者106人を検挙した(香川)。
 一方、公営競技をめぐるいわゆる八百長事犯等競技の公正を害する不正行為も依然として後を絶たず、最近5年間における検挙状況は表5-17のとおりである。

表5-17 八百長競技等検挙状況(昭和49~53年)

イ ギャンブルマシン使用による賭博事犯の取締り
 公営競技以外のギャンブルについては、刑法の賭博(とばく)や常習賭博(とばく)等により取り締まっているが、最近5年間における検挙状況は、表5-18のとおりである。

表5-18 賭博事犯の検挙状況(昭和49~53年)

 この種の事犯のなかで特に注目すべきことは、スロットマシン、ルーレット等いわゆるギャンブルマシンを用いて賭博を行うものがみられることである。これらのギャンブルマシンは、遊技機そのものに偶然性が極めて高く、風俗営業等取締法による遊技場(7号営業)の遊技機としては不適当であるため許可の対象にしておらず、そのため遊技の結果に対して賞品等は提供しない建前で使用されているものである。
 昭和53年におけるギャンブルマシンを使用した賭博事犯の検挙は、513件(賭博総検挙件数の19.9%)、2,066人(賭博総検挙人員の19.5%)となっており、その内容は、100円硬貨を直接投入できるように改造したギャンブルマシンを設置して客に現金を賭けさせるもの、遊技の結果得たメダルやチップ等を換金しているものなどが目立っている。
 53年にギャンブルマシンを使用した賭博事犯によって摘発した営業所数は366軒であり、また、賭博の証拠品として押収したギャンブルマシンは、767台で、押収した賭金は、5,639万9,504円であった。
 なお、ギャンブルマシンは年々全国的に増加を続けており、10月末の調査では、5万7,260台で前年に比べ5,805台(11.3%)の増加となっている。
 また、ギャンブルマシンを設置する営業所は9,190軒であるが、このうち専業として営むいわゆるメダルゲーム場は、1,749軒で前年に比べ205軒(13.3%)増加し、副業としてこれらを設置する飲食店営業等の営業所は、7,441軒で前年に比べ1,324軒(21.7%)増加している。

4 経済事犯の取締り

(1) 景況と経済犯罪
 昭和53年の我が国経済は、国際収支の不均衡と円相場の急騰等により輸出産業を取り巻く環境にとりわけ厳しいものがあったが、総合経済対策による公共投資の大幅増加や物価の安定等により国内需要は底固い動きを示し、全体としては緩やかな拡大過程で推移した。
 しかし、失業者数は月間100万人台を記録するなど目立った改善はみられず、また、企業倒産も数多くみられた。
 このような景況は、さまざまな面において経済取引をめぐる犯罪に反映することも懸念されるので、警察としては、金融関係事犯、不動産関係事犯、国際金融事犯及びその他の商取引をめぐる事犯のうち、今後とも悪質な事犯に重点を置いた取締りを推進することとしている。
(2) 悪質、巧妙な金融事犯
ア 取締り状況
 最近5年間の金融事犯の検挙状況は、図5-10のとおりで、昭和53年は1,189件、1,183人と前年に続いて減少したものの依然として悪質事犯が後を絶たない状況にある。
 金融事犯の法令別検挙状況は、出資等取締法(出資の受入、預り金及び金

図5-10 金融関係事犯検挙状況(昭和49~53年)

利等の取締等に関する法律)違反が1,166件、1,127人で、件数、人員とも金融事犯全体の95%以上を占めている。
 違反の態様別では、高金利事犯が763件と金融事犯全体の64.2%を占めており、次いで、無届貸金業事犯309件(26.0%)、休業等の届出違反39件(3.2%)、預り金事犯19件(1.6%)等となっている。
イ 庶民を食いものにする高金利事犯
 金融事犯の大部分を占める高金利事犯は、表5-19のとおりで、昭和51年をピークに漸減の傾向を示しているが、53年は49年の約1.6倍となっている。

表5-19 高金利事犯検挙件数と貸金業者数の推移(昭和49~53年)

 高金利事犯は、ほとんどが貸金業者によって行われている。いずれも利用者の弱味につけ込んだものであるが、特に最近は、利用者が金利計算に疎いことを利用した脱法的事犯が目立っている。
〔事例1〕 秋田市内で貸金業を営むA(34)は、融資の申込みをしたB(44)に、利息の代わりに相当額の商品を買うことを貸付けの条件として承諾させ、20万円ずつ前後2回の貸付けに当たり最初は時価約5万円の家紋額を13万円で、2回目は時価1,000円前後の偽まむし粉末(魚粉、牧草等を混合した魚のえさ)を10万円でそれぞれ買い取らせて、法定金利の数倍のみなし利息を取ったのをはじめ、同じような方法で約7箇月間に1,000万円余の暴利を得ていた(秋田)。
〔事例2〕 高松市及び岡山市でAの商号で貸金業を営むB(45)は、別に同社と一体の金融保証会社「B保証」を設立し、貸付けに当たっては同社との保証契約を条件として、通常の利息のほか、月10%の保証料、書類代、取立経費等を取り、約6箇月間に1,300万円余の暴利を得ていた(岡山)。
 また、いわゆるサラリーマン金融(以下「サラ金」という。)については、これらの業者による高金利、返済能力のない者に他の業者から借金させて返済させる業者間のたらい回し、更には手段を選ばない過酷な取立行為等が、利用者の家庭悲劇ともあいまって社会的にも問題となっており、法規制の強化を望む声が高くなっている。
 このような実情から、サラ金等の貸金業に対する法規制の強化についての検討が進められている。
 このような問題は、単に、法規制の強化あるいは警察の取締りといったことのみで解決できる性質のものではなく、関係行政機関による業者に対する指導監督の強化、利用者に対する啓発指導の徹底等の諸施策に期待すべき面が極めて大きいものである。警察としては、悪質事犯に対する取締りを強力に推進するとともに、困りごと相談の受理体制の整備、被害防止の広報等幅広い施策を推進することとしている。
ウ 被害者等の状況
(ア) 高金利被害者の状況
 11月に実施した「金融関係事犯取締り強化月間」中に検挙した高金利事犯の被害者3,541人について、実態を調査した結果は図5-11のとおりである。
(イ) 貸金業利用者の自殺、家出
 サラ金等貸金業の在り方が社会問題化している背景の一つに、貸金業利用者の融資金返済や過酷な取立てを苦にした自殺、家出が多発したことが挙げられる。昭和53年の貸金業利用者の自殺、家出の状況は図5-12及び5-13のとおりで、180人が自殺し、2,203人が家出している。
(ウ) 貸金業利用者による犯罪
 昭和53年にサラ金等の利用者が返済資金を調達するために犯した犯罪が5,511件発生した。罪種別では窃盗が3,043件(55.2%)と最も多く、次いで詐欺1,851件(33.6%)、文書偽造235件(4.3%)等となっている。

図5-11 高金利事犯の被害者の実態(昭和53年11月)

エ その他の金融関係事犯
 昭和53年には、貸金業者等が銀行よりも有利な利息をうたい文句に多数の者から資金を集め、これを他に貸し付けた預り金事犯で19件、46人、相互銀行法に違反した頼母子講で14件、27人を検挙した。

図5-12 貸金業利用者の自殺状況(昭和53年)

図5-13 貸金業利用者の家出状況(昭和53年)

 また、いわゆるねずみ講については、11月にねずみ講の開設、運営等を禁止する無限連鎖講の防止に関する法律が制定公布され、54年5月11日から施行されることとなった。
 警察では、法律の施行に伴い無限連鎖講の取締りを一層強化するとともに、啓もう活動を推進し、被害の未然防止に努めることとしている。
(3) 悪質、巧妙な不動産事犯
ア 取締り状況
 最近5年間の不動産事犯の検挙状況は、表5-20のとおりで、昭和53年は、2,047件、1,802人を検挙した。法令別では、宅建業法(宅地建物取引業法)違反が全体の51.6%を占めている。また、全体的に検挙件数が減少したなかにあって国土利用計画法違反(一定面積以上の土地についての権利の移転を無届けで行うなどしたもの)、都市計画法違反(開発行為が規制されている土地を無許可で開発するなどしたもの)が前年に比べ、それぞれ71件(26.3%)、14件(13.6%)増加している。

表5-20 不動産事犯の法令別検挙状況(昭和49~53年)

 宅建業法違反の態様別検挙状況は、図5-14のとおりで、無免許営業が最も多く、次いで法律の規制により住宅の建築が制限されている土地や給水設備が十分でない住宅等を不動産業者が詐欺的手段を用いて売り付けたりした重要事項不告知事犯、物件の環境、価格等を事実より有利に偽って広告した誇大広告事犯の順となっている。
イ 売り屋を使った悪質事犯
 最近、不動産業者が一般に売り屋と言われる専門の不動産セールスマンを使って、粗悪な土地や建物を売り付ける事犯が全国的に目立っている。これら売り屋は、不動産業者の依頼に応じてグループで全国を渡り歩くもので、報酬は、歩合制となっているところから、売上げを伸ばすためには手段を選ばないといったものが多く、粗悪な不動産の売出しには売り屋が介在している例が多い。警察としては、このような売り屋を使って粗悪な不動産を売り付ける悪質事犯についても強力な取締りを行うこととしている。

図5-14 宅建業法違反態様別検挙状況(昭和53年)

〔事例〕 他社に勤務する取引主任者の名義を借りて宅地建物取引業免許を不正に取得した不動産業者A(43)は、住宅の建築が規制されている市街化調整区域内の土地を無許可で宅地造成した上、売り屋を使って「規制は近いうちに解除になる。」と客に説明させ、27人の客に合計約5,700万円で売り付けていた。Aは、売り屋に対して「あらゆるテクニックを使って売り尽くしてくれ。歩合は売値の3~5%付ける。」などと指示していた。重要事項不告知等で売り屋3人を含む1法人7人を検挙した(福島)。
ウ 被害の実態
 11月に実施した「不動産関係事犯取締り強化月間」中に検挙した宅建業法違反435件のうち、重要事項不告知事犯98件と誇大広告事犯32件について実態を調査した結果は図5-15のとおりで、重要事項不告知事犯では、物件に抵当権が設定されている事実等を告知することなく売り付けたものが44件(44.9%)と最も多く、都市計画法、農地法等の法令による規制があり宅地として利用できないのにそのことを告知しなかったものがこれに次いでいる。
 また、誇大広告事犯では、販売対象物件以外のものを広告するおとり広告が14件で最も多く、宅地、建物の周囲の状況、周辺の都市施設の整備状況等の環境整備について偽ったものがこれに次いでいる。おとり広告は、販売する意思が全くない物件や、場合によっては他人の物件を客寄せのために広告するもので、広告につられて客が来ると「この物件は売れてしまった。もっといいものがある。」などと言葉巧みに別の粗悪な物件を売り付けるというものである。

図5-15 重要事項不告知、誇大広告事犯の内容(昭和53年11月)

 警察としては、これらの状況を踏まえながら今後とも強力な取締りを実施するとともに、物件の権利関係、法令に基づく規制の有無の確認等被害予防上の配意事項について広報を行うこととしている。
(4) その他の商取引をめぐる事犯
ア 偽ブランド商品の横行
 最近の有名品志向の風潮に乗じて、有名ブランドの商品を装って模造品を販売する事犯が増加している。昭和53年は、ペンギンマークで知られるアメリカの有名衣料品の模造品約500着を製造、販売した事件(宮城)、「adidas」マークのスポーツバックの模造品約4,000個を製造、販売した事件(警視庁)、「TDK」の名称で知られるカセットテープの模造品約87万5,000個を製造、販売した事件(警視庁)、アメリカの有名ゴルフクラブ「LYNX」の模造品約4,000本を製造、販売した事件(兵庫)等商標法違反58件、59人、不正競争防止法違反43件、43人を検挙した。
イ 悪質な訪問販売等の取締り
 訪問販売等に関する法律違反の検挙は、309件、249人である。連鎖販売取引(マルチ商法)については、3業者を検挙している。
〔事例〕 トイレ排臭器の行商を営むA(22)らは、排臭器を取り付けている家庭を訪問し、「B社から点検に来た。お宅の排臭器は腐食しているから危険だ。交換時期も来ている。」などと家人を欺き、法令で定められている販売業者の氏名等を明らかにする書面を交付せずに6都県で排臭器を売り付けていた(宮城)。
(5) 多様化する国際金融、密貿易事犯
ア ヤミ決済の大型化
 対外取引に伴い発生する関税法及び外為法(外国為替及び外国貿易管理法)違反等の検挙状況の推移は、表5-21のとおりである。昭和53年4月に実施された為替管理の緩和等のため、前年に比べ外為法違反が減少している。

表5-21 関税法及び外為法違反の検挙状況(昭和49~53年)

 しかし、外為法違反に係る不正決済額は、122億6,665万円とこれまでの最

図5-16 不正支払、受領の原因別状況(昭和53年)

高となっている。支払、受領別の不正決済額及び原因は、図5-16のとおりである。
 最近は、「円」の為替レートの上昇や「円」に対する国際的信用の高まりを反映して、密輸貨物の代金の支払や不正手続に基づく貿易等の差額金の決済を、円貨や円表示自己宛小切手により行うものが大半を占めるようになった。ヤミ決済の相手国は、支払では、韓国(65.9%)、タイ(28.3%)、台湾(4.8%)、その他(1.0%)、受領では、韓国(92.3%)、香港(4.7%)、タイ(1.7%)、その他(1.3%)となっている。
イ 密輸、賭博資金の不正決済
 我が国において検挙されている密輸の主なものは、密輸出にあっては、金地金、機械器具類、密輸入にあっては、覚せい剤、麻薬類、高級腕時計等であるが、これらの取引に係るヤミ決済額は著しく増大している。また最近、国内では禁止されている賭博を外国で行うことによる資金の不正持ち出しや勝敗金の国内決済に伴う外為法違反が目立ってきている。
〔事例1〕 下関市で雑貨商を営む者が、東京都内の貴金属業者と共謀し、架空名義の銀行口座を利用して、ひそかに金地金4.8トン(63億3,000万円相当)を買い付け、これにマージン(約1割)を上乗せして韓国に向け密輸出し、その代金を、韓国に流出していた「円」現金や小切手により受領し、数億円の利益を得ていた(山口)。
〔事例2〕 韓国の賭博会社が、東京都内の旅行業者、金融業者等と結託して31都道府県から中小企業経営者、商店主、会社役員等数百人の賭客を勧誘し、いわゆる韓国賭博ツアーを組み、韓国の公認賭博場で大規模な賭博を行わせた上、十数億円に上る勝敗金を日本国内で不正決済し、数億円を不正に国外に持ち出していた事犯を解明し、これに介在していた稲川会系暴力団組長ら全国の暴力団首領12人をはじめ関連被疑者131人を検挙した(兵庫、宮城)。
ウ 輸出競争に伴う対外不正取引事犯
 円高及び国際的不況を背景とする厳しい輸出環境の下で、一部の輸出業者は、相手国の輸入規制を免れるため外国業者と共謀し、輸出貨物の価格等を虚偽に低価にして輸出手続を行ったり、国内における業界内の取決めを逸脱するために虚偽の輸出手続を行ったりする外為法違反、関税法違反が引き続き多発している。
〔事例1〕 鉄鋼材等の輸出業者が台湾への鋼材輸出に当たり、台湾側輸入業者の関税の軽減と自社の輸出の維持拡大を目的として、台湾の業者と結託し、実際の輸出価格を下回る金額をもって輸出手続を行い、その差額金を現地にプールし、台湾での取引確保のための工作資金に充てるなど5,500万円の不正決済をしていた(広島)。
〔事例2〕 織物等の輸出業者が韓国との取引を拡大するため、韓国業者の要望に従い、韓国における外貨流失規制を破り、韓国業者のために日本に裏金を蓄える手段として、輸出貨物の契約価格を実際より20%上回る虚偽の価格として輸出手続を行い、その差額金を日本国内にプールし、韓国業者が来日の際にこれを使用させるなど計1億6,000万円の不正決済をしていた(大阪)。
エ 武器輸出に係る外為法違反等
 我が国は、いわゆる武器輸出三原則により、武器の輸出を認めない政策をとっているが、この輸出規制を無視して、東京都内の貿易業者がフィリピン国軍と手りゅう弾信管100万個の輸出契約を締結し、このうち約10万個を品名を偽って不正に輸出した時点で、警視庁により外為法違反容疑で検挙された。また、暴力団関係者等を役員とするスイス時計の日本輸入代理店が、会社ぐるみで2年間にわたりスイスから腕時計を密輸入したり、韓国ブローカーと在日韓国人が結託し、韓国ブローカーが日本居住当時不動産詐欺により取得し日本国内に隠匿してあった4,000万円を資金として、鹿茸(ろくじよう)(鹿の角の粉末で精力剤といわれている。)を入手し密輸出しようとした事件等悪質な関税法違反も検挙されている。
 警察は、内外の経済、社会情勢等の変遷に伴い、新たな形態をもって敢行される違法な対外取引事犯に対し、これをは握するための専門捜査体制等の整備を促進するとともに、関係機関と連携をとりつつ、国内治安に悪影響を及ぼす事犯等悪質な事犯を重点に、今後とも取締りを強化していく。

5 公害事犯の取締り

(1) 公害事犯等の実態
ア 検挙は依然増加の傾向
 最近5年間の公害事犯の検挙件数は、図5-17のとおり年々増加を続けており、昭和53年の検挙件数は5,383件で、前年に比べ556件(11.5%)増加し、初めて5,000件を突破した。
 これを態様別にみると、廃棄物に関するものが3,120件(58.0%)と最も多く、次いで水質汚濁、悪臭の順となっており、この3態様で公害事犯全体の約9割を占めている。
 これを適用法令別にみると、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が4,596件(85.4%)と大部分を占め、以下、水質汚濁防止法、河川 法の順となっている。
イ 守られない排水基準
 水質汚濁関係事犯は、水質汚濁防止法のほか、下水道法、廃棄物処理法、河川法等を適用して検挙しているが、なかでも水質汚濁に直接影響を与える排水基準違反(水質汚濁防止法違反、下水道法違反)の検挙は235件で前年

図5-17 公害事犯年次別検挙状況(昭和49~53年)

図5-18 業種別排水基準違反検挙状況(昭和53年)

に比べ18件(8.2%)増加しており、依然としてこの種の事犯は増加の傾向を示している。
 検挙した企業の81.3%は資本金5,000万円未満の中小企業であり、これらの企業を業種別にみると、図5-18のとおりメッキ工場等の金属製品製造業が最も多い。
 また、違反項目の面からみると、図5-19のとおり環境項目に係る違反が77.1%と健康項目を大きく上回っている。前年に比べると年々減少傾向にあった健康項目の占める割合が約7%増加しているが、その原因は下水道法違反に健康項目に係る違反が多かったためである。

図5-19 排水基準違反の項目別状況(昭和53年)

 

違反項目と排出源の業種関係をみると、環境項目については各業種にわたっているが、健康項目に係る違反は金属製品製造業がその大部分を占めている。
 排水基準違反の傾向としては、処理施設の未設置、不使用、整備不良等に起因する事犯が多く、事業者の公害防止に対する認識の甘さが目立ったほか、警察の取締りや行政監視を免れるために法定の届出を怠り、又は虚偽の届出をするもの、隠し排出口を設けるもの、監視人を置いて排出するものなど、違反の手段、方法の悪質なものが多かった。
〔事例〕 金属製品のメッキ加工業者が、経費の節減を図るため、汚水処理装置の故障を知りながらこれを放置し、水中ポンプとゴムホースを利用し、夜間、早朝の人目のないときを見計らい、基準の約370倍のシアンを含有する未処理汚水を直接公共用水域にたれ流していた(愛知)。
ウ 多発した廃棄物の不法投棄
 昭和53年における廃棄物の不法投棄事犯の検挙件数は、3,387件で、前年より113件増加している。そのほとんどが産業廃棄物の不法投棄であって、その不法投棄総量は、約41万9,000トンとなっている。
 これを種類別にみると、図5-20のとおりで、環境を汚染するおそれの特に強い廃油、廃酸、廃アルカリについては約4万5,000トンで、前年の約7倍となっているほか、廃タイヤを含む廃プラスチック類についても前年の約10倍と大幅に増加している。これらの産業廃棄物を排出した事業場を業種別にみると、建設業と製造業とで74.0%を占めている。

図5-20 不法投棄された産業廃棄物(昭和53年)

 産業廃棄物の場所別投棄量は、図5-21のとおりで、山林、原野や埋立地、宅造地が不法投棄の場所として特にねらわれている。不法投棄の現場の大部分は、検挙時における警察の指導により、不法投棄者又は排出源事業者等の手によって原状回復等の措置がとられている。
 不法投棄事犯の内容をみると、産業廃棄物の最終処分地の不足と処理費用の高騰を反映して、無許可業者による大規模な不法投棄事犯が依然として後を絶たず、特に廃ダイヤの処分に困って不法投棄する事犯が各地でみられたほか、暴力団が介入したり、会社ぐるみで不法投棄するなど悪質な事犯が目立っている。

図5-21 産業廃棄物の不法投棄場所(昭和53年)

〔事例1〕 廃棄物処理業者が、大量の廃タイヤを抱えたタイヤ販売業者がその処分に苦慮しているのに目をつけ、市価の半値くらいでその処分を引き受け、宅地造成工事の原材料として使用すると偽って、約313万本に上る大量の廃タイヤを山林に不法に埋立処分した(三重)。
〔事例2〕 ガソリンスタンドの油混じりの汚でい収集専門の廃棄物処理業者が、バキュームカーを利用し、吸い込むと同時に付近の下水道のマンホールに流し込むという方法で6年間にわたり、収集した汚でいのすべてを不法投棄していた(福岡)。
エ 増えた公害苦情
 警察における公害苦情の受理件数は、昭和53年には3万6,148件と、前年に比べ2,798件(8.4%)の増加となった。
 受理した苦情を態様別にみると、図5-22のとおりで、騒音に関する苦情が2万9,980件(82.9%)で、前年に比べ3,910件(15.0%)増と大幅に増加している。

図5-22 苦情の態様別受理状況(昭和53年)

 騒音苦情を発生源別にみると、カラオケ等飲食店営業に伴うものが最も多く、以下、自動車の空ふかし等の音、建設作業騒音、テレビ、ステレオの音等の順となっている。
 これらの苦情の処理状況は、図5-23のとおりである。

図5-23 苦情の処理状況(昭和53年)

(2) 公害事犯との対決
 公害事犯は、依然として増加の一途をたどっているが、警察は、これに対処するため、廃棄物の不法投棄事犯及び悪質な水質汚濁事犯を重点とする計画的、集中的取締りを推進し、6月には全国いっせいの取締りを実施するなど、公害事犯と積極的に対決する姿勢をとっている。
ア 計画的取締りの強化
 公害事犯の計画的、集中的取締りとして、昭和53年においても「瀬戸内ブルーシー作戦」、「清流作戦」、「広域産廃作戦」の三大作戦を推進し、取締りを強化してきた。
 「瀬戸内ブルーシー作戦」については、5年間の限時法であった瀬戸内海環境保全臨時措置法が、53年6月13日から恒久法化されたのに伴い、引き続き実施することとし、関係11府県警察が共同して瀬戸内海に流入する河川浄化のため、水質汚濁関係事犯の取締りを積極的に推進した結果、全国の49.2%に当たる614件を検挙した。
 「清流作戦」については、瀬戸内海関係以外の全国34都道府県警察が地域の実情に応じ、汚染の著しい水域等を指定して、それぞれ計画的な取締りを推進した。
 「広域産廃作戦」については、人口、産業等の集中している首都圏、中部圏、近畿圏を中心として関係都府県警察が緊密な連携を保ちながら取締りを進め、これらの地域で全国の58.6%に当たる廃棄物処理法違反2,691件を検挙した。
 警察では、今後とも捜査体制、装備資器材等の充実に努め、公害事犯と対決する姿勢を強めることとしている。
イ 企業責任の徹底追及
 事業者の公害防止に対する責務については、公害対策基本法の明記するところであるが、検挙事例に表れたところでは、その自覚が必ずしも十分でないと認められるところから、検挙に当たっては、単に行為者のみならず、企業自体の責任を徹底的に追及しているところである。
 特に、産業廃棄物の不法投棄、産業廃棄物無許可処理業等の違反の検挙に際しては、これらの者に産業廃棄物の処理を委託した排出源事業者の刑事責任を徹底的に追及し、前年の4.7倍に当たる615件を産業廃棄物処理委託基準違反で検挙したほか、これらの者に不法投棄現場の原状回復措置を行わせることにより、抑止効果を高めている。
 また、水質汚濁防止法や下水道法違反の排水基準違反についても両罰規定を積極的に適用して企業の刑事責任を追求しており、昭和53年には211法人を検挙している。

6 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
ア 増加した火薬類の盗難事件
 昭和53年に発生した火薬類盗難事件は、52件であり、前年に比べ18件(52.9%)の増加となっている。なかでも発破の準備をしたり、使用前の一時保管をしたりするための火薬類取扱所や薬包に雷管を取り付けるための火工所等、比較的防犯設備の弱い火薬類消費現場に近い場所をねらった事件が14件発生しているが、これは前年と比べ10件の増加となっている。しかし、このうち13件については未遂に終わっており、また既遂事件についての被害爆薬8.2キログラムもその後の捜査によりすべて押収された。警察においては、火薬類の適正な保管を確保するために、火薬類取扱所、火工所等に対して、53年には延べ約20万回の立入検査を行い、管理方法が不適切な事犯1,084件(前年比11.7%減)を検挙した。

表5-22 火薬類盗難事件の発生状況(昭和49~53年)

イ 火薬類使用犯罪の現況
 最近5年間における火薬類使用犯罪は、図5-24のとおりで、昭和53年においては、極左暴力集団による火薬類使用犯罪が減少したこともあって16件の発生にとどまり、前年に比べ28件(63.6%)減少した。
(2) 核燃料物質等の安全輸送対策の推進
 原子力の平和利用の拡大に伴い、核燃料物質等の使用量、運搬量が増加している。これらの物質は強い放射能等の危険性があり、その安全輸送対策の

図5-24 火薬類使用犯罪の発生状況(昭和49~53年)

強化が要請されている。このため、昭和53年6月、「原子力基本法等の一部を改正する法律」が成立し、同法により「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の一部が改正され、原子力事業者等が核燃料物質等を運搬する場合には、都道府県公安委員会へ届け出ることが義務付けられたほか、届出を受けた都道府県公安委員会は、災害を防止して公共の安全を図る見地から、日時、経路等必要な事項について、指示ができることとなった。
 警察は、同法の適正な運用を図るとともに、核物質防護及び核燃料物質等の安全輸送の万全を期するため、所要の措置を講ずることとしている。
(3) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 産業の発展と技術革新によって、石油コンビナート等の大規模施設が増加し、また、国民生活の多様化に伴って高圧ガス、石油類等の消費が拡大している。これらは、国民生活の向上に寄与するところが大きい反面、いったん爆発、火災等の事故が発生した場合には、その被害はじん大かつ悲惨である。
 昭和53年の高圧ガス、消防危険物等による事故の発生件数は1,633件で、前年に比べ10.2%増加し特に死亡者が661名で40.6%増加した。警察では、これらの危険物による事故の未然防止を図るため、関係行政機関の業界に対する指導監督の強化を促すとともに、危険物運搬車両の取締りや、危険物関係法令違反の取締りを推進した。特に11月には、タンクローリー等の危険物運搬車両の全国いっせいの指導取締りを実施して1万6,119台の車両を検査して431件の違反を検挙した。53年の高圧ガス取締法、液化石油ガス法、消防法等の危険物関係法令違反の検挙件数は883件であった。
(4) 毒物、劇物対策の強化
 塩素酸塩類等が極左暴力集団等により爆発物の原料として使用されているため、警察は、従来からその不正流出防止のため、これらの取扱者に対する全国いっせいの防犯指導を実施してきた。
 また、昭和53年は新東京国際空港開港に反対する極左暴力集団が、ゲリラ活動に劇物であるクロルピクリンを凶器として使用した事件や浄水場に劇物である農薬を大量に投入するという凶悪な事件も発生した。
 このため、警察は5月に全国いっせいの防犯指導を実施し、3万5,852箇所の製造業者、販売業者、大量消費者に対し、盗難防止のための保管管理の徹底、法定手続の厳格な励行、不審購入者の警察への通報等この種の事犯の未然防止を図った。
 今後もこのような毒物、劇物を使用した犯罪が多発することが予想されるため、取締りを強化していく必要がある。


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