第3章 地域に密着した警察活動

1 地域住民に身近な活動

(1) 平穏な日常生活の守り外勤警察
 外勤警察は、日常生活の安全を願う地域住民の期待にこたえるため、常に警戒態勢を保ち、あらゆる犯罪や事故に即応する活動を行っている。
 外勤警察官の活動拠点であるとともに、警察の窓口的役割を果たしている派出所、駐在所は、昭和53年4月現在、全国に約1万5,000箇所置かれており、機動警らに当たる警ら用無線自動車(パトカー)や110番通報を受理する通信指令室と相互に密接な連携を保ちながら活動している。
 このほか、都市化現象の進展等地域の実態に対応した活動を効果的に進めるため、都市部で集団パトロールを行う直轄警ら隊、繁華街や駅等で警戒に当たる警備派出所、幹線道路の要所で警戒に当たる検問所、団地において住民との連絡に当たる移動交番車、沿岸等の水上パトロールを担当する警察用船舶(警備艇)等が置かれており、それぞれ派出所、駐在所と相互に連携を保ちながら活動を行っている。
ア パトロールで地域の守り
 外勤警察官は、地域住民の日常生活の安全と平穏を守るため、徒歩やパトカー等で受持区域のパトロールを行い、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、酔っ払いの保護等幅広い活動に当たっている。
 警察活動に対する各種の世論調査等において、パトロールの強化を望む住民の声は依然として高いので、このような住民の要望にこたえるため、警察では、派出所、駐在所での所内事務を合理化したり、外勤警察官の事件、事故の処理能力を向上させて、1人でも、1時間でも多くパトロールできるようにしているほか、パトロールの効果を一層高めるため、地域における事 件、事故の発生状況や特殊性等を考慮しながら、徒歩とパトカーの組合せによるパトロールや集団パトロール等を実施している。
 また、パトロールの際には、戸締まりなどが不十分な留守家庭等に対して、「パトロールカード」等によって、防犯上の注意を喚起したり、子供の善行や危険な遊びの実態を「ミニレター」で保護者に知らせるなど、地域住民との触れ合いを深める活動にも配慮している。
イ 住民の中に溶け込む巡回連絡
 警察活動を効果的に進めるためには、地域住民の理解と協力を得ることが何よりも大切である。このため、警察は、巡回連絡を通じて地域社会に溶け込み、住民との触れ合いを深め、良好な関係の維持、発展に努めている。
 巡回連絡は、外勤警察官が受持区域内の家庭や事業所等を戸別に訪問して、犯罪の予防や交通事故の防止等について必要な連絡を行うとともに、住民の警察に対する要望や意見等を聴いて地域の問題点等をは握し、警察の諸活動に反映させることを目的としているものである。
 このような警察と住民との間に信頼の輪を広げる上で効果の大きい巡回連絡も、共働き家庭の多い住宅団地、居住移動の激しい雑居ビルや歓楽街が集中した地域では十分な連絡が取りにくくなっている。
 このため、巡回連絡に専従する警察官を配置したり、共働き家庭が多い住宅団地等については、日曜や休日に集中して巡回連絡を実施したりして便宜を図っている。また、巡回連絡に当たって、住民との対話がスムーズに進むよう地域の情報を素材としたミニ広報紙や巡回連絡写真帳等を活用している都道府県警察が多い。
ウ 1日1,900件の地理案内
 外勤警察官は、パトロールや巡回連絡等の街頭活動を通じて受持区域の実態をは握しており、とりわけその地理には明るい。このため、派出所、駐在所に地理案内を求めて訪れる人は多く、特に、大都市の駅や繁華街を受け持っている派出所においては、その取扱いが極めて多いので、勤務員は休憩時間中でもその応対に追われているのが実情である。例えば、警視庁渋谷警察 署渋谷駅前派出所においては、1日平均約1,900件の地理案内を行っている。
エ 活躍するミニパトカー
 警察では、昭和49年度から広大な地域を受け持ち本署から遠隔の地にあるへき地の駐在所を対象に、ミニパトカー(小型警ら車)の配置を進めている。この配置によって、それまで自動二輪車等に頼っていた機動力は飛躍的に高まり、厳しい気象条件の下でも広い管内をくまなくパトロールができるようになったため、犯罪の予防、検挙はもとより、交通の指導取締りや酔っ払い、負傷者の保護、救護等の面でも効果を上げている。

活躍するミニパトカーの1週間
 ここに紹介する北海道旭川方面旭川警察署比布(ピップ)駐在所は、厳寒零下41度の記録を持つ旭川市の北方約20キロメートルに位置し、人口約5,000人、面積25.86平方キロメートルの北海道上川郡比布町を管轄しており、管内には、国鉄宗谷本線比布駅があるほか、旭川と稚内を結ぶ国道40号線が南北に縦貫している。
 比布駐在所にミニパトカーが配置されたのは、50年12月であるが、3年たった53年12月のある週の活躍状況を勤務員の手記から要約してみた。
 (零下23度、雪の中での巡回連絡)
 月曜日の午前9時、巡回連絡の時間である。駐在所の外は一面の銀世界で、早朝からの雪はまだ降り続いている。気温は零下23度と寒さが厳しい。
 計画に従って山間部の農家を訪ねることにした。自動二輪車しか配置されていなかったころではとても動けなかったが、ミニパトカーがあるので本当に助かる。山に近づくにつれて雪が深くなったので、運転には特に注意しながら、山あいに点在する農家の一軒に着く。
 最初の訪問先では、笑顔で迎えてくれた家の主人と、赤々と燃えるストーブを囲んで世間話をしながら、警察への要望を聴いたり、交通安全や防犯上の指導を行った。帰り際に、「また来てくださいね。」と大きな声が掛かったのが印象に残った。
 5軒の農家の巡回連絡を終わって駐在所に帰ったのは、午後1時を過ぎて いた。

 (緊急配備でひき逃げ犯人を発見)
 水曜日の午後0時50分、昼食をとっていると事務所の電話が鳴る。本署から、「ひき逃げ事件発生、緊急配備に就け。」との指示である。はねられた人は重傷らしい。昼食もそこそこにヘルメットをかぶり、ミニパトカーに飛び乗って犯人の逃走が予想される塩狩峠のふもとにある検問所に急行した。途中で乗せた隣接駐在所の勤務員は、次々と無線機に入る追加手配をメモしている。
 ミニパトカーを降りると冷たい風がほおを突き刺す。
 検問を始めて30分、足先が寒さで痛くなる。足踏みしながら検問を続けていると峠の方から雪をかぶった手配車両に似た車が降りてきたので、停止させ職務質問を始めた。運転していた男は、「ひき逃げなんて、おれは知らないよ。」とうそぶいていたがどうも落ち着きがない。車を見ると左側のバックミラーが折れている。「おかしいぞ。」直ちに状況を本署に報告して指示を受け、更に男を追及すると、答えに詰まって犯行を自供した。それによると 「吹雪で前方がよく見えず、通行人をはねたが、怖くなって逃げて来た。」とのことであった。
 その男を本署の交通係に引き継ぐ。幸い被害者の生命には別状はない。被害者の回復が早いことを祈りつつ、駐在所に向かった。
 (指名手配の男を逮捕)
 同日の午後4時40分、本署から帰って一息する間もなく管内のA自動車修理工場の奥さんが駐在所に駆け込んで来た。「額縁を押売する若い男が隣の独り暮らしのおばあちゃんの家に入って行った。」との通報である。早速ミニパトカーで出動する。
 現場に着いてみると、玄関先に腰を降ろした若い男が、困惑顔で応対するおばあさんを相手に額縁をしきりに売り付けている。一声掛けると、男は驚いて立ち上がり、急にそわそわし始め、態度に落ち着きがなくなった。
 押売の容疑でひとまず駐在所に同行して調べたところ、男は詐欺で指名手配中の者であることが判明し、その場で逮捕した。
 本署の刑事係に引継ぎを終わったのは、午後6時を過ぎていた。
 (酔っ払いの保護)
 土曜日の午後8時30分、自宅でお茶を飲んでいると、電話のベルが鳴る。相手は比布駅の顔見知りの駅員さんで、用件は、駅前に酔っ払ったじいさんが寝ているのでどうにかしてほしい、とのことであった。この寒さの中で寝ていたのでは凍死もしかねない。ミニパトカーで急いで現場に向かった。
 現場には、一人の老人が改札口の前で眠り込んでいた。酒のにおいがプーンとする。顔を見ると見覚えがあった。市街地から約25キロメートル離れた山すその開拓部落に老夫婦だけで暮らしているBさん(67)である。声を掛けてもなかなか起きない。駅員さんの手を借りてミニパトカーに乗せ、雪の山道をスリップしながらようやくBさん方にたどりついた。
 車の音を聞きつけたのか、Bさんの奥さんが表に飛び出してきたので、奥さんの手を借り家の中まで送り届けた。
 訳を話すと奥さんは、「この寒い中を本当にありがとうございました。」と2度も3度も頭を下げたが、そのしぐさに夫をいたわる妻の優しさを感じた。
 ミニパトカーに乗りBさん方を後にして、ふと、バックミラーを見ると、見送りを続ける奥さんの姿が映っていた。よほどうれしかったのであろう。駐在所に戻ったのは、もう午後11時を過ぎていた。
オ 遺失物、拾得物の取扱い
 昭和53年の遺失届は、173万2,337件、拾得届は、321万6,646件であり、いずれも前年に比べてやや増加した。これを通貨と物品に分けてみると、図3-1のとおり遺失金は約205億円、拾得金は約99億円であり、これを前年に比べると、遺失金は約17億円、拾得金は約8億円増加している。物品については、遺失届が出されたものは約265万点、拾得届が出されたものは約617万点であり、これを前年に比べると、遺失物品は約12万点、拾得物品は約58万点それぞれ増加している。

図3-1 遺失届、拾得届取扱状況(昭和49~53年)

 これらの遺失物や拾得物は、その大半が派出所や駐在所の外勤警察官が窓口となって取り扱われている。
 53年における拾得物の処理状況は、図3-2のとおりである。
(2) 住民との触れ合いを深める地域活動
ア 住民の要望にこたえる運動
 警察では、派出所、駐在所の勤務員が日常のパトロールや巡回連絡等を通

図3-2 拾得物処理状況(昭和53年)

じては握した地域住民に共通する困りごとや要望等のなかから、早急に解決を要する問題を一つ一つ取り上げ、住民の協力を得ながら解決する「住民の要望にこたえる運動」を全国的に推進している。昭和53年の取扱事案をみると、前年に引き続き交通関係や悪臭、騒音等の公害関係のものが多かったが、夏の異常渇水に伴って住民から寄せられる給水要請に対する処理等特異な活動事例もみられた。
〔事例〕 東予警察署大頭駐在所のA巡査長は、管内の小、中学校の児童・生徒120人が、交通ひんぱんな国道を通学路に利用しているため、父兄の間に安全な通学路設置についての要望が強いことを知ったので、現地調査や関係住民との話し合いを続けるとともに、町当局への要請等を行った。その結果、国道と並行して設けられている農道約2キロメートルが通学路として舗装整備され、小・中学生の子弟を持つ父兄に喜ばれた(愛媛)。
イ 老人と子供の保護活動
 独り暮らしの老人や老人と子供だけの家庭は、事件や事故の被害に遭うおそれが特に強いので、派出所、駐在所の勤務員は、それぞれの保護の必要性 に応じて、日常のパトロールや巡回連絡時に立ち寄り、あるいは定期的に訪問し、犯罪や交通事故等による被害防止の指導や困りごと相談に応じているほか、関係行政機関や親せき、知人等への連絡等も行っている。昭和53年は、宮城県沖地震の発生や北陸地方の豪雪に伴う保護活動等に特異な例がみられた。
〔事例〕 石巻警察署指ヶ浜駐在所のA巡査長は、6月12日午後5時14分ころ宮城県沖地震が発生し、太平洋に面する同駐在所管内の漁村一帯に津波警報が発令されたので、直ちに住民を誘導して高台の集会所へ避難させたが、そのなかにかねてからは握していた危険区域に居住する病気の独居老人(84)がいないことに気づき、直ちに同人宅に引き返し、老人を背負って無事避難させた(宮城)。
ウ 青少年の健全化を目指す活動
 派出所、駐在所の勤務員は、パトロールや巡回連絡等日常の諸活動を通じて、問題のある少年の補導、ミニレター等による保護者への連絡、その他少年問題に関する相談や要望を受理して、適切な処遇を行うなど少年の健全育成のための諸活動を実施している。また、勤務員自身やその家族の特技を生かして、各種クラブ活動の育成、推進に努めている事例も多い。
〔事例〕 内海警察署橘駐在所のA巡査は、管内の小学生を対象に柔道クラブを結成し、柔道を通じて少年の健全育成に努め、また、A巡査の夫人も、夫の仕事の手助けになればと近所の女子小学生を駐在所に集めて、編み物や刺しゅうを教えている。始めた当初、生徒はわずか2人だけであったが、うわさが地域に広まるにつれて次第に増え、現在では11人になっている。柔道や手芸をやるようになった少年たちは、礼儀正しく節度ある行動をとるようになった。この夫婦一体の地道な地域活動に対して、少年の父兄や地域住民は強い期待を寄せている(香川)。
(3) 犯人検挙に活躍する外勤警察官
 外勤警察官は、派出所、駐在所を主な活動拠点として、パトロール等の街頭活動を通じて、犯罪の予防、交通事故の防止等に努めているほか、犯人の 検挙や被害者の保護等、地域住民の日常生活の安全と平穏を確保するため、昼夜の別なく活動している。
ア 素早い立ち上がり
 事件、事故の早期解決は、発生してから直ちに展開される初動活動の適否が決め手となることが多い。外勤警察官は、一たび事件、事故が発生した場合には、真っ先に現場へ駆けつけ、犯人の検挙等に当たっているが、犯人を現場において迅速に逮捕するため、効果的な緊急配備や携帯無線機の活用等によって、素早い立ち上がりによる初動活動の推進に努めている。
イ 検挙に有効な職務質問
 犯人は、自分の行った犯罪を本能的に隠そうとし、特に、制服姿の警察官を見ると警戒を強め、あらゆる方法で検挙を免れようと必死になるものである。このような犯人を発見し、検挙することは容易ではないが、外勤警察官は、職務質問によって犯人のわずかな不審点や矛盾点を解明し、その検挙に努めている。
 特に、外勤警察官は、日常パトロール等の街頭活動を行っていることから、職務質問によって犯人を検挙することが多く、昭和53年には、職務質問による総検挙件数約9万件のうち約8割を外勤警察官が検挙している。また、職務質問は、犯人検挙に有効であるばかりでなく、犯罪を犯そうとする者に対する抑止や家出人等の発見、保護の面にも大きな役割を果たしている。
〔事例〕 新宿警察署歌舞伎町派出所のA巡査は、深夜の立番勤務中、多数の通行人等で混雑する人込みの中から、派出所前反対側歩道上を歩いている一見東南アジア人風の男を発見した。その男は、動作に落ち着きがなく、しかもA巡査の視線を避けるような素振りがみられたので、職務質問をするため走り寄って声を掛けると、男は一瞬驚いた様子をみせたが、そのまま立ち去ろうとしたので説得し派出所へ任意同行した。派出所で住所、氏名を確認すると、数日前発生した中国系外国人による路上殺人事件の被疑者として指名手配されている犯人の氏名と一致した。そこで、更に追及したところ、他の4人と共謀の上、中華包丁で3人の男 を殺傷したことを自供したのでその場で逮捕した(警視庁)。
ウ 犯人検挙の約6割は外勤警察官
 外勤警察官は、昼夜の別なく常に警戒態勢を保持して活動しているので、犯人検挙の比率は高く、昭和53年の外勤警察官による検挙人員は約22万3,000人に達しており、全検挙人員の約6割を占めている。特に、身近な犯罪として地域住民の関心が高い窃盗犯は、その約7割を外勤警察官が検挙している。
(4) 地域住民との対話
ア 住民の声を警察活動に
 都道府県警察の本部や警察署では、地域住民に対し警察の姿勢や警察活動の実態を正しく伝えるとともに、警察に対する意見や要望を的確には握し、これらを警察活動に反映させるよう努力している。このため警察では、窓口での広聴活動、各種広聴会の開催等を通じて住民の声を聴いているほか、世論調査等を実施して地域住民との触れ合いの場を広げるよう努めている。
 警察庁では、昭和53年11月、内閣広報室に依頼して、全国の成人男女3,000人を対象とした「警察に関する世論調査」を行い、2,455人(81.8%)から回答を得たが、その主な内容は次のとおりである。
 「交番や駐在所で勤務している警察官にぜひやってもらいたいと思うもの」(複数回答)については、パトロール(34%)、青少年の不良化防止(22%)、交通の指導取締り(17%)、迷惑行為の取締り(17%)、交番にいてほしい(12%)の順になっている。また、「警察に特に力を入れてほしいと思うこと」(複数回答)としては、空き巣等の侵入窃盗の取締り(31%)、暴力団の取締り(29%)、粗暴な犯罪の取締り(25%)、交通事故の防止(22%)、凶悪な犯罪の取締り(21%)、子供に対するいたずら等変質者による犯罪の取締り(20%)、子供の交通事故の防止(20%)、少年の非行防止(18%)等が挙げられている。
イ 地域性に富んだミニ広報紙
 全国の約1万5,000箇所の派出所、駐在所のうち、約1万箇所でミニ広報紙を発行し、地域の身近な情報の提供に努めている。その内容は、受持区内で発生した犯罪や事故の状況及びその具体的防止策、子供の善行、住民の意見や要望等地域性のある素材が中心となっている。
 ミニ広報紙の発行によって、地域住民からは、「警察に対するイメージが変わった。」、「町内会の連絡事項も片すみに入れてほしい。」などの声が寄せられるなど、警察活動に対する理解が高まってきている。なお、警察庁では、毎年1回ミニ広報紙の全国コンクールを実施するなどその普及に努めている。

ウ 警察音楽隊の活躍
 警察音楽隊は、昭和53年末現在、皇宮警察と都道府県警察を合わせて46隊を数え、隊員数は約1,500人に上っている。大部分の隊員は、多忙な勤務の合間を縫って演奏活動を行っているが、婦人警察官や婦人交通巡視員等で鼓隊やバトンガールを編成してバラエティを持たせている音楽隊もある。
 警察音楽隊は、防犯運動、交通安全運動、警察展等の行事で演奏活動をしているほか、県や市町村が主催する公共的行事、小、中学校での音楽鑑賞会や音楽教室、福祉施設や島部、へき地での慰問演奏会等でも、地域住民と警察を結ぶ「かけ橋」となって活躍している。
 警察庁では、毎年1回、全国の主要都市で全国警察音楽隊演奏会を開催している。10月には、第23回大会が仙台市で行われ、参加した29隊、約1,000人の演奏が地元市民の間で好評を博した。

2 110番とパトカー

(1) 110番制度発足満30年
ア 年々増える110番
 110番通報制度は、昭和23年10月1日に東京、名古屋、大阪等において初めて発足してから、満30年を迎えた。現在では、この制度が国民の中に定着し、電話の普及とあいまって110番通報件数は、年々増加の一途をたどっている。この制度が発足した当初から現在までの警視庁管内における110番通報件数の推移は、図3-3のとおりである。

図3-3 警視庁における発足当初からの110番通報件数の推移(昭和23~53年)

イ 通信指令室の拡充
 通信指令室は、110番通報制度やパトカーによる警ら制度の発足に伴い、110番等による急訴事件の受理とパトカーに対する指令を担当するセンターとして、警視庁をはじめ主要都市の警察に設置されていたが、現在では、全国のすべての都道府県警察に置かれており、警察活動のかなめとして重要な役割を果たしている。通信指令室の業務は、110番通報の受理やこれに伴う指令、手配及び重要事件発生時における緊急配備等の初動措置であるが、警察では、これらの業務を効果的に遂行するため、その組織体制の強化及びカーロケーター等新鋭の通信機器等の整備に努めている。また、犯罪の広域化やスピード化に対処するため、110番通報を警察本部の通信指令室で集中的に受理できる体制の整備にも力を入れている。
(2) 110番の利用形態
ア 11.8秒に1回、43人に1人が利用

図3-4 110番通報件数の推移(昭和44~53年)

 昭和53年に全国の警察で受理した110番通報は、図3-4のとおり267万2,997件で、前年より15万3,836件(6.1%)多く、10年前に比べ1.5倍となっている。これは、11.8秒に1回、国民43人に1人の割合で利用されたことになる。
イ ピークは夜間
 110番通報を受理時間帯別にみると、図3-5のとおり夜間が多い。特に、午後10時から午前0時までに集中し、この時間帯だけで全体の約12%を占めている。

図3-5 時間帯別110番受理件数(昭和53年)

ウ 多い交通関係の通報
 110番通報の受理状況を内容別にみると、図3-6のとおり交通事故及び交通関係法令違反等の通報が最も多く、全体の24.8%を占めている。

図3-6 内容別110番受理件数(昭和53年)

(3) パトカーの活躍
ア 効果を上げる早い通報
 事件が発生した場合に素早い110番通報があると、犯人を現場やその周辺で捕そくすることができるため、事案の早期解決を図る上で効果的である。
 110番集中地域(注1)における110番通報のうち、刑法犯関係の急訴事件でパトカーが出動した場合のリスポンス・タイム(注2)と現場における検挙状況との関係をみると、表3-1のとおりで、3分未満に現場到着した場合には約30%を検挙している。
(注1) 110番集中地域とは、この地域のどこから110番しても自動的に警察本部の通信指令室につながる地域のことで、全国警察署の64.2%に当たる775警察署管内の110番回線が通信指令室に集中設置されている。なお、110番集中地域外では、110番すると管轄の警察署につながることになっている。
(注2) リスポンス・タイムとは、通信指令室で110番通報を受理してから、パトカーが目的地に到着するまでの所要時間をいう。

表3-1 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙(昭和53年)

イ 凶悪犯の検挙に活躍
 昭和53年の外勤警察官による刑法犯検挙人員は、約22万3,000人であるが、このうちパトカー勤務員による検挙人員は、約4万8,000人に上っており、特に殺人、強盗、放火等の凶悪犯人の検挙については、外勤警察官による検挙人員の約4割を超えている。

3 生活を脅かす犯罪との対決

(1) 変質を始めた安全の基盤
 戦後30年間、我が国の刑法犯の認知件数は、昭和24年をピークとして、その後は起伏を繰り返しながらも48年までは、おおむね減少傾向を維持し、犯罪現象の悪化に悩む欧米諸国とは対照的な形で推移してきたが、49年から再び増勢に転じ、53年に至るまで5年連続して増加を続けている。
 また、内容的にも、空き巣ねらい、忍込み等の侵入盗が依然として多発し、国民に大きな不安を与えていることに加えて、金融機関に対する強盗事件の激増や無差別殺人事件の出現あるいは公共の場における公衆の無関心に乗じた犯罪、人質誘かい事件、盗難車利用犯罪の多発等いわゆる欧米型犯罪現象のほう芽が都市部を中心として随所に現れている。
 一方、近年の都市化、情報化、産業化、国際化といった社会経済情勢の激動のなかで、地域共同体の崩壊、匿名性の増大、享楽的風潮のまん延等が進むなど、社会に内在していた伝統的な犯罪抑止機能は次第に低下しつつあり、このまま推移すれば、我が国も、社会の病理現象の深刻化に悩む欧米諸国と同様の状態となる危険をはらんでいるといえよう。
 従来、我が国においては、犯罪の予防が国の重要な政策課題となることが比較的少なかったこともあって、防犯対策は、ややもすれば検挙の防犯的機能に依存しつつ、いわゆる被害者防犯を中心とする各種広報活動に重点が置かれ、その意味では極めて限定された範囲で進められてきた。しかしながら、最近における社会構造や社会意識の変化に伴い、従前の防犯対策は大きな壁に突き当たりつつあり、一方、捜査を取り巻く環境の悪化が進むなど、「検挙は最大の防犯である。」という伝統的な防犯機能の有効性も、次第に低下しつつある。このような情勢下にあって、安全で平穏な社会を維持していくためには、防犯対策の在り方について見直しを行い、時代に即応した総合的な未然防止対策を確立するとともに、長期的、戦略的にこれを推進していく必要がある。
(2) 総合的な防犯対策の推進
 犯罪現象の悪化と伝統的な犯罪抑止機能の低下が進行しつつある今日、欧米型犯罪情勢への移行を阻止し、将来にわたって国民生活の安全を確保するためには、従来行われてきた事後的、個別的対策の集積のみによっては十分な効果を上げることが困難であり、今後は、犯罪抑止要因の強化と犯罪誘発要因の除去を図るための、より根本的、総合的な対策を推進することにより、全体として社会構造の防犯性を向上させることが必要となっている。
 このような観点から警察では、我が国における伝統的な生活の基盤となっていた家庭、地域共同体の持つ犯罪抑止力の再評価と見直しを行い、地域防犯組織の強化と併せて、地域としての物理的、心理的一体性の確保、地域住民の地域帰属感や領域意識の高揚等を促進することにより、地域社会の防犯機能を再編、強化することとしている。
 同時に、社会構造の複雑化に伴い、人の生活関係において重要性を増しつつある職場、職域に着目し、これらを防犯的社会構造の一環としてとらえ、その防犯機能の充実、強化を促進することも重要であり、さらに、現代社会の安全を維持する上で重要な役割を果たしている職業的民間防犯組織-警備業-の育成、強化を図るとともに、地域社会及び職場、職域における犯罪抑止機構との間に有機的なネットワークを形成することにより、社会生活の仕組みが持つ防犯機能の構造的な強化を推進する必要がある。
 また、従来、我が国においては、都市が備えるべき防犯機能についての確立された理念がなく、都市計画等の策定等に当たっても、その防犯性についての配慮が十分になされてこなかったこともあって、地域共同体の崩壊、匿名性の増大、死角空間の増加等犯罪誘発要因の増加を招いており、こうした都市の物理的、社会的構造について施設配置の在り方等防犯的観点からの見直しを行い、安全な都市作りの促進を図ることも必要となろう。
 このほか、防犯機器や機械的防犯システムの水準の向上、建築物の防犯機能の強化促進、防犯的な観点からの保険制度の見直し、二次犯罪の防止を目的とした盗難等防止対策の強化等犯罪防止を目的とした行政上あるいは社会制度上の仕組みを確立することも重要な課題となっており、警察では、これらの施策を相互に関連付けながら、社会における犯罪抑止機能を全体的かつ構造的に強化するための総合対策を推進し、「犯罪を犯しにくい生活環境」の形成に努めることとしている。
ア 地域社会と一体となった防犯システムの確立
 都市化の波は、大都市から地方中核都市にまで及び、地域と住民の結び付きや地域住民相互の連帯意識の希薄化を招いており、人々の無関心は、犯罪行為を助長するとともに、事後の捜査活動を著しく困難にしている。
 犯罪に対する社会の抵抗力を回復するためには、家庭環境の整備と併せて、分解しつつある地域コミュニティを再編成して、近隣住民の自然的、互助的自衛、警戒という伝統的犯罪抑止機能を強化することが防犯対策上極めて重要な問題である。
 このため、当面は、各自治体と協力して、町内会、自治会、子供会等地域活動の担い手である各種組織の活動に積極的に参加することによって、地域共同防犯意識の醸成を促進することが重要である。このため、昭和53年は、全国防犯運動、盗犯防止重点地区対策等を推進したほか、既存の民間防犯組織をはじめ、各種の地域団体に対して幅広い働き掛けを行うなど、コミュニティ活動と一体となった防犯対策の推進に努めた。警察では、今後もこうした活動を更に充実、発展させ、各自治体とともに、コミュニティ活動の振興やその防犯的機能の強化に努めることとしている。
 また、諸外国においても、多発する犯罪と効果的に戦うためには警察独自の活動を強化するだけでは不十分であることが指摘され、市民参加型の活動を積極的に推進することにより、地域住民の共同体意識と地域に対する帰属感を高めることが、防犯対策の基本的考え方として打ち出されている。そのため、地域住民の組織化と併せて、都市景観の改善、交通流の制御、街路燈の増設等環境改善による防犯対策が積極的に進められている。今後、我が国においても、諸外国において実施されている新たな施策を踏まえつつ、都市におけるコミュニティの再建と防犯的な生活環境作りを強力に推進する必要があると言えよう。
(ア) 防犯協会の役割
 防犯協会は、地域社会の生活関係を基盤として、全国各地におおむね警察署単位で組織されており、警察と緊密な連絡を保ちつつ、地域における各種 防犯活動の組織化を推進するとともに、警察と地域住民の接点に立って、住民の防犯意識や防犯に関する世論の高揚に努めるなど地域防犯活動の中心となって活動している。
 具体的には、青少年に有害な環境の浄化活動、防犯パンフレットの配布、優良防犯器具のあっ旋等の幅広い活動を行っており、また、昭和53年には、全国防犯運動の主催団体としてその推進役を務め、防犯運動を国民運動として定着させるために大きな役割を果たした。

 しかしながら、地域社会の変質が進むなかで、防犯協会とその活動への関心が薄れていく傾向が生じており、防犯協会は、その組織、活動の在り方に再検討を加えるべき時期を迎えている。
(イ) 防犯連絡所の活動
 防犯協会の第一線である防犯連絡所は、表3-2のとおり年々増加しており、昭和53年末現在、全国で約66万箇所、53世帯に1箇所の割合で設置され ている。これらの防犯連絡所は、警察や防犯協会と地域を結ぶパイプ役として、各種防犯資料の配布、地域住民の警察に対する要望の伝達、不審者に関する通報等に活躍しているが、今後は、防犯座談会の開催、相互警戒活動の推進等地域共同防犯組織の起点となって、その活動の輪を更に広げることが期待されている。
 警察では、このような防犯連絡所の機能を更に強化するため、地域に即した犯罪情報や防犯活動用各種資料を積極的に提供するとともに、防犯連絡所責任者研修会等を開催して活動意欲の高揚に努めている。
〔事例〕 大分市内のある防犯連絡所では、その周辺区域が盗犯防止重点地区に指定されたことを契機として、防犯映画を上映したり、座談会を開催するなど近隣住民の意識を高揚するための諸活動を積極的に推進したほか、毎月5日と25日を防犯診断日と定め、防犯燈の点検、公園、神社その他青少年のたまり場等の巡回を行い、地域ぐるみの防犯活動を展開している(大分)。

表3-2 防犯連絡所の設置状況(昭和43~53年)

イ 重要性を増す職域防犯組織
 複雑、高度化した現代の社会においては、地域社会での生活と同時に、職場、職域等さまざまな組織のなかでの生活の比重がますます高まりつつある。
 警察では、職場、職域を基盤とした生活関係の持つ防犯機能に着目し、その強化促進に資することを目的として、こうした職場、職域における防犯組織の結成を積極的に促進している。
 また、従来から、金融機関等犯罪の被害を受けやすい業種、質屋、古物商等犯罪に利用されやすい業種等を重点対象として、職域防犯組織の結成を進めてきたが、今後とも積極的な働き掛けを行い、自主防犯組織の強化を図 り、警察と社会が一体となった犯罪防止活動を推進する必要がある。
 なお、昭和53年末の職域防犯団体の結成状況は、表3-3のとおりである。

表3-3 職域防犯団体の結成状況(昭和53年)

(ア) 金融機関における職域防犯活動
 警察が、現在、重点的に組織化を進めている分野の一つに、金融機関における防犯組織がある。キャッシュレス時代の進展や銀行等金融機関の大衆化路線に伴う店舗構造の開放化の進行等を背景として、最近、金融機関に対する強盗事件の増加が著しく、昭和53年は、過去10年間で最高の68件に達した。また、その犯行態様は、欧米型犯罪現象のほう芽ともみられる銃器使用事件が多発するなど著しく凶悪化している。ある意味では安全の象徴とみられていた銀行等金融機関が次々と強盗事件の対象となっていることは、経済的な損失はもとより社会全体の安全感に対しても計り知れない影響を及ぼしている。
 警察では、46年に「金融機関の保安基準」を策定し、これに基づく防犯診断、防犯パトロール等を積極的に推進してきたが、53年は、関係者の自主防犯意識の高揚と防犯設備の一層の充実を促進するため、職域防犯組織の結成を強力に働き掛けた。その結果、都道府県単位の組織数は、52年末の2組織から25組織に増加し、「金融防犯ニュース」の発行、「金融防犯の日」の設定等、活発な活動が展開されている。
 なお警察では、これまで主として侵入防止の観点から、金融機関の構造、施設等に対する指導を行ってきたが、最近における犯行の凶悪化傾向に対処するため、この種の事件の未然防止と早期鎮圧という観点から、防犯対策の 在り方について関係機関、団体とも協議しながら、総合的な検討を進めているところである。
(イ) 質屋、古物商と防犯
 警察が、犯罪に利用されやすい業種として、従来から積極的に組織化を促進してきたものに質屋、古物商がある。質屋、古物商は、業務を通じて盗品等に接する機会が多いが、その協力もあって、ぞう品捜査を端緒とする窃盗犯検挙件数は年間約5万件に達しており、民間防犯機構の一環として重要な役割を果たしている。
 また、昭和53年には、全国質屋防犯協力会連合会が全国規模の職域防犯団体として、財団法人全国防犯協会連合会に加盟するなど、その社会的な活動も年々活発化しており、警察としても、これら関係業界と緊密な連携を保ちつつ、積極的な指導育成に努めている。
ウ 警備業の役割
 地域防犯組織や職域防犯組織と並んで民間防犯機構を支える第3の柱として警備業があり、デパート、ビル、金融機関等の施設警備から現金輸送、工事現場の警備に至るまで広範多岐にわたって、安全に関する社会のニーズにこたえている。特に、最近では、各種警報機器やコンピューターを利用した防犯、防災システムを開発する動きが活発化しその守備範囲はますます広まりつつあり、労働集約的な人的警備から機械警備への移行が急速に進行するなかで、現代社会における防犯システムの一環として重要な地位を占めるに至っている。
 警察では、警備員の資質の向上や業務の適正な実施を促進するなど、警備業者に対する指導に努めているが、今後は更に一歩進めて、警察が行う警戒

表3-4 警備業者と警備員の推移(昭和49~53年)

活動と警備業者が行う警備業務との間に有機的な連携を確保し、全体として最も効率的な警戒システムの形成についても検討を行う必要がある。
 なお、最近5年間の警備業者及び警備員の数は、表3-4のとおりで、昭和53年末では、49年末に比べて業者数、警備員数とも約1倍半となっている。
(3) 盗犯防止重点地区対策
 国民の日常生活に最も身近な犯罪は、「空き巣ねらい」や「忍込み」等の侵入盗であろう。侵入盗の年間発生件数は、過去10年間おおむね横ばいを続けながらも、毎年30万件以上に上っており市民生活を大きく脅かしている。
 警察では、従来から、街頭パトロールの強化や防犯広報の徹底を図るなど侵入盗の防止対策を積極的に推進してきた。しかし、こうした対策の効果を更に高めるためには、犯罪発生実態の分析に基づいて侵入盗が特に多発している一定のまとまりを持った地域を選定し、その地域における盗犯誘発要因を減少させ抑止要因を強化するための各種施策を集中的に展開することにより、盗犯防止の観点に立った地域環境の改善を促進する必要がある。
 このため、昭和52年4月から都道府県別に侵入盗の発生率が特に高い地域について「盗犯防止重点地区」を設定し、これによって全国の侵入盗多発地域を一つ一つ解消していくこととしており、53年には383地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定298地区)を指定した。これらの地区においては、警察活動の強化と併せて地区住民、民間防犯団体及び関係機関の代表者等による推進協議会を組織し、盗犯防止対策の進め方についての協議検討を行い、自主パトロールや自主防犯診断を実施するなど民警一体となった総合的かつ継続的な防犯対策を推進している。
 なお、52年度の全国の盗犯防止重点地区における盗犯発生状況は表3-5のとおりである。
〔事例〕 東警察署管内の盗犯防止重点地区では、「防犯は婦人の力で」、「家庭を守るのは主婦」をスローガンとして、婦人防犯研修大会を開催し、防犯映画の上映、特別講演、優良防犯器具の展示即売会、防犯の歌の制定、犯罪発生状況についての分析検討等を行い、婦人層の連帯と自主防

表3-5 盗犯防止重点地区における窃盗犯発生状況(昭和51、52年度)

犯意識の高揚を図った(北海道)。
(4) 全国防犯運動
 昭和52年から実施している全国防犯運動は、幅広い国民運動として発展、定着しつつある。53年は、この運動の実施に先立ち、10月3日、東京都内において常陸宮、同妃両殿下の御臨席の下に各都道府県防犯協会の代表者等の出席を得て、全国防犯運動第1回中央大会を開催し運動の盛り上げを図った。53年の全国防犯運動は、「空き巣及び自転車盗の防止」を統一テーマに取り上

げ、10月11日から10月20日までの10日間にわたり全国各地で約111万人の参加を得て、県民大会、パレード、防犯研修会、防犯訓練等多彩な行事を行い、国民の防犯意識の高揚と地域、職域の自主防犯活動の促進を図った。
〔事例〕 三重県では、運動期間中、県防連、地区防連の主催による「くらしの防犯展」が開催され、防犯器具メーカー(錠前業者、警報器業者等)の協力展示及び防犯相談、県内小、中学校生徒から募集した防犯ポスターの掲示、自転車商協同組合の協力による自転車防犯登録の実施と盗難防止に効果のあるハンドルロック、チェーン錠等の展示を行ったほか、警察犬を使った防犯模擬訓練、白バイ、パトカーの同乗パトロール等多彩な行事を実施し、期間中約6万人が参加した。

4 保護活動

(1) 家出人発見活動
ア 増加を続ける家出人
 家出人は、不安定な心理状態や生活環境の急変等のため、犯罪の被害者となったり、転落するケースも多く、また、自殺のおそれもあるなど、家族や周囲の人々に与える不安は計り知れないものがある。
 警察に捜索願が出された家出人の数は、表3-6のとおり年々増加しており、昭和53年には、前年に比べ5,590人(5.9%)増加し、10万1,047人となった。また、家出人の性別をみると、42年に初めて女性の数が上回って以来、毎年女性の占める割合が多い。

表3-6 家出人の捜索願状況(昭和49~53年)

(ア) 14~17歳に多い家出
 家出人を年齢層別にみると、表3-7のとおり未成年者の比率が高く、また、警視庁に捜索願の出された家出少年の年齢についてみると、表3-8のとおり14~17歳の少年が、少年全体の70%を占めており、この年代の家出が多いことが分かる。

表3-7 捜索願のあった家出人の年齢層別家出人率(昭和53年)

表3-8 捜索願のあった家出少年の年齢別状況(警視庁)(昭和53年)

(イ) 依然として多い主婦の家出
 家出人を職業別にみると、表3-9のとおり一般サラリーマンが1万3,826人(19.8%)で最も多く、次いで主婦、工員・職人等の順となっている。前

表3-9 捜索願のあった家出人の職業別状況(昭和52、53年)

年に比べると、会社役員、個人企業経営者、自由業が若干減少したが、他はいずれも増加している。
 主婦は、昭和52年に大幅に増加して注目されたが、53年にも4.6%増加し依然増加の傾向にある。
(ウ) 家出原因に多い恋愛、結婚問題
 捜索願か出された家出人の原因、動機についてみると、図3-7のとおり「恋愛、結婚問題」や「家庭不和」によるものが圧倒的に多い。「恋愛、結婚問題」が原因で家出した者の約3分の2は女性であり、家出した20代の女性の約3人に1人、10代の女性の約4人に1人がこの原因で家出している。

図3-7 家出の原因、動機(昭和53年)

 次に「家庭不和」については、「夫婦間の不和」が最も多く、家出した主婦の約40%がこの原因で家出している。なお、老齢化するにつれて「精神障害」等の疾病関係による家出が多くなっている。
イ 家出人の発見状況
 年間に発見される家出人の数は、表3-10のとおり昭和49年以降増加しているが、53年には10万5,126人となり、最近5年間で最高となった。
 また、53年に捜索願を受理した10万1,047人の家出人のうち、53年末までに発見された者は、7万4,994人で、発見率は74.2%に上っている。

表3-10 家出人発見数の推移(昭和49~53年)

 発見された家出人の発見までの期間をみると、表3-11のとおり1週間以内に発見された家出人が全体の60.4%と最も多く、時間の経過とともに、その発見数は減少している。

表3-11 家出人の発見までの期間(昭和53年)

 発見された家出人について、発見の方法をみると、図3-8のとおりで、その約半数を職務質問等の警察活動により発見している。
 なお、これらの家出人の発見時の状態についてみると、大部分は無事に発見されているものの、罪を犯した者が2,945人(2.8%)自殺した者が1,658人(1.6%)、犯罪の被害者になった者が785人(0.7%)いることが注目される。

図3-8 家出人の発見方法(昭和53年)

(2) 酔っ払いの保護
 最近5年間に、でい酔あるいはめいてい状態で自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼすおそれがあったり、粗野又は乱暴な言動で公衆に迷惑をかけるなどの理由で保護された者は、表3-12のとおりである。
 これらの酔っ払いのうち、アルコール中毒やその疑いのある者として、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律第7条により保健所長に通報し、必要な治療を要請した者は、表3-13のとおりである。

表3-12 酔っ払い保護数の推移(昭和49~53年)

表3-13 保健所長に通報した酔っ払い数の推移(昭和49~53年)

(3) 迷い子、精神錯乱者等の保護
 昭和53年に酔っ払い以外で警察が保護した者は、表3-14のとおり15万2,320人で、保護原因別にみると、迷い子が過半数を占めて最も多い。

表3-14 保護原因別保護数の推移(昭和49~53年)

(4) 増加を続ける困りごと相談
 現在のように社会構造の複雑化に加え、住民の連帯意識が希薄化している社会では、住民の悩みや困りごとも複雑多岐にわたっており、相談相手もなく身近な警察に相談に訪れる人が少なくない。警察に持ち込まれる相談ごとのなかで、困りごと相談として処理されたものは、表3-15のとおりで、その件数は年々増加しており、昭和53年には17万4,371件に上っている。

表3-15 困りごと相談受理件数の推移(昭和49~53年)

 53年に警察に困りごと相談に来た人の年齢、職業は、図3-9、図3-10のとおりである。

図3-9 相談者の年齢(昭和53年)

図3-10 相談者の職業(昭和53年)

 困りごと相談の内容は、表3-16のとおりである。
 警察では、これらの困りごと相談について、警察活動の範囲内で解決できるものについては積極的に解決に当たるとともに、事案解決のための指導助言を行い、また、他の行政機関等にゆだねるべきものについては、その窓口の紹介や引継ぎを行うなど、解決に向けての努力をしている。53年の困りご

表3-16 困りごと相談の内容(昭和53年)

と相談の処理状況は、図3-11のとおりである。
 警察では、国民に身近な相談機関としての困りごと相談の役割がますます大きくなっている現状から、専任の困りごと相談員を新たに設置し、あるいは増強するなど、相談処理体制の強化を図っている。

図3-11 困りごと相談の処理状況(昭和53年)

(5) 自殺の実態
 警察では、自殺の実態を明らかにすることにより、市民保護活動の推進に役立てるとともに、関係行政機関の施策の推進に資することなどを目的として、昭和53年1月1日から、自殺者の年齢、職業、原因、動機等に関する統 計の作成を始めた。
ア 増加傾向にある自殺
 昭和53年における自殺者は、表3-17のとおり総数2万788人で、うち少年は866人であり、男女別にみると、男性は1万2,859人(61.9%)、女性は7,929人(38.1%)である。また、自殺率(注)をみると、総数で18.0、男性は22.7、女性は13.6となっている。

表3-17 年齢層別自殺者数、自殺率(昭和53年)

 戦後の自殺の推移を自殺率でみると、図3-12のとおりで、昭和22年の15.7人から上昇傾向をたどり、30年代初めに第1のピークを迎え、33年には戦後最高の25.7に達した。その後は、急激な減少傾向をたどり、42年には戦

図3-12 自殺率の推移(昭和22~53年)

後最低の14.2を記録した。しかし、43年から再び上昇に転じ、53年は18.0と第2のピークを迎えつつある。
(注) 自殺率とは、人口10万人当たりの自殺者の数である。
イ 多い65歳以上の自殺
 自殺者を年齢層別にみると、表3-17のとおり高年齢層になるほど自殺率が高くなっており、特に65歳以上になると49.3と急激に上昇しており、老人問題の深刻さを示すものとして注目される。
ウ 最も多い自殺原因は「病苦等」
 原因、動機別にみると、表3-18のとおりで、「病苦等」が9,183人(44.2%)で圧倒的に多く、次いで「精神障害、アルコール症等」によるもの3,323人(16.0%)、「家庭問題」によるもの2,239人(10.8%)となっている。男女別にみると、男女とも「病苦等」、「精神障害、アルコール症等」が1位、2位を占め ており、以下、男性は、「経済生活問題」、「家庭問題」、「勤務問題」の順になっているのに対し、女性は、「家庭問題」、「男女関係」、「経済生活問題」の順になっている。

表3-18 原因、動機別発生状況(昭和53年)

5 水上警察活動

(1) 水上警察の活動状況
 警察では、水上における警察事象に対処するため、警察用船舶191隻を主

表3-19 犯罪検挙、保護等の水上警察活動状況(昭和49~53年)

要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する警察署に配置し、各種刑法犯、密出入国、密漁等諸法令違反の検挙、取締り、水難救助活動等を行っている。
 最近5年間の犯罪検挙、保護等の水上警察活動状況は、表3-19のとおりである。
(2) 今後の水上警察の在り方
 諸外国の漁業水域の設定に伴い、我が国の遠洋漁業は、近海漁業や沿岸漁業への転換を迫られ、これによって、沿岸、沖合漁業が過密化し、密漁等の漁業法違反や養殖魚介類の窃盗事犯等の増加が予想され、また、レジャー活動の活発化に伴い、河川や湖沼、沿岸海域におけるモーターボート、ヨット等のいわゆるプレジャーボートによる事故も多発している。

 したがって、今後の水上警察は、特定海域における密漁等の取締りの強化や河川、湖沼等における水上交通安全対策の推進を図りながら、情勢の変化に対応して水上警察業務を効率的に運営し、併せて警察用船舶の性能向上、大型化及び増強等体制を強化していくことが望まれている。


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