第2章 少年を非行から守るために

1 少年問題の重要性と少年警察活動

 少年の非行は、少年自身はもちろん、その家庭にとっても極めて不幸な、しかも深刻な問題である。我が国の将来を担う少年が非行に陥ることなく健やかに成長することは、子を持つ親ばかりでなく、国民だれもが切に願っていることである。
 しかし、昭和40年以降減少を続けていた少年非行は、48年以降増勢に転じており、53年は前年に比較して14.8%増加して戦後最高の増加率を記録し、戦後第3のピーク期を迎えるに至っている。また、内容的にも中・高校生や女子の非行が増加したほか、ごく普通の家庭の少年によるいわゆる遊び型非行の多発等少年非行の普遍化傾向が一層進むとともに、暴走族グループによる悪質な非行、中・高校生らによるいわゆる校内暴力事犯、性非行、シンナー等の薬物乱用等問題性の高い非行が著しく増加する傾向を示している。さらに、小・中学生の自殺も大きな社会問題になっている。それと並行して、性的感情を著しく刺激する低俗な出版物、広告物、映画、放送等がはん濫し、更には少年の転落や非行化の温床となりやすい享楽度の高いスナック、喫茶店、深夜飲食店等の諸営業が増加し、心身ともに未成熟な少年に有害な影響を与え、しばしば少年非行の誘因となり、少年の健全育成を阻害する要因となっている。こうした事態が更に進むならば、我が国の将来は犯罪のまん延に苦しむところとなり、直接治安上の重大問題にもなってくるであろう。
 警察は、このような国民的課題である少年非行の防止をその責務とする機関であり、かつ、非行防止の第一線にあって非行少年を発見し補導することはもちろん、非行の背景を分析して少年非行を誘発する環境を浄化する活動その他の少年非行防止対策を総合的に実施するという広範な活動を行ってお り、少年警察に対する国民の期待はますます高まっていくものと考えられる。

2 少年非行の推移

(1) 包括罪種別の推移
 戦後における少年非行の推移を主要刑法犯で補導した少年の人員及び人口比(注)でみてみると、図2-1のとおり昭和26年を中心とする第一の波、

図2-1 主要刑法犯少年等の人口比及び補導人員の推移(昭和24~53年)

39年をピークとする第二の波、そして40年代半ばから始まる第三の波と三つの波があることが分かる。53年は、第三の波の正にピークに差し掛かっているといえる。
 次に、その内容を包括罪種別にみると、図2-1、図2-2のとおりである。まず、窃盗犯で補導した少年の人口比の推移をみると、窃盗犯が主要刑法犯の大多数を占めるため、主要刑法犯のそれとほぼ一致している。
 窃盗犯に次いで補導人員の多い粗暴犯についてみると、30年代の半ばから後半にかけて増大し、その後減少しており、主要刑法犯の動きとはかなり異なっている。

図2-2 凶悪犯少年等の人口比の推移(昭和24~53年)

 凶悪犯で補導した少年の人口比の推移をみると、28年を底として急激に増加し、33年から35年にかけてピークを形成し、以後は徐々に減少しており、粗暴犯の推移に類似している。
 知能犯の人口比の推移をみると、25年をピークとして以後減少傾向にあったが、46年から再び急激な増加傾向にある。風俗犯の人口比の推移をみると、24年をピークとして急激に減少したが、32年から徐々に増加し、41年を頂点として以後減少傾向にある。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。
(2) 社会の動きと少年非行
 少年非行は、社会を映す鏡だといわれる。昭和20年代の少年非行は、すべての罪種において高い数値を示した後、20年代終わりから30年代初めにかけて鎮静化していったが、これは終戦直後の社会的混乱と経済的窮乏を背景として激増した少年非行が、25年に始まった朝鮮戦争のもたらした特需景気を契機とする経済の好転、社会の安定化とともに鎮静化していったものと考えられる。
 30年代に入って、またしても非行が増加するのであるが、これは一般的に、この時期の急速な経済成長に伴う都市化の進展、都市への人口集中、享楽的風潮の広まり等少年非行を誘発しやすい社会構造への変化がその背景となったとされている。しかし、この時代の非行が、粗暴犯、凶悪犯の著しい増加を特色としていることを考え併せると、この時期の少年層が幼少年時代を戦後の社会的、道義的に混乱を極めた時代に送っているということも見逃してはならない。
 40年代半ばから始まる第三の波は、その内容をみると増加しているのは窃盗犯と知能犯だけであり、更に詳しくみると、窃盗犯では万引きと乗物盗、知能犯では遺失物横領が増加していることが分かる。これらは、いずれも、いわゆる遊び型非行と呼ばれているものである。また、このころからシンナー等の薬物乱用、性の逸脱行動、更には暴走行為といった新たな非行形態がみられるようになる。この時代は、経済の高度成長に伴って国民の生活が豊かになるとともに多様化したが、社会風潮としては享楽的風潮が一層強まるとともに、価値観の多様化、社会連帯感の希薄化、規範意識の低下等がいわれており、これらの影響を少年がまともに受けていることは否定できないであろう。

3 少年非行の実態と特徴的形態

(1) 少年の非行者率と累犯非行
 男子少年の非行者率(注)についての調査をみると、表2-1のとおり二

表2-1 非行者率と非行件数

つの生まれ年度によって若干差があるが、100人生まれたうち14~19歳の6年間に6~7人が非行を犯している。そのうち4人前後は1回限りの者であるが、2~3人は2回以上の累犯非行者である。すなわち、我が国の男子少年を非行回数の経歴で分類すると、無非行者約94%、非行1回限りの者約4%、累犯非行者約2%の構成になると思われる。したがって、我が国では昭和52年中に男子が約90万人出生しているので、この傾向が続くならば、このうち約5~6万人の男子が約10~12万件の刑法犯を犯すものと予想される。
 また、非行件数をみると、それぞれ825件及び606件となっているが、このうち初犯者による非行の件数(非行者数と一致している。)を除いた410件及び260件は、累犯者による非行の件数を示している。すなわち、非行の約半数近くは非行前歴者による犯罪であり、初犯者に以後非行がなければ、全非行件数は半減することになる。また、調査1と調査2を比較すると、非行者数は415人及び346人とその差は69人であるが、非行件数は825件及び606件と大幅な違いがみられる。これは、調査2の場合は、累犯者による非行件数が少ないためである。
 したがって、数の上でみれば、非行防止対策と再非行防止対策が同等に重視されることを示している。
(注) 非行者率とは、14歳から19歳までの間に1回以上警察に刑法犯(業務上過失犯を除く。)で補導された者の割合をいう。
(2) 少年非行の実態
ア 非行少年等のあらまし
 昭和53年に警察が補導した非行少年(注1)及び不良行為少年(注2)の数は、表2-2のとおりである。

表2-2 非行少年等の補導状況(昭和53年)

 過去10年間に警察が補導した非行少年の推移をみると、図2-3のとおりである。刑法犯で補導した少年(「刑法犯少年」という。)の数は、48年から増加傾向にあり、特別法犯で補導した少年(「特別法犯少年」という。)は、47年まで横ばいであったが、48年以降増加の一途にある。触法少年は48年を境に減少傾向にあったが、52年から再び増加しており、ぐ犯少年は44年以降漸減状態にある。交通事故に係る業務上(重)過失致死傷で補導された少年は、44年以降急減し、49年からは横ばいとなっている。
(注1) 非行少年とは、犯罪少年、触法少年及びぐ犯少年をいう。
(1) 犯罪少年…罪を犯した14歳以上20歳未満の者(少年法第3条第1項第1号)。
(2) 触法少年…刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者(少年法第3条第1項第2号)。
(3) ぐ犯少年…性格、行状等から判断して、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者(少年法第3条第1項第3号)。
(注2) 不良行為少年とは、非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、けんかその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている20歳未満の者をいう(少年警察活動要綱第2条)。

図2-3 警察が補導した非行少年の推移 (昭和44~53年)

イ 戦後最高となった主要刑法犯少年の人口比
 戦後における主要刑法犯で補導した少年の人口比の推移をみると、図2-1のとおり昭和48年以降徐々に増加し、53年には13.6人となり、26年の12.1人、39年の12.0人を大きく上回って戦後最高を記録した。
 また、全刑法犯検挙人員のなかに占める少年の割合も、53年は35.8%に上り、12年ぶりに3分の1を上回った。
ウ 激増する遊び型非行
 刑法犯少年の包括罪種別補導人員について、最近5年間の推移をみると、表2-3のとおり凶悪犯は減少の一途にあったが、昭和53年は前年より10人(0.6%)増加し、13年ぶりに減少が止まった。なかでも、滋賀県における中学生による同級生殺人事件、岩手県における工業高校生による上級生殺人事件等中・高校生による殺人事件が目立った。

表2-3 刑法犯少年の包括罪種別補導人員の推移(昭和49~53年)

 また、窃盗犯と知能犯は年々増加を続けており、粗暴犯は減少傾向にある。
 なお、53年の刑法犯少年と刑法犯で検挙した成人(「刑法犯成人」という。)の包括罪種別構成比を比較すると、図2-4のとおりで、刑法犯成人に比べ、刑法犯少年においては窃盗犯の占める割合が76.8%と著しく高く、なかでも、窃盗のうち万引き、自転車盗、オートバイ盗等犯行の手段が容易でしかも動機が単純ないわゆる遊び型非行が多いのが目立つ。
 さらに、窃盗犯少年について手口別、男女別補導状況をみると、男子は万引きが25.2%を占めて最も多く、次いでオートバイ盗20.2%、自転車盗18.1%など各手口にわたっているが、女子は90.4%が万引きで他の手口は著しく少なくなっている。
エ 危険な年齢15歳
 昭和53年における刑法犯少年の年齢別構成比をみると、図2-5のとおり15歳が23.9%を占めて最も多く、次いで16歳、14歳の順となっている。

図2-4 刑法犯少年と刑法犯成人の包括罪種別構成比の比較(昭和53年)

図2-5 刑法犯少年の年齢別構成比(昭和53年)

 また、過去10年間における刑法犯少年の年齢別補導人員の推移をみると、図2-6のとおり14歳、15歳及び16歳は著しい増加傾向にあるのに対し、17歳、18歳及び19歳はおおむね減少傾向にある。特に、14歳及び15歳の年少少年と18歳及び19歳の年長少年の格差は年々広まる傾向にあり、低年齢化が一層顕著になっている。
オ 中・高校生が約3分の2
 昭和53年における刑法犯少年の

図2-6 刑法犯少年の年齢別補導人員の推移(昭和44~53年)

図2-7 刑法犯少年の学職別構成比(昭和53年)

学職別構成比をみると、図2-7のとおり高校生が37.3%と最も多く、次いで中学生の31.1%となっており、中・高校生を合わせると68.4%と全刑法犯少年の3分の2以上を占めている。
 刑法犯少年の学職別補導人員について過去10年間の推移をみると、図2-

図2-8 刑法犯少年の学職別補導人員の推移(昭和44~53年)

8のとおり中・高校生はほぼ同じ傾向で増加を続け、一方、有職少年は減少傾向にあり、無職少年は横ばい状態である。53年の補導人員を44年と比較すると、中学生は1.8倍、高校生は2.0倍に上っている。
カ 5人に1人が女子少年
 刑法犯少年の男女別補導人員と人口比の過去10年間の推移をみると、図2-9のとおり男子は補導人員、人口比ともおおむね横ばいであるのに対し、女子はいずれも44年以降増加傾向にあり、53年の女子の補導人員は、44年の2.7倍に達している。
 53年の男女別補導人員をみると、男子が10万9,651人(80.2%)、女子が2万7,150人(19.8%)で、前年に比べ男子が14.6%、女子が15.5%増加して

図2-9 刑法犯少年の男女別補導人員の推移(昭和44~53年)

いる。
 また、刑法犯少年総数中に占める女子の割合を過去10年間についてみると、毎年増加を続け、53年は19.8%と44年の2倍以上になり、刑法犯少年のうち約5人に1人が女子により占められている。
(3) 特徴的な非行の形態
ア 再び増加するシンナー等乱用少年
(ア) 有職少年に多いシンナー等の乱用
 過去10年間におけるシンナー等乱用少年の補導人員の推移は、図2-10のとおりである。昭和47年8月に毒劇法(毒物及び劇物取締法)の一部が改正され、シンナー等の乱用行為及び販売行為が規制されたために、48年には補導人員が大幅に減少したが、その後は増加傾向にあり、53年には前年に比べ7,037人(21.6%)増と急増した。
 学職別にみると、依然として有職少年が1万5,414人と最も多く、次いで無職少年の9,359人、高校生の8,076人等の順になっている。前年に比べると

図2-10 シンナー等の乱用によって補導された少年(昭和44~53年)

無職少年(25.7%増)及び高校生(23.2%増)の増加が特に目立った。
〔事例〕 高校1年の少年5人が、シンナー乱用の目的で空き屋に侵入し、ライターの火による明かりの下でラッカーシンナーをビニール袋に入れて乱用中、引火爆発し、同家屋と隣家2むねを全半焼させた(神奈川)。
(イ) 増加したシンナー等の乱用による死者
 最近5年間のシンナー等の乱用による少年の死者数の推移をみると、図2-11のとおり昭和52年には大幅に減少したが、53年には総数で76人と、前年に比べ32人(72.7%)増と大幅に増加した。
(ウ) 急増する覚せい剤事犯
 昭和53年の少年による覚せい剤事犯の補導状況は、表2-4のとおりで、補導人員は1,423人と、前年に比べ607人(74.4%)増加した。

図2-11 シンナー等の乱用による少年の死者数(昭和49~53年)

〔事例〕 暴力団準構成員(35)らのグループは、家に寄り付かずに遊技場等で遊んでいた16歳の少女3人と、ゲームセンターで知り合った後、同少女らをモーテルに誘い、強制的に覚せい剤を注射の上、肉体関係を結んだ。覚せい剤常習者となった少女らは、52年9月から53年4月までの間、モーテル等で売春を行い、覚せい剤購入代金としていた(京都)。
 また、暴力団組員とのつながりのある暴走族グループの間での覚せい剤事

表2-4 少年の覚せい剤事犯補導状況(昭和52、53年)

犯も増加し、元暴走族等の少年の密売人化が進んだ。
イ エスカレートする暴走族の非行
(ア) 暴走族の約7割が少年
 昭和53年末現在で警察がは握している暴走族は307グループ、2万2,442人に上っている。そのうち年齢が確認されたものは1万4,899人でその71.7%に当たる1万683人が少年である。
 53年末には握した暴走族少年について学職別にみると、図2-12のとおり有職少年が50.1%と半数を占め、次いで高校生の27.0%、無職少年の7.3%の順となっている。

図2-12 暴走族少年の学職別構成比(昭和53年)

(イ) 非行の悪質化
 少年を主体とした暴走族は、道路における暴走行為にとどまらず、その機動力を利用した凶悪な犯罪へ移行する傾向を強めている。暴走族少年に対する補導状況は、表2-5のとおりで、昭和53年に犯罪で補導されたものは4,631人、ぐ犯、不良行為で補導されたものは1万2,890人に上っている。前年に比べると、犯罪で補導された少年は580人(14.3%)増加した。特に、暴走族によるグループ間の対立抗争事件、警察施設やパトカー等に対する襲

表2-5 暴走族少年の補導状況(昭和52、53年)

撃事件、ガソリンスタンドにおける燃料強奪事件等が多発し、暴走族の非行の悪質化が目立った。
 罪種別にみると、凶器準備集合と窃盗は減少したが、殺人、強盗等の凶悪犯、暴行、暴力行為等の粗暴犯及びシンナー等の乱用による毒劇法違反等の特別法犯が増加したのが目立っている。
〔事例〕 暴走族「紅サソリ」グループ5人は自動車2台で走行中、前方から進行してきた被害者の車と接触しそうになったことに因縁をつけ、殴るけるの暴行を加え、全裸にして自己の車のトランクに押し込み連行し、更に湖に架かる橋の上で再び暴行を加え、気絶させた上、湖に突き落として殺害した(埼玉)。
ウ 中学生に多い校内暴力事件
 昭和53年における校内暴力事件の状況をみると、表2-6のとおり発生件数1,292件、被害者数2,882人、補導人員6,763人であり、前年より件数では581件(31.0%)、被害者数では766人(21.0%)それぞれ大幅に減少したのに対し、補導人員では420人(6.6%)増加した。

表2-6 校内暴力事件の状況(昭和52、53年)

 また、中学生については、発生件数、被害者数及び補導人員とも減少したのに対し、高校生では、発生件数、被害者数についてはそれぞれ減少したが、補導人員が490人(24.7%)増加している。しかし、発生件数1,292件のうち中学生によるものは、853件(66.0%)であり、依然として中学生による校内暴力事件が多い。
 校内暴力事件の実態をみると、校則や生活指導等に反発しての集団による教師への暴力事犯や学校施設等の損壊事犯、学校間における粗暴非行集団同士の暴力事犯及び下級生等に対する集団暴力事犯等の発生が目立った。
 校内暴力事件のうち、教師に対する暴力事件の状況について最近5年間の推移をみると、表2-7のとおり52年まで年々増加の傾向にあったが、53年には、発生件数191件、被害教師数245人、補導人員330人と前年に比べ発生件数では24件(11.2%)、被害教師数では7人(2.8%)、補導人員では75人(18.5%)といずれも減少したものの、依然として多発の傾向にある。

表2-7 教師に対する暴力事件の状況(昭和49~53年)

 また、発生件数191件のうち中学生によるものは、174件(91.1%)であり、高校生によるもの17件(8.9%)と比べ約10倍となっているのが注目される。
〔事例〕 A高校では、生徒指導の一環として、長髪、パーマ、遅刻等について指導を強化していたところ、これに反発する3年生を中心とした100人余りの生徒が、校舎の窓ガラス約350枚をいす等でたたき割った上、うち5人が職員室へ押し掛け、生活指導主事2人に対し、殴るけるの暴行を加えた(大阪)。
エ 好奇心から始まる性非行
(ア) 低年齢化する性非行
 昭和53年に性非行で補導した女子中・高校生は、表2-8のとおり4,384人となっており、前年に比べ4人(0.1%)増加している。

表2-8 女子中・高校生の性非行の補導人員(昭和52、53年)

 性非行で補導した女子少年を年齢別にみると、表2-9のとおり前年に比べ16歳以上の中間及び年長少年は減少あるいは若干の増加を示しているのに対し、15歳以下の年少少年の増加率が高くなっており、非行一般の傾向である低年齢化が性非行においても現れている。

表2-9 女子少年の性非行の年齢別状況(昭和52、53年)

〔事例〕 中学2年生A子は、不純異性交遊を繰り返しているうちに、暴力団員から声を掛けられ、小遣い銭欲しさから、同級生のB子を誘い込み、自動車の中やモーテル等で売春していた(秋田)。
(イ) 興味本位の性非行
 女子中・高校生の性非行の動機をみると、表2-10のとおり「自らすすんで」が全体の49.5%を占め、「誘われて」が47.2%となっている。

表2-10 女子中・高校生の性非行の動機別(昭和53年)

 また、その理由も「興味(好奇心)から」が82.9%とほとんどを占め、女子中・高校生が興味本位に性非行に走っている傾向を顕著に表している。
〔事例〕 女子高校生ら5人は、いずれも高校1年のとき同級生らと肉体関係を結び、その後も紹介される男と次々に肉体関係を続け、さらに、暴力団の紹介する客とモーテル等で売春するようになり、その状況を日記に克明に記述していた(富山)。

4 少年非行の背景

 一般に、少年非行の原因、背景には、少年自身の素質と少年を取り巻いて様々に影響を与える社会的要因を考えることができる。特に最近は、家庭のしつけや学校の教育機能の低下、有害な雑誌、テレビ番組等の影響、身近な有害環境、社会の価値観の混乱等が問題にされている状況にある。
(1) 家庭
 少年非行の重要な要因として、昔から家庭状況が指摘されてきている。従来、伝統的に示されてきたものは、欠損家庭や家庭の貧困であるが、最近では家族関係のかっとう等が注目されつつある。
ア 欠損家庭
 警察が補導した刑法犯少年の両親の状況は、表2-11のとおりである。近年の傾向としては両親健在の割合が増加したといわれ、最近6年間の推移においても、両親が実又は養父母である者の割合は増加しており、昭和53年にはこれ以外の家庭に属する刑法犯少年の割合は47年の21.4%から、19.1%に減少している。

表2-11 刑法犯少年の両親の状況(昭和47、53年)

 しかし、非行少年の父母の欠損率について一般少年と比較すると、表2-12のとおり男子については、父欠損率が一般少年5.0%に対して、非行少年では12.4%、母欠損率は一般少年1.8%に対して、非行少年では7.8%であり、非行少年の父母の欠損率が一般少年に比べまだ高いといえる。女子の場合もほぼ同様である。近年、欠損家庭に属する非行少年は減ってきたとはいえ、非行化の背景として親の欠損は依然として軽視できない。また、父母の欠損理由をみると、一般少年の方は死別が67.2%と多いのに対し、非行少年の方は離別が55.7%と多い。この傾向は、男女ともに共通してみられる。離別の内容の大部分は離婚によるものと思われ、近年、離婚が増加(45年の離

表2-12 少年の父母の欠損率

婚総数を100とした場合、52年は135となる。)していることから、離婚家庭における少年の健全な育成には特に留意が必要であろう。
イ しつけ
 親の子供に対するしつけ方を子供がどう受けとめているかをみると、表2-13のとおりで、「親から愛されていないと感じる(拒否)。」と「両親が厳しすぎると思う(厳格)。」の2項目が、一般少年と比較して非行少年に

表2-13 子供からみた親のしつけ

多くみられる。この傾向は、特に女子非行少年に強くみられる。
ウ 親子及び夫婦関係
 父子、母子及び夫婦関係がうまくいっているか否かを子供に尋ねた結果は、表2-14のとおりで、いずれの関係においても「うまくいっていない。」と答えている者は、一般少年より非行少年の方に多い。特に、女子非行少年においてその割合が顕著である。

表2-14 子供からみた親子及び夫婦関係

エ 家庭の経済水準及び教育的雰囲気
 少年の家庭の経済水準と非行の関連をみるために、電話、ガス湯沸かし器、ピアノ、ステレオ等9点の所持の有無を経済水準の目安として調査した結果をみると、一般少年の家庭と非行少年の家庭との間にほとんど差は認められず、低年齢層においてのみ貧困と非行の結びつきがわずかに認められた。
 これに代わって、非行の背景として注目されるのが、家庭の教育的雰囲気である。家庭の教育的雰囲気を直接示す指標ではないが、学習用品として最も基本的と思われる本箱、机及び辞書(4冊以上)について子供が自分用に所持しているかどうかを調べると、表2-15のとおりどの用品についても非行少年の方が一般少年より所持率が低い。

表2-15 少年の学習用品の所持率

(2) 学校及び教育
ア 成績
 少年の学業成績と非行者率の関連は、科学警察研究所の調査によれば、表

表2-16 少年の学業成績及び非行者率

2-16のとおりである。対象者5,759人中、20歳になるまでに1度以上警察に刑法犯(業務上過失犯を除く。)で補導された者は346人おり、非行者率は6.0%となるが、成績の悪い者ほど非行者率が高くなり、成績「下」の者では、100人中13人以上の者が非行を犯している。
イ クラブ活動
 学校のクラブへの参加状況をみると、図2-13のとおりで、男子では一般少年の参加率65.1%に対し、非行少年では31.0%となっている。また、女子では一般少年74.7%に対し、非行少年38.4%である。非行少年のクラブ活動参加率は極めて低く、男女とも非行少年の過半数以上の者がクラブ活動に参加していない。

図2-13 クラブ活動加入状況

ウ 怠学
 怠学(ずる休み)の回数と非行者率との関連をみると、表2-17のとおり怠学の経験がない者より経験がある者の方が、非行者率ははるかに高い。
エ 進学志望及び教育歴
 高校及び大学への進学志望状況と非行者率との関連をみると、表2-18の

表2-17 怠学(ずる休み)の経験

表2-18 進学志望と非行者率

とおりである。まず、高校進学志望状況と非行者率との関連をみると、「進学する」と意志決定している者の非行者率が一番低く、「進学しない」に移るにつれ、非行者率が直線的に高くなっていく。この傾向は、大学進学志望状況と非行者率との間にもみられ、上級学校への進学志望と非行者率はかなり相関している。
 次に、対象者が20歳までに実際に受けた教育歴と非行者率との関連をみると、表2-19のとおりで、非行者率は、中学校までの者では18.5%、高校ま

表2-19 教育歴と非行者率

での者では4.7%、大学へ入学した者では1.7%となり、教育歴によって大きく異なっている。また、高校を中退した者の非行者率は22.0%と非常に高く、教育上の失敗が少年の非行と大きく関連していることを物語っている。
(3) 遊び
ア 不良行為経験
 不良行為のうち喫煙及び無断外泊を選び、その経験の有無をみると、表2-20のとおりいずれにおいても非行少年の方に経験している者が多い。

表2-20 不良行為経験

イ たまり場への出入り
 喫茶店、スナック、ゲームセンター及びディスコへの出入り経験をみると、表2-21のとおりである。まず、喫茶店、スナックへの出入りをみると、

表2-21 たまり場への出入り経験

一般少年と非行少年との間に大きな差異がみられ、非行少年の方が多く出入りしている。ゲームセンターへの出入りは、中学生の男女とも一般少年より非行少年の方に多いが、高校生では差がみられない。ディスコは、これに出入りする絶対数は少ないとはいえ、一般少年より非行少年の方がよく出入りする傾向がみられる。
(4) 補導に対する認識
ア 検挙及び処分に対する犯行前の認識
 初犯少年が犯行前、検挙及び処分をどのように認識していたかをみると、表2-22のとおりで、警察に捕まることに対して何も考えなかった者52.1%、

表2-22 初犯少年の検挙、処分に対する犯行前認識

捕まった後の処分に対して何も考えなかった者65.7%となり、警察による検挙及び処分について、犯行前何も考慮しなかった者が5割以上もいる。特に、窃盗犯に比べ、暴行、傷害等を含む粗暴犯や強姦及び強制猥褻(わいせつ)にこの傾向が強い。初犯少年に関していえば、犯行前その行為が犯罪として検挙、処分に相当する行為であることを少年に認識させれば、かなりの者が犯行に踏み切らずにすんでいたことを示唆している。
イ 補導に対する感想
 不良行為によって初めて警察に補導された高校生が、補導を受けたことをどのように考えているかをみると、表2-23のとおり「深く反省している」者が40.1%、「大変役に立った」と思っている者が31.7%おり、補導の効果が裏付けられている。しかし、逆に「運が悪かったとあきらめている」、「この程度のことは補導しなくてもいいと思う」者がそれぞれ約3割おり、少年の罪悪感の乏しさがうかがわれる。

表2-23 警察に補導されたことに対する感想

ウ 補導に対する保護者の感想
 初めて警察に補導された刑法犯少年の補導に対する保護者の感想をみると、表2-24のとおりで、「非行を早く発見してもらってよかった」と思っている者が89.0%であり、大部分の保護者は、警察の補導を高く評価している。

表2-24 初犯少年の補導に対する保護者の感想

(5) 初犯時の状況と再犯率
 男子非行少年の初犯時の年齢、罪種、動機、過去1年間の問題行動及び現在の生活環境の各項目と補導後6箇月以内における再犯率との関連をみると、表2-25のとおりである。
 対象少年6,515人のうち再犯者は398人で、再犯率は、6.1%である。
 初犯時年齢と再犯率との関連についてみると、14歳が再犯率9.6%で一番

表2-25 初犯時の状況と再犯率


高く、年齢が高くなるにつれて再犯率は低くなっている。このほか、再犯率の高い要因を列挙すると、犯行動機が「うさばらし」であったもの、ずる休みのひん度の高いもの、家出経験のあるもの、両親死亡等で同居家族に親がいないもの、酒乱、ギャンブル狂等問題行動を持つ者が家族にいるもの等である。
(6) 非行防止のかなめ-家庭-
 男子一般少年が、非行に対する社会的制裁についてどう考えているかを示すと、図2-14のとおり最もつらいとされたものは、身体の拘束を受ける「少年院や刑務所に入れられる」を除くと、「家の人との関係が非常にまずくなる」、「将来の進学や就職がむずかしくなる」ことである。特に、中学生では家族との関係による制裁が重要な非行抑止要因であり、高校生、大学生と年長になるにつれ、家族との関係による制裁とともに将来の進学や就職が困難になるということも重要な非行抑止要因となってくる。
 さらに、刑法犯少年の非行の背景について、警視庁の調査でみると、表2-

図2-14 社会的制裁のつらさについての尺度値

表2-26 非行の背景(昭和53年)

26のとおり「家庭内の問題」が55.0%と過半数を占め、次いで「学校内の問題」が15.1%、「その他の社会環境の問題」が12.4%となっている。
 また、昭和53年11月に実施された総理府の世論調査により少年非行の原因(複数回答)をみると、「家庭環境、家庭のしつけ」が67%と最も多く、次いで「社会環境」29%、「交友関係」27%、「学校、教育のあり方」13%等の順になっており、一般的な見方も家庭の重要性を認めている。
 これらを考え併せると、少年を非行に追いやる最も重要な要因は家庭にあり、非行を防止する最も重要な要因もまた家庭にあるということができる。

5 少年の家出、事故、自殺及び被害の実態

(1) 少年の家出の実態
ア 増加が目立つ女子少年
 警察が発見保護した家出少年の推移をみると、図2-15のとおり昭和49年から5年連続して増加を続けており、53年は5万8,375人となっている。なかでも女子の増加は著しく、総数に占める割合は、男女数が初めて逆転した52年の51.9%を更に上回り、53.0%を占めるに至った。

図2-15 家出少年保護人員の推移(昭和49~53年)

 学職別にみると、表2-27のとおり学生・生徒が全体の67.2%を占めており、小学生では男子、高校生では女子に多いのが目立っている。

表2-27 家出少年の学職別発見保護状況(昭和53年)

イ 約7割は逃避型
 家出の直接的動機を春季及び秋季の全国家出少年発見保護活動強化月間(「強化月間」という。)中に保護した少年についてみると、表2-28のとおりで、家庭、学校等少年の生活周辺で起こったトラブルから逃れようとする逃避型が65.6%、就(転)職等何らかの目的を持った欲求指向型が33.4%となっている。主な項目別でみると「父兄等しっ責」、「意見不一致」等家庭からの逃避型家出が24.9%と最も多く、次いで「見物(遊び)目的」の家出が17.7%、「教師しっ責」、「テスト、宿題苦」等学校からの逃避型家出が16.2%となっている。
ウ 12人に1人が非行
 家出少年と非行との関係を春季及び秋季の強化月間中に保護した1万5,359人についてみると、表2-29のとおり家出中に罪を犯した少年は1,311人で家出少年全体の8.5%を占め、約12人に1人(男子は約7人に1人)の割合で罪を犯していた。
〔事例〕 高校1年の男子少年は、勉強に行き詰まったことから現金15万円を持ち出して家出したところ、所持金を使い果たしたため銀行強盗を計画し、モデルガンを使用して銀行に押し入って女子行員を脅迫し450万円を強奪した(愛知)。

表2-28 少年の家出の直接的動機(昭和53年春季及び秋季強化月間)

表2-29 家出少年の非行状況(昭和53年春季及び秋季強化月間)

エ 女子の10人に1人が被害
 春季及び秋季の強化月間中に保護した家出少年の被害状況をみると、表2-30のとおり829人が犯罪の被害者となっている。その91.7%に当たる760人が女子であり、家出した女子少年は約10人に1人の割合で何らかの被害を受けたことになる。

表2-30 家出少年の被害状況(昭和53年春季及び秋季強化月間)

 また、昭和53年に検挙したいわゆる人身売買等少年の福祉を害する犯罪の被害少年1万6,875人のうち、3,800人(22.5%)が家出少年であった。
〔事例〕 高校2年の女子少年は、学校ぎらいから家出したところ、キャバレーのホステスとして働かされ、下着のみでゴーゴーダンスをさせられるなど約2箇月にわたって酔った客相手に卑わいな行為をさせられていた(福島)。
(2) 子供の事故の実態
ア 多い水の事故
 子供を取り巻く環境は年々複雑になり、子供たちが思わぬ事故に遭って幼い生命を落とすことが多い。
 例えば、8月中に全国で発生した15歳以下の子供の死亡事故(自然災害、火災、山岳遭難及び交通事故を除く。)をみると、表2-31のとおり334人

表2-31 子供の事故発生状況(昭和53年8月)

に上っており、そのうち約8割が水の事故となっている。その他の事故も、幼児の窒息事故や転落事故等多種多様なものに及んでいる。
 子供の水の事故を交通事故の死者と比べると、表2-32のとおりで、水の事

表2-32 中学生以下の「水の事故」と「交通事故」による死者数比較表(昭和49~53年)

表2-33 東京都内の危険箇所数(昭和53年5月現在)

故は、社会的関心の高い交通事故に隠れがちとなっているが、毎年ほぼ同程度の死亡事故が発生している。
イ 危険いっぱいの環境
 子供の事故は、保護者や施設管理者等の不注意によることが多い。
 警視庁で、5月に子供に危険と思われる場所等を調査したところ、表2-33のとおり1,639箇所(物)もあり、内訳をみると、資材置場、工事現場等の危険場所(物)が46.9%、危険建造物等が34.7%、河川等の危険水域が18.4%となっている。
(3) 少年の自殺の実態
ア 死を急ぐ少年たち
 最近、少年の自殺が社会の関心を集めている。特に、まだ自殺の意味もよく理解していない低年齢層の少年による衝動的と思われる自殺が目立ち、問

図2-16 少年の自殺の推移(昭和44~53年)

表2-34 自殺の原因、動機(昭和53年)

題を提起している。
〔事例〕 小学4年の少女は、級友とけんかし、先生にしかられたことから、教室内のスクリーン用鉄パイプに電気コードを掛けて、首つり自殺した(警視庁)。
 昭和53年に警察で認知した少年の自殺者は866人で、うち男子が66.6%、女子が33.4%となっている。過去10年間の少年の自殺の推移をみると、図2-16のとおり800人台を前後して横ばい状態を示している。
イ 学校問題に悩んでいた自殺少年
 昭和53年に警察で認知した少年の自殺者を原因、動機別にみると、表2-34のとおりで、「学業不振」、「入試苦」等学校問題によるものが27.8%と最も多く、次いで「失恋」等男女関係によるもの16.2%、病苦等によるもの11.2%、「父兄等のしっ責」、「親との不和」等家庭問題によるもの10.9%となっている。
 また、学職別にみると、表2-35のとおり高校生か271人と最も多く、次いで有職少年224人、無職少年139人となっている。

表2-35 自殺少年の学職別状況(昭和53年)

(4) 少年の被害の実態
 犯罪には必ず被害者の存在がある。犯罪の防止のためには、犯罪者側の分析、犯罪者対策のみならず、被害者の実態は握、被害者とならないための対策が必要である。ここでは、犯罪のうち少年の被害実態を指摘するのに適当

図2-17 被害実態における成人及び少年の構成比(昭和53年)

と思われる犯罪として殺人、強盗、強姦、暴行、傷害、脅迫、恐喝、強制猥褻(わいせつ)、逮捕監禁及び略取誘拐の10種の犯罪(「抽出犯罪」という。)を取り上げた。
ア 誘かいや性被害に多い少年の被害
 昭和53年中の抽出犯罪の被害は、総数では6万9,306件(注)で、そのう

表2-36 被害少年の年齢別認知件数(昭和53年)

ち成人は5万4,196件(78.2%)、少年は1万5,110件(21.8%)となっている。罪種別に成人及び少年の構成比をみると、図2-17のとおりで、強盗、脅迫、傷害は成人の被害が多く、少年では強制猥褻(わいせつ)、強姦の性被害、略取誘拐、恐喝の被害が目立っている。
 また、少年の男女別構成比をみると、総数では男子が女子の約2倍になっており、罪種では、男子が恐喝、暴行及び傷害に多く、女子は強制猥褻(わいせつ)及び略取誘拐に目立つほか、逮捕監禁の被害が多い。
(注) 53年に認知した件数であり、1つの事件で数人の被害者がある場合は、主たる被害者について計上してある。
イ 16歳が最も危険な年齢
 少年の年齢別被害状況をみると、表2-36のとおり16歳の被害が2,131人(14.1%)と最も多く、次いで19歳2,083人(13.8%)、17歳1,978人(13.1%)となっている。また、殺人の被害は0、1歳児に圧倒的に多く、えい児殺が多いことを示している。略取誘拐は年齢とかかわりなく発生しているほか、強制猥褻(わいせつ)は4歳児から目立ち始め、その他の犯罪はおおむね14歳を境に急増している。

6 少年警察活動と今後の課題

(1) 少年警察活動
ア 少年の補導活動
(ア) 非行の早期発見
 少年は心身ともに未成熟であり、また、環境の影響を受けやすいため非行に走りやすい反面、たとえ罪を犯した場合でも適切な指導や教育によって再び健全な姿に立ち戻る可能性が極めて高い。それが早ければ早いほど、その矯正は容易である。
 警察では、非行を芽のうちに摘み取り再び非行に陥らないようにするために、常日ごろから少年係の警察官や婦人補導員が中心となって、盛り場、公園、駅等非行が行われやすい場所で街頭補導を行っている。特に、少年が非行に陥る危険性が高い春季、夏季や年末年始には少年補導の特別月間を設けるなど、街頭補導を強化して非行少年や不良行為少年を早期に発見することに努めている。

(イ) 非行少年等の適切な処遇
 警察では、非行少年を発見すると家庭や学校等の関係者と連絡を取りながら、非行の原因、動機、少年の性格、交友関係、保護者の実情等を十分検討し、少年が再び非行に陥る危険性があるか、再び非行を繰り返さないためにはどのような措置を講ずるのが最も適切であるかを判断し、その処遇についての警察としての意見を付けて少年法や児童福祉法の規定に従い、関係機関に送致、通告している。
 また、非行少年に至らない不良行為少年に対して注意、助言し、必要のある場合には保護者等にも助言、指導することとしている。
 少年の処遇に当たっては、少年の健全な育成を期する心構えと少年の心理等その特性に関する探い理解をもって当たることはもちろん、学校等の関係者との協力、秘密の保持等に留意している。特に、少年事件の捜査に際しては、できる限り身体の拘束を避け、取調べを行う場合は保護者に連絡し、取調べの際の言動等に注意して少年の心情を傷つけないようにするなど細心の配慮をしている。
イ 少年の保護活動
(ア) 少年相談
 警察では、少年の非行、家出、自殺等を未然に防止し、また、早期に発見するために、少年相談の窓口を設けている。自分の悩みや困りごとを親や教師等に打ち明けることができない少年や、子供の非行、不良行為の問題で悩む保護者等から相談を受けて、経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員、少年の心理の専門家等が助言や指導を行っている。
 最近はこの少年相談を、より早く、より多く利用してもらうため、40都道府県警察で「ヤング・テレフォン・コーナー」等の名称で電話相談も実施し、悩みごとの早期解決に努めている。
 昭和53年に受理した少年相談は、全国で8万8,343件に上り、前年より9.2%増加している。相談者の状況は、表2-37のとおり保護者等からの相談が

表2-37 相談者の状況(昭和53年)

66.6%を占めている。少年からの相談は2万9,474件(33.4%)で、このうち68.0%が中・高校生となっており、性別では男子より女子からの相談が多い。また、少年からの相談のうち88.4%が電話相談によるものであり、いつでも、どこからでも面接することなく、気軽に利用できる電話相談は少年に好まれているものと思われる。
 相談の内容は図2-18のとおりで、非行問題に限らず、異性、学業、健康等の様々な問題に及んでいる。

図2-18 少年相談の内容(昭和53年)

 これらの相談を受けて、警察で助言や指導を行ったものが81%、家族等の協力を得て一定期間指導を続けたものが8%、家族等の要請で他機関に引き継いだものが11%と、相談の具体的な解決に努めている。
(イ) 家出少年の保護
 心身とも未成熟で判断能力に乏しい少年の家出は、犯罪の被害に遭うおそれや、非行への転落のおそれが大きく極めて危険性が高い。そのうえ、最近は交通機関の発達や、テレビの普及等から都市が身近に感じられるようになり、安易に家出を考える素地が増えて、少年の間に家出を遊びととらえる風潮も現れている。
 このように要保護性の強い家出少年に対し、警察では、まず早期発見に努め、駅構内や盛り場等において、発見保護のための補導活動を行っている。特に、家出の多発時期である学年末休みや夏休み明けに、春季及び秋季の「全国家出少年発見保護活動強化月間」を設け、少年補導員等の協力を得て街頭補導を強化し、家出少年の発見に努めている。このほか、自殺のおそれや犯罪の被害者となっているおそれの強い家出少年について、特に追跡調査を行って発見に努めている。
 また、家出の未然防止を図ることも極めて重要であり、関係機関、団体と連携して、家出防止の広報活動を活発に行っている。
(ウ) 子供の事故及び少年の自殺の防止
 子供は、元来危険感覚に乏しく思わぬ事故に遭うことが多いが、最近、都市化、工業化等の進展や地域開発等によって、子供を取り巻く生活環境が年々危険になっており、子供の保護活動が強く望まれているところである。
 警察では、子供の生命、身体の安全を確保するために各種の保護活動を推進している。まず、子供にとって危険と思われる遊び場、不用意に使うと危険な遊具等の実態をは握し、必要に応じ管理者等に対して補修や改善の措置を要請して、子供の安全確保に努めている。
 また、パトロール、巡回連絡等の日常の警察活動を通じて、危険な遊び等をしている少年の発見に努め、直接注意するほか、場合によっては、保護者等へ連絡して注意を喚起し、事故の未然防止を図っている。特に、夏季に多発している水の事故防止に当たっては、危険水域の重点パトロールを実施するほか、地域のボランティアの協力を得て「愛のパトロール」活動を推進して事故防止の呼び掛けを行っている。また、子供の事故を防止する上で、保護者等の自覚や子供自身が危険に近づかないしつけなども重要であり、警察では、各種の会合等を通じて事故防止意識の高揚に努めている。
 将来ある少年の自殺は、社会にとっても重大な問題である。自殺の原因、動機や背景は複雑で、その解明は容易でなく大人たちの不安を駆り立てている。そこで警察では、昭和53年から自殺統計原票を作成し全国で発生した自殺者の実態を資料化して、国民の自殺防止に対する意識の啓発に努める一方、関係機関等による自殺防止の諸対策の促進に寄与しようとしている。
 特に、少年の自殺については、少年相談を積極的に推進して、少年たちの悩みに適切な助言等を行いつつ、早期発見保護に努めているほか、自殺防止のための広報活動も積極的に推進しているところである。例えば、警視庁では、5月に東京母の会と協力して、子供たちはこう悩み、こうサインを出しているなどという「心で、大接近~少年の自殺防止10則~」を発刊して、子供たちの健全な育成を呼び掛けたところ、全国的に大きな反響を呼んだ。
ウ 少年を取り巻く環境の浄化活動
 最近における社会環境をみると、少年の性的感情を著しく刺激し、又は残虐性を助長する出版物、映画、広告物、テレビ番組等が目立ち、また、転落や非行化の温床となりやすい享楽的なスナック、深夜飲食店等が増加するなど憂慮すべきものがある。こうした環境の悪化は、心身ともに未成熟な少年に対して有害な影響を与え、しばしば、少年非行の誘因となり、少年の健全育成を阻害する要因となっている。
 このため、警察においては、少年を取り巻く有害環境の浄化を図るための各種活動を積極的に展開している。
(ア) 有害環境の実態
 街にはん濫するポルノ雑誌の自動販売機、映画、ストリップ劇場等の有害広告物、低俗なテレビ番組、露骨なサービスを売り物とする風俗営業等少年を取り巻く有害環境は多種多様であるが、昭和54年1月1日現在、40都道府県が少年の健全育成を図るため、少年の保護と有害環境の排除の規定を設けた青少年保護育成条例を制定し、少年にとって有害なものとして知事が指定した映画、図書等を少年に観覧させたり販売することを禁止している。
 青少年保護育成条例による有害指定を受けた雑誌等は、53年には2万4,442件に上り、この数は10年前の約4.4倍になっている。そのうえ、このような低俗な雑誌等が店頭や自動販売機で販売され、少年たちが容易に購入できる状況にあり、これら有害環境に直接、間接に影響を受けた非行事例も多い。
(イ) 地域ぐるみの環境浄化活動
 少年非行を防止し少年の健全育成を図るには、少年に有害な影響を与えている環境を浄化することが極めて重要である。このため、警察ではかねてから少年を取り巻く環境の浄化を少年警察の最重点として取り上げ、有害環境の実態は握、業者等に対する指導取締り、関係機関に対する問題提起等を積極的に行っている。また、昭和53年から新たに全国85箇所に警察庁指定の少年を守る環境浄化重点地区を設定し、住民主導による総合的な浄化対策に取り組んでいる。
〔事例〕 豊田中央環境浄化重点地区では、民間団体、地域住民から成る推進協議会が中心となり、有害環境の実態は握、自動販売機監視パトロール、関係業界に対する自粛要請、青少年健全育成展の開催、広告塔の設置、非行防止標語の募集等の環境浄化活動を積極的に展開し、効果を上げている(愛知)。
 しかし、環境浄化は、警察の活動だけで実効が上がるものではなく、家庭、学校、職場等地域社会の自主的な盛り上がりによる一体的な、地域ぐるみの活動として推進する必要がある。また、現に地域社会、団体の自主活動や業界の自主規制の措置が推進され、有害環境排除の上で成果を上げている。
〔事例〕 三戸郡五戸町の防犯協会、婦人会、PTA等の地域団体は、「非行少年のいない明るい町づくり」運動の一環として、ポルノ雑誌自動販売機業者に対し、再三にわたって自動販売機の撤去方を要望したが、業者は営業権を主張し、撤去に応じないため、4箇月間の長期にわたり、粘り強く有害図書の弊害実例を引用するなどして、撤去を申し入れたところ、業者は趣旨を理解し、自主的に撤去したく青森)。
エ 地域社会との連携
 少年の非行を防止するためには、独り警察の活動のみでなく、関係機関、団体をはじめ、地域社会の人々の理解と協力により、地域ぐるみの活動が自主的かつ活発に行われる必要がある。
 現在、地域社会において少年非行防止活動を行っているもののうち、主なものは次のとおりであるが、このほかにも防犯協会、地域婦人会、保護司等が非行防止活動を行っている。
(ア) 少年補導員
 地域社会における補導活動の中心となっているのは、ボランティアとして補導活動等に従事している少年補導員である。少年補導員の制度は、昭和37年4月に全国的に発足したものであり、53年4月末現在、警察で委嘱している者は約3万6,500人である。
 少年補導員は、地域社会で自発的に補導活動や非行防止のための相談活動、啓もう活動を行っており、警察と住民とのパイプ的役割とともに、いわゆる地域ぐるみの非行防止活動の中核として活発な活動を続けている。
(イ) 少年補導センター
 少年補導センターは、警察職員、教育関係者、少年補導員等少年の非行防止活動に関係する機関、団体、民間の有志等が協力して、地域における非行防止活動を総合的、計画的に行うための拠点として、地方公共団体等により設けられているものであり、街頭補導、少年相談、有害環境の浄化等の活動を主な業務としている。
 昭和53年11月末現在、全国の少年補導センターの設置数は548箇所で、約7万3,000人がここで活動している。最近の少年非行の傾向にかんがみ、今後、地域社会の非行防止組織の中核として幅広い活動が期待されている。
(ウ) 学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会
 児童、生徒の非行が増加し、また、学校内における暴力事件の多発等最近の状況において、警察の活動と学校による生徒指導との間の緊密な連携の必要性が高まっている。学校警察連絡協議会は、学校と警察が協力して児童、生徒の非行を防止することを目的として設けられたものであって、昭和53年7月末現在、全国で約2,000組織、小学校、中学校及び高等学校の約90%に当たる約3万5,000校が参加している。学校と警察は、この場を通じて非行防止活動の経験や資料の交換、具体的な非行防止対策の検討等を行うほか、協力して街頭補導等を行っている。
 また、両親のもとを遠く離れて就職した少年が、環境の変化による孤独感や生活の乱れから非行に走ったり、犯罪の被害者になったりする例は少なくない。職場警察連絡協議会は、職場と警察とが緊密に連絡して勤労少年の非行を防止し、その健全育成に努めることを目的として設けられているものであって、53年7月末現在、全国で約900組織あり、約3万2,000事業所が加入している。各事業所には補導責任者が指定されており、各種会合を通じて勤労少年の非行防止対策について検討し、警察と協力して非行防止活動を行っている。
オ 福祉犯の取締り
 少年を取り巻く有害環境がはびこるなかで、売春やいわゆる人身売買的な行為が行われている。これらに係る犯罪を福祉犯(少年の福祉を害する犯罪)と呼んでいる。警察では、全国的にその取締りを推進し、少年非行を助長する原因を排除するとともに、少年の心身及び福祉に有害な状態から、被害少年を保護救出する活動を積極的に展開しているところである。
 福祉犯として検挙した被疑者数及び福祉犯による被害者数について、最近5年間の推移をみると、図2-19のとおりである。

図2-19 福祉犯の被疑者、被害者の推移(昭和49~53年)

(ア) 増加する福祉犯
 昭和53年に福祉犯として検挙した被疑者数は9,769人であり、法令別にみると、図2-20のとおり青少年保護育成条例違反、風俗営業等取締法違反、児童福祉法違反等が多い。

図2-20 福祉犯検挙人員の法令別構成比(昭和53年)

〔事例〕 ソープランド経営者が、暴力団員から紹介された家出中の少女(17)をソープランド従業員として雇い入れ、ソープランド個室におけるサービスの方法等を実地指導し、営業中は自由外出を禁止した上、3箇月間にわたり、1日5~6人、延べ約400人の男客に対し、売春等をさせていた(警視庁)。
(イ) 女子に多い福祉犯の被害
 昭和53年の福祉犯による被害者数は1万6,875人であり、学職別にみると、表2-38のとおりで、高校生等が6,327人と最も多く、次いで無職少年3,998人、有職少年3,913人となっている。
 さらに、福祉犯の被害者の性別について、最近5年間の推移をみると、図2-21のとおり男子が51年をピークとして減少しているのに比べ、女子は年々増加を続け、53年は1万459人と49年に比べ1.7倍に達しており、女子の被害の増加が目立っている。

図2-21 福祉犯男女別被害者の推移(昭和49~53年)

(ウ) 福祉犯に介入する暴力団
 昭和53年に福祉犯として検挙した被疑者総数に占める暴力団員の割合は、8.1%(793人)であるが、福祉犯のうち最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」及び「淫行をさせる行為」の4種類についてみると、表2-39のとおり暴力団員の占める割合が23.1%と高くなっいる。その手口も家出少女等に言葉巧みに接近し、肉体関係を持ち、芸者、ソープランド従業員として働かせ、多額の前借金を取ったり、少女に覚せい剤を乱用させ、それによって縛りつけて売春させるなどして資金源とするなど、悪質事犯が後を絶たない状況である。

〔事例〕 刑務所出所後間もない覚せい剤常習の暴力団員が、生活費と覚せい剤代を得るため暴力団仲間と共謀し、盛り場を

表2-38 福祉犯の学職別被害者数(昭和52、53年)

表2-39 悪質福祉犯被疑者の中に占める暴力団員数(昭和52、53年)

遊び歩いている家出少女ら12人を誘い、覚せい剤を注射し、肉体関係を結ぶなどして支配下に置き、「宇宙食(覚せい剤)が欲しかったらおれたちの言うとおりにやれ。」と言って売春をさせていた(北海道)。
(2) 今後の課題
 少年非行の根絶は、社会全体の願いである。その実現は非常に困難ではあるが、一歩一歩着実に前進していかなければならない。警察としては、まず、警察が少年非行防止の第一線に立つ最も基礎的かつ重要な職責を有している機関であって、非行の実態について最もよく知りうる立場にあることを改めて認識し、少年非行の防止活動の中心的機関として、地域における少年非行に関する情報センターとしての役割を果たしていかなければならない。すなわち、地域の諸機関、団体、住民等から少年非行に関する情報を広く集め、それを総合的に分析してフィードバックさせ諸機関、団体、住民等の非行防止活動に役立たせるようにしなければならない。また、そのためにも少年警察体制を強化し、非行の実態に応じた諸対策を適切に講じていく必要がある。
 さらに、少年非行のよってきたる原因、理由を考えると、第4節でるる説明したように家庭、学校あるいは社会環境の相乗効果によるものであるという平凡な結論に達するわけである。その結論は、警察の諸対策が少年を取り巻く人々、すなわち、国民一人一人の協力と参加がなければ真に実効の上がるものとならないことを示している。
 したがって、少年警察活動は、今後、更に国民の理解を得た活動であるように努めるとともに、国民の参加を得た運動への発展ということを目標に進めていかなければならない。


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