第4章 犯罪情勢と捜査活動

1 犯罪の発生と検挙状況

(1) 全刑法犯の発生状況
ア 犯罪発生は4年連続増加
 昭和52年の全刑法犯(注1)の認知件数は、126万8,430件で、前年に比べて2万799件(1.7%)の増加を示し、4年連続の増加となった。
 過去10年間(注2)の全刑法犯認知件数と犯罪率(注3)の推移をみると、図4-1のとおりで、48年に119万549件と過去10年間の最低を記録した全刑法犯認知件数は、49年に再び120万件台に戻り、以後増加傾向をみせている。
 この49年以降の増加は、主として窃盗犯の認知件数の増加によるものである。また、犯罪率も、刑法犯認知件数の増加により、わずかではあるが4年連続して増加した。

図4-1 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和43~52年)

 52年の刑法犯認知件数の包括罪種(注4)別構成比は、窃盗犯が84.6%を占めて圧倒的に多く、次いで知能犯(6.2%)、粗暴犯(5.2%)、凶悪犯、風俗犯(各0.7%)の順となっている。
 過去10年間における包括罪種別構成比の推移をみると、窃盗犯以外の認知件数が全体として減少傾向にあるのに対し、窃盗犯の認知件数は増加傾向にあり、その構成比は増加している。
(注1) 本章において「刑法犯」とは、特に断りのない限り、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷を除いた刑法に規定する罪並びに「盗犯等ノ防止及処分二関スル法律」、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」、「決闘罪ニ関スル件」、「爆発物取締罰則」、「航空機の強取等の処罰に関する法律」及び「火炎びんの使用等の処罰に関する法律」に規定する罪をいう。
(注2) 本章において特に断りのない限り、昭和47年5月14日以前の沖縄県の数は含んでいない。
(注3) 本章において「犯罪率」とは、人口10万人当たりの認知件数をいう。
(注4) 「包括罪種」とは、刑法犯を凶悪犯、粗暴犯、窃盗犯、知能犯、風俗犯、その他の刑法犯の6種に分類したものをいう。
凶悪犯…殺人、強盗、放火、強姦
粗暴犯…暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合
窃盗犯…窃盗
知能犯…詐欺、横領、偽造、涜(とく)職、背任
風俗犯…賭博、猥褻(わいせつ)
その他の刑法犯…公務執行妨害、住居侵入、逮捕監禁、器物損壊等
イ 主な罪種の発生状況
(ア) 凶悪犯
 昭和52年の凶悪犯の認知件数は9,226件で、前年に比べ110件(1.2%)減少した。罪種別にみると、強姦が9.1%、殺人が3.8%減少する一方、強盗は前年と同数で、放火は14.0%と大幅に増加している。
 過去10年間の罪種別凶悪犯認知件数の推移をみると、図4-2のとおり強姦は減少の一途をたどっているが、殺人は横ばい状態にあり、強盗も48年までの減少傾向から以後横ばい状態を示している。一方、放火については、45年に急増して以来、若干の増減はあるものの増加傾向にあり、52年は更に大

図4-2 凶悪犯認知件数の推移(昭和43~52年)

幅に増加し、戦後の最高を示している。
(イ) 粗暴犯
 昭和52年の粗暴犯認知件数は、前年に比べ1,299件(1.9%)減の6万5,716件であった。罪種別にみると、凶器準備集合を除き、いずれも減少してい

図4-3 粗暴犯認知件数の推移(昭和43~52年)

る。
 過去10年間における粗暴犯の認知件数の推移は、図4-3のとおり各罪種とも減少傾向にあり、いずれも、この10年間でほぼ半減している。
(ウ) 窃盗犯
 昭和52年の窃盗犯認知件数は107万3,393件で、前年に比べ2万3,645件(2.3%)増と、4年連続して増加した。
 手口別にみると、侵入盗は、「忍込み」、「事務所荒らし」、「空き巣ねらい」等が減少し、8,714件(2.7%)の減少となった。乗物盗は、前年に比べ4万2,541件(15.3%)と大幅に増加した。これは、「自転車盗」と「オートバイ盗」がそれぞれ3万4,267件(17.0%)、7,632件(16.9%)増加したことによる。非侵入盗については、「自動販売機荒らし」、「車上ねらい」が増加したが、「詐欺盗」、「工事場荒らし」、「万引き」等が減少したため、全体としては1万182件(2.3%)の減少となった。
 過去10年間の窃盗犯認知件数の推移は、図4-4のとおりで、全体としてはおおむね横ばい状態にあるが、乗物盗は逐年増加し、52年は43年の1.8倍となって、侵入盗の認知件数を上回ることとなった。

図4-4 窃盗犯認知件数の推移(昭和43~52年)

(エ) 知能犯
 昭和52年の知能犯認知件数は、前年に比べ1,770件(2.2%)減の7万8,954件であった。
 過去10年間の知能犯認知件数の推移は、図4-5のとおりおおむね横ばい状態にあるが、罪種別にみると、横領と偽造が増加傾向をみせている。

図4-5 知能犯認知件数の推移(昭和43~52年)

図4-6 風俗犯認知件数の推移(昭和43~52年)

(オ) 風俗犯
 昭和52年の風俗犯の認知件数は、前年に比べ424件(4.5%)減の9,084件であった。罪種別にみても、賭博、猥褻(わいせつ)とも同様の傾向をみせている。
 過去10年間の風俗犯認知件数の推移をみると、図4-6のとおりで、46年以降減少傾向にあり、罪種別にみても、猥褻(わいせつ)は45年から、賭博は50年から、それぞれ減少を続けている。
(2) 全刑法犯の検挙状況
ア 検挙件数は減少、検挙人員は増加
 昭和52年の全刑法犯の検挙件数は72万3,509件、検挙人員は36万3,144人、検挙率は57.0%で、前年に比べ検挙件数は1万9,539件(2.6%)減少し、検挙率は2.6%低下したが、検挙人員は3,784人(1.1%)増加した。
 過去10年間の全刑法犯の検挙状況の推移は、図4-7のとおりで、検挙件数、検挙人員、検挙率は、いずれもおおむね横ばい状態にある。

図4-7 刑法犯検挙件数、検挙人員及び検挙率の推移(昭和43~52年)

イ 主な罪種の検挙状況
(ア) 凶悪犯
 昭和52年の凶悪犯の検挙件数は8,127件、検挙人員は7,781人で、認知件数の減少に伴い、前年に比べそれぞれ236件(2.8%)、647人(7.7%)減少し、

図4-8 凶悪犯検挙状況の推移(昭和43~52年)

検挙率は1.5%低下して88.1%となった。
 過去10年間の凶悪犯検挙状況の推移は、図4-8のとおりで、検挙率は90%前後の高率を維持している。
 なお、52年の罪種別検挙率は、殺人96.9%、強姦90.0%、放火84.0%、強盗81.1%である。
(イ) 粗暴犯
 昭和52年の粗暴犯の検挙件数は6万863件で、認知件数の減少に伴い、前

図4-9 粗暴犯検挙状況の推移(昭和43~52年)

年に比べ978件(1.6%)減少したが、検挙率は0.3%上昇して92.6%となった。
 罪種別検挙率は、脅迫94.2%、暴行93.7%、傷害93.6%、恐喝87.2%である。
 過去10年間の粗暴犯検挙状況の推移をみると、図4-9のとおりで、検挙件数は大幅な減少をみせているが、検挙率は90%台の高率を維持している。
(ウ) 窃盗犯
 昭和52年の窃盗犯の検挙件数は54万8,502件、検挙人員は20万7,064人で、前年に比べ検挙件数は1万5,783件(2.8%)減少し、検挙人員は5,132人(2.5%)増加した。
 過去10年間の窃盗犯検挙件数の推移は、図4-10のとおりで、おおむね増加傾向にあり、特に乗物盗の伸びが著しい。また、検挙人員の推移も、図4-11のとおり増加傾向にあり、これを手口別にみると、侵入盗及び非侵入盗の検挙人員がおおむね横ばい状態で推移しているなかで、乗物盗の検挙人員

図4-10 窃盗犯検挙件数の推移(昭和43~52年)

図4-11 窃盗犯検挙人員の推移(昭和43~52年)

は著しく増加しており、52年は、43年の2.4倍に達している。
 検挙率の推移は、図4-12のとおりで、45年から上昇を続けていたが、52年は51.1%で、前年に比べ2.7%低下した。これを手口別にみると、侵入盗60.8%、非侵入盗57.7%、乗物盗32.5%で、いずれもやや低下している。

図4-12 窃盗犯検挙率の推移(昭和43~52年)

ウ 年齢層別の検挙人員
 昭和52年の全刑法犯検挙人員(注5)の年齢層別構成比は、図4-13のとおりで、14~19歳の者が約3分の1を占めている。年齢層別の検挙人員の推移をみると、40歳以上の中、高年齢層は、同年齢層人ロの増加を反映して増加傾向にあり、その構成比は43年の14.2%から52年には20.9%に増加している。また、年齢層別にみた犯罪者率(注6)の推移は、図4-14のとおりで、20歳代が着実に減少しているのに対し、14~19歳と40歳以上は増加傾向にある。

図4-13 検挙人員年齢層別構成比(昭和52年)

図4-14 年齢層別犯罪者率(昭和43~52年)

(注5) 14歳未満の者による行為は、刑罰の対象とならないため、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をして警察に補導された少年の数は、検挙人員には含まれない。
(注6) 「犯罪者率」とは、人口10万人当たりの全刑法犯検挙人員をいう。

2 昭和52年の犯罪の特徴

(1) 激増した連続放火事件
 最近5年間における連続放火事件の推移をみると、表4-1のとおりで、昭和52年は48年と比べ約3倍となっている。

表4-1 連続放火事件の推移(昭和48~52年)

表4-2 連続放火事件の地域別発生状況(昭和52年)

 52年に発生した連続放火事件について、その発生地域をみると、表4-2のとおりで、都市部で多発している。また、月別の発生状況をみると、1、2、5、6、10月が多く、1事件当たりの放火件数では1月が最も多くなっている。
〔事例〕 新宿地区における「火曜の放火魔」事件
 世田谷区の理容業者(31)は、蓄のう症によるうっとうしい気分を晴らすため、昭和51年11月から52年2月にかけ、理容店の休みを利用しては新宿地区に出向き、店舗のはり紙、ビル内の段ボール箱等にライターで放火するなど連続36件の放火等を敢行した(警視庁)。
 警察庁と科学警察研究所が、48年1月から51年12月までの間に検挙した連続放火事件の被疑者81人につき、共同して調査、分析した結果は、次のとおりである。
 性別では男性が78人と圧倒的に多く、年齢別では20歳代が35人と最も多く、職業別では成人被疑者70人のうち21人が無職であり、職を転々と変えたり、両親、兄弟等に生活を依存している者が多い。婚姻状況をみると、未婚者が成人の中で38人と多く、また、前科、非行歴をみると、50人が前科、非行歴のない者である。
 放火の原因、動機については、知能、性格等個人的条件の特異性、被疑者の生活背景、犯行への直接的契機等が複雑に絡み合っている例が多いが、それを比較的直接的契機に近い条件を重視して分類すると、表4-3のとおりで、「不満の発散」が49人(60.5%)と最も多く、次いで「火の喜び」等となっている。

表4-3 連続放火事件被疑者の犯行の原因、動機

 「不満の発散」とは、何らかの原因で不満を持ち、その不快な耐え難い緊張感から逃れるため放火を行うものをいうが、その不満の原因をみると、表4-4のとおり家族、職場の同僚等身近な人々との人間関係の不和によるものが多い。

表4-4 「不満の原因」

(2) 増加した銃器使用事件
 過去10年間における銃器使用事件の推移をみると、表4-5のとおりで、昭和47年に急増し、52年は352件と過去10年間の最高となっている。
 罪種別にみると、殺人、強盗の銃器使用事件が著しく増加し、特に、殺人では52年に110件と過去10年間の最高となっている。殺人に使用した銃器をみると、けん銃の増加が著しく、また、52年は散弾銃使用による殺人が38件

表4-5 銃器使用事件の推移(昭和43~52年)

と前年の2.1倍となっている。
〔事例〕 農業を営む男(42)は、9月、香北町の大谷公民館で催された道路工事の打ち上げ慰労会の席上、同席していた男にあざけられたことに激こうし、自宅から猟銃を持ち出して同公民館に引き返し、至近距離から被害者の胸部をねらって発射し、即死させた(高知)。
(3) 多発した悪質な人質事件
 過去10年間における人質事件の推移をみると、表4-6のとおりで、昭和49年以降多発傾向にあり、52年も24件発生している。そのなかには、日本赤軍によるインド上空における日航機乗っ取り事件をはじめとするハイジャック事件が4件、長崎市におけるバスジャック事件1件が含まれている。

表4-6 人質事件の推移(昭和43~52年)

〔事例1〕 元暴力団員(26)は、3月17日、仙台行全日空機が羽田空港を離陸した直後、スチュワーデス2人にけん銃を突き付け、「燃料のある限り仙台、羽田間を往復しろ。」等と要求して同機を乗っ取った。その後、羽田空港に着陸し、機長らが説得中に、青酸化合物で服毒自殺した(警視庁)。
〔事例2〕 長崎市の無職の男(39)ら2人は、阿蘇連合赤軍と称してバスを奪い、多額の金を入手しようと計画して、10月15日、長崎行き西肥バスに乗車し、同バスが大村市を走行中、やにわに手製の水平二連銃等を取り出し運転手及び乗客ら22人に突き付け、同バスを乗っ取った。その後、長崎市の給油所にバスを駐車させて、法務大臣等への面会等を要求したが、翌16日未明逮捕された(1人はその後死亡)(長崎)。

 最近5年間の人質事件で人質となった被害者数(航空機船舶、バスの不法奪取事件を除く。)は164人で、うち女性が107人(65.2%)と多く、52年も39人中27人が女性となっている。
 一方、52年に検挙された28人の被疑者をみると、成人の無職者が21人と多い。また、被疑者のうちには暴力団関係者5人のほか、精神障害者、覚せい剤等の中毒者4人が含まれている。
 犯行に使用された凶器は、包丁、ナイフ、刀剣類が多く、52年も24件中15件に上っているが、けん銃等銃器を使用した事件が7件と最近5年間で最も多くなっている。
〔事例〕 無職の男(43)は、宗像郡に住む元上司の妻子2人を猟銃で殺害して逃走中に、逮捕を免れるため、福岡市の会社員宅に侵入し、同人ら家族4人に猟銃を突き付けて人質とし、約3時間立てこもった後、猟銃で自殺した(福岡)。
(4) 再び増加した爆破事件
 最近5年間における爆破事件の発生件数の推移をみると表4-7のとおりで、昭和50年5月に一連の企業爆破事件が検挙されて以来鎮静化の傾向にあったが、52年には、25件と前年を大幅に上回ったことが注目される。

表4-7 爆破事件発生状況(昭和48~52年)

 犯行場所をみると、企業、一般住宅、神社、学校、官公署等多種多様であるが、52年には一般住宅が7件、神社、仏閣が3件、学校が2件、官公署が1件となっており、従来多かった官公署が少なくなった反面、一般住宅における発生が多くなったことが目立っている。
 使用された火薬類をみると、比較的入手しやすく、破壊力が弱い爆竹類が8件であるのに対し、危険性の高い塩素酸塩系又は硝酸塩系爆薬を中心とするその他の火薬が11件、ダイナマイトが6件と多発している。
〔事例〕 3月8日午前8時ごろ、旭川市の旭川警察署死体安置所裏側外壁に仕掛けられた爆発物が爆発し、付近で作業中の事務吏員1人が負傷し、安置所の屋根、窓ガラス等が破壊された。採取した現場資料から、爆発物はプロパンガスボンベ、塩素酸塩系爆薬等を用いた時限式のものと判明した(北海道)。
(5) 悪質、巧妙化する贈収賄事件
 昭和52年の贈収賄事件の検挙件数、検挙人員は図4-15のとおり765件、

図4-15 贈収賄事件の検挙件数、人員の推移(昭和48~52年)

742人であったが、その特徴をみると、いわゆる要求型等の事件、大企業が絡む事件、生活環境整備事業に絡む事件等の摘発が目立ち、また、その内容も悪質、巧妙化の傾向がみられる。
ア 要求型等悪質化する贈収賄事件
 贈収賄事件のうち、収賄公務員が贈賄業者に積極的に賄賂を要求する事犯の占める割合は依然として高く、更に、収賄公務員が業務上横領、背任、詐欺、公文書偽造等を併せて敢行している事犯も目立ち、ますます悪質化している。
〔事例1〕 東京都住宅局改良部折衝第一課主査(50)は、都営住宅の用地の買収に関し、贈賄業者から用地を高価格で買い取ってほしい旨の不正の請託を受け、それに必要な公文書を偽造し、現金2,310万円の賄賂を受け取っていた(警視庁)。
〔事例2〕 鎌倉市公園みどり課公園係長(36)らは、公園造成工事等の施工監督に関し、建設業者らに対し、現金等を要求して210万円相当の賄賂を受け取っていた(神奈川)。
イ 巧妙化が進む贈収賄手口
 昭和52年に検挙した贈収賄事件の手口をみると、第三者収賄的な金品授受が目立つなど一段と巧妙化している。
〔事例〕 東北大学事務局設備課課長補佐(51)は、各種設備工事の業者選定、監督、検査等に関し、あらかじめ旅券等を準備して業者から台湾旅行の接待と小遣い銭400ドル(12万円相当)の供与を受けた(宮城)。
ウ 目立つ大企業が絡む贈収賄事件
 昭和52年に警察庁に検挙報告があった111事件のうち、証券取引所一部、二部に上場されている会社が絡む贈収賄事件は、表4-8のとおり15事件、19社に上っている。

表4-8 上場会社が絡む贈収賄事件の検挙状況(昭和48~52年)

エ 多発した生活環境整備に絡む贈収賄事件
 上下水道、ごみ、し尿処理、産業廃棄物処理等のいわゆる生活環境整備は地方公共団体の重要な事業の一つとなっている。これに伴い、大都市、地方都市を問わず、これに関連する各種工事の発注をめぐって関係業者が贈賄工作を行うケースが多くなり、贈収賄事件の摘発が目立った。
〔事例1〕 郷ノ浦町長、美津島町長及び厳原町長らは、町発注のごみ焼却炉建設工事又はし尿処理場建設工事の業者選定、入札等に関し、建設業者らから政治資金に名を借りて現金1,480万円の賄賂を受け取っていた(長崎)。
〔事例2〕 東京都清掃局処理係長(45)らは、埋立地の廃棄物の処理に伴う工事計画の策定に当たっての業者選定や資機材の使用等に関し、清掃業者らから現金等440万円相当の賄賂を受け取っていた(警視庁)。
(6) 大型化、巧妙化する知能犯罪
 昭和52年の社会経済情勢は企業倒産の増加、急激な円高現象等一段と深刻化の様相を呈した。
 こうしたなかで知能犯罪(贈収賄を除く。)は件数的に減少しているが、その内容をみると長期化する不況の影響下にあって金融機関役職員による大型の背任事件等の不正事件、常習者による広域的、組織的有価証券偽造、同行使詐欺事件、休眠会社等利用による悪質な取り込み詐欺事件等の検挙が目立った。
ア 大型化が著しい金融機関役職員による知能犯罪
 最近3年間の金融機関役職員による知能犯罪の検挙及び被害額の状況は図4-16のとおりで、昭和52年は検挙件数がやや減少したものの、検挙人員、被害額とも、逐年増加してきており、特に被害額では52年は51年の2.4倍と増加し、事件の大型化が目立った。

図4-16 金融機関役職員による知能犯罪の検挙状況(昭和50~52年)

〔事例〕 兵庫県H町のT信用組合理事長(50)は、資金繰りに苦しむ不動産会社の経営者らに融資方を依頼され、組合員資格を形式的に与えた上、確実な担保も取らず、手形貸付けにより2億円を貸し付けたのをはじめ、同人らに対する為替手形の引受け、支払保証等の方法により債務負担を繰り返し、総額49億5,070万円の損害を組合に与えた(兵庫)。
イ 巧妙化する有価証券偽造
 昭和52年の有価証券をめぐる知能犯罪の検挙状況は表4-9のとおりで、前年に比べ検挙件数、検挙人員とも減少しているが、被害額では1.3倍と増加している。また、偽造方法については、従来から真券を加工するという方

表4-9 有価証券をめぐる知能犯罪の検挙状況(昭和51、52年)

法が多いが、52年は偽造券そのものを印刷する巧妙な事犯がみられた。
〔事例1〕 詐欺常習者(42)らは、印刷業者と結託して中山競馬場ほか3競馬場の的中馬券やゴルフ会員券等を偽造して、千葉、名古屋、東京等で前後31回にわたり108枚を行使して総額1,418万円をだまし取った(北海道)。
〔事例2〕 金融ブローカー(53)らは、T宗教団体G教会の経理主任と共謀して、G教会長振出名義の約束手形を50年12月から51年10月までの間、前後19回にわたり合計19通(額面合計20億3,250万円)を偽造して東京、神奈川等数都県にわたって割引等を口実に会社役員らから現金等4億8,920万円をだまし取った(静岡)。
ウ 増えた休眠会社等利用による取り込み詐欺事件
 昭和52年の取り込み詐欺事件は、前年に比べ検挙件数、人員ともやや減少しているが、休眠会社等を利用した計画的な取り込み詐欺事件は表4-10のとおり件数で約2倍、人員で約3倍と増加し、いずれも職業的常習者による犯行が多かったことが注目される。

表4-10 休眠会社等利用による取り込み詐欺事件の検挙状況(昭和51、52年)

〔事例〕 雑貨類のブローカー(35)らは休眠会社を買収し、同社の役員となり、社名を変更し本店を移転させた上、電話帳により業者を無差別に選び出し、茨城、東京、埼玉等6都道府県の38業者から3箇月にわたって食品類等総額8,254万円相当をだまし取った(警視庁)。

3 国際犯罪の捜査

(1) 多発した国際犯罪者による犯行
 過去10年間に日本で検挙された外国人被疑者数の推移をみると、総検挙人員は減少の傾向を示しており、刑法犯による検挙人員も一貫して減少してきている。しかし、中国人、韓国・朝鮮人及び在日米軍関係者以外の外国人の刑法犯による検挙人員は、昭和49年以降は横ばいを続けているものの、長期的には増加傾向を示しており、52年は過去10年間で最高の345人が検挙された。
 犯罪の内容についてみても、国際犯罪者による詐欺、窃盗等の悪質な犯罪がしばしば検挙されたが、この中には、ICPO-インターポール-(国際刑事警察機構)事務総局から国際手配書が発行されていたすり常習者1人も含まれていた。
 ところで、諸外国との国際交流の活発化に伴い、我が国に入国してくる外国人数は年々増加の一途をたどっており、52年の入国外国人は98万3,069人(前年比10万1,866人増)に上っている。こうした傾向に伴い、一般旅行者に紛れて国際犯罪者が、我が国に入国してくる例が今後も増加するものと思われる。
 国際犯罪者は、世界の多数の国において組織的、計画的に犯罪を行っており、我が国に入国後は短期間に集中的に犯行を重ね、その後直ちに出国してしまう場合が多く、また、犯行に際しては偽造旅券を使用することが多い。そこで、この種犯罪の捜査を効果的に行うためには、外国警察との連携を強化することが必要であるが、我が国としてはICPOとの密接な連絡を行うことにより、諸外国における同種事件の発生状況をいち早くは握して関連情報を入手し、国内における犯罪の未然防止と早期検挙に努めている。
〔事例1〕 東京都内のデパートにおいてすりを行っていた香港在住の中国人ら3人を、4月3日及び9日に警視庁において逮捕したが、そのうち1人(29)は、ICPO事務総局から常習的なすり犯として国際手配書が発行されており、香港在住の中国人からなる国際すり団に所属していた。
〔事例2〕 東京都内の銀行等49箇所において、ICPO事務総局から手配されていた盗難旅行小切手合計945枚を行使して、両替を 口実に709万円余りを詐取していたオランダ人女性(31)を、10月、警視庁において逮捕したが、被疑者はオランダで麻薬所持の犯歴1回を有していた。
(2) 目立った国外逃亡事案
 国内における重要事件の被疑者が国外に逃亡する事案は、交通機関の自覚ましい発達、海外旅行の大衆化に伴い、最近特に目立ってきて おり、指名手配被疑者らで海外に逃亡していることが昭和52年に判明した者は12人に上った。
 被疑者の国外逃亡事案が発覚する端緒としては、国内における指名手配被疑者らの追跡捜査の過程において、旅券発給の事実あるいは出国の事実が確認されたことによる場合と、指名手配被疑者らが海外において犯罪の被疑者として逮捕され、ICPOルート又は外交ルートを通じて、 警察庁にその旨の通報がなされたことによる場合が多い。
 指名手配被疑者らの海外逃亡事実が判明した場合には、ICPOルートによりその所在調査を外国警察当局に依頼するとともに、所在が判明した場合には、当該外国の逃亡犯罪人引渡しに関する法律制度、我が国と当該外国との間の逃亡犯罪人引渡条約の有無等諸般の事情を勘案しつつ、正式の引渡し請求を行い、又は国外追放等による事実上の引渡しを受けるなど、逃げ得を許さないとの基本方針で臨んでいる。
〔事例〕 51年3月、大阪市内の会社事務所に侵入し、水中銃で女子従業員2人を殴打して現金800万円余りを強奪した事件の被疑者A(26)は、他人名義の旅券を使用してタイに逃亡していたが、在タイ日本国大使館の協力により、Aの所在が発見され、52年12月14日 タイ入国管理当局に不法入国等の疑いで身柄を拘束された後、23日国外追放となり、事実上Aの身柄が我が国に引き渡された(大阪)。

(3) 海外における日本人の犯罪
 過去10年間に、日本人の出国者数は急激に増加してきており、海外で犯罪を行って検挙され、ICPOルート又は外交ルートにより通報を受けた日本人

図4-17 日本人の海外における犯罪(昭和43~52年)

の数も、図4-17のとおりおおむね増加傾向を示してきている。ところが、昭和52年は、日本人の出国者数が315万1,431人と前年に比べ29万8,847人増加したにもかかわらず、このような通報を受けた日本人の数は133人と、前年に比べ32人減少している。
 また、最近は、日本人が海外において犯罪の被疑者として逮捕されたことを契機として、我が国における重要な刑事事件が表面化したり、それらの被疑者が海外逃亡中の指名手配被疑者であることが判明する場合が目立っている。こうした犯罪の背景に、暴力団によるけん銃や麻薬、覚せい剤の大がかりな密輸事件が関係していることも少なくない。
〔事例1〕 日本人A(26)がけん銃約80丁を不法に購入した疑いにより、アメリカ捜査当局に逮捕された旨の通報を3月に受理し、佐賀県警察において捜査を行った結果、Aは暴力団関係者であり、既に約30丁のけん銃を我が国に密輸入した事実が判明し、アメリカにおける裁判終了後国外追放となって6月に帰国した際、同県警察は羽田空港において逮捕した。
〔事例2〕 日本国政府発行の旅券を使用した偽造事件に関連して、香港捜査当局が10月にA(43)ら日本人2人を逮捕した旨の通報を受理し、神奈川県警察において捜査を行った結果、Aは元暴力団員であり、日本国内において20人から旅券を一時借用し、それらを香港の旅券偽造グループに売却していた事実が判明し、Aは帰国後12月に、旅券法違反の疑いで逮捕された。
(4) 国際犯罪に関する情報交換
 国際犯罪の捜査を進める上で、外国警察との捜査共助は極めて重要であり、最近における犯罪の国際化の傾向を反映して、国際犯罪に関する諸外国との情報交換数は年々増加してきている。国際捜査共助の方法としては、正式の外交ルートによる場合と、ICPOルートによる場合があるが、逃亡犯罪式の引渡し請求、警察官の海外派遣その他外交関係に影響を及ぼす重要案件については前者によることとし、被疑者の身元、犯歴及び所在等の調査や、犯罪の裏付けのための簡易な事実調査等については後者によって行っている。最近5年間におけるこうした外国警察との国際犯罪に関する情報の受、発信の状況は図4-18のとおりで、昭和52年の総数は、4,565件となっている。

図4-18 国際犯罪に関する情報交換数(昭和48~52年)

 ICPO事務総局は、国際犯罪の捜査のための基礎資料として、国際犯罪者等に関する各種の国際手配書を発行しているが、52年9月、バングラデシュのダッカ空港において、日本赤軍メンバーによる日航機ハイジャック事件が発生したことから、人質と交換に釈放された同メンバー5人について国際手配書を発行し、その所在の発見及び関連情報収集のため、加盟各国に手配を行った。

4 選挙違反の取締り

(1) 第11回参議院議員通常選挙の違反取締り
 第11回参議院議員通常選挙は、昭和52年6月17日公示され、7月10日施行された。
 この選挙においては、参議院における「与野党逆転」の成否が最大の焦点となり、単独政権の維持を期する与党、連合政権を目指す野党各党及び通常選挙初登場の社会市民連合、革新自由連合等が入り乱れて、激しい選挙運動を展開した。
 これに対し、警察は、「明るく正しい選挙」の実現に寄与すべく、不偏不党、厳正公平な取締りを実施したが、その結果は次のとおりである。
ア 検挙状況
 検挙状況(投票日後90日現在)は、表4-11のとおり2,744件、5,037人であって、前回(昭和49年)に比べ、件数で2,577件(48.4%)、人員で4,870人(49.2%)の減少となっている。
 罪種別にみると、買収が、件数で全体の52.8%、人員で全体の65.0%を占めている。

表4-11 参議院議員通常選挙における違反検挙状況(第10回:昭和49年10月5日現在 第11回:昭和52年10月8日現在)

イ 警告状況
 警告の実施状況は、表4-12のとおりで、前回に比べて7,893件(16.5%)

表4-12 参議院議員通常選挙における違反警告件数(第10回:昭和49年8月6日現在 第11回:昭和52年8月9日現在)

減少した。
(2) 参議院議員補欠選挙の違反取締り
 参議院議員補欠選挙は、新潟地方区(5月22日施行)、熊本地方区(9月4日施行)で行われ、戸別訪問等で1件9人を検挙した。
(3) 地方選挙の違反取締り
 昭和52年に施行された地方公共団体の長及び議会の議員の選挙は、7県知事選挙、13都道県議会議員選挙(うち補欠選挙12件)、611市町村長選挙(うち再選挙1件)、548市町村議会議員選挙(うち補欠選挙157件)の計1,179件であり、これらの選挙における違反検挙状況は、表4-13のとおり

表4-13 昭和52年の各種地方選挙における違反検挙状況(昭和53年3月1日調べ)

である。

5 科学捜査の推進

(1) 現場鑑識体制の強化
 犯罪の質的変化、犯行手段の悪質巧妙化、捜査を取り巻く環境の著しい変化に伴い捜査が年々長期化、困難化している情勢下において犯罪の早期解決を図るためには、科学捜査の中核である犯罪鑑識の機能が十分発揮されることが必要である。
 犯罪現場は証拠や捜査情報の宝庫であり、徹底した現場鑑識活動を行い、多くの資料を採取して捜査に活用することは鑑識活動の基本であるが、近年、道路の舗装化が進み、あるいは、新建材、じゅうたんその他の敷物類が普及し、指紋や足こん跡等の採取が難しくなってきており、また、住宅構造や生活様式の変化に伴い、被害者等から早期原状回復を求められるケースが増えるなど十分な現場保存ができなくなってきている。そのため、指紋、足こん跡その他の現場資料を採取する技術の高度化や新しい資器材の研究、開発を図ることはもとより、高度な技術を身に付けた鑑識係員が常時待機し、資

器材をとう載した鑑識車両を駆使して現場に急行し、迅速、的確に資料を採取し、活用できる現場鑑識体制を確立することが当面の課題である。
 このような機動性を備えた鑑識体制は、最近一部の道府県警察においていわゆる機動鑑識隊の名の下に試行がなされており、殺人、強盗、ひき逃げその他の重要事件や侵入窃盗事件の発生現場に急行して機動捜査隊と一体となって鑑識活動を行い、現場資料を迅速、的確に活用するなど相当の効果を挙げている。
 今後、こうした機動鑑識隊を犯罪多発地域を中心に整備し、現場鑑識体制の充実強化を図る必要がある。
〔事例〕 6月、余市町内で一夜連続5件の放火事件が発生した。緊急配備後間もなく容疑者が判明したが、犯行を否認していた。出動した機動鑑識隊の現場鑑識活動によって第5放火現場から採取した指紋を直ちに取調べ中の容疑者の指紋と対照した結果一致し、事件をスピード解決した(北海道)。
(2) 広域犯を追う足こん跡
 現場足こん跡は年間約10万件が採取され、犯人の捜査、同一人による犯行の確認、事件の裏付け資料等に利用されている。特に、足跡は、個々の特徴を対照、鑑定して利用されるほか、これを組織的に資料化して相互対照することによって、転々と犯行を重ねる広域的犯罪者の犯行状況や立ち回り状況を知ることができるため、よう撃捜査等を行う上で効果的である。従来、足こん跡鑑識の分野は、各都道府県単位で運用されていたため、広域的犯罪の捜査資料としては十分に機能し得ない面があった。そこで、警察庁では10月1日から強盗、窃盗事件のうち、広域的犯行と認められる事件の現場足跡を警察庁で集中管理して組織的利用を図る「足跡集中管理制度」の運用を開始するなど、足こん跡鑑識の強化を図った。
〔事例〕 4月3日以降中国、中部、関東、東北各地で連続的に発生した金庫破り窃盗事件は、府県相互間の足跡照会によって、図4-19のとおりレジャーシューズ等を履く同一犯人の犯行であることが確認された。直

図4-19 広域犯Kの犯行状況

ちに足跡手配を行って捜査中、6月2日広島市内において手配の足跡と同種のくつを履く被疑者K(38)が職務質問で検挙された。取調べの結果、16府県で133件被害総額3,000万円に及ぶ窃盗事件を解決した(広島)。
(3) 鑑識資料の活用
 鑑識資料の活用には、指紋制度や被疑者写真制度、銃器弾丸類、偽造通貨等全国的に統一した資料を組織的に収集、整理、保管して活用するものと、科学的知識や技術を応用し、あるいは高性能な分析機器等を駆使して鑑定、識別して活用する方法とがある。
 犯罪現場等から採取した指紋や検挙した被疑者から採取した指紋は、犯人の割り出し、余罪の発見、被疑者の身元や犯歴の確認あるいは身元不明死体の身元確認等に活用されている。また、犯罪現場等に遺留された血こん、毛髪、繊維、爆発物等の破片、塗膜片、汚水、土壌等の法医、理化学資料は科学的に分析され、重要凶悪事件、ひき逃げ事件、公害事犯等の犯罪を証明する資料として活用されている。そのほか、犯罪に使用された銃器弾丸類や偽造通貨等については科学警察研究所に送られて、既往事件との対照や種類の識別等が行われている。
 昭和52年に被疑者の割り出しや犯罪の証明等に活用された鑑識資料の状況は図4-20のとおりである。
〔事例〕 5月、鹿沼市の県道でひき逃げ死亡事件が発生した。容疑車両か

図4-20 鑑識資料の活用状況(昭和52年)

ら採取した微量の血こん、毛髪数本について血液型検査や走査型電子顕微鏡による毛髪鑑定を行った結果、被害者のものと一致し、否認する容疑者の犯行を確認、事件を解決した(栃木)。
(4) 警察犬の活用
 犬のきゅう覚は人間の数千倍といわれている。このような犬の特性を利用した警察犬は、「生きた鑑識器材」、「鼻の捜査官」として犯罪捜査をはじめ、人命救助活動に重要な役割を果たしている。警察犬は、警察で直接飼育する直轄警察犬と民間で飼育し、訓練される嘱託警察犬の二本立ての制度で運用されており、犯人の足跡追及、遺留品の捜索、物品選別等の分野において全国で約990頭が活躍している。最近では麻薬、覚せい剤や爆発物等特殊な捜査活動に従事する警察犬の訓練、育成も図られている。
〔事例〕 兵庫県警察では、麻薬捜索用として特別に訓練した警察犬を使い、7月、神戸港に入港したオランダ船籍貨物船内の捜索を実施した結果、船員(27)使用のベット下から新聞紙に包まれた大麻草約5キログラムを発見、押収した。

6 捜査活動の長期化、困難化と刑事警察の今後の課題

(1) 長期化、困難化する捜査活動
 犯罪の早期検挙は、地域住民の不安の解消や捜査効率の観点から極めて重要であるが、犯罪の質的変化、捜査を取り巻く環境の変化に伴い、事件の発生から検挙までの捜査期間は次第に長期化し、事件の解決も困難となっている。
 全刑法犯及び主要罪種の即日検挙率(注1)の推移をみると、全刑法犯では、43年の13.4%が52年には11.5%へと低下しており、また、凶悪犯、粗暴犯では、最近5年間ほぼ横ばい状態にあるが、40年代初期に比べるとそれぞれかなり低下している。特に、殺人は43年の66.7%から52年の42.8%へと著しく低下している。
 次に、全刑法犯及び凶悪犯の検挙比率(注2)の推移をみると、即日検挙比率では、全刑法犯が43年の24.1%から52年の20.6%、凶悪犯が43年の43.9%から52年の33.3%へと低下し、1箇月未満の検挙比率では、全刑法犯が43年の51.2%から52年の44.9%、凶悪犯が43年の77.9%から52年の69.6%へと低下している。
(注1) 即日検挙率とは、犯罪の認知件数に対する即日検挙件数の比率をいう。
(注2) 検挙比率とは、犯罪の発生から被疑者検挙までの期間別検挙件数の総検挙件数に対する比率をいう。
ア 長期化する捜査本部事件の解決
 殺人等の重要な犯罪その他の事件で捜査が複雑かつ困難なものについては、特に捜査本部を設け、必要な人員と装備資器材を動員して、警察の総力を挙げて事件の解決に当たっている。
 過去10年間における殺人事件の捜査本部設置状況をみると、表4-14のとおりで、昭和50年以降毎年100件台で推移しており、複雑、困難な事件が多発していることがうかがえる。また、各年末現在の捜査本部設置件数をみる

表4-14 殺人事件捜査本部の設置状況(昭和43~52年)

と、次第に増加しており、52年末には118件と過去10年間の最高となっている。
 52年における殺人事件の捜査本部について、その設置から被疑者の検挙までの期間を43年と比べると、表4-15のとおりで、捜査本部設置後短期間で検挙することは困難となり、数箇月から1年以上を要するものが増えるなど長期化の傾向が著しい。

表4-15 殺人事件捜査本部の期間別検挙件数(昭和43、52年)

イ 広がる犯罪者の行動と捜査の範囲
 モータリゼーションの進展等による人間の行動範囲の拡大に伴い、犯罪者の行動範囲も広域化するなどの状況がみられる。例えば、犯人が住居地を離れて犯罪を敢行したり、数府県にまたがって犯罪を行うなど捜査の対象範囲が拡大し、また、犯人の逃走手段のスピード化により現場での犯人捕そくが困難となってきている。

図4-21 殺人、強盗殺人捜査本部事件の捜査地域(昭和52年)

 捜査本部が設置された殺人、強盗殺人事件で2県以上にわたり捜査が行われた状況をみると、図4-21のとおり125件中69件と半数以上を占めている。
 また、捜査活動も被疑者の身辺捜査、追跡捜査、遺留品やそう品の捜査、被害者の身元確認、参考人からの情報収集等広範に行われている。
ウ 困難化する聞込み捜査、ぞう品捜査
 都市化の進展等により、犯罪捜査を取り巻く環境は変化しつつあり、基本的捜査活動である聞込み捜査はますます困難になっている。
 聞込みを主たる端緒とする検挙の構成比の推移をみると、表4-16のとおり全刑法犯、殺人、強盗、窃盗のいずれもその構成比が低下している。

表4-16 聞込み、ぞう品を主たる端緒とする検挙の構成比の推移(昭和48~52年)

 また、財産犯、特に、窃盗犯捜査の有力な捜査方法であるぞう品捜査も、流通機構の変化や大量生産、消費時代を背景とした被害品特定の困難化、ぞう品の処分方法の巧妙化等により、次第に困難化している。
(2) 犯罪情勢の変化に対応する捜査活動の推進
ア 早期検挙活動の推進
 捜査活動の長期化、困難化に対処し、国民の期待と要望にこたえるためには、犯罪の早期検挙活動を強化する必要がある。このため、重要事件発生時の初動捜査や犯行予測に基づくよう撃捜査を主な任務とする機動捜査隊の強化を図っており、昭和52年も隊員の増強と分駐所の新設等が行われた。今後も犯罪情勢の変化に合わせて機動力、通信力を備えた初動捜査体制の強化を図ることが必要である。
 次に、犯行現場で犯人を早期に捕そくするため、常習者犯罪対策の基礎資料である犯罪手口制度の改善を図り、的確な犯行予測に基づく確度の高いよう撃捜査を展開していく必要がある。
 更に、緊急配備は、広域化、スピード化している犯人の行動に対処し、犯人を包囲、捕そくする上で有効な捜査活動であり、今後も、常設検問所、緊急配備検問車、検問用資器材等の整備や配備箇所、配備方法について検討を行うとともに、特に、数府県にまたがる広域緊急配備の効果的運用を図る必要がある。
 また、重要事件の捜査が長期化する傾向にあることにかんがみ、初期的段階において捜査員を大量に動員する捜査方法や捜査本部に集められた情報を効率的に分析、管理する方法等重要事件における捜査運営の一層の強化を図らねばならない。
イ 広域捜査体制の強化
 最近、広域犯罪はもちろん、それ以外の犯罪についても、遺留品やぞう品の捜査、被疑者の追跡捜査をはじめ、事件に関連する情報の入手等について関係都道府県警察の捜査共助が従来以上に必要となっている。このため、警察庁の指導調整機能を一層充実し、広域捜査を必要とする事件の犯罪資料を全国的な見地から保管、活用し、あるいは、捜査共助体制の強化を図るなど広域捜査体制の強化を推進することとしている。なお、都道府県警察内部においても、数警察署にまたがる犯行に対してブロック捜査、プロジェクトチームによる捜査の推進を図っている。
ウ 専門的捜査体制の確立
 爆破事件、ハイジャック、大規模な業務上過失事件、人質事件、誘かい事件等の捜査には、高度の科学的、専門的知識、技術を必要とするので、今後とも専門的能力を有する捜査員を確保するなど捜査体制の整備を図ることとしている。
 また、現代社会における専門的知識、技術の普及に伴い、高度化、巧妙化していく犯罪に対処するためには、捜査上、高度の専門的知識、技術が不可欠のものとなっている。このため、会社犯罪、選挙犯罪、経済犯罪、知能暴力犯罪、国際犯罪等について警察庁、都道府県警察における専門的捜査体制を強化するとともに、心理学等の知識を犯罪捜査の分野に一層取り入れ、今後発生が予想される新たな形態の犯罪に対応する捜査手法の開発等を図っていく必要がある。
エ 国民協力の確保
 限りある警察力で国民の期待にこたえる捜査活動を推進していくためには、捜査に対する国民の深い理解と協力が不可欠である。このため、警察は国民と遊離することなく、国民の理解と協力の得られる捜査を推進していくこととしている。
 捜査に国民の協力を求める方法の一つに公開捜査があり、新聞、テレビ等の報道機関に協力を依頼するほか、ポスター、ちらしを人の出入りの多い飲食店、公衆浴場等に掲示、配布している。公開捜査の際にモンタージュ写真を使用することが多いが、イメージやふんい気を伝えやすい似顔絵の活用も併せて図っていく必要がある。警察では、昭和52年に「指名手配被疑者捜査強化月間」を2月、11月の2回にわたって行い、警察庁指定被疑者16人、都道府県警察指定被疑者24人を公開捜査に付し、警察庁指定被疑者1人、都道府県警察指定被疑者6人をはじめ、同月間中に指名手配被疑者5,470人を検挙した。
 このほか、捜査の進展状況、犯人の検挙等について被害者に連絡する被害者連絡制度の充実や警察に出頭した参考人に対して支払う旅費等の増額を図るとともに、質屋、古物商、旅館、ガソリンスタンド等犯罪者と接する機会が多い人々に対し、犯人やぞう品のちらしを配ったり、不審者の通報を依頼するなど国民協力の確保のための各種施策を実施している。


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