第3章 地域に密着した警察活動

1 地域住民に身近な活動

(1) 地域の守り外勤警察
 外勤警察は、地域住民の安全な日常生活を守るため、常に警戒態勢を保ち、あらゆる犯罪や事故に即応する活動を行っている。
 外勤警察官の活動拠点である派出所、駐在所は、昭和52年4月現在、全国で1万5,000箇所に及び、山間、島部に至る全国のすみずみまでをその受持区域としており、共に地域住民に身近な存在として警察の窓口的機能を果たしている。
 このほか、無線機を装備して機動警らに当たる警ら用無線自動車(パトカー)や警察用船舶(警備艇)、繁華街、主要駅その他に置かれる警備派出所、幹線道路の要所に置かれる検問所、都市部の集団パトロールに当たる直轄警ら隊、団地で住民との連絡に当たる移動交番車等があり、それぞれ派出所、駐在所と相互に連携を保ちながら活動している。
ア パトロールで地域の警戒
 パトロールは、外勤警察官が受持区域をパトカーや徒歩で警戒に当たる活動であるが、その任務は、犯人の検挙、事故の処理、あるいは急病人、酔っ払い、迷い子の保護、地理案内等極めて幅広い。
 パトロールは、外勤警察官の基本的活動であり、地域住民の安全確保のキーポイントでもある。このため警察では、派出所や駐在所での事務処理を合理化したり、外勤警察官の事件、事故の処理能力を向上させて、1人でも1時間でも多く外勤警察官が街頭に立って活動できるように努めている。
 特に、最近は、パトロールの効果を更に高めるため、外勤警察官に携帯無 線機を持たせたり、徒歩と車両の組合せによるパトロールや集団警ら等地域に応じたパトロ一ルを実施し大きな成果を収めている。
イ 住民とのきずなを深める巡回連絡
 警察活動を効果的に推進するためには、地域住民の理解と協力を得ることが何よりも大切であり、そのためには、地域住民との触れ合いを通じて信頼関係を深める必要がある。
 巡回連絡は、外勤警察官がその受持区域の家庭や事業所等を訪問して、犯罪の予防や交通事故の防止等について必要な連絡を行うとともに、住民の警察に対する意見や要望を聴いて警察の諸活動に反映させることを目的としているものである。
 このような警察活動上欠かせない巡回連絡も、共働き家庭の多い住宅団地や歓楽街等では、連絡が取りにくくなってきているのが現状である。このため、巡回連絡に専従する警察官を配置したり、共働き家庭等については在宅時間に合わせて巡回連絡を実施するなどの工夫を凝らしているほか、住民との対話がスムーズに行われるよう地域の情報を素材としたミニ広報紙や、巡回連絡写真帳等を活用している都道府県警察が多い。
ウ 街の道しるべ、駅前派出所
 外勤警察官は、パトロール等の街頭活動を通じて受持区域内の実態を正しくは握しており、取り分けその地理には明るい。このため、派出所や駐在所に道を尋ねる人は多く、特に、人の移動の激しい駅前派出所に勤務する外勤警察官は、道案内のために多くの時間を当てているのが現状である。ちなみに、警視庁管内における地理案内の多い派出所は、表3-1のとおりであ

表3-1 警視庁管内の地理案内件数の多い派出所(昭和52年)

る。
エ 声の交番、通信指令室
 全国の警察本部に置かれている通信指令室は、110番による事件や事故の通報を受理して、パトカーや外勤警察官等に無線で現場出動を指令する業務等を担当しているが、最近では、加入電話の著しい普及に伴い、従来は、派出所や駐在所に持ち込まれていた各種の届出等が110番を利用して行われることが多くなり、いわば「声の交番」としての役割を果たしている。
 通信指令室には、110番がかかってきた場合にパトカー等がいち早く現場に到着できるようにするため、パトカーの現在位置等が一目で分かるパトカー自動動態表示装置(カーロケーター)等の整備が進められている。
◎ ~通信指令室の一日~
 ここに紹介する警視庁通信指令本部(注)は、250人を超える勤務員が、三交替制で勤務しており、110番通報がふくそうするときにはパトカーに対する指令等のため、予定された時間に食事をとれないことやわずかの仮眠時間さえ中断されることが珍らしくない。
 昭和52年9月のある日の活動実態を日勤と当番の各勤務員の手記から抽出してみた。
○ 日勤員が勤務について間もない午前9時ごろ、ブザーがけたたましく鳴り出した。指令本部緊張の一瞬である。変死の110番であった。「○○がいつになっても起きてこないので行ってみると死んでいた。」という内容である。すぐ現場近くのパトカーを確認して「現場に急行せよ。」と指令するとともに、所轄署の刑事課にその内容を通報した。捜査員の検視と医師の検案によって病死であると判明し、「事件にあらず」とパトカーから報告のあったのは約40分後であった。
 午前中の110番は、このような病死のほか交通事故や窃盗の被害届等の多いのが特徴である。
○ 正午過ぎ、女性からの奇妙な110番があった。「もし、もし」、「はい、こちら110番です。」、「もし、もし」、「はい、どうしたのですか。」、「も し、もし、今、あの…男に、刃物で…。」、いくら呼んでも時々電話の声がとぎれて聞こえたり聞こえなかったりする。女性の声はそれでも続く。受理している婦人警察官は、早速電話局に逆探知を依頼する一方、懸命に呼び掛けること10数分、この間、警ら中はもとより待機中のすべてのパトカーに、凶悪事件を予想して緊急配備の準備体制を発令しておいたことはいうまでもない。
 ようやく住所を突き止め、現場近くを警ら中のパトカーに対して「事情聴取の上第一報せよ。」と指令した。約5分後、警視410号からの至急通報によって母子家庭における2人組強盗事件と判明、指令担当者は、直ちに事件の内容と逃走した犯人の人相や着衣、逃走方向、使用車両等被害者から聴き取った事項に基づき、隣接5署に対して緊急配備を発令した。
 間もなく警視403号から、「ただ今、二人乗り品川ナンバーの白色乗用車を発見し停止の合図をしたが、フルスピードで○○方面に逃走した。」と至急通報が入った。指令担当者は、逃走方向にいるパトカー及び派出所勤務員等に車両の確保を指令したが、約10分後、警視405号から「交通渋帯で停止中の容疑車両を発見したので、これを○○派出所に同行した。」との報告があり、結局、この2人が強盗事件の犯人であることが判明した。
 一応落ち着きを取り戻したので、昼食をとろうとしたらもう午後2時を回っていた。
 夕方、捜査員から電話連絡があった。それによると、110番受理のときに通話が時々とぎれたのは、犯人に切断されたがわずかにつながっていたコードを母親が110番している間、6歳の坊やが両手で必死に押さえ続けていたからだという。その涙ぐましい坊やの努力に、勤務員一同は親子の情愛を感じた。
○ 夕方になると迷い子の110番が多くなる。4時30分、若い母親から「うちの子供が遊びに出たまま帰ってきません。事故にでも遭ったので はないかと心配なんです。」と110番があった。110番受理者は、万一を考え、子供の顔だちや髪型、着衣、履物等を詳しく聴き取り、通報者宅付近を警ら中のパトカーと派出所の警察官に捜索を指令した。約20分後、「今戻りました。お騒がせしました。」と、照れくさそうな母親の電話連絡があった。誘かいでなくて良かったと胸をなで下ろした場面であった。
○ 午後5時、日勤員と交替した当番員が勤務に着くころから指令本部内は一段と慌ただしさを増す。街にネオンがともり千鳥足族が多くなると、「酔っ払いがけんかをしている。」、「酔った客の無銭飲食です。」等と酒に関係した110番通報が多くなるからである。また、夕方から夜半にかけては、騒音の苦情等が多くなるのも特徴である。
 このような事案が一段落した午前0時過ぎ、けたたましくブザーが鳴り出した。相次ぐ110番の入電である。一つは「男が電柱によじ登り、2階の出窓から侵入した。」というものであり、一つは「自転車に乗った若い男に殴られた上、ハンドバッグをひったくられた。」という若い女性からの訴えであった。
 第1指令担当者は、現場近くを警ら中の警視504号に対して、「現場は○○町の○○美容院、目標は○○交差点、サイレンを鳴らすな。なお、同美容院わきの電柱の下にサンダルが脱いであり、通報者は近くの電話ボックス内にいる。」と指令し、警視504号からの第一報を待った。
 第2指令担当者は、現場付近を警ら中の警視207号を現場へ急行させるとともに、隣接7署に対し、強盗傷人事件として緊急配備の準備体制を発令した。約10分後、被害者から事情聴取している警視207号からの至急通報によると、「犯人は25歳ぐらいで、髪は短く一見チンピラ風、無灯火の自転車に乗り○○方面に逃走中、被害者の女性は、ハンドバッグを奪われたとき顔面を2、3回殴打され鼻血を出している。」という内容であった。指令担当者は、犯人が現場近くに潜伏していることもありうるとして隣接7署に対して緊急配備を発令するとともに、特に、派出 所員に対しては、現場近くの神社、仏閣、公園等の綿密な検索を指令した。
 その指令中、○○美容院に急行した警視504号からの至急通報が入り、それによると、「不審者侵入の件は、同家の主人がマージャンで遅くなり妻に締め出しをくったため、電柱によじ登り二階から入ったもの。ただ今夫婦げんかの仲裁中。完了次第警らに復帰する。」というものであった。第1指令担当者は、「犬も食わぬ夫婦げんかとは全くいただけない人騒がせだ。」とつぶやいていた。
 緊急配備発令から10分後、所轄署からの至急通報である。内容は、「○○地内を検索中の派出所員から、携帯無線機で「手配の人相に似ている男を発見したので、職務質問をしようとして声を掛けたところ急に駆け出し、○○公園内の暗がりに逃げ込んだ。応援頼む。」との通報があった。「強盗事件の犯人と思われるので、○○公園近くで緊急配備中の警察官を至急派遣されたい。」というものであった。指令担当者は、直ちに公園付近の全警察官に対してその旨を指令するとともに、犯人発見の際は、男がチンピラ風であり深夜でもあるので、受傷事故には十分注意するように付け加えた。
 間もなく、応援に駆け付けた警視213号からの至急通報である。「公園内の植込みに隠れていた男を発見、約100メートル追跡の上停止させ、職務質問したところ、犯行を自供したので逮捕したが、停止させたとき、男は刃渡り20センチメートルのあいくちを持っていた。」という内容であった。勤務員は、一瞬背筋に冷たいものを感じたが、ハンドバッグは近くの道路上で発見され、被害金品も無事に戻ったということで、指令本部内は緊張の連続から一転して安ど感に包まれた。
○ 午前5時ごろわずかの仮眠をとるともう朝であった。夜明けとともに110番回線の試験が始まり、午前9時には当番中に取り扱った事件、事故について報告し、これが終わって当番勤務からの解放である。疲れきった体で家路に向かった。午前10時を少し過ぎていた。
(注) 各道府県は、通信指令室又は通信指令課と呼称しているが、警視庁は、組織が大きいため通信指令本部と呼んでいる。
オ 遺失物、拾得物の取扱い
 昭和52年の遺失届は160万4,556件、拾得届は300万8,786件で、前年とほぼ同数であるが、通貨についてみると、図3-1のとおり遺失金は約187億円、拾得金は約91億円であり、これを前年に比べると、遺失金は約12億円、拾得金は約6億円増加している。

図3-1 遺失届、拾得届取扱状況(通貨、物品)(昭和48~52年)

 通貨金額のうち、遺失届が出された金額は、拾得届金額のほぼ2倍になっているが、物品件数は約半分である。このことは、落とした通貨は出にくく、物品については遺失者があきらめて警察へ届け出ない場合が多いことを示している。これらの遺失物や拾得物は、その過半数が派出所や駐在所の外勤警察官が窓口となって取り扱われている。
 52年における拾得物の処理状況は、図3-2のとおりである。
(2) 地域活動の積極的な推進
ア 住民の要望にこたえる運動
 警察では、派出所、駐在所の勤務員が、受持区域内の家庭、事業所等を訪問しては握した地域に共通する困りごとや要望等の中から、早急に解決を要する問題を取り上げ、住民の協力を得ながら処理する「住民の要望にこたえ

図3-2 拾得物処理状況(昭和52年)

る運動」を全国的に推進している。
 昭和52年の取扱い事案をみると、交通関係が最も多いが、このほか、悪臭や騒音の取締り、ポルノ雑誌の自動販売の抑制等住民の関心を浮き彫りにしたものも多くなっている。また、子供の遊び場の確保、危険箇所の排除、通路の補修整備、野犬の捕獲等、関係機関や団体等に措置を促し、その協力を得て解決した事案も少なくない。
〔事例〕 三島警察署別子山駐在所管内は、交通不便な山村であり、林業関係の仕事で生計を立てている住民は、一日25キロメートルの道を徒歩に頼らざるを得ないことから、原付免許取得の希望が強くなっていた。このような事情を知った勤務員は、住民の希望をかなえるため、村役場等に働き掛け、原付免許教室を約3箇月にわたって開催した。村役場は受講者の送迎を、本署交通課は出張試験を、また、勤務員は白バイ勤務の経験を生かして実技指導をそれぞれ担当して熱心に進めた結果、38人(83%)を合格させ、住民の足の悩みを大幅に解消した(愛媛)。
イ 老人と子供の保護活動
 一人暮らしの老人や母と子供だけの家庭は、事件、事故の被害に遭うおそ れが強いばかりでなく、健康や子供の将来に対する不安等が特に高いので、派出所、駐在所の勤務員は、それぞれの保護の必要性に応じて、日常のパトロールや巡回連絡時に立ち寄り、あるいは定期的に訪問し、犯罪や交通事故防止の指導、困りごと相談に応じているほか、関係行政機関や親せき、知人等への連絡等も行っている。
〔事例〕 牛込警察署富久派出所管内に居住するA老人(79)は、脳いっ血の後遺症によって手足が不自由であり、看病に当たっている妻も病弱で、身寄りもなかった。このことを知った勤務員は、警ら、巡回連絡等の諸活動を通じて立ち寄りを励行するなど励ましを続けていたが、老人の住宅は、戸締りが悪く泥棒に入られるおそれがあったので、ガードブレート、ドアチェーン等を自費で購入して取り付けたほか、区役所に対してケースワーカーの派遣を要請した。その後、A老人夫妻も明るさを取り戻し、近くの公園等で子供を相手に遊ぶことができるほどに回復した(警視庁)。
ウ 青少年の健全化を目指す活動
 派出所、駐在所の勤務員は、日常の警ら、巡回連絡等の諸活動を通じて、問題のある少年を補導したり、少年問題に関する相談や要望を受理して適切な処遇を行うなど、少年の健全育成のための諸活動を実施している。また、勤務員自身の柔、剣道等の特技を生かし、柔、剣道スポーツ少年団等の結成を促進している事例も多い。
〔事例〕 川内警察署中村駐在所のG巡査は、管内の小、中、高校生らを対 象に剣道スポーツ少年団を結成し、剣道を通じて青少年の健全育成に努めた。剣道を始めるようになった少年達は、礼儀正しく節度ある行動をとるようになり、村人や家族から喜ばれている(鹿児島)。
(3) 事件、事故と対決する外勤警察活動
 外勤警察官は、派出所、駐在所を主な活動拠点とし、パトロール等の街頭活動を通じて、犯罪の予防、交通事故の防止、非行少年の補導、危険箇所の発見措置等に努めているほか、犯人の逮捕や被害者の保護等、地域住民の日 常生活の安全と平穏を確保するため、昼夜の別なく事件、事故と対決する活動を展開している。
ア 初動活動のかなめ
 事件、事故の解決は、発生してから直ちに行われる初動活動の適否にかかっている。外勤警察官は、一たび事件や事故が発生した場合には、真っ先に現場へ駆け付け、犯人の逮捕をはじめ、捜査に必要な証拠の収集に当たり、常に初動活動の中心的役割を果たしている。
イ 犯罪の予防、検挙に有効な職務質問
 犯人は、自分の行った犯罪を隠そうとして必死になったり、警察官の姿を見ると本能的に警戒を強めるもので、このような犯人を発見し検挙することは容易ではないが、外勤警察官は、犯人にみられるわずかな不審点や矛盾点を職務質問によって解明し、犯人の検挙に努めている。
 特に、日常パトロール等の街頭活動を行っていることから、外勤警察官の職務質問による犯人の検挙比率は高く、昭和52年には、職務質問による総検挙件数約7万2,000件のうち約8割を検挙している。また、職務質問は、犯人の検挙に有効であるばかりでなく犯罪の未然防止や犯罪の被害者や家出人の発見、保護等の面にも大きな役割を果たしている。
〔事例〕 山口警察署のT巡査は、深夜のパトロール中、盗難手配に類似した普通乗用車を発見し、乗車していた男2人に対して職務質問を始めたところ、その男達は、「2人組の男に脅されてナンバーを取り替えさせられた。」等と答え、逃走する気配をみせたが、粘り強く質問を続け、携帯無線機で車体番号を照会したところ、数日前盗難に遭った自動車であることが判明し、更に追及したところ犯行を自供したのでその場で逮捕した。車のトランク内には、やり、わきざし等が隠されており、その後の取調べによると、犯人は、銀行を襲って大金を奪うため、まず銃砲店で武器を奪い、更に、逃走を容易にするため、派出所を襲撃して警察を混乱させるなどの綿密な計画を立てて、その実行過程にあったことが判明した(山口)。
ウ 輪禍から住民を守る交通の指導取締り
 外勤警察官は、交通事故等による住民の不安を取り除くため、日常の街頭活動を通じて、交通安全思想の普及と交通の指導取締りを行っている。
 交通の指導取締りは、交通事故防止の上で極めて重要であるが、外勤警察官は、管内における交通事故の多発地帯や、学童の通学路等交通の要点を最も良くは握していることから、これらの要点を中心に、子供や老人等を重点とした歩行者の指導と、交通事故に直結する無免許、酒酔い運転等の悪質違反の取締りを行っており、昭和52年においては、交通関係法令違反の約6割を外勤警察官が検挙している。
(4) 地域住民との対話
ア 住民の声を警察活動に
 各都道府県の警察本部や警察署では、地域住民に対して警察活動の状況を正確に伝えるとともに、警察に対する意見や要望を吸い上げ、これらを施策や活動に反映させるよう努力している。このため、警察では、広聴係等を設け窓口で住民の声を聴き、「住民の意見を聞く会」、「一日警察本部」等各種の広聴会を開催し、世論調査やモニター制度を活用するなど幅広い広聴活動を行っている。
 ちなみに、神奈川県警察が実施した世論調査の結果は次の事例のとおりである。
〔事例〕 神奈川県警察「警察に関する意向調査」(昭和52年7月)
 県下の新興開発地域5箇所において、満20歳以上の男女2,000人を対象として郵送法により実施した(回収数1,182人)。
 「交番や駐在所に勤務する警察官への要望」としては、「パトロールの強化」が過半数(54.1%)を占め、以下、「交番や駐在所にいつでも警察官がいること」16.7%、「青少年の不良化防止」13.7%、「交通の指導取締り」6.6%、「暴力団等の取締り」6.3%等が挙げられている。また、「今後の警察活動に対する要望」では、「パトロールを強化する」が41.6%で最も高く、次いで「防犯、交通問題について、住民ともっと 話合いの場をつくる」、「交番等を増やす」、「警察官の増員」等の順となっている。
イ 地域性に富んだミニ広報紙
 全国の派出所、駐在所においては、約9,000紙のミニ広報紙を発行し、地域の身近な情報の提供に努めている。その内容は、受持区域内で発生した犯罪や事故の状況及びその具体的防止策、子供の善行、住民の意見や要望等地域性のある素材が中心となっている。
 地域住民は、「もっと発行回数を増してホしい。」、「回覧ではなく各戸に配布してほしい。」という声にみられるようにミニ広報紙に強い関心を示しているので、警察庁では、毎年1回ミニ広報紙の全国コンクールを実施するなどその普及に努め要望にこたえることとしている。

ウ 警察音楽隊の活躍
 警察音楽隊は、昭和52年末現在、皇宮警察と都道府県警察を合わせて45隊を数え、隊員数は約1,400人に上っている。大部分の隊員は、多忙な勤務の合間をぬって技術の向上に努めており、地域住民と警察とを結ぶ「かけ橋」となって演奏活動を行っている。
 警察音楽隊は、防犯運動、交通安全運動等の行事のほか、県や市町村が主 催する公共的行事、小、中学校での音楽鑑賞会や音楽教室、福祉施設や島部、へき地での慰問演奏会等で活躍しているが、警視庁の「水曜コンサート」等定期演奏会を開催しているところも多く、演奏活動を通じて警察に対する地域住民の理解と協力を深めるのに大きく貢献している。
 警察庁では、毎年1回、全国の主要都市で全国警察音楽隊演奏会を開催している。52年10月には、第22回大会が広島市で行われ、参加した20隊、約800人のすばらしい演奏が地元市民の間で大きな反響を呼んだ。

2 110番の利用とパトカーの活動

(1) 年々増える110番の利用
ア 12秒に1回、45人に1人が利用
 昭和52年に全国の警察で受理した110番通報は、図3-3のとおり251万9,161件で、前年より11万2,080件(4.7%)多く、43年に比べ約1.7倍となっている。これは、12.5秒に1回、国民45人に1人の割合で利用されたことになる。

図3-3 110番通報の推移(昭和43~52年)

イ ピークは夜間
 110番通報の時間帯別受理状況は、図3-4のとおり夜間が多い。特に、東京、大阪等の大規模都府県は、午後10時から午前0時までの時間帯が最も多いのに対し、小規模県では、午後8時から午後10時までの時間帯が最も多く、それぞれの生活サイクルの違いが110番通報に反映していることがうかがえる。

図3-4 時間帯別110番受理件数(昭和52年)

ウ 交通事故、盗犯関係の通報が多い
 110番通報の受理状況を内容別にみると図3-5のとおり交通事故、交通違反等の通報が最も多く、また、盗犯被害の届出等刑法犯関係の通報も多い。

図3-5 内容別110番受理件数(昭和52年)

エ 検挙につながる早い通報
 事件が発生した場合に、素早い110番通報があると、犯人を現場近くで捕そくできるため、事案の早期解決を図る上で効果的である。
 110番集中地域(注1)における110番通報によってパトカーが出動した場合のリスポンス・タイム(注2)と刑法犯の検挙状況との関係をみると、表3-2のとおりで、3分未満に現場到着した場合には、約3割を検挙している。

表3-2 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙(昭和52年)

(2) パトカーの活動
ア 凶悪犯人検挙の40%はパトカー勤務員
 パトカーは、事件や事故が発生した場合には、無線機を活用し、機動力を駆使していち早く現場に急行し、犯人の検挙、事故の処理に大きく貢献している。
 昭和52年の外勤警察官による刑法犯検挙人員は、約20万2,000人であるが、このうちパトカー勤務員による検挙人員は約4万5,000人に上っており、特に、殺人、強盗、放火等の凶悪犯人の検挙は、その40%を超えている。
イ 団地で活躍する動く交番
 パトカー勤務員は、派出所、駐在所の勤務員と同じように急病人、酔っ払い、迷い子の保護、困りごと相談の受理、地理案内等幅広い活動をしており、このためパトカーは「動く交番」とも呼ばれている。
 特に、郊外の団地においては、移動交番車やパトカーは単にパトロールをするだけではなく、団地内にパトカーを停車させて団地住民から警察に対する意見や要望を聴くとともに、犯罪や事故防止の連絡、困りごと相談の受理等住民との対話を積極的に進めている。

3 身近な犯罪とその予防

(1) 多角的防犯対策の推進
 昭和52年の窃盗犯認知件数は、前年に比べ2.3%増加して、107万3,393件となり、刑法犯の認知件数が4年連続して増加する大きな要因となった。
 なかでも、買物、通勤等の日常生活における自転車利用の普及を反映して、自転車盗の増加は著しく、52年は前年に比べて17.0%増の23万5,498件に達した。
 また、侵入盗も依然として多発しており、52年は、全窃盗犯の29.7%を占める31万9,049件の発生をみた。
 このような国民の日常生活に対する侵害に対処して、平穏な国民生活を確保するために、警察では盗犯防止重点地区対策等の諸施策を強力に展開しているが、犯罪の予防は、独り警察だけでなく、国民全体に課せられた課題であり、安全で住みよい社会を作るためには、関係機関、団体の取組体制と民間の自主防犯組織がそれぞれ確立されることが必要である。
 特に、最近においては、都市化に伴う地域的連帯感の希薄化が進み、地域 コミュニティそのものが崩壊しつつあるところから、民間における自主防犯組織の確立は、緊急な課題となっている。現在、民間における自主防犯組織は、地域防犯団体、職域防犯団体及び警備業の3本の柱を軸として、その組織化が進められているが、職域防犯団体の結成状況は依然として低調であり、国民の防犯意識自体も、必ずしも十分ではないのが現状である。したがって、これらの組織の整備と活動の充実、強化を図ることを通じて、国民の一人一人が防犯問題に関心を持ち、それを個人の生活の一部に組み入れて実践することが必要である。
 また、防犯対策を効果的に進めるためには、関係機関との協力や、関係業界等への働き掛けを通じて、建物の防犯設備や都市計画の面についても検討、改善を加え、犯罪を犯しにくい生活環境の形成に努める必要がある。
 警察では、これらの諸対策が相互に有機的な連携を保ちつつ、一つの国民運動として発展、定着することを目的として、52年に、初めて全国いっせいの防犯運動を実施し、総合的な犯罪防止活動の第一歩を踏み出したが、今後ともこれらの活動を、更に充実、強化することとしている。
(2) 侵入盗の実態
 犯罪の予防というとき、国民がまず頭に思い浮かべるのは「空き巣ねらい」や「忍込み」等の侵入盗であろう。侵入盗の発生状況は、過去10年間おおむね横ばいの状態を続けながらも、毎年30万件以上発生し、絶えず市民生活を脅かし続けている。
ア 「空き巣ねらい」がトップ
 昭和52年に警察が認知した侵入盗の手口別構成比は図3-6のとおりで、家人等が不在の時をねらって行われる「空き巣ねらい」が最も多く、全体の

図3-6 侵入盗の手口別構成比(昭和52年)

図3-7 「空き巣ねらい」の侵入口別構成比(昭和52年)

図3-8 「空き巣ねらい」の侵入手段別構成比(昭和52年)

約半数を占めている。
 また、侵入盗による被害額は、年々増加しており、52年は、約265億円、1件当たり約8万円と、5年前の48年に比べて1.4倍となっている。
イ 依然として多いカギの掛け忘れ
 「空き巣ねらい」の侵入口別構成比は、図3-7のとおりで、表出入口から侵入するものが圧倒的に多い。
 同じく、侵入手段についてみると、図3-8のとおり施錠忘れ箇所からの侵入が最も多く全体の約3分の1を占め、これに開け放し、施錠設備なしを加えると、全体の約半数に達しており、2軒に1軒は、何の障害もなく、やすやすと侵入されたことになる。なお、侵入手段別の発生件数を5年前の昭

表3-3 「空き巣ねらい」の侵入手段別発生状況(昭和48、52年)

和48年と比較すると表3-3のとおりで、施錠設備なしが大幅に減少している一方、施錠忘れ箇所からの侵入は増加しており、カギそのものは普及したものの相変わらず使用されていないことを示している。また、錠破り等の破壊的侵入手段が減少しているなかで、ガラス破りが増加しているのが注目され、今後、建物の構造上の問題も含めて検討される必要がある。
 次に、「空き巣ねらい」の発生時間帯別構成をみると、図3-9のとおり14~16時の時間帯が最も多く、家庭の主婦が買物等に出かける時間帯がねらわれていることを示している。

図3-9 「空き巣ねらい」の発生時間帯別構成比(昭和52年)

 以上のような実態に基づき警察では「丈夫なカギを忘れず掛ける」ことを家庭の防犯対策の第一歩として呼び掛けている。
(3) 侵入盗の防止活動
 侵入盗は、窃盗犯の中でも職業的常習犯人によるものが多く、また、屋内へ侵入するということから国民に大きな不安を与え、日常生活の平穏を脅かしている上、強盗、殺人等の凶悪犯に移行する危険性をもはらんでいる。
 警察では、侵入盗の予防を重点的な課題として取り上げ、発生実態に対応した重点パトロールや各家庭に対する防犯診断等を積極的に行うとともに、家庭の主婦を対象とした戸締り教室、防犯座談会、防犯器具展示会の開催等幅広い広報活動の推進に努めている。
ア 盗犯防止重点地区対策
 昭和52年は、侵入盗の防止活動をより効果的に進めるため、従来も行われてきた諸施策に加えて、対象地域を特定して、集中的かつ継続的な盗犯防止活動を展開し、これによって全国の侵入盗犯の多発している地域を一つ一つ解消していく作戦を開始した。
 警察庁では、52年4月、各都道府県別に、侵入盗の発生率が特に高い地域について、「盗犯防止重点地区」を設定し、警察活動を集中的に展開するほか、民間防犯団体、関係機関及び地区住民の参加による防犯広報を通じて防犯意識の高揚と生活環境の改善を図るなど総合的な防犯対策を推進することとした。
 この計画は、おおむね1年を目途として、当該多発地区の解消に努めるとともに、その活動の成果を隣接する他地区にも発展普及させることをねらいとしており、52年はその初年度として、全国で594地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定509地区)が指定された。その結果、多くの地区で侵入盗の発生件数が大幅に減少したほか、住民参加による活動を通じて、地域の連帯意識が強化されるなどの成果も現れている。
〔事例〕 広島県では、4月、広島駅前繁華街、福山駅前盛り場等県内6箇所の地域を重点地区に指定して、「盗防推進LIT作戦」を行った。これは、手紙(Letter)、広報紙等の情報(Information)及び電話(Telephone)を利用して地域住民の一人一人に働き掛け、その参加と防犯意識の高揚を促進しようとするものである。また、駅前地区における自転車盗を防止するため、施設管理者である国鉄、道路管理者である県、市等に対して、自転車置場の設置を働き掛け、放置自転車の撤去活動を強力に推進した。その結果、表3-4のとおり指定地区における窃盗犯の発生件数は、侵入盗、非侵入盗とも大幅に減少した。

表3-4 盗犯防止重点地区における窃盗犯発生状況(広島県)(昭和51、52年)

 イ 全国防犯運動
 各都道府県警察では、従来から、春季及び秋季の一定期間を定めて、それ ぞれ独自に防犯運動を実施して、地域住民の防犯意識の向上に努めてきたが、52年には更に一歩を進めて、全国いっせいに、同一の目標に向かってこの課題に取り組むこととした。52年の第1回全国防犯運動においては、「侵入盗及び自転車盗の防止」を統一テーマに取り上げ、10月27日から11月2日までの7日間にわたり、全国各地で、約104万人の参加を得て県民大会、パレード、防犯研修会、防犯訓練等多彩な行事を行い、国民の防犯意識の高揚と地域、職域の自主防犯活動の促進を図った。
〔事例1〕 東京では、11月1日、明治神宮記念館において、東京都防犯協会連合会の主催により、常陸宮、同妃殿下をはじめとして、都知事等来賓多数の出席を得て「防犯思想高揚都民大会」が開催された。この式典には、都内の防犯協会員2,000人が参加し、防犯に功労のあった方々が表彰された。
〔事例2〕 大阪では、10月28日を府下いっせいの「防犯訓練の日」と定め、住宅街、金融機関等それぞれの場所において模擬犯人を使った110番訓練、防犯ベル訓練等を行った。
(4) 地域社会における自主防犯活動
ア 防犯協会の活動
 地域の自主防犯活動の中心的な組織として、全国各地の警察署単位に、約1,200の地区防犯協会があり、犯罪のない明るい社会を作るため、警察の指導や助言を得ながら幅広い活動を行っている。主な活動としては、毎月「防犯の日」を定め、住民に対し戸締りの励行を呼び掛けたり、防犯パンフレットの配布、防犯施設の整備、優良防犯器具のあっせん、青少年に有害な環境の浄化活動を行うなど地域に密着した奉仕活動を行っている。
 また、昭和52年には、第1回全国防犯運動の主催団体としてその推進役を勤め、防犯運動を国民運動として定着させるために、活発な活動を行った。
 防犯協会の第一線である防犯連絡所は、全国で約65万箇所、53世帯に1箇所の割合で設置されている。これらの防犯連絡所は、防犯協会が作成した各種防犯資料の配布、防犯座談会の開催等地域コミュニティの活動の中心とな っているほか、地域住民の警察に対する要望の伝達等、地域と警察のパイプ役としての機能も果たしている。
イ 職域防犯団体の結成
 最近のような複雑、高度化した社会においては、地域的な自主防犯活動のみでは必ずしも十分ではない。特に、地域のコミュニティ活動になじみにくい企業集団や、金融機関、ホテル等犯罪の対象となりやすい業種の企業については、職域単位の自主防犯組織を編成することが効果的である。そして、地域における防犯体制と職域における防犯体制が確立されて、相互に有機的な連携を保つことが必要であり、警察では、このような業種の団体に働き掛け、職域防犯団体の結成を積極的に推進している。
 現在、各都道府県では、多くの業種に職域防犯団体が結成され、それぞれ活発な活動を行っているが、これらの組織の都道府県レベル及び全国レベルでの、組織の整備、充実を図ることが今後の重要な課題となっている。なお、昭和52年末の職域防犯団体の結成状況は、表3-5のとおりである。

表3-5 職域防犯団体の結成状況(昭和52年)

〔事例〕 岐阜市北部地区のアパート経営者、管理者は、犯罪の対象としてねらわれやすいアパートの防犯対策を推進するため、11月、「岐阜北部アパート等防犯連絡協議会」を結成し、居住者に対する防犯思想の普及徹底、防犯資料等の作成配布や、防犯対策の調査研究等の事業を実施して、居住者と一体となった自主防犯活動を推進している(岐阜)。
ウ 増加を続ける警備業
 最近5年間の警備業者及び警備員の数は、表3-6のとおりで、昭和52年末では48年末に比べて業者数、警備員数とも約1.7倍となっている。
 このことは、警備業が、防犯、防災面で果たしている役割が次第に認めら

表3-6 警備業者と警備員数の推移(昭和48~52年)

れ、社会生活のなかに定着してきていることを示している。
 また、警備業務は、その性質上、違法行為を目撃する機会が多いことから警察への通報等の協力も多く、その状況は表3-7のとおり年々増加しており、民間防犯団体の一つの柱として期待されている。
 なお、警備業法違反、職業安定法違反等により、警備業法に基づく行政処分を受けた警備業者は、52年には25社であった。警察としては、このような事犯を防止し、警備業務の適正な実施を図るため、警備業者に対する指導に努めている。

表3-7 警備員の犯人検挙等協力状況(昭和48~52年)

4 保護活動

(1) 家出人発見活動
ア 増加傾向の家出人
 家出人は、心理的にも不安定な状態にあり、犯罪の被害者となったり、転落するケースも多く、残された家族ら周囲の人に与える波紋は量り知れないものがある。
 警察に捜索願が出された家出人の数は、表3-8のとおり昭和50年から増勢に転じ、52年には、前年に比べて1,336人(1.4%)増加し、9万5,457人となった。また、家出人の男女別をみると、毎年女性の占める割合が高い。

表3-8 家出人捜索願状況(昭和48~52年)

(ア) 14~17歳の年齢層に多い
 家出人を年齢別にみると、表3-9のとおり未成年者の比率が高く、また、警視庁に捜索願の出された家出少年の年齢についてみると、表3-10のとおり14~17歳の少年が全体の約3分の2を占めており、この年代の家出が多いことが分かる。

表3-9 捜索願のあった家出人の年齢別家出人率(昭和52年)

表3-10 捜索願のあった家出少年の年齢別状況(警視庁)(昭和52年)

(イ) 多い主婦の家出
 家出人を職業別にみると、表3-11のとおり主婦が1万2,158人(18.1%)と目立っており、次いで一般サラリーマン、工員の順となっている。
 なお、前年に比べ、主婦が24.0%増加し、風俗営業関係の経営者が13.6%減少した。

表3-11 捜索願のあった家出人の職業別状況(昭和52年)

(ウ) 家出原因は「恋愛、結婚問題」が多い
 捜索願が出された家出人の原因、動機についてみると、図3-10のとおり「恋愛、結婚問題」や「家庭不和」によるものが圧倒的に多い。「恋愛、結婚問題」についてみると、女性が70.4%と圧倒的に多く、また、年齢層別では、家出した10代の女性の4人に1人、20代の女性の3人に1人が、この原因で家出している。次に「家庭不和」についてみると、「夫婦間の不和」が

図3-10 家出の原因、動機(昭和52年)

最も多く、家出した主婦の2人に1人がこの原因で家出している。なお、老齢化するにつれて、「精神障害」等の疾病関係による家出が増加している。
イ 家出人の発見状況
 最近5年間に発見された家出人の数は、表3-12のとおり昭和49年まではやや減少の傾向にあったが、50年から増加に転じ、52年には10万1,179人となり、最近5年間で最高となった。また、52年に捜索願を受理した家出人の

表3-12 家出人発見の推移(昭和48~52年)

表3-13 家出人の発見までの期間(昭和52年)

うち52年末までに発見された者は、7万5,541人で79.1%に上っている。
 発見された家出人の発見までの期間をみると、表3-13のとおり1週間以内に発見された家出人が全体の61.1%と最も多く、時間の経過とともに、その発見数は減少している。
 発見された家出人について、 発見の方法をみると、図3-11のとおり警察活動により発見された家出人は、全体の51.7%で、その内訳では職務質問が21.6%で最も多くなっている。

図3-11 家出人の発見方法(昭和52年)

 なお、これらの発見された家出人の発見時の状態についてみると、ほとんどの者は無事に発見されているが、反面、罪を犯した者が2,638人(2.6%)、自殺した者が1,714人(1.7%)、犯罪の被害者となった者が887人(0.9%)いることが注目される。
(2) 酔っ払いの保護
 でい酔あるいはめいてい状態で、自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼすおそれがあったり、粗野又は乱暴な言動で公衆に迷惑をかけるなどの理由で保護された者は、表3-14のとおり昭和48年以降ほぼ横ばいの状態である。

表3-14 酔っ払いの保護人数の推移(昭和48~52年)

 これらの酔っ払いのうち、アルコール中毒やその疑いのある者として「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」第7条により保健所長に通報し、必要な治療を要請した者は、表3-15のとおりである。

表3-15 保健所長に通報した酔っ払い数の推移(昭和48~52年)

(3) 迷い子、急病人等の保護
 昭和52年に酔っ払い以外で警察が保護した者は、表3-16のとおり16万1,558人で年々増加している。保護原因別にみると、迷い子が過半数を占め、

表3-16 保護原因別保護数の推移(昭和48~52年)

次いで、精神錯乱、病気の順となっている。
(4) 困りごと相談受理体制の強化
 現在のように社会構造の複雑化に加え住民の連帯意識が希薄になっている社会では、住民の悩みや困りごとも複雑多岐にわたっており、相談相手もなく、警察だけを頼りにして、相談に訪れる人が少なくない。警察に持ち込まれる相談ごとの中で、困りごと相談として処理されたものは、表3-17のとおりで、昭和52年には17万3,115件を数え、年々増加している。
 52年に警察に困りごと相談に来た人の男女別をみると、男性9万8,932人(57.2%)、女性7万4,183人(42.8%)となっている。また、年齢層別にみると、図3-12のとおり30歳代が最も多く、次いで40歳代となっており、職

表3-17 困りごと相談受理件数の推移(昭和48~52年)

業別にみると、図3-13のとおりサラリーマンが最も多く、次いで自営業者、主婦の順となっている。

図3-12 相談者の年齢(昭和52年)

図3-13 相談者の職業(昭和52年)

 これら困りごと相談の内容についてみると、表3-18のとおり「身上問題」が多く、次いで「金銭貸借問題」、「土地家屋問題」の順となっている。また、前年に比べ「金銭貸借問題」が19.7%、「その他の契約取引問題」が8.3%とそれぞれ増加しており、経済不況下の社会の一端がのぞかれる。
 警察では、これらの困りごと相談について、警察活動の範囲内で解決できるものについては、積極的に解決に当たる一方、当事者の話合い等により解決できるものについては、指導、助言を行い、他の行政機関にゆだねるべき

表3-18 困りごと相談の内容(昭和52年)

ものについては、その窓口の紹介や引継ぎを行うなど解決に向けての努力をしている。
 52年の困りごと相談の処理状況についてみると、図3-14のとおり解決方法等の助言が57.1%と最も多く、次いで解決(32.5%)となっている。

図3-14 困りごと相談の処理結果(昭和52年)

〔事例〕 「母親が危篤となったので、大阪でコック見習中に所在不明となっている息子に是非会わせたい。」との家族からの相談を受理したA警察署では、調理士協会の労働保険に加入していたことを元の勤め先から聞き込み、その保険証番号から東京都内に就職していることを突き止め解決に導いた(青森)。
 現在、警察では、国民の身近な相談機関としての困りごと相談の役割がますます大きくなっていることから、専任の困りごと相談員を新たに配置し又は増強するなど受理体制の強化を図っている。

5 水上警察の活動

(1) 水上警察の活動状況
 我が国は、周囲が海に囲まれた島国で、しかも大小河川、湖沼が数多く存在し、これら海や河川等は漁業や交通の場として国民生活に深いつながりを持っている。このような背景の下で、水上における警察事象も多く、警察はこれに対処するために全国に水上警察署9署、臨港警察署2署及び水上警察官派出所39箇所を設置するとともに、船舶189隻を主要な港湾、離島、河川、湖沼等に配置し、各種刑法犯、密出入国事犯、密漁等の検挙、取締りや水難救助活動等を行っている。

表3-19 犯罪検挙、保護等の水上警察活動状況(昭和48~52年)

 最近5年間の犯罪検挙、保護等の水上警察活動状況は、表3-19のとおりである。
〔事例〕 6月、上県郡上県町(対馬)沿岸で漁労中の漁民から「3トンぐらいの不審な漁船がいる。」との通報があった。警察は、警備艇「はるかぜ」に警察官3人を乗船させ、対馬沿岸を捜索したところ、船名、登録番号等の表示のない漁船を発見した。直ちに停船を命じたところ逃走したので、約2時間にわたって追跡して停船させ、調査した結果、韓国からの密航者67人が乗船しており、全員を出入国管理令違反で検挙した(長崎)。
(2) 新海洋時代と水上警察
ア 新海洋時代の幕明け
 昭和52年は新海洋時代の幕明けの年であった。まず、1月にカナダ、ノルウェーが200海里専管水域を宣言し、また、EC9箇国が200海里共同漁業

専管水域を設定したのに始まり、3月1日にはアメリカ、ソ連が200海里漁業専管水域を宣言するに及んだ。我が国においても、このような世界の動きに応じて、5月2日第80回通常国会で「領海法」及び「漁業水域に関する暫定措置法」が成立し、7月1日から施行された。
 これによって我が国は、領海を3海里から12海里に拡大し、更に、漁業水域を200海里に設定するなど、新しい海洋秩序の時代へ突入した。
イ 今後の水上警察の在り方
 最近、世界の多くの国々が、領海の拡大、漁業水域の設定を行うなど国際社会の新しい海洋秩序への急速な動きがみられる。このような新海洋秩序に基づく諸外国の漁業水域の設定によって、我が国の遠洋漁業が沖合漁業や沿岸漁業に転換することとなり、沿岸、沖合漁業が過密化し、密漁等の漁業法違反や養殖魚介類の窃盗事犯等の増加が予想される。
 一方、河川、湖沼、沿岸海域におけるレジャー活動が盛んになってきており、これら水上関係情勢の変化に対応するため、水上警察業務の効率的な運営や、水上警察体制の強化について検討を加えているところである。


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