第6章 交通安全と警察活動

1 交通事故死者数1万人を割るまでの道程

 昭和51年の交通事故死者数は、ついに1万人を割って9,734人となった。これは、自動車保有台数が現在の約13分の1であった33年以来、実に18年ぶりのことである。しかも、交通事故死者数が過去最高であった45年の1万6,765人の60%を割り、ピーク時の半減達成も目前にある。
 しかし、翻って考えてみるならば、表6-1のとおり交通事故によって、21年以降、現在の高松市の人口を上回る約31万人という多数の人々が死亡し、しかも、現在でも依然として年間1万人近い人々が死亡し、約60万人の人々が負傷している。これによる個人的、社会的損失は計り知れないものがあり、交通安全の問題は、依然として大きな社会問題となっている。
 交通事故死者数が1万人を割ったのを機会に、交通安全の問題を中心に、21年以降今日までの交通問題の所在、関係者の取組と対策の展開を振り返ってみることとする。
(1) 昭和20年代の交通情勢と対策
ア 終戦直後の混乱と異常に高い事故率
 昭和21年の我が国の自動車保有台数は、約16万7,000台で、現在の約185分の1である。その後、終戦直後の混乱期を経て、徐々に増加し、25年には、2.3倍の約38万8,000台となった。
 自動車台数がこのように少なかったにもかかわらず、交通事故死者数は、20年代前半既に毎年4,000人前後に上っている。当時の交通事故の特徴は、全交通事故の中で占める死亡事故の比率が極めて高いことであり、例えば21年は、交通事故3件のうち1件が死亡事故であった。この比率は年々低下したが、25年においてもなお8.3件に1件の割合で死亡事故が発生している。

表6-1 交通事故、自動車台数の推移(昭和21~51年)

51年が約51件に1件の割合であることと比較すると、その異常な高さが目を引く。これは終戦直後の混乱期でもあり、歩車道の分離が十分でなかったことなどにより、道路交通も秩序立ったものではなく、何よりも自動車の数が少なかったことから、国民が自動車に慣れず、交通安全意識も低かったことなどによるものと思われる。
 こうした道路交通の混乱に対処し、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることを目的として、昭和22年11月に道路交通取締法が制定され、道路交通の基本的なルールが定められた。
 同法は、35年に道路交通法に替わるまで、年々変化する交通情勢に対処して、10数回改正されている。このうち、24年の改正は、従来、歩行者は車馬とともに左側通行であったものを右側通行に改めたものであり、同年11月から、「人は右、車は左」の対面交通が実施された。
 また、交通事故防止には、交通安全意識の高揚を図ることの必要性が痛感され、23年12月、全国交通安全週間が警察の主催で初めて設けられ、24年からは、交通安全協会が各地に設立された。
イ 経済復興に伴う自動車台数の増加
 昭和20年代も後半に入ると、経済復興が軌道に乗り始め、それに伴い、自動車台数も増加し始めた。27、28年の自動車の対前年増加率は、それぞれ42.2%、43.4%と、戦後の最高を記録し、28年には、ついに100万台を超えた。
 一方、この間の交通事故防止対策としては、交通違反取締りは強化されたが、交通規制、安全施設の整備等は、まだこうした自動車台数の増加に対処し得るものではなかった。
 ちなみに、東京における信号機の整備状況は、戦災前370基であったものが、30年になってようやく359基に達するという遅々たるものであった。
 このような事情を反映して、27年まで毎年約4,000人前後とほぼ一定していた交通事故死者数も、28年に5,544人、翌29年に6,374人と増加傾向に転じた。
(2) 昭和30年代前半の交通情勢と対策
ア 「戦後」離れと自動車台数の激増
 昭和30年代に入ると、「もはや戦後ではない。」(31年度経済白書)といわれたように、経済規模は戦前のレベルに達し、経済は高度成長の時代に向かっていく。これに伴い、活発化した経済活動を人や物の輸送の面で支える自動車も増加していく。28年に100万台を突破した自動車台数は、4年後の32年には早くも200万台を突破し、35年には一気に345万台に達した。
 また、運転免許保有者数も著しく増加し、27年に125万人であったものが、32年には500万人を超え、35年には1,072万人に達した。この間、30年前後からいわゆる「神風タクシー」に対する批判が高まったことから、31年8月、旅客自動車には第二種免許を必要とすることとし、また、大型免許の制度を設けるなど免許行政の適正化に努めた。
イ 交通事故死者数1万人突破
 このような交通情勢の急変に伴い、交通事故死者数も急激に増加し、昭和34年には、対前年比22.2%増の1万79人と初めて1万人を突破し、翌35年にも同じく19.6%増の1万2,055人という多数に達し、未曾有の増加ぶりを示した。また、負傷者数の増加ぶりにも著しいものがあった。
 交通事故による犠牲者の著しい増加は、極めて大きな社会的関心を巻き起こし、この頃から「交通戦争」といわれるように交通問題が大きくクローズアップされてきた。このような情勢にかんがみ、警察庁は32年に安全施設に関する我が国最初の整備計画である信号機の整備に関する五箇年計画を樹立し、毎年200基ずつ整備することとした。
(3) 昭和30年代後半の交通情勢と対策
ア モータリゼーションの本格化
 昭和30年代も後半に入ると、毎年100万台前後の自動車が増え続け、国民の生活の中に急速に普及し始め、我が国も本格的なモータリゼーション時代を迎えることとなった。
 一方、道路の整備状況は、こうした急激な自動車交通の伸展に対応するこ とができず、その結果、大都市は交通渋滞が慢性化、広域化するようになってきた。
 この間、38年7月に名神高速道路が部分供用され、我が国も高速道路時代に入った。
イ 交通事故防止対策の推進
(ア) 道路交通法の制定
 道路交通取締法は、制定以来既に10数年を経ていた。その間の道路交通の伸展、変ぼうは著しいものがあり、しかも、交通情勢は一層複雑化、困難化することが予測される状況にあった。同法は、こうした交通情勢の激変に対応しきれず、規定の不備等も指摘されるようになった。そこで同法の全面改正が企てられ、昭和35年6月、道路交通法と名称も改められて、道路交通の基本法が制定された。
 道路交通法は、悪化しつつある交通渋滞に対処するため、従来からの「交通の安全」のほかに「交通の円滑」を図ることをも目的に加えた。
 昭和30年代前半に急増した交通事故死者数は、交通戦争への社会的関心の高まり、交通事故防止対策の推進等により、36年には1万1,445人と、24年以来13年ぶりに前年に比べ減少した。
(イ) 渋滞緩和のための交通規制の強化と安全施設の増加
 道路交通法の制定と前後して、警視庁、大阪府警察が、交通渋滞緩和のため、昼間の大型車通行制限を含む交通規制を拡大強化したのを初めとして、他の道府県警察でも、逐次、交通の円滑化のための交通規制を実施していった。
 また、自動車台数の激増と路上駐車の著しい増加が目立ち、これらが大都市の交通渋滞等に拍車をかけているという世論が高まり、昭和37年6月に「自動車の保管場所の確保等に関する法律」が制定され、いわゆる青空駐車が禁止された。
 一方、信号機の整備は、36年までの毎年200基から37年度260基、38年度以降520基と急増した。
(ウ) 交通警察体制の強化
 交通情勢の悪化に伴い、交通警察の組織体制を充実強化する必要性が増大し、昭和37年4月に、警察庁に交通局が設置されたのを初め、各都道府県警察にも順次交通部が設置されていった。
 一方、34年度以降3箇年計画で大都市を中心として交通警察官4,000人が、また、大都市及び主要道絡の取締り要員として、38、39年の2箇年計画で1万500人が増員された。
 こうした交通警察体制の充実強化により、34年に約210万件であった交通違反の取締り件数は、39年には約465万件に達した。
(4) 昭和40年代前半の交通情勢と対策
ア 激増を続ける交通事故死者数
 交通事故死者数は、昭和35年以降、1万2,500人前後にとどまり、小康状態にあったかにみえたが、41年に入ると再び増勢に転じ、44年には1万6,257人と一気に1万5,000人の大台を超えた。
 このように交通事故が再び激増してきた背景には、モータリゼーションの波が大府県から地方に及び、地方での交通事情が悪化したことが挙げられる。
イ 交通事故防止対策の新たな展開
(ア) 交通事故分析手法の確立
 効果的な交通事故防止対策の樹立には、実際に発生した交通事故の徹底した分析が不可欠である。既に昭和38年9月に各都道府県警察に事故分析官が置かれていたが、40年前後には、交通事故分析手法の基礎が確立し、車と人、車と車の交通の空間的、時間的分離方策を軸とした交通事故防止対策に必要な資料を提供することが可能になった。また、41年1月に交通事故統計業務にコンピューターが導入され、その後の交通事故分析に大きく貢献した。
(イ) 「交通安全事業法」の制定と交通安全施設の飛躍的な整備
 昭和41年4月には、「交通安全事業法」(交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法)が制定された。同法は、交通事故が多発している道路等につい て、国が地方公共団体に助成して、総合的な計画の下に交通安全施設等の整備事業を実施しようとするものであり、同法に基づき、41年度以降二次にわたって交通安全施設等整備事業三箇年計画が実施され、総額約350億円を投じて信号機、道路標識等の安全施設が整備された。
(ウ) 運転者管理センターと点数制度の発足
 昭和44年10月には、運転者管理センターが発足し、全運転免許保有者の免許関係資料がコンピューターに登録され、同時に発足した点数制度とともに危険運転者の排除等が図られることとなった。
(エ) 交通反則通告制度の実施
 一方、昭和30年代の後半から、交通違反の検挙件数は、毎年400万件から500万件に上った。このような膨大な数の事件を簡易、迅速に処理するために、38年1月、即日処理方式の交通切符制度が導入された。
 しかし、依然として交通違反の処理には、相当の時間と労力とが必要であり、また、違反者の大部分が罰金刑に処せられたことから、「一億総前科時代」を招きかねないという議論も出た。
 こうした事態に対処するため、43年7月に、交通違反のうち一定の軽微な違反行為については、これを「反則行為」として「反則者」に対して一定額の「反則金」の納付を通告し、納付しなかったときにのみ刑事手続に移行するという「交通反則通告制度」が実施に移された。
 現在では、すべての交通違反のうち約80%がこの制度で処理されている。
(5) 昭和45年以降の交通情勢と対策
ア 昭和45年をピークに減少し始めた交通事故死者数
 昭和40年代に入って増勢を続けていた交通事故死者数は、45年には1万6,765人と史上最高を記録した。また、45年の交通事故による負傷者数は98万1,000人に上り、1年間のうちに、国民約100人に1人が交通事故の犠牲者になるという異常な事態となった。
 このようなことから、それまでに講じられた種々の施策に加えて、新しい交通事故防止対策が次々に実施され、その結果交通事故死者数は、45年をピ ークに減少し始めた。殊に、49年は前年秋以来のいわゆる石油ショックの影響もあり、前年に比べ21.6%減の1万1,432人と史上最高の減少率を示した。この減少傾向はその後も続き、50年には1万792人、そして51年にはついに9,734人と1万人を割ったのである。
イ 交通事故防止対策の定着化
 交通事故死者数がピークであった昭和45年以降現在に至るまで、新たに実施に移された交通事故防止対策の主要なものは次のとおりである。
(ア) 交通安全対策基本法の制定
 道路その他の交通の安全を図るため、国、地方公共団体及び車両等の使用者、運転者等の果たすべき責務を明らかにし、国及び地方公共団体が、交通安全対策の総合的かつ計画的な推進を図ることを目的として、昭和45年6月に「交通安全対策基本法」が制定された、
(イ) 交通安全施設整備五箇年計画の発足
 交通安全対策基本法の制定に伴い、新たに昭和46年度を初年度とする第一次交通安全施設等整備事業五箇年計画が発足した。
 この計画に基づき、第一次、第二次三箇年計画の4.9倍に当たる約1,721億円を投じて、信号機、道路標識等の安全施設を整備した。この結果、第一次三箇年計画の始まった40年には全国で1万基に満たなかった信号機は、第一次五箇年計画終了時の50年度末には6万3,000基を超えるなど交通安全施設の整備は一段と強化された。
(ウ) 交通弱者のための対策
 昭和45年頃から、遊び場の不足している都市部において、子供の安全な遊び場を確保するための遊戯道路、あるいは安心して買物をするための買物道路等が設けられ始めた。
 これは、従来の、道路上は自動車の交通を自由に認めるべきであるという考え方から、歩行者、自転車利用者等の安全確保のために自動車の交通を制限することもやむを得ないとする考え方に移行したものであり、画期的なものであった。
 これらの施策の典型的事例として、45年8月から始められた、銀座、新宿等の繁華街における歩行者天国が挙げられる。
 その後、47年のスクールゾーン、歓楽街の交通規制、48年の自転車安全利用のための交通規制等学童、歩行者、自転車利用者等の安全を図るための施策が次々と実施に移された。
(エ) 都市総合交通規制の推進
 昭和40年代の後半に入ると、交通事故死者数は減少し始めたが、それと同時に交通事故や交通公害が大都市から地方都市に広がる傾向がみられるようになった。これらは、全体的に都市の構造、交通の流れのひずみを反映しており、都市の自動車交通総量がある限界を超えると急激に増加する傾向がみられた。
 このような交通の実態にかんがみ、45年12月に道路交通法の一部改正がなされ、同法の目的に、従来からの「交通の安全と円滑」に、「道路の交通に起因する障害の防止」が加えられ、自動車交通による大気の汚染、騒音、振動等の交通公害の防止のための交通規制が行えるようになった。
 こうした背景の下に、交通総量を削減し、都市内道路交通における安全、円滑、公害等の問題を一体的に解決するために、都市総合交通規制計画が実施に移された。
 これは、都市部において、各種交通規制を総合的に関連実施することにより、道路の機能別に応じた交通流の管理を行い、交通の流れを安全で、かつ、交通公害の少ないパターンに変え、併せて自動車交通の総量を削減し、交通事故の防止、交通渋滞、交通公害の解消等を図ろうとするものである。
(6) むすび
 交通事故死者数の減少傾向は、定着しつつあるようにみられる。これは、独り警察の努力のみならず、国民の理解と協力の下で、関係機関、団体等の努力、支援によって成し遂げられたものであることはいうまでもない。
 殊に、交通事故の減少に大きく寄与したのは、国民の交通安全意識の高まりである。例えば、自動車を運転するときは酒を飲まない、最高速度制限を 遵守する、原動機付自転車、二輪車に乗るときはヘルメットを、四輪車に乗るときはシートベルトを着用する、ということが次第に国民の間に浸透しつつある。また、子供や老人の交通安全に対する意識も高くなってきている。
 こうした国民の安全意識の高まりを背景に、交通事故防止対策を強力に推進するなかで、関係者の事故防止への熱意は、交通事故は適切な対策をとれば減少させ得るという自信に変わりつつある。
 しかし、交通事故防止の努力を怠れば、交通事故は再び増勢に転じるおそれもあり、交通事故の減少傾向を定着させるためには、今後、より一層の努力が要求される。

2 最近の交通事故の特徴

 交通事故死者数が1万人を割ったのを機会に、国民一人一人がいかにして交通事故から身を守るかの参考に供するために、事故の一般的特徴、夜間の事故、老人と子供の事故について、最近における交通事故を多角的に分析することとした。
(1) 交通事故の一般的特徴
ア 事故の当事者
(ア) 危ないスピード違反、酒酔い運転
 昭和51年の第一当事者(注1)の違反別死亡事故件数を、交通事故死者数が過去の最高であった45年と対比してみると、表6-2のとおりで、総件数は6,605件(41.8%)減少しているにもかかわらず、最高速度違反による死亡事故は248件(18.0%)、信号無視によるものは13件(7.1%)とそれぞれ逆に増加している。しかも、それぞれの違反の全違反の中に占める構成率をみると、最高速度違反は2.0倍、信号無視は1.9倍、酒酔い運転は1.4倍となっている。
 また、致死率(注2)をみると、最高速度違反、酒酔い運転がそれぞれ平均の7.9倍、3.1倍と高率である。最高速度違反の致死率が極めて高いのは衝

表6-2 第一当事者の違反別死亡事故件数(昭和45、51年)

撃力が速度の2乗に比例することと密接な関連がある。
(注1) 第一当事者とは、事故の当事者のうち、過失の最も重い者又は過失が同程度である場合にあっては人身の損傷程度が最も軽い者をいう。
(注2) 致死率とは、交通事故発生件数に占める死亡事故件数の割合をいう。本節では、

とする。
(イ) わき見運転は事故のもと
 昭和45年以降の死亡事故のうちでわき見運転に起因するものは、図6-1のとおりで、わき見運転による死亡事故は、46年以降49年まで減少してきたが、ここ3年間はほぼ横ばい状況である。しかし、それぞれの年の死亡事故件数に占めるわき見運転の構成率をみると、49年以降は増加傾向にあり、51年は13.7%と45年以降では最も高くなっている。
 わき見運転を誘う外的要因としては、例えば、交通の見とおしを妨げ、あるいは運転者の注意を散漫ならしめるような家屋、広告物、路上放置車両等が街中にはんらんしていることなどによるものであると思われる。

図6-1 わき見運転による死亡事故件数及び構成率の推移(昭和45~51年)

(ウ) 歩行者の飛び出しは命取り
 歩行者の違反別交通事故件数は、表6-3のとおりで、昭和51年は45年と比べて発生件数は大幅に減少しているが、駐車車両の直前直後の横断による

表6-3 歩行者(第一当事者)の違反別交通事故件数(昭和45、51年)

交通事故は1,379件(69.5%)、信号無視によるものが274件(21.1%)とそれぞれ逆に増加している。違反件数でみると、最も多いのが飛び出しであり、51年の発生件数の54.8%を占めていることから、歩行者としては特段の注意が必要である。次いで多いのが、駐車車両の直前直後の横断によるもの、信号無視、その他直前直後の横断の順であり、これら4つの違反のみで、全体の9割近くを占めている。

表6-4 第一当事者(自動車、原動機付自転車)の年齢別死亡事故件数(昭和51年)

(エ) 青年ドライバーに多い死亡事故と危ない免許取りたて
 死亡事故を第一当事者の年齢別にみると、表6-4のとおりで、構成率では20歳代が41.7%と高く、特に20歳代の前半が23.2%となっている。
 また、免許人口1万人当たりの件数では、10歳代が7.2件と平均の3倍となっており、他の年齢層を大きく引き離している。
 次に運転経験別をみると、表6-5のとおりで、運転経験の浅い者ほど事故を起こしており、運転経験2年末満の者によるものが全体の約25%を占めている。特に、二輪車にあっては、運転経験2年末満の者による事故が二輪車全体の52.6%も占めている。

表6-5 第一当事者の運転経験別死亡事故件数(昭和51年)

(オ) 子供と老人の自転車事故
 昭和45年以降の自転者利用者の死者数の推移は、表6-6のとおりで、おおむね減少傾向にある。51年は45年に比べ自転車利用者全体の死者数は41.6%の減少を記録したが、老人の死者数が48.6%減と順調であるのに対し、子供の死者数は16.8%の減少にとどまっているのが注目される。
 51年の自転車利用者の死者数は、子供と老人合わせて650人、全自転車利用者死者数の57.4%と依然として高率を示している。

表6-6 自転車利用者の死者数の推移(昭和45~51年)

 また、自転車利用者の死者数を人口10万人当たり(注)でみると、全体が1.0人であるのに対し、老人が3.2人となっており、老人の死亡率が極めて高い。
(注) 計算の基礎となった人口は、51年10月1日の国勢調査による。
イ 事故の発生地域、発生場所
(ア) 較差の著しい府県間の事故率
 人口10万人当たりの都道府県別の交通事故死者数をみると、表6-7のとおりで、全国平均の8.7人に対して、最低が東京都の3.1人、最高が茨城県の

表6-7 人口10万人当たりの都道府県別交通事故死者数(昭和51年)

15.7人と都道府県間に著しい較差がみられる。
(イ) 小都市ほど高い事故率
 人口規模別交通事故死者数は、表6-8のとおりで、人口10万人未満の市町村が6,083人、全体の62.5%と最も多く、人口10万人当たりの死者数でも、人口10万人未満の市町村が11.9人と、人口100万人以上の都市の2.8倍となっている。
 一般に小都市では大都市と比較して、安全施設の整備が十分でないこと、交通規制が徹底していないこと、道路環境が良好でないことなどの要因のほかに、住民の交通安全意識が大都市と比べて必ずしも行き渡っていないことなどによるものと思われる。

表6-8 人口規模別交通事故死者数(昭和51年)

(ウ) 広い道路ほど要注意
 道路幅員別の死亡事故件数は、表6-9のとおりで、道路実延長1,000キロメートル当たりの死亡事故件数は、交通量の多いこともあり、道路幅員が広いほど多くなっている。
 また、道路幅員が5.5メートル以上7.5メートル未満の道路での死亡事故が全体の38.4%を占めている。

表6-9 道路幅員別死亡事故件数(昭和51年)

(エ) 都市部では交差点で事故多発
 道路形状別、形態別の死亡事故件数は、表6-10のとおりで、交差点では全死亡事故の36.5%、単路部分(注)では59.7%が発生、しているが、市街地の都市部では交差点の事故が多く、都市部全体の60.6%に及んでおり、他方、非市街地では単路部分での事故が多く、非市街地全体の71.9%に及んでいる。
 また、致死率では踏切における事故が極端に高く、踏切事故のうち約4割

表6-10 道路形状別、形態別死亡事故件数(昭和51年)

が死亡事故であり、次いでトンネル、屈曲、曲がり角付近、坂道となっている。
〔事例〕 交差点における事故防止対策
 警視庁万世橋警察署管内の岩本町交差点における交通事故発生状況及び事故防止対策実施状況は、図6-2、表6-11のとおりで、昭和45年の交通事故は51件、死者1人、重傷者1人、軽傷者61人であったが、各種交通規制の推進等交通事故の防止対策の強化により、51年には15件、軽傷者16人と大幅に減少した。

表6-11 岩本町交差点における交通事故防止対策実施状況(昭和45~51年)

図6-2 岩本町交差点交通事故発生状況図

(注) 単路部分とは、交差点及びその側端から30メートル以外の路線上の部分をいい、広場、庭等は含まない。
(オ) 信号機のない場所での事故が全事故の8割
 信号機の有無別でみた交通事故の発生件数は、表6-11のとおりで、信号機がない場所での交通事故が全事故の約8割を占めている。
 信号機がない場所での交通事故をみると、交差点での事故と単路部分での事故がほぼ同数発生しており、信号機のない交差点では全事故の約4割が発生している。
 なお、信号機のある場所でも全事故の約2割が発生しているところから、注意が望まれる。

表6-12 信号機の有無別、道路形状別交通事故件数(昭和51年)

ウ 事故の多発時期、多発時間
(ア) レジャー交通が多くなる土曜日、日曜日は要注意
 曜日別の1日平均死者数は、図6-3のとおりで年間死者数の1日平均が26.6人であるのに対し、土曜日が30.3人、日曜日(祝祭日を含む。)が28.3人とレジャー交通が多くなる土曜日、日曜日の事故が多い。レジャー運転には、気の緩み、不慣れな運転、無理なスケジュール等交通事故の原因となる事情が伴うことによると思われる。

図6-3 曜日別1日平均死者数(昭和51年)

図6-4 時間別交通死亡事故件数(昭和51年)

(イ) 夕方のラッシュ時に多い交通死亡事故
 時間別の交通死亡事故件数は、図6-4のとおりで、退社、下校等のラッシュ時に当たる午後5時から8時までの間が多く、1日の約20%の死亡事故が発生している。
(ウ) 運転開始後30分までの事故が過半数
 重傷死亡事故における原動機付自転車以上の車両の運転者が事故を起こすまでの運転時間は、表6-13のとおりで、運転開始後30分未満の死亡、重傷事故が3万2,010件で全体の53.2%を占めている。

表6-13 重傷死亡事故における原動機付自転車以上の車両の運転者(第一当事者)の運転時間(昭和51年)

エ 事故の状態
(ア) 依然として多い車両単独事故
 昭和45年以降の死亡事故の類型別発生状況は、図6-5のとおりで、車両

図6-5 類型別死亡事故発生状況(昭和45~51年)

相互による死亡事故が常にトップを占めており、次いで人対車両、車両単独、踏切の順となっている。
 また、51年の各類型を45年と対比してみると、踏切、人対車両、車両相互いずれも40%以上の減少を示しているのに対し、車両単独は、24.8%の減少にとどまっており、構成率においても、人対車両と踏切が減少しているのに対し、車両相互が横ばい、車両単独はわずかながら増加傾向を示している。
(イ)歩行者は道路横断に注意
 死亡事故の類型を更に詳細にみると、表6-14のとおりで、人対車両では、横断歩道横断中4.3%、横断歩道付近横断中3.2%、その他横断中15.0%と道路横断中の死亡事故が全体の22.5%(人対車両事故の66.1%)を占めている。

表6-14 類型別死亡事故件数(昭和51年)

 なお、致死率についてみると、踏切事故に次いで高いのが車両単独事故で、人対車両事故の2倍強、車両相互事故の6倍弱となっている。
(ウ) 多い頭と胸の致命傷
 交通事故死傷者を損傷部位別にみると、表6-15のとおりで、死者数では

表6-15 損傷部位別交通事故死傷者数(昭和51年)

頭部に損傷を受け、それが致命傷となったものが死亡事故全体の69.0%と圧倒的に多く、次いで胸部の損傷、けい部の損傷の順となっている。
(エ) ブレーキとタイヤの点検は万全に
 死亡、重傷事故において自動車自体に原因があった事故の分析結果は、図6-6のとおりで、ブレーキに起因するものが約3割、タイヤに起因するものが約2割で、この両者で自動車の構造上の欠陥による事故の約半数を占めている。

図6-6 自動車自体に起因する死亡、重傷事故件数(昭和51年)

(2) 夜間の事故
ア 夜間の死亡事故が昼間を超える
 昭和48年以降の交通事故の昼夜間別発生件数の推移は、表6-16のとおりで、夜間の交通事故の発生件数が28%前後であるのに対し、夜間の死亡事故の比率は高く、致死率においても昼間の約3倍と極めて高い。
 なお、51年には夜間の死亡事故が全体の51.5%と昼間を超えるに至った。

表6-16 昼夜間別交通事故発生件数(昭和48~51年)

イ 夜間の死亡事故の特徴
(ア) 車両単独事故、人対車両事故が夜間に多発
 昭和51年の死亡事故の昼夜間別、類型別発生件数は、表6-17のとおりで

表6-17 昼夜間別、類型別死亡事故件数(昭和51年)

車両単独事故は昼間の1.9倍、人対車両事故は昼間の1.2倍となっている。
(イ) スピード違反、酒酔い・酒気帯び運転によるものが4割強
 死亡事故の第一当事者の違反別発生件数は、表6-18のとおりで、最高速度違反、酒酔い・酒気帯び運転、わき見運転の順となっており、これらによる死亡事故件数はいずれも夜間が昼間を超えている。特に、最高速度違反は昼間の1.7倍と極めて多い。

表6-18 第一当事者の違反別死亡事故件数(昭和51年)

(3) 子供と老人の交通事故
ア 子供の交通事故
(ア)高い割合を占める子供の交通事故
 過去7年間の子供の交通事故の推移は、図6-7のとおりで、昭和45年を100とすると、51年は死者62.2、負傷者82.9といずれも減少している。
 しかし、全死傷者数に対する子供の死傷者数の構成率は、表6-19のとおりで、死者数は45年が11.9%であったが51年には12.8%、負傷者数は45年が12.0%であったが51年には16.0%といずれも高くなっている。
(イ)子供の交通事故の特徴
a 夕方は危険
 昭和51年の子供の交通事故の時間別発生状況は、図6-8のとおりで、事故が最も多く発生している時間帯は、午後4時から6時までの間であり、死者は子供の死者数の24.9%、負傷者は子供の負傷者数の27.6%を占めてい

図6-7 子供の交通事故の推移(昭和45~51年)

表6-19 交通事故による全死傷者数に対する子供の死傷者数の構成率(昭和45~51年)

図6-8 子供の時間帯別交通事故発生状況(昭和51年)

る。
 また、各学齢層別の死者数でも午後の4時から6時までの間が最も多く、子供の交通事故は下校時あるいは下校後の1、2時間に多くなっている。
 更に、子供の交通事故を曜日別にみると、最も多いのが土曜日で、死者は子供の死者の16.5%、負傷者は子供の負傷者の16.8%である。次いで死者については日曜日、火曜日、負傷者については日曜日、月曜日の順に多い。
b 遊んでいる時は注意
 歩行中の子供の通行目的別にみた死者、重傷者数は、図6-9、表6-20のとおりで、遊びと買い物、習いごと等の両者で子供の死者、重傷者数の87%と高率を占めている。
 また、通園通学時の事故は、高学年層になるにつれて多くなっている。

図6-9 歩行中の子供の通行目的別交通事故死者、重傷者数(昭和51年)

表6-20 歩行中の子供の通行目的別、学齢層別交通事故死者、重傷者数(昭和51年)

表6-21 歩行中の子供の自宅からの距離別、学齢層別死者、重傷者数(昭和51年)

c 自宅から50メートル未満の事故が3分の1
 歩行中の子供の交通事故死者、重傷者数を自宅からの距離別にみると、表6-21のとおりで、自宅から50メートル未満のところが全体の3分の1を占めている。
 また、年齢層別にみると、幼児、幼稚園児が自宅から50メートル未満のところで多く事故にあっていることが注目される。
d 危険な飛び出し、車の直前直後の横断
 歩行中の子供の違反別事故発生件数は、表6-22のとおりで、飛び出しに

表6-22 歩行中の子供(第一当事者)の違反別、学齢層別交通事故発生件数(昭和51年)

起因するものが全体の65.3%、車の直前直後の横断に起因するものが全体の24.4%であり、この両者で約9割を占めている。
e 親の同伴中にも多い未就学児の事故
 未就学児の死亡、重傷事故を同伴者別に見ると、図6-10のとおりで、単独でいるときに死亡、重傷事故にあっているものが44.0%を占めているが、母又は父が同伴中に全体の約3割もの未就学児が死亡したり、重傷したりしていることは注目に値する。

図6-10 未就学児の死亡、重傷事故の同伴者別状況(昭和51年)

イ 老人の交通事故
 (ア)老人は死亡事故に遭いやすい
 昭和45年以降の老人の死亡事故の推移は、表6-23のとおりで、全体の傾向と同様に45年をピークに下降線をたどっており、その減少率も全体とほとんど差異がないが、人口10万人当たりの死者数は、平均が8.7人であるのに

表6-23 老人の交通事故の推移(昭和45~51年)

比べ、老人はその約2倍に当たる16.3人と極めて高い。
(イ) 老人の死亡事故
 昭和51年の老人の交通事故死者数を年代層別にみると、表6-24のとおりで、人口10万人当たりの死者数は、高齢になるほど高くなっている。

表6-24 老人の年代層別、男女別交通事故死者数(昭和51年)

 老人の交通事故死者数を状態別にみると、表6-25のとおりで、歩行中の事故が全体の58.0%と最も多く、次いで自転車運転中、原動機付自転車運転中の順になっている。
 なお、男女別では、歩行中は女性の死者が男性の1.3倍と多く、自転車運転中、原動機付自転車運転中は圧倒的に男性の死者が多くなっている。

表6-25 老人の状態別、男女別交通事故死者数(昭和51年)

3 交通規制と交通安全施設の整備

(1) 都市総合交通規制
 都市における交通事故、交通渋滞、交通公害等の現象は、都市全域に広がっており、交通規制についても各種の手段を組み合わせて総合的、体系的なものとして行う必要がでてきた。都市総合交通規制は、このような都市の交通事情に着目して、個々の交通規制を相互に関連性を持たせて都市全体に拡大し、道路のネットワークにおける交通流のパターンの改善と自動車交通総量の削減によって、交通の安全、円滑その他交通障害の排除を目指すものであり、昭和49年から、人口10万人以上の168市を対象として推進している。
 3年目を迎えた51年は、前年に引き続き、各都市の実情に即した都市総合交通規制のマスタープランに基づき、計画的かつ総合的にその推進に努め、特に10大都市における自動車交通総量削減計画については、重点的にその推進を図った。
 都市総合交通規制を実施している人口10万人以上の168市における主要な交通規制の実施状況は、図6-11のとおりで、都市総合交通規制実施前の48年末と比べると、バス優先のための規制3.6倍、指定方向外進行禁止の規制2.3倍、歩行者用道路及び駐停車禁止路側帯の設置2.3倍、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制2.1倍、自転車歩道通行可の規制2.0倍となっており、交通流のパターンの改善及び自動車交通総量の削減に効果的な交通規制が着実に進められている。
 しかし、都道府県間、都市間の進ちょく率の較差や個々の交通規制相互間の総合性の確保等にまだ問題があるため、都市の交通事情に応じた計画の見直しをする必要がある。また、大都市同様に交通事情が悪化し、都市総合交通規制の必要性が高まっている人口10万人未満の都市への拡大を図ることとしている。
 現在、都市総合交通規制において実施している主な対策は次のとおりであ る。
ア 生活ゾーン対策

図6-11 人口10万人以上の168都市の主要交通規制実施状況(昭和48~51年)

 市民の日常生活の場である住宅街、商店街等を交通事故と交通公害から守るため、生活ゾーン対策を実施している。すなわち、学校周辺、住宅街、商店街等を生活ゾーンとして指定し、そのゾーン内の道路と周辺道路とを相互に関連づけながら、歩行者用道路、一方通行、指定方向外進行禁止、大型車通行止め、速度制限その他の規制を総合的に組み合わせて、通過交通の排除に努めている。
〔事例〕 大阪府堺市内の生活ゾーン対策
 この地域は、図6-12に示すとおり学校、身障者福祉センター、保育所等の施設が混在する住宅地域であるが幹線道路の混雑を避けて通過する車両が多かったため、歩行者用道路一方通行等の規制を組み合わせて、通過交通を排除し、児童、生徒等歩行者の通行の安全を図っている(大阪)。

図6-12 堺市大仙地区における生活ゾーン対策

イ バス優先対策
 大量公共輸送機関である路線バスが、交通の混雑に巻き込まれて正常な運行ができない状態を解消し、併せて自家用自動車の利用者をバスに転換させて自動車交通総量の削減に寄与するため、バス優先対策を実施している。この対策の推進により、各地で、バスの運行速度の改善、利用者の増加等の効果を収めている。例えば、東京都内で昭和51年に実施したものの中で、速度と乗客数の増加が顕著であった事例として、国鉄池袋駅から同王子駅付近までの間に設置した延長3キロメートルのバス専用通行帯(午前7時から9時の間実施)が挙げられるが、設置後6箇月の状況は、運行速度が約60%、乗客数が約53%とそれぞれ増加している。
ウ 駐車対策
 従来、主として交通事故の防止、交通渋滞の解消を目的として駐車規制を実施してきたが、最近では、都心部の路上駐車スペースを減らすことが自動車の流入を抑制して交通総量削減の効果をもたらす点も考慮して、都市内道路では広域的な駐車禁止規制を積極的に実施している。例えば、東京都特別区、大阪市においては、同地域内の道路の9割以上が駐車禁止となっており他の都市においても駐車禁止規制を拡大しつつある。
 しかし、同時に業務等のための最少限度の駐車需要を満たすため、交通に支障の少ない場所を選んでパーキング・メーターを設置している。昭和51年末で、東京都特別区内に6,960基、大阪市内に1,116基が設置されており、他都市においても徐々にその数は増加しつつある。
エ 速度規制
 交通事故及び交通公害を防止するには、自動車の走行速度を適正な水準に保つ必要があるため、都市内道路では、原則として毎時40キロメートル又はそれ以下の速度規制を行っている。また、これらの都市においては、規制速度で走行すれば、信号待ちが少なく安定した定常走行ができるように、信号 機の系統化を図っている。更に、生活ゾーン内では、毎時20キロメートルから30キロメートルの低速度規制を実施している。昭和51年3月末の規制延長キロ数を49年3月末と比較すると、2年間で毎時40キロメートル規制は1.7倍、毎時30キロメートル規制は1.9倍、毎時20キロメートル規制は1.4倍となっている。
オ 自転車対策
 自転車は、交通手段として簡便であるばかりでなく、交通渋滞及び交通公害の原因とならないことから、その利用価値が再評価されるに至り、利用者は急速に増加している。そこで、警察としては、自転車利用者の安全を図るため、通勤、通学、買物等のための利用者が多い地域で、自転車専用通行帯、自転車の歩道通行可、自転車の通行を認める歩行者用道路等の交通規制を積極的に実施している。
カ 交通総量削減対策
 昭和51年度は前年度に引き続き、自動車交通の過密化が著しく、交通事情が悪化している10大都市の交通総量の10%削減を目途に、各種の対策を強力に推進した。
 この対策は、不要不急の交通を輸送効率の高い交通機関へ振り替え、又は輸送の合理化の措置を促すことにより、交通総量が削減されることを目指すものであり、具体的には、次のような方策を中心としている。
○ バス優先通行、駐車禁止、歩行者用道路等の交通規制の拡大強化により、自家用乗用車交通を、電車、バス等の交通に転換させる。
○ 駐車禁止、大型車通行禁止規制の強化その他の措置により、物資輸送の合理化を促す。
○ タクシーベイの増設等により、タクシーの空車走行を抑制する。
(2) 交通安全施設の整備
ア 交通安全施設整備の概況
 第二次五箇年計画の初年度である昭和51年度における交通安全施設への投資額は、約443億円で、10年前の41年度の投資額約33億円に比べ13.4倍であ る。
 また、交通安全施設に対する投資額と交通事故死者数の関係は、図6-13のとおりで、交通安全施設に対する投資の事故抑止効果がうかがわれる。
 信号機、道路標識及び道路標示等の交通安全施設は、51年度末に信号機が約7万2,000基、道路標識が約557万9,000本、横断歩道標示が約37万9,600本、実線標示が約5万5,000キロメートル、図示標示が約139万1,000個となった。

図6-13 交通安全施設投資額と交通事故死者数の関係(昭和45~51年)

 更に、一定地域内の交通流をコンピューターにより、安全かつ効率的に整理誘導するシステムの中枢となる交通管制センターが、51年度には、福島市、前橋市、富山市の3都市に新設され、51年度末現在の交通管制センター所在都市は、34都市となった。
 なお、交通管制システムは、図6-14のとおりである。
イ 第二次五箇年計画の発足
 昭和46年度を初年度とする第一次五箇年計画は、特定事業に総額約721億円、地方単独事業に総額約1,000億円を投資し、50年度をもって終了した。
 引き続き、交通事故の多発している道路その他緊急に交通安全を確保する必要のある道路について、総合的かつ長期的な計画の下に交通安全施設の整備を図るため、51年度を初年度とする第二次五箇年計画を策定した。
(ア) 事業規模
 第二次五箇年計画の事業規模は、表6-26のとおりであり、第二次五箇年

図6-14 交通管制システム

表6-26 第二次五箇年計画

計画の初年度に当たる51年度は、特定事業約221億円、地方単独事業約222億円の事業を実施した。
(イ) 事業内容の充実
 第二次五箇年計画の指定道路は、約13万8,000キロメートルで、第一次五箇年計画の約8万9,000キロメートルに対し1.6倍となっている。
 また、バス感知信号機、列車感知信号機、視覚障害者用付加装置(いわゆる盲人用信号機)、中央線変移システム、集中制御式可変標識及び車線分離鋲(チャッターバー)併用標示等を新規事業として加えた。
 更に、交通情勢に対応して、既存の信号機の感応化、系統化や地域制御化による機能の向上並びに車両用燈器増設、歩行者用燈器増設による信号視認性の向上を図る一方、道路標識については、大型及び燈火式の採用による視認性の向上等質的充実を図った。

4 交通指導取締りと交通事故事件の捜査

(1) 交通指導取締り
ア 交通指導取締りの概況
 昭和51年は、交通事故の発生状況や道路環境に応じた適正かつ効果的な交通取締りを実施し、前年に比べ16.5%増の1,183万6,250件の交通違反を検挙した(注)。
 42年以降における交通違反の検挙件数と交通事故の発生状況の推移は、図6-15のとおりで、交通指導取締りの事故抑止効果がうかがわれる。

図6-15 交通違反検挙件数と死傷者数の推移(昭和42~51年)

 交通違反取締りに当たっては、交通事故に直結するおそれのある無免許運転、酒酔い・酒気帯び運転、最高速度違反等の検挙に重点を置いている。
 51年の違反種別の交通取締り状況は、表6-27のとおりで最高速度違反が最も多く、全体の42.1%を占めている。
 最高速度違反の取締りについては、白バイやパトカーによる取締り、レーダースピードメーターを使用しての取締りに併せて、新たに速度違反自動取締装置(オービスⅢ)を導入し、事故多発地点、路線に設置し、違反車のナンバー、運転者等を撮影し、事後の検挙に資するなど常時監視効果を上げている。
(注) 交通違反検挙件数は、道路交通法違反の告知、送致件数である。
イ 交通安全に関する世論調査
 昭和51年6月の「交通安全に関する世論調査」(内閣総理大臣官房広報室)

表6-27 違反種別交通取締状況(昭和45、51年)

によると、それぞれ表6-28、29のとおり、他の運転者や歩行者の態度について「ほとんどの人が交通規則や交通マナーを守っている」とみている人は、わずかに10~14%にすぎず、大多数の人が他人の運転態度や歩行者の通行態度が悪いとみている。その反面、自らが交通規則を守っているか否かと いう点については、表6-30のとおり95%もの人が「守っている」と答え、一見矛盾する結果がでており、交通安全対策の困難さが浮き彫りにされている。
 また、警察の交通取締りについては、表6-31のとおりで、多くの人が、交通安全のため、警察の交通取締りを是認し、期待していることがうかがわ

表6-28 歩行者側からみた運転者の態度

表6-29 運転者側からみた歩行者、他の運転者の態度

表6-30 交通規則に対する態度

表6-31 警察の交通取締りに対する意見

れる。
(2) 交通事故事件等の捜査
ア 交通事故事件の送致状況
 昭和51年の交通事故(人身)事件は、表6-32のとおりで、47万1,889件、51万1,754人を送致した。送致事件の罪種別では、業務上(重)過失致死傷が圧倒的に多く、次いで、自損転落事故や車両相互の事故で加害者のみが負傷したような場合等について道路交通法違反のみを適用したものとなっている。
 特に、殺人、傷害を適用して送致したものが、112件、116人もあり注目された。このなかには、えん恨、痴情等から、あるいは保険金詐欺のため、あらかじめ綿密な計画を練り、人を殺傷した事件もあった。

表6-32 交通事故事件の罪種別送致件数(昭和51年)

〔事例〕 交通事故を装った保険金詐欺未遂事件
 無職A(47)は、事業資金欲しさから、折合いの悪い妻甲に9,700万円の保険金を掛け、交通事故を装って殺害し、保険金をだまし取ることを計画し、知人の不動産仲介業者B(39)、自動車解体業者C(39)及び自動車修理業者D(52)と共謀して、8月23日夜、松山市内で、BとCが甲を 普通乗用車に乗せて走行中、甲の頭部を鉄棒で殴り、その直後、時速約50キロメートルで走ってきたDの運転する普通乗用車に向かって投げ出した。甲はボンネットに当たって路上に落ちたが、死亡するに至らなかった(殺人未遂で検挙)(愛媛)。
イ ひき逃げ事件の捜査
 最近5年間のひき逃げ事件の発生検挙状況は、図6-16のとおりで、交通事故事件全体が減少傾向にあるのに反し、ひき逃げ事件は、ほぼ横ばい傾向で、昭和51年は前年に比べ、2,062件(7.3%)増となっている。

図6-16 ひき逃げ事件の発生と検挙状況の推移(昭和47~51年)

 最近のひき逃げ事件の特徴としては、次のようなことが挙げられる。
○ ひき逃げには、酒酔い、無免許運転等の悪質交通違反者が多い。
○ 死亡ひき逃げ事件の被害者には、泥酔歩行者が多い。
○ 犯行の態様には、助けを求める被害者を犯行地から遠くへ運んで遺棄する悪質なものや、巧妙な証拠いん滅工作をするものが増加している。
ウ 交通特殊事件の捜査
 昭和51年の交通事故をめぐる詐欺、恐喝、文書偽造等の交通特殊事件の検挙状況は、表6-33のとおりで、2,200件、1,504人を検挙した。このうち、あたり屋事件は、以前は、歩行者によるものが多かったが、最近では、自動 車を使用し、外形上、相手方の過失度合の大きい形態の交通事故を故意に起こし、示談金をだまし取るものが多くなった。あたり屋事件全体で、51年には213件、83人を検挙した。また、交通事故に関連した保険金詐欺事件は、153件、72人を検挙した。このほか、自動車運転免許証、車庫証明書等の文書偽(変)造事件で、1,798件、1,297人を検挙したが、その中で最も多いのは自動車運転免許証の偽造事件である。

表6-33 交通特殊事件検挙状況(昭和50、51年)

〔事例〕 資金源に窮した暴力団員による組織的なあたり屋事件
 岡山県下の暴力団S組は、資金源に困り、組員20人が外国製普通乗用車30数台を使用して、関東以西15府県下において、93件、被害総額約6,500万円のあたり屋事件を起こしていた。その手口は、あらかじめ破損させていた車両に数人の組員が乗り込み、対向車がセンターラインを越えて進行して来るのを見計らって発進、衝突するなどして、相手方の過失度合の大きい事故を故意に起こし、背後に組織のあることを暗にちらつかせながら、多額の示談金をだまし取っていたものである(岡山)。

5 運転者の資質の向上に向けて

(1) 運転免許保有者の概況
 昭和51年末の運転免許保有者数は、3,500万人を超え、3,514万8,742人となった。これは、総人口の3.2人に1人、免許適齢人口(16歳以上)の2.4人に1人が運転免許を保有していることになる。運転免許の種類別では、普通第一種免許の保有者が、2,564万7,552人で最も多く、全体の73.0%を占め

表6-34 男女別運転免許保有者数(昭和45、51年)

図6-17 運転免許保有者数の推移(昭和45~51年)

ている。また、男女別にみると、表6-34のとおり、男性が2,695万6,923人(76.7%)、女性が819万1,819人(23.3%)で、45年に比べ、男性は24.3%、女性は71.9%、全体では32.9%の増加である。
 年齢別では、図6-18のとおりで、男女とも25歳から29歳までの年齢層の保有者数が最も多く、男性は485万649人(保有率88.3%)、女性は203万5,088人(保有率37.8%)が運転免許を保有している。

図6-18 年齢別運転免許保有者数(昭和51年)

(2) 運転免許試験
 昭和51年における運転免許試験の実施状況は、表6-35のとおりで、受験者数は934万1,811人、合格者数は498万5,190人(合格率は53.4%)である。
 なお、第一種免許試験の合格者のうち8.1%は、免許が失効した後に試験の一部免除を受けて合格した者である。45年以降における運転免許試験の受験者数の推移をみると、表6-35のとおり原付免許の受験者数の増加が著しく、これは、女性や高齢者による原動機付自転車の利用が増加しているため と思われる。
 身体障害者の運転免許取得に関しては、事前に、適性に関する相談業務を積極的に実施している。51年に適性相談を受けた件数は、4万1,106件で、その95.3%に当たる3万9,163人が、適性があると判断されて、運転免許試験を受けている。更に、一部の都府県では身体障害者用試験車両を備えるなど身体障害者の便宜を図っている。

表6-35 運転免許種別ごとの受験者数と合格者数(昭和45、51年)

(3) 運転者教育
ア 指定自動車教習所における教習
 昭和51年末現在の全国の指定自動車教習所数は、1,325箇所で、51年の指定自動車教習所の卒業者数は、183万4,056人である。卒業者数は、ここ数年間横ばいの傾向にあるが、第一種免許(原付免許及び小型特殊免許を除く。)の試験の合格者中に占める卒業者の割合は79.9%で、このうち普通免許試験は82.7%が卒業者である。しかも、この割合は年々大きくなっており、指定自動車教習所が初心運転者教育の中で果たす役割が大きくなっている。
 指定自動車教習所に対しては、教習水準を高めるため、指導員等の資質の向上等について重点的に指導監督を行ってきているが、51年7月に自動車教 習所業が中小企業近代化促進法に基づく指定業種となったので、今後この近代化が推進されることによって、更にその教習が充実されていくものと思われる。
イ 更新時講習と処分者講習
 現に免許を受けている者に対する一般的な再教育の制度としては、更新時講習と処分者講習があり、受講者の態様に応じた学級編成、科学的資器材の活用等を図っている。
 更新時講習は、運転免許証の更新者に対し交通法令や安全運転の知識等について教育を行うものである。受講者数は、運転免許保有者数の増加に伴い年々増加しており、昭和51年は約660万人であった。なお、52年4月からは、安全運転に関する自己診断用ペーパーテストを更新時講習において行うこととし、講習内容の充実に努めている。
 処分者講習は、運転免許の停止処分等を受けた者に対し、これらの者の申出により、運転に関する誤った知識、技能等を改善するために行われるものである。講習終了者については、その終了時にテストが行われ、テストの結果に基づいて処分期間が短縮されることになっている。この講習の受講者も年々増加しており、51年は約146万人となった。
ウ その他の講習
 更新時講習及び処分者講習のほか、二輪運転者講習、原付免許試験合格者等に対する技能講習や主として事業所等の運転者に対する運転適性診断等を積極的に行っている。
(4) 安全運転管理者対策
ア 安全運転管理者の選任範囲の拡大
 事業所等における安全運転を確保するため、道路交通法により、自動車5台以上の使用者(自動車運送事業者及び通運事業者を除く。)に対し、安全運転管理者を選任することが義務付けられており、昭和52年3月31日現在、全国で安全運転管理者は19万3,993人で、その管理下にある自動車運転者は約267万人、自動車台数は約221万台である。52年1月1日から安全運転管理者 の選任範囲を拡大し、乗車定員が11人以上の自動車については1台のみ使用する事業所等であっても安全運転管理者を選任しなければならないこととなった。
イ 安全運転管理者に対する講習の実施
 都道府県公安委員会は、安全運転管理者の資質を向上させ、事業所等における交通事故防止対策を強化するため、自動車及び道路の交通に関する知識、自動車の安全な運転に必要な知識、安全運転管理に必要な知識等を内容とした安全運転管理者講習を毎年1回おおむね6時間にわたって実施している。
 昭和51年度に、安全運転管理者講習を受講した者は、約16万5,000人に達している。
ウ 安全運転管理者制度の効果
 安全運転管理者は、自動車運行計画の作成、運転者に対する点呼等による必要な指示、運転日誌の作成等を行っているが、このような安全運転管理が徹底している事業所等では、交通事故が減少するなど大きな効果が認められる。例えば、和歌山県警の調査によると、表6-36のとおりで、安全運転管理を着実に実施しているところとそうでないところでは事故の発生率に大きな差が現れている。

表6-36 安全運転管理状況と交通事故(昭和51年4月)

(5)危険運転者の排除
 運転者が精神病者、麻薬中毒者等となったとき、自動車等の運転に支障の ある程度の身体障害者となったときや交通違反をしたり、交通事故を起こしたことなどにより自動車等の運転が危険であると判断されたときは、運転免許の取消し、停止等の処分を行い、また、運転免許試験に合格した場合であっても、その運転免許を拒否し、又は保留している。昭和51年における総処分件数は、173万8,686件(うち、取消し件数は6万3,669件)で、45年に比べ約7割増加している。
 これらの行政処分は主として点数制度によって行われているが、点数制度は、交通違反や交通事故について一定の点数を付し、過去3年以内の累積点数が一定の基準に達した場合に、運転免許の取消し、停止等の処分を行うものである。
 運転者管理センターでは、3,500万人を超える運転免許保有者の免許記録と個々の運転者等の過去3年間における交通違反、交通事故や行政処分歴その他の資料を電子計算組織によって集中管理している。

6 交通安全思想の普及

(1) 交通安全運動
 昭和51年の春と秋の全国交通安全運動は、歩行者や自転車利用者、特に子供や老人の事故防止とシートベルト着用の推進を重点として実施された。
 期間中、警察では、生活ゾーンにおける交通安全対策や夜間における交通事故の防止に力を注ぎ、また、関係機関、団体等と力を合わせ、自転車や自動二輪車等の安全な乗り方講習会、子供や老人に対する愛の一声運動、夜間の歩行者や自転車利用者に反射材を着けさせる「ホタル作戦」、交通安全パレード等を積極的に実施した。
 交通安全運動が十分その効果を発揮するためには、できるだけ多くの国民の参加を得ることが鍵となっており、今後とも、国民の一人一人が身近な行動を通じて参加できるように努める必要がある。
(2) 交通弱者に対する交通安全教育
 歩行中や自転車運転中の交通事故死者のうち3分の2は、子供と老人であり、10万人当たりの死者数の割合をみても他の年令層に比べ極めて高い比率となっているので、子供、老人あるいは自転車利用者を対象とした交通安全教育を重点的に推進している。
ア 子供と老人
 子供に対する交通安全教育については、関係機関、団体等と協力して、保護者、特に母親とその幼児を構成員とする幼児交通安全クラブ、小学校高学年や中学生を構成員とする交通少年団等の結成とその育成に努めた。
 昭和51年9月末現在、全国で1万4,251の幼児交通安全クラブが結成され、幼児約142万人、その保護者約136万人が加入している。また、全国に3,773の交通少年団が結成され、小学生約64万人、中学生約5万人が加入している。幼児交通安全クラブや交通少年団への加入者は、年々増加しているが、それぞれの加入率をみると、幼児交通安全クラブが23.3%、交通少年団が小学生13.1%、中学生1.1%である。
 子供の事故を防止するには、遊び場の確保、交通安全施設の整備等による安全な交通環境の確保、子供の行動特性や子供の交通事故の特徴に応じた運転者や母親に対する交通安全教育、幼児交通安全クラブ、交通少年団等を中心とした子供に対する交通安全教育等の交通安全対策を推進する必要がある。
 老人に対しては、交通事故の被害者となるおそれの高い者を対象に、その家庭に対する訪問指導を強化するとともに、老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会や交通安全指導員制度の設置を働きかけるなど老人の自主的な交通安全活動を促進した。
 51年9月末現在、訪問指導した老人は、約46万人に達しており、また、交通安全部会は7,391団体、交通指導員制度は1万2,837団体に設置され、それぞれ約60万人、約66万人の老人がその指導を受けている。
イ 自転車利用者
 昭和51年末の自転車保有台数は、約4,550万台に達し、自転車は幼児から 老人まで幅広く利用されている。
 自転車利用者に対しては、交通安全協会の自転車安全教育推進委員会、学校等と協力して、母親と幼児、小、中学生と老人を重点とした自転車安全教室、自転車の安全な乗り方コンテスト等を開催しているが、更に、自転車安全教室を中心とした交通安全教育を強力に推進する必要がある。
(3) シートベルト着用推進運動
 シートベルト着用の推進については、昭和51年8月の「シートベルト着用推進運動」(51年7月26日交通対策本部決定)をはじめ、春秋の全国交通安全運動、行楽期の事故防止運動等において、各種キャンペーンを展開し、そ

表6-37 シートベルトの着用状況

の着用について強力に指導した。しかし、シートベルトの着用率は、表6-37のとおりまだ十分とはいえず、また、諸外国に比べても極めて低調である。
 シートベルトは、自動車乗車中の者が車外にほうり出されたり、ハンドル、計器盤、フロントガラス等に衝突したりするのを防止するのに極めて効果的である。51年の死亡事故について、自動車運転者の衝突部位等の状況をみると図6-19のとおりで、シートベルトを着用していれば死亡者の約7割が助かったものと思われ、シートベルトの着用率が30%であったと仮定すると約400人の者が、また、80%の着用率であったとすると約1,100人の者が助かったであろうと推定される。

図6-19 死亡した自動車運転者の衝突部位等の状況(昭和51年)

〔事例〕 5月、群馬県内の県道において、会社員(28)が友人(21)を助手席に同乗させ、普通乗用自動車を運転中、ハンドルを切り損ね岩場を約100メートル転落した。シートベルトを締め忘れた運転者は、車外にほうり出され即死したが、同乗者はシートベルトを締めていたため1週間のかすり傷ですんだ。(群馬)。
(4) 夜間事故防止に関する知識の普及等
 昭和51年は、夜間事故の防止に積極的に取り組み、交通安全教育の面からも、歩行者や自転車利用者あるいは二輪運転者に対して、関係機関、団体等と協力し運転者が発見しやすい明るい衣服の着用や反射材の活用を促進し、夜間事故防止に関する知識の普及に努めた。

図6-20 夜間の平均視認距離(昭和50年7月19日)

 なお、警察大学校交通教養部及び科学警察研究所の実験結果においても図6-20のとおり、反射材の有効性が裏付けられている。

7 高速道路交通

 高速道路(注)は図6-21のとおり年々供用路線が延伸し、昭和51年末には約2,400キロメートルとなり、今や主要幹線として広く利用されている。
 高速道路は、便利さの反面、一たび交通事故等交通障害が発生するとその影響は、高速道路のみにとどまらず一般道路へも及び、大きな交通混乱を招くおそれがある。このため、高速道路における交通警察活動は、ますます重要となってきている。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項の自動車専用道路をいう。
(1) 交通事故の概況
 高速道路における交通事故は、供用路線の延伸と交通量の増加に伴い年々 増加している。昭和51年の発生件数は物損事故を含めると2万410件で、うち高速自動車国道においては1万1,212件となっており、これを類型別にみると、車両相互間の事故が5,556件(49.6%)、車両のガードレールへの衝突や転倒あるいは転覆等の単独事故が5,407件(48.2%)であり、一般道路と比べ単独事故の割合は著しく高い。また、車両相互事故を形態別にみると、走行中の車両に追突した事故が1,795件(16.0%)で最も多く、次いで本線上の停止車両に追突が1,333件(11.9%)であり、二重、三重の玉突き事故が多いのが特徴である。
 また、高速道路における事故率をみると、車両走行台キロ当たりの人身事故件数は一般道路に比べ約10分の1にすぎないが、反面、高速走行であるため事故1件当たりの死傷者数の割合や致死率は、一般道路より極めて高い。
〔事例1〕 関係車両16台による玉突き事故
 9月、東名高速道路の御殿場インターチェンジ(I.C)~大井松田I.C間において、普通貨物車が追越車線を進行中、進路変更した前車を認めて急ブレーキをかけたところ、スリップして中央分離帯に衝突して横転した。更にこの事故により後続の大型貨物車等15台が次々と急ブレーキをかけるなどして追突、又は左側ガードレールに衝突するなどして1人が即死、5人が負傷した(静岡)。
〔事例2〕 路面凍結に起因した多重事故
 2月、東北縦貫自動車道の白河I.C~矢吹I.C間において、普通貨物車が路面凍結した場所で急ブレーキをかけたため、スリップして中央分離帯に衝突した。この事故を認めた後続の普通貨物車が急ブレーキをかけたところ後続車が追突し、これが原因で更にその後方で4件の追突事故等が発生し、8人が負傷した(福島)。
 高速道路において交通事故が発生した場合は、通過車両の安全を確保するため、交通事故の規模に応じて走行車線の制限、又はI.C閉鎖、車両の流入制限等を行うとともに、交通事故による影響を最小限に食い止めるため、交通事故の迅速な処理に努める一方、ラジオ放送、I.C入口における電光表示

図6-21 高速道路の供用状況(昭和38~51年)

等により広報を行い、う回を求めるなどの措置を講じている。
(2) 交通警察活動
ア 交通規制
 高速道路における交通規制は、高速道路の交通実態、社会的機能、関連する一般道路の交通状況その他を勘案し、関係機関との緊密な連携の下に実施している。特に、段階的部分的な暫定供用に際しては、取付け道路の交通の安全と円滑や一般道路の交通に及ぼす影響を十分考慮し、効果的な交通規制を実施している。
 昭和51年において実施したこの種交通規制の主な例は、次のとおりである。
〔事例1〕 中央自動車道(中央道)と首都高速道路連結に伴う交通渋滞緩和措置
 5月、中央道が供用延長されて首都高速道路(4号線)と連結し、都心と山梨県方面の交通は一段と便利になった。反面、首都高速道路は接続部分を中心に、以前にも増して交通渋滞を招いたので、これを緩和するために、中央道の三鷹料金所等において恒常的に一定数のブースを閉めて首都高速道路への流出規制を実施しているほか、中央道の調布、国立及び八王子の各I.Cにおいて、首都高速道路に向かう車両の流入制限、禁止等の規制を随時実施している。
〔事例2〕 中央分離帯のない高速道路における交通規制の強化
 中央道の大月I.C~河口湖I.C間は44年3月、方向別分離がなされないまま供用された。中央分離帯がないことから対向車両との正面衝突等の事故の防止を図るため、12月から他の高速道路には例のない最高速度60キロメートル規制と全線にわたる追越しのための右側はみ出し通行禁止の規制を実施した。
イ 交通指導取締り
 高速道路においては、車両の走行速度が高速であるため、無謀な運転はもちろんのこと、軽微な運転操作のミス、車両の故障等が重大な事故につながることが多い。このため、高速道路交通警察隊は、パトカーによる機動警ら、交通監視に当たるとともに交通検問等のいっせい取締りを計画的に実施し、最高速度違反、酒酔い・酒気帯び運転、積載違反、駐停車違反等交通事故に直結する危険性の高い違反を重点的に取り締まる一方、シートベルトの着用指導を強力に推進している。
 昭和51年の高速自動車国道における交通違反の取締り状況は表6-38のとおりで、最高速度違反が約12万件(43.8%)で最も多く、次いで積載違反が約4万7,000件(17.1%)となっている。

表6-38 高速自動車国道における交通違反取締状況(昭和50、51年)

(3) 交通警察体制の強化
 高速道路は、高速性、広域性及び閉鎖性を有しているため、専門的、技術的交通管理が必要とされる。そこで、高速道路を管轄する都道府県警察には、高速道路を専門に担当する高速道路交通警察隊が設置され、交通の指導取締り、交通規制、交通事故の処理等の活動を行っている。
 また、高速道路においては、斉一性のある交通管理が必要とされるので、都府県間の連絡調整や相互協力が重要であり、全国主要地点に高速道路管理室を設置して都府県間の連絡調整や指示に当たっている。
 昭和51年末現在、管区警察局高速道路管理室は8室、高速道路交通警察隊は31都道府県警察に58隊設置され、隊員数は約2,000人である。
 なお52年度には、高速道路における交通警察業務を中央において一元的にかつ専門に所管する組織として、警察庁交通局に高速道路管理官が設置された。

8 暴走族

(1) 暴走族の実態
 昭和51年11月末現在で、警察がは握している暴走族のグループ数及びグループ員等の数は、表6-39のとおりで、暴走族の総数、グループ数ともに前年に比べ、減少しているものの、グループに加入していない者が増加している。

表6-39 暴走族グループの構成状況(昭和50、51年)

 また、暴走族の構成員の年齢をみると、表6-40のとおりで、18歳から20歳までで全体の過半数を占めている。成人の構成率は、50年6月末の調査に比べ、わずかながら増加している。
 学識別構成は、表6-41のとおりで高校生が18.8%と最も多く、次いで工員等、会社員、店員の順となっている。
 また、使用車両は、二輪車33.3%、四輪車66.7%となっており、50年6月末の調査による二輪車41.7%、四輪車58.3%に比べ、四輪車への移行が目立っている。このことは、厳寒時においても、い集走行が行われるなど年間を通じて発生している要因ともなっている。
 地域別実態は、東京、関東管区に最も多く、グループ数で全国の58.3%、人員で82.8%、車両台数で78.9%を占め、次いで東北、近畿の順となってい

表6-40 暴走族の年齢別構成比(昭和51年11月)

表6-41 暴走族の学職別構成員状況(昭和51年11月)

る。
(2) 暴走族の動向
 昭和51年における暴走族のい集走行は、38都道府県においてみられ、その動きが活発であったのは、東京、大阪、兵庫及び関東管区内の各県であった。
 51年における暴走族の状況は、表6-42のとおりで、い集回数、参加延べ車両は前年に比べ、やや下回ったものの、参加延べ人員は前年を上回った。また、群衆の参加延べ人員は、「神戸まつり事件」の発生した5月をピークに大幅に減少した。

表6-42 暴走族のい集状況(昭和50、51年)

 特異事案としては、5月の神戸まつりに伴う群衆を巻き込んでの集団不法事案が発生したほかは、大規模な木法事案の発生はみられなかった。
 また、取締り警察官に対する公務執行妨害事件が14都県において、55件発生し、50年の14都県104件に比べ、大幅な減少となっているが、取締りそのものを集団で妨害するなど悪質な事件が目立った。
〔事例〕 神戸まつりに伴う不法事案
 5月15日夜から翌16日未明にかけ、神戸市内における神戸まつりに伴い、暴走族が群集を巻き込みながらい集(最盛時約6,000人)し、一部の者が、タクシー等通行車両を襲い転覆、放火したり、警察施設を含む建物等に放火したり、更に取締り警察官に投石するなどの不法行為を繰り返し、取材活動中のカメラマン1人が死亡し、負傷者68人を出したほか、警察署、派出所等建造物7棟及び警察車両、タクシー等車両184台 を損壊するなどの集団不法事案を敢行し、156人が検挙された(兵庫)。
 一方、51年に暴走族が第一当事者となった交通事故の発生状況は、表6-43のとおりで、発生件数215件、死者59人、負傷者323人となっており、違反種別では、最高速度違反が96件(44.7%)と最も多い。

表6-43 暴走族(第一当事者)による違反種別交通事故発生状況(昭和50、51年)

(3) 暴走族の取締り状況
 暴走族については、強力な取締り体制をとり、年間を通じて延べ7,609回に及んで警察官が出動し、出動警察官数は、前年の約75%増の約50万人に上った。
 特に、5月15日の「神戸まつり事件」発生以降、取締りの強化を図り、毎週土曜日には、平均1万3,700人の警察官を動員して、取締りに当たった。  その結果、暴走族事案の違反検挙状況は、表6-44のとおりで、1万5,269件、1万6,407人を検挙し、うち、1,408人を逮捕した。このうち、現場検挙の困難なものについては、証拠収集の後、事後捜査により、2,725件、2,318人を検挙し、うち、20人を逮捕している。
(4) 総合対策の推進
 暴走族の暴走行為等は取締り体制の強化とともに減少していることから、

表6-44 暴走族事案の違反態様別検挙状況(昭和51年)

警察においては、年間を通じて厳しい取締り体制で臨むこととしているが、道路交通関係法令の違反取締りのみでは、対策に限度があるため、違反行為の取締りと並行して背後責任の追及、グループの解体、少年に対する補導活動の徹底、家庭、職場、学校等との連携の緊密化を図るなど諸般の対策を総合 的に進めている。
ア 取締りの強化
 暴走族による暴走事案の取締りは、年間を通じて、厳しい取締り体制をもって臨み、違反の検挙に当たっては、道路交通法違反はもちろん、道路運送車両法等関係法令を適用し、取締りの徹底を図るとともに事後捜査、背後責任の追及についても徹底を期している。
イ 行政処分の強化と早期執行
 暴走族に対しては、再び危険な行為を繰り返させないために、運転免許の行政処分の早期執行を図るとともにその処分の適用の強化を図っている。また、同乗者その他の関与者についても処分を行っている。
ウ 関係機関等との連携の強化
 暴走族の実態は握に努め、関係機関との連携により、グループの解体、少年に対する補導活動の徹底を図るとともに家庭、地域、職場、学校等に対する指導の働きかけを進めている。
 また、新聞、テレビ、ラジオ等の報道機関の協力を得て、暴走族絶滅の広報活動を進めている。

9 今後の課題

 交通事故による死者及び負傷者が6年連続して減少するなど、交通事故の減少傾向は定着しつつあるようにみられ、このまま推移すれば年間の死者数を過去の最高であった昭和45年の半数に減少させるという第二次の交通安全基本計画に定める目標の達成も目前にある。
 しかし、自動車保有台数は、地方都市において特に高い伸び率を示しており、また、運転免許保有者数も毎年百数十万人の割合で増加しているなど交通警察をめぐる情勢は引き続き楽観を許さない。現在、自動車保有台数はアメリカに次いで世界第二位であるが、人口当たりの台数は欧米諸国に比べるとまだ少なく、輸送体系に占める自動車輸送の割合の増加とあいまって、自 動車の所有性向は、今後もなお続いていくものと予想される。したがって、このような事態に即応した適切な対策をとらなければ、交通事故の減少傾向を長期的に定着させることは困難であると思われる。
 また、歩行者、自転車利用者等のいわゆる交通弱者の事故比率が高いこと、都道府県間や都市間の事故率の較差が大きいこと等の問題が依然として残されている。更に、全体の死亡事故が減少してきている中で夜間における死亡事故の構成率が相対的に高まり、一部の地域においては増加傾向が見られるなど夜間における交通事故の防止は大きな課題となりつつある。
 ところで、これまでは、安全施設と取締り、すなわち「物」と「力」を中心として交通事故の多発形態、多発場所に対し、重点的に対策を講ずることにより、交通事故を減少させてきたということができよう。今後は、交通事故の減少傾向を長期的に定着させるため、これらの施策を更にきめ細かく推進し、質的な充実を図るとともに、運転者の自覚と責任ある行動を促すこと、すなわち「心」に訴える施策を強化することが、重要な課題となろう。
 一方、モータリゼーションの進展の過程において生じた交通渋滞や交通公害に対しては、都市機能の確保及び快適な生活環境の保持という観点から、都市総合交通規制をはじめとする各種の交通規制を積極的に推進し、適正な交通管理を行ってきたのであるが、自動車の利用と住みよい生活環境の確保とは、都市構造の改善、輸送体系の整備、車両の構造改善等の措置が溝じられない限り、相矛盾する関係にあり、よりよい生活環境の確保を求める国民の声は次第に大きくなりつつある。こうした国民の要望にこたえるため、都市総合交通規制を更に徹底することなどにより、快適な生活環境の確保に資する交通政策を行う必要がある。
 以上のことから、過去の施策の見直しの上に立って、交通政策を確立し、当面次のような事項を重点課題として、新たな展開を図ることとしている。
(1) 運転者管理対策の強化
 交通問題における運転者の意識ひいては心の問題の占める比重は高い。運転免許人口は、現在既に3,500万人を超え、昭和60年には4,700万人に達する と予想される。このすう勢を前提に考えると、運転免許制度を通じた交通行政の在り方を更に検討する必要があり、運転免許取得時の初心者の段階において、安全運転意識の徹底を図る一方、その後も繰り返し教育を行い、運転者の安全運転技能の向上に加えて安全運転意識及び運転マナーを高い水準に保つことが必要である。また、既に実施されている安全運転管理者制度も、このような点から一層強化されねばならない。このほか、子供はいずれその大部分が車を運転する機会に接することになることから、将来の運転免許取得者としての子供に対する安全教育の方策を検討する必要がある。
(2) 総合的な交通規制の推進
 現在実施している都市総合交通規制の対象都市の範囲を更に拡大し、交通流の適正化、生活ゾーン対策等を一層徹底させる一方、都市周辺部、都市間道路等における交通規制を強化するとともに、新開発地域についての先行規制を実施することにより、交通問題の総合的な解決を図る必要がある。また、これらの交通規制を効果的に推進するため、交通安全施設を計画的に整備するとともに、その維持管理の強化を図らなければならない。
(3) 効果的な交通指導取締りの推進
 交通指導取締りについては、その事故抑止効果を更に高める必要があり、このため的確な交通実態のは握と事故分析に基づき、効果的な活動を推進しなければならない。特に、死亡事故の半数以上が夜間に発生していることから、夜間取締り体制の充実強化と夜間取締りの特殊性に対応した資器材の整備を図る必要がある。また、都市総合交通規制の実効性を担保するため、規制実施と併せて、指導取締りの推進を図らねばならない。このほか、乗車用ヘルメット、シートベルトの着用についての指導等を強化するとともに、歩行者、自転車利用者等のいわゆる交通弱者の保護活動も強化する必要がある。


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