第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 銃砲の取締りと対策の強化

(1) けん銃の取締りの強化
ア けん銃使用犯罪は5年前の約2倍
 我が国の治安状態は欧米諸国に比べても非常に優れたものであるとされているが、その主な理由の一つとして、我が国においては、銃砲、特に人を殺傷する目的で作られたけん銃の所持に対し、極めて厳格な規制が行われていることが挙げられる。ちなみに、1975年のアメリカの殺人事件認知件数は2万510件で、そのうち約51%がけん銃使用によるものであるのに対し、同年の日本の殺人事件認知件数は2,098件で、そのうちけん銃使用によるものは、3.7%にすぎない。
 しかし、最近、我が国においてもけん銃使用犯罪が増加する傾向にあり、

表5-1 けん銃使用犯罪の状況(昭和47~51年)

最近5年間におけるけん銃使用犯罪の状況は表5-1のとおりで、51年は、222件であった。これは、47年の約2倍に当たり、なかでも殺人に使用されるものの増加が著しい。特に、暴力団が白昼公然と市民の目前で撃ち合うなどの凶悪な事件が後を絶たないため、警察では、けん銃に対する取締りを強化して、けん銃使用事犯の未然防止に全力を挙げている。
イ 過去最高のけん銃の押収
 最近5年間において、「銃刀法」(銃砲刀剣類所持等取締法)違反として押収したけん銃の状況は、図5-1のとおり増加の一途をたどり、警察は、昭和51年には、過去最高の1,564丁を押収した。このうち暴力団からの押収が9割近くを占め、社会的に大きな脅威となっている。
ウ 依然多い改造けん銃
 がん具の銃器の改造事犯は、増加の傾向にあり、図5-1のとおり昭和51年は1,016丁の改造けん銃を押収した。

図5-1 けん銃の押収状況(昭和47~51年)

 警察では、これらの改造により容易に人を殺傷する能力を有することとなるがん具が、大量に市販され、誰でも容易に入手できるという事態を重くみて、改造けん銃の押収量が急増しつつあった49年、業者に自粛するよう強く呼び掛けた結果、業者が自主規制によって、がん具けん銃の銃身、遊底等にドリルの刃を通さない硬い特殊鋼を鋳込むことによって改造を困難にし、これにいわゆるsmマークを付して、51年11月以降市販してきた。しかし、この自主規制にも、これに従わない業者がいたほか、最近、改造用工具の性能や技術が進んだことにより、smマーク付きのものまで改造されるなどその徹底を期し難い状況が生じてきた。
 警察では、けん銃使用事犯の未然防止を図るため、これらの製造、販売等に対する早急な規制の強化を検討している。
〔事例〕 旋盤技術を有する暴力団員ら3人が、人目につきにくい郊外の畑の中の貸工場を借り、電気ドリル、旋盤等を使ってsmマーク付きがん具けん銃約30丁を改造し、暴力団員に売りさばいていた事犯で、1人を検挙し、2人を指名手配した(大阪)。
エ 急増した密輸入けん銃
 押収された真正けん銃のほとんどは、過去において密輸入されたものであるとみられる。最近5年間の真正けん銃の押収状況は図5-2のとおりで、昭和49年以降増加の傾向をたどり、51年は前年に比べ約1.5倍の548丁を押収した。このうち、水際検挙等密輸入事犯の検挙により押収したけん銃数も、51年は前年に比べ約3倍の74丁と急増した。

図5-2 真正けん銃の押収状況(昭和47~51年)

 これは、暴力団が、改造けん銃は、真正けん銃に比べてその威力が弱く性能も低いため、再び真正けん銃に目を向け始めたことによるものと思われる。
 最近の密輸入事犯の特徴としては、買い付け役、運び役、売りさばき役等の任務分担を決めたり、内部をくり抜いた木像の中や土産品を装ったアイスクリームの中に隠匿するなど組織化、巧妙化の傾向がみられる。また、仕出地(積出地)としては、タイ及びアメリカで全体の約9割を占め、特にアメリカからの密輸入が増加している。
〔事例〕 滞米中の日本人旅行あっせん業者と土産店経営者が、国内の暴力団に売却して利益を得る目的で、米軍の軍事郵便を利用してけん銃11丁を密輸入しようとしたが、税関の検査で発見され、警察が捜査した結果、密輸入ルートを解明し、暴力団員ら15人を検挙した(神奈川)。
 外国との人的、物的交流の活発化により、検挙活動はますます困難となっているが、警察では、税関その他の関係機関と連絡を密にするなどして一層検挙に努めるとともに、密輸入事犯の防止対策の強化を検討している。
(2) 猟銃に対する指導取締りの強化
ア 厳正な所持許可
 許可を受けて所持されている猟銃及び空気銃の数は、図5-3のとおりで、ライフル銃は減少傾向にあるが、散弾銃は増加傾向を示している。

図5-3 許可を受けて所持する猟銃及び空気銃の状況(昭和47~51年)

表5-2 猟銃又は空気銃を使用した犯罪の発生状況(昭和47~51年)

 警察では所持許可の審査を厳正に行っているが、許可後にその猟銃や空気銃を使用した犯罪も後を絶たず、その状況は表5-2のとおりである。
 警察では、所持許可後においても必要の都度検査を実施し、銃刀法違反等一定の事由に該当する者については許可を取り消すなど厳正な運用に努めるとともに、その目的に沿った使用がなされていないいわゆる「眠り銃」については、事故防止のため譲渡、廃棄等の指導を行っている。
イ 所在不明銃の取締り
 都道府県公安委員会が所持を許可した猟銃及び空気銃は、所持者が自らの責任において適正に保管し、所持者の転居等の場合は届出を行わなければならないこととされている。しかし、住所を移転しても届出を怠ったり、不法に譲渡したり、また、盗難にかかったりしてその所在が不明となる猟銃や空気銃があり、これらのいわゆる所在不明銃の状況は、表5-3のとおりで、徹底した追及捜査により年々減少傾向にあるが、なおかなりの数が所在不明となっている。
 所在不明銃は、暴力団の手に渡ったり、各種犯罪に使用されるものもあるので、警察では所在不明銃の全国手配書を作成し、都道府県警察の連携による追及捜査を全国的に実施している。

表5-3 所在不明銃の状況(昭和47~51年)

ウ 狩猟事故の防止
 狩猟に伴う猟銃及び空気銃による事故は、表5-4のとおり昭和50年度以降減少傾向を示し、51年度は前年に比べ大幅な減少をみた。
 これは、50年7月以降、狩猟初心者について、あらかじめ指定射撃場で標的射撃を実施しなければ狩猟免許を取得できないとされたことや、猟銃用実包の譲受数量の制限その他の施策の推進によるとみられる。
 狩猟事故の発生原因をみると、銃の操作ミス等による暴発が58件(45.7%)と最も多く、次いで矢先(銃口の方向)の安全不確認の51件(40.2%)その他となっている。警察では、指定射撃場における狩猟初心者に対する射撃訓練の徹底、猟銃の引鉄の重さの検査等を行ってこの種の事故防止に努めている。

表5-4 狩猟期間中における猟銃及び空気銃の事故発生状況(昭和47~51年度)

2 覚せい剤、麻薬事犯等の取締り

(1) 急増する覚せい剤事犯
ア 覚せい剤事犯の情勢

 昭和29年以降の覚せい剤事犯の検挙人員の状況は、図5-4のとおりで、48年の法改正による罰則の引上げや強力な取締りの実施等により、49年には一時減少したものの、50年から再び増加に転じ、51年には前年に比べて29.9%増の1万678人の検挙となり、20年代後半の「ヒロポン」時代に続く戦後第2の覚せい剤乱用時代となりつつある。これは韓国、香港、台湾等からの大規模な密輸入や国内での本格的密造が増加し、暴力団が最大の資金源として新たな需要層を一般市民に求めて組織的密売を続けたためである。
 覚せい剤事犯は、44年ごろまでは一部の地域にみられたにすぎなかったが、48年からは全国の都道府県で検挙をみるに至り、51年には国内航空便利用による新たな広域密売形態も現われ、事犯のほとんどが数都道府県にまたがる広域事犯となっている。
 最近5年間における覚せい剤事犯の検挙人員中に占める暴力団関係者の状況をみると、表5-5のとおりで、51年には検挙人員中の58.7%に当たる6,268人が暴力団関係者となっており、密売事犯のほとんどはこの暴力団関係者によって行われている。
 また、暴力団関係者以外の検挙人員が増加傾向にあり、覚せい剤乱用がトラック、タクシー運転手、農民、漁民のほか主婦、少年等にも浸透しつつある。

図5-4 覚せい剤事犯検挙人員の状況(昭和29~51年)

表5-5 覚せい剤事犯における暴力団関係者の検挙状況(昭和47~51年)

図5-5 覚せい剤、同原料の押収状況(昭和47~51年)

 覚せい剤及び同原料の押収状況は、図5-5のとおりで、51年の覚せい剤粉末押収量は31.7キログラム、同原料粉末押収量は36.2キログラムとなっている。ちなみに末端における1回の注射量を約0.03グラムとして換算してみると、押収した覚せい剤粉末31.6キログラムは約105万3,000回分に相当し、1日、1回使用すれば約3万5,000人が1箇月間使用できる量である。
イ 増加する密輸入と密造
 最近5年間における覚せい剤密輸入及び密造事犯の検挙状況は、図5-6のとおりである。覚せい剤の供給源は、昭和44年ごろまでは国内における密造がかなりの部分を占めていたが、45年ごろから韓国ルートの密輸入が増加

図5-6 覚せい剤密輸入、密造事犯検挙件数の推移 (昭和47~51年)

し、その後はほとんどが密輸入されるようになった。特に、51年には、日本人が台湾に密造工場を作り、現地人グループと共謀して大量の覚せい剤を密造した上、日本へ密輸入するなどの大規模な事犯、素人による一獲千金を夢みた事犯も多発し、密輸入は大幅に増加した。
 一方、国内の密造事犯についてみると、48年ごろから塩酸エフェドリンを原料として化学的に覚せい剤を合成する、いわゆる本格的密造が目立ちはじめ、それ以降漸増している。特に51年には、関東各地に密造工場を作り、市販のせき止め薬から塩酸エフェドリンを抽出して覚せい剤を密造する大規模な事犯が検挙された。
〔事例1〕 倒産で多額の負債を抱えた元建設会社経営者がその返済と事業の再建資金に充てるため、商用を装って韓国へ渡航し、3回にわたり覚せい剤2.1キログラムを韓国製味付のり缶の中に巧妙に隠匿の上、航空機で密輸入した事犯を検挙し、国内の関連暴力団密売組織を壊滅するとともに覚せい剤約1キログラムを押収した(兵庫)。
〔事例2〕 金融業者等3人が、密造技術を持つ暴力団員と共謀して、覚せい剤原料を含有する市販のせき止め薬を大量に買い集め、神奈川県内の海浜別荘等9箇所において、このせき止め薬から塩酸エフェドリンを抽出した上、覚せい剤3.4キログラムを密造し、これを関東地方を中心に暴力団に密売し、巨利を得ていた(警視庁)。
ウ 覚せい剤の薬理作用による犯罪等の多発
 覚せい剤には、麻薬と同じように習慣性があるため、常用すると中毒となり、精神障害に陥る場合もある。また、覚せい剤乱用の弊害は中毒者自身の精神的、身体的破壊にとどまらず、その薬理作用による幻覚、もう想等から発作的に殺人、放火、傷害等の犯罪を犯したり、覚せい剤の売買その他に絡む強盗、窃盗、恐喝等の犯罪を犯すことが多い。
 覚せい剤の薬理作用等による刑法犯の検挙状況は表5-6のとおりで、51年は463件、383人を検挙したが、前年に比べ97件(26%)、62人(19%)増加した。

表5-6 覚せい剤の薬理作用等による刑法犯の検挙状況(昭和50、51年)

〔事例1〕 覚せい剤を常用していた男が、中毒となり、妻が外出中、「人に追われている。誰かにねらわれている。」という幻覚、もう想に陥り、これにおびえてやにわに就寝中の長男(生後4箇月)を柳刃包丁で突き刺して殺害した後、自宅押し入れに隠していた(警視庁)。
〔事例2〕 暴力団関係者から入手した覚せい剤を常用したため中毒となった長距離トラック運転手が、鮮魚等を大型保冷車に積み、仙台から東京へ向け走行中、「暴力団員がトラックの屋根に乗り追い駆けてくる。」という幻覚、もう想に陥り、これから逃れようと時速約90キロメートルの速度で暴走し、対向車3台に次々と接触、あて逃げした上、国道わきに転落して頭部、顔面等を負傷した(福島)。
(2) 大量の麻薬密輸入事犯の増加
ア 麻薬事犯の検挙状況
 最近5年間における麻薬事犯の検挙件数、検挙人員の状況は、表5-7のとおりで、ほぼ横ばいの傾向にある。麻薬事犯の中で大麻事犯は、昭和40年代後半から増加傾向を示しており、51年には、その検挙者は、735人になり、全麻薬事犯検挙者の75.1%を占めるに至った。反面、ヘロイン等の麻薬取締法違反は減少傾向を示している。

表5-7 麻薬事犯検挙件数、検挙人員の状況(昭和47~51年)

表5-8 麻薬の種類別にみた押収量の状況(昭和47~51年)

 最近5年間における麻薬別の押収量の状況は、表5-8のとおりである。51年には、乾燥大麻106.156キログラム、大麻樹脂18.365キログラムを押収し、前年に比べて乾燥大麻が1.8倍、大麻樹脂が8.5倍とそれぞれ大幅に増加し、戦後最高の押収量となった。一方、その他の麻薬は、大幅に減少した。
イ 大麻の押収量の増加とその背景
 乾燥大麻及び大麻樹脂の押収量が増加した背景としては、次のようなことが挙げられる。
○ 国際的な麻薬密輸密売組織が、我が国を新たな麻薬市場として開拓することを企図し、外国人船員、外国人旅行業者らを利用して大量の麻薬を持ち込むケースが多くなっている。
○ 国際的な麻薬運び屋の間では、「日本が麻薬の少ない国という評価があるために、東南アジアから日本を中継してアメリカ、カナダ等に麻薬を運搬すると日本から来たということで、目的地でのチェックが甘くなり密輸が容易になる。」と言われており、東南アジアから北米等に向けての中継地点として我が国を利用しようとしている。
○ 我が国からの海外旅行者の増加に伴って、海外で麻薬を経験し、持ち帰る者、経営不振に陥り一獲千金を夢みて東南アジアから大量の麻薬を密輸入する者等が増えている。
 昭和51年の麻薬別の仕出地としては、乾燥大麻は、タイがほとんどで、そのほかでは、アメリカ、インド、インドネシア、香港等である。大麻樹脂は、パキスタンがほとんどで、そのほかでは、インド、タイ、ネパール等である。
〔事例〕 国際的な麻薬密輸密売組織が、前後2回にわたり、西ドイツ人の運び屋2人を使ってタイからカナダへ大麻を運ぶ途中、東京国際空港に立ち寄ったところを東京税関と協力して水際検挙し、乾燥大麻16キログラムを押収した(警視庁)。
(3) 外国取締機関との協力
 最近5年間における日本人の外国での覚せい剤、麻薬事犯による検挙状況

表5-9 外国で検挙された日本人の覚せい剤、麻薬事犯の状況 (昭和47~51年)

は、表5-9のとおりである。麻薬事犯については、昭和51年にこれまでの最高の20件、32人が検挙された。犯行地域としては、東南アジアが大半を占めているが、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、中近東その他の広い地域にまで及んでいる。覚せい剤事犯については、51年にこれまでの最高の12件、19人が検挙された。犯行地域としては、50年まで韓国のみに限られていたものが、51年には香港、台湾へも広がっている。
 覚せい剤、麻薬事犯に対する主要な対策の一つは外国からの覚せい剤、麻薬の日本への供給を断つことである。そのためICPO等を通じて外国関係機関と緊密な情報交換を行った。また、覚せい剤、麻薬犯罪に関する情報交換のほか相互理解による協力関係の保持及び捜査技術の向上のため9月27日から10月21日までの25日間、警察庁と国際協力事業団の共催により、韓国、タイ、マレーシア、インド等17箇国から20人の麻薬犯罪捜査官の参加を求め、第15回麻薬セミナーを開催した。
〔事例〕 神奈川と京都における暴力団組員らによる台湾からの覚せい剤密輸入事件の検挙情報をICPOを通じ台湾へ送った結果、台湾取締当局は、日本人3人、台湾人14人の密造組織を摘発し、日本に密輸入されようとしていた覚せい剤約70キログラム、同原料約321キログラムを押収した。
(4) 健康侵害事犯の取締り

 国民の生命や健康に直接影響を与える健康侵害事犯の取締り状況は、図5-7のとおり逐年増加の傾向にある。健康侵害事犯は、薬事、医事、食品衛生関係等に大別されるが、これを法令別にみると、毒物及び劇物取締法違反が大半を占め、次いで食品衛生法違反、薬事法違反、医師法違反等の順となっている。

図5-7 健康侵害事犯検挙状況(昭和47~51年)

  

 健康侵害事犯の特徴的な傾向としては、シンナー等の有機溶剤の吸入禁止違反が大幅に増加したこと、保健ブ-ムに便乗して健康食品を医薬品として販売した事件や、「にせ薬」の製造販売によって経営不振をばん回しようとした事件が多かったこと、「にせ医者」が依然後を絶たないこと、無許可の飲食営業事犯が多かったことが挙げられる。なお、食中毒事件の発生も後を絶たない状況にある。
 健康侵害事犯は、直接、国民の生命、健康に重大な影響を与えるものであり、社会的関心も高いので取締りの強化に努めている。特に、人の弱味に付け込んで、不法に金もうけをしようとする悪質な事犯に対しては、今後とも積極的な取締りを続けるとともに、関係行政機関に対し、指導監督の強化を要望し、違反の未然防止に努める必要がある。
〔事例1〕 病院長(39)が、「夜の帝王」の異名をとるほど連夜のように飲み歩き、その間、院長代わりとしてエックス線技師に患者の診察をさせ、またアルバイト学生を医師代わりとして、長期間にわたり違法な治療行為をさせていた(福島)。
〔事例2〕 ドリンク剤の製造販売会社が、事業不振をばん回すべく、かき渋を入れた偽医薬品を製造し、これを「アルクール」と称し、酒酔いを覚ます薬として、大々的に宣伝して全国的に販売し、不法利益約8,334万円を得た(警視庁)。

3 風俗環境浄化への取組

(1) 風俗営業等の指導取締り
ア 変ぼうする風俗営業
 キャバレー、バー、料理店、マージャン屋、パチンコ屋等風俗営業等取締法によって、都道府県公安委員会が営業の許可を与えている風俗営業の最近5年間における営業所数の推移は、表5-10のとおりで、総数ではおおむね横ばいの状況を示している。
 これを業種別にみると、数の上で最も多く、風俗営業の主流を占めているバー、料理店が、毎年減少を続けているのに対し、キャバレー、ナイトクラブは毎年増加を続けている。
 このようにキャバレー、ナイトクラブが増加している原因としては、キャバレーについては、低料金システム等による大衆化が進んできていること、大手業者がチェーン店方式で営業の拡大を図り、競って地方都市に進出したことなどが考えられ、またナイトクラブについては、いわゆるディスコ営業その他青少年を主な客層とする営業の増加等が考えられる。
 反面、料理店、バー等が減少しているのは、キャバレー、ナイトクラブの

表5-10 風俗営業の営業所の状況(昭和47~51年)

増加やスナック、サパークラブ等風俗営業まがいの営業の増加によることが大きな原因と考えられる。
 また、遊技場営業においては、マージャン屋が毎年大幅な増加を続け、パチンコ屋も総数においては横ばいであるが、設置台数は5年前に比べ約40万台も増加し、約200万台に達する勢いを示しており、店舗の大型化が進んでいる。
 このように風俗営業の業種別状況は、社会一般の動きを反映して徐々に変ぼうしており、その営業内容においても、いわゆるピンクサービスのような享楽度の高い営業形態をとるものが増加してきている。
〔事例〕 神奈川県下及び都内に8箇所の支店をもつキャバレー営業会社が、営業不振ばん回のため、各支店に過酷な売上げを強要し、各支店ではそれぞれホステスにテーブルの上で全裸になって踊らせ、客との間で互いに陰部に触れさせ合うなどの極めて卑わいな接待行為を行わせていた(神奈川)。
 最近5年間の風俗営業における違反の検挙状況は、表5-11のとおりである。
 昭和51年の風俗営業に伴う法令違反を態様別にみると、図5-8のとおり

表5-11 風俗営業による違反の検挙状況(昭和47~51年)

図5-8 風俗営業に伴う法令違反の態様別比較(昭和51年)

で、営業時間の制限違反が最も多く、次いで年少者に関する禁止行為(18歳末満の者に客の接待をさせたり、客として営業所に立ち入らせたりする行為)、客引行為等がこれに続いている。
 都道府県公安委員会では、このような違反を犯した風俗営業者に対しては、許可の取消し、又は6箇月以内での営業停止処分等を行っている。
イ 風俗営業まがいの深夜飲食店
 スナック、コンパ等深夜飲食店は、風俗犯罪や少年非行の温床となるおそれがあるところから、風俗営業等取締法によって営業場所、営業時間、営業行為等の制限を受けているが、その数は、表5-12のとおり23万8,434軒であり、風俗営業等取締法によって深夜飲食店営業に対する規制が強化された昭和39年に比べて約4倍となっている。
 なかでも風俗営業以外のバー、スナック、サパークラブ等洋風設備を備え、風俗営業に類似した営業形態の営業所が増加している。
 このような深夜飲食店の増加は、業者間の過当競争をもたらしており、客を確保するため、年少者を雇い入れて客の接待をさせる違反行為等、一部においては無許可の風俗営業を常態として行っているものもみられるほか、検

表5-12 深夜飲食店営業の状況(昭和47~51年)

表5-13 深夜飲食店営業の検挙件数(昭和47~51年)

挙を免れるための手段を講ずる事犯が目立つなど悪質な営業が現れてきており、これらの違法営業に対しては強力な取締りを行っている。
 最近5年間における深夜飲食店営業の検挙状況は、表5-13のとおり逐年増加しており、51年は、前年に比べ、1,271件(19.2%)の増加となっている。
 違反態様別にみると、例年のとおり、時間外営業(例えば、「主として酒類を提供する営業」については、午前零時以降営業ができない。)が最も多く、次いで無許可風俗営業、年少者使用等となっており、前年と比べ、無許可風俗営業、児童福社法違反の増加率の高いことが特徴的である。
 都道府県公安委員会は、これらの違法営業を営む者に対しては、6箇月以内での営業停止処分等を行って、適正な営業が営まれるよう努めている。
〔事例〕 無許可の風俗営業を営んでいる深夜飲食店経営者が、警察の取締りを免れるため、店舗出入口にテレビカメラや透視鏡を設置して客のチェックを行う一方、店内には三重ドア、自動照明切替装置を設け、雇用した年少者には年令を詐称するよう教え込んでいた(鹿児島)。
ウ 青少年のたまり場となっているディスコ営業
 主として青少年を客層とし強烈なリズムの音楽を流してダンスをさせるいわゆるディスコ営業は、ここ1、2年の間に全国的に増加し、その多くが風俗営業(主としてナイトクラブ)に当たる営業形態であって、青少年のたまり場となっているところから問題となっている。
 このため、昭和51年11月末全国いっせいにこの種営業の実態調査を行ったところ、全国営業所数674軒のうち、307軒(45.5%)が無許可風俗営業であったため、これら違法営業に対する指導取締りを強力に行った。
(2) 善良な性風俗保持のために
ア 年少者による売春の増加
 最近5年間における売春防止法違反の検挙状況は、表5-14のとおりで、売春防止法が完全施行された翌年の昭和34年をピークに以後減少を続けていたこの種事犯の検挙が、51年は件数、人員とも前年に比べて増加した。
 その内容は、ソープランドにおける売春、マッサージ等を偽装した売春、バーのホステスらによる売春等従来からみられるものに加え、最近は年少者や主婦による売春が目立っており、特に注目されるのは、年少者による売春の増加である。
 最近5年間において、警察が保護した売春婦について、年齢層別にその推移をみると図5-9のとおりで、18歳末満の婦女は、5年前に比べて3.2倍

表5-14 売春防止法違反検挙状況(昭和47~51年)

の増加となっている。
 年少者の売春事犯には、暴力団員、悪質な風俗営業者等によるものが多い反面、性に対する好奇心、小遣い銭欲しさ等の理由で極めて安易に売春を行っていた例など婦女自身の側にも問題があると思われる事犯も少なくない。
〔事例1〕 友人宅から帰宅途中、声を掛けてきた男に誘われるままにモーテルで売春をした女子中学生が、その友人の女子中学生2人に「小遣いが欲しければ男と遊べばよい。」と売春をそそのかし、その誘いに応じた同女らと売春グループを作り、最初に売春の相手方となった男を介して売春の相手客のあっ旋を受け、モーテルその他で売春を行っていた(青森)。
〔事例2〕 覚せい剤を常用している無職の夫婦が覚せい剤購入資金に窮した結果、女子中学生に売春させることを企て、実娘の中学生を利用して、その友人の女子中学生3人を自宅に呼び寄せ、言葉巧みに売春をそそのかし、覚せい剤密売人である暴力団員等にあっ旋し、売春の対価の大部分を取り上げ、覚せい剤購入資金に充てていた(栃木)。

図5-9 売春婦の年齢層別状況(昭和47~51年)

 最近5年間に、売春防止法違反で検挙した暴力団関係者の人員は、表5-15のとおりで、表5-41と比べると売春事犯の中でも最も悪質な管理売春事犯の比率が最も高く、次いで周旋、勧誘、場所提供の順となっており、売春と暴力団関係者との関係が依然として根深いことがうかがわれる。
 昭和51年中に売春防止法違反で検挙した被疑者を職業別にみると、図5-10のとおりで、無職(街しょう、ポン引き等)が最も多く、次いで旅館業者、料理店等の接客業者、ソープランド営業関係者の順となっている。

図5-10 売春防止法違反被疑者の職業別状況

表5-15 暴力団関係者の検挙人員(昭和47~51年)

イ まん延するソープランド売春
 ソープランド営業は、その営業内容から半ば公然と売春その他の性的行為が行われているとして社会一般の批判を受けているが、その数は、表5-16のとおり毎年増加を続けている。
 昭和51年に売春関係事犯によって検挙したソープランド営業所の数は、95軒であり、前年に比べて17軒増加しており、これに伴い、検挙件数、人員も増加している。  この種事犯は、営業者とソープランド従業員とが結託して巧妙に取締り対策を講じて

表5-16 ソープランド営業及びソープランドの推移(昭和47~51年)

いること、事犯の性質上、客の協力を得ることが難しいことなどのことから取締りはますます困難となってきている。
〔事例〕 ソープランド経営者(45)が、店長(49)を採用するに当たり、同人に対し、「警察に検挙されても弁護士料、保釈金等の費用は一切もつからソープランド従業員に売春させろ。」と指示し、店長は、ソープランド従業員に対して、指名回数による点数制度を採用して、成績不良者に対しては過酷な罰金を科すなどして強制的に売春を行わせていた(愛媛)。
ウ わいせつ犯罪の取締り
 海外における「ポルノ解禁」のムードの高まりは、近年我が国にも微妙な影響を及ぼし、国内における享楽的風潮のまん延と一部における法無視、法軽視の傾向と相まって、善良な風俗を害する事案が増加している。
 警察は、わいせつ事犯が単に国民の善良な性風俗を害するのみならず、青少年の健全育成に重大な悪影響を与えるおそれがあるところから、性風俗に関する複雑な社会実態を注視しながら、悪質なものに対してはその取締りの徹底を期している。
 最近5年間におけるわいせつ犯罪の検挙状況は、表5-17のとおりである。
 公然猥褻(わいせつ)事犯の代表的なものは、ストリップ劇場、ヌードスタジオ等における悪質なショーであるが、これらは警察の相次ぐ取締りにもかかわらず、

表5-17 わいせつ犯罪検挙状況(昭和47~51年)

取締りの間げきをぬってますますエスカレートする傾向にある。
〔事例〕 温泉旅館経営者3人が共同経営者となって、温泉地郊外にストリップ劇場を開設し、芸能プロダクションからあっ旋を受けたストリッパー6人に対してわいせつなショーを行うことを指示、これを承知した同人らは、観客を舞台上に呼び上げて、性交の実演を伴う極めてわいせつなショーを行っていた(北海道)。
 猥褻(わいせつ)物販売等の中では、広域暴力団による組織的なブルーフィルム密造販売事犯、大掛かりなわいせつ写真その他の通信販売事件等が後を絶たず、特に業者が自動販売機を利用してわいせつ図書等を大量に販売した事犯が目立っている。
 このほか海外旅行で購入したブルーフィルムを、ひそかに国内に持ち込み、友人その他に転売していたもの、観光会社が観光バスの中でわいせつビデオテープを上映し団体客らに観覧させたものなど事犯がますます多様化している。
〔事例1〕 東京の出版物販売業者(32)が、同業者と共謀の上、自動販売機によるわいせつ写真誌の販売を企て、モデルを雇い入れてわいせつ写真誌1万部を製作して自動販売機のリース業者ら約50店に卸し、これらの業者が自動販売機で販売していた事犯でわいせつ写真誌2,291冊を押収した(宮城)。
〔事例2〕 広城暴力団幹部が、わいせつ物の通信販売を企て、大人のおもちゃ店経営者や印刷ブローカーと共謀して、外国製わいせつ写真、ブルーフィルムを多量に製造し、中、高校生を含む約7,000人にカタログを郵送し、うち約600人にいわゆる局止めによる通信販売を行っていた(静岡)。
 昭和51年にわいせつ犯罪で検挙した暴力団関係者は、公然猥褻(わいせつ)罪では70人(公然猥褻(わいせつ)罪総検挙人員の2.9%)、猥褻(わいせつ)物販売等では420人(猥褻(わいせつ)物販売等総検挙人員の34.3%)であり、わいせつ犯罪の中でも猥褻(わいせつ)物販売等に介入する暴力団関係者が多いことを示している。
 51年に押収したわいせつ物の状況は、図5-11のとおりで、前年に比べ総数において11万4,192点(81.5%)の増加である。
 特にわいせつ写真の増加が著しいが、これは暴力団による大掛かりな密造販売事犯を検挙し、多数のわいせつ写真を押収したことによるものである。

図5-11 押収したわいせつ物の状況(昭和51年)

(3) ギャンブル犯罪との闘い
ア 増加するギャンブルマシン
 スロットマシン、ルーレット等に代表されるいわゆるギャンブルマシンは、年ごとに高まるギャンブル熱の影響を受けてここ数年来全国的に激増する傾向にある。
 専業として営むいわゆる「メダルゲーム場」は、昭和51年の10月末現在で1,274軒と、前年に比べ116軒(10.0%)増加しているのをはじめ、副業的に遊技機を設置している者あるいはこれらの設置業者と製造業者との間にあって、遊技機を貸付けるいわゆるリース業者も相当増加していることがうかがえる。
 この種の遊技機は、遊技機そのものに偶然性が極めて高く、風俗営業等取締法による遊技場(7号営業)の遊技機としては許可していない。そのため遊技の結果に対して賞品等は提供しない建前で使用されている。
 ちなみに、51年10月末の警察の調査では、全国では握されているギャンブルマシンの総数は、3万9,314台で、全体の63.2%に当たる2万4,854台がいわゆるメダルゲーム場に、6,764台(全体の17.2%)が飲食店(3,977軒)、3,772台(全体の9.6%)が旅館、ホテル(813軒)に設置されている。
 これらのギャンブルマシンは、もともと外国で専ら賭博用に製作されたものであることや改造が比較的簡単であるところから、メダルの代わりに直接100円硬貨を投入できるように機械を改造して客に現金をかけさせたり、客が遊技の結果得たメダルやチップを閉店後に換金したりする賭博行為に使用している営業者が多く、51年に検挙した全賭博事件の3分の1がギャンブルマシンを使用するものであった。
 最近5年間におけるギャンブルマシンを使用した賭博事犯の検挙状況は、表5-18のとおりで、この種の事犯には、暴力団の介入も盛んであり、メダルゲーム場を仮装したルーレット賭博場を開設し、短期間に巨額な利益を上げていた事犯やギャンブルマシンのリースその他をめぐって暴力団の対立抗争事件にまで発展した事犯がみられるなど暴力団の資金源としても軽視できない状況にある。

表5-18 ギャンブルマシンによる賭博事犯検挙状況(昭和47~51年)

 51年にギャンブルマシンを使用した賭博事犯によって検挙した営業所数は、744軒で、その内訳は、図5-12のとおりで、また、賭博の証拠品として押収したギャンブルマシンは、1,730台、押収したかけ金は、8,497万7,852円であった。

図5-12 ギャンブルマシンを使用した賭博事犯で検挙した営業所数(昭和51年)

〔事例〕 暴力団の組長が、資金源に充てるため、繁華街にメダルゲーム場を開設し、リース業者からルーレットを借り入れるとともに輩下の組員を従業員とし、商店店主、医師、会社員らを相手にルーレット賭博を行い、約1,000に上る不法利益を上げていた(福岡)。
イ 公営競技をめぐる犯罪
 公営競技(競馬、競輪、競艇及びオートレース)をめぐる勝者投票類似の行為(いわゆる「ノミ行為」。)の最近5年間の検挙状況(客も含む。)は、図5-13のとおりである。ノミ行為は、暴力団にとって格好の資金源となっており、検挙人員に占める暴力団関係者の比率は依然として高い。警察では、これら暴力団の資金源壊滅に重点を置き、集中取締りを反復実施するなどノミ行為の取締りに努めている。
〔事例〕 競艇場のノミ行為掃滅作戦
 三重県警察本部においては、競艇場特観席における暴力団員によるノミ行為が公然化してきたことなどから、プロジェクトチームによる取締

図5-13 ノミ行為検挙状況(昭和47~51年)

専従班を編成して、ノミ行為掃滅作戦を実施し、第10次にわたり総数57人の被疑者を検挙するなどノミ行為防止対策を推進した(三重)。

4 経済事犯の取締り

(1) 増加した不動産事犯
ア 取締り状況
 最近5年間の不動産事犯検挙件数の状況は、図5-14のとおりである。昭和51年には、1,979件、1,699人を検挙し、前年に比べ496件(33.4%)、366人(27.4%)と大幅に増加した。これは、「宅建業法」(宅地建物取引業法)違反が増加したためである。
 その主な態様は、図5-15のとおりで、無免許営業事犯が最も多いが、不

図5-14 不動産事犯検挙件数の状況(昭和47~51年)

動産業者が、粗悪な物件を詐欺的手段を用いて売りつけたとみられる重要事項不告知事犯や誇大広告事犯も依然として多い。

図5-15 宅建業法違反態様別検挙状況(昭和51年)

イ 被害の実態
 昭和51年4月に実施した「不動産関係事犯取締り強化月間」中に検挙した宅建業法違反709件のうち、詐欺的要素のある重要事項不告知事犯211件と誇大広告事犯48件について被害実態を調査した結果は、図5-16のとおりである。重要事項不告知事犯では、都市計画法、農地法等の法令による規制があるのにこれを告知することなく売りつけたものと宅地建物の構造、設備等について不実を告知したものが最も多く、それぞれ67件(31.7%)を占めている。また、誇大広告事犯では、土地や建物の所在地までの距

図5-16 被害の実態(昭和51年4月)

離を偽ったものが最も多く20件(41.7%)を占め、次いで宅地や建物の環境、設備を偽ったものが19件(39.6%)を占めている。
 警察は、今後とも、強力な取締りを実施するとともに、物件の権利関係、法令に基づく規制の有無の確認等被害予防上の配意事項について広報を行うこととしている。
〔事例1〕 多額の負債を抱えた不動産業者(49)らが、宅地として利用できない土地を簡易造成し、取締りを免れるため各区画に粟の苗木数本を植えて「栗園」に見せ掛け、顧客に対しては、「すぐに家が建てられる。水道本管も来ている。」などと不実のことを告げ、宅地として34人に約1億円で販売するなどした事犯により、3法人、27人を検挙した(兵庫)。
〔事例2〕 悪質不動産業者(26)が宅地を販売するに際し、現地は国鉄駅から約42キロメートルの交通不便な遠隔地にあるのに、「駅よりバス8分、バス停直前」と表示したちらし約370万枚を新聞折込みによって1都2県下に配布した事犯により、1法人、2人を検挙した(千葉)。
(2) 国際金融事犯の多様化
ア 増加した外為法違反事件
 我が国と外国との各種取引に伴って発生する関税法及び「外為法」(外国為替及び外国貿易管理法)違反等の検挙状況の推移は、表5-19のとおりで、

表5-19 関税法及び外為法等違反の検挙状況(昭和47~51年)

ここ数年関税法違反が減少し、外為法違反が増加している。
 昭和51年における外為法違反の検挙は、730件、436人で44年以降の最高となった。外為法違反が増加した背景としては、第1に我が国と諸外国との貿易の拡大と海外旅行者の増加、第2に、「円」の需要の拡大、第3に台湾、韓国等における我が国への経済依存度の高まりなどが挙げられる。
 警察は、増加傾向にあるこの種事犯について関係機関と連携をとりつつ悪質な事犯を重点に取締りに当たっている。
イ ヤミ決済の原因と相手国
 昭和51年の外為法違反に係るヤミ決済額は、47億3,614万円で外国への不正支払が26億5,538万円、外国からの不正受領が20億8,076万円となっており、原因別状況は図5-17のとおりである。
 また、不正決済の相手国は、支払については台湾が全体の80.9%を占め、次いで韓国(8.7%)、香港(5.4%)、タイ(2.6%)、フィリピン(1.4%)、インドネシア(1.0%)、受領についてはアメリカからのものが全体の63.9%を占め、次いで台湾(19.1%)、韓国(17.0%)となっている。
 この種事犯は、47年5月の外貨集中制度の廃止以後、外貨の個人所有が認らめれるようになってからは、ほとんどが、貿易活動に伴う国際市場拡張の

図5-17 不正支払、受領の原因別状況(昭和51年)

ためのリベートその他の各種資金、取引貨物の価格等の虚偽申告に伴う差額金や密輸出入貨物代金等の支払、受領、あるいは海外旅行に伴う費用その他の支払に関してのもので、計画的、組織的に敢行されているものである。また、ヤミ決済の方法は、外国業者と結託して国内普通銀行に架空口座等を設け、この口座を通じて不正支払、受領を行うなどのいわゆる地下銀行組織によるものが多くみられた。
〔事例1〕 大手の住宅会社が、台湾からひのき材を輸入する名目の下に代金を前払し、実際には積荷の外見のみを整え中は空洞にし、前払代金に見合う量を輸入したように見せ掛けることによって生じた差額金約4,600万円を、現地に設立した子会社の運営費等に充当していた(愛知)。
〔事例2〕 海外旅行の活発化に伴い、旅行業者が旅行客の現地滞在費等約4億9,400万円を、外国為替公認銀行を通さず、外国業者の架空口座を利用するなどの方法で不正に決済したり、旅行客が外国において購入した家具等を、表面は自らが買ったこととし、貿易業者らが虚偽申告により不正輸入し、更にその代金約5億8,600万円を集金して外国為替公認銀行を通さず外国業者に支払うなど海外旅行に伴う費用について不正決済していた(広島、愛知、大阪、兵庫)。
〔事例3〕 予備校の校長が、医科系大学入学を希望する学生の父兄から入学推薦料等の名目で集めた約8,000万円を小切手にし、自らあるいは内妻等をして台湾へ密輸出し、予備校生の台湾留学費用にするとともに一部は自己の関係する現地の飲食店経営の費用に充当していた(神奈川)。
ウ 「ロッキード事件」と外為法違反
 我が国では、外為法で国内における非居住者との金銭の支払受領について主務大臣の許可等を受けることが必要とされている。いわゆるロッキード事件は、アメリカの航空機会社が、日本への航空機売り込みに関して我が国の商社、航空機会社等の関係者に、その活動資金を秘密裏に支払い、我が国の関係者は必要な許可等を受けることなく、それをアメリカの航空機会社の日本支社員から受け取って違法手段による航空機売り込み活動に使用するなどしていたものであり、警視庁は、東京地方検察庁、東京国税局と協力し外為法第27条違反として関係被疑者6人(受領違反金額13億3,140万円)を検挙した。
(3) 増加した金融事犯
ア 取締り状況
 最近5年間の金融事犯の検挙状況は、図5-18のとおり逐年増加傾向にあり、昭和51年には、1,335件、1,353人を検挙し、前年に比べ404件(43.4%)、530人(64.4%)と大幅に増加した。
 これは、「出資等取締法」(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に、関する法律)違反が多発したことによるものである。
 金融事犯を態様別にみると、高金利事犯が941件と全体の70.5%を占めており、次いで、無届貸金業事犯251件(18.8%)、預り金事犯42件(3.1%)、頼母子講事犯36件(2.7%)等が続いている。

図5-18 金融事犯検挙状況(昭和47~51年)

 このなかでも、金融事犯の大部分を占める高金利事犯が、図5-19のとおり年々増加傾向にあり、51年は941件と過去最高を示した。これは、街の貸金業者を利用する者が多くなり、これに伴い悪質な貸金業者等による高金利事犯が多発したことによるもので、なかには、中小零細企業等が倒産に追い込まれたり、厳しい高金利の取立てにより返済に窮した借受人の自殺や一家離

図5-19 高金利事犯検挙件数と貸金業者数の推移(昭和47~51年)

散に追い込まれるなどの悲惨な事例が目立った。また、最近の傾向として、暴力団が新たな資金源を開拓するため金融業への進出がみられ、51年には、146件、135人を検挙した。
〔事例1〕 傷害等前科8犯の暴力団組長(49)が、鉄筋加工業を表看板にしながら貸金業を行い、主として中小企業者を対象に、手形を担保として法定利率(1日0.3%以下)の2、3倍の利息天引による方法で貸し付け、期日に返済できないときは、新たに借金して返済させるなどの手段により運送会社等5企業を倒産に追い込んだ(大阪)。
〔事例2〕 貸金業者(41)が、個人タクシー運転手3人にそれぞれを相保証人として法定利率の2、3倍の高利で貸し付け、返済が遅れると、営業終了後借受人の自宅に押し掛け、タクシーを担保として取ると脅したり、客待ち中のタクシーに乗り込み、当日の売上金を取り上げるなど厳しい取立てを行ったため、これに耐えきれず借受人2人が排ガス自殺した(愛知)。
イ 被害者の実態
 昭和51年11月に実施した「金融関係事犯取締り強化月間」に検挙した高金利事犯にかかわる被害者6,581人について、実態を調査した結果は図5-20の

図5-20 高金利事犯の被害者の実態(昭和51年11月)

とおりで、この調査から、30代、40代の主婦が生活費のために比較的少額の金銭を借り受け被害を受けていることがうかがえる。高金利貸付の手口をみると、借受人の弱みにつけ込んで最初から高利で貸し付けるもの、利息の他に書類代、手数料等のみなし利息を取るもの、利息を取らない代りに時計、置物等を市価の数倍で買い取らせるなどの「抱き合わせ金融」等によるものが多くみられる。また、貸金の取立てのため、深夜に借受人の自宅に押し掛け怒声で返済を迫ったり、貸金の返済があるまで借受人の娘を預かるといって監禁したり、刃物等の凶器をちらつかせて返済を迫るなどの被害の例もみられ、警察では今後とも強力な取締りを行うことにしている。
(4) 経済事犯をめぐる問題点
ア 訪問販売等の規制
 消費需要の高まり、経済活動の複雑化等を背景に、訪問販売、通信販売、自己増殖的な販売組織作りにその特異性を有する連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)等が普及しつつある。消費者がこれらの取引に不慣れなため十分に対応しきれず、消費者保護上問題となっているが、これらを規制する「訪問販売等に関する法律」が、昭和51年6月公布、同年12月施行され、警察では、その取締りを強化している。
イ 「ねずみ講」と貸金業の規制
 昭和51年8月、警察庁が「ねずみ講」の実態を調査した結果、既存法令で規制できないものが21組織あることが判明した。「ねずみ講」について規制を行うべきではないかという世論もあり、その規制は今後検討を要する課題である。また、貸金業者による高金利事犯が増加する傾向にあるため、警察で取締りの強化に努めているが、法改正の可否の検討を含め貸金業制度の在り方が検討される情勢にある。

5 増加を続ける公害事犯の取締り

(1) 公害事犯の実態
ア 増加する検挙件数
 公害事犯の検挙は、図5-21のとおり逐年増加し、昭和51年の検挙件数は4,697件で、前年に比べ1,125件(31.5%)の増加となっている。この数値は公害行政が体系的に整備された46年の約10倍となっている。これは、廃棄物に関する違反の検挙が大幅に増加したことによるものである。

図5-21 公害事犯年次別検挙状況(昭和47~51年)

 公害事犯を態様別にみると、表5-20のとおりで、廃棄物に関するものが2,322件(49.4%)と約半数を占め、次いで水質汚濁、悪臭の順となっており、この3態様で公害事犯全体の87.5%を占めている。
 公害事犯を適用法令別にみると、「廃棄物処理法」(廃棄物の処理及び清掃

表5-20 公害事犯態様別検挙状況(昭和50、51年)

に関する法律)が3,549件(75.6%)でその大部分を占め、次いで河川法500件(10.6%)、水質汚濁防止法272件(5.8%)の順となっている。
 検挙の端緒別についてみると、聞き込み、内偵等警察活動によるものが3,533件(75.2%)と最も多く、次いで被害者又は第三者からの通報によるもの875件(18.6%)、行政機関からの告発によるもの289件(6.2%)となっている。
イ 産業廃棄物の不法投棄事犯
 昭和51年における廃棄物の不法投棄事犯の検挙は、3,056件で、そのほとんどが産業廃棄物の不法投棄である。産業廃棄物の不法投棄量は約65万8,000トンで前年に比べ約26万7,000トン(68.3%)の増加となっている。これを種類別にみると図5-22のとおりである。

図5-22 不法に投棄された産業廃棄物(昭和51年)

 これらの産業廃棄物を排出した事業場を業種別にみると、建設業と製造業で全体の92.9%を占めている。
 産業廃棄物の場所別投棄量は、図5-23のとおりで、比較的人目につきにくい、山林、原野や埋立地、宅造地、河川等が不法投棄の場所としてねらわれている。

図5-23 産業廃棄物場所別投棄量(昭和51年)

ウ 水質汚濁事犯
 水質汚濁関係事犯は、水質汚濁防止法のほか、廃棄物処理法、河川法、消防法等を適用して検挙しているが、最も悪質な水質汚濁防止法の排水基準違反が176件検挙されている。
 排水基準違反で検挙した企業を業種別にみると、図5-24のとおりで、メッキ工場等の金属製品製造業が最も多い。また、違反項目の面からみると、図5-25のとおり、環境項目が80.5%と健康項目を大きく上回っている。前者については、図5-4のすべての業種が違反行為に及んでいるのに対し、後者については金属製品製造業がその大部分を占めている。

図5-24 事業別排水基準違反検挙状況(昭和51年)

図5-25 排水基準違反の項目別状況(昭和51年)

エ 目立つ悪質化、巧妙化
 経済活動の停滞は、環境汚染物質の排出総量の減少という傾向をもたらした反面、不況に悩む事業者の中には、経費の節減を図るため、公害防止施設の整備を怠り、あるいは既存の施設を使用しないで汚水をたれ流すなどの事犯が目立ち、また、警察や行政機関の監視の目を免れるための手口も、ますます悪質、巧妙の度を加えている。
 例えば、排水基準違反については、隠し排水口の設置場所や排出の方法、排出時期等に工夫を凝らし、監視されにくい時間帯を選んで未処理水を自動的に排出するものまでみられた。また、廃棄物の不法投棄については、山林原野等の所有者をだまして廃油、汚でい等を不法投棄するもの、排出源企業の自家処理を装うため、社名入りのユニホームを無許可業者に貸与するもの、暴力団が関与するものなどがみられた。
 また、1事犯で数万トンの廃棄物を不法投棄するもの、首都圏で排出した廃棄物を遠く東北地方の山中や海岸まで運搬して不法投棄するものなど事犯の大型化、広域化が目立った。
〔事例1〕 タイムスイッチを使用して汚水をたれ流した事例
 メッキ工場が、経費の節減を図るため、汚水を未処理のまま排出しようと企て、昼間の工場排水をすべて貯水そうにためた上、タイムスイッチを使用して、人目につかない夜間に集中的に、基準の150倍もの高濃度のシアンを含有する汚水を排出していた(愛知)。
〔事例2〕 許可証のコピーを配布し、正規の業者を仮装させた事例
 廃棄物処理業者が、処理を委託された産業廃棄物を無許可業者に再委託するに際し、自己の許可証のコピーを渡して正規の処理業者であるように装わせ、2年6箇月にわたり廃油等約5,600トンを運搬処理させた上、コピー代と称してトン当たり5万円の手数料を徴収し、約6,500万円の暴利を得ていた(茨城)。
(2) 公害事犯との取組
 警察は、依然として深刻な公害問題に対処し、公害防止に寄与するため、重大又は悪質な水質汚濁事犯及び産業廃棄物の不法投棄事犯を重点として計画的、集中的な取締りを積極的に推進している。
ア 三大作戦の展開
 全国規模での計画的取締りは、前年に引き続き「瀬戸内ブルーシー作戦」、「清流作戦」、「広域産廃作戦」の三大作戦を強力に実施した。
 「瀬戸内ブルーシー作戦」については、瀬戸内海環境保全臨時措置法が2年延長されたことにかんがみ、前年に引き続き関係11府県警察が共同して瀬戸内海に流入する河川の浄化のため、排水基準違反や廃棄物の不法投棄事犯の取締りを積極的に実施した。
 「清流作戦」については、瀬戸内海関係以外の全国28都府県において、「ふるさと山河浄化作戦」、「河川クリア作戦」等の名称でそれぞれ計画的な取締りを推進した。
 「広域産廃作戦」については、特に産業廃棄物の不法投棄事犯の多い首都圏、中部圏、近畿圏を中心として、関係都府県警察が緊密な連携を保ちながら取締りを進め、この3地域で全国の55.7%に当たる1,947件を検挙したほか、6月には1箇月にわたり全国いっせいに「廃棄物不法投棄事犯の集中取締り」を実施した。
イ 公害罪法の積極的な適用
 「公害罪法」(人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律)は、人の健康に直接影響を与える公害を防止することを目的として制定された法律である。
 警察では、この法律の積極的な適用を図ることとしているが、昭和51年3月、東大阪市の鉄線製造工場において、硫酸を次亜塩素酸ソーダのタンクに注入したため化学反応を起こし、発生した大量の塩素ガスが工場外に流出し、126人に傷害を与えた事件について公害罪法を適用して送致し、公害罪法適用起訴第2号となった。
ウ 三菱石油水島製油所重油流出事件の検挙
 昭和49年12月18日、岡山県倉敷市水島コンビナート内の三菱石油水島製油所において、5万キロリットル入り大型タンクの底板が破裂し、貯蔵されていた約9,500キロリットルの重油が流出する事故が発生した。流出した重油は、瀬戸内海の約2分の1にわたる範囲に拡散し、水産動植物等の被害総額は約470億円、被害対象者は1万8,025人に及ぶ未曾有の大事故となり、大きな社会的反響を呼んだ。この事件は、高度に近代化された石油コンビナートにおける事故であること、発注者、設計者、施行者の競合過失による事故であること、適用法令が複雑多岐であることなどの条件が重なり、捜査には非常な困難を伴ったが、捜査に当たった岡山県警察は、タンクの溶接工事、直立階段の設置工事に過失があると認定し、水質汚濁防止法、岡山県海面漁業調整規則(条例)違反で、51年3月10日、関係3法人、9人を送致した。同年12月3日、岡山地方検察庁は2法人、4人を岡山県海面漁業調整規則違反等で起訴した。
エ 公害苦情の処理
 警察における公害苦情の受理件数は、昭和48年をピークに以後減少傾向を示しており、51年の受理総数は3万181件であった。受理した苦情を態様別にみると、図5-26のとおりで、騒音に関する苦情が大部分(72.7%)を占め次いで悪臭、水質汚濁の順となっている。
 これらの苦情の処理状況は、図5-27のとおりで、違反の認められるものについては、検挙又は警告を行うとともに、行政措置を必要とするものについては市役所、保健所等に引き継ぐなど適切な処理をしている。

図5-26 苦情の態様別受理状況(昭和51年)

図5-27 苦情の処理状況(昭和51年)

6 火薬類等の危険物対策の推進

(1) 火薬類使用犯罪の現況
 最近5年間における火薬類使用犯罪の発生状況は、図5-28のとおりで、昭和49年と51年に死傷者が多いのは、それぞれ丸の内ビル街爆破事件(死者8人、負傷者380人)、北海道庁爆破事件(死者2人、負傷者95人)によるものである。
 昭和51年に発生した火薬類使用犯罪のうち特異なものとしては、自動車に爆発物を仕掛け、エンジンの始動により爆発させて運転者を殺害しようとした事件が2件(埼玉、香川)発生し、このうち1件(香川)では運転者が死亡している。

図5-28 火薬類使用犯罪の発生状況(昭和47~51年)

(2) 火薬類等による犯罪の防止活動
ア 火薬類の盗難、不正流出の防止

表5-21 火薬類盗難事件の発生状況(昭和47~51年)

 最近5年間における火薬類盗難事件の発生状況は、表5-21のとおりである。
 火薬類使用犯罪には、塩素酸塩類に硫黄等を混ぜて密造した爆薬のほか、土木工事現場、火薬庫等から盗まれたダイナマイト等の火薬類が用いられている。そこで警察においては、土木工場現場、火薬庫等の火薬類取扱場所に対する立入検査の徹底を図っており、悪質な違反については検挙等の強い措置をもって臨んでいる。また、既に不正に流出した火薬類については、それらが犯罪に使用される以前に検挙押収することに努めている。
 最近5年間における火薬類取締法違反の検挙状況は表5-22のとおりである。

表5-22 火薬類取締法違反検挙状況(昭和47~51年)

イ 塩素酸塩類等の盗難、不正流出の防止
 塩素酸塩類等が爆発物の原料として使用されるところから、警察としてはその不正流出防止のため、関係行政機関等と緊密な連携をとり、製造業者、販売業者、大量消費者に対し、盗難防止のための保管管理の徹底、法定手続の厳格な励行、不審な購入者の警察への通報等について、2回にわたる全国いっせい防犯指導を実施した。また、警察庁から関係省庁へ保管管理の指導強化について申入れを行った。北海道と長野の営林署では、ストックとして大量に保管されていた塩素酸ナトリウム含有除草剤を製造メーカーへ返還するなどの措置がなされた。
 しかし、51年3月「北海道庁爆破事件」において、爆発物の原料として塩素酸ナトリウムが使用され、また、営林署において塩素酸ナトリウム含有除草剤の大量盗難事件が発生しており、警察は、引き続き不正流出防止対策を強力に推進することとしている。
ウ 猟銃用実包に対する取締りの強化
 昭和51年のけん銃等の押収数は、戦後最高を記録し、しかもその大多数は暴力団からの押収となっている。これらのけん銃等の実包には不正に流出した標的射撃用又は狩猟用のライフル実包、無煙火薬や玩具けん銃用の薬きょうが使用されている。
 警察においては、これらの実包等を暴力団等に入手させないため、実包等の製造、販売業者、消費者等に保管管理を適正に行うよう指導取締りを行っている。また、昭和51年9月総理府令を改正して、狩猟期間後においては実包、火薬等が残らないように、無許可で譲り受けることのできる実包等の数量を引き下げるとともに、ハンターに対して行政指導を行っている。
(3) その他の危険物の取締り
 高圧ガス、石油類、放射性物質等の危険物は、産業活動や国民の日常生活において、重要な役割を果たしている反面、爆発、火災等の事故が発生した場合には、その及ぼす被害はじん大かつ悲惨である。
 しかも、社会経済の変ぼうとともに、これらの危険物による爆発、火災等の事故の発生の危険性は、国民生活のあらゆる分野にわたって増大してきている。
 ちなみに、消防庁調べでは、昭和51年3月31日現在における消防危険物施設(製造所、貯蔵所、取扱所)の総数は51万2,675施設となっており、これらの施設は逐年増加を続けている。このうち街を走っているタンクローリー(移動タンク貯蔵所)は4万1,909台である。また、51年には、石油及び高圧ガスを大量に取扱う地帯として、石油コンビナート等特別防災区域が全国75地域に指定された。
 警察では、これらの危険物による災害を防止するため、関係行政機関と緊密に協力して、危険物運般車両の取締り、危険物の不法貯蔵事犯その他関係法令違反に対する指導取締りを実施している。51年の高圧ガス取締法、液化石油ガス法、消防法等の危険物関係法令違反の検挙は、832件である。また、危険物運搬中の事故の防止のために、日常の警察活動を通じての指導取締りのほか、51年11月に全国いっせい指導取締りを実施し、1万4,221台の危険物車両を検査したところ、このうち危険物運搬上の保安基準に違反したものが2,507台あり、特に、違反が悪質と認められた295件を検挙した。


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