第2章 地域に密着した警察活動

1 地域住民に身近な外勤警察

(1) 地域社会の常夜燈を目指して
 外勤警察は、国民の安全な日常生活を守るために、昼夜の別なく、いつでも、どこでも常に警戒態勢を保ち、犯罪や事故の未然防止とその発生時の初動処理を行うほか、地域住民の身近な事案を取扱うなど警察の窓口的機能を果たしている。
 外勤警察官の活動拠点である派出所、駐在所は、昭和51年4月現在、全国に約1万5,000箇所あり、全国をくまなくその受持区域に組み込んでおり、住民の安心感のよりどころとして定着している。この我が国独特の制度は、我が国の治安情勢が先進諸国と比べ安定している要因の一つに挙げられている。
 このほか、機動警らを行う警ら用無線自動車(パトカー)や住宅団地等で開設する移動交番、また繁華街その他に置かれる警備派出所、交通の要衝に置かれる検問所等があり、それぞれ派出所、駐在所と常に連携をとりながら活動している。また、通信指令室は、110番通報の受理やパトカーに対する指令等を行っており、今や初動警察活動の中枢として重要な位置を占めるに至っている。
ア 地域の守りパトロール
 各種の世論調査等では国民の警察に対する要望等のうち、パトロールの強化が常に上位を占めている。特に、人口急増地域等ではその要望が強い。そこで警察では、徒歩によるパトロールと車両によるパトロールを組み合わせたり、事務の合理化を図るなどしてパトロールの時間を増やし国民の要望に沿うよう努力している。また、徒歩パトロールを実施する警察官に無線機その他の通信機器を携帯させてパトロール機能の向上を図っているほか、パトロール中に戸締まりの不備な家庭等を見つけた時は「パトロールカード」に気づいた点を記入して注意を促したり、子供の善行や危険な遊びを発見したときは「ミニレター」を活用して家庭に連絡するなど住民との交流に努めている。

イ 巡回連絡で心のふれあい
 地域に密着した警察活動を行っている外勤警察官にとって、住民との暖かい人間関係がすべての活動の大きな支えである。そこで外勤警察官は、受持区域に対する責任と愛情を持って勤務することをモットーとし、家庭訪問の形をとる巡回連絡等の場を通じ住民との心のふれあいを深めるようにしている。
 巡回連絡は、外勤警察官がその受持区域の家庭や事業所等を各戸に訪問して、犯罪の予防や交通事故の防止について必要な連絡を行うとともに、住民の警察に対する要望、意見を聴くなどして、住民との間の信頼関係を深め、管内の実態を的確には握することを目的にしているが、住宅団地等が急増した地域、雑居ビルや新しく歓楽街が集中した地域等では、充分にできないのが現状である。そこでこれらの地域には、巡回連絡に専従する勤務員を置いたり、新興住宅地には共働き家庭が多いので日曜日や休日に重点的に巡回連絡を実施するなどの工夫を凝らしているほか、移動交番を開設して地域住民とのつながりを保つように努力している。また、巡回連絡を効果的に行うため、ちらしやパンフレット、ミニ広報紙等を配布したり、防犯写真帳等を活用しているところが多い。
ウ 非常に多い地理案内
 外勤警察官は、パトロールや巡回連絡等を通じて受持区域内の地理に明るいため、派出所や駐在所に道を尋ねる人が多い。特に、都市部の駅前派出所や中心街、主要道路の要衝にある派出所、駐在所では、その取扱いが多く、多忙を極めている。ちなみに、東京都内にある地理案内の多い派出所は、表2-1のとおりである。

表2-1 警視庁管内の地理案内件数の多い派出所ベスト10(昭和51年)

エ 家族ぐるみの駐在所勤務
 駐在所は、通常1人の外勤警察官が家族とともに居住し、地域社会に溶け込みながら警察の第一線機能を果たしている。
 駐在所勤務員の仕事は、警察の業務全般にわたっているが、住民の困りごと相談をはじめ、夫婦げんかの仲裁やよろず苦情処理に至るまで、その守備範囲は極めて広いのが実情である。勤務員は、通常、日勤制であるが、事件事故は昼夜を問わず発生することと、住民からの相談等は夜間にも多いところから、執務時間外においてもほとんど勤務から解放されることがなく、常時待機の生活を余儀なくされている。また、勤務員がパトロール等のため駐在所を留守にするときは、家族が地理案内や急訴事件等の受理、本署への連絡等に当たっており、家族の果たす役割は重要である。
 駐在所は主として市街地以外の地域に設置され、その数は昭和51年4月1日現在、全国で約9,900箇所あり、東京、大阪等の6大都市のある都府県以外では、その数は派出所より圧倒的に多い。
 近年、駐在所が置かれる地域でも、モータリゼーションや地域開発が著しく進み、警察事象が複雑、多様化してきているため、勤務員に巡査部長を配置したり、業務量の高い駐在所には、複数の勤務員を配置するなど体制の強化を図っている。また、受持区域の広いへき地駐在所を重点にミニパトカーを配置して、日常活動の効率化を図っている。このミニパトカーは51年度末現在、全国400箇所の駐在所で活躍している。
(ア) ある駐在所勤務員の生活
 ここに紹介する駐在所は、千葉県船橋市内の新興住宅街を受持区域としているが、管内には3箇所の住宅団地があり、更に、昭和52年4月入居予定の約2,500戸の団地が現在建設中である。勤務するT巡査部長は55歳、7年前にこの駐在所に着任し、以後日常の勤務を通じて、年ごとに風景を変える地域開発の激しさを見守ってきた。赴任当初は、牧歌的な静かなたたずまいを見せていた地域であったが、現在は住宅が軒を連ね、団地建設のダンプカーが行き交い、酔っ払いのけんかやイザコザも少なくない。また、地域連帯感が薄まった反面権利意識が強くなり、ささいなことでも苦情や要望として駐在所に持ち込まれることが多い。そのため、計画的な活動ができないことと、夜間の取扱事案が増加したことが悩みである。
 51年10月中のT巡査部長の活動実態を、勤務日誌から抽出してみた。
10月○日(金) 学童の登校時の交通指導を終えて帰ると、妻が、電話で盗難被害の届出があったという。本署に一報し、朝食もそこそこに現場へ駆けつける。実況見分を終え、犯人の足跡を採取して帰所すると午前11時。書類作成を終え、午後2時から被害者宅付近に巡回連路を兼ねて防犯指導に出掛ける。被害の直後だけに、熱心に聞いてくれた。
 午後4時、8軒目の家庭を訪問した直後に、受令機(注)の呼出しがあり、駐在所に有線連絡せよとのこと。電話すると、妻から交通事故発生の連絡、急きょ現場に向かう。乗用車の出会い頭の物損事故だった。必要事項を聴取し、実況見分を終えて帰所すると午後5時20分。一日中走り回ったので疲れを覚えた。報告書を書き終えると、7時のニュースが事務室に聞こえてきた。
 風呂から上がると妻が「1本付けますか。」と聞く。晩酌を楽しみたかったが止めにした。隣町の駐在所が今日は休暇で、事件、事故があった場合出動できなくなるからだ。ワイシャツにネクタイを着けて夕食をとる。上着さえ着れば、すぐ出動できるからだ。
10月○日(土) 交通整理を終えて一息入れていると、電話で、近くの空き地にコンクリート片等が大量に捨ててあるとの届出である。現場に行くと小型トラック1台分もあろうと思われる建築工事場からの廃棄物の山だ。この種の事案は建築ブームが去った後、一時鳴りをひそめていたが、最近再び多くなっている。捨てた者の手掛かりを得ようとスコップを借りて堀り返してみたがわからない。本署に連絡する一方、市役所に通報して搬出を依頼する。放置すると、付近一帯がごみ捨て場となるおそれがあるからだ。
 午後1時ごろ、再び電話があり、「アイロンを付けたまま家を出たようなので確認してほしい。」という旅先の九州からの電話である。「窓を破っても構いません。火事になるよりましですから…。」と慌ただしくこう言って電話は切れた。アパートやマンション等では珍しくもないが、一軒家では初めてだ。思案しても始まらない。現場に急行する。自 治会長を立ち会わせ、窓ガラスを被って入り確認すると、異状なし。その旨を電話主に連絡。帰宅するまで、その付近を重点パトロールすることにする。
(注) 受令機は、ポケットベル大の通信機器で、通信指令室や幹部からの指示連絡を受けることができる。
(イ) 駐在所勤務員家族の手記から
○ 私は駐在所勤務の父を持つ高校生。生れてからもう10回余り引っ越しをしたと聞いている。旅行等も、父の休みと学校の休みが一致しないのでほとんど連れていってもらったことがなく、友達の楽しそうな旅行話を寂しく聞いた記憶がある。
 父は、家の事は母に任せっぱなしで「町」のことしか頭にないらしい。時には人相の悪い男を事務所に連れて来て厳しくしっ責したり、優しく諭したりする声が聞こえてくる。酔っ払いに対しても父は親切に応待している。また、父の仕事に関係のないことまで大声でわめく来客もある。私はそれを聞いているだけで頭にくる。このように、社会の裏表をいろいろとこの駐在所で見ることができる。
 昼夜、休日の区別なくサイレン、犬の鳴き声、小さな物音にも耳を澄ます父である。一年中が勤務の状態である。雨の日も、雪の日も、電話一本で、制服で外に飛び出していく姿。盗難事件や交通事故の被害者の気持ちになって話し、小さな手柄で満足している。そんな父である。(滋賀県警「湖国の駐在所」から)
○ いろんな出来事が走馬灯のように思い出されます。なかでも、今も背筋にゾーと寒気が走るような思い出があります。それは2年ぐらい前のある夏の日、午前11時ごろのことでした。主人は朝から交通違反の取締りに出て不在でした。突然、裏の勝手口から近所の床屋の奥さんが真っ青な顔で駐在所に駆け込んで来られ「今私方に酔っ払いが両手にビールびん2本を持って『コップを出せ、水を持ってこい。』とどなり散らしお客の顔をそっていても危なくて仕事にならんのですぐ来てください。」と届けてきました。私は、すぐ本署に電話連絡をと事務所に出た途端ギョッと立ちすくみました。酔っ払いが走るようにして来るではありませんか。上半身裸で入墨を一面に入れ、あんちゃん刈りの眼の血走った40年輩の男が事務所に入ってきたのです。「主人は留守ですが、何か御用でしょうか。」と尋ねると、「床屋の嫁ごが届けたろうが。」と聞くので、「いいえ。」と返事をすると、ちょっと落ち着いたように見えたので、「朝から酔っ払って、あなたには奥さんがあるんでしょう。子供さんはおってなら心配しているでしょう。」といってコップに氷水を入れて差し出すと、それを飲みながら次第におとなしくなり、ぼつぼつと自分の身の上

図2-1 遺失届、拾得届取扱状況(通貨、物品)(昭和47~51年)

を話し出したので、私もやっと落ち着きを取り戻し、何食わぬ顔をして事務所から本署に電話連絡しましたが、パトカーの来るまでの時間の長かったこと。実際はそんなに時間は経っていなかったのですが、いつ相手の態度がひょう変するかも知れない不安で、本当に恐ろしゅうございました。やがてパトカーが来て、その男は結局乗せられていきました。私は一遍に緊張が解けて、ドカッとしりをつくように座り込みました。その男は、傷害等前科13犯のしたたか者であることを知り二度びっくりしたような次第です。(福岡県警「駐在の奥さん歳時記」から)
オ 遺失物、拾得物の取扱い
 昭和51年の遺失届は、全国で155万1,479件、拾得届は294万2,630件で、前年とほぼ同数であるが、このうち、通貨についてみると、図2-1のとおり、遺失は約175億円、拾得は約85億円で、前年に比べ、遺失で約19億円(12.1%)、拾得で約9億円(11.8%)とそれぞれ増加している。
 拾得届のうち、通貨は、遺失届の約半分以下になっているが、物品については約2倍になっている。これは、落とした通貨は出にくく、また、物品に

図2-2 拾得物処理状況(昭和51年)

ついては遺失者があきらめて、警察へ届け出ない場合が多いことを示している。これらの遺失物や拾得物はその過半数が、派出所や駐在所の外勤警察官が窓口となって取扱われている。
 51年の特異な遺失、拾得届の事例をみると、現金輸送車から現金9,000万円の入った集金バッグを落としたり、タクシー内に現金235万円を置き忘れた事例、つかえている他人の車を移動した際、その助手席に額面5億円の横線小切手の入った封筒を置き忘れた事例等がある。いずれも拾得者が警察へ届け出たことによって、無事遺失者に返還されている。51年における拾得物の処理状況は、図2-2のとおりである。
(2) コミュニティ活動への参画
ア 住民の要望にこたえる運動
 警察では、外勤警察官が、パトロールや巡回連絡その他の活動を通じては握した受持区域内の共通した困りごとや、住民からの要望等の中から、早急に解決を要する問題を一つずつ取り上げ、住民の協力を得ながら処理する「住民の要望にこたえる運動」を、全国的に推進している。運動の名称も、都道府県によっては「みんなの声にこたえる運動」、「街を明るくするやまびこ運動」のように住民に親しまれる工夫を凝らしている。
 昭和51年の取組状況をみると、交通関係が最も多く、住民の関心の方向を浮き彫りにしている。また、道路破損箇所の補修整備、雑草の刈り取り、子供の遊び場の確保、老朽家屋の撤去、電話ボックスやバス停の新設、移転等関係機関、団体その他に措置を促したり、その協力を得て解決する事案も多い。
 このようにして、51年に全国で解決した事案は約9万5,000件である。
〔事例〕 長尾警察署松尾駐在所管内に居住する10数人の少年が、毎週土曜日に町内や隣接する高松市内をオートバイで暴走し、住民のひんしゅくを買っていた。この実態を知った勤務員は、暴走行為をやめさせるため、その関心をスポーツに向けさせて善導することを思い立ち、少年たちを個々に説得する一方、住民の協力を得て運動場を確保し、少年たちにソフトボールクラブを結成させた。その結果、少年たちは暴走行為をやめて、余暇をスポーツで過ごすようになり、更に、町内の清掃等ボランティア活動を積極的に行うまでになった。(香川)
イ 一人暮らしの老人の保護活動
 一人暮らしの老人や老人夫婦のみの家庭は、事件、事故の被害に遭うおそれや健康上の不安が特に強いので、警察ではこの実態をは握して定期的に訪問するなど保護や奉仕活動を実施している。外勤警察官は、このような老人に対し、その保護の必要性に応じて、日常のパトロールや巡回連絡時に立ち寄り、犯罪や交通事故等による被害防止の指導、関係行政機関や親せきその 他への連絡、あるいは困りごと相談その他を行っている。
〔事例〕 秋田警察署楢山派出所のM巡査は、一人暮らしの老人の家庭訪問をより効果的なものにしその一人暮らしの寂しさを慰めるため、手づくりの慰問ノート「白寿のたより」を受持区域内の一人暮らしの老人宅に配布した。
 このノートには、B5判で表紙裏に「非常のときの心得」として、「異常があったら遠慮なしに大声を出すこと。電話があれば110番か楢山派出所にかけ、住所と名前を話して訳を話すこと。」などとマジックで大書してあり、そのわきに同派出所勤務員、担当民生委員、主な親せきの名前と電話番号が記入されている。
 更に1ページ目には、「こまっていること、きいてもらいたいこと、なやんでいること、はらのたつこと、かなしいこと、私が今度たずねて行くときまで、何でもたくさん書いて2人で話し合い悩みを解決しましょう。」と、その利用方法が記入されている。
 このノートの活用で、対話がスムーズにできるようになったと、好評である(秋田)。
(3) 事件、事故と対決する外勤警察活動
 外勤警察官は、パトロールその他の街頭活動を通じて、犯罪の予防や犯人の検挙、交通事故の防止、非行少年の補導、危険箇所の発見等の活動を行っている。言わば、外勤警察官は、日々、事件や事故と対決しながらその活動を展開している。
ア 初動活動のかなめ
 外勤警察官は、パトロールその他の街頭活動を基本的な活動としており、常に事件や事故との接点において活動している。
 外勤警察官は、昼夜の別なく警戒態勢を保持し、事件や事故の未然防止に当たっている。いうまでもなく事件や事故の早期解決は、発生後間がない期間に展開される初動活動の成否いかんが決定的な決め手となる場合が多い。
 事件や事故が発生した場合には、外勤警察官はその現場に急行し、捜査に必要な証拠の発見、収集、犯人の検挙等に当たり、常に初動活動の中枢的機能を果たしている。
イ 検挙に有効な職務質問
 犯人は、自分の行った犯罪を隠し、処罰を免れようと必死になるものであり、警察官がそのような犯人から不審点や犯罪の証拠等を発見することは容易ではないが、犯人にみられるわずかな心の動きを巧みにとらえて職務質問を実施し、犯人検挙に結びつけた事例は極めて多い。
 職務質問は、法律で認められた警察官の権限であるが、なかでもその大半は外勤警察官によって行われており、昭和51年には、職務質問による総検挙件数約6万3,000件のうち約8割を外勤警察官が検挙している。また、職務質問は、犯人検挙のみでなく、犯罪の未然防止をはじめ、犯罪の被害者の発見や保護、家出人、迷い子、酔っ払い、急病人の発見や保護等地域住民の安全確保にも大きな役割を果たしている。
〔事例〕 目白警察署のM巡査は、深夜のパトロール中、大きな紙袋を持った若い男が交差点で、青信号になっても渡ろうとせず、M巡査が近づいたところ視線を避けるようにしたので不審を抱き職務質問をした。
 男は、紙袋の中味を見せようとしないので、粘り強く説得したところしぶしぶ出刃包丁と背広上下を差し出した。出刃包丁に血がついていたので問いただすと男は急に落ち着きを失い逃走する気配を示した。そこで更に厳しく追及したところ、数時間前に一人暮らしの女性の部屋に侵入し、出刃包丁を突き付けて「金を出せ」と脅迫し、全治2週間の傷を負わせた上、現金2,000円を奪い取ってきたことを自供したので、その場で逮捕した(警視庁)。
ウ 携帯無線機の効果的活用
 警察では街頭活動中の外勤警察官が、いつでも、どこからでも警察署、又は活動中の他の警察官との連絡や照会ができる携帯無線機の整備を進めている。現在、都市部の派出所に約8,000台配置し、これによって外勤警察官は、従来にも増して効果的な活動ができるようになった。特に携帯無線機は逃走する犯人を包囲する場合や職務質問の際に、直接現場からの照会や連絡によって指名手配中の被疑者を検挙する場合に効果的に運用されている。
〔事例〕 上野警察署のA巡査は深夜のパトロール中、本署から「ただいま、某時計会社に泥棒が入り、警備員と格闘して逃走した。」との無線を傍受したので現場に急行し、携帯無線機により犯人の特徴、逃走方向を本署と付近警ら中の勤務員に連絡した。A巡査は、応援に駆けつけた勤務員と携帯無線機を活用して相互に緊密な連携をとりながら、付近を捜索したところ、タクシーに乗ろうとしていた犯人を発見し、検挙した(警視庁)。

2 初動警察活動の中枢、通信指令室

(1) 通信指令室の役割
 全国の警察本部に設置されている通信指令室は、年々増加する110番通報の迅速、適確な処理と、重要事件発生時の緊急配備の発令等を担当しており、今や、初動警察活動の中枢として重要な役割を果たしている。
 また、パトカーがいち早く現場へ到着できる態勢をとるため、パトカーの位置や活動状況をコンピューターには握させ、これらの情報を地図盤に表示させるパトカーの自動動態表示装置(カーロケーター)が、現在警視庁及び大阪府警で運用されているが、今後他の道府県警察においても整備に努めることとしている。
(2) 110番通報の処理
ア 47人に1人の利用
 昭和51年に全国の警察で受理した110番通報は、図2-3のとおり240万7,081件で、42年に比べ約2倍となっている。これは、国民47人に1人の割合で利用されたことになる。

図2-3 110番通報の推移(昭和42~51年)

イ ピーク時には9秒に1回
 110番通報の時間帯別受理状況は、図2-4のとおり午後10時から午前0時までの時間帯が最も多く、全体の12%が集中している。この時間帯には、9秒ごとに1回の割合で利用されていることになる。このことは、午後8時から同10時までの時間帯が最も多かった5年前に比べ、国民の生活時間帯の変化を示すものといえよう。
ウ 交通、刑法犯関係の通報が依然上位
 110番通報の受理状況を内容別にみると、図2-5のとおり、交通事故、交通違反等の交通関係の通報が最も多く、次いで照会、連絡や刑法犯関係の通報も多い。交通関係については、110番通報の全体に占める割合は逐年減少し、51年は5年前に比べると8.0%減少している。

図2-4 時間帯別110番受理件数(昭和51年)

(3)パトカーの出動
ア リスポンス・タイム
 最近5年間の主要な都市におけるパトカーのリスポンス・タイム(注1)は図2-6のとおりで、昭和51年の主要都市(注2)の平均所要時間は5分14秒である。特に札幌市では、犯罪発生の時間的、場所的な分析、検討に基づくパトカーの重点警らその他により、前年に比べ1分6秒短縮されたことが注目される。今後も警察は、リスポンス・タイムを短縮するための努力を

図2-5 内容別110番受理件数(昭和51年)

続けることとしている。
(注1) リスポンス・タイムとは、通信指令室で110番通報を受理してから、パトカーが目的地に到着するまでの所要時間をいう。
(注2) 主要都市は、東京23区及び大阪、横浜、名古屋、京都、神戸、北九州、札幌、川崎、福岡、尼崎、仙台、広島の各市である。
イ 検挙につながる早い通報
 事件が発生した場合に素早い110番通報があると、より早くパトカーが現場に到着し、犯人を現場近くで捕そくでき事案の解決も早い。
 110番集中地域における110番通報(注)によってパトカーが出動した場合の刑法犯の検挙をみると、表2-2のとおり3分未満に現場到着した場合約3割を検挙している。
(注) 110番集中地域とは、110番回線が警察本部の通信指令室に結ばれている地域のことで、この地域内のどこから110番しても自動的に警察本部の通信指令室につながるようになっており、全国警察署の59.0%に当たる706警察署管内の110番回線が通信指令室に集中設置されている。なお、110番集中地域外では、110番すると所轄警察署につながることになっている。

図2-6 主要都市におけるリスポンス・タイム(昭和47~51年)

表2-2 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙(昭和51年)

3 身近な犯罪とその予防

 侵入盗は、窃盗犯の中でも職業的常習犯人によるものが多く、また、屋内へ侵入するということから、国民に大きな不安感を与え、その日常生活を脅かしている上、強盗、殺人等の凶悪犯に移行する危険性をはらむ悪質な犯罪である。警察では、侵入盗対策を重点的な課題として強力に取組んでいる。
(1) 侵入盗の実態
 昭和51年に警察が認知した侵入盗の発生件数は、32万7,763件に上り、全刑法犯の26.3%、全窃盗犯の31.2%を占めている。
 まず、その手口別構成比をみると図2-7のとおりで、「空き巣ねらい」が最も多く、全体の半数を占め、次いで「忍込み」「事務所荒らし」の順となっている。

図2-7 侵入盗の手口別構成比(昭和51年)

 また、51年の侵入盗による被害額は、約266億2,700万円に上っており、1件当たり約8万1,000円の被害にかかっていることになる。これを手口別にみると、「空き巣ねらい」の被害額 が約92億2,500万円、次いで「忍込み」が約39億6,300万円、「事務所荒らし」が約26億2,500万円と、国民の貴重な財産が不法に奪われている。
ア ねらわれる「玄関」、「窓」のカギのかけ忘れ
 「空き巣ねらい」、「忍込み」の発生状況をみると、図2-8、図2-9のとおり両者とも一般住宅が過半数を占めており、次いで「空き巣ねらい」では、木造アパート、「忍込み」では商店が多くなっている。

図2-8 「空き巣ねらい」の発生場所別構成比(昭和51年)

 次に、発生時間帯別についてみると、「空き巣ねらい」では、図2-10のとおり14~16時の時間帯が最も多く、午後のひとときがねらわれており、「忍込み」では、図2-11のとおり2~4時の時間帯が45.3%と深夜寝しずまった時がねらわれている。

図2-9 「忍込み」の発生場所別構成比(昭和51年)

図2-10 「空き巣ねらい」の発生時間帯別構成比(昭和51年)

 侵入口別については、「空き巣ねらい」では、図2-12のとおり表出入口窓から、「忍込み」では、図2-13のとおり窓、勝手口・裏出入口からの順、に多い。
 また、侵入手段別についてみると、図2-14、図2-15のとおり「空き巣ねらい」、「忍込み」ともに、施錠忘れのところからが最も多く、次いでガラ

図2-11 「忍込み」の発生時間帯別構成比(昭和51年)

図2-12 「空き巣ねらい」の侵入口別構成比(昭和51年)

図2-13 「忍込み」の侵入口別構成比(昭和51年)

図2-14 「空き巣ねらい」の侵入手段別構成比(昭和51年)

ス破り、錠破りの順になっている。
 以上の被害実態の分析から、昼の「空き巣ねらい」は、玄関のカギのかけ忘れ、夜の「忍込み」は、窓のカギのかけ忘れからということができる。これは、ねらう犯人の側にとっても、カギやドアを壊して侵入することは、発見される危険が大きく、心理的なブレーキも働いて、他のねらいやすい家を物色するということであろう。「丈夫なカギを忘れずかける」、これが家庭の

図2-15 「忍込み」の侵入手段別構成比(昭和51年)

図2-16 「事務所荒らし」の発生時間帯別構成比(昭和51年)

図2-17 「事務所荒らし」の侵入口別構成比(昭和51年)

図2-18 「事務所荒らし」の侵入手段別構成比(昭和51年)

防犯対策の第一歩である。
イ 「事務所荒らし」は、深夜、窓を破って
 事務所荒らしの発生時間別構成比をみると、図2-16のとおり22時からの発生が次第に増加し、2~4時の時間帯がピークになっている。侵入口別については、図2-17のとおり窓から侵入するケースが最も多く、次いで表出入口からとなっている。また、侵入手段別では、図2-18のとおりガラス破り、施錠忘れ、錠被りの順となっている。
ウ あるドロボーの告白
 これまで、「空き巣ねらい」、「忍込み」、「事務所荒らし」を中心に侵入盗の実態について分析してきたが、次にこれらの犯罪を敢行している常習窃盗犯人の告白を紹介する。
〔事例1〕 前科2犯、アパート専門に120件の「空き巣ねらい」を敢行していた犯人
 「アパートは、留守であることがすぐ分かり、錠前も南京錠や破壊しやすい円筒錠等を使っているところが多く、簡単に侵入できるし、管理人のいないアパートが多いので安心して仕事ができる。自分は、ドアに2個以上の錠前がついているところは、侵入するのに時間がかかるので絶対にねらわなかったし、アパートの管理人等に声を掛けられると、そのアパートでは仕事をする気にはなれなかった。物色時間は、長いとやばいので3分くらいだ。いったん侵入すれば、どんなところに現金を隠してあっても必ず見つけることができた。大金は、部屋に置かないことだ。」(警視庁)
〔事例2〕 前科3犯、一軒家専門に51件の「忍込み」等を敢行していた犯人
 「一軒ぽつりと離れた家、家人の少なそうな家、女家族と思われる家を専門にねらう。これはと思う家を見つけたら、少なくとも3回は夜になってから下見をして、その家の周辺の人や車の動き、家人の動き等を観察した。侵入口は、家の周囲を見回って調べると必ずといってよいほどカギのかかっていないところがあり容易に侵入することができる。侵入したら逃走口をあらかじめ用意しておき、家人が目を覚ます気配がしたらすぐ引揚げることにしていた。現金探しなんて簡単で、引き出し、食器だな、小物入れ、家計簿、脱ぎ捨てた衣類等を探すと必ず見つかった。」(京都)
〔事例3〕 前科1犯、ビルの事務所の金庫専門に115件の「事務所荒らし」を敢行していた犯人
 「たくさんの事務所が雑居しているビルで、夜間の出入口が開放されているところは最もねらいやすかった。自動車で現場付近まで仕事の道具を運んでビルの出入口から入り、事務所のドアを壊して侵入した。だから、警備員がいるビルや、事務所のドアに防犯ベルが付いていると私はダメだ。」(大阪)
(2) 侵入盗の防止活動
ア 「空き巣ねらい」、「忍込み」の防止
 警察では、国民の日常生活を脅かしている「空き巣ねらい」、「忍込み」を防止するため、発生実態に対応した重点パトロールを実施するほか、各家庭に対し、ドロボーにねらわれやすい錠前を使用しているかどうかなどを点検する防犯診断を積極的に行っている。また、家庭の主婦を対象とした戸締り教室、防犯映画会、防犯座談会、防犯器具展示会の開催等幅広い広報活動を行い、地域住民の防犯意識の高揚と防犯設備の改善に努めている。
〔事例1〕 千葉県警察では、3月を防犯診断強化月間とし、町内会役員や防犯指導員と協力して、重点的に侵入盗多発地域や新興住宅地域の一般住宅、アパート、商店、事務所等約5万6,000戸を対象に防犯診断を実施した。その結果、約1万8,000戸で、玄関に破壊されやすいボタン式円筒錠が使用されていたり、施錠設備がないなどの問題点が見つけられた。
〔事例2〕 北海道警察では、5月、警察本部と警察署に「カギの相談コーナー」を開設し、錠前その他の防犯器具の性能、取付け等について住民からの相談を受けることにしたほか、住民が安心して錠前等の取付や改修をすることのできる「カギの協力店」136店を指定した。その結果、51年に「カギの相談コーナー」では、住民から約1万1,000件の相談が寄せられ、「カギの協力店」では、約3,400件の錠前の取付け、改修等の利用があるなど住民に好評である。
イ 「事務所荒らし」の防止
 警察では、「事務所荒らし」を防止するため、各種業界の団体、ビルの所有者等に対し、警備員の配置、防犯ベルの設置等を要請するとともに、その従業員に対しては、ロッカーや机の引き出しに現金や金庫のカギを保管しないよう呼び掛けるなど防犯指導の強化に努めている。
(3) 都市型犯罪への対応
 都市化の進展、社会機構の高度化、複雑化に伴い都市における個人の匿名性が増大し、地域の連帯感が希薄になってくると、都市特有の間げきに乗じた犯罪が発生するようになる。警察では、こうした都市型の犯罪に対して、実態に即応した防犯対策を実施するよう努めている。
ア ホテルの防犯対策
 昭和51年10月、東京都心の一流ホテルで女性の宿泊客が刃物を突き付けられ、現金を強奪されるなどの事件が連続して発生したが、これらは、ホテルにおける外来者のチェック、客室の防犯設備等の不備欠陥を突かれたものであった。51年11月に警視庁が都内の41のホテルを対象に、その防犯体制の実態について調査したところ、警備員を配置していないホテル11、客室のドアにドアスコープのないホテル26、客室のドアにドアチェーンのないホテル19、客室に非常ベルのないホテル38、客室に客に対する防犯上の注意書の掲示をしていないホテル17と、防犯体制は必ずしも十分でないことが認められた。
 このため、警察では、関係機関と協議し、全国のホテルを対象に防犯診断を実施し、その実態をは握するとともに、ホテルの営業者に対し、防犯責任者の指定、警備員の配置等による警戒体制の強化、客室の防犯設備の改善、防犯上の注意書の掲示等による宿泊客に対する呼び掛けを行うよう要請した。
イ 病院の防犯対策
 昭和51年10月、東京都内の病院の新生児室から赤ちゃんが誘かいされ、身代金を要求された「勇称ちゃん事件」が発生したが、この種の事犯は、最近5年間に5件も発生しており、改めて病院の防犯体制の欠陥が指摘された。このため、警察では、関係機関と協議し、全国の病院を対象に防犯診断を実施し、その実態をは握するとともに、病院の管理者に対し、防犯責任者の指定、夜間の出入口のチェック、新生児室の監視等の警戒の強化、医師その他の病院勤務者に対する防犯指導の徹底等を要請した。
(4) 地域社会における自主防犯活動
ア 防犯協会の活動
 地域の自主防犯活動の中心的な組織として防犯協会があり、犯罪や事故のない明るい地域づくりのため、幅広い活動を行っている。主な活動として、毎月「防犯の日」を定めての住民に対する戸締まりの励行の呼び掛け、自主防犯パトロールの実施、防犯パンフレットの配布等を行っており、また、青少年に有害な環境の浄化活動や優良防犯器具の推せん、「防犯モデル地区」の設定その他地域に密着した奉仕活動に取り組んでいる。
 防犯協会の第一線である防犯連絡所は、昭和51年末現在で、全国に約60万箇所、53世帯に1箇所の割合で設置されている。これらの防犯連絡所は、防犯協会が作成した防犯パンフレット、ちらしの回覧、警察から市民への防犯情報の伝達、地域住民の警察への要望の伝達等防犯上地域コミュニティの中心となって活動している。
イ 職域防犯団体の結成
 最近のような複雑、高度化した社会においては、地域的な自主防犯活動のみでは十分ではない。特に、地域のコミュニティ活動にはなじみにくい企業集団や、犯罪の対象となりやすい業種の企業等については、その職域内で、自主的な防犯活動を行ってもらうことが効果的であり、このような職域における防犯体制と地域における防犯体制が確立され、相互に連携されることが重要である。このため、警察では、このような業種の団体に働き掛け、職域防犯団体の結成を呼び掛けている。その結果、昭和51年6月、全国規模の職域防犯団体として、「全国乗用自動車防犯協力団体連合会」が結成された。この団体は、タクシー等の交通機関を対象とする犯罪の防止に努め、また、犯罪が発生した場合には、警察に対する早期通報等の協力を行おうとするものである。このほか、各都道府県単位には、多くの業種に職域防犯団体が結成され、活発な活動を行っており、年末現在の職域防犯団体の結成状況は図2-19のとおりである。

図2-19 職域防犯団体の結成状況(昭和51年)

4 保護活動

(1)強化された家出人発見活動
ア 増加傾向の家出人
 家出人は、心理的にも不安定な状態にあり、犯罪の被害者となったり、転落したりするケースも多く、また、残された家族も家出人の安否に心を痛め幸せな一家の団らんが失われるなど家出をめぐる悲劇は多い。
 警察に捜索願が出された家出人の数は、表2-3のとおり昭和50年から増勢に転じ、51年には、前年に比べて2,276人(2.5%)増加し、最近5年間で最高となった。

表2-3 家出人捜索願状況(昭和47~51年)

(ア) 家出は女性が多い
 家出人の男女別をみると、表2-4のとおり毎年女性の占める割合が高い。

表2-4 捜索願のあった家出人の男女別状況(昭和47~51年)

(イ) 増加する少年の家出
 家出人の成人、少年別をみると、表2-5のとおり51年には、成人が5万3,714人(57.1%)、少年が4万407人(42.9%)であり、前年に比べて、成人がほぼ横ばいであったのに対し、少年が2,256人(5.9%)増加したのは注目される。
 また、51年の年齢層別の家出人をみると、表2-6のとおり18、19歳の年齢層が著しく高い。
(ウ) 目立つ主婦の家出

表2-5 捜索願のあった家出人の成人、少年別状況(昭和47~51年)

表2-6 捜索願のあった家出人の年齢層別家出人率(昭和51年)

 家出人の職業別をみると、表2-7のとおり主婦が9,807人(14.9%)と多いのが目立っており、次いで、サラリーマン、風俗営業従業員(ホステス等)の順になっている。

表2-7 捜索願のあった家出人の職業別状況(昭和51年)

(エ) 家出原因で多いのは「家庭不和」
 捜索願が出された家出人の原因、動機についてみると、図2-20のとおり「家庭不和」や「恋愛、結婚問題」によるものが圧倒的に多い。「家庭不和」の内容をみると、「夫婦間の不和」が最も多く、主婦の家出人の2.2人に1人が、また、男女を問わず30歳代の家出人の4人に1人がこれが原因で家出しており、30歳代は夫婦間の危機であることがうかがわれる。つぎに、「恋愛、結婚問題」を性別、年齢層別にみると、性別では、女性が圧倒的に多く79.1%を占めており、年齢層別では、10代が45.2%、20代が34.0%となっており青春時代の悩みが現れている。

図2-20 家出の原因、動機(昭和51年)

イ 家出人の発見状況
 最近5年間に発見された家出人の数は、表2-8のとおり昭和49年まではやや減少の傾向にあったが、50年から増加し51年は、9万7,806人となり、5年間で最高となった。また、51年に捜索願を受理した家出人のうち51年末までに発見された者は、7万2,424人で76.9%となっている。
 発見された家出人の発見までの期間をみると、表2-9のとおり1週間以

表2-8 家出人発見の推移(昭和47~51年)

表2-9 家出人の発見までの期間(昭和51年)

内に発見された家出人が、全体の61.9%を占め最も多く、時間の経過とともに、その発見数は減少しているが、30日までに83.6%が発見され、6箇月以内ではその95.3%が発見されている。これらの結果から、家出人が発見される場合、6箇月以内にほとんど発見され、逆にそれを過ぎると発見いにくくなることがわかる。
 発見された家出人について、発見の方法をみると、図2-21のとおり警察活動により発見された家出人は全体の52.7%で、その内訳では、職務質問に よるものが21.9%で最も多くなっている。

図2-21 家出人の発見方法(昭和51年)

 また、これらの発見された家出人について、発見時の状態についてみると、ほとんどの者は無事に発見されているが、一方、罪を犯した者が2,196人(2.2%)自殺した者が1,614人(1.7%)犯罪の被害者となった者が629人(0.6%)となっている。
ウ コンピューターの導入
 警察庁では、家出人の早期発見を図り、家出人の保護者等の期待にこたえるため、昭和51年10月からコンピューターによる家出人手配照会業務を開始した。これは、従来、警察官が家出人ではないかと思われる者を発見した場合に、家出人かどうかを確認するために、各都道府県警察ごとの手作業による照会を行っていたものを全面的に改め、全国の捜索願を受理した家出人について、警察庁のコンピューターに登録しておくことにより、全国どこででも家出人かどうかの確認を容易に行うことができるシステムにしたものである。今後、この制度の効果的活用により、警察活動による家出人の早期発見が一層促進されるものと期待される。ちなみに、大阪府警察でコンピューター導入前の手作業による家出人照会とコンピューターによる家出人照会との家出人の発見数を比較したところ、51年10月の1箇月で約2倍となっている。
 このほか、警察庁では、これまでの家出人発見活動全般について再検討を行い、家出の態様に応じた手配制度の合理化、テレビ等の活用による公開発見活動の積極化、残された家族その他との連絡の緊密化等最近の家出事案の実態に即応した家出人発見活動の強化を図った。
(2) 酔っ払いの保護
 でい酔あるいはめいてい状態で、自分や他人の生命、身体に危害を及ぼすおそれがあったり、公共の場所や乗物で粗野又は乱暴な言動をしているなどの理由で警察に保護された者は、表2-10のとおりで、昭和50年まではやや減少の傾向にあったが、51年は増加に転じた。
 これらの酔っ払いのうち、アルコール中毒やその疑いのある者として「酒

表2-10 酔っ払いの保護人数の推移(昭和47~51年)

表2-11 保健所長に通報した酔っ払い数の推移(昭和47~51年)

に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」第7条により保健所長に通報し、必要な治療を要請したものは、表2-11のとおりである。
(3) 迷い子、急病人等の保護
 昭和51年に、酔っ払い以外で警察が保護した者は、表2-12のとおり15万4,417人で、最近5年間は増加傾向にある。保護原因別では、迷い子の増加

表2-12 保護原因別保護数の推移(昭和47~51年)

が著しく、47年に比べると2万3,872人(36.0%)増加している。
(4) 困りごと相談の受理体制の強化
ア 増加する「困りごと相談」の利用
 相談相手がいなくて困っている人や警察を頼りにしている人は少なくない。警察に持ち込まれる苦情や相談ごとの中で、「困りごと相談」として処理したものは、表2-13のとおり昭和51年には、15万4,848件を数え、年々増加している。

表2-13 困りごと相談受理件数の推移(昭和48~51年)

 51年に、警察に困りごとの相談に来た人の男女別をみると、男性9万626人(58.5%)、女性6万4,222人(41.5%)となっている。また、年齢層別にみると、図2-22のとおり20~39歳が最も多く、次いで40~59歳となっており職業別にみると、図2-23のとおりサラリーマンが最も多く、次いで商

図2-22 相談者の年齢(昭和51年)

図2-23 相談者の職業(昭和51年)

店、飲食店の営業者等の自営業者となっている。
 これらの困りごと相談の内容についてみると表2-14のとおり身上問題が最も多く、次いで犯罪防止等に関することが多くなっている。

表2-14 困りごと相談の内容

 警察では、これらの困りごと相談について、警察活動の範囲内で解決できるものについては積極的に解決に当たる一方、当事者の話合い等により解決できるものについては指導、助言を行い、他の行政機関等にゆだねるべきものについては、その窓口の紹介や引継ぎを行うなどできるだけ解決するよう努力している。
 51年の困りごと相談の処理状況についてみると図2-24のとおり解決方法等の助言が最も多く56.4%を占め、次いで、警察活動の範囲内で解決へ導いたものが34.9%となっている。

図2-24 困りごと相談の処理結果(昭和51年)

〔事例〕 実弟がサラリーマン金融で金を借り、厳しい取り立てにあって家出してしまい、残った家族に矢のような催促が来て困っているという相談を受理し、法定利息の24倍の暴利をとっていたサラリーマン金融業者を出資等取締法違反で検挙し、解決に導いた(福井)。
イ 受理体制の強化
 現在のように複雑化し、人々の連帯意識が薄くなっている社会においては、国民の身近な相談機関としての困りごと相談の役割がますます大きくなっており、警察では、国民の要望にこたえるため、専任の困りごと相談員を新たに配置し又は増強するなど、困りごと相談受理体制の充実強化を図っている。
〔事例〕 群馬県警察では、4月から困りごと相談実施要綱を制定して、警察本部防犯少年課に困りごと相談所を開設し、住民から電話による相談を受ける加入電話(24(ツーホー)~8080(ハレバレ))を架設し、課員2名(警部1,婦人補導員1)が専任で住民からの困りごとの相談に当たり年間2,631件の困りごとを処理した。

5 地域住民とのふれあい

(1) 住民との対話広聴活動
 地域住民の警察に対する要望、意見等を的確にとらえ、これらを日常の警察活動に反映させるため、警察では、各種の広聴会を計画的に開催し、住民とのふれあいの場を広めるよう努めている。
 これらの広聴会を開催するに際しては、会場を警察施設以外の場所に設定するなど発言しやすいふん囲気を作るとともに、要望や意見に対しては警察の考え方や施策を具体的に示して、警察への一層の理解と協力が得られるよう努力している。
〔事例1〕 香川県警察本部では、8月23日、「県民と話し合う会」を開いた。席上、「暴走族をなくすためにはどうしたらよいか。県内の暴走族の実態も説明してほしい。」との要望が出され、話合いの結果、9月1日に婦人会が中心となって「暴走族をなくす大会」が開かれた。その後、各家庭への呼び掛けが行われ、暴走族の暴走事案をかなり減少させることができた。
〔事例2〕 白石警察署では、5月22日、「青年警察官と地域青年団との意見交換会」を開き、現代青年の希望と生きがい、地域青年団の警察に対する要望等について話し合い、明るく住みよい町づくりを目指して相互に理解を深め、連携していくことを申し合わせた。同署では、引き続いて、他の地区の青年団、婦人会等とも同様な会合を開催するなど幅広い広聴活動を進めた(佐賀)。
 このほか警察では、機会をとらえて世論調査やアンケートを実施したり、地域住民に暴力追放モニター、交通安全モニター等の各種モニターを委嘱するなど広聴活動を推進している。
(2) 手づくりの味ミニ広報紙
 派出所、駐在所勤務員が発行している、いわゆるミニ広報紙は、全国で約9,000紙に及び年々増加している。
 ミニ広報紙は、派出所、駐在所勤務員が、地域住民の意見や要望、子供の善行、遺失・拾得物の状況等をはじめ、身近に発生した犯罪や交通事故の状

況とその具体的な予防策等、地域住民の関心の高い事柄を素材として、多忙な勤務の合間をぬい、自ら筆をとってガリ版印刷をするという、文字どおり手づくりで発行しているものであり、地域住民からは「おらが駐在新聞」等として好評を得ている。
 警察庁では、毎年1回、ミニ広報紙の全国コンクールを実施し、その普及高揚に努めている。
(3) 住民とのかけ橋警察音楽隊
 警察音楽隊は、親しまれる警察を目指して、地域住民と警察とを結ぶ「かけ橋」となって活動を続けており、昭和51年末現在、全国で45隊を数え、隊員数は約1,400人に上っている。
 大部分の隊員は、派出所、駐在所勤務等をする傍ら音楽隊活動に従事しており、多忙な時間を割いて技術の向上に努めている。
 警察音楽隊は、交通安全運動、防犯運動等の行事のほか、市町村等が主催する公共的な行事、福祉施設やへき地での慰問演奏会、小中学校での音楽教室等でも活躍しており、演奏を通じて、警察に対する地域住民の理解と協力を深めるのに貢献している。

 警察庁では、毎年1回、全国警察音楽隊演奏会を開催し、演奏技術の向上に努めている。51年には、第21回大会が「かながわふるさとまつり」の行事の一環として、横浜市で開催された。
〔事例〕 千葉県警察音楽隊では、5~7月の間、延べ41箇所の福祉施設を訪問し、多数の恵まれない老人や身障者のために演奏会を開いた。この演奏の合間には、交通事故の実態、防犯上の心得等について広報活動を行った。

6 水上警察の活動

(1) 水上警察の活動状況
 我が国は、周囲が海に囲まれた島国で、しかも大小河川、湖沼が数多く存在し、これら海や河川等は漁業や交通の場として国民生活に深いつながりを持っている。このような背景の下で、水上における警察事象も多く、警察はこれに対処するために全国に水上警察署9署、臨港警察署2署及び水上警察官派出所約40箇所を設置するとともに、舟艇186隻を主要な港湾、離島、河川、湖沼に配置し、各種刑法犯、密出入国事犯、密漁等の検挙、取締りや水難救助活動を行っている。
 最近5年間の犯罪検挙、保護等の水上警察活動状況は、表2-15のとおりである。
〔事例1〕 10月、大阪水上警察署第2突提派出所のK巡査部長ら3人は訪船連絡に向かう途中、船員風の男が、タクシーから降りてボストンバック2個を持ったまま、停船中の韓国船に乗り込んだのを発見したので、不審に思い同船で職務質問を行い、所持していたボストンバックを調べたところ、日本製ライター560個、電気カミソリ100個を所持していたので、関税法違反で逮捕した(大阪)。
〔事例2〕 6月、釜石警察署S警部補ら2人は、釜石市箱崎町大仮宿沿岸を警備艇で海上警ら中、本署からあわびの密漁の連絡を受け現場に急行

表2-15 犯罪検挙、保護等の水上警察活動(昭和47~51年)

したところ、潜水服をつけた男2人が海岸から山中へ逃走したので、接岸して追跡し、漁業法違反で逮捕した。被疑者2人は、あわび約10kgを不法に採取していた(岩手)。
(2) 領海の拡大、漁業水域の設定と水上警察活動
 最近、世界の多くの国々が、領海の拡大、漁業水域の設定を行うなど国際社会の新しい海洋秩序への急速な動きがみられる。このような海洋新秩序によって、次のような水上警察業務の増大が予想される。
○ 警察権の及ぶ領海が12海里まで拡大される。
○ 諸外国の漁業水域の設定によって、我が国の遠洋漁業が沖合漁業や沿岸漁業に転換するとともに、養殖漁業や栽培漁業の振興等によって、我が国の沿岸、沖合漁業が過密化することにより、密漁等の漁業法違反、養殖魚介類の窃盗等が増加する。
○ 養殖漁業や栽培漁業の振興に伴い、臨海工業地帯周辺での公害問題がよりクローズアップされる。
 このような国際的な海洋秩序の変化に伴う警察事象の増加、複雑化に対応するためには、水上警察業務の運営や水上警察体制について早急に検討されなければならない。なお、我が国は昭和52年7月、領海3海里を12海里に拡大するとともに、200海里の漁業水域の設定に踏み切った。


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