第9章 警察活動のささえ

 これまで警察事象や警察活動の各般にわたって述べてきたところであるが、最後に、これら警察活動を支える警察職員、警察教養、組織、予算、装備、通信等について述べると、次のとおりである。

1 警察職員

(1) 定員
 昭和50年4月現在、我が国の警察に勤務する職員は、合計約23万2,700人である。このうち、国の機関に勤務する者は約7,700人で、警察官は約1,100人、皇宮護衛官約900人、その他一般職員約5,700人で、このうち約4,100人は通信関係の職員である。
 都道府県警察に勤務する者は、約22万5,000人で、警察官は約19万5,000人、交通巡視員約4,000人、その他一般職員約2万6,000人である。
 警察官1人当たりの負担人口は、昭和49年度には、全国平均で574人であったが、50年度には、4,520人の増員があり、その結果、全国平均で568人となった。しかし、欧米諸国と比較してみると、図9-1のとおりで、我が国は、これらの諸国より著しく負担が重い状況にある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口(1975年)

(2) 婦人警察職員
 最近、警察においても女性の特性を生かした活動を必要とする分野が、漸次増大してきている。昭和50年4月現在、都道府県警察には、婦人警察官約3,700人、婦人交通巡視員約3,100人、婦人補導員約700人が勤務しており、主として交通整理、駐車違反の取締り、少年補導、地理案内等の業務に従事している。そのほか、交通安全教育、110番受付等の通信指令、女性被疑者等の取扱い、防犯相談、老人家庭の訪問、要人の警護、すり係、街頭広報等女性を必要とする職務が拡大しつつある。これらのほかに一般職員として勤務する者が約9,900人いる。
 なお、婦人警察官については、深夜勤務に関する制限が多いため、夜間における少年補導、婦人被疑者の取扱い等に従事する要員がいないという問題があり、このための対策を早急にとる必要が生じている。
(3) 採用
 警察官の採用に当たっては、その職務の特殊性から、単に本人の学力、知識、知能程度だけでなく、体力、社会性、遵法意識、人物性行等多角的に人物を評定して、採否を決定している。そのため、各都道府県においては、筆記試験(択一式と論文式)、面接試験、適性検査(心理テスト)、身体検査、人物調査等を幅広く行っている。
 昭和50年度に、全国の警察官採用試験に応募した者は約6万9,000人で、合格した者は約1万人(うち大卒約4,700人)となっており、競争率は平均約7倍であった。

2 警察職員の勤務

 警察官の勤務は、その勤務の特殊性のために、一般の公務員にみられない特殊な勤務形態をもつものが多い。例えば、警察官の約4割を占める外勤警察官は、派出所、駐在所、パトカー乗務、通信指令室等で勤務しているが、派出所勤務の場合は、24時間警戒体制を維持するため、文字どおりの不寝番で、1週間平均60数時間の拘束を受け、3日に1度は深夜の勤務があり、風雨にさらされる日も、深更にわたるまで、パトロールその他の屋外勤務を行っている。駐在所勤務の場合は、警察官が、家庭とともに管内に居住し、広大な地域を1人で受け持ち、家族の助力を得て、すべての警察事象を第一次的には、1人で処理している。
 外勤警察官の職務は幅広く、警察の仕事全般にわたり、凶悪犯人の逮捕、交通事故の処理から、迷い子やでい酔者の保護、地理案内や困りごと相談等多岐にわたり、単に法を執行するだけでは解決しない仕事が多い。このため、外勤警察官には、幅広い知識と長時間の困難に耐える強じんな体力と正義感、不とう不屈の精神力が要求されている。また、交通警察官は交通事故の危険と排出ガスの悪環境のなかで、交通の円滑と事故の防止を目指して職務を執行している。
 そのほか、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度の割合で当直勤務という夜間勤務を行っている。
 警察の職務は、国民の生命、身体、財産の保護と犯罪捜査、犯人の逮捕、交通の取締り、その他公共の安全と秩序の維持に当たることである。この職務の執行に当たっては、犯人の逮捕等に際し、相手方の激しい攻撃を受けながらも、生命の危険を顧みず、身をていして職務を遂行しなくてはならない場合もあり、そのため不幸にしてその職に殉じ、あるいは、受傷する者も少なくない。昭和50年度に職に殉じ、公務死亡の認定を受けた者は32人、受傷した者は7,245人に達している。この数は最近では最も少ない方で、また英米の警察に比べても、極めて少ない数であるが、このような不幸な事例が1件でも減るように、第一線で活動する警察官に対しては、十分な注意と配慮の下に、職務執行に当たるよう指導教養に努めている。また、これらの警察官の勇気と責任感に満ちた献身的行為をたたえ、殉職者の霊を慰めるためのほう賞金(賞じゅつ金)制度と、残された遺族の生活の安定を期するための公務災害補償制度等の整備を図っている。
 なお、警察官の職務に協力援助して災害を受ける民間人も少なくなく、昭和50年度は、死者10人、負傷者58人に達しているが、これらの人に対しても公務災害の場合と同様の補償を行っている。
 また、警察官は、国民生活の安全の確保のため、事件・事故の未然防止に必要な常時警戒活動を行うとともに、突発的に発生する事件・事故を即刻処理しなくてはならないという勤務の特殊性から、警察官に、勤務時間外の夜間・休日でも、居住地域に制限を課するとともに、管外への旅行の際は届出をさせるなどにより、常にその居所を明らかにするようにしている。更に、常時即応の体制や集団警備力の確保等の職務上の要請を満たすため、待機宿舎その他の職員宿舎等の整備を重点的に推進している。
 以上のような警察官の職務内容と勤務形態の特殊性から、警察官は一般行政職の職員の俸給表とは体系の異なった公安職俸給表が適用され、また、その職種に応じ、白バイ手当、刑事手当、鑑識手当等の特殊勤務手当や、宿直手当等の特別の措置がなされている。
 次に、警察官として在職中に死亡した者についてその原因別死亡率を他の一般公務員と比較すると、交通事故を除けば、若い警察官ほど死亡率は低いが、年齢が高まるにつれ死亡率は急速に高まり、45歳を越えると一般公務員の水準を上回っている。特に、心臓疾患、脳疾患による死亡率が著しく高い。これらのことから、警察官、特に若い警察官は身体強健であるが、長期間の厳しい勤務の続く過程で身体に障害を来たし、病いに倒れるものも出てくるといえる。このため、各都道府県警察においては、健康管理に力を注ぎ、一般定期健康診断のほか、各種の特別健康診断を実施し、その検査結果に基づき、療養の指導、職務の変更、勤務の軽減等の措置をとっている。
 以上のことからも分かるとおり、最近は警察事象の変化とともに、勤務密度が濃くなり、職務時の緊張も高まっているため、従来のような過度に長い拘束時間の下での勤務では適正な職務執行が困難と考えられる状況が生まれてきている。とりわけ、社会一般に週休二日制が普及し、労働に対する意識が変化するにつれ、この問題の解決は差し迫ったものとなり、より能率的な職務執行を行うためにも、拘束時間の短縮をはじめ、交替制勤務制度、当直制度その他の勤務制度や勤務条件の改善及び勤務環境の整備等が当面の課題となっている。
 更に、警察官給与の改善、公務死傷者への賞じゅつ金と療養・リハビリテーション制度の改善、待機宿舎の整備等も緊急に改善する必要に迫られている。

3 警察教養

(1) 学校教養
 警察官は、広く国民の日常生活に接する立場にあり、その職務の執行に当たっては、重い責任と権限が付与されている。国民の負託と信頼にこたえるために、警察では、警察官の教育に多大の力を注ぐとともに、警察活動を支える警察通信職員等についてもその教育に力を注いでいる。
 すなわち、警察教養を効果的に進めるため、警視庁警察学校及び道府県警察学校、管区警察学校、警察大学校、同附属警察通信学校等の整備を行い、新しく採用した警察官や交通巡視員等に対する新任教養をはじめ、幹部昇任者に対する幹部教養、警察の専門分野に応じた各種の専門教養等を実施して、警察職員として必要な資質の育成と職務の遂行に必要な知識と技術の修得を図っている。
(2) 一般教養
 警察では、学校教養のほかに、職務教養を中心とした「一般教養」を行っている。
 これは、すべての警察職員がその対象となっており、幹部が職務を通して行うマンツーマンによる指導のほか、講習会、研究会等の開催及び資料の発行等によって行われている。とりわけ、初任科卒業後間もない青年警察官に対しては、その実務能力の向上を図るため、目標管理と自己啓発のシステムを導入し、また、豊かな人間性の醸成を図るため、各地で合宿研修を行っている。
(3) 術科教養
 警察官の職務には、犯人の逮捕、人命救助等強固な体力と精神力をもって当たらなければならないものが極めて多い。したがって、柔道、剣道等の訓練を通じてこれらの能力を錬成し、更に、これを基にして逮捕術やけん銃操法等の職務執行に必要な術科技能を習得しなければならない。しかも、常に相手方の基本的人権を尊重して必要最少限度の権限行使にとどめなければならないので、各種の技能の練度を高める必要がある。ちなみに、柔道等の段級位取得状況は、表9-1のとおりである。

表9-1 各種術科の段級位取得状況(昭和50年4月現在)

 昭和50年は、術科技能の向上と事故防止のための安全管理の推進を目標として、「基礎体力の充実」、「職務執行に直結する技術の向上」、「安全管理の推進」を術科教養の重点とした。
(4) 海外との交流
 警察事象の国際化傾向が強まるとともに、外国に出張する警察職員数は、昭和50年には、約400人に達している。
 これらのなかには、国際的な犯罪捜査や外国警察の制度と運用に関する調査・研究のほか、各都道府県警察官の青年警察官約120人を北アメリカ、ヨーロッパの各国に数週間派遣し、警察制度や警察活動の実際について研修を行った青年警察官海外研修、柔剣道指導者の海外派遣及び31名の世界選手権大会等の国際試合への選手派遣等が含まれている。

4 組織

 社会の変化に即応し、時代の要請に適合した効率的な警察活動を推進するため、昭和50年度に行われた主な組織改正としては、次のようなものが挙げられる。
 近時における国際犯罪の増加傾向にかんがみ、国際刑事警察機構(ICPO)を中心とする捜査共助体制及び国際犯罪の捜査体制の充実強化を図り、犯罪捜査における国際協力に万全を期するため、警察庁刑事局に国際刑事課が新設された。このほか、警察庁長官官房総務課に広報に関する事務を担当する広報室、警察大学校に管区及び都道府県警察の警察学校の教官の養成等を担当する教官教養部が新設され、更に、前年の関東、近畿両管区警察局に引き続き、中部管区警察局公安部に公害関係事犯の取締りに関する事務を担当する公害調査官1人が新しく置かれた。
 また、防犯、警ら活動を強化し、市民生活の安全と平穏を確保するため、宮城、福島、岡山、山口、長崎、熊本及び鹿児島の7県の県警察本部に、防犯部が新設された。

5 予算

 警察予算は、国費(補助金を含む。)と都道府県費とに大別される。
 国費は、警察庁が所掌する事務を処理するために必要な人件費その他のも給費と、都道府県警察に要する経費のうち、直接国庫が支弁する経費及び都道府県警察費に対する補助金を合わせて計上している。
 都道府県費は、都道府県警察の運営に必要な人件費、物件費等であるが、この経費の一部について国が補助することになっている。
 また、国の一般会計に占める国費(警察庁予算)の割合は図9-2のとおり、おおむね0.4%であり、都道府県予算に占める都道府県警察費の割合は、図9-3のとおり、おおむね7.3%となっている。
 昭和50年度予算は、「長期の治安展望に基づく警察基盤の整備」と「国民の期待と信頼にこたえうる警察活動の強化」を柱として、地方警察官4,000人の増員をはじめ、自動車安全運転センターの設立、警察機動力の充実強化及び前年度に引き続く全国的情報管理機構の整備等の施策を盛り込み、警察庁予算においては、図9-4のとおり、前年度の805億600万円に比べ、12.8%増の908億3,000万円、都道府県警察予算においては、図9-5のとおり、前年度の9,430億1,600万円に比べ、11.2%増の1兆488億7,500万円となっている。

図9-2 国の一般会計に占める主な経費の割合(昭和50年度)

図9-3 都道府県予算に占める主な経費の割合(昭和50年度)

図9-4 警察庁の予算(昭和50年度)

図9-5 都道府県警察の予算(昭和50年度)

6 装備

(1) 車両
 警察用車両は、刑事、保安、交通、警備等各部門における警察活動を機動化し、その迅速、的確な運営を推進していく上で不可欠の装備である。
 このため、警察事象の量的な増大あるいは質的な変化に対応して逐次計画的な拡充強化を図っている。その整備状况は、図9-6のとおりである。
 警察車両の車種は使用目的により多種にわたっているが、その主要なものは、捜査用車、パトカー、交通パトカー、白バイ、輸送車等である。そのほか、捜査本部用車、検問車、移動交番車、交通事故処理車、投光車、爆発物処理車両等の特殊用途車両も保有している。

図9-6 主要車種の車両台数の推移

 昭和50年度は、老朽車両の更新を行うとともに、小型警ら車(ミニパトカー)、輸送車、交通事故処理車、火薬額取締用車等を中心に増強整備を行った。その結果同年度末における警察車両の保有台数は、18,537台となっており、その構成は、図9-7のとおりである。

図9-7 警察用車両の車種別構成(昭和50年度末現在)

(2) 舟艇
 警察用舟艇は、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、湖沼等に配備し、水上のパトロール、水難者の捜索、救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締り等に運用している。
 これらの舟艇には、5トン級の小型艇から50トン級のものまであり、その整備に当たっては、使用水域や用途を考慮し、老朽船の減耗更新の際に、高速化を図るなど性能を高めることに努めている。
 昭和50年度末における警察用舟艇数は、183隻であり、その配備状況は、図9-8のとおりである。

図9-8 警察用舟艇の配備状況(昭和50年度末現在)

(3) 航空機
 警察用航空機としては、表9-2の

表9-2 航空機の整備状況(昭和35~50年度)

とおり、昭和35年度からヘリコプターの整備を進め、昭和50年度末現在で20機を保有している。
 これらは、警視庁、大阪、愛知、福岡、北海道、広島、宮城、愛媛、千葉、神奈川、新潟の主要都道府県警察に順次配備して、広域的、多角的運用を図っている。
 ヘリコプターは、視界が広く、しかも機動性に富むなど、車両と舟艇にはない優れた特殊性能を有しており、迅速、能率的な警察活動に大きな貢献をしている。その具体的活動は、災害発生時の状況は握と救助活動、山岳遭難者等の捜索、救助、道路交通情報の収集と交通の指導取締り、逃走犯人の捜索、追跡、大規模警備事案の状況は握、公害取締り等広範囲に及んでいる。

7 通信

 警察通信は、警察における指揮、命令、報告等の情報を伝達するための重要な手段であり、いわば、警察運営における神経系統の役割を果たすものである。
 したがって、それは、警察活動のあらゆる態様に即応し得るものであることが必要であり、このため、警察では、全国の警察機関相互間を結んで構成している警察電話網をはじめ、文書や写真等の送受信を行うファクシミリ、パトカーや徒歩警察官の活動を効率的に行うための警察無線等の多種多様の通信手段を保有し、これらを総合的に活用している。
(1)日常の警察活動と通信
ア 警察電話とファクシミリ
 警察電話は、全国すべての警察機関に設置されている。警察事象の複雑、多様化に伴って、通話量は年々増加の一途をたどっているが、これに対応して迅速かつ緊密な情報連絡を確保するため、昭和50年度は、通話量が著しく多い区間の電話回線を増強するとともに、85の警察署について、手動式電話交換機を自動式に取り替えるなど、量・質両面にわたって整備を行った。これにより、既にダイヤル即時化されている警察庁、各管区警察局、警視庁及び道府県警察本部に加え、全国警察署の約半数の電話が自動即時化された。
 文字、図表、写真等を送受信するファクシミリは、警察に適した通信手段として、早くから使用されている。これは、各管区警察局、警視庁及び道府県警察本部相互間を結ぶもの(県間用)と各都道府県内の警察の本部及び警察署相互間を結ぶもの(県内用)の2系統の運用が行われている。
 ファクシミリの利用状況については、県間用の取扱い枚数だけをとってみても、昭和50年には、約1,100万枚に達しており、この大量のファクシミリの利用を効率的に処理するため、昭和50年には、新たに高速処理機能を有するファクシミリの全国的な運用を開始した。

イ 警察無線
 パトカー、白バイ等の車載用無線機や携帯無線機を通じて行う移動無線通信は、警察活動上欠かせない通信手段である。
 移動無線通信を導入した当初の使用周波数帯は、無線機に対し複数の無線通信系を任意に切り替えて使用できる機能の付与が困難であること、雑音や混信による妨害が増大したことなどの理由から、通信系切り替え機能の付与が容易で、雑音等の妨害が少ない周波数帯への移行を進めている。
 また、高速道路上においては、特に広域的、機動的な警察活動が必要で、この活動を効率化するため、各高速道路には、都府県の境界を越えて使用できる専用の無線通信系を設置することが望ましい。このため、昭和50年度においては、従来の東名、名神及び中央各高速道路の無線通信系に加えて、東北及び中国各自動車道の一部供用開始に伴い、それぞれ専用の無線通信系を開設した。
 更に、山岳等によって電波がさえぎられ、無線通話ができない、いわゆる不感地帯の存在は、警察活動に大きな支障を及ぼすところから、超短波無線中継所の増設や地下街用無線中継施設の設置を行って、その解消に努めている。
 以上のような警察無線施設の整備を進めるとともに、パトカーや第一線で活動する警察官が、警察本部や警察署等と情報連絡を行うため、従来から車載用無線機、携帯無線機及び受令機の整備増強を行っているが、特に、車載用無線機は、パトカー等第一線で活動する車両の全車両に、また、白バイについては、当面総台数の3分の1にとう載することを目標に整備を進めている。
 携帯無線機については、従来広域的な活動、重要、突発事案あるいは緊急配備等の活動用として整備してきたが、日常の警察活動をよりきめ細かく効率的に展開するため、昭和49年度から、各警察署ごとに構成する第一線警察活動用無線通信系の整備を行うこととし、大都市の警察署から順次整備を進めている。このほか昭和50年度には、へき地駐在所用無線機として、高出力の無線機を新たに開発し、その整備を行った。
(2) 110番と通信施設
 市民からの110番通報等によって事案の発生を認知すると、警察本部の通信指令室は、直ちにパトカーや派出所、駐在所の警察官に対し、有線及び無線により指令し、緊急配備等の初動措置を行っている。
 警視庁及び道府県警察本部の通信指令室には、これらの措置を迅速かつ円滑に行えるよう、110番の受付台をはじめ、警察署や派出所、駐在所に対する有線指令装置、パトカーや無線機を携行している警察官に対する無線指令装置、他府県の通信指令室等と連絡打合せを行う会議電話装置等が集中的に設置されている。
 警視庁の通信指令室では、パトカーのリスポンス・タイムを短縮し、効果的な緊急配備を行うため、パトカーの位置やその活動状況をコンピューターで自動的には握させ、これを地図板上等に表示させる自動動態表示装置の整備を進めてきており、現在都内の千代田区、新宿区等6区について運用している。

(3) 重要、突発事案と通信
 警察では、いかなる重要、突発事案に際しても円滑な情報伝達が確保できるよう、機動性に富み、信頼性の高い各種の応急出動用通信機器の整備を進めている。その主要な機器としては、移動警察電話装置、移動多重無線電話車、応急用無線電話機、可搬型超短波臨時中継機、可搬型写真電送装置等がある。
 移動警察電話装置は、指揮用車等にとう載し、警察本部の内線電話機と同様に、警察本部の自動交換機を通して、車中から内線電話機と連絡できるもので、昭和50年度には、警視庁と大阪府警察に整備した。
 バス形の車両に3回線の無線電話を設備した移動多重無線電話車は、事案の現場に到着次第、直ちに現地本部等として使用できるもので、昭和50年度末現在、各都道府県警察に配置されている。
 応急用無線電話機は、小型で携帯に便利なところから、車両の進入が困難な地域で事案が発生した場合、現地と最寄りの警察機関との間に早急に電話回線を開設する必要があるときに特に有効であり、現在、各都道府県警察に1~2台ずつ配置されている。
 以上のような諸機材の整備のほか、重要、突発事案発生時には、通信職員によって臨時に編成される機動通信隊が現場に出動して通信回線の開設や通信機器の保守等、通信連絡の確保に当たっている。このような現場出動は年々増加を示していることから、警察では、機動通信体制の早急な刷新強化を図ることが必要となってきている。

〔事例〕 台風5号による災害警備における機動通信活動
 昭和50年8月17日、台風5号により、高知県下は記録的な豪雨に見舞われ、じん大な被害を被った。
 県警察の災害警備活動に呼応し、四国管区警察局高知県通信部では、機動通信隊を編成し、四国管区警察局をはじめ、他の管区警察局及び他県通信部から通信職員及び各種通信用資機材の応援を受け、通信の確保に従事した。
 特に被害の大きかった県中央部では、通信の途絶した地域が多く、警察電話が不通になった駐在所も多数あった。機動通信隊は、これら駐在所や被害地域の活動部隊に対する携帯無線機の配置、移動多重無線電話車や応急用無線電話機による前進基地局の開設、警察署の通信設備や超短波無線中継所に対する給電及び防護措置、通信機器の修復等を行った。この機動通信活動において、現地へ出動した通信職員は延べ184人、使用された携帯無線機は、延べ612台に及んだ。
(4) 国際犯罪と通信
 警察庁には、ICPO東京無線局が設置されている。
 同無線局は、ICPO無線網における東南アジア地域中央無線局として、パリの国際中央無線局との間及びソウル、マニラ、ジャカルタ、バンコク等アジア地域の各無線局との間で交信を行っている。
 また、昭和50年からは、国際犯罪の増加に伴う情報量の増加等に対処するため、国際商用テレックスに加入し、これに加入しているICPO加盟国間との情報交換を行っている。

8 警察とコンピューター

(1) オンライン・リアルタイムによる車両照会業務の開始
 昭和49年、オンライン・リアルタイムシステムが導入され、同年10月から指名手配照会業務が全国実施されたのに続き、昭和50年10月からは、車両照会業務を開始した。
 これは、ぞう品車両、ひき逃げ容疑のある逃走車両等を警察庁のコンピュ-ターに記録し、これと各都道府県警察照会センターの端末装置をデータ通信で結び、第一線警察官からの照会に対し、ぞう品車両であることの有無等を即時に回答するシステムである。業務開始後、犯罪捜査その他の警察活動上、相当の成果を収めつつある。
 なお、昭和51年10月から同じくオンライン・リアルタイムによる犯歴照会及び家出人照会業務が実施される予定である。
(2) バッチ処理用コンピューターのレベルアップ
 犯罪手口照会、銃砲登録照会及び各種統計等の各業務のデータ量の増加に伴い、従来のコンピューターでは処理が困難となったため、これを大型のものと置き換えた。
 これにより、今後、バッチ関係の各種業務が効率的に処理されるとともに、昭和51年2月からは一指指紋照会業務が新規導入される予定である。

9 研究体制

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全等に関する研究、実験及びその研究を応用した鑑定検査を行っている。
 昭和50年度の研究件数についてみると、前年度からの継続研究45件、新規研究42件の合わせて87件(最近5年間の平均93件)となっており、その主なものは表9-3のとおりである。
 昭和50年中に開催された国際会議や外国の学会に招請されて発表した研究としては、「頭髪の走査電子顕微鏡及びX線マイクロアナライザーによる犯罪学的検討、特に性別差と年齢差について(昭和50年4月、第8回国際走査電子顕微鏡学会アメリカ)」等があり、国内においても「道路交通公害防止のための交通処理システムの基本的な機能に関する研究」等の論文を発表している。
 こうした研究の成果により、尿中の覚せい剤の迅速、的確な検出、現場遺留弾丸からの発射銃器の推定等が可能になった。

表9-3 科学警察研究所の主要な研究例(昭和50年度)

〔研究例〕 犯罪の悪質性の測定に関する研究
 殺人、強盗、強姦といったいろいろな犯罪行為に対して、一般の人々がどの程度悪質だと感じているかを数量(悪質性スコア)で表わす研究を行った。このスコアを用いて、犯罪の悪質性に関する都市別比較を行った結果都市規模が大きく、第三次産業人ロ比の多い、いわゆる都市化の進んだ地域においては、単に犯罪発生率が高いだけでなく、犯罪の悪質度も高いことが明らかとなった。
 次に、鑑定検査についてみると、科学警察研究所では、都道府県警察及び地方の鑑識センター(札幌、大阪、福岡)で行えない高度の技術を要する鑑定.検査を行っており、その状況は、図9-9のとおりである。
 また、科学警察研究所では上述のほか、都道府県警察の鑑識技術向上を目的とする各種講習会の開催や都道府県警察職員に対する研修も行っている。
 なお、昭和50年には、文書、毛髪、爆発、ポリグラフ、機器分析、銃器、金属破断面の7部門の講習会を実施した。
 更に、科学警察研究所では、都道府県警察の鑑識技術職員が検査業務の遂行に必要である鑑識科学関係検査法の体系化のため、検査法集の逐年刊行を行っており、昭和50年には「化学的物体検査法」を刊行した。

図9-9 科学警察研究所の鑑定、検査件数(昭和41~50年)

(2) 警察通信学校研究部
 警察通信学校研究部では、第一線の警察活動に資するため、最近、著しい進歩を遂げている電子技術を応用した通信機器の実用化研究や通信方式等についての調査研究を行っている。
 昭和50年度には、警察署に設置するのに適した小容量の電子交換機、ファクシミリの新しい光電変換、走査及び記録方式、テレビ画像の狭帯域伝送、車載用の画像通信装置等の調査研究を行った。


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