第3章 犯罪情勢と捜査活動

1 犯罪情勢

(1) 全刑法犯の発生状況
ア 犯罪発生は2年連続増加
 昭和50年の全刑法犯(注1)の認知件数は、123万4,307件と、前年に比べて2万3,302件(1.9%)の増加を示し、2年連続の増加となった。
 過去10年間(注2)の全刑法犯認知件数と犯罪率(注3)の推移をみると、図3-1のとおりで、昭和48年に119万549件と過去10年間の最低を記録した全刑法犯認知件数は、49年に再び120万件台に達し、50年には更に増加するに至った。50年に犯罪が増加したのは、49年と同様に窃盗犯の増加による

図3-1 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和41~50年)

ものであり、とりわけ「自転車盗」、「オートバイ盗」等の乗物盗及び「空き巣ねらい」、「出店荒らし」等の侵入盗が大幅に増加したことによるものである。また、犯罪率も認知件数の減少に伴い減少傾向を示してきたが、49年来の認知件数の増加により、わずかであるが2年連続して増加した。
 過去10年間における刑法犯認知件数の包括罪種(注4)別構成比の推移は、図3-2のとおりで、窃盗犯を除いて認知件数は減少傾向にあるのに対し、窃盗犯のみが横ばいであるため、相対的にその構成比は増加しており、昭和50年は全体の84.1%と過去10年間の最高を記録した。
 なお、凶悪犯及び風俗犯の構成比は、毎年1.0%前後とほぼ一定しており粗暴犯については、過去10年間減少しつつある。

図3-2 刑法犯の包括罪種別認知件数(構成比)の推移(昭和41~50年)

 昭和50年の犯罪率を都道府県別にみると、図3-3のとおりで、犯罪率が最も高いのは東京の1,791.1件で、最も低いのは鹿児島の662.5件となっている。

図3-3 都道府県別犯罪率(昭和50年)

(注1) 犯罪には、「刑法」に規定する刑法犯のほか、刑法以外の各種法令に違反する特別法犯があるが、本章においては、主として刑法犯を対象とする。また、特に断りのない限り、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷は、刑法犯から除外し、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」、「決闘罪ニ関スル件」、「爆発物取締罰則」、「航空機の強取等の処罰に関する法律」及び「火炎びんの使用等の処罰に関する法律」の規定に該当する行為は刑法犯として扱う。
(注2) 本章においては、特に断りのない限り、昭和47年5月15日以降の沖縄県の数を含む。
(注3) 本章における犯罪率は、人口10万人当たりの刑法犯認知件数である。
(注4) 「包括罪種」とは、刑法犯を凶悪犯、粗暴犯、窃盗犯、知能犯、風俗犯、その他の刑法犯の6種に分類したものをいう。
凶悪犯…殺人、強盗、放火、強姦
粗暴犯…暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合
窃盗犯…窃盗
知能犯…詐欺、横領、偽造、贈収賄、背任
風俗犯…賭博、猥褻(わいせつ)
その他の刑法犯…公務執行妨害、住居侵入、逮捕監禁、業務上(重)過失致死傷等

イ 主な罪種の発生状況
(ア) 凶悪犯(殺人、強盗、放火、強姦)
 昭和50年の凶悪犯認知件数は、前年に比べ35件(0.4%)減の9,702件とほぼ横ばいである。罪種別にみると、前年に比べ、放火が7.5%、強姦が6.4%減少する一方、殺人が9.7%、強盗が7.5%増加しており、罪種によりかなりの差異がみられる。
 また、過去10年間の罪種別凶悪犯認知件数の推移をみると、図3-4のとおり殺人は横ばい、強盗、強姦はおおむね減少傾向を示している。放火については、昭和45年に急増して以来、若干の増減はあるものの依然として多発していることが注目される。

図3-4 凶悪犯認知件数の推移(昭和41~50年)

(イ) 粗暴犯(暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合)
 昭和50年の粗暴犯認知件数は、前年に比べ5,418件(6.9%)減の7万3,198件となり、40年以来継続して減少している。罪種別にみると、脅迫が2.5%、恐喝が2.9%とそれぞれ増加したが、暴行、傷害はともに9.4%(それぞれ2,284件、3,551件)減と前年に引き続き減少した。
 過去10年間の粗暴犯の認知件数の推移は、図3-5のとおりで、凶器準備集合を除き、各罪種とも減少傾向を示している。

図3-5 粗暴犯認知件数の推移(昭和41~50年)

(ウ) 窃盗犯
 昭和50年の窃盗犯認知件数は、前年に比べ2万4,789件(2.4%)増加し、103万7,942件と2年連続増加した。手口別にみると、非侵入盗は、「車上ねらい」が1万1,811件(16.2%)増加したにもかかわらず、49年に急増した「資材置場荒らし」(注5)、「部品盗」(注6)、「万引き」が依然として件数は多いながらも減少したため、全体として7千件余の減少となった。
 乗物盗は、前年に比べ約2万件(7.8%)増加し、そのうち「自転車盗」が49年に引き続き1万5,639件(9.0%)と大幅に増加したのが目立った。更に、市民生活に大きな不安を与える侵入盗についても、「空き巣ねらい」、「忍込み」等ほとんどの手口で増え、1万2,417件(3.9%)の増加となった。
 過去10年間の窃盗犯認知件数の推移は、図3-6のとおりおおむね横ばい状態で、そのなかにあって乗物盗は、昭和44年以後大幅に増加しており、その動向が注目される。

図3-6 窃盗犯認知件数の推移(昭和41~50年)

(エ) 知能犯(詐欺、横領、偽造、贈収賄、背任)
 昭和50年の知能犯認知件数は、前年に比べ6,026件(9.0%)増の7万2,809件となり、49年が総数、各罪種とも減少したのに対し、50年はいずれも増加に転じた。
 過去10年間の知能犯認知件数の推移をみると、図3-7のとおりで、総じて減少の傾向にある。これを罪種別にみると、贈収賄が2、3年の周期で振幅の大きな増減を繰り返しており、昭和50年は、1,066件と前年に比べ308件(40.6%)増加したのが注目される。また、詐欺、横領は、件数、被害額ともに増加したが、とりわけ詐欺は、図3-8のとおり、被害額が大型化し、1件平均が前年の約73万円から約88万円と20.5%も増え、その被害総額も29.6%増加して約472億円となり、過去最高を記録した。

図3-7 知能犯認知件数の推移(昭和41~50年)

図3-8 詐欺、横領の被害額(昭和46~50年)

(オ) 風俗犯(賭博、猥褻(わいせつ))
 昭和50年の風俗犯の認知件数は、前年に比べ10.9%減の1万314件であった。罪種別にみても、賭博、猥褻とも同様の減少をみせている。
 過去10年間の風俗犯認知件数の推移をみると、図3-9のとおりで、昭和45年にやや増加したものの、全体的には減少傾向にある。これを罪種別にみると、42年以後増加傾向にあった賭博が減少し、猥褻も44年を頂点として減少している。

図3-9 風俗犯認知件数の推移(昭和41~50年)

(カ) 財産犯の被害発生状況
 昭和50年の財産犯の被害発生については、図3-10のとおりで、前年に比べ、窃盗が45億円(7.6%)増の636億円、詐欺が108億円(29.7%)増の472億円、横領が10億円(7.5%)増の143億円となり、総額は約169億円(15.2%)増の約1,280億円となった。それぞれ事件1件当たりの平均被害額は、横領約135万円、詐欺約88万円、強盗約22万円、恐喝約16万8千円、窃盗約6万1千円となっている。
 過去10年間の年次別被害額の推移をみると、図3-11のとおり年々増加しており、昭和50年は41年の2.13倍となった(注7)。

図3-10 財産犯被害額(昭和50年)

図3-11 財産犯被害額の年次別推移(昭和41~50年)

(注5) 「資材置場荒らし」とは、資材置場等に置いてある鉄材、木材等の資材を多量に窃取する手口をいう。
(注6) 「部品盗」とは、自動車、船等に取り付けてある部品、付属品等を窃取する手口をいう。
(注7) 昭和50年の消費者物価指数は、41年の約2.1倍である。
(2) 全刑法犯の検挙状況
ア 検挙率はわずかに上昇
 昭和50年の全刑法犯の検挙状況は、検挙件数が前年に比べ1万6,496件(2.4%)増の71万3,031件、検挙人員が808人(0.2%)増の36万4,117人となり、件数について2年、人員について3年連続して増加した。検挙率も前年に比べ0.3%とわずかであるが増加し、57.8%となった。
 過去10年間の全刑法犯の検挙状況の推移は、図3-12のとおり、検挙件数は昭和41年に次ぐ件数となり、検挙人員も47年を最低に年々増加している。また、検挙率も45年以後増加傾向にあり、ここ4年間57%台を維持している。

図3-12 刑法犯検挙件数・検挙人員及び検挙率の推移(昭和41~50年)

イ 主な罪種の検挙状況
(ア) 凶悪犯
 昭和50年の凶悪犯の検挙件数は、8,630件、検挙人員は9,213人で、前年に比べそれぞれわずかながら減少したが、検挙率は0.1%上昇し、89.0%となった。
 過去10年間の凶悪犯検挙状況の推移は、図3-13のとおりで、検挙率は、多少の増減はみられるが、90%前後の高率を維持している。なお、罪種別検挙率は、殺人96.5%、強姦91.5%、放火86.4%、強盗79.7%であった。

図3-13 凶悪犯検挙状況の推移(昭和41~50年)

(イ) 粗暴犯
 昭和50年の粗暴犯の検挙件数は、6万7,004件、検挙人員は8万6,159人で、前年に比べそれぞれ減少しているが、検挙率は0.4%上昇し、91.5%となった。
 過去10年間の粗暴犯検挙状況の推移は、図3-14のとおり、検挙件数、人員ともに大幅な減少をみせているが、検挙率は90%台の高率を維持している。これを罪種別にみると、暴行93.4%、傷害93.0%、脅迫90.5%、恐喝85.1%である。

図3-14 粗暴犯検挙状況の推移(昭和41~50年)

(ウ) 窃盗犯
 昭和41年以後の窃盗犯検挙件数の推移は、図3-15のとおり増加傾向にあり、50年も、前年に比べ1万8,067件(3.5%)増の53万5,760件となり、41年以来の最高を記録した。そのなかで、侵入盗及び乗物盗の検挙件数が、大幅な増加傾向を示しているのが注目される。
 窃盗犯の検挙人員の推移は、図3-16のとおりで、昭和44年を最低として増加傾向に転じ、50年は前年に比べ7,631人(4.0%)増の19万8,423人とこれも41年以降の最高を記録した。また、乗物盗の検挙人員は、最も少なかった43年の2倍以上になった。非侵入盗の検挙人員は、窃盗犯総数のそれとほぼ比例している。一方、侵入盗の検挙人員は、41年以来減少傾向にあったが、50年は前年に比べ2,267人(8.8%)増の2万8,122人となった。

図3-15 窃盗犯検挙件数の推移(昭和41~50年)

図3-16 窃盗犯検挙人員の推移(昭和41~50年)

 昭和41年以降の窃盗犯検挙率は、図3-17のとおり、44年を最低として上昇傾向にあり、50年は窃盗犯全体で51.6%となった。その内訳は、侵入盗57.1%、非侵入盗57.7%、乗物盗34.9%と、いずれも過去10年間の最高を記録した。
 なお、乗物盗は侵入盗、非侵入盗に比べて検挙率は低い。

図3-17 窃盗犯検挙率の推移(昭和41~50年)

ウ 検挙の態様
 検挙は、その態様により、身柄を拘束しないものと、逮捕して身柄を拘束するものとがあるが、図3-18のとおり、逐年身柄不拘束検挙人員の割合が増加し、昭和50年は69.2%に達した。
 包括罪種別の検挙態様は、図3-19のとおりで、罪質上逃亡及び証拠隠滅のおそれの強い凶悪犯に対する逮捕の比率が、他の罪種に比べて著しく高くなっている。

図3-18 検挙態様の推移(昭和46~50年)

図3-19 包括罪種別検挙態様(昭和50年)

エ 検挙人員の年齢層別状況
 昭和50年における全刑法犯検挙人員(注8)の年齢層別構成比は図3-20のとおりで、14~19歳の者が全体の約3分の1を占めている。

図3-20 検挙人員年齢層別構成比(昭和50年)

 年齢層別にみた犯罪者率(注9)の推移は、図3-21のとおりで、全体としては減少傾向にあるにもかかわらず、14~19歳の年齢層が昭和44年を最低として増加傾向にあるのが注目される。

図3-21 年齢層別犯罪者率(昭和41~50年)

 また、各年齢層別の犯罪者率は、年齢が低いものほと高くなっており、50年は14~19歳と40歳以上とでは6対1の割合となっている。
(注8) 14歳末満の者による行為は、刑法犯の対象とならず、触法少年として取り扱われる。
(注9) 犯罪者率とは、人口10万人当たりの刑法犯検挙人員数である。

2 犯罪の特徴的傾向

(1) 死体隠ぺい事件の増加
 従来、殺人事件は被害者の死体の発見等により警察に認知され、現場捜査、身元捜査へと進展するのが典型的なパターンであった。しかし、最近は、殺害した被害者の死体を土中、水中等に隠ぺいする事件が増加し、必ずしも警察がすべてを認知することができなくなってきている。このことから、日常の生活の場からある日こつ然と姿を消した行方不明者の中には、殺人事件の被害者になっているものが少なからずあることがうかがわれる。
 最近5年間に警察が認知できた死体隠ぺい事件は、図3-22のとおり年々増加しており、昭和50年には68件と前年に比べ大幅に増加した。被害者も前年の53人から50年には70人となり、著しく増加した。

図3-22 死体を隠ぺいする殺人事件の認知、検挙状況(昭和46~50年)

 このように警察に認知されることなくやみからやみへと葬り去られている事件の増加に対して、警察は、家出人、行方不明者等のうち、殺人事件の被害者となっている疑いの強いものについて捜査活動を行っている。その結果は表3-1のとおり、年々殺人事

表3-1 殺人の被害者となっている疑いのある行方不明者の捜査状況(昭和48~50年)

件の被害者となっていたことが判明した者の数が増加し、50年には、解決した28件のうち25件が殺人事件の被害者となっていた。
 また、警察が認知した死体隠ぺい事件の隠ぺい方法は、図3-23のとおり、昭和50年には土中に埋められた死体が33体(47.1%)と最も多く、次いで水中に投棄されたものが9体(12.9%)となっている。

図3-23 死体隠ぺい方法(昭和50年)

〔事例1〕 川口市戸塚の主婦殺人・死体遺棄事件
 昭和48年8月、川口市の主婦(33)が行方不明となり、捜査したところ、情交関係にあった鳩谷市の元土工(53)が別れ話に激こうし、同女を絞殺した上、廃油をかけて焼き、骨を土中に埋めて隠ぺいしたことが判明し、50年4月検挙した(埼玉)。
〔事例2〕 足利市のスナック経営者強盗殺人・死体遺棄事件
 昭和49年12月、足利市内でスナックを経営する女性(35)が、信用金庫から預金520万円を払い戻して帰宅する途中に行方不明となり、捜査した結果、無職の男(33)ら2人が、同女の帰宅途中を待ち伏せて絞殺の上、現金を奪って土中に埋めて隠ぺいしたことが判明し、50年2月検挙した(栃木)。
(2) 爆破予告事件は依然として多発
 昭和50年における爆破予告事件は、1,639件(注)で、爆発的に増加した49年に比べてわずかに減少したものの、依然として多発している。
 爆破予告事件の発生を月別にみると、図3-24のとおり、間組本社爆破事件をはじめ、凶悪な爆破事件が発生した直後に多発し、5月19日の一連の企業爆破事件の検挙以後は次第に鎮静化しているところから、この種の事件

図3-24 爆破予告事件月別発生、検挙状況(昭和50年)

は、容易に敢行でき、模倣性の強いものであることがうかがわれる。
 最近5年間の爆破予告事件の対象は、表3-2のとおりであるが、昭和50年は「官公署」が377件(23.0%)と最も多く、次いで「一般企業」、「交通機関」、「デパート」の順になっており、この4対象で60%を超えている。特に、官公署、交通機関、デパート等不特定多数の市民が利用する場所をねらったものが多く、これによる一時的避難、交通機関の停止等の国民が被る不安と損失は計り知れない。

表3-2 対象別爆破予告事件発生状況(昭和46~50年)

 次に、爆破予告事件の検挙件数は逐年増加傾向にあるが、昭和50年は348件と前年に比べ倍増した。
 検挙された爆破予告事件を動機別にみると、表3-3のとおり、「世間を騒がすため」が157件、「社会に不満をもって」が63件と前年に比べそれぞれ大幅に増加している。
〔事例1〕 大丸百貨店に対する爆破予告恐喝未遂事件
 タクシー運転手(33)は、昭和50年7月、神戸市の大丸百貨店に対して、現金300万円をよこさなければ爆破する旨の文書を数回にわたって郵送し、検挙された(兵庫)。
〔事例2〕 国鉄南武線に対する爆破予告事件
 工員(40)は、昭和50年9月から10月の間に数回にわたり、国鉄南武線尻手駅、矢向駅等に爆弾を仕掛けた旨の爆破予告電話をかけて、検挙された(神奈川)。

表3-3 爆破予告事件の動機別状況の推移(昭和46~50年)

(3) 金融機関を対象とした強、窃盗事件が多発
ア 金融機関を対象とした強盗事件
(ア) 大型化する被害
 昭和50年の金融機関を対象とした強盗事件は、図3-25のとおり45件で、前年に比べて2件減少したものの、依然として多発している。
 また、被害額については、表3-4のとおり年々大型化の傾向を示しており、50年の被害総額は約1億1千万円、1件当たりの平均被害額は約243万円と最近5年間の最高を記録した。

図3-25 金融機関を対象とした強盗事件の推移(昭和46~50年)

表3-4 金融機関を対象とした強盗事件被害額の推移(昭和46~50年)

〔事例1〕 第一勧業銀行百万遍支店の強盗致傷事件
 昭和50年7月、第一勧業銀行百万遍支店前歩道において、集金帰りの同行行員が、3、4人組の男に鉄棒様のもので殴打され、現金5,300万円を強奪された(京都)。
〔事例2〕 コザ信用金庫の現金輸送車強奪事件
 昭和50年5月、沖縄市コザ信用金庫の現金輸送車が、本店から現金2千万余円を運搬して、同信用金庫十字路出張所前に駐車中、けん銃を所持した2人組の男に襲われ、輸送車ごと強奪された(沖縄)。
(イ) モデルけん銃使用事犯が増加
 最近5年間に金融機関を対象とした強盗事件に使用された凶器の種類は、表3-5のとおりで、昭和50年は、モデルけん銃を使用した事犯が13件と多発したのが注目される。

表3-5 金融機関を対象とした強盗事件に使用された凶器の種類(昭和46~50年)

イ 金融機関を対象とした窃盗事件
 金融機関を対象とした窃盗事件は、図3-26のとおり、逐年増加傾向を示し、昭和50年は、前年に比べ376件(10.9%)増の3,836件となった。また、金融機関の種類別では、郵便局を対象とするものが若干減少しただけで、その他はすべて増加した。

図3-26 金融機関を対象とした窃盗事件の推移(昭和48~50年)

〔事例1〕 山間地の農協支所や郵便局を対象とした金庫破り事件
 無職の男(44)は、昭和49年4月以降、本州全域にわたり、山間地の農協支所や特定郵便局に侵入して、合計21件、928万円を盗んだ(富山)。
〔事例2〕 兵庫相互銀行坂出支店の金庫破り事件
 昭和50年11月、兵庫相互銀行坂出支店において屋上出入口の窓が破られ、金庫室のコンクリート天井が石割りノミ様のもので破壊され、現金2,740万円が盗まれた(香川)。
(4) 不況を反映した犯罪の多発
ア 目立つ不況型の知能犯
 昭和50年に認知した詐欺の手口別件数をみると、図3-27のとおりで、前年に比べ、取込みが58.2%、地面師が4.6%増加している。また、知能犯のうちの財産犯(詐欺、横領、背任)について原因別検挙件数をみると、図3-28のとおりで、前年に比べ、「生活苦」が10.1%、「事業資金のため」が6.1%増加しており、不況を投影した知能犯が目立っている。
 更に、検挙事例についてみると、生活必需品の大型取込み詐欺事件、中小企業経営者らの資金繰りをめぐる手形犯罪、土地取引をめぐる詐欺事件等の不況を反映した犯罪が多発している。

図3-27 詐欺手口別認知件数の推移(昭和46~50年)

図3-28 知能犯原因別検挙件数の推移(昭和47~50年)

(ア) 生活必需品の取込み詐欺事件
 警察庁に報告があった主要取込み詐欺事件70件についてみると、1件当たりの平均被害額は5,110万円と大型化しており、被害商品としては食料品、衣料品等の生活必需品が目立った。
〔事例1〕 熊本総合食品センター社長らによる食料品等取込み詐欺事件
 取込み詐欺常習者ら8人が、架空会社を次々に設立し、12都県下、49業者から加工食品等2億1,690万円相当を取り込み、だまし取った(熊本)。
〔事例2〕 ムツミ呉服店主の呉服類取込み詐欺事件
 呉服店主が資金繰りに窮し、反物、博多帯等3億8,083万円相当を取り込み、これらを融資の担保にしたり、あるいは入質処分した(福岡)。
(イ) 中小企業経営者らの資金繰りをめぐる手形犯罪
 昭和50年に検挙した偽造手形等による主要詐欺事件の被害額を被疑者別にみると、図3-29のとおり、会社役員によるものが43.1%、中小企業経営者によるものが32.6%を占めており、不況下で資金繰りに窮した会社役員及び中小企業経営者による手形等を利用した詐欺事件が多発した。

図3-29 偽造手形等による詐欺事件被害額の被疑者別構成比(昭和50年)

 一方、資金繰りに窮している企業等を被害者とする常習的知能犯罪者による手形パクリ事件が目立った。
〔事例1〕 経営コンサルタントによる約束手形偽造・同行使詐欺事件
 経営コンサルタントが経営資金に窮し、自己が経営指導に当たっている数社の社長印等を偽造の上、約束手形133通(額面2億4,730万円)を偽造し、金融業者ら48人から割引を口実に1億6,743万円をだまし取った(長野)。
〔事例2〕 橘百貨店等が被害にかかった手形パクリ事件
 詐欺常習者16人が共謀し、資金繰りに窮している経営者らに近づき、確実な割引先があるかのように口実を設けて、為替手形、約束手形(額面7億9,605万円)をだまし取った(宮崎)。
(ウ) 土地取引をめぐる詐欺事件
 昭和49年以降の地価の頭打ち傾向のなかで、土地取引は停滞し、不動産業者が売れない土地を抱えて金利に追われ、倒産するケースが続いたが、50年はこれらの土地をめぐる詐欺が目立った。
〔事例1〕 尼子一族を自称する詐欺常習者の手形詐欺事件
 詐欺常習者が、尼子一族の末えいで大手不動産会社の営業部長であると称して、山林、宅地等の売却を望んでいる被害者に近づき、同社が買い取ると偽って、山林、宅地87.8ヘクタール(時価4億7,000万円相当)をだまし取った(福島)。
〔事例2〕 不動産取引を口実とした詐欺事件
 不動産ブローカー、宅地造成業者らが、休眠会社の名前を使用し、代金は登記後支払うと偽り、土地売買契約をして山林52.8ヘクタール(時価1億円相当)等2億1,984万円相当をだまし取った(長野)。
イ 経営不振の会社経営者による凶悪事件の多発
 昭和50年には、長引く不況のなかで、運転資金のひっ迫等により経営不振に陥った会社経営者等による誘かい、強盗、殺人等の凶悪な事件が多発した。
〔事例1〕 身代金目的誘かい事件
 木工所経営者(34)が、商売不振により資金繰りに窮し、昭和50年7月、都城市内の製材経営者の6歳の子供を誘かいし、身代金1,500万円を要求した(宮崎)。
〔事例2〕 鶴岡市の独居老女強盗殺人事件
 室内装飾業者(30)は、昭和50年6月、不況のあおりを受けて倒産した会社の再建資金の借入れを女性不動産業者に申し込んだが、断られたことに腹を立て、同女を撲殺し、現金2万8,000円、額面合計66万円の預金通帳等を強奪した(山形)。
(5) 贈収賄事件の増加
 最近5年間の贈収賄事件の検挙件数及び検挙人員は、図3-30のとおりで、昭和46年の709件、797人を底に、47、48年と増加し、49年にはやや減少したが、50年は再び増加し、検挙件数は1,060件、検挙人員は1,035人となった。

図3-30 贈収賄検挙件数及び検挙人員の推移(昭和46~50年)

 これらの贈収賄事件を態様別にみると、図3-31のとおり、土木建築工事の施行をめぐるものが35.7%と最も多く、次いで各種許認可、登録、承認等をめぐるもの、各種審査、検査、検定等をめぐるものの順となっている。
 その内容を具体的にみると、農地転用や地域開発等土地をめぐるもの、上下水道、ゴミ処理等生活環境をめぐるものなどが目立っているほか、時代の脚光を浴びている公害測定機器の納入等に関連した公害防止行政をめぐる事件が台頭した。

図3-31 贈収賄事件の態様(昭和50年)

〔事例1〕 土地をめぐる贈収賄事件
 桂川町長らが、町有地の払下げに関し、開発業者ら3人から現金等725万円の賄賂を受け取っていた(福岡)。
〔事例2〕 ゴミ処理等をめぐる贈収賄事件
 堺市役所清掃部長、泉佐野市民生部長らが、ゴミやし尿処理をめぐり、処理業者から現金等242万円の賄賂を受け取っていた(大阪)。
〔事例3〕 公害測定機器納入等をめぐる贈収賄事件
 環境庁職員が公害委託調査に関し、また、東京都、千葉県、千葉市、川崎市及び茨城県鹿島町の公害防止行政を担当する職員が公害測定機器の納入に関し、業者から現金等827万余円の賄賂を受け取っていた(警視庁)。
 次に収賄公務員の身分構成をみると、図3-32のとおり、地方公務員が77.9%を占め、次いで国家公務員の9.6%となっている。収賄公務員の中で大半を占める地方公務員の勤務部署をみると、図3-33のとおり、地方議会議員が

図3-32 収賄公務員の身分構成比(昭和50年)

図3-33 収賄地方公務員の勤務部署(昭和50年)

図3-34 収賄種類別構成比(昭和50年)

36.6%と最も多く、次いで建設関係が24.0%となっている。
〔事例〕 助役選任をめぐる贈収賄事件
 三木町議会議員ら10人が、同町助役選任をめぐり、助役に選任されることを希望する者から現金等370万円の賄賂を受け取っていた(香川)。
 昭和50年に検挙した贈収賄事件を収賄の種類別にみると、図3-34のとおり、単純収賄が最も多いが、一方、贈賄者から請託を受けて収賄する受託収賄が22.2%、また不正な行為を行い、あるいは相当な行為を行わなかったことに関し収賄する加重収賄が14.3%を示している。
 また、公務員が贈賄者に積極的に賄賂を要求する、いわゆる要求型の事犯が目立っている。
〔事例1〕 国立ガンセンター職員らの贈収賄事件
 国立ガンセンター薬剤科長らが、同病院への薬剤納入に関し業者に便宜を与え、自分たちが都内の高級ホテル等で飲食した代金の請求書を、薬品納入業者ら3人に示して支払を要求し、115万円相当の賄賂を受け取っていた(警視庁)。
〔事例2〕 保健所職員らの贈収賄事件
 津島保健所衛生課技術補佐が、食品営業の許可、回収、改善命令及び営業停止等の行政処分に関して便宜を図ってやったことなどについて、対象業者に賄賂を要求し、39人の業者から現金等848万余円の賄賂を受け取っていた(愛知)。
(6) 女性による犯罪の増加
 最近の社会の変化に伴って、女性の犯罪が増加し、昭和50年は、足利銀行を舞台にした2億円の詐欺事件、有名人や会社社長の秘書を詐称した被害額10数億円に上る大型詐欺事件等女性による犯罪が目立った。
ア 増加する女性犯罪
 女性被疑者の検挙人員は、図3-35のとおり増加傾向を示しており、昭和50年は41年に比べ32.2%増の6万1,432人となっている。その結果、総検挙人員中に占める女性の割合は、50年には16.9%に達した。
 その内容をみると、窃盗が過去10年間に約51%増加したのをはじめ、賭博、恐喝、殺人が増加している。また、昭和50年に検挙した女性被疑者のうち84.2%を窃盗が占めているのが注目される。

図3-35 男女別刑法犯検挙人員の推移(昭和41~50年)

イ 万引きの増加
 万引きをして検挙された女性被疑者は、逐年増加しており、昭和50年には前年に比べ2,036人(4.8%)増の4万4,438人を数え、女性の窃盗検挙人員の85.9%、女性の刑法犯検挙人員の72.3%を占めている。図3-36は、万引きの検挙人員と百貨店、セルフサービス店数についての推移を示したものであるが、百貨店の売場面積やセルフサービス店の数が増加するに伴い万引きの検挙人員が増えており、流通機構の変化と万引きとが関係があることがうかがわれる。また、女性の万引きは、被害品が食料品、衣料品等で被害額も少ない場合が多いが、なかには14都県に及ぶ広域的事犯や時価2,000万円相当のダイヤの指輪をデパートから盗むなどの悪質事犯も見られる。

図3-36 女性による万引きの検挙人員数と百貨店の総売場面積、セルフサービス店数の推移(昭和43~50年)

ウ 目立つ女性の知能犯
 昭和50年は、女性による大規模な詐欺、横領等の知能犯が目立った。警察庁に報告のあった61件についてみると、被害総額は52億7,283万円、1件当たりの被害額は8,644万円に上っている。
 女性によるこれらの知能犯を犯行動機別にみると、表3-6のとおり、無職者では「生活費のため」が多いが、有職者、無職者とも、男性にそそのかされ、又は男性に貢ぐためという「男性のため」が目立っている。

表3-6 女性による知能犯の犯行動機別検挙人員(昭和50年)

〔事例1〕 足利銀行女子行員らの架空貸付による詐欺事件
 足利銀行貸付係女子行員(23)は、旅先で知り合った男にそそのかされて、架空名義の定期預金を担保として、手形貸付による融資申込みがあったように装い、その手続に必要な約束手形、伝票等を偽造して、前後65回にわたり、総額2億1,236万円をだまし取った(栃木)。
〔事例2〕 小曾根農協女子職員による不正貸付背任事件
 小曾根農協女子職員(54)は、自分が監査役となっている建設会社の社長から融資の依頼を受けた際、担保を設定せずに貸付限度額を超えて、14億3,109万円を不正に貸し付け、同農協に損害を与えた(大阪)。

3 都市化と犯罪

(1) 都市化の拡大と犯罪
 都市化の拡大は、犯罪の動向にも影響を与え、犯罪は都市部に集中している。なかでも、最も人口が集中している東京圏をはじめとする大都市圏への集中傾向が著しい。
ア 東京50キロ圏の犯罪の動向
 東京50キロ圏の犯罪状況をみると、昭和50年の刑法犯認知件数は、34万8,720件で全国の刑法犯認知件数の28.3%を占めている。一方、50年の人口は、約2,407万人で全国人口の21.5%であり、東京50キロ圏では表3-7のとおり、犯罪の集中率は人口の集中率を上回る高い集中率を示している。

表3-7 東京50キロ圏の人口及び犯罪の集中率(昭和45、50年)

 次に、昭和50年の東京50キロ圏における距離帯別の犯罪傾向を45年と比べると、図3-37のとおりで、ドーナッツ現象の拡大に伴い、0~10キロ帯においては、人口の減少に伴って犯罪も14.9%の減少を示しているのに対し、その外周においては、いずれも増加しており、特に、東京都多摩地区、埼玉

図3-37 東京50キロ圏の犯罪、人口の増減(昭和45、50年)

県南部地域、千葉県京葉・東葛地域等が含まれる30~40キロ帯においては、14.2%と大幅に増加している。
 図3-38は、東京50キロ圏に含まれる埼玉県の犯罪、人ロの増加率を、図3-39は、千葉県のそれをみたものであるが、これらの地域では人口の増加に伴って犯罪が増加しており、特に埼玉県の30~50キロ帯においては、犯罪の増加率が人口のそれを大幅に上回っていることが注目される。

図3-38 東京50キロ圏に含まれる埼玉県の犯罪、人口の増加率(昭和45、50年)

図3-39 東京50キロ圏に含まれる千葉県の犯罪、人口の増加率(昭和45、50年)

 東京50キロ圏内の周辺部に当たる東京都多摩地区、埼玉県南部地域、千葉県京葉・東葛地域では、近年の急速なベッドタウン化に伴い、窃盗等の増加が目立っており、東京都日野市、埼玉県上尾市、越谷市、千葉県柏市等を管轄する警察署の管内では、最近5年間に犯罪が40%以上増加している。茨城県の一部でも30~50キロ帯に含まれる取手市等で、犯罪の増加率は人口のそれを上回っている。
 都市化の進展は、大都市の中心部への政治、経済等の中枢管理機能の集中をますます強める一方、居住人口は都心部から周辺部に流出する。こうした状況は都心部での犯罪傾向にも反映している。すなわち、昭和50年の東京50キロ圏の犯罪についてみると、図3-40のとおり、都心部に近くなるにしたがって犯罪の集中率と人口の集中率との差が縮少し、0~20キロ帯では犯罪の集中率が逆に人口の集中率を上回っている。その結果、0~10キロ帯の犯罪率は2,562となり、10~50キロ帯の犯罪率1,233に比べ大幅に高くなっている。
 このような背景としては、昼夜間人口の較差が増大し、匿名性が著しく、社会統制機能が低いことが挙げられる。

図3-40 東京50キロ圏の人口集中率と犯罪集中率(昭和50年)

 更に、大都市圏の中心部における犯罪をみると、官公庁、会社事務所等ビル街が密集している東京都千代田区では、ビル荒らし等の侵入盗が多発し、また、活発な経済活動に伴って知能犯が増加している。例えば、事務所荒らしが侵入盗に占める構成比をみると、全国では10.4%であるのに対し、千代田区では38.6%を占め、また、全刑法犯に対する知能犯の構成比をみると、全国では5.9%であるのに対し、千代田区では16.7%を占めており、中枢管理機能が集中している都市の犯罪傾向の特徴を示している。
イ 都市の規模別にみた犯罪の傾向
 我が国の10万人以上の人口を擁する都市(以下「都市部」という。以下同じ。)に住む人口は、昭和50年3月31日現在で我が国の人口の53.8%を占めている。このような人口の集中のなかで、都市部への犯罪集中も著しく、50年の刑法犯認知件数の70.2%が都市部で発生している。また、都市部への犯罪の集中率は、図3-41、図3-42のとおり、人口の集中率を上回っている。
 次に、都市の規模別に昭和41年と50年の刑法犯認知件数をみると、図3-43のとおり、人口100万人未満の都市で犯罪が増加しており、特に、人口10

図3-41 人口の集中率(昭和50年)

図3-42 刑法犯の集中率(昭和50年)

万人以上20万人未満の都市及び人口30万人以上50万人未満の都市で犯罪が増加しているのが目立っている。この人口10万人以上20万人未満の都市には、東京圏の日野市、越谷市、柏市、大阪圏の守口市、茨木市等大都市の周辺部にあるベッドタウンが多く含まれている。

図3-43 都市の規模別にみた犯罪の増減(昭和41、50年)

 また、都市の規模別にみた人口及び犯罪の集中率は、図3-44のとおりで、札幌市、東京都特別区、横浜市、名古屋市、大阪市、京都市、神戸市、北九州市の人口100万人以上の都市をはじめ、人口50万人以上の都市では、犯罪の集中率が人口の集中率を上回っている。

図3-44 都市の規模別にみた人口及び犯罪の集中率(昭和50年)

 更に、都市の規模別に昭和50年の犯罪率をみると、図3-45のとおり、都市の規模が大きくなるにしたがって犯罪率は高くなっており、人口50万人以上の都市では郡部のほぼ2倍以上となっている。

図3-45 都市の規模別にみた犯罪率(昭和50年)

 次に、都市部においては、犯罪が夜間に集中して発生する傾向がみられ、午後8時から翌日の午前6時までの間に発生した凶悪犯は、昭和41年には全体の61.5%であったのが50年には63.8%となっており、暴行、傷害等の粗暴犯も、41年の49.5%から50年の55.7%へと夜間に発生する度合いが増えている。
 また、昭和50年の凶悪犯、粗暴犯について、被害者と被疑者の面識関係の有無をみると、図3-46のとおりで、都市部においては全く面識のない者による、いわゆる「行きずり型犯罪」が多い。このように都市部において、「行きずり型犯罪」が多発する背景には、流動人口が多く、匿名性が増大していることなどが挙げられる。

図3-46 凶悪犯、粗暴犯の検挙件数に占める面識のない者の構成比(昭和50年)

(2) 都市化に伴う捜査活動の困難化
ア 検挙率の低下
 最近の捜査活動の状況をみると、図3-47のとおり、全国的には従来の検挙率を維持しているが、都市部においては昭和41年の65.7%から50年の55.5%へと落ち込んでいる。また、モータリゼーションの進展に伴い、犯人が自動車を利用する率が高いことや、都市部においては被害者と面識のない者による、いわゆる「行きずり型犯罪」が多く、手掛かりを得にくいことなどにより捜査活動が著しく困難になっている。

図3-47 刑法犯検挙率の地域別比較(昭和41、50年)

 特に憂慮されるのは、警察で認知した事件について早期検挙が著しく困難になってきていることで、図3-48のとおり、凶悪犯の即日検挙率は減少傾

図3-48 凶悪犯の即日検挙率の推移(昭和43~50年)

向を示している。第2、第3の犯罪による被害の発生を予防し、また地域住民の不安を解消するためにも、犯罪を早期に検挙することが必要である。いったん犯人を取り逃がすと、聞込み捜査の困難化とあいまって捜査が長期化し、捜査員の配置運用の固定化、新たに発生した事件への初動捜査の立遅れ等をもたらすなど、捜査活動に与える影響は極めて大きなものとなる。
イ 聞込み捜査の困難化
 事件発生後の聞込み捜査は、都市部、郡部を問わず、次第に困難化しており、特に都市部においては困難の度合いが大きい。この背景としては、都市化の進展による核家族化、住民意識の変化、匿名性の増大等が考えられる。すなわち、捜査員が聞込み捜査に出向いても、昼間は家人不在で会えないことが多く、掛かり合いたくないという態度を示されたり、また、積極的な協力の意思をもっていても、隣人の名前さえ知らないという例も多い。図3-49及び図3-50は、聞込みを端緒として検挙した事件数の総検挙件数に占める割合をみたものであるが、例えば、窃盗犯の検挙件数のうち、聞込みを端緒とするものが都市部で4.5%となっており、基本的な捜査の方法である聞込み捜査が極めて困難になっていることを示している。

図3-49 凶悪犯の聞込みを端緒とする検挙件数構成比(昭和41、50年)

図3-50 窃盗犯の聞込みを端緒とする検挙件数構成比(昭和41、50年)

ウ 捜査活動の長期化と被害回復率の低下
 早期検挙率の低下による捜査活動の長期化もあって、犯罪の被害回復率、とりわけ国民生活に関係の深い窃盗犯の被害回復率は悪化している。窃盗犯の被害回復率を地域別にみると、図3-51のとおり、昭和50年は都市部においては23.6%まで低下しており、被害回復が困難となっていることを示している。更に、国民生活の平穏を脅かす侵入盗による被害の回復率をみると、図3-52のとおり、都市部においては、50年は17.1%と被害回復が極めて困難であるのが現状である。

図3-51 地域別窃盗犯被害回復率(昭和41、50年)

図3-52 地域別侵入盗被害回復率(昭和50年)

4 暴力団の取締り

(1) 暴力団の実態
 警察がは握している暴力団の団体数及び構成員数は、昭和50年末現在2,606団体、11万42人で、前年に比べ、団体数において44団体(1.7%)、構成員数において777人(0.7%)減少している。過去10年間の推移をみると、図3-53、図3-54のとおり、全暴力団の団体数、構成員数は、41年以降減少する傾向にあるが、これに対し、広域暴力団(注)は、43年以降、約2,000団体でほぼ横ばいの状態が続いている。
 広域暴力団が全暴力団中に占める比率は、団体数で77.3%、構成員数で58.6%に達しており、逐年増加の傾向にある。

図3-53 暴力団団体数の推移(昭和41~50年)

図3-54 暴力団構成員数の推移(昭和41~50年)

(2) 武装する暴力団
ア 対立抗争事件の激化
(ア) 戦後3番目の多発期
 対立抗争事件は、図3-55のとおり、昭和50年に89件発生しており、前年に比べ12件(15.6%)増加し、34年から38年の間と45年の多発期に次いで戦後3番目の多発期となっている。
 昭和50年には対立抗争事件が、全国的に発生したが、太州会と赤心会の対立抗争事件(6月、福岡)、大日本平和会系勝唯会と浅野組の対立抗争事件(7月、岡山)、山口組と松田組の対立抗争事件(7月、大阪)等けん銃を使用した悪質な事件が西日本にひん発している。

図3-55 暴力団対立抗争事件発生件数の推移(昭和31~50年)

〔事例1〕 山口組と松田組の対立抗争事件
 松田組系溝口組と山口組系徳元組は、賭場をめぐって対立していたが、昭和50年7月、豊中市のスナックで溝口組組員らが徳元組組員らをけん銃で射殺したことから、松田組事務所、山口組本家事務所に対するけん銃発砲事件に発展し、この間8回にわたり抗争して、双方で死者4人、負傷者2人を出した(大阪)。
〔事例2〕 大日本平和会系勝唯会と浅野組の対立抗争事件
 両団体は、債権取立て等をめぐって対立していたが、昭和50年7月、岡山市内で勝唯会会員が木下組組員にけん銃を発射したことから、岡山駅新幹線ホームにおけるけん銃発射事件等に発展し、この間4回にわたって抗争し、双方で死者2人、負傷者5人を出した(岡山)。
〔事例3〕 太州会と赤心会の対立抗争事件
 急速に勢力を伸長してきた太州会とこれに反発する赤心会は、オートレース場でのノミ行為、ノミ屋からの用心棒料(みかじめ料)をめぐって対立していたが、昭和50年6月、太州会幹部が赤心会総長宅を襲い、けん銃で総長及び幹部を射殺したことに端を発し、報復のため赤心会側が太州会幹部を尾行し、けん銃を発射して重傷を負わせるなど双方で死者2人、負傷者1人を出した(福岡)。
(イ) 対立抗争事件の特徴
 暴力団による対立抗争事件の特徴は、銃器使用事件が増加していることとテロ化していることである。
 対立抗争事件における銃器の使用は、昭和50年には89件中54件(60.7%)であり、このうち44件はけん銃を使用している。45年の銃器使用が、129件中18件(14.0%)であったのに比べ大幅に増加している。
 また、犯行の方法としては、多人数による殴り込みの例はみられなくなり、小人数の組員が、対立している暴力団の中枢である首領、幹部を殺害するなど、いわゆるテロ化が目立っている。
〔事例〕 稲川会系岸本組組員は、対立していた双愛会系渡辺組組長を殺害することを計画し、昭和50年10月、同組長が入院していた千葉県館山市内の病院に単身でけん銃2丁を所持して侵入し、寝ていた同組長をけん銃で射殺した。
(ウ) 最近の対立抗争事件の背景
 最近の対立抗争事件の背景として、資金源のひっ迫と暴力団の組織統制力の低下が挙げられる。昭和50年の暴力団犯罪の検挙状況をみると、賭博、ノミ行為が減少し、覚せい剤密売、恐喝が増加している。このことは、賭博、ノミ行為以外に他の資金源を求めたものとみられ、暴力団が金銭面でひっ迫していることがうかがえる。更に、資金源犯罪に対する集中取締りの強化や暴力団の上納金の増加等の事情が、この傾向を加速させており、資金源をめぐるささいな対立も、組織間の対立に発展することが多くなっている。
 また、組織統制力の低下とみられるものとしては、山口組等大規模暴力団による組織の統合、系列化が進むなかで、最近の資金源の減少や度重なる取締りの影響によって組織内の派閥抗争が顕在化し、同一系列下の組織間の対立抗争も発生している。更に、これまで大規模暴力団の勢力を恐れていた中、小規模の暴力団が、こうした事情を読みとって攻勢に転じている例もみられる。
イ 銃器使用犯罪の増加
(ア) けん銃等発砲事件の増加
 昭和50年に暴力団員かけん銃及び猟銃を発砲した事件は179件で、前年の92件に比べ約2倍となっている。
 使用した銃器は、けん銃が141件で最も多く、次いで猟銃28件、けん銃、猟銃の同時使用事件が10件となっている。
 これらの銃器の発砲により暴力団員20人が死亡し、56人の負傷者を出している。また、暴力団以外の一般市民2人の生命が奪われ、14人が負傷するなど市民に大きな不安と恐怖を与えた。なお、昭和50年に暴力団員によって殺害された者(傷害致死を含む。)の総数は125人で、このうち62人が暴力団と何ら関係のない一般市民であった。
〔事例〕 暴力団員が、逃げ込んだ家の主婦を射殺した事件
 合田一家系暴力団員(30)は、昭和50年6月、北九州市戸畑区において覚せい剤の密売をめぐり反目していた同組組員をけん銃で射殺して逃走し、逮捕を免れようとして逃げ込んだ会社員宅で、主婦(28)に騒がれ、同人をけん銃で射殺した(福岡)。
(イ) 戦後最高となったけん銃押収数
 昭和50年に暴力団取締りによって押収したけん銃、日本刀、あいくち等の凶器の数は、8,821点である。このうちけん銃は、図3-56のとおり1,330丁であり、前年に比べ276丁(26.2%)増加した。これは戦後最高の押収数である。押収したけん銃の75.8%に当たる1,008丁が、いわゆるモデルガン等を改造したけん銃となっている。

図3-56 けん銃押収数の推移(昭和46~50年)

 このような凶器、特にけん銃の大量押収の背景としては、暴力団が対立抗争事件に備え、携帯が便利で、かつ、強力な殺傷能力のあるけん銃による武装化を一段と進めていることが挙げられる。すなわち、最近の不況や取締りの強化により、暴力団の資金源が減少していることから、暴力団間の資金源をめぐる対立が増大し、また、けん銃使用の対立抗争事件の続発等に刺激され、暴力団がけん銃の入手に狂奔している実情がうかがえる。一方、この需要に呼応した暴力団の組織ぐるみのけん銃密造、密輸入事件が目立っている。
〔事例1〕 稲川会系山田一家杉浦組幹部らのタイ国からのけん銃密輸入事件
 稲川会系山田一家杉浦組幹部(28)らは、昭和49年12月ころから50年4月ころまでの間、タイ国バンコク市内においてけん銃を買い入れ、特産品の水牛の角の内側をくり抜きけん銃を隠して、旅行客に仕立てた組員により、けん銃100丁、実包2,000発を密輸入し、稲川会及び山口組系の暴力団に密売していた。この事件で被疑者17人を検挙し、けん銃28丁を押収した(神奈川)。
〔事例2〕 住吉連合幸平一家幹部らのけん銃密造、密売事件
 住吉連合幸平一家幹部(32)は、昭和48年10月ころから49年10月ころまでの間、東京都板橋区で町工場を経営する実兄(41)にモデルガンを改造したけん銃50丁を密造させ、住吉連合系暴力団に密売していた。この事件で被疑者11人を検挙し、改造けん銃21丁を押収した(警視庁)。
(3) 暴力団との戦い
 暴力団の取締りについては、ここ10数年来、強力な取締りを継続実施し、その勢力を半減させているが、山口組等大規模広域暴力団は依然として根強い勢力を有している。特に、最近は資金源をめぐり全国各地で凶悪な対立抗争事件を引き起こすとともに、資金獲得活動も、経済、社会情勢に敏感に反応し、大企業に食い込んで総会屋、会社ゴロとしての活動を行い、あるいは、金融、不動産取引への介入をねらうなど多角化している。
 昭和50年も広域暴力団の組織壊滅を目標に、国民の協力を得て間断のない取締りを推進し、暴力団首領、幹部8,048人を検挙して322団体を壊滅又は壊滅状態に追い込んでいる。
ア 検挙状況
 昭和50年の暴力団犯罪の検挙件数は、6万2,145件で、前年に比べ4,657件(8.1%)増加している。検挙人員は5万3,058人で、前年に比べ、219人(0.4%)とわずかに減少したが、首領、幹部級の検挙人員は8,048人で、759人(10.4%)増加した。
 また、罪種別検挙状況は、表3-8のとおり、検挙人員の多いものは、傷害、暴行、賭博、恐喝、覚せい剤取締法違反の順となっている。特に、昭和50年には、対立抗争事件に関連した殺人、凶器準備集合、銃砲刀剣類所持等取締法違反等の増加が目立っている。
イ 広域集中取締りの実施
 広域暴力団に対する取締りの一環として、昭和49年に引き続き、50年2

表3-8 暴力団犯罪の罪種別検挙状況(昭和49、50年)

月、全国の警察力を動員して山口組及び稲川会に対する広域集中取締りを実施した。
 この取締りによって、山口組構成員396人、稲川会構成員260人をいっせいに検挙し、これらの組織に打撃を与えた。
ウ 資金源犯罪の集中取締り
 多角化した暴力団の資金源を封圧するため、昭和50年7月、大規模広域暴力団の資金源をめぐる犯罪について、15都府県警察が連携しいっせい集中検挙を実施した。この結果、暴力団が経営する金融業、土建業、不動産業等の事業に関連して行った詐欺、恐喝事件等で1,209件、2,062人を検挙した。
エ 第三次頂上作戦の開始
 警察では、大阪、兵庫における山口組と松田組の対立抗争事件等、全国各地で悪質な事件が発生していることなどから、これらの対立抗争事件を防圧し、関係暴力団の組織の壊滅を進めるため、昭和50年9月から暴力団の首領、幹部級の検挙、資金源の封圧、けん銃等凶器の発見押収及び暴力排除活動の促進を重点に、第三次頂上作戦を開始した。
 その一環として、昭和50年9月23日と10月28日の2回にわたり、暴力団に対するいっせい集中取締りを実施した。この結果、首領139人を含む8,238人の暴力団構成員を検挙し、35団体を壊滅又は壊滅状態に追い込んだ。

5 国際犯罪の捜査

(1) 国際犯罪の概況
 国際犯罪は大別すると、日本国民による外国における犯罪、日本国内で犯罪を犯した者の国外逃亡事案、日本国内における外国人犯罪の3種類になる。
ア 日本人の外国における犯罪
 日本人の外国における犯罪は、図3-57のとおりで、日本人の海外渡航の増加に伴い昭和49年まで増加の傾向にあったが、50年に外国で検挙されて通報のあった日本人は160人で前年より減少した。これを主な罪種別にみると、殺人12人、強盗4人、窃盗5人、詐欺偽造15人、暴行傷害12人、麻薬15人等各種犯罪にわたっており、このうち刑法第3条に規定する国外犯の対象となる者は56人であった。

図3-57 日本人の外国における犯罪(昭和41~50年)

〔事例1〕 昭和49年9月、南アフリカのケープタウンのナイトクラブで、日本人漁船員が他の日本漁船の乗組員を包丁で刺殺した。被疑者は、現地の裁判所で無罪の判決を受け帰国したが、警察庁は南アフリカ当局から公判記録を取り寄せ、高知県警察が捜査を行い、50年1月に同被疑者(26)を、更に9月に共犯者(24)をそれぞれ殺人容疑で逮捕した。
〔事例2〕 昭和50年2月、日本人兄弟2人がストックホルム近郊の郵便局に押し入り、女性事務員を改造けん銃で脅迫し、2万8千クローネ(約210万円)を強奪した。被疑者2人は現地で逮捕され、懲役2年の実刑判決を受け服役した。
イ 日本国内で犯罪を犯した者の国外逃亡事案
 交通機関の目覚ましい発達、海外旅行の大衆化に伴い、国内で犯罪を犯した被疑者が海外へ逃亡する事案も続発している。昭和50年の重要被疑者の国外逃亡事案は5件、8人であるが、このほかにも、他人になりすましたり、偽造旅券を使って海外に逃亡している例もあるのではないかと推測される。被疑者が国外に逃亡した場合には、まず国際刑事警察機構(ICPO)加盟各国に所在の確認等を依頼し、所在地国の法律に従って国外に退去させてもらうか、又は外交ルートで逃亡犯罪人の引渡し請求をするなど、逃げ得を許さないという基本方針の下に身柄の確保措置に努めている。
 国外逃亡被疑者に対する身柄確保措置として特筆すべきことは、昭和47年10月、福岡県大牟田市で発生したノリ採取業者殺人事件の被疑者で、ハワイに逃亡していた日本人(30)に対し、50年振りに日米犯罪人引渡条約を適用し、50年7月、ホノルル空港において米国政府から身柄の引渡しを受けたことである。
 昭和50年に発生した被疑者の国外逃亡事案のうち、主なものは次のとおりである。
〔事例1〕 昭和50年4月、輸入を口実にベルギー等5箇国から総額4億5千万余円のダイヤモンドをだまし取った日本人被疑者(41)は、事件直後に出国し、香港を経て台湾に逃亡したが、その後の行方は不明であり、ICPOルートにより所在調査を依頼中である。
〔事例2〕 昭和50年9月、福岡市内のホテルにおいて日本人の妻を殺害した米国人被疑者(57)は、事件直後米国に逃亡したため、ICPOルートにより同人の所在調査を依頼中である。
ウ 日本国内における外国人の犯罪
 日本国内において刑法犯及び特別法犯(道路交通法違反を除く。)を犯して検挙された外国人の数はおおむね減少傾向を示しているが、職業的犯罪者による悪質な事件が目立っている。
〔事例1〕 国際的詐欺犯とみられる外国人グループが、昭和50年9月1日から3日までの間に、東京、大阪、神奈川の一流銀行を舞台に偽造旅券を呈示し、偽造したカナダのノヴァスコテイア銀行の旅行信用状を行使して合計9件総額8万6千ドル(約2,600万円)をだまし取った。この事件の被疑者らは50年8月31日に我が国に入国し、その後3日間犯行を重ね、9月4日には出国してしまうというスピード犯行ぶりであり、警察庁においては関係府県警察と連絡の上、ICPOルートを通じて被疑者らの身元割り出しのための捜査を継続中である。
〔事例2〕 昭和49年6月から50年2月までの間、タイ人(22)は東京、大阪の一流ホテルを対象に、合計37件、被害総額1,800万円相当の現金、旅行者用小切手、貴金属類を窃取した。50年3月17日警視庁は同人を逮捕した。
(2) 国際犯罪への対応
ア 日本警察とICPO
 国際犯罪の予防と検挙は、世界各国の警察の国際協力がなければ十分に行われないことは言うまでもない。このための国際組織が、ICPOである。ICPOは、その前身であるICPC(国際刑事警察委員会)が発展的に解消して1956年に創設されたものであるが、1975年現在、加盟国122箇国を数えるに至り、各国警察機関の国際協力のかなめとして大きな役割を果している。
 ICPOの活動のうち重要なものは、国際犯罪情報の交換と犯人の逮捕、引渡しについての円滑な協力の確保である。ICPO事務総局が処理した国際犯罪の件数は、図3-58のとおり増加傾向を示しているが、とりわけ国際的な広がりをもつ麻薬犯罪や通貨等の偽造、変造が多いことが注目される。
 我が国とICPOとの関係は、昭和27年のICPCへの加盟から始まる。

図3-58 事務総局扱い国際犯罪件数(1970~1974年)

ICPO加盟国は、事務総局及び加盟国相互間の連絡の窓口となる警察機関を国家中央事務局(NCB、National Central Bureau)として指定することになっているが、日本のNCBは警察庁である。
 警察庁は、複雑多様化している国際犯罪に迅速、的確に対処するため、昭和50年4月刑事局に国際刑事課を新設したほか、6月にはアジア地域における国際捜査関係法令の相互理解と効率的な捜査手法の研究のために、ICPO事務総局及びアジア15箇国の代表の参加を得て、第1回国際捜査セミナーを外務省及び国際協力事業団と共催で開いた。また、警察庁とICPO事務総局との連絡強化のために、8月、事協総局職員として警察庁の警察官1人を派遣した。更に、10月に開催された第43回ICPOアルゼンチン総会において、我が国が、国際的組織暴力犯罪の未然防止に対するシンポジウムの開催を強く訴えたところ、加盟国の大多数の賛同を得て、51年2月に開催されることになった。
イ 国際犯罪に関する情報交換
 国際犯罪に関する情報交換数については、図3-59のとおりで、事務総局が加盟国に提供した情報も多く、加盟国相互間の膨大な情報交換量がうかがわれる。

図3-59 国際犯罪に関する情報交換数(1970~1974年)

 警察庁とICPO事務総局及び他の加盟国との通信数は、図3-60のとおりで、国際犯罪の増加傾向を反映して増加している。

図3-60 国際犯罪に関する情報の発、受信状況(昭和46~50年)

6 選挙違反の取締り

(1) 第8回統一地方選挙の違反取締り
 第8回統一地方選挙は、昭和50年3月19日に知事選の告示が行われたのを皮切りに、4月13日に17都道府県知事選、3指定市長選、44道府県議選及び8指定市議選、4月27日には165市長選、381市議選、813町村長選、1,311町村議選及び東京の23区長選、区議選、計2,788の選挙が施行された。
 昭和49年の参議院選挙以来、「保革の対決」は一段と厳しさを増し、地方選挙にも政党色が顕著になってきたのが、統一地方選挙の特色であった。
 また、この選挙は、金のかからない、きれいな選挙の実現を目的とした「公職選挙法の一部を改正する法律」の国会審議中に施行されたことから、有権者の関心は高かった。
 各都道府県警察では、選挙違反取締りについて、「選挙をきれいにする国民運動推進本部」の設置、国会での明正選挙決議等による明正選挙への世論の高まりを背景に、地方選挙では異例の「事前運動取締本部」を設置し、引き続き「選挙違反取締本部」を設けて、不偏不党、厳正公平な取締りを実施したが、その結果は、次のとおりである。
ア 検挙状況
 検挙状況(投票日後90日現在)は、表3-9のとおり、1万8,435件、2万4,414人であって、前回(昭和46年)に比べ、件数で3,298件(15.2%)、

表3-9 統一地方選挙における違反検挙状況(第7回:昭和46年9月1日現在 第8回:昭和50年9月1日現在)

人員で5,589人(18.6%)の減少となっている。
 検挙状況を罪種別にみると、買収が件数、人員とも全体の89.0%を占めている。
イ 警告状況
 警告の実施状況は、表3-10のとおり、前回に比べて1万1,292件(35.3%)増加した。

表3-10 統一地方選挙における違反警告件数(第7回:昭和46年5月25日現在 第8回:昭和50年5月27日現在)

(2) 参議院議員補欠選挙の違反取締り
 参議院議員補欠選挙は、茨城地方区(4月27日施行)、愛知地方区(4月27日施行)、鹿児島地方区(9月21日施行)で行われ、文書違反及び自由妨害で3件、5人を検挙した。
(3) 統一地方選挙以外の地方選挙違反取締り
 昭和50年に施行された地方公共団体の長及び議会の議員の選挙(4月13日、4月27日施行の統一地方選挙を除く。)は、9知事選、3指定市長選、8都府県議選(補欠選挙7件、再選挙1件)、498市町村長選及び730市町村議選(うち補欠選挙180件、増員選挙3件)の計1,248件であるが、これらの選挙における違反検挙状況は表3-11のとおりである。

表3-11 昭和50年中の各種地方選挙における違反検挙状況(昭和51年3月1日調べ)

7 科学捜査の推進

 犯罪の質的変化、犯行手段の巧妙化や捜査を取り巻く環境の著しい変化に伴い、犯罪鑑識を中心とした科学捜査の積極的な推進が要求されており、特に爆破事件、死体を隠ぺいする殺人事件、悪質な強、窃盗事件や公害事犯の捜査に鑑識の機能が十分活用されている。
(1) 増加する鑑定、検査
 各種の事件や事故原因を明らかにし、犯罪を証明するためには科学的な裏付けが必要である。鑑定、検査の対象となる資料は、年々増加しており、昭和50年の鑑定、検査件数は、30万2,092件に達した。その内訳を部門別にみると、図3-61のとおりで、物理、化学資料の増加が著しい。

図3-61 部門別鑑定、検査状況(昭和46~50年)

 これらの鑑定、検査は、都道府県警察に勤務する646人の法医・理化学担当の技術職員によって行われている。
ア 技術の向上
 鑑定、検査は複雑、高度な知識、技術が要求されるところから、警察では、血液型検査技術、爆発物残さ検査技術、微細繊維片等の徴物検査技術、公害鑑識技術等の向上に努めている。このほか、都道府県警察の技術担当職員を大学等の研究機関に派遣して、鑑定、検査技術の向上を図っている。
イ 新鋭器材の導入
 犯罪鑑識における鑑定、検査には、精密性、迅速性が要請されるため、原子吸光光度計、自記分光光電光度計、質量分析装置等高性能な分析機器の導入を進めている。
〔事例1〕 自記分光光電光度計を活用した事例
 昭和50年8月、兵庫県下において、夜間帰宅中の女性にいたずらをする事件が連続して発生し、被害者らの供述から容疑者が浮かんだが、犯行を否認した。しかし、容疑者が着用していたシャツ、ズボンから採取した繊維片等の徴物と被害者の上衣、スカートから採取した徴物を、顕微鏡検査の後、自記分光光電光度計で測定した結果、容疑者のズボンから被害者らの衣服繊維片が検出され、また、被害者らの衣服から容疑者のズボンの繊維片が確認され、被疑者の特定に至り、事件を解決した(兵庫)。
〔事例2〕 質量分析装置の活用事例
 昭和50年4月、北九州市の工場において、農薬等を製造中、蒸留釜が爆発し、付近の住民が頭痛、のどの痛み等を訴え、また、付近に駐車中の自動車数百台が汚染される事案が発生した。福岡県警察では、自動車に付着した汚染物質と爆発現場から採取した資料について質量分析装置によりスペクトルを測定したところ、いずれも、同工場の爆発に際して飛散した農薬の原料であるアミソであることが判明した(福岡)。
(2) 犯人の個人識別
ア 指紋
 指紋には、「だれ一人として同じ指紋を持った人はいない(万人不同)。」、「一生変わることがない(終生不変)。」という二つの大きな特性があり、しかも、類型的な分類ができるところから、最も確実で有効な個人識別資料として組織的に保管し活用されている。
 警察では、検挙した被疑者の犯罪経歴や身元不明死体等の身元等を割り出すための十指指紋制度と犯罪の現場から採取した指紋(現場指紋)から被疑者を割り出す一指指紋制度の二つの制度を設けて捜査に活用している。
〔事例〕 昭和50年5月以降、東京都内の結婚式場受付から現金を盗む慶弔
 盗事件が連続的に発生したが、同年6月、日本閣結婚式場における事件において招待客名簿から採取した遺留指紋と保管指紋資料とを対照して被疑者を割り出し、事件を解決した(警視庁)。
イ モンタージュ写真
 モンタージュ写真は、目撃者に被疑者写真カードの中から犯人に似ている髪型、目、鼻、口、顔の輪郭等の写真を選び出させ、モンタージュ写真合成装置を使用して作成する。
 警察では、モンタージュ写真を作成して手配するなど犯罪捜査に利用しており、昭和50年には、モンタージュ写真に基づいて223人の被疑者を検挙した。
〔事例〕 昭和50年3月、岡山県下で発生した強姦致傷事件では、被害者の記憶によってモンタージュ写真を作成し、これを警察官に配布して捜査中、張込み現場へ急行する警察官がモンタージュ写真に酷似する容疑者を発見し、職務質問の上逮捕した(岡山)。
ウ 足こん跡
 被疑者が犯行を否認した場合でも、足紋、履物、タイヤ、工具等と犯罪現

場から採取した足跡、タイヤこん、工具こん等のこん跡とを対照、鑑定した結果、形状、摩滅、欠損等の特徴が合致すれば、同人の犯行であることを認定することができる。
 昭和50年中に採取した足こん跡は9万1,219件であり、これを活用して1万2,638件の事件を解決した。
〔事例〕 昭和47年ころから、全国にわたり、連続的に事務所やスーパーマーケットに忍び込んで現金を窃取していた連続窃盗事件の被疑者は、50年5月、京都府警察で検挙されたが、犯行を全面的に否認した。しかし、窃盗現場から採取した足跡と同人が犯行に使用した靴の底の模様、傷等の特徴が合致した。この鑑定結果によって窃盗事件の犯人であることが確認され、追及したところ、ついに130件余の犯行を自供するに至った(京都)。
(3) 警察犬
 警察犬は「生きた鑑識器材」、「ハナの捜査官」とも言われ、犯罪鑑識をはじめ、警察活動において重要な一端を担っている。
 警察犬には、都道府県警察で飼育する直轄警察犬と民間で飼育している優秀な犬を嘱託する嘱託警察犬があり、昭和50年末現在、直轄警察犬70頭、嘱託警察犬778頭が活躍している。
〔事例〕 昭和50年7月、東京都葛飾区内で発生した傷害事件において、現場に遺留されたショートパンツを原臭として警察犬による追跡を行い、現場から約400メートル離れた駐車場に潜伏中の犯人を発見した(警視庁)。
(4) 死者の身元確認
 昭和50年に警察が取り扱った死体は表3-12のとおり5万2,320体で、このうち、身元不明の死体は1,072体であった。他殺死体の身元が不明のときは、その身元を確認することが犯罪捜査上極めて重要である。
 そのため、警察では、死者の身元確認には、顔写真、身体特徴、着衣、所持品、指紋、掌紋等を利用しているが、死体が損壊や腐敗しているものにつ

表3-12 身元不明死体の取扱状況(昭和46~50年)

いては、歯、骨、毛髪、血液型の対照、スーパーインポーズ法(注1)、復顔法(注2)等の技術を多角的に活用している。これらの方法によって、昭和50年中に、図3-62のとおり全国で481体(非犯罪死を含む。)の死者の身元を確認した。
(注1) スーパーインポーズ法とは、頭がい骨の写真とその本人と思われる人の生前の写真とを重ね合わせて、同一人であるかどうかを法医学的に検査する方法である。
(注2) 復顔法とは、白骨化した死体の頭がい骨に粘土で肉付けを行って、生前の顔に近い状態に復元する方法である。

図3-62 身元確認状況(昭和50年)

〔事例1〕 昭和49年2月、埼玉県越谷市内の雑木林で顔面をつぶされた身元不明の女性の他殺死体が発見された。被害者の身元を明らかにするため、顔の復元写真を作成して手配したところ、50年5月、手配写真を見た被害者の友人から連絡があり、身元が判明した(埼玉)。
〔事例2〕 昭和50年2月、秋田市内の向浜砂採取場において、砂採取中のショベルカーの運転手が腐乱死体を発見したが、指の表皮が炭化によりはく離、損傷し、右手中指も欠損するなど、通常の技術では指紋採取が極めて困難な状況にあった。そこで、特殊な指紋採取技術を用いて指紋を採取し、保管資料と対照した結果、身元が判明し犯人を検挙した(秋田)。

8 社会の変化に対応する犯罪捜査活動

 複雑、巧妙化しつつある最近の犯罪と捜査を取り巻く環境の変化に対処するためには、新しい捜査手法の開拓と併せて犯罪情勢に対応した捜査体制の確立が強く要請されるところである。
(1) 犯罪の早期検挙
ア 機動捜査隊の活動
 機動捜査隊は、犯人の早期検挙を行うとともに夜間捜査力を補完することを主たる目的とした組織で、全国に51隊が設置されている。
 機動捜査隊は、交替制勤務によって24時間の警戒体制をとっており、捜査員が無線付きのパトカーによって警ら活動を行い、凶悪、重要な事件を認知すると同時に、初動捜査活動を開始して犯人の検挙に当たることを任務としている。
 昭和50年の活動をみると、総出動事件数は約5万1,000件、検挙件数は約2万3,000件である。機動捜査隊は、活動の重点を凶悪犯、粗暴犯及び重要窃盗犯においており、これらの事件に対する出動の構成比は、表3-13のとおり、全体の約3分の2に達している。また、時間帯別の活動をみると、表3-14のとおり、午後6時から午前8時までの夜間、特に深夜に重点を置いて活動している。

表3-13 機動捜査隊の包括罪種別出動事件数の構成比(昭和50年)

 都市部においては、夜間犯罪は依然多発しており、捜査活動が長期化しているところから、今後も機動捜査隊の一層の充実が必要である。

表3-14 機動捜査隊の時間帯別出動・検挙件数の構成比(昭和50年)

イ 鑑識の機動化
 捜査を取り巻く環境が変化しつつあるなかで、犯罪捜査を適正かつ効率的に推進していくためには、従来にも増して鑑識活動を徹底して、現場に残された資料を基礎とした科学的な捜査を推進する必要がある。しかし、犯罪現場も早期に原状回復を要求される場合が多くなるなど長時間の現場保存が困難なケースが増加し、また、新建材や化学ぞうきんの普及、道路舗装率の上昇等により、指紋、足跡、その他の資料の採取が困難となるなど現場鑑識活動は、ますます難しくなってきている。
 警察では、現場鑑識の徹底を期するための対策の一つとして、高度な鑑識技術と充実した資器材を備え、機動力を持った機動鑑識班を都道府県の警察本部に設置し、重要事件が発生した場合に、直ちに出動して現場鑑識活動を行う体制を確立することを検討している。
 今後、犯罪多発地域を中心に、機動鑑識体制の強化と鑑識活動の一層のスピード化を図り、的確な現場採証により犯罪捜査を適正かつ効率的に推進して行く必要がある。
(2) 爆破事件等特殊な事件への対応
 爆破事件、爆破予告事件、航空機、船舶の不法奪取事件、工場爆発や列車事故等の多数の死傷者を伴う大規模な業務上過失事件、人質、誘かい事件等(以下「特殊事件」という。)は、不特定多数の市民を巻き添えにするなど社会に大きな不安を与える事件であり、しかも最近多発の傾向にある。
 特殊事件は、例えば人質事件にあっては、人質等の安全を図りつつ一刻も早く犯人を検挙する必要があり、また、爆破事件や大規模な業務上過失事件にあっては、証拠物の多くが散逸したなかで、犯行手段や事故原因の究明に当たらなくてはならない。
 このため、平素から捜査員に対する訓練を徹底して、突発事態にも的確に対処できるよう努めているが、今後更に高度な専門的、科学的な知識技術を有する捜査員の確保等捜査体制を充実する必要がある。
(3) 手口捜査の推進
 常習犯罪者は、経験上、最も得意とし、成功率の高い自信のある手段によって犯罪を行おうとする傾向がある。警察は、犯罪者のこのような特性に着目し、現在、強盗、窃盗、詐欺等について、犯罪の手段、方法等の犯罪手口資料を記録化し、そのうち、犯行が2都道府県以上にまたがるものについてはコンピューターを利用して対照を行い、犯人及び余罪の割り出し、被害品の確認等を行っている。
 昭和50年に、警察が手口照会を行った件数は8万840件に上り、これにより検挙した件数は、7,883件、3,038人となっている。
 最近の犯罪傾向をみると、その手段、手法がますます巧妙化しており、特に常習犯罪者の検挙は次第に困難となっている。このような情勢に対処するため、広域にわたる犯罪以外であっても、常習犯罪者によるものについては、コンピューターを利用して対照を行う準備を進めている。
(4) 国民協力の確保
 最近の都市化現象の進展は、地域住民の連帯意識を希薄にし、匿名性を増大させるなど犯罪者が犯罪を行うのに有利な条件を生み出しており、警察が捜査活動を進める上で、国民協力の確保はますます重要な課題となっている。
 捜査に対する国民の協力は、犯罪の認知から犯人の検挙までの間に、様々な形で行われているが、そのうち、国民の協力が端緒となって犯人の検挙に至った状況は、表3-15のとおりである。

表3-15 国民の協力が検挙の主たる端緒となった状況の推移(昭和47~50年)

 また、犯罪捜査は、被疑者、参考人等事件関係者の人権の保護や捜査運営上の必要から、その内容を一般に公表しないのが原則であるが、指名手配されている被疑者のうち、特に犯罪が悪質で、再び凶悪な犯行を繰り返すおそれのあるものに対しては、捜査資料の一部を公開するなどにより、積極的な国民の協力を求めることがある。
 警察では毎年全国いっせいに「指名手配被疑者捜査強化月間」を設け、指名手配被疑者に対し強力な捜査活動を実施しているが、昭和50年には警察庁指定の重要被疑者8人、都府県警察指定の重要被疑者24人の計32人を公開捜査に付し、警察庁指定の被疑者3人、都道府県警察指定の被疑者9人を検挙した。また、月間中、警察では、テレビ局の協力を得てスポット放送を行ったり、テレビ放映やポスターの作成を行うなど手配の徹底を図った。
 現在、公開捜査では、報道機関に協力を依頼するほか、ポスターやちらしを人の出入りの多い飲食店、公衆浴場等に掲示、配布しているが、今後とも効果的な手配方法の検討や手配の徹底に努める必要がある。


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