第1章 治安情勢の概況

1 都市化の新たな拡大と警察

(1) 都市化の新たな拡大
 戦後の30年間は、我が国にとってまさに激動と変転の連続であり、この期間に我が国の社会構造は大きく変動した。
 昭和30年代に始まる高度経済成長と産業構造の高度化は、全国的な交通網の整備、情報伝達手段の開発等とあいまって、都市への大規模かつ急激な人口集中を招いた。集積の利益を求めての人口集中は、中枢管理機能、流通機能等の大都市集中を背景として、より大きな人口集中を招き、昭和40年には大都市圏(注)に全国人口の43.3%が集中するまでになった。このようにして、人口の集中が激しい大都市を中心に、個人意識が強く、相互に面識がなく、更に定着性のない市民によって構成される地域社会が生まれた。このような地域社会では、連帯意識が欠如し、匿名性が増大するとともに、伝統的な地域共同体のもつ社会統制機能が著しく欠けるなどの社会環境の変化がみられ、市民の生活様式及び意識にも著しい変化がみられるようになった。
 人口の都市集中をはじめとする、このような都市化現象は、最近10年間、更に新しい展開をみせている。
 大都市圏では、人口は依然として増加し続けているが、その増え方は周辺部に著しく、人口又は人口増加率のドーナッツ現象の拡大がみられる。更に、大都市圏の隣接県にも都市化現象が現れているのが注目される。
 地方においては、それぞれの地方における政治、経済、文化等の中心である県庁所在地等の地方中核都市の人口増加が目立ち、また、生活様式、意識の変化は、情報化社会を背景として大都市から地方都市に波及しつつある。
 ここでは、このような都市化現象の新しい展開を「都市化の新たな拡大」としてとらえ、警察事象との関係について検討してみた。
(注) 大都市圏とは、東京都、千葉県、埼玉県及び神奈川県を含む東京圏、大阪府、京都府、兵庫県及び奈良県を含む大阪圏、愛知県、岐阜県及び三重県を含む中京圏をいう。
ア 大都市圏における人口のドーナッツ現象の拡大
 我が国の人口は、昭和50年には1億1,193万人となり、45年に比べて727万人(6.9%)増加した。この増加率は、戦後では25~30年の7.1%に次いで大きい。
 大都市圏の人口の推移については、昭和50年の国勢調査の結果によれば、表1-1のとおりで、人口は依然として増加しているが、増加率は減少しており、大都市圏への人口集中の傾向は鈍化している。また、中心市の人口の都市圏全域に占める割合が次第に減少し、一方、周辺地域の割合が増大し、

表1-1 大都市圏の人口(昭和40、45、50年)

ドーナッツ現象が拡大していることが目立っている。
 次に、東京都心を起点とする50キロ圏の距離帯別人口分布及びその推移をみると、表1-2のとおりで、0~10キロ帯では人口の減少傾向が次第に強まっている一方、40~50キロ帯では人口増加率が高くなっていることが目立ち、人口増加数及び増加率の大きい地域が中心部から周辺部に向かっていることが分かる。人口増加率のドーナッツ現象が拡大し続けているといえよう。

表1-2 東京50キロ圏の人口(昭和40、45、50年)

 更に、昭和45~50年においては、秋田、山形、島根、佐賀、鹿児島の5県を除く都道府県で人口が増加しているが、特に、大都市圏にある埼玉、千葉、神奈川、奈良の各県で高い人口増加率を示している。また、大都市圏に隣接する茨城県、栃木県、滋賀県等においては、40~45年に比べ著しく高い増加率を示している。
 このような状況の下で、大都市圏の周辺部では、大規模なベッドタウンが増加している。また、このようなベッドタウンに居住する大量の人口を消費需要とするデパート、スーパーマーケット等の第三次産業の進出の著しい都市が周辺部にみられる。更に、ドーナッツ現象の拡大に伴い、従来地方都市として独立の機能を有していた都市が、大都市圏の衛星都市としてその機能を変質させつつある状況もみられる。
 大都市圏の中心部では、人口又は人口増加率が減少しているにもかかわらず、中枢管理機能等の集中を背景として、通勤、通学の流入人口は依然として増加している。特に、東京都特別区及び大阪市でこの傾向が強まっているが、昭和50年の国勢調査の結果によると、東京都特別区への人口の流入状況は、表1-3のとおりで、45~50年に51万人(27.0%)増加している。
 このような事情から、大都市圏においては、昼間人口と夜間人口の較差の拡大傾向が強まっており、昭和50年の国勢調査の結果によると、各都道府県の昼夜間人口比率(注)では、東京都が114.5と最も高く、次いで大阪府、愛知県の順で続き、一方、これらの都府県の隣接県である埼玉、千葉、神奈川、奈良の各県が非常に低く、埼玉県は87.4と最も低い。特に、東京都特別区や大阪市においては、夜間人口の減少に伴い、東京都特別区では124.3、大阪市では135.3と高い数値を示している。

表1-3 東京都特別区に通勤、通学する者の推移(昭和45、50年)

 大都市圏では、通勤、通学と異なる人の動きとして、買物、娯楽等のために移動する人口が多く、東京圏では、新宿、池袋等のターミナル駅において、通勤、通学以外の者と思われる定期券を使用しない乗車人員が次第に増加している。
(注) 昼夜間人口比率とは、(常住人口+流入人口-流出人口)を(常住人口)により除したものに100を乗じたものをいう。
イ 地方中核都市への人口集中
 昭和50年の国勢調査の結果によると、地方都市の人口の増加は著しく、都市の規模別に人口増加率をみると、人口30万人以上50万人未満の中規模都市が最も高い数値を示している。
 地方中核都市として政治、経済、文化等の活動の中心である県庁所在地(大都市圏内の県庁所在地を除く。以下同じ。)の昭和45~50年の人口増減状況をみると、すべての県庁所在地で人口が増加している。特に、大部分の県庁所在地において、人口の増加は、その県全体の人口増加数の50%以上を占めており、鹿児島市等は、その県全体の人口が減少しているにもかかわらず増加している。このことは、県庁所在地の人口吸収力の強さを示しているといえよう。
 地方中核都市のうちでも、札幌市、仙台市、広島市、福岡市等は広域ブロック圏の中核都市としての機能を強めており、これらの都市においては、大都市圏にみられる人口増加率のドーナッツ現象が現れ、周辺部はベッドタウン化が進み、昼夜間人口比率も高い。
 このような近年における地方中核都市への人口集中の背景としては、地方開発、企業の地方進出に伴い就業機会が増加したこと、他人に煩わされない自由な生活が享受できると同時に大都市生活に特有な孤独感、不安感等を解消させる環境があること、高い水準の医療、教育、文化等のサービスを享受し得る施設が整備されてきたことなどを指摘することができよう。
(2) 警察事象の特徴的傾向
 大都市圏における人口のドーナッツ現象の拡大及び地方中核都市への人口集中が進むなかで、犯罪への無関心、匿名性の増大、社会統制機能の低下や大量消費時代における欲望の肥大化等を背景として、犯罪の都市集中化が進むなど警察事象にも多くの変化が生じつつある。
 昭和50年における犯罪の発生状況をみると、大都市圏では、犯罪の集中率が人口の集中率を上回っている。また、すべての県庁所在地で犯罪の集中率が人口の集中率を上回り、その県の犯罪減少傾向とは反対に犯罪が増加している地方中核都市もある。
 大都市圏の周辺部では、新興住宅地域における侵入盗の多発、スーパーマーケット等の進出に伴う万引きの増加、自転車利用の増加に伴う自転車盗の増加等の特徴がみられる。また、都心部では、盛り場における粗暴犯の多発、夜間におけるビル荒らしの多発等の特徴がみられる。更に、地方中核都市を中心とする地方都市においても、爆破予告事件が多発し、暴走族事案が発生するなど大都市においてみられるのと同様の犯罪傾向がみられる。
 一方、都市化の進展により、犯罪捜査を取り巻く環境は次第に変化しつつあり、捜査活動はますます困難になってきている。都市においては、刑法犯の検挙率は全国平均に比べて低く、また、次第に低下してきている。都市では面識のない者による犯罪が多いこと、大都市圏の周辺部のベッドタウンにおいては共働き家庭や単身家庭が多いため、昼間はこれらの家庭に対する聞込みができず、更に、匿名性の増大、連帯意識の希薄化等により情報の収集が困難になってきていることなども、検挙率の低下に大きな影響を与えているものとみられる。また、都市では、窃盗犯の被害回復率が他の地域より低く、減少の傾向にある。
 都市では、享楽的な生活の機会が多いためでい酔者保護事案も多く、昭和50年には、その63.3%が大都市圏に集中している。また、少年にとって有害な環境も多く、50年における犯罪少年補導人員の49.8%、家出少年発見保護件数の54.4%が大都市圏により占められている。
 次に、大都市圏や地方中核都市の人口急増地域では、人口急増による世帯数の増加、核家族化の傾向や単身世帯への細分化により、巡回連絡等の警察業務が増大している。また、このような地域では、地域住民を中心とする防犯活動、交通安全運動等の推進上にも問題が生じている。
 都市化の新たな拡大が進むなかで、大都市圏の周辺部や地方中核都市を中心とする地方都市でも自動車交通量は増大し、これに伴い、交通事故は、これらの地域においても多発し、更に、交通渋滞や交通公害が社会問題となってきている。しかしながら、大都市圏で発生する交通事故が占める割合は依然として高く、交通渋滞等の解決についても、なお多くの問題が残されている。
ア 都市化と犯罪
(ア) ドーナッツ現象の拡大と犯罪
 昭和50年の大都市圏の犯罪の発生状況は表1-4のとおりで、その53.0%が大都市圏で発生し、人口集中率の47.6%を上回る高い数値を示している。大都市圏のうち、人口集中が最も著しい東京圏においては、50年は41年に比べて犯罪が9.9%増加しており、この間、全国的には4.6%減少していることと対比して注目される。

表1-4 大都市圏の犯罪(昭和41、45、50年)

 また、人口のドーナッツ現象の拡大を反映して、中心市の犯罪集中率が低下する一方、周辺地域における犯罪の圏全域に占める割合が上昇し、犯罪についてもドーナッツ現象の拡大がみられる。特に、東京圏と大阪圏では、圏全域に占める割合だけでなく、絶対数においても周辺地域の犯罪が増加しているのが目立っている。例えば、東京圏の周辺部の3地域の犯罪の推移は、図1一1のとおりで、千葉県京葉・東葛地域は70.6%、埼玉県南部地域は47.3%、東京都多摩地区は32.0%と、昭和41年に比べて著しく増加している。

図1-1 東京圏の周辺部3地域の刑法犯認知件数の推移(昭和41~50年)

 このような傾向を反映して、昭和50年の東京50キロ圏の犯罪は、45年に比べて、0~10キロ帯では14.9%の減少をみたのに対し、その外側の地域ではいずれも増加し、特に30~40キロ帯では14.2%の増加をみている。また、大阪50キロ圏では、20~30キロ帯の犯罪が8.3%と最も高い増加率を示している。このため、これらの地域では犯罪の増加が著しい都市がみられ、東京都日野市、埼玉県越谷市、上尾市、千葉県柏市、大阪府富田林市を管轄する警察署の管内では、45~50年に犯罪が40%以上増加している。
 大都市圏の周辺部では、昼間人口が希薄化し、空き巣ねらい等の侵入盗が新興住宅地域を中心として多発する傾向にあり、また、公共輸送機関の整備が十分でない地域において、通勤、通学の手段としての自転車を対象とする自転車盗が増加している。更に、デパート、スーパーマーケット等の進出による流通機構の変化を背景として、万引きが増加している。
 他方、大都市圏の中心部では、犯罪が減少しつつあるにもかかわらず、犯罪の集中率は人口の集中率を上回っている。その結果、図1-2にみられるように、東京都特別区、大阪市及び名古屋市の犯罪率は、全国平均の犯罪率に比べると高い数値を示している。これは、大都市圏の中心部では昼間人口と夜間人口の較差が大きく、居住者が少ないにもかかわらず、そこを活動の場とする人々が多く、かつ、匿名性の増大、連帯意識の希薄化等都市の特性が典型的に現れることによるものといえよう。また、万引きが発生しやすいデパート等がターミナル駅を中心に多数存在すること、ビル街を中心として夜間の警戒力が低くなること、風俗営業、深夜飲食店等享楽的な場所が多いことなど、犯罪の機会となり、あるいは誘因となる要素が多いことも関係があると思われる。

図1-2 大都市圏中心部の犯罪率(昭和50年)

(イ) 地方中核都市の犯罪
 人口10万人以上の都市における昭和50年の犯罪の発生件数は、約86万6,000件で、全国の犯罪の70.2%が集中しており、犯罪の都市部への集中率は、人口の集中率を上回っている。
 このような状況のなかで、県庁所在地等地方中核都市の犯罪の動向についてみると、県庁所在地のすべてにおいて、犯罪の集中率が人口の集中率を上回っている。昭和50年において犯罪の集中率が40%を上回っている県庁所在地は、表1-5のとおりで、高知市が60.4%と最も高く、次いで仙台市、和歌山市、金沢市の順となっている。

表1-5 犯罪の集中率の高い県庁所在地の犯罪及び人口の集中率(昭和50年)

 金沢市、岡山市、徳島市では、県全体の犯罪が昭和45年と比べて増加しているなかで、その県の犯罪の増加率を上回る犯罪の増加を示しており、他方、盛岡市、山形市、長野市、松山市では、県全体の犯罪が減少しているにもかかわらず、犯罪が増加している。
 また、県庁所在地以外の都市でも郡山市のように人口増加が著しい都市にあっては、県全体の傾向とは反対に犯罪が増加しており、地方中核都市への犯罪集中傾向が著しいことを示している。
 更に、札幌市、福岡市のような広域ブロック圏の中核となる都市においては、人口増加率のドーナッツ現象に伴い、東京都特別区や大阪市と同様に、犯罪にもドーナッツ現象が現れているが、このような傾向は他の都市にも及びつつある。
 このような地方中核都市への犯罪の集中化は、第三次産業の進出、深夜飲食店等享楽的な場所の増加、自動車等交通機関の発達に伴う生活圏の拡大等都市化の進展のなかで、犯罪の機会となり、あるいは誘因となる要素もまた増加しつつあることが背景にあるものといえよう。
 なお、都市化と犯罪については、第3章の3「都市化と犯罪」(94頁)参照。
イ 都市化と道路交通
 大都市圏における人口のドーナッツ現象の拡大及び地方中核都市への人口集中は、これらの地域に、人の交通及び物流の両面で、道路交通、特に自動車交通の増大をもたらした。都市化と自動車交通の関係を、東京圏及びその隣接県の自動車走行台キロの推移でみると、図1-3のとおりで、東京都では昭和43年以降、神奈川県では46年以降横ばいであるのに対し、埼玉県、千葉県では46年以降も増加を続けている。また、これらの外周にある群馬、栃木、茨城、山梨の各県の過去10年間における自動車走行台キロの増加率は200%を超え、全国平均の187.4%を上回っている。
 これに伴い、交通事故は大都市の周辺部や地方都市でも多発するようにな

図1-3 東京圏及びその隣接県における自動車走行量の変化(昭和40、43、46、49年)

図1-4 東京圏及びその隣接県における交通事故死傷者数の推移(昭和41~50年)

表1-6 大都市圏の交通事故の推移(昭和41~50年)

ったほか、大都市を中心に発生していた交通渋滞や交通公害が、大都市の周辺部や地方都市でも発生し、社会問題化することとなった。
 交通事故は、全国的にみると昭和44、45年ころをピークにして減少しているが、この減少傾向は、最初に大都市を中心に、次いでその周辺に現れている。例えば、東京圏及びその隣接県の交通事故による死傷者数の推移をみると、図1-4のとおりで、都市化の最も早かった東京都で最初に減少傾向がみられ、その傾向も大きく、次いで神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木の各県の順になっている。
 これは、都市化現象が早く現れ、交通事故が多発するところに、早くから交通安全施設等の整備をはじめとする各種の安全対策が推進されたことによるものではないかとみられる。ちなみに、昭和50年の人口10万人当たりの交通事故による死者数は、10大都市(注1)で4.8人、人口30万人以上の都市で7.1人、人口10万人以上30万人未満の都市で8.3人、それ以外の市町村で13.5人となっており、道路交通環境が比較的整備されている大都市ほど死者数が少ない。
 なお、大都市圏の交通事故の推移は、表1-6のとおりで、交通事故は減少してきたものの依然としてその絶対数が多く、かつ、その全国に占める割合が大きいことが注目される。
 交通渋滞は、自動車交通の増加に伴い、まず、東京都や大阪府の中心部に現れ、その後、その周辺部や地方都市でも多発するようになった。例えば、大阪府の場合についてみると、昭和50年の交通渋滞(注2)の発生回数は、10年前と比べ、大阪市内で約2.8倍に増加しているのに対し、その他の地域では約4.0倍に増加しており、交通渋滞が大阪市内から大阪府下に広がってきている傾向がみられる。
 また、自動車の排出ガスの中には、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(Nox)、炭化水素(HC)その他の有害物質が含まれていて、これらが自動車交通の増加により大気汚染の大きな原因となってきており、自動車の排出ガスによる環境の悪化は、その後、大都市のみでなく、地方都市でも問題となってきている。このほか、自動車交通に起因する騒音や振動による被害は、大都市の幹線道路や高速道路の沿道のみでなく、大都市の住宅地域や地方都市においても問題化するようになってきている。
 なお、都市規模別の交通事故による死者数については、第6章の1の(2)「大都市の死亡事故は大幅減少」(222頁)参照。
(注1) 10大都市は、東京都特別区及び政令指定都市である。
(注2) ここでいう交通渋滞とは、500m以上の車列が30分以上継続した状態をいう。
(3) 今後の課題
 大都市圏における人口のドーナッツ現象の拡大及び地方中核都市への人口集中にみられる都市化の新たな拡大は、犯罪、交通事故等の動向にも様々な変化を招来させ、治安面にも大きな影響を及ぼしつつある。
 警察では、このような事態に対応するため、人口急増地域に対する警察官の計画的増員による警察体制の強化、機動力の増強による初動警察体制の確立等を図るほか、日常警察活動の積極的推進に努め、警察活動に対する地域住民の理解と協力を得るよう努力してきたところである。
 今後、都市化は更に拡大を続けていき、警察に対しても多くの新しい問題を提起するものと予想されるが、警察としては、都市化に伴う警察事象の変動と警察活動をめぐる環境の変化に的確に対応した施策を推進する必要がある。

2 警察事象の推移と対策

(1) 主な社会事象の推移
 昭和50年は、国の内外にわたって政治、経済、社会の各分野に大きな変化と混迷が生じ、激動と変化の1970年代を象徴する年であった。
 先進自由主義諸国は、昭和49年に引き続き、インフレ、不況、失業者の増大、貿易の縮少均衡の四重苦に悩み続けたが、このようななかで、OPEC諸国は10月に原油価格を10%値上げした。これに対して、主要先進国は11月にフランスで首脳会議を開き、国際協調による景気の立て直し、貿易拡大等の施策を内容とする世界経済宣言のためのランブイエ宣言を発表して、世界的不況からの早期脱出のための努力を続けることとなった。
 こうしたなかで、インドシナ半島の戦乱は従来の政府の崩壊、インドシナ3国の社会主義化という形で終結したが、このことは、東南アジア諸国に大きな影響を与えた。シナイ新協定の仮調印、米ソによる軍縮交渉等緊張緩和のための動きもみられたが、ポルトガルの政変、アンゴラの内戦等もあって国際情勢は依然として流動を極めた。
 激動する国際情勢を背景にして、国内においても多くの問題が発生し、国民生活にも大きな影響を与えた。
 政治面では、保守革新の激しい対立のなかで、第8回統一地方選挙が行われた。また、国会では、政治資金規正法、公職選挙法等の改正をめぐって与野党間の対立が激化するなど政局は混迷のうちに推移した。
 経済、社会面では、輸出の減退、内需の不振等が続き、四次にわたる公定歩合の引下げ等一連の不況対策にもかかわらず、景気回復の足取りは重く、昭和50年の実質経済成長率は2.0%にとどまった。不況の長期化は、雇用情勢にも影響を及ぼし、10月には失業者は114万人と高い水準を示した。このような経済情勢のなかで、労働攻勢は雇用問題に重点が置かれたが、11月末には3公社5現業の「スト権」をめぐって、公労協による長期にわたる違法ストが行われ、全国の交通が完全にまひした。雇用不安と物価高を反映して労働運動、消費者運動等も活発に行われた。
 天皇、皇后両陛下の御訪米、エリザベス英国女王の御訪日等明るい話題も多かったが、沖縄国際海洋博覧会における「ひめゆりの塔事件」等もあった。特に「クアラルンプール事件」に関連して、人質と引換えに身柄拘禁中の凶悪犯人を釈放せざるを得ない結果となったことは、極めて遺憾なことであった。
(2) 警察事象の推移
ア 犯罪情勢
 昭和50年の刑法犯認知件数は、前年比1.9%増の123万4,307件で、2年連続して増加した。
 これは、凶悪犯、粗暴犯、風俗犯は減少したが、窃盗犯、知能犯が大幅に増加したためである。窃盗犯については、自転車盗、オートバイ盗等の乗物盗が約2万件(7.8%)、空き巣ねらい、忍込み等の侵入盗が約1万2,000件(3.9%)とそれぞれ増加し、知能犯については、詐欺が約4,000件(7.8%)増加している。また、凶悪犯については、総数は減少したにもかかわらず、殺人が186件(9.7%)、強盗が160件(7.5%)それぞれ増加したのが注目される。
 我が国の犯罪の認知件数は、大幅な変動をみていないが、その内容をみると、社会情勢、経済情勢を反映して大きく変化している。昭和50年には、殺害後死体を隠ぺいする事件が68件と引き続き増加したほか、爆破予告事件も1,639件と前年に引き続いて多く、金融機関を対象とした強盗や窃盗も多発した。また、経営不振の経営者による凶悪事件、生活必需品の大型取込み詐欺、手形の偽造、行使及び中小企業をねらった手形パクリ事件のほか、土地取引をめぐる詐欺等が不況を反映して多発した。更に、新しい行政分野である公害行政に関連する贈収賄事件が多発したことが注目され、暴力団については対立抗争が激化し、対立抗争事件は89件に上り、また、銃器による武装化が目立った。このほか女性による万引きの増加、金融機関を舞台とする大型知能犯の多発が注目された。
 昭和50年中の犯罪は、このように悪質性の強い犯罪の増加、不況を反映した犯罪の多発、被害の大型化が目立った。
 以上のような犯罪の傾向に対し、昭和50年中の検挙活動をみると、検挙件数は、前年比2.4%増の71万3,031件、検挙人員は、前年比0.2%増の36万4,117人と増加し、検挙率も前年比0.3%増の57.8%となっている。
イ 少年問題
 昭和50年に、罪を犯して補導された少年の数は約13万人で、前年に引き続き増加した。そのうち、刑法犯少年は約11万7,000人で、48年以降3年連続して増加した。また、少年人口1,000人中に占める刑法犯少年の割合は、12.3人と最近10年間における最高を記録した。刑法犯少年を年齢別にみると、15歳と16歳の少年が増加し、全体の44.5%を占めた。また、男女別では、男子少年が減少しているのに対し、女子少年が前年に比べて10.2%と大幅に増加した。
 非行の内容をみると、動機において単純で、遊び的色彩の強い万引き、自転車盗、オートバイ盗が刑法犯少年の47.2%を占めている。しかし、他方、中学生及び高校生による教師に対する暴行事件や粗暴非行集団による善良な生徒に対する暴行事件等、いわゆる校内暴力事件が多発し、また、暴走族グループによる強盗、強姦等の凶悪な犯罪やグループ相互間での対立抗争、警察官に対する暴行事件等が目立ち、暴走族グループの悪質化と非行集団化が注目された。更に、シンナー等を乱用して補導される少年が急増し、シンナー等を吸って自動車を運転し、死傷事故を起こすなど悪質な事案が多発した。このほか、不純異性交遊、売春等性の逸脱行動によって補導される少年も跡を絶たない。
ウ 生活、環境問題
 風俗関係では、風俗営業所の総数はおおむね横ばい傾向にあるものの、キャバレーは、チェーン店方式の採用等もあり、昭和50年は、3,285軒と46年の25.5%増となり、深夜飲食店も、46年の35.7%増の約24万軒を数えるに至っている。他方、パチンコ店も、都市郊外のボーリング場跡地を利用するなど大型化がみられ、50年は、46年に比べて12.0%増加しており、また、マージャン屋も、46年に比べて50.3%増加し、パチンコやマージャンが広く国民に普及していることを示している。風俗営業に伴う法令違反の検挙件数はほぼ横ばい傾向にあるが、ギャンブルマシンによる賭博事犯の検挙件数は年々増加し、50年は賭博事犯検挙総数の34.4%を占めた。
 金融事犯は、長引く不況を反映して激増し、昭和50年は、前年に比べ32.4%増の931件を検挙した。その内容も高金利事犯が全体の約75%を占めており、借金の返済ができずに自殺や無理心中する悲惨な事件も目立った。
 国際金融事犯も、海外法人の設立、運営のための資金や貿易代金、海外旅行費用等をヤミ決済する事犯が多発し、昭和50年は、外国為替及び外国貿易管理法違反で、前年の6倍以上の240人を検挙した。その中でも、特ヤミ決済を業とする、いわゆる地下銀行組織が台頭したことが注目される。
 覚せい剤犯罪も再び急増し、昭和50年は、前年に比べ38.8%増の8,218人を検挙したが、検挙人員の59.7%は暴力団員であった。覚せい剤犯罪の中では、国内における本格的密造事犯の多発が目立ったほか、密輸入事犯も多発した。
 公害事犯も増加傾向を示しており、昭和50年は、前年に比べ25.1%増の3,572件を検挙した。公害事犯の中では、水質汚濁と産業廃棄物不法投棄が依然として多く、その手口も一層悪質、巧妙化してきている。
 銃砲、火薬関係では、昭和50年に不法所持として押収したけん銃は1,411丁であり、そのうち改造けん銃は1,026丁と過去の最高を記録した。火薬類の盗難事件は前年に比べ27.2%減少し、また、火薬類使用犯罪も減少した。
エ 交通情勢
 昭和50年末の自動車保有台数は、前年末よりも22万台増加して2,893万台となり、運転免許保有者数は、同じく134万人増加して3,348万人となるなどモータリゼーションは依然として進展している。このような状況にもかかわらず、50年の交通事故は、発生件数は47万2,938件で前年に比べて3.6%減、死者数は1万792人で同じく5.6%減、負傷者数は62万2,467人で同じく4.4%減となり、発生件数は6年連続、死者数と負傷者数は5年連続の減少となった。死者数については、34年以来16年振りに1万1,000人台を割った。
 都市総合交通規制については、昭和49年から実施しているが、50年は更に強力に推進した。特に、10大都市においては、大気汚染防止の観点から、交通総量削減対策を実施した。
 交通安全施設については、昭和50年度を最終年度とする第一次交通安全施設等整備事業五箇年計画に基づき、50年度には交通管制センター6箇所、信号機7,474基、道路標識5,621本、横断歩道1,050本を整備するなど、交通安全施設等の増強に努めた。この結果、五箇年計画実施前に比べて信号機は2.7倍、道路標識は3.1倍、横断歩道は2.9倍になった。
 交通の指導取締りについては、昭和50年には交通事故死傷者減少傾向を長期的に定着させることなどを目標として、その推進に努め、前年に比べ14.8%増の約1,026万件の交通違反を取り締まった。また、交通事故の被害を軽減させるために有効な乗車用ヘルメット、座席ベルトの着用についても、強力に指導取締りを行った。
 昭和50年における暴走族による暴走事案は、前年に比べて19.2%増の522回発生し、これに参加した暴走族の延べ人員は、34.9%増の3万7,000人に上った。これに対し、警察では前年の2倍の28万6,000人の警察官を動員し、悪質なものについては、徹底的な検挙活動を行い、更に、悪質な者に対しては、運転免許の取消しを迅速に行うなど行政処分の強化と早期執行に努めた。
 このほか、交通事故の防止と運転者の利便の増進を主な目的として、自動車安全運転センターが昭和50年11月1日に設立され、51年1月から、通知業務、交通事故証明業務、経歴証明業務等を開始した。
オ 警備情勢
 昭和50年5月、前年8月の「丸の内ビル街爆破事件」をはじめ、一連の企業爆破事件を敢行していた「東アジア反日武装戦線」のメンバー8人を逮捕した。しかし、その後も極左暴力集団による爆弾事件は続発し、年間で22件発生した。また、内ゲバ事件はますます凶悪化し、内ゲバによる死者は過去最高の20人を数えた。国外では、8月に「日本赤軍」が多数の人質と引換えに我が国で拘禁中の凶悪犯人を釈放させるという「クアラルンプール事件」を引き起こした。
 昭和50年7月から開催された沖縄国際海洋博覧会をめぐり、極左暴力集団等は過激な「ゲリラ」行動を含め、多くの違法事案を敢行した。また、秋の天皇、皇后両陛下の御訪米に際しても、活発な反対闘争を行った。
 日本共産党は、第11回党大会において「民主連合政府」構想を決定し、その進展を図ってきたが、昭和50年前半には、党勢力の停滞、選挙での伸び悩み等がみられた。このため、同党は、7月以降組織の立て直し、特別月間を設けての機関紙拡大、学習・教育活動の強化等を図った。日本共産党は、次々と柔軟な戦術、方針を打ち出してきているが、革命勢力としての同党の基本的性格及び基本的革命路線にはいささかの変更もみられなかった。
 労働運動においては、春闘における「5月決戦スト」や秋闘における史上空前の「スト権奪還スト」にみられるように、公労協による違法ストが多発し、国民生活に大きな影響を与えた。この春闘及び「スト権奪還スト」をめぐり違法事案も多発し、223件、449人を検挙した。
 右翼は、左翼諸勢力に対する対決活動を強める一方、政府、与党に対しても、「核兵器の不拡散に関する条約」批准問題等をめぐり、活発な抗議、要請活動を展開した。こうしたなかで、大日本愛国党員による「三木首相暴行事件」が発生するなど違法行為も多発し、暴行罪等で戦後最高の490人を検挙した。
(3) 治安情勢の展望
 当面の国際情勢をみると、東西間の緊張緩和の基調は続くものと思われるが、中東問題、南北問題等をめぐって世界各国の利害が激しく対立することが予想される。また、世界経済は、米国経済の立ち直りを軸に回復に向かっているものの、インフレーション再燃の気配もあり、更に、OPEC諸国が原油価格再引上げの動きを示しているなど、その前途には楽観を許さないものがある。
 国内情勢では、経済は戦後最大の不況から脱出して徐々に回復の兆しをみせているが、安定成長への移行が定着するまでにはまだかなりの期間を要するものと思われ、また、公共料金の値上げ等に伴う物価の上昇も懸念され、国民の生活不安は続くものと予想される。
 こうしたなかで、国会の審議、昭和51年中に行われる総選挙等をめぐって与野党間の政治的対立は一層激化し、国民の政治的不信の高まり、法秩序無視の風潮のまん延、社会基盤のぜい弱化等の傾向も進んで、治安を取り巻く環境はますます厳しいものとなるであろう。
 警備情勢については、まず、極左暴力集団の動向が注目される。極左暴力集団は、組織の非公然化、軍事化を一層強めるとともに、本格的な「テロ」、「ゲリラ」を展開するおそれがあり、特に、既成セクトの間にも爆弾闘争志向が強まっていることなどから、爆弾闘争が引き続き敢行されるものとみられる。内ゲバは引き続きし烈を極め、対立セクトの幹部を目標とする「テロ」行為も懸念される。また、「クアラルンプール事件」で自信を得た「日本赤軍」は、資金調達、同志奪還等を企て、今後も「人質作戦」をねらい続けることが予想される。次に、日本共産党は、「救国・革新の国民的合意」の呼びかけ運動を中心に党のイメージ・チェンジを図りつつ、諸階層を幅広く党路線に引き寄せるための活動を強力に推進するものとみられる。更に、大衆運動は、多様な形で展開されるものと予想され、また、労働運動は、公労協の「スト権問題」をからめて次第に政治的色彩を強め、それに伴い治安問題が誘発されることが懸念される。右翼は、我が国の情勢に強い危機感を抱き、引き続き活発な活動を展開するものとみられる。
 犯罪情勢については、刑法犯の認知件数が2年連続して増加しており、今後の推移が注目される。特に、死体隠ぺい事件等にみられるように凶悪な犯罪が潜在化の傾向にあり、また、爆破予告事件の多発にみられるような模倣性が強く、かつ、国民の不安を高める犯罪が今後も多発するおそれがある。更に、不安定な経済情勢を反映して経済事犯、知能犯も多発するとみられる。また、暴力団の対立抗争事件は増加しており、その動向は看過できないものがある。今後、都市化の拡大に伴って国民の意識の変化や社会統制機能のぜい弱化が進み、犯罪の質的変化は更に強まるものと予想される。
 戦後の「第3のピーク」を迎えた少年非行については、少年をめぐる環境の悪化、家庭、学校における教育機能の低下等もあり、引き続き増加することが懸念される。
 モータリゼーションの進展は、都市化に伴う生活圏の拡大により、なお続くものと予想される。自動車による旅客、貨物の輸送需要は今後も増加し、特に大量公共輸送機関の整備が遅れている地方都市においては、その傾向が顕著になるものと思われる。また、都市間交通の需要の高まりから、高速道路の交通需要も増大するものと予想される。近年、全国的には、交通事故は減少傾向にあるが、増加している県があること、また都市間の事故率も較差があることなど多くの問題が残されている。更に、大都市圏及び地方都市においては、自動車交通による大気汚染、騒音、振動等の交通公害や交通渋滞の慢性化により、道路交通環境は悪化していくものと思われる。
(4) 今後の対策
ア 日常生活の平穏の確保
 我が国の人口は、大都市圏の周辺部や地方中核都市を中心に増加している。その結果、これらの都市においては、従来の警察力では十分に警察事象に対応できなくなり、警察力の増強を望む地域住民の声も高まった。警察としては、このような事態に対応するため、警察署や派出所、駐在所等の新設、勤務員の増強等により警察体制の強化に努めるほか、パトカーや移動交番車の効果的運用を図るなど各種の施策を実施してきた。また、大都市圏の隣接県等都市化の進展が著しく、公害事犯等の国民の日常生活を侵害する事犯が増加している県の警察本部では、防犯部を設置するなどして、国民の日常生活の平穏の確保に努めてきた。
 今後も、大都市圏の周辺部や地方中核都市を中心とする人口増加は続き、人口急増地域での警察活動に対する要求や期待は高まるものと予想され、きめの細かい日常警察活動が要求されるようになるものと思われる。警察としては、国民の要望に即した警察運営を行うため、人口急増地域を中心とする警察体制の整備、警察活動の充実について一層の努力をする必要がある。
イ 犯罪の早期検挙を目指して
 都市化の進展に伴う生活様式や国民意識の変化、モータリゼーションによる行動の広域化、スピード化等社会の変化は、犯罪にも大きな影響を及ぼし、単純で衝動的な動機や自己中心的な動機による凶悪な事件の増加が目立つなど犯罪の質的変化が著しい。このような情勢のなかで、証拠の収集、聞込み捜査等の捜査活動も次第に困難化しつつある。
 このため、警察は、犯人の早期検挙と夜間における捜査力の強化を主な目的とした機動捜査隊の整備、充実を図り、事件発生に際して捜査員が現場に急行して、犯人の逮捕、参考人の確保、聞込み捜査等の初動捜査を行うなど捜査の初期的段階において捜査力を集中的に運用して、事件の早期解決を図ることとしている。また、鑑識専務員が早期に犯罪現場に急行して現場鑑識活動の徹底を図り、犯罪の迅速な解決に寄与することとしている。
 次に、常習犯罪者による広域的、連続的犯罪を早期に検挙するために、広域にわたる凶悪犯、窃盗犯に対して都道府県警察が協力して捜査を展開しているが、犯罪及び犯人の行動を科学的に分析し、犯行予測に基づいて現場付近の張込みを行うなどの“よう撃”捜査を、更に積極的に展開する必要がある。
 更に、爆破事件、ハイジャック及び列車事故、工場爆発等の大規模な業務上過失事件等に対しては、高度に科学的、専門的な知識技術を備えた専務員で編成された専門的捜査体制を充実する必要がある。
 警察は、指名手配照会にコンピューターを積極的に活用して効果をあげているが、昭和50年10月からは、ぞう品車両等の照会についてもコンピューターの利用を開始した。今後も、有効に活用して犯罪の早期解決を図る必要がある。
 犯罪捜査は、国民の協力なくしては成功しない。警察は、町内会、防犯協会をはじめ、モーテル、ガソリンスタンド等各種業者に依頼して協力体制の強化を図るほか、報道機関の協力を得て公開捜査を推進するなど国民に協力を呼びかけている。更に、被害者、参考人に対する良好な接遇をはじめ、国民の協力を確保するため一層の努力を続けることとしている。
ウ 少年非行防止活動の強化
 近年、減少を続けてきた少年非行は、都市化の進展、価値観の多様化等社会情勢の変化と社会が抱える様々な問題を背景に、昭和48年頃から再び増勢に転じ、戦後3番目のピークを迎えるに至った。また、少年非行の内容も、校内暴力事件、暴走族の各種違法行為等にみられるように悪質化している。
 警察としては、関係機関、団体等と緊密な連携をとり、非行少年の早期発見と補導、少年に悪影響を与える有害環境の浄化等の非行防止活動を強化するとともに、警察庁に少年課を新設するなど組織体制の整備に努めることとしている。
エ 交通事故防止対策の強化
 交通事故による年間の死傷者は、いまなお63万人に上っており、死者全体に対する歩行者及び自転車利用者の構成比が依然として高いこと、都道府県間の事故率の較差が大きいことなど多くの問題が残されている。加えて、交通事故、交通公害等のない安全で住みよい生活環境を確保したいという国民の要望は一層高まってきている。
 このため、昭和51年度から始まる第二次交通安全施設等整備事業五箇年計画に基づき、全国的に交通安全施設等を整備するとともに、各種の交通規制、交通指導取締り、交通安全教育等の交通安全対策を強力に推進する。また、自動車交通が過密化している都市を中心に、交通公害防止、交通渋滞緩和対策を積極的に推進することとしている。
 高速道路については、供用路線の延長に伴い、交通量が飛躍的に増加しており、これに伴う交通事故の増大が懸念されるため、道路構造、沿道の環境等を勘案した効果的な交通規制を実施するとともに、高速道路交通警察体制の整備を図る必要がある。
オ 大規模災害対策の確立
 我が国は、地理的条件から、毎年のように台風、大雨、地震等の自然災害が多発している。また、人口が集中し、都市構造が複雑化している都市においては、危険物貯蔵施設の増加等もあり、一たび火災等が発生した場合には、大惨事を招くことが予想される。
 警察は、被害を未然に防止し、その拡大を防止するために、警察庁に災害対策官を新設するなど体制の充実、強化を図るとともに、危険箇所の実態は握、災害警備計画の策定、災害警備訓練の実施等大規模災害対策の強化を図っていくこととしている。


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