第5章 生活の安全と環境の浄化

1 凶器使用犯罪の未然防止

(1) 凶器使用犯罪未然防止活動の推進
ア 凶器使用犯罪をめぐる諸情勢
 銃砲刀剣類、火薬類、鉄パイプ等の凶器は、犯罪に使用された場合に国民の生命、身体に対して重大な被害をもたらすばかりでなく、それらが身近にあることにより犯罪が誘発される危険性のあるものである。凶器使用犯罪の重大な事例としては、山口県下で発生した猟銃による警察官殺害・主婦人質事件、丸の内ビル街爆破事件をはじめとする一連の爆破事件が記憶に新しい。
 特に、爆破事件は、強大な破壊力を有する爆弾で、多くの善良な国民を一瞬にして被害に巻き込む最も凶悪な犯罪であると同時に、犯人は安全な場所で被害の模様をながめるという陰湿な犯罪でもある。
 火薬類をはじめ銃砲刀剣類等の凶器を使用した犯罪は、昭和49年中に1万7,122件、1日平均47件発生しているが、その背景には、凶器又は凶器として使用されるおそれのあるもの(以下「凶器等」という。)の保管管理がずさんであったり、不必要に所持されているという実態がある。
 これに対して、警察としては、昭和49年8月の長官通達に基づき、その総合力を挙げて凶器使用犯罪の未然防止活動に取り組むこととし、あらゆる広報媒体を活用して幅広く国民の理解と協力を求める一方、関係行政機関及び団体にも広く協力を要請しつつ、凶器等に対する取締りを強力に推進した。
イ 全国いっせい集中取締りの実施
 昭和49年9月17日から同年10月31日までの45日間にわたり、凶器等に対する集中取締りを実施した。その結果は次のとおりである。
(ア) 多数の凶器を発見
 凶器等には、銃砲刀剣類、火薬類のほかに刃物、模造けん銃、火炎びん、鉄パイプ、こん棒類等があるが、全国いっせい集中取締期間中の45日間に発見した凶器等は2万230点に達した。これは前年1年間に発見した凶器等の総数の71.2%に当たる数である。その内訳は、表5-1に示すとおりであって、銃砲刀剣類や火薬類等殺傷力の強い凶器等が多数発見されたこと、刃物、鉄パイプ、こん棒等だれでも容易に入手できるものが、凶器等の7割強を占めていたことの2点が注目された。

表5-1 凶器等の発見状況(昭和49年9月17日~10月31日)



〔事例1〕 「暴力団が武器を持っている。」との市民からの通報により、暴力団員宅等3箇所を捜索し、不法に隠匿していた改造けん銃3丁、実包16個を発見し、これを端緒としてついには暴力団を解散に追い込んだ(兵庫)。
〔事例2〕 「貸金業者が無登録の刀剣類を売買している。」との市民からの通報により、貸金業者を取り調べたところ、無登録の刀剣類を買い集め、虚偽の方法で登録を受けた後、買受価格の数倍の値で売っていたことが判明し、その結果165振の刀剣類を発見した(広島)。
(イ) 犯罪の未然防止に大きな役割
 表5-2のとおり、発見された凶器等の13.7%に当たる2,813点及び火薬類1キログラムが、既に犯罪に使用されたものであった。残りのものは、犯罪に使用されたものではなかったが、それらの発見により凶器使用犯罪の未然防止に果たした役割は大きいと言えよう。

表5-2 凶器等が発見された経過(昭和49年9月17日~10月31日)

〔事例1〕 「けんかの仕返しをするため、刀を持って自宅から出て行った。」との市民からの通報により、相手方宅に行く途中の容疑者を発見し、所持していた模造刀剣を押収した(北海道)。
〔事例2〕 新聞や警察のちらしで凶器使用犯罪のいっせい取締りを知った市民からの通報によって、平素から対立している高校に殴り込みをかけようとして、ヌンチャク等の凶器を隠匿していた高校生を補導した(警視庁)。
 凶器使用犯罪の未然防止を徹底するためには、集中取締期間中だけでなく、息の長い取組みが必要である。そのため、集中取締期間終了後においても、取締体制を堅持し、凶器等の発見に努めるほか、国民に対しては、あらゆる機会を通じて、刃物やこん棒類を不必要に持ち歩かない気運の醸成と銃砲火薬類等の危険物の保管管理の徹底について広報に努めている。
(2) 銃砲対策の推進
ア けん銃事犯の取締り
 けん銃は本来人の殺傷を目的として作られ、極めて危険性の高いものであるため、我が国においては、一定の場合を除いてその所持が全面的に禁止されている。昭和49年中に不法所持として押収されたけん銃は1,101丁で、このうち真正けん銃は304丁、改造けん銃は797丁であった。これを前年と比較すると105丁(10.5%)増加している。警察は、凶器使用犯罪未然防止の一環として、けん銃の取締りを強力に推進している。
(ア) 密輸入けん銃の押収状況
 最近5年間の密輸入けん銃の押収状況は、図5-1のとおり増加の傾向にあり、昭和49年は、押収された真正けん銃304丁の70.8%に当たる215丁が密輸入されたものであり、前年に比べ76.2%増と大幅な増加を示した。
 密輸入の方法は、海外に観光旅行に行った日本人が興味本位にけん銃を買い、それをひそかに持ち込んだり、不良外国船員が暴力団に高く売りつけるため、けん銃を隠匿して入国するなどの携帯密輸が多い。しかし、昭和49年には、在日留学生が関西方面の暴力団に密売するため、大量のけん銃を航空貨物として密輸入した例や、船員が現地人から購入したけん銃5丁を1丁ずつコーヒーの空きかんに詰めて陸揚げした例等もあり、密輸入手段が巧妙化している。
 警察では、密輸入けん銃を入国した段階で捕そくするため、出入国港等の

図5-1 密輸入けん銃の押収状況(昭和45~49年)

港湾施設に対する内偵を強化するとともに、税関等の関係機関との連携を密にし、いわゆる水際作戦を強力に実施している。
(イ) 改造けん銃対策
 高級がん具けん銃を弾丸を撃てるように改造したいわゆる改造けん銃の押収丁数は、図5-2のとおり年々増加傾向にあって、昭和49年は797丁と最近5年間の最高を記録した。
 このように改造けん銃が多数出回るようになったのは、高級がん具けん銃が自由に購入でき、かつ容易に改造できること、改造けん銃に用いる猟銃の弾丸が容易に入手できることなどから、暴力団がこれに着目したためである。特に最近の検挙事例のなかには、暴力団が資金源とするために、アパートや自動車修理工場等で大量の改造けん銃を密造している事犯が多くみられる。
 このため、警察では改造けん銃事犯の未然防止を図るため、高級がん具けん銃製造業者による組合の設立を促進して、改造工具であるドリルやカッターによる加工ができないように高級がん具けん銃の銃身及び遊底(機関部)

図5-2 改造けん銃押収丁数(昭和45~49年)

に相当する部分等に超硬質の金属棒(片)をそう入することを指導している。
イ 銃砲所持者に対する指導取締りの強化
(ア) 所持許可の厳格化
 銃砲は、それぞれ利用目的を有しており、なかには産業活動等に欠くことのできないものもある。しかし、一歩誤ると凶器として各種の犯罪に使用されるおそれがあるので、銃砲刀剣類所持等取締法の規定によって、精神病者、麻薬中毒者等をはじめ、暴力団構成員、凶悪犯罪の前歴者等のように人の生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれのある者には、銃砲を所持させないことになっている。
 許可を受けた猟銃等が犯罪に使用される割合は、昭和49年の場合10万丁につき4.6丁でありその数は必ずしも多いとは言えないが、警察においてはそれが犯罪に使用されたときの危険性にかんがみ、その絶滅を期するため、所持許可を厳格に行うとともに、許可後においても所持者としての適格性を失った者に対する取消し処分を明確に行うほか、各種の行政指導に努めている。
 最近5年間の許可を受けた猟銃及び空気銃による犯罪発生の状況は、表5-3のとおりである。

表5-3 許可猟銃・空気銃の使用犯罪発生状況(昭和45~49年)

(イ) 銃砲保管の適正化
 銃砲の盗難とそれによる危害を防止するため、銃砲の所持許可を受けた者は、それに使用する実包、空包及び金属性弾丸と分離して、銃砲を堅固な保管設備に施錠して自ら保管しなければならないこととされている。しかし、保管設備又は保管方法の不備によって銃砲盗難事件が現実には発生しており、そのなかで特に犯罪に使用されることが多い猟銃及び空気銃の盗難事件の発生状況は、図5-3のとおりである。
 昭和49年中の猟銃等の盗難発生形態を見ると、法に定められた保管方法によらないで保管中に盗み取られたものが59丁と全体の69.4%を占めており、適法に保管中に盗まれたものは30.6%であった。ここ数年来の傾向として、自動車の座席やトランクに置かれていた場合の盗難が目立ってきている。
 警察では、年1回全国いっせいに銃砲検査を実施するほか、必要に応じて報告を求めることによって銃砲の保管状況を調査し、不備な場合はその都度改善の指導をするとともに、銃砲を放置するなどの悪質な所持者に対しては、直ちに許可の取消し処分を行っている。また、所持者の自宅等を訪問し、保管状況に関する指導を行い、盗難防止上支障のある場合は保管設備の場所を変更させることにしている。更に、たとえ盗み取られても犯罪に使用できないよう、銃砲を分解保管することを指導する場合もある。

図5-3 猟銃及び空気銃盗難事件発生状況(昭和45~49年)

(ウ) 狩猟に伴う事故の防止
 狩猟期間は、毎年度、その年の11月1日(ただし、北海道は10月1日)から翌年2月15日までとされているが、狩猟中に発生した猟銃や空気銃の流れ弾による事故や暴発による自損事故の状況は図5-4のとおりで、昭和46年度以降増勢に転じつつあり、昭和49年度の発生件数は前年度に比べて12件の増加となっている。
 昭和49年度狩猟期間中に発生した猟銃事故の被害者をみると、同行等のハンターの被害が88人と最も多く全体の42.7%を占めており、これに次いで狩猟とは全く関係のない農作業中の人や通行人等の一般人の被害74人、自損の被害44人となっている。

図5-4 狩猟期間中における猟銃等事故発生状況(昭和45~49年度)

 事故の原因は、図5-5のとおり、同行のハンターや農作業中の人を獲物と誤認するなど矢先の不確認によるものが最も多く、次いで銃の取扱いが不適切なための暴発事故が多い。

図5-5 狩猟事故の原因(昭和49年度)

 警察では、狩猟事故を防止するために、猟銃等講習会の場や防犯協会の広報紙誌、狩猟者団体等を通じ、発射時の注意事項や猟銃等の取扱方法を指導し、注意を呼びかけるとともに、狩猟の用途で銃砲の所持許可を受けようとする場合は、まず標的射撃の用途で許可を受け、標的射撃によって猟銃等の取扱いに習熟するよう指導している。
(3) 火薬類の盗難防止活動
ア 火薬類盗難防止対策の現況
 昭和49年は、丸の内ビル街爆破事件をはじめとする一連の爆発物使用事件が相次いで発生し、治安上大きな問題となり、火薬類の厳重な取扱いが緊急の問題となった。
 警察では従来から通商産業省等の関係行政機関と緊密に連携して、火薬類の盗難その他不正流出防止のための対策を実施してきたが、丸の内ビル街爆破事件に多量のダイナマイトが使用された疑いがあったことから、改めて火薬類の保管管理の在り方が各方面で論議を呼んだ。このような情勢にかんがみ、政府では昭和49年10月、内閣官房を中心に関係各省庁において協議して「火薬類盗難防止対策」を策定し、火薬類の保管管理の徹底を期することになった。
 この対策により、火薬類盗難事件を防止するため、土木工事現場等の火薬類取扱場所における管理責任体制及び火薬庫等の貯蔵施設の構造設備を一段と強化するとともに、違反者に対する行政処分の厳格化が図られ、ダイナマイトの記号表示制度の検討を進めることとなった。
イ 火薬類盗難事件の傾向
 最近5年間における火薬類盗難事件の年別発生件数は、図5-6のとおりで、極左暴力集団による爆弾闘争が、し烈を極めた昭和46年の110件をピークとしてその後減少の方向をたどってきたが、昭和49年に再び増加した。
 警察では、火薬類盗難事件に対しては、全力を挙げて捜査に取り組み、事件の早期検挙と被害品の回収に努めており、最近5年間に発生した盗難事件507件のうちの52.7%に当たる267件を検挙している。
 しかしながら、最近5年間に発生した507件の火薬類盗難事件のうち、警察の事件検挙により盗難が明るみに出た未届事件が55件(10.8%)あり、このことから火薬類盗難事件には相当数の暗数のあることがうかがわれる。
 火薬類のうち最も危険性の高いダイナマイト等の爆薬は、最近5年間に789キログラム(1本100グラムに換算して7,890本分)が盗まれており、こ のうち51.8%に当たる408キログラムが事件検挙により回収されている。

図5-6 火薬類盗難事件の発生・検挙状況(昭和45~49年)

ウ 指導取締りの状況
 火薬類盗難防止の徹底を期するため、警察では全国約2万8,000箇所の火薬類の製造所、火薬類、土木工事現場等の火薬類取扱場所に対して立入検査を反復実施し、火薬類の保管管理について指導取締りを行い、悪質な火薬類取締法違反について検挙している。
 最近5年間における火薬類取締法違反の検挙状況は、図5-7のとおりである。
 なお、昭和49年中は、3,349件の火薬類取締法違反を検挙したほか、3月と9月の2回にわたって実施した立入検査において、3,659件の違反について警告指導を実施した。
 また、塩素酸塩類等の劇物が爆発物の原料として使用されることを防止し、爆破事件の根絶を期するため、塩素酸塩類及び塩素酸塩除草剤の製造業者、販売業者その他の取扱者に対し、盗難等の防止のため保管管理の徹底、法定手続の遵守等について指導を実施している。

図5-7 火薬類取締法違反検挙状況(昭和45~49年)

2 公害と取り組む警察

(1) 公害取締体制の整備と取締方針
ア 進む取締体制の充実
 公害問題の解決は、行政機関を中心とする施策と企業等の自覚に期待すべきものであるが、警察としても、深刻化する公害情勢を背景に公害防止に果たす警察の役割の増大に対処し、国民の要望に沿うため、関係行政機関と緊密な連絡をとり、事犯の検挙、指導等を積極的に行うとの基本方針に基づき、公害事案に積極的に取り組んでいるが、これと並行して警察庁及び各都道府県警察における公害取締体制の整備が進められている。すなわち、警察庁においては、昭和49年4月本庁に公害課を、関東、近畿両管区警察局に公害調査官を新設し、各都道府県警察においては、それぞれの実情に応じて、公害事犯取締担当課・係の設置、公害事犯捜査・鑑定要員の増強及び鑑識、捜査用資器材の充実が行われ、公害取締体制は一段と整備された。
イ 計画的取締りの推進
 具体的な事犯の取締りに当たっては、直接国民生活に被害を与える事犯、行政機関の指導を無視して行われる事犯等を中心に、特に汚染の著しい地域、問題の多い地域を選定し、
[1] 瀬戸内海に流入する河川等における水質汚濁事犯の計画的取締り(瀬戸内ブルーシー作戦)
[2] 汚染の著しい河川等における計画的集中的な水質汚濁事犯の取締り(清流作戦)
[3] 首都圏、近畿圏等における産業廃棄物不法投棄事犯の広域的取締り(広域産廃作戦)
の三つを重点として取締りを進めた。その結果、公害事犯の潜在化、悪質化傾向が浮き彫りにされ、これが業界に対する警鐘となるなど、公害防止の施策の推進に寄与した。
ウ 高度に専門的な公害捜査
 公害事犯の捜査は、警察にとっても新しい分野であって、多種多様な法令についての知識や、微量な有害物質の検出等に際し必要とされる理化学的な知識等が、捜査員に要求されることに加えて、命綱を頼りにしての採水等特殊な捜査活動が必要とされるようになってきている。このため警察庁及び管区警察局が主催して法令の研究、理化学的知識の養成、捜査要領の検討等の公害事犯捜査研究会を数次にわたり開催し、公害取締りに必要な舟艇、特科車、捜査用資器材等の整備強化を図り、また公害関係法令の罰則解説、水質汚濁事犯捜査の手引を作成するなどして捜査技術の向上に努めた。
 また、兵庫県、広島県、香川県の各警察本部においては、工場排水について捜査の現場で簡易な検査により一定量以上の有害物質等を含んでいるかどうかを判定する方法を開発した。
 各都道府県警察においては、公害事犯の取締りに積極的に取り組み、地域、水域を指定した計画的集中的な取締りを行い、検挙件数は大幅に増加したが、この間、取締りを逃れるため、正規の排水口のほかに、採水が困難な暗きょの中にわざわざ隠し排水口を設けて、故意に未処理の汚水を排出していた事犯に対して、危険を冒して命綱を頼りに採水活動を行って検挙にもちこみ、また、廃油・廃酸等の有害物質を含む産業廃棄物を集団で夜間計画的に都市のマンホール等に投棄していた大がかりな事犯を、長期にわたる深夜の内偵活動により検挙するなど、悪質な事犯の検挙に努めた。
(2) 公害事犯の傾向
ア 激増した取締件数
 公害事犯の検挙件数は、図5-8のとおり、年々増加し、昭和49年中に検挙した公害事犯は総数2,856件に達した。
 これを前年の1,727件に対比すると、1,129件(65.3%)の増加となっている。公害事犯の検挙件数の増加は、警察の公害事犯に対する積極的取組みと併せて、地域住民及び関係行政機関の公害問題に対する関心と警察の取締りに対する理解と協力の高まりによるものと思われる。

図5-8 公害事犯年次別検挙状況(昭和45~49年)

イ 多い水質汚濁と廃棄物不法処分
 昭和49年中に検挙した公害事犯を公害の態様別にみると表5-4のとおりであり、水質汚濁関係事犯1,326件(46.4%)、悪臭等の事犯(その多くが廃棄物の不法処分によるものである。)が1,391件(48.7%)とこの2態様で全体の95.1%を占めている。

表5-4 態様別検挙状況(昭和49年)

 また、適用した法令についてみると、図5-9のとおりで、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、水質汚濁防止法、河川法等が主なものである。

図5-9 法令別検挙状況(昭和49年)

 また、検挙した事犯を端緒別にみると、表5-5のとおりで、警察活動を通じて得られたものが1,799件と最も多いが、行政機関からの告発等も大幅に増加している。

表5-5 検挙の端緒別状況(昭和48、49年)

(ア) 水質汚濁事犯の実態
 昭和49年中に水質汚濁防止法を適用した事犯252件の違反態様は、図5-10のとおりで、排水基準の違反が最も多く、161件、63.9%となっている。

図5-10 水質汚濁防止法違反態様別検挙状況(昭和49年)

 また、同法違反として検挙の対象となった161事業場の規模を従業員、資本金別にみると、図5-11、図5-12のとおりであり、前年に比べて規模の大きい事業場の比率が増加している。

図5-11 違反事業場の従業員数(昭和48、49年)

図5-12 違反事業場の資本金(昭和48、49年)

 水質汚濁防止法による排水基準は、カドミウム、シアン、六価クロム、水銀等、人の健康を害する有害物質についての許容限度を定めたもの(これを「健康項目」という。)と水の酸性又はアルカリ性の程度を示す水素イオン濃度、有機物による汚染の程度を示す生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、油分による汚染の程度を示すノルマルヘキサン抽出物質量等についての許容限度を定めたもの(これを「環境項目」という。)とに大別される。排水基準の違反は161件であって、前年に比べると健康項目の違反は横ばいであるが、環境項目の違反が増加の傾向にあり、これらを違反項目別にみると、図5-13のとおりである。
 なお、これらの事犯のうち、基準に違反する排水であることを知りながら、汚濁水を排出していた故意犯は、126事業場(78.3%)に及んでいる。
(イ) 産業廃棄物の不法処分の実態
 昭和49年中における産業廃棄物の無許可処理及び不法投棄事犯の検挙は1,645件で、不法処分された産業廃棄物は図5-14のとおり、総量約24万

図5-13 違反項目の状況(昭和49年)

2,000トンで、種類別には、製紙かす等の汚でい(35.5%)、鋳物砂等の鉱さい(15.3%)、コンクリート破片等の建設廃材(13.2%)、動物のふん尿(8.3%)等が主なものであった。汚でい、鉱さい、廃プラスチック、ダスト類は、有害物質が含まれているおそれの強いものである。
 これらの不法に処分された産業廃棄物についてみると、排出事業者自らが処分した量が全処分量の4.1%(9,800トン)で、大部分が処理業者によって処分されたものであった。
 これらの産業廃棄物を排出する事業場を業種別にみると、図5-15のとおり、製造業(69.4%)、建設業(16.1%)、農業(9.5%)が主なものであり、製造業からは汚でい、鉱さい、建設業からは建設廃材、農業からは動物のふん尿の排出が多い。製造業では、非鉄金属製造業(25.9%)、パルプ・紙・

図5-14 不法投棄された産業廃棄物(昭和49年)

図5-15 産業廃棄物の排出源(昭和49年)

紙加工品製造業(13.6%)、鉄鋼業(11.1%)、ゴム製品製造業(8.4%)、輸送機械製造業(8.3%)、化学工業(7.4%)、金属製品製造業(6.6%)等が主な排出源である。
 産業廃棄物が不法に処分された場所についてみると図5-16のとおりであり、投棄場所の主なものは、河川、河川敷(30.7%)と、道路、空き地(20.6%)で、約半数を占め、山林、原野(14.1%)、下水道、側溝、農業用水路(11.6%)、埋立地、宅造地(9.8%)がこれに次いでいる。

図5-16 不法投棄場所(昭和49年)

ウ 目立つ悪質化
 公害の規制や指導取締りの進展に伴い、関係事業場がその社会的な責任を自覚し、公害防止のための設備投資を積極的に行うなどの動きがみられる反面、一部の事業場においては、景気の後退等もあって、処理設備を設けながら、それを動かす費用を惜しんで、行政機関の監視を逃れるため故意に別系統の排水路を設け、あるいは夜間又は排水口以外から未処理の水を排出するなどの悪質な手段に走る傾向がみられた。
〔事例1〕 排水処理施設を設けながら未処理のまま排水していた事犯
 鉄材の伸線、メッキ業を営んでいる会社(資本金2,100万円、従業員320人)が、処理施設を設けながら運転の経費を借しんで、故意に人目につかない時間帯を選んで、強アルカリ性(pH12.39)の廃液や浮遊物質量の多い(基準の37倍)未処理の汚水を流していた(日間平均の排水量1,400トン)(大阪)。
〔事例2〕 隠し排水路を設けて未処理のまま排水していた事犯
 監督官庁から無公害の模範事業場との折り紙をつけられていた製紙会社が、立入検査の際には完全に処理しているように偽装し、実際には大部分の排水を、別に設けた隠し排水口から共同排水溝を通じて瀬戸内海へ流していた(日間平均排水量2,500トン)(愛媛)。
 また、産業廃棄物の処理をめぐって、処分地の確保が困難なことから、行政機関の指導を無視した無許可処理業者が横行し、営利追求のため違法をあえて行う事犯が目立ち、また、排出企業においても無許可業者であることを知りながらこれを利用するとか、取引上の地位を利用して下請業者に無理に廃棄物の処理を押しつけるなどの状況がみられた。
〔事例3〕 瀬戸内海に大量の廃酸を不法投棄した事犯
 工業薬品販売業者が薬品の売り込みのために排出事業者から廃酸の処理を引き受け、モグリの処理業者を使って、約6,400トンの廃酸を薬品工場に設置した廃酸タンクに一度搬入してから、同工場の排水口を利用して大阪湾に通ずる下水道へ流すなど巧妙な方法で不法投棄した(兵庫)。
〔事例4〕 米ぬか廃油をマンホールに大量投棄した事犯
 都内の大手油脂工場の会社幹部が、モグリ業者と知りながらこれと結託し、工場から排出された大量の米ぬか廃油を千葉県下の埋立地内のし尿処理場に通ずる下水道マンホール内に、数十回にわたって不法投棄し、処理場の機能に多大な被害を与えたほか、処理業者に対し仕事を続けさせることを条件に口止めするなどし、捜査を妨害していた(千葉)。
〔事例5〕 処分地に困った処理業者が自然公園内に建設廃材を大量投棄した事犯
 廃棄物処理の許可を受けていた大手建材業者が、新たな処分地を物色したが、周辺住民の同意が得られず許可が受けられないため、再三にわたる県、市の行政指導を無視して、自然公園内の砂利を大量に採取したうえ、その跡地に6,300立方メートルの建設廃材を埋立処分していた(静岡)。
(3) 公害苦情の処理
ア 依然として多い苦情の受理
 昭和49年中に警察に持ち込まれた公害をめぐる苦情は、表5-6のとおり依然として多く、3万6,373件を数えている。

表5-6 公害苦情の受理状況(昭和45~49年)

イ 大部分が騒音、悪臭、水質汚濁
 公害をめぐる苦情の主な内容は、図5-17のとおりで、騒音に関するものが最も多く、全体の65.3%を占め、これに次いで悪臭、水質汚濁に関するものの順となっている。

図5-17 苦情の態様別受理状況(昭和49年)

 最近の特徴としては、大都市とその周辺においては、工場、事業場の活動に伴う騒音苦情のほか、市民生活の場で発生するいわゆる生活騒音による苦 情も少なくない。
 受理した苦情で違反の認められるものについては、検挙又は警告を行うとともに、その他のものについては、所管の行政機関に対する連絡、通報、当事者の話し合いのあっ旋等によって処理している。その処理状況は、図5-18のとおりである。

図5-18 苦情の処理状況(昭和49年)

(4) 危険物の取締り
 高圧ガス、石油類、放射性物質等の危険物は、産業活動や国民の日常生活等において、重要な役割を果たしている反面、いったん爆発火災等の事故が発生した場合には、その及ぼす被害はじん大かつ悲惨である。危険物による事故の発生及び事故による死傷者数は、その使用・消費の増大に伴い、図5-19のとおり逐年増加している。
 警察では、これら危険物による災害事故を防止するため、関係機関と緊密に協力して、危険物運搬車両の取締り、危険物の不法貯蔵事犯その他関係法令違反の指導取締りを実施している。
ア 放射性同位元素の危険性
 放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)を使用する事業所は、医療、工業、農業等の各分野において逐年増加している。

図5-19 危険物事故発生状況(昭和45~49年)

 放射性同位元素は正しく取り扱う場合には、いろいろな分野に効果的に利用できる反面、これを誤って使用したり粗雑な取扱いをするときは、人体に障害や危険を招くこととなる。昭和49年には、これら使用事業所において、管理不徹底による放射線被ばく、紛失等の事犯が相次いで発生した。
 東京に本社があり、岡山県水島等に出張所をもつ検査会社で、18歳未満の少年数人を放射性同位元素を使って行う検査業務に従事させ、また、作業能率を上げるため、素手でイリジウム192を取り扱わせるなどにより、少年の手に放射線障害を負わせていた事犯を、被害少年の補導により認知して検挙した。これを契機に、使用事業所に対し、関係行政機関による立入検査が全国的に実施され、放射線管理の不備問題が改めてクローズアップされた。
 このほか、放射線の過剰被ばく事犯、放射性同位元素の無許可使用事犯、放射性同位元素により汚染された着衣のまま外出した事犯、放射性同位元素を紛失したのに事故届をせずに隠ぺいしていた事犯等が次々に発覚し、また、検査会社の元従業員らが、放射性同位元素格納庫からイリジウム192を1個(10キュリー)盗み出し、これを悪用して会社から1,000万円を脅し取ろうとした恐喝未遂事件が検挙されたことなどから、この種放射性物質の取扱いについて、新たな問題が提起された。
 警察が昭和49年に検挙したこの種事犯は、15件25人に上っている。
イ 危険物運搬中の事故の防止のために
 高圧ガス、石油類、毒物劇物等の流通消費量の増加に伴い、これら危険物の陸上運搬量も増加しており、運搬中の危険物による事故も依然として跡を絶たない状況である。近年この種危険物による大きな事故は発生していないが、これらの危険物はいったん爆発等の事故が発生したときは、周辺の人家等に多大な被害をもたらすことから、警察はこの種事故を防止するため、日常の活動を通じての指導取締りのほか、関係行政機関の協力を得て全国いっせい指導取締りを実施している。
 昭和49年は、11月に全国いっせい指導取締りを実施し、約1万3,000台の危険物運搬車両を検査し、うち2,303台について危険物運搬上の保安基準違反として検挙した。
ウ 増える一方のプロパンガス事故
 近年、プロパンガスの普及は目覚ましく、国民生活に不可欠の熱源とたっている。しかし、プロパンガスによる爆発火災、一酸化炭素中毒等の事故も逐年増加しており、図5-20のとおり、昭和49年には発生件数1,056件、死傷者数1,526人となっている。
 これらプロパンガス事故のうち、ほとんどは爆発火災事故であり、昭和49年は、発生件数876件、死者数83人、負傷者数1,253人となっている。最近の爆発火災事故は、アパート等の集合住宅で発生し、大きな被害をもたらすなど大規模化しているのが特徴である。
〔事例〕 集中供給方式をとっている鉄筋4階建て市営アパートにおいて、漏れていたプロパンガスが爆発し、同アパート居住者5人が死亡、20人が重軽傷を負い、建物にも大きな被害をもたらした(大阪)。
 警察では、この種事故を防止するため、関係行政機関等に対し、事故例、事故原因等を通報して行政施策等に資するとともに、一般消費者に対しても、事故例を基にプロパンガス消費上の知識及び安全な取扱いについて指導啓もうし、また、プロパンガス販売業者に対する指導を強化するとともに、法令違反についての取締りを実施している。

図5-20 消費場所におけるプロパンガス事故発生状況(昭和45~49年)

(5) 保健衛生事犯の取締り
 国民の生命や健康を侵害するおそれの強い各般の保健衛生関係法令に違反する事件の最近5年間の検挙状況は、図5-21のとおりで、増加の傾向にある。保健衛生関係法令に違反する事犯は、薬事関係、医事関係、食品衛生関係等に大別されるが、薬事関係事犯としては、いわゆる「にせ薬」や、不正な医療用具の製造販売事犯が依然として全国的に多発しており、特異な事犯としては、県有林で許容量を超えたヒ素を含有する鉱泉をくみ、これを万病に効能がある医薬品と称して全国に販売していた薬事法違反事件(山梨県)等があった。
 医事関係事犯としては、昭和45年から47年に多発しているいわゆる「にせ医師」事犯が、取締りの徹底等により減少傾向を示しているものの、暴力団から患者のあっ旋を受け長期間無免許で歯の治療をし暴利を得ていた歯科医師法違反事件(宮城県)、白衣(医師)に対する信頼を悪用し、白衣を着せた雑役夫に骨折患者のマッサージ等をさせ、逆に骨折させたあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律違反事件(栃木県)、イヤリングの販売拡張のため、耳たぶに穴をあけて装着し、異常出血等を与えた素人手術による医師法違反事件(神奈川県ほか)等の悪質事犯が跡を絶たない。

図5-21 保健衛生事犯検挙状況(昭和45~49年)

 食品衛生関係事犯は、チクロ使用事犯等が多発した昭和45年をピークに減少傾向を示しているが、基準に合わない牛乳を1年半にわたり大量に製造し、小中学校58校へ給食用牛乳として販売していた食品衛生法違反事件(愛知県)等が発生しており、新たに使用禁止とされたAF2をはじめ最近の食品添加物に関する法令違反等について更に監視を続ける必要がある。

3 風俗環境の悪化とその対策

(1) 多様化する享楽的営業の浄化
ア 変ぼうする風俗営業
 風俗営業等取締法により、都道府県公安委員会の許可を受けて営業しているバー、キャバレー、料理店、遊技場等の風俗営業の数は、表5-7のとおり、総体的には最近5年間横ばいの状況にある。

表5-7 風俗営業の数の推移(昭和45~49年)

 しかし、業種別の増減状況をみると、図5-22のとおり、増加の傾向にあるものと、逆に、減少の傾向にあるものとがある。

図5-22 風俗営業の業種別推移(昭和45~49年)

 遊技場以外の営業では、規模が大きく、かつ、享楽度が比較的高いキャバレー及びナイトクラブ営業が高い伸び率を示しているのに対し、バー、料理店、ダンスホール等の営業は漸減の傾向にある。
 一方、遊技場営業においては、射的場営業が漸減の傾向にあることと、スマートボール等の営業がやや減少の傾向を示しているものの、昭和49年末現在において遊技場営業全体の67.5%を占めているマージャン屋営業と25.7%を占めるパチンコ屋営業が毎年増加している。
 キャバレー営業の増加は、営業者がピンクムードを売り物に、かつ、時間制をとって料金も安くするなど、客層の大衆化をねらいとした商法をとっているため、客受けしていることと、大手の業者が首都圏を中心に地方の中小都市にチェーン店を進出させていることなどによるものとみられる。また、マージャン屋営業の増加は、マージャン人口の増加と設備投資、人件費等が比較的低康市で手軽に開業でき、しかも確実に収益が得られることなどによるものである。その背景には、社会一般の風潮としての「より享楽的なもの」、「より射幸的なもの」への志向が反映しているものと認められ、今後の推移が注目される。
 風俗営業は、このように社会一般の風潮を背景に徐々に変ぼうしているとともに、営業に伴う法令違反は跡を絶たない状況にあるので、警察は、風俗営業等取締法等の各種法令を多角的に活用して、間断なく強力な指導取締りを推進している。
 最近5年間におけるこれらの営業による違反の検挙状況は、表5-8のとおりである。
 なお、昭和49年中ににおける風俗営業による違反を態様別にみると、図5-23のとおりで、営業時間の制限違反が圧倒的に多いが、これに次いで年少者(18歳未満)を使用したり、年少者を客として立ち入らせるなどの年少者に関する制限違反が多いのは例年の傾向であり、少年の福祉の面からも問題がある。
 また、最近5年間に都道府県公安委員会が許可の取消し又は営業の停止の行政処分を行った状況は、表5-9のとおりである。

表5-8 風俗営業による違反の検挙状況(昭和45~49年)

図5-23 風俗営業による違反件数の態様別比率(昭和49年)

表5-9 風俗営業の行政処分状況(昭和45~49年)

イ 夜行族のたまり場として利用される深夜飲食店
 深夜飲食店営業(午後11時以降営業している飲食店営業)は、風俗犯罪や少年非行の温床となるおそれがあるところから、風俗営業等取締法によって、営業場所、営業時間、営業行為等の制限を受けているが、この種営業は依然として増加を続け、昭和49年末現在では、規制が強化された10年前の昭和39年当時の約3.5倍にまで達している。
 最近5年間における深夜飲食店営業の推移は、表5-10のとおりである。

表5-10 深夜飲食店営業の推移(昭和45~49年)

 深夜飲食店営業の前年との業態別比較は、表5-11のとおりであって、喫茶店、すし屋、食堂等の主として酒類以外の飲み物や食事を提供する営業は、前年に比べ4.4%の増加であるが、酒場等の主として酒類を提供する営業は9.9%の増加となっており、酒類以外のものを提供する営業よりも2倍以上の増加率となっている。
 なかでもいわゆるコンパ形式の「洋酒喫茶」等が33.5%、スナックバー、サパークラブ等が16.1%という高い増加率を示しており、これらが増加する夜行族の格好のたまり場となっている。
 このような深夜飲食店営業の増加は、いきおい営業者間の過当競争を招き、次第に享楽度の高い営業形態をとるものが増加し、必然的に違法営業を行う者が目立っているところから、警察は、善良の風俗保持及び少年非行防止の立場から、指導取締りを継続している。特に昭和49年は全国的に展開している盛り場モデル地域等の浄化活動に併せて徹底した取締りを行った結果、前年に比べ634件(11.3%)増の6,261件を検挙した。

表5-11 深夜飲食店営業の業態別比較(昭和48、49年)

 深夜飲食店営業の最近5年間の違反態様別検挙状況は、表5-12のとおりで、主として酒類を提供する営業は、午後12時以降営むことができないのに、これを無視したいわゆる時間外営業の違反の検挙が最も多く、キャバレー等の勤め帰りのホステスを雇い入れ、これに接待をさせて営業するなどの無許可風俗営業違反がこれに次いでいる。
 なお、特異な事例として、喫茶店主が、制限時間の午後11時以降、店を高校生らに開放し、勝手に飲食させ、遊ばせ、寝泊まりさせていたという事業もみられた。
 最近5年間の深夜飲食店営業者に対して都道府県公安委員会が行った営業停止処分の状況は、表5-13のとおりで、増加してきている。

表5-12 深夜飲食店営業の検挙件数(昭和45~49年)

表5-13 深夜飲食店営業の営業停止処分状況(昭和45~49年)

ウ 暴力のない盛り場を目指して
 キャバレー、バー、ソープランド等の享楽的な営業が集中している、いわゆる盛り場は、もともと暴力団の格好な資金源の場となっている。
 例えば、暴力団関係者が経営している風俗営業や深夜飲食店では、客の注文しない飲食物を提供するなどして法外な料金を請求したり、ホステスに売春をさせるなどして多額の収益をあげているものも少なくない。また、一般の営業者に対しては、用心棒料等の名目で毎月一定の金額を要求し、あるいは半ば強制的におしぼり、植木等を賃貸して収入源にしているものが多く、これらの傾向は、暴力団の資金源とみられる企業を舞台とする犯罪やと博、覚せい剤、ヤミ金融事犯等に対する取締りが強化されていることもあって、一段と顕著になってきている。
 このようなことから、とかく盛り場においては、その甘いみつの奪い合いをめぐって暴力団員による違法行為が繰り返され、更には暴力団同士による対立抗争事件にまで発展し、そのたびに市民生活を著しく脅かし、善良な地域環境を阻害する結果を招来している。
 そのため、盛り場から暴力団を締め出し、“市民が安心して楽しめる盛り場”を実現することをねらいとして、既にファミリータウン作戦のキャッチフレーズで大々的な浄化活動を推進してきた東京の新宿地区や、暴力排除のための総合施策の推進によって効果をあげてきた広島駅前地区等も含めて、比較的大規模な、しかも暴力団が深く食い込んでいると認められる地域について検討したうえ、図5-24に示すとおり、13都道府県内の26の地域を警察庁指定の「盛り場モデル地域」とし、これに各道府県警察がそれぞれの実情に応じて指定した73の地域を合わせた計99の地域を中心に、次の三つを重点に警察の総力を挙げて浄化作戦に取り組むこととした。
○ 盛り場等に寄生する暴力団に対する取締りの強化と暴力排除気運の高揚等による環境の浄化
○ 風俗関係営業に係る事犯及び少年の福祉を害する事犯の取締り
○ 交通取締りと交通規制の面からの環境浄化
 具体的には、これらの地域内における暴力団の動向、資金源活動等の実態を的確には握するための対策を進めるとともに、暴力団による暴力犯罪はもちろんのこと、資金源となっている売春、猥褻(わいせつ)、賭博等の風俗事犯や麻薬、覚せい剤事犯等の犯罪を強力に取締るほか、街頭等における小暴力事犯に対しても、これを見逃すことなく積極的な取締りを推進している。
 また、地域内の風俗営業や深夜飲食店営業等に対する視察を強化し、暴力団関係者が関与している事犯を重点に、無許可風俗営業、常習的時間外営業、強引な客引き等の悪質事犯及び18歳未満の少年を雇って、客の接待をさせ、あるいは深夜まで働かせるなどの少年の福祉を害する事犯の取締りに努めている。
 更に、交通の面においては、盛り場における一般歩行者の安全な通行はも

図5-24 盛り場モデル地域指定状況(昭和49年)

とより、緊急自動車の迅速な活動を確保し、更には、これらの地域に自動車が無制限に流入することによる車の通行をめぐるトラブル等の発生を防止する観点からの駐車禁止規制の強化や、一定の時間帯を限っての車の乗入れ禁止の措置等、交通規制の面からも環境浄化が進められてきている。
 この種施策を進めるに当たっては、地域ぐるみの暴力排除の気運を高める必要があることから、警察では、暴力団に対する国民一人一人の強い監視と取締りに対する協力を呼びかける一方、民間団体や職域防犯団体等に働きかけ、暴力排除組織の結成等を促進するとともに、環境浄化推進委員等を委嘱するなどして、幅広い活動を展開している。

 昭和49年4月から同年12月末までの間における警察庁及び道府県警察指定の「盛り場モデル地域」内の風俗関係事犯検挙状況は、表5-14のとおりである。そのうち風俗営業等取締法違反の検挙は、昭和49年中の全国における検挙件数9,764件の38.7%、検挙人員1万145人の38.9%に当たっており、また、売春防止法違反の検挙件数は、全国の4,344件の57.1%、検挙人員は、3,075人の67.5%を占めている。

表5-14 盛り場モデル地域における風俗関係事犯検挙状況(昭和49年4~12月)

(2) 性風俗の実態とその対策
ア 売春防止法に挑戦するソープランド
 ソープランド営業は、そこにおいて半ば公然と売春が行われ、一部の地域では、かつての赤線地域を思わせるような形態で営業が行われているとして、社会一般の批判を受けているが、その数は依然として増加を続けるとともに、警察の厳しい取締りにもかかわらず、営業内容も次第にエスカレートの一途をたどっている。
 しかし、昭和49年は、不況を反映しての入浴客の減少等の影響もあって、これまで営業所の増加とともに増加を続けてきたいわゆるソープランド従業員の数が、初めて減少したのが特徴的である。

 最近5年間のソープランド営業及びソープランド従業員の推移は、表5-15のとおりである。

表5-15 ソープランド営業及びソープランド従業員の推移(昭和45~49年)

 警察は、ソープランド営業に対しては、各種の関係法令を適用して、継続的な取締りを行うとともに、業界に対しては、ソープランド従業員の名簿提出の試みや講習会の開催等現状改善のための積極的な指導を行っている。
 また、ソープランド営業が公衆浴場法による規制を受けているところから、関係行政機関とも緊密な連絡を保ち、売春防止のための各種施策、例えば、個室の構造設備の改善のための条例制定を促すなどの措置を講じている。
 しかし、その現状は、一向に改善されず、むしろ悪質化の様相を呈しており、一部のソープランド業者のなかには、取締りを受けることを覚悟のうえで、あえて売春行為を繰り返し、売春防止法に挑戦的な姿勢を示す者さえみられるのが現状である。
 最近5年間におけるソープランド営業の売春関係事犯の検挙状況は、表5-16のとおりである。

表5-16 ソープランド営業における売春関係事犯の検挙状況(昭和45~49年)

イ 形を変える売春事犯
 最近5年間における売春防止法違反の検挙状況は、表5-17のとおりで、検挙件数、人員ともに減少の傾向を示しているが、事犯の内容をみると多様化、巧妙化の現象が顕著となっている。従来からみられるソープランドにおける売春、マッサージ業を偽装しての売春、バーのホステス等による売春のほか、外人女性による売春、女子高校生らによるグループ売春、団地の主婦による売春、あるいは会員制秘密クラブにおける売春等、新たな形態の売春事犯が増えつつある。しかも売春事犯は、年を経るごとにその手段方法も巧妙となり、組織的に敢行されるものも増えてきている。
 このような状況の下で、警察は、女子を管理して売春を行わせる事犯、暴力団の介入する事犯、未成年者に売春させる事犯等の悪質事犯を重点に強力な取締りを推進している。
〔事例1〕 外人女性による売春事犯
 暴力団員が韓国人、タイ国人等とそれぞれ結託して、外人女性を日本

表5-17 売春防止法違反検挙状況(昭和45~49年)

で働かせ、ひともうけしようと企て、タイ国等の外人女性を勧誘する者、これを日本向け観光ビザで同伴し又は送り出す者、日本においてこれを受け取りソープランド従業員やホステス等としてあっ旋する者と、それぞれ任務を分担して売春をさせていた事犯につき関係被疑者17人を検挙し、18人の外人女性を保護した(神奈川)。
〔事例2〕 女子高校生らによる売春事犯
 喫茶店代、洋服代等の小遣い銭欲しさから、売春に目をつけた女子高校生5人が、集団で家出後、観光地を転々と立ち回り、主として観光客を相手に売春していた事犯につき、これらの売春グループを操っていた周旋者等関係被疑者3人を検挙し、女子高校生を保護した(愛媛)。
〔事例3〕 主婦による売春事犯
 団地に住む暇を持て余した主婦、未亡人が、自ら売春をしていたほか、顔見知りの女好きの男たちから頼まれて多額の謝礼を目当てに、近隣に住む団地の主婦に「金持ちのだんなを世話する、毎月20万円位の小遣い銭が得られる。」などと勧誘し、白昼、ホテルで引き合わせるなどして売春をさせていた事犯につき、関係被疑者3人を検挙し、6人の主婦を保護した(愛知)。
〔事例4〕 会員制秘密クラブにおける売春事犯
 不動産会社の社長等が、ゴルフの会員制にヒントを得て、会員制の秘密社交クラブを設けて利益を得ようと企て、主としてゴルフ愛好者を対象に会員を募る一方、客の好みに合わせるため、いろいろな職業、年齢層の女性8人をホステスとして集め、同クラブを根城に売春をさせていた事犯につき、関係被疑者4人を検挙し、ホステスとして働いていた8人のデパート店員等を保護した(千葉)。
 昭和49年中における売春防止法違反の被疑者について、職業別にみると、図5-25のとおりである。

図5-25 売春防止法違反被疑者の職業別構成(昭和49年)

 次に昭和49年中に検挙した売春防止法違反事件に関係した売春婦の年齢構成をみると、図5-26のとおりであり、20歳未満の者が、236人(5.7%)もみられるのが注目される。

図5-26 売春婦の年齢構成(昭和49年)

 また、最近5年間に売春防止法違反で検挙した暴力団関係者の検挙人員は、表5-18のとおりであり、例年、売春のあっ旋、取り持ち等の周旋事犯が最も高い比率を占めており、客引き等の勧誘事犯、婦女を管理しての売春等がこれに次いでいる。

表5-18 暴力団関係者の検挙状況(昭和45~49年)

ウ わいせつ犯罪との闘い
 近年、我が国においては、欧米諸国における「性解放」の影響もあって性に対する国民の意識の上にも変化が見られるようになった。
 このような状況に便乗して、“性”を大胆露骨に描写した映画、出版物、広告物等がはん濫しているほか、劇場等で上演されるショーも一段と悪質化してきている。
 警察は、このような性風俗の乱れが社会一般の善良な風俗を害し、青少年に対し悪影響を与えている現状に歯止めをかけるため、性風俗に対する複雑な社会実態を注視しながら、悪質なものに対しては、これを看過することなく、的確な取締活動の推進に努めている。
 最近5年間におけるわいせつ犯罪の検挙状況は、表5-19のとおりである。

表5-19 わいせつ犯罪検挙状況(昭和45~49年)

 公然猥褻(わいせつ)で特に目に余るものは、ストリップ劇場及びヌードスタジオにおける公然わいせつ行為であって、その内容はますますエスカレートしている。
 なお、アメリカのフロリダ州立大学でその第1号が発生したストリーキング(全裸で公衆の面前を全力疾走すること。)が、昭和49年春には我が国にも出現し、各地への波及が危ぐされたが、機を失せぬ取締りと厳正な処罰によって一時の流行に終わった。月別の発生検挙状況は、図5-27のとおりであり、49件、87人のストリーキングが発生し、うち31件、51人を公然猥褻(わいせつ)で検挙している。

図5-27 ストリーキング月別発生検挙状況(昭和49年)

 一方、猥褻(わいせつ)物販売等の罪においては、暴力団や常習者等による組織的なブルーフィルム及びわいせつ写真等の製作販売事犯が、依然として跡を絶たず、広域かつ大規模化の傾向にある。
〔事例1〕 地下秘密工場におけるブルーフィルム製作販売事犯
 暴力団の幹部を首領とする製作グループが、地下秘密工場を数箇所設定し、拠点を転々と変えながらブルーフィルム7万1,700巻を製作販売していた事犯につき、暴力団員60人を含む関係被疑者140人を検挙するとともに、ブルーフィルム3,478巻、トラック一杯の製作資器材等を押収した(愛知)。
〔事例2〕 住宅等におけるブルーフィルム製作販売事犯
 暴力団の幹部らが、店舗付化宅等5箇所をブルーフィルムの製作アジトとして設定し、航空便を利用して全国的な規模にわたって販売していた事犯につき、関係被疑者16人を検挙、ブルーフィルム1,123巻、現像資器材等2,722点を押収した(大阪)。
 なお、ブルーフィルム等のわいせつ物は、海外で比較的容易に入手できるところから、海外旅行者や船員による密輸入事犯が目立っているほか、最近では、事業拡張や借金返済等に充てる資金をねん出するため大量に密輸入するという特異なケースも見受けられる。
 昭和49年中におけるこれら密輸入事犯は181件で、前年に比べ85件の増加となっている。
 わいせつ物の入手先は、アメリカが最も多く、全体の約半数を占めており、スウェーデン、デンマーク、香港、台湾等がこれに次いでいる。
 密輸入の手段としては、ブルーフィルム等をチョコレートやキャンデー等と偽って、携帯又は郵送等の方法で密輸入するものがほとんどであって、国内では、買入れ価格の3~6倍の値段で密売して暴利を得ているのが実態である。
〔事例1〕 事業拡張資金を獲得するための密輸入販売事犯
 飲食店経営者が、事業拡張に要する資金をねん出するために、外国製ブルーフィルムの密輸入に目をつけ、前後12回にわたって、ハワイのホノルル市内でブルーフィルム430巻、ポルノ写真集140冊を買い、チョコレート等と偽って密輸入した後、全国に販売していた事犯につき、関係被疑者38人を検挙し、フィルム390巻、写真集140冊を押収した(山形)。
〔事例2〕 会社再建の資金を獲得するための密輸入販売事犯
 倒産した会社の社長が、借財の返済と会社再建に要する資金をねん出するために、ブルーフィルムの密売を企て、ロサンゼルスにおいてブルーフィルム500巻、ポルノ写真182枚を買い集め、キャンデー、塗料等と偽って密輸入した後、ゴルフ仲間等に販売していた事犯につき、関係被疑者10人を検挙し、フィルム446巻、写真182枚を押収した(警視庁)。
 特に、わいせつ事犯においては、暴力団関係者が組織の資金源を得るため、ブルーフィルム等の製作販売事犯をはじめヌードスタジオ等において悪質な公然猥褻(わいせつ)事犯を敢行しており、その状況は表5-20のとおりである。

表5-20 わいせつ犯罪における暴力団員の検挙状況(昭和45~49年)

 昭和49年中、これらわいせつ物の製作、密輸入及び販売事犯の取締りによって押収したわいせつ物は、図5-28のとおりである。

図5-28 押収したわいせつ物の状況(昭和49年)

(3) ギャンブル犯罪への対応
ア 街にはびこるギャンブルマシン
 年ごとに高まるギャンブル熱を反映して、従来は喫茶店、スナック等の片すみにひっそりと置かれていたスロットマシン、ビンゴ、ロタミント等のギャンブルマシンが、最近では、急増を続けているゲームセンター等に堂々と並べられ、一部の地域では、街の菓子屋の店先にまで置かれるといった状況である。また、ルーレット等の大型ギャンブルマシンを設置した遊技場も次第に増加の傾向にある。



 そしてこれらの営業所においては、直接現金をかけて遊技をさせるものや、遊技客が取得した景品メダル等を換金するなど、と博行為が目立ってきている。
 しかも、この種営業に暴力団が目をつけ、自らゲームセンターやリース業を経営し、あるいは独立したメダル等の換金組織をつくるなどして資金源の拡張を図っている傾向がみられる。また、少年がこれらの営業所に出入りしてと博行為を行い、その費用をねん出するために窃盗等の非行に走る状況もみられ、善良の風俗秩序を保持するうえからはもちろん、暴力団対策及び青少年の健全育成上からも看過できない現況にある。
 警察は、このような状況に対処するため、関係部門の緊密な連携の下に計画的な取締りを継続して推進しており、ギャンブルマシンによると博事犯の検挙は、表5-21にみられるとおり、毎年大幅に増加するとともに、賭博の検挙総数に占める比率も年ごとに高くなってきている。

表5-21 ギャンブルマシンによると博事犯検挙状況(昭和47~49年)

 また、昭和49年中にギャンブルマシンを使用したと博事犯で検挙した営業所の状況は、図5-29のとおりで、喫茶店とスナックで全体の77.2%を占めている。
 次に、昭和49年中に賭博の証拠品として押収したギャンブルマシンは1,649台で、前年に比べ481台(41.3%)の増加となっている。
 なお、同年中に押収したと金総額は、6,118万円となっている。

図5-29 ギャンブルマシンを使用したと博事犯で検挙した営業所数(昭和49年)

イ 増加するノミ行為
 競馬、競輪、競艇及びオートレースの公営競技は、ここ数年間、ファン層も大幅に拡大し、全般的には、逐次大衆レジャーへと変化しつつあるといえる。
 このような公営競技の大衆化を背景に、健全な競技環境を阻害するノミ行為は図5-30のとおり、年々増加してきている。
 ノミ行為は、暴力団にとって格好の資金源となっており、暴力団の組織的介入がみられるだけに、その取締りは、暴力団対策のうえで重要な施策の一つとなっている。
 また、不況を反映してか、中小企業経営者、商店主等暴力団以外の一般の人が一獲千金をねらって、ノミ行為の主催者になるケースも目立っている。
 警察では、ノミ行為特別取締班の編成等体制を強化し、集中的取締りを反復するとともに、公営競技施行者等の関係機関団体とのノミ行為防止対策連絡会議等を開催し、公営競技場内のノミ行為の絶滅を図るための自衛警備体制の強化、監視用テレビカメラの設置等を促している。

図5-30 ノミ行為検挙状況(昭和46~49年)

 一方、公営競技をめぐる各種犯罪及び事故の防止についても、関係者と連絡会議等を開催しその防止に努めているが、いわゆる八百長事犯等競技の公正を害する不正行為は依然として跡を絶たず、最近5年間における検挙状況は、表5-22のとおりである。

表5-22 八百長競技等検挙状況(昭和45~49年)

4 麻薬・覚せい剤犯罪とその対策

(1) 麻薬犯罪の取締リ
ア 麻薬犯罪の情勢
 我が国で乱用されている麻薬は、ヘロイン、LSD及び大麻(マリファナ)が中心となってイる。
 昭和49年中の麻薬別検挙人員、押収量は、表5-23のとおりであり、大麻が最も多く、次いでヘロイン、LSDの順となっている。

表5-23 麻薬別検挙人員・押収量(昭和49年)

 ヘロインは、医療麻薬として利用価値のあるモルヒネから精製されるものであるが、禁断症状が極めて強く、いったん中毒に陥ると全く自己抑制の力を失ってしまい、ただヘロインの入手と使用だけの生活になり、ついには生けるしかばねとなってしまうこともある恐ろしい麻薬であることから、我が国では輸入、製造はもちろん、譲渡、譲受、所持等一切が禁止されている。
 ヘロイン事犯が最も多かったのは、昭和30年代の後半であったが、官民挙げての麻薬撲滅運動と警察の強力な取締りにより急激な減少を示し、昭和41年以降はほぼ根絶に近い状態で推移していた。しかしながら世界的な薬物乱用の風潮や海外旅行者の急増等の影響を受けて、昭和47年から再び増加の傾向を示し、49年に至りわずかに減少をみせているものの、なお楽観を許さないものがある。
 最近5年間におけるヘロイン事犯の推移は、図5-31のとおりである。
〔事例〕 日本滞在中のネパール人旅行者が、情を知らない第三者に携帯させて大量のヘロインを香港から密輸入し、都内の暴力団組織を通じて

図5-31 ヘロイン事犯検挙人員の推移(昭和45~49年)

密売しようとしていた事犯で、ヘロイン1,718グラムを押収した(警視庁、神奈川)。
 LSDは、麦角という菌をもとにして合成された代表的な幻覚型麻薬であり、我が国では主として米軍人やヒッピーの間で乱用されているが、これらは全て密輸入されたものである。
 最近5年間のLSD事犯の検挙状況は、表5-24のとおりであり、昭和49年はLSDが麻薬に指定された45年以来最も多い検挙人員となっているが、反面、押収量は急減している。検挙人員が増加したのは、LSDパーティー等グループによる乱用事犯を検挙したためであり、押収量の急減は水際検挙を重点とした取締りの強化により、我が国に対するLSDの密輸ルートに大きな打撃を与えたためであると思われる。

表5-24 LSD事犯の検挙状況(昭和45~49年)

〔事例1〕 在日米軍人が、本国の友人から小包郵便でLSD503錠を送付させて密売していた(山口)。
〔事例2〕 沖縄県に居住する会社員が、観光旅行先のアメリカでLSD202錠を入手し、郵送して密売しようとしていた(沖縄)。
 大麻は、繊維採取の目的で世界各国で栽培されているほか、山野にも自生している大麻草及びこれから採れる乾燥大麻や大麻樹脂等の総称であるが、これを用いると視覚、聴覚や思考、気分に大きな変化を生じ、一種の精神障害を誘発する幻覚剤である。したがって、麻薬に関する国際条約の中にも取り上げられており、多くの国で規制の対象となっている。
昭和41年以降の大麻事犯検挙状況は、図5-32のとおりである。

図5-32 大麻事犯検挙人員の推移(昭和45~49年)

〔事例〕 観光目的で日本に入国した外国人旅行者らが、航空機を利用してタイから大量の大麻を携帯密輸入し、密売していた事犯で、大麻2,610グラムを押収し、関係者8人を検挙した(神奈川)。
イ 密輸入事犯の水際検挙
 我が国で乱用される麻薬のほとんどは、海外から密輸入されているものである。
 麻薬の密輸入は、横浜港、神戸港、東京国際空港をはじめ全国各地の開港地から、船舶、航空機を利用してひそかに行われるものが多いが、最近においては、外国郵便物を利用した密輸入も増加の傾向をみせている。このようにして我が国に密輸入された麻薬は、密売ルートに乗って国民の中に浸透していくのであるが、麻薬禍を防止するためには、我が国に入ってくる段階、すなわち水際で捕そくし検挙することが必要であって、警察では税関等関係機関と協力して「水際検挙」に努めている。
 昭和49年中に、警察で押収した麻薬のうち水際検挙による麻薬の押収量は図5-33のとおりであり、押収量の大部分が密輸入後間もなく捕そくされたものである。
〔事例1〕 外国貨物船の船員がインドで生あへん1キログラム、大麻1キログラムを買い入れ、神戸港から我が国に持ち込んで密売しようとしていたところを、外国船に食料品等を販売している業者からの通報で検挙した(兵庫)。
〔事例2〕 横浜に住む印刷工が、旅行先のタイから友人あてに小包郵便で大麻7,730グラムを送付し、横浜中央郵便局に受け取りに来たところを検挙した(神奈川)。

図5-33 水際検挙による麻薬の押収量(昭和49年)

ウ 青少年層によるマリファナ乱用
 昭和49年中に大麻事犯で検挙された者の年齢構成は、図5-34のとおりであって25歳未満の青少年層が大半を占めている。大麻の乱用は、ヒッピー族のほか、大学生、高校生、店員等の一般青少年にまで及んでおり、その形態は、大麻草の葉や花穂を乾燥したいわゆるマリファナをグループで吸煙するマリファナパーティーが中心である。乱用されるマリファナは密輸入されるもののほか、国内の山野に自生する野生大麻の採取によるものも増加しており、警察と しては、グループの解明と取締りを強化しているところである。

図5-34 大麻事犯年齢別検挙人員(昭和49年)

〔事例〕 横浜の大学生グループが、北海道から大量の野生大麻を採取してきて、マリファナパーティーを繰り返していた事犯で、7,625グラムの大麻を押収し、グループ16人を検挙した(神奈川)。
エ 麻薬犯罪取締りセミナー
 麻薬犯罪取締りセミナーは、ヘロイン事犯が横行した昭和37年に、コロンボ計画の一環として、警察庁と海外技術協力事業団(現在の国際協力事業団)の共催により、東京において開かれた「第1回東南アジア麻薬犯罪取締りセミナー」がその始まりである。このときは、インド等の東南アジア6箇国から8人の麻薬犯罪捜査担当警察官の参加を得て、麻薬犯罪に関する情報交換、相互理解による積極的協力関係の保持及び捜査技術の向上を図った。
 以来毎年1回同様のセミナーを東京において開催しているが、昭和49年には第13回目のセミナーが開かれ、正式参加17箇国19人、オブザーバー3箇国3人の計20箇国22人が参加した。
(2) 潜在化した覚せい剤犯罪
ア 覚せい剤犯罪の情勢
 最近5年間における覚せい剤犯罪の検挙人員の推移は、図5-35のとおりである。
 昭和45年以降、毎年倍増に近い勢いで急激に増加していた覚せい剤犯罪は、48年からとられた諸対策、すなわち警察庁長官通達による覚せい剤犯罪取締りの強化徹底、政府の薬物乱用対策推進本部を中心とした関係各機関の覚せい剤乱用防止対策、覚せい剤取締法の罰則強化等が奏功し、49年中には検挙人員5,919人とその増加傾向に一応の歯止めをかけることができた。
 しかしながら、覚せい剤の密輸入や暴力団による密売事犯は根強く、取引、運搬、隠匿の手段方法がますます巧妙となり、一層潜在化しているうえ、覚せい剤中毒者の幻覚、被害もう想等による殺人、放火等の悲惨な事件も多く、覚せい剤の根絶にはまだ程遠い感を免れない。
 覚せい剤及び同原料の押収状況は表5-25のとおりで、昭和49年には覚せ

図5-35 覚せい剤犯罪検挙人員の推移(昭和45~49年)

い剤23,200グラム、同原料81,700グラムを押収したが、前年に比べて覚せい剤が31.8%減少したのに対し、同原料は5倍にも増加した。これは、覚せい剤取締法の改正によって国内における覚せい剤原料の譲渡、譲受の規制が従来より一層厳しくなったため、原料を国外から密輸入しようとした事犯等を水際で検挙したことによるものである。

表5-25 覚せい剤、同原料の押収状況(昭和45~49年)

〔事例1〕 暴力団幹部が、覚せい剤を使用しているうちに強度の中毒に陥り、被害もう想、幻覚がこうじて、所持していたあいくちで妻や仲間の暴力団員を所構わず突き刺し、アパートの自室にガソリンをまき散らしたうえ放火して、2人を死亡させ、3人に重傷を与えた(京都)。
〔事例2〕 下関在住の無職の男が、覚せい剤を乱用したことから精神錯乱となり、市内の飲食店で飲酒中、隣席の客から危害を加えられるとのもう想にかられ、やにわに自分の座っていたいすを振り上げて、客の頭部を数回殴打し、3箇月の重傷を負わせた(山口)。
イ 根強い暴力団の密売組織
 覚せい剤犯罪の検挙人員中に占める暴力団員又はそれに準ずる者の割合は、表5-26のとおり毎年高い比率となっている。昭和49年に検挙された者のうち62.8%が暴力団員等によって占められており、残りの大部分も暴力団となんらかのつながりを持つ者であった。

表5-26 覚せい剤犯罪による暴力団員等の検挙状況(昭和45~49年)

 暴力団が覚せい剤に手を出す理由としては、その密売利益がばく大であること、麻薬の場合に比べて使用者等に罪悪感が少ないことなどが挙げられる。ちなみに、密売利益の点では、覚せい剤1グラムの値段が仕入れ価格で5,000~6,000円であるのに対し、末端密売価格が20~40万円にもなっている。
 また、素人に密売する際に、眠気覚ましの薬、疲れをとる薬、やせ薬等と称して売り込む者があるため、初めての者も比較的安易にその誘いにのって使用を始め、それが度重なるうちに次第に深みにはまってしまうという例が多い。
〔事例1〕 京都市内に勢力を有する暴力団組長の内妻が、組の活動資金の確保と勢力の拡大を図るために覚せい剤の密輸密売を企て、配下の組員や一獲千金を夢みた鉄筋業者等6人を運び屋に仕立て、香港から航空機で5回にわたり覚せい剤5キログラム、同原料2キログラムを密輸入し、これを関西一円に密売してばく大な利益をあげていた(京都)。
〔事例2〕 名古屋市内に勢力を有する暴力団幹部が、組の活動資金を得る目的で関西方面から多量の覚せい剤を仕入れ、これを配下の組員を使って「患者回り」と称し、キャバレーのホステス、バーテン、家庭の主婦等の常用者宅を訪問させて密売したり、注射(1回の代金5,000円)を行ったりして販路を拡大し、大きな利益をあげていた(愛知)。
ウ 跡を絶たない密輸入
 覚せい剤及び同原料の密輸入犯罪の検挙人員の状況は図5-36のとおり、昭和45年以降逐年増加していたが、49年には前年に比べて減少した。

図5-36 覚せい剤、同原料密輸入犯罪検挙人員の状況(昭和45~49年)

 しかしながら、警察で検挙した密輸入被疑者の自供等から判明しただけでも、昭和49年中に約50キログラムの覚せい剤及び約82キログラムの覚せい剤原料が、我が国に密輸入されていたことが明らかになっている。このほかに、警察で認知していないものも相当あると見込まれることから、検挙数が減少しているとはいえ、かなりの量の覚せい剤原料が依然として我が国に持ち込まれているものと思われる。特異な事例としては、不況の影響から事業資金を得ようとして、会社幹部が覚せい剤の密輸入を行った事犯の検挙が注目される。
 検挙事例からみた場合、覚せい剤は韓国、香港から、覚せい剤原料は香港、台湾、タイから持ち込まれる例が多い。密輸入の手段方法も、例えば大阪国際空港から出国して福岡空港へ入国するなど出国地と入国地を違えたり、一般の旅行者に国内持込みを依頼したり、土産物に仮装して覚せい剤を隠匿するなど次等に巧妙になってきている。
 このような密輸入を封圧するため、警察では、麻薬の場合と同様に水際検挙に努めており、図5-37のとおり昭和49年には、覚せい剤押収量の49.7%、覚せい剤原料押収量の86.8%を水際検挙により押収している。

図5-37 覚せい剤、同原料の水際検挙による押収状況(昭和49年)

〔事例1〕 東京都内の貿易会社役員が、大型トランク2個に覚せい剤原料を入れ、香港から航空機で密輸入した事犯を東京国際空港で検挙し、同原料50キログラムを押収した(警視庁)。
〔事例2〕 大阪在住の元不動産ブローカーが、仲間6人と共謀して、19回にわたり覚せい剤26キログラムを腹に巻いたり、トラの置き物の中に隠したりして、航空機で韓国から大阪、福岡空港に密輸入した事犯を検挙した(大阪)。
エ 密造増加の兆し
 覚せい剤の供給源については、昭和44年ごろまでは国内における密造が中心であったが、その後図5-38のとおり、47年ごろから逆に国外からの密輸入に依存する割合が高くなってきた。しかし、最近国内における密造が再び増加し始めており、その動向は、十分警戒を要するものとなっている。特に従来の覚せい剤密造事犯は、密造前歴者や化学的知識を有する薬品会社職員等によって行われていたが、最近では暴力団自身が薬学書等を購入して製造方法を研究し、覚せい剤を密造しようとする傾向等がみられる。このような覚せい剤密造に用いられる原料は、密輸入されたもののほか、国内の薬品会社、薬局等から横流しされたものもあった。

図5-38 覚せい剤密輸入、密造事犯検挙人員の推移(昭和45~49年)

〔事例1〕 足利市内に勢力を有する暴力団組長が、配下の組員や元製薬会社の職員等を使って、薬局等から覚せい剤原料やそれを含んでいるかぜ薬を大量に買い集め、民家の作業小屋に「公害防止技術センター」の看板を掲げて巧妙に偽装し、昭和48年3月から49年4月までの間に覚せい剤5,300グラム、同原料2,500グラムを密造し、これを東日本一帯の暴力団仲間に密売し、5億円の利益をあげていた(栃木)。
〔事例2〕 覚せい剤の密売、使用の常習者である暴力団員が、ギャンブ ルによる多額の借金の返済と組織における自己の地位の強化のために覚せい剤の密造を企図し、薬局等から覚せい剤原料を買い求め、薬学書を頼りに自宅において密造しようとしていた(兵庫)。

5 経済関係事犯の取締り

(1) 増加した金融事犯
ア 7割が高金利事犯
 昭和49年中における金融事犯の検挙状況は、図5-39のとおり703件、634人で、件数、人員ともに最近5年間で最も多く、前年に比べ件数で179件(34.2%)、人員で192人(43.4%)増加した。
 これは、不況を反映して高金利事犯、預り金事犯等の「出資等取締法」(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律)違反が多発したことによるものである。

図5-39 金融事犯検挙状況(昭和45~49年)

 金融事犯の態様別では、図5-40のとおり高金利事犯が493件と全体の約7割を占めており、次いで、無届貸金業事犯、頼母子講事犯(相互銀行法違反)、預り金事犯の順になっている。高金利事犯のなかには、10日に5割といった極端な高利をとるもの、利息の取立てをめぐり不法監禁、傷害、恐喝等の犯行に及ぶもの、表向きの利息は「出資等取締法」で定める1日当たり0.3%以下にしておきながらそれ以外に手数料、調査料、書類代等を払わせて実質的に高利を得るものなど、悪質巧妙な事犯が多い。

図5-40 金融事犯態様別検挙状況

イ 「ねずみ講」事犯の検挙
 インフレ下において有利な投資及び利殖方法を求める風潮につけ込み、「入会金22万円を納付し、子会員3人を確保すれば540万円のマイホームが実現する。」、「1口5万円の出資金を出せば無条件で3箇月後に24万円を交付する。」などと宣伝して会員を募り、次々とねずみ算式に会員を増やして多額の金銭を集めるいわゆる「ねずみ講」が全国的に広がり、警察では握したものだけでも49組織に達した。警察としては、これらの「ねずみ講による被害の未然防止、拡大抑止のため、講主宰者、加入者に対する指導、警告を行ったほか、北海道、秋田、熊本の3道県警察において「出資等取締法」第2条(預り金の禁止)に違反する4組織につき2法人10人を検挙した。「ねずみ講」事犯は、一般に規模が大きく、検挙した4組織についてみても、加入人員約3万1,000人、預り金総額約132億円に上っている。
(2) 不況下の不動産事犯
 最近5年間の主な不動産関係事犯は、図5-41のとおりである。
 昭和49年中における不動産関係事犯は、前年に比べ大きく減少しており、これは、総需要抑制政策の浸透による農地の転用、土地取引の減少等を反映したものと思われる。
 従来、不動産関係事犯の取締りについては、市民の生活に重大な影響を及ぼす宅地建物取引業法違反を重点として取り締まってきたが、昭和49年中に

図5-41 不動産関係事犯検挙状況(昭和45~49年)

おける不動産関係事犯のうち、宅地建物取引業法違反の検挙は635件で、全体の52.9%を占めた。その主な態様は図5-42のとおりである。

図5-42 宅地建物取引業法違反態様別検挙状況(昭和49年)

 これによれば、依然モグリ業者による無免許営業違反が多いが、昭和49年の特徴として、不動産業界全般の不況を反映した悪質な事犯が目立った。
〔事例1〕 資金繰りに苦しむ不動産業者が、誇大広告で顧客を誘引し、 根抵当権等の設定されているいわゆるキズもの物件を、その事実を秘して販売した後倒産した事犯により2法人、14人を検挙(兵庫)。
〔事例2〕 温泉を給湯できる見込みが全くないのに、付近に有名な温泉地が多いことから「温泉付き別荘地」との誇大広告により、傾斜地で家が建てられないような粗悪地を分譲販売した事犯により1法人、25人を検挙(群馬)。
 その他の法令違反では、農地法違反の検挙件数は減少したものの、大規模な宅地造成やゴルフ場建設を目的とした土地の買収、開発に伴って、農地や採草放牧地を無許可で売買、転用する事犯、市街化調整区域を許可なく宅地造成した都市計画法違反等の事犯の検挙が目立った。
(3) 密貿易事犯の取締リ
ア 密貿易事犯の検挙状況
 警察は、税関等関係機関との協力の下に、暴力団や密輸ブローカー等による組織的な密輸入事犯、貿易業者による計画的な不正貿易事犯等悪質事犯を重点として、密貿易事犯の取締りに当たっている。
 最近5年間の密貿易事犯の検挙状況は、表5-27のとおりで密貿易事犯の検挙件数は漸減の傾向を示している。

表5-27 密貿易事犯の検挙状況(昭和45~49年)

イ 貿易手続きをめぐる不正事犯
 貿易業者が、輸入に当たって、関税を免れるため輸入品の数量や価格を偽って申告したり、輸出に当たって、相手側の貿易業者に不当な利益を得させるため数量や価格を低く申告して、その差額は別に不正決済するものなど、貿易手続きをめぐる不正事犯が多発している。昭和49年中には、このような事犯で大手総合商社を含む13業者、329件を検挙した。
〔事例〕 貿易会社が、電気製品、自動車等を北朝鮮に輸出しその見返りとして海産物を輸入していたが、輸出制限価格を超えて輸出することをあらかじめ北朝鮮業者と話し合って輸出貨物代金を実際よりも低く申告して、この差額決済のために、海産物を輸入する際に白紙送り状を送付させて輸入品を低価に虚偽申告するといった不正を繰り返し、関税約2,800万円を免れていた(福岡)。
ウ 高級腕時計や宝石等の密輸入事犯
 昭和49年中における密輸入品の総額を品目別にみると、図5-43のとおり時計、宝飾品類が全体の約50%を占めている。

図5-43 密輸入品品目別状況(昭和49年)

 外国製高級腕時計や宝石等の密輸入は、ほとんどが香港や台湾方面からのものである。従来は海外旅行者によるいわゆる“お土産密輸”が多かったが、昭和49年中は香港や台湾の時計宝石商等が密輸グループを作り、計画的に大量密輸入する事犯が多発した。これは、日本人観光旅行者が香港や台湾で高級腕時計等を買いあさるため、日本に持ち込めば高価に売れるという印象を現地商人に与えたことも要因となっている。
〔事例1〕 香港の宝石商等密輸グループが観光旅行を装って度々来日し、その都度大量の高級腕時計等をスーツケースや腹巻の中等に隠し持って密輸入し、合計101点(約2千万円相当)をホテル等を舞台にして国内のブローカーや、かつて香港で彼らが旅行案内をして知り合いとなっていた日本人等を通じて売りさばいていた(愛知)。
 密輸腕時計は、いずれもスイス製等有名メーカーの高級品として1個数十万円で売られているが、2~3万円の価値しかない全くの偽物であるというケースも多い。
 その他、はく製業者が、国際保護鳥とされていて輸入できない極楽鳥を大量に密輸入した事犯や、外航船乗組員等が象牙製品等を関税を免れて輸入するなど、高級室内装飾品の密輸入事犯がみられた。
〔事例〕 はく製品の輸入販売業者が、極楽鳥が国際保護鳥とされていて、一般には輸入できず、高価に売れるところから、インドネシアにはく製工場を設け、現地人が密猟したものを1羽当たり1万円程度で買い入れ、トラのはく製の中に隠すなどの方法で108羽を密輸入し、国内の愛好家等に1羽当たり数十万円で売りさばいていた(神奈川)。


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