第4章 少年の補導・保護

1 少年の非行と補導

(1) 少年非行の現況
ア 少年非行の発生状況
 昭和49年中に警察において補導(注1)した非行少年(注2)の数は表4-1のとおりである。

表4-1 非行少年の補導数(昭和49年)

(注1) 補導活動とは、非行少年等を発見し、発見した非行少年について、捜査又は調査を行い、家庭裁判所、検察官、児竜相談所等に送致又は通告し、あるいは家庭、学校、職場等へ連絡、注意、助言するなど少年について適切な処遇を行う活動をいう。
(注2) 非行少年とは、少年法第3条第1項に規定されている少年であり、次のものをいう。
 犯罪少年…罪を犯した14歳以上20歳未満の者
 触法少年…刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者(刑法第41条の規定により、刑事責任はない。)
 ぐ犯少年…性格、行状等から判断して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者
(ア) 犯罪少年
a 刑法犯
(a) 補導人員と人口比
 刑法犯を犯して補導された少年(以下「刑法犯少年」という。)と検挙された成人(以下「成人犯罪者」という。)のそれぞれの人員と人口比(注1)の最近5年間の推移をみたものが図4-1である。

図4一1 刑法犯少年及び成人犯罪者の人員と人口比の推移(昭和45~49年)

 昭和49年中の刑法犯少年は前年に続いて増加し、6.7%(7,242人)の増加率をみせている。14歳以上20歳未満の少年人口は、昭和49年は約951万人(注2)であり、前年よりやや減少している。したがって、刑法犯少年の人口比は増加して12.1人となり、成人犯罪者の人口比3.3人を大きく上回っている。なお、図4-2は、戦後における主要刑法犯(凶悪犯、粗暴犯、窃盗、知能犯、風俗犯をいう。)少年の人員及び人口比の推移をみたものであるが、昭和49年は11.6人と、26年の12.1人、39年の12.0人に次ぐ高い数値になっている。
 昭和49年中の成人を含めた全刑法犯検挙人員(36万3,309人)の中に占める少年の割合は31.7%となり、前年の30.1%を上回った。

図4-2 主要刑法犯少年の人員及び人口比の推移(昭和24~49年)



(注1) 本章中、人口比とは同年齢層の人口の1,000人当たりの数である。
(注2) 人口は、昭和49年10月厚生省人口問題研究所推計による。

(b) 罪種別
 昭和49年中の刑法犯少年の罪種別構成は、図4-3のとおりで、窃盗が73.7%を占め、前年の72.2%を更に上回り、粗暴犯の16.8%がこれに次いでいる。図4-4に示す成人犯罪者の罪種別構成と比べると窃盗の占める割合が著しく高いことが分かる。
 罪種別補導人員を前年と比べると窃盗、知能犯、その他の刑法犯が増加

図4-3 刑法犯少年の罪種別構成比(昭和49年)

図4-4 成人犯罪者の罪種別構成比(昭和49年)

し、他は減少している。
 凶悪犯(殺人、強盗、放火、強姦をいう。)で補導された少年(以下「凶悪犯少年」という。)の人員と人口比の推移は、図4-5のとおりいずれも最近5年間著しい減少を示しており、昭和49年の人員は45年を100とすると65.2にすぎない。

図4-5 凶悪犯少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

 粗暴犯(暴行、傷害、恐喝、脅迫をいう。)で補導された少年(以下「粗暴犯少年」という。)の人員と人口比の推移は、図4-6のとおり昭和47年以降、ほぼ横ばいを続けている。
 窃盗で補導された少年(以下「窃盗少年」という。)の最近5年間の人員と人口比の推移は、図4-7のとおりで、昭和49年の窃盗少年は8万5,068人で前年と比べ8.9%(6,920人)増加し、刑法犯少年の増加数(7,242人)の約96%を占めている。
 知能犯(詐欺、横領をいう。)で補導された少年(以下「知能犯少年」という。)の人員と人口比の最近5年間における推移は、図4-8のとおりで、増加傾向がみられる。これは主として放置されている自転車等を勝手に乗り回す事案が増えているためであり、これが遺失物横領として取扱われていることによるものである。

図4-6 粗暴犯少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

図4-7 窃盗少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

図4-8 知能犯少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

 風俗犯(賭博、猥褻(わいせつ)をいう。)で補導された少年(以下「風俗犯少年」という。)の人員と人口比の最近5年間における推移は、図4-9のとおりで、毎年減少傾向をたどっている。

図4-9 風俗犯少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

(c) 年齢別
 刑法犯少年人員の年齢別構成は、図4-10のとおりで、15歳の少年が全体の22.3%を占め最も多く、前年の20.7%を更に上回り、次いで16歳の少年の 20.5%となっていいる。年齢別の補導人員を前年と比べると、昭和49年は19歳を除く各年齢において増加しているが、特に15・16歳の少年はそれぞれ14.9%、11.7%と著しい増加をみせている。刑法犯少年の人口比の年齢層別の推移をみたものが図4-11であるが、昭和49年は16・17歳の中間少年のそれが大幅に上昇している。主要刑法犯について年齢別構成をみると図4-12のとおり凶悪犯では18・19歳の年長少年がその半数を占めているのに対し、窃盗では年少少年が半数近くを占めている。

図4-10 刑法犯少年の年齢別構成比(昭和49年)

図4-11 刑法犯少年年齢層別人口比の推移(昭和45~49年)

図4-12 主要刑法犯少年の年齢層別構成比(昭和49年)

(d) 学職別
 刑法犯少年人員の学職別構成は図4-13のとおりで、高校生が全体の36.4%を占めて最も多く、前年の33.2%を更に上回り、次いで中学生の30.2%となっている。学職別の補導人員を前年と比べると、有職少年を除き増加しているが、特に高校生は17.8%と著しい増加をみせている。主要刑法犯について学職別構成をみると、図4-14のとおりで、凶悪犯では有職、無職少年が過半数を占め、窃盗では学生・生徒が圧倒的に多くなっている。

図4-13 刑法犯少年学職別構成比(昭和49年)

b 特別法犯
 特別法犯で補導された少年(以下「特別法犯少年」という。)の最近5年間の人員の推移は、図4-15のとおりで、昭和49年は1万4,199人で前年に比べ10.9%(1,393人)増加している。これはシンナー等の乱用行為(毒物及び劇物取締法違反)が増加したことが主な原因である。特別法犯少年の法令別の構成は、図4-16のとおりで、毒物及び劇物取締法違反が46.2%で最も多

図4-14 主要刑法犯少年学職別構成比(昭和49年)

く、前年の32.1%を大幅に上回り、銃砲刀剣類所持等取締法違反が6.8%とこれに次いでいる。

図4-15 特別法犯少年の推移(昭和45~49年)

図4-16 特別法犯少年法令別構成比(昭和49年)

c 交通法令違反
 少年の道路交通法令違反の検挙件数の最近5年間の推移は、図4-17のとおり、増加傾向にある。昭和49年は80万9,277件であり、前年に比べ5.2%(4万178件)の増加をみた。成人を含めた総検挙件数に対する割合は前年の9.5%を下回る9.2%となっている。この検挙件数を、免許所持者数(昭和49年、少年約151万人、成人約2,383万人)に対する割合でみると、成人のそれが33.7%であるのに対し、少年のそれは53.6%とはるかに高い。
 違反を態様別にみると図4-18のとおり、交通事故に直結するおそれのある最高速度違反と無免許運転の合計が38.9%を占めており、なかでも無免許運転が、11.5%と成人のそれが2.0%であるのに比べ、著しく高い率となっているのが注目される。

図4-17 道路交通法令違反検挙件数の推移(昭和45~49年)

図4-18 少年による交通法令違反の態様別状況(昭和49年)

(イ) 触法少年
 補導された触法少年の最近5年間における人員と人口比の推移は、図4-19のとおりで、人員、人口比とも昭和46年以降増加傾向にあったが、49年は人員が3万6,178人と前年に比べ6.6%(2,568人)減少し、人口比も5.7人と若干下回った。触法少年の行為別の割合は、図4-20のとおりで、窃盗が87.8%と圧倒的に多く、前年の86.1%よりもなお上回る率となっている。行為別の補導人員を前年と比較すると、すべての行為において減少している。

図4-19 触法少年の人員及び人口比の推移(昭和45~49年)

図4-20 触法少年行為別構成比(昭和49年)

(ウ) ぐ犯少年
 ぐ犯行為をした少年について送致又は通告の措置をとったものの最近5年間における人員の推移は、図4-21のとおり毎年減少の傾向をたどっている。昭和49年は5,453人で前年と比べ7.1%(418人)減少した。しかし、ぐ犯行為の内容をみると、家出、薬物乱用、不純異性交遊等ぐ犯性の強いものが多くなっている。

図4-21 送致通告したぐ犯少年人員の推移(昭和45~49年)

イ 少年非行の傾向
(ア) まん延する万引
 窃盗少年の主な手口の構成比の推移をみると、図4-22のとおりで、一般に動機において単純で遊び的色彩の強い万引、自転車盗、オートバイ盗等の占める比率が年々増加しており、空き巣ねらいや忍込みのような悪質な手口の比率は減少している。特に、最近における万引の増加は著しく、昭和49年に万引で補導された少年(以下「万引少年」という。)は3万3,864人で、窃盗少年に占める万引少年の割合は39.8%となり、前年の35.7%を上回った。また、刑法犯少年総数中に占める万引少年の割合は29.3%となり、おおむね刑法犯少年の3人に1人は万引少年といえる。

図4-22 窃盗少年の手口別構成比の推移(昭和41~49年)

 このようにまん延する万引について、警視庁では、昭和48年10月1日から11月末日までの間に管内の20警察署で補導した万引少年248人と一般の中学生、高校生1,953人を対象に、万引経験者数の推測、万引をする原因の推測、保護者の監督等を調査した。その結果をみると、万引経験者数の推測では、図4-23のとおり、「あなた方と同じ年ごろの少年のうち、万引の経験のあると思われる人はおよそ100人のうち何人ぐらいいると思うか」という問いに対し、20人以上と推測している者が、一般の中学生・高校生では約30%、万引少年では50%を占めており、このことからも万引が少年たちの間にまん延している状況がうかがわれる。
 また、万引少年の場合、一般の中学生・高校生と比べ、20人以上の高い割合で推測している者が多いということは、万引少年には「みんながやっているから」という安易な考え方が強く、罪の意識の低いことが分かる。
 次に、万引をする原因の推測では、図4-24のとおり、「子供が盗みをする原因あるいは理由は何だと思うか」という問いに対し、「がまんをする気持が弱いので」をあげる者が最も多く、次いで「お小遣いが少ないので」、

図4-23 万引経験者が100人中何人いるかの推測(昭和48年10~11月調査)

「道徳心が低いので」、「スリルがあって面白いので」という順になっている。「がまんをする気持が弱いので」以外の理由については、「そうは思わない」と否定する者の方が多くなっている。
 「がまんをする気持が弱いので」を肯定する者が60.5%、「道徳心が低いので」を肯定する者も28.2%あり、万引少年の欲望に対する耐性の弱さ、規範意識の欠如に問題があることを指摘することができる。一方、「スリルがあって面白いので」、「盗んでも分からないことが多いので」は、否定する者の方が多いものの、肯定する者もほぼ4人に1人の割合になっており、万引の背景として欲望に対する耐性の弱さや規範意識の欠如以外にデパートやスーパーマーケット等の商品管理の在り方等にも問題のあることがうかがわれる。
 保護者の監督の調査では、万引した品物を保護者に見つかったことがあるかどうかを尋ね、その時どうしたかを聞いている。その結果は図4-25のとおりで、一応、保護者が何らかの形で見とがめているのは、男子で36.6%、女子で31.3%と、全体の3分の1程度であった。更にその場合であっても、ほとんどは「友達から借りた(又はもらった)」とか「小遣いで買った」とう

図4-24 万引をする原因の推測(昭和48年10~11月調査)

図4-25 万引した品物を保護者に見つけられた場合の態度(昭和48年10~11月調査)

そをつかれて、それを見抜けないでおり、保護者が品物を発見して追及し、万引行為を明らかにできたのは、わずか男子で2.5%、女子で4.7%にすぎない。このことから家庭での物の貸借とか小遣いの使い方等についての日常のしつけや監督が極めてルーズであることが推測され、これが万引を助長する原因の一つになっていると思われる。
 警察では、まん延する万引に対し、発生しやすい時間帯や場所をとらえて街頭補導を強化する一方、学校や家庭、更には関係の業者に実態を知らせ、協力を要請するなどその防止に努めている。
(イ) 中学生、高校生の粗暴化
 児童・生徒(小学生、中学生、高校生)の数は横ばい状態にあるが、刑法犯少年と触法少年の総人員中に占める割合は、年々増加を続け、図4-26のとおり昭和49年は74.4%となり前年の73.0%を上回った。

図4-26 刑法犯少年及び触法少年の学職別構成比の推移(昭和45~49年)

 児童・生徒の非行で注目されるのは、万引、自転車盗等の非行が増加する一方で、中学生、高校生の粗暴犯、凶悪犯が昭和49年は1万1,660人と前年に比べ7.6%(827人)増加していることである。
 補導事例をみても、例えば、高校2年生の少年による全日空機のハイジャック未遂事件(東京)、中学2年生の少年による百貨店等の連続爆破事件(大阪)、中学3年生の少年による幼女殺害・箱詰め死体遺棄事件(埼玉)等の特異な凶悪事件やいわゆる番長グループによる集団暴力事件等の事例が目立っている。
 また、昭和48年と49年の教師に対する暴行事件の補導状況をみると、表4-2のとおり中学生、高校生の粗暴化傾向は、教育の場にまで入り込んでおり、49年は前年より48件増加している。

表4-2 中・高校生による教師暴行事件の補導状況(昭和48、49年)

〔事例1〕 中学3年生9人が、暴力団の組織をまねて「蛇会」というグループを結成し、校内で飲酒、喫煙等の不良行為を繰り返し、教師から注意を受けるや、教室や校長室の窓ガラスを破損したうえ、4人の教師に重軽傷を与えた(香川)。
〔事例2〕 県下7高校の番長グループが、連合組織「弘前同志会」を結成し、同級生や下級生から現金2万3,000円を脅し取って、遊興費等に使用していた(青森)。
〔事例3〕 県下6高校の番長グループは、相互に、他校の番長グループを支配下に入れようとして、木刀、チェーン等を持って押しかけ、暴行、脅迫を加えたうえ、金品を要求するなど集団暴力事件を繰り返していた(富山)。
 これらの事例にみられるような中学生、高校生による集団暴力事件や教師に対する暴行事件が増加している背景としては、最近における一部の低俗な雑誌や映画等にみられる暴力礼賛の風潮を反映して、学校内に番長グループ等と呼ばれる粗暴非行集団が台頭していることが考えられ、警察では、関係機関等との連絡の下に、その実態を明らかにし、適切な補導により粗暴非行集団の解体及び暴力事件の防止に努めている。
(ウ) 急増する女子少年の非行
 最近5年間に刑法犯で補導された女子少年(以下「刑法犯女子少年」という。)の人員と人口比の推移は、図4-27のとおり、いずれも増加の一途にあり、昭和49年は人員1万7,286人、人口比3.7人と、ともに戦後最高を記録した。人員は前年に比べ25.4%の増加である。

図4-27 刑法犯女子少年の人員と人口比の推移(昭和45~49年)

 刑法犯少年総数中に占める女子少年の割合も、図4-28のとおり、毎年増加し、昭和49年は14.9%と前年の12.7%を上回った。
 刑法犯女子少年の年齢層別人員の推移は、図4-29のとおりで、すべての年齢層において増加がみられるが、特に、中学、高校の年代に当たる14~17歳が急激に増加しており、昭和49年は前年に比べ14・15歳が29.5%、16・17歳が29.8%と大幅な増加をみせた。
 罪種別には、窃盗と粗暴犯の増加が著しい。
 窃盗は、刑法犯女子少年総数の91.7%を占め、前年の90.3%を上回っている。女子の窃盗少年の人員は前年と比べて27.2%増加した。なお窃盗の87.3%は万引である。
 粗暴犯は、図4-30のとおり、男子少年が減少傾向にあるのに、逆に、急激に増加しており、昭和49年は前年に比べ22.1%増加した。女子少年についても、中学や高校内にいわゆる女番長グループが出現し、これに属する女子少年による集団暴力事件が目立っている。

図4-28 刑法犯少年総数中に占める女子少年の割合(昭和45~49年)

図4-29 刑法犯女子少年の年齢層別人員の推移(昭和45~49年)

図4-30 粗暴犯検挙人員の推移(昭和45~49年)

〔事例1〕 対立していた県立と私立の両高校の女番長グループ13人が、決着をつけようとハサミ、ナイフ等を準備して川原に集まり、対決、乱闘した(福岡)。
〔事例2〕 日ごろ対立し相互に脅迫や恐喝を繰り返していた私立女子高校の二つの女番長グループ47人が、川原に集結して乱闘した(東京)。
(エ) エスカレートする性の逸脱行動
 図4-31は、最近5年間の性犯(強姦、猥褻(わいせつ)をいう。)によって補導された少年(以下「性犯少年」という。)の人員と人口比の推移をみたものであるが、人員においては毎年大幅に減少しており、また、人口比でも減少傾向が続いている。性犯は一般に暗数が多いといわれているが、最近における性解放の風潮に象徴される風俗環境の変化にもかかわらず、このような現象がみられることは注目すべきである。

図4-31 性犯少年の人員と人口比

 一方、性犯少年の減少とは対照的に、犯罪に至らないぐ犯行為や不良行為段階での性の逸脱行動が目立っている。例えば、昭和49年には、大阪で女子高校生2人が二重まぶたの整形費や遊興費欲しさにホテル等で1回5万円で売春していた事案、北海道で女子中学生5人が暴走族少年のオートバイの後ろに乗って遊び回り、そのままホテル、モーテル等へ直行し、乱交を重ねていた事案、長野で女子高校生グループ34人が相互に相手を紹介し合い、男子高校生とモーテル等でABC遊びと称し、避妊具を使用して集団乱交していた事案等があり、このような事例は全国各地に及んでいる。こうした性の逸脱行動が増加している原因としては様々な理由が考えられるが、一部の低俗な雑誌や映画等による誇張した興味本位の性情報のはん濫、性的表現を用いた商業宣伝の増加等にみられる性の商品化が、思春期にある少年に強い刺激を与えているものと思われる。
 警察では、関係機関、婦人会、少年補導員等と連絡をとり、環境浄化の一環として、少年に悪い影響を与える雑誌、広告物等をなくすため、業者等へ自粛を申し入れるとともに、都道府県に設けられている青少年保護育成条例の活用に努めている。
(オ) 増加する暴走族グループの対立抗争
 昭和49年中の暴走族構成員に対する検挙補導の状況は、表4-3のとおりであるが、暴走族は暴走行為にとどまらず、その機動力を利用して広域にわたって強盗、強姦等の悪質な犯罪を行った。
 また、昭和49年には暴走族のグループの増加が目立ち、なかには、各地のグループが、「東北連合」、「関東連合」、「武州連合」のような連合体を結成する動きもみられた。昭和49年末における暴走族のグループ数とその構成員の数は、865グループ、約2万2,000人に上り、うち約80%が少年である。グループ数の増加に伴い、グループ間の摩擦も多くなり、しばしば大規模な対立抗争にまで発展した。例えば、1月神奈川県の東名高速道路海老名サービスエリアで数グループ約200人の暴走族が、火炎ビンを投てきするなどして抗争し、数時間にわたって高速道路の通行を不能にした事案をはじめ、全国各地で、角材、木刀、鉄パイプ等の凶器を使用した対立抗争が発生した。
 警察では、暴走族のたまり場に対する街頭補導を強め、「レター作戦」と称して暴走族少年の保護者に手紙を出し、家庭での指導を求め、グループのリーダーを警察に呼び出して注意を促すなど、暴走族グループによる非行の防止に努めている。

表4-3 暴走族に対する検挙補導人員(昭和49年)

 また、補導によって解体した暴走族グループは、表4-4のとおり全国で382となっているが、暴走族は離合集散が激しいので、今後もその根絶を期して地道な暴走族対策を続けていく必要がある。

表4-4 暴走族のグループ及び構成員数と解体グループ数(昭和49年)

(カ) 再び増えるシンナー等の乱用
 シンナー等の乱用により補導された少年は、昭和47年8月に制定されたいわゆるシンナー規制法(毒物及び劇物取締法等の一部を改正する法律)に基づく乱用行為、販売行為の規制とこれに伴う取締りにより、一時は大幅に減少したが、49年は、図4-32のとおり2万1,137人に上り、前年に比べ30.3%(4,917人)増と再び増加を示した。特に、高校生の乱用が52.5%も増加したのが注目される。

図4-32 シンナー等の乱用によって補導された少年(昭和45~49年)

 一方、シンナー等による死者数は、図4-33のとおり昭和49年は84人で前年を下回ったが、これは少年の死者の大幅な減少によるものである。このことは、補導人員の大幅な増加と際立った対照をなしている。
 昭和49年中には、千葉県で、走行中の自動車内でシンナーを乱用し、車内に充満したシンナーガスにマッチの火が引火、爆発して車体が炎上し、3人が死亡し2人が負傷した事案、三重県で、接着剤やシンナーを乱用した少年が乗用車を無免許で運転し、運転を過って道路端の水銀灯に激突し、2人が死亡、4人が重軽傷を負った事案等シンナー等を乱用したうえ事故を引き起こす事案が目立った。

図4-33 シンナー等による死者数(昭和45~49年)

 警察においては、乱用少年に対する補導、乱用行為を助長する販売業者等に対する取締りはもとより、乱用の実態や恐ろしさを訴えて国民の意識を高めるなど乱用の防止に努めている。
 昭和49年中に、乱用することを知りながら、シンナー等を販売していた業者等1,139

表4-5 乱用薬物別乱用者数の推移(昭和47年8月~49年)

人を検挙した。このなかには、神奈川県で、暴力団が多数の少年に接着剤を市価の数倍で密売し、巨額の利益を得ていた悪質な事件もある。
 なお、法による規制後、乱用された薬物別の乱用者数の推移は、表4-5のとおりであるが、トルエン、ニス等規制対象外の薬物乱用が増加傾向にあり、昭和49年は18.9%(4,954人)と前年の15.1%を上回った。その乱用防止対策として、目下、関係機関で規制対象を拡大することが検討されている。
(2) 少年補導
 少年は、心身が未熟であるため環境の影響を受けて非行に走りやすい。少年の非行は、少年自身はもちろんその家族にとっても極めて不幸なしかも深刻な問題である。次代の社会を担う少年が非行に陥ることなく健やかに成長することは、子供を持つ親ばかりでなく社会のだれもが切に願っていることである。
 警察では、少年たちが非行に陥らないように、また不幸にして非行に陥った少年が再び同じような過ちを繰り返さないように、非行少年及び不良行為少年を早期に発見し、発見した問題少年について捜査や調査をし、少年やその保護者等に注意、助言をするほか関係機関へ送致又は通告し、少年の非行深度に対応した適切な処遇に努めている。

ア 非行を芽のうちに摘むために
 少年は非行に走りやすい反面、たとえ罪を犯した場合でも適切な教育や指導によって再び健全な姿に立ち戻る可能性も極めて高い。それが早ければ早いほどその矯正は容易である。
 警察では、非行を芽のうちに摘みとるために、非行少年及び不良行為少年を早期に発見することに努めており、主として次のような活動を行っている。
(ア) 街頭補導
 非行少年及び不良行為少年を早期に発見するために、日常、少年係の警察官や婦人補導員(注)が中心となって、盛り場、駅、公園等非行が行われやすい場所で街頭補導を行っている。特に、少年が非行に陥る危険性が高い年末、年始、春季(3、4月)、夏期(8、9月)には、少年補導の特別月間を設けて街頭補導を強化している。
(注) 婦人補導員は、道府県警察の職員であって、一般に「ママ・ポリス」と呼ばれ、婦人の特性を生かして、街頭等において少年の補導に当たっている。

(イ) 少年相談
 早期発見のための一つの方法として少年相談がある。
 全国の警察署では、自分の子供の不良行為や非行の問題で悩んでいる保護者から相談を受けると、経験の豊かな少年係警察官や少年心理の専門家が助言や指導を行うとともに、必要に応じ、少年に対する面接調査を行って非行防止のための措置を講じている。
 昭和49年中に行った少年相談は全国で約5万件に上っている。
 また、警視庁をはじめ全国21都道府県警察においては、電話による相談にも応じており(いわゆる「ヤング・テレフォン・コーナー」)、気軽に相談できるため、少年からはもちろん保護者からも好評を博し、昭和49年中の受理件数は約1万4,000件に達し、警視庁では一日平均22件を受理している。

 電話による少年相談の利用者と相談内容は、表4-6と表4-7のとおりで、これをみると、少年では中学生の利用が最も多く、男子よりも女子が多く、相談内容では、異性との交際の問題等異性に関するものが20.0%で最も多くなっている。
 少年相談は、少年や保護者の悩みに答えることにより、少年非行の未然防止に有効と思われるので、更に、相談要員に適任者を配置するなど体制の充実に努めることとしている。

表4-6 相談者の状況(昭和49年)

表4-7 相談内容(昭和49年)

イ 過ちを繰り返さないために
 非行少年を発見すると、警察では家庭や学校等の関係者と連絡をとりながら、非行の内容を明らかにするとともに、その原因、動機、少年の性格、交友関係、保護者の実情等を十分検討し、少年が再び非行を犯す危険性があるか、再び非行を繰り返さないためにはどのような措置を講じるのが最も適切であるかを判断し、その処遇についての警察としての意見を付けて図4-34に示すように少年法や児童福祉法の規定に従って、関係機関に送致、通告している。
 昭和49年中に警察が補導した犯罪少年、触法少年、ぐ犯少年の送致、通告の状況は、表4-8のとおりである。
 また、非行少年には至らない不良行為少年等に対しては注意、助言し、必要のある場合には保護者に連絡して助言、指導することにしている。更に、保護者からの依頼があり、必要と認められるときは、継続して少年や保護者

図4-34 警察における少年事件処理系統図

表4-8 警察による非行少年送致、通告の状況(昭和49年)

と接触を保って助言や指導を行っている。
ウ 適切な処遇
 非行少年の処遇は、最終的には家庭裁判所、児童相談所、少年院等の機関で行われるが、そのほとんどはまず警察で取り扱われる。非行少年や不良行為少年に対する警察での取扱いの適否は、少年の再非行の防止と健全育成に大きな影響を与えることになるので、警察では少年に対する処遇を適切に行うため、主として次のような特別の配慮をしている。
 組織、体制の面では、少年を専門に取り扱う部門を設けている。すなわち、都道府県警察本部と警察署にそれぞれ少年警察担当の課、係を置き、少年事件選別主任者(注)、婦人補導員等の少年警察専従員を配置している。
 また、少年の心情に与える影響について細心の注意を払うという意味から、婦人がその特性を生かして補導活動に当たることが望ましい場合が多いので婦人補導員のほか多数の婦人警察官を少年警察活動に当てている。
 少年の処遇に当たっては、少年の健全な育成を期する心構えと少年の特性に関する深い理解をもって当たることはもちろん、学校等の関係者との協力、秘密の保持等に留意している。特に、少年事件の捜査に際しては、できる限り身体の拘束を避け、取調べを行う場合は保護者に連絡し、取調べの際の言動等に注意して少年の心情を傷つけないようにするなど細心の配慮を払っている。
(注) 少年事件選別主任者とは、少年事件の内容、非行の原因、動機、再非行の危険性の有無、保護者の実情等を検討し、非行少年の処遇について適正な判断を行うための特別の教養訓練を受けた専門警察官であり、昭和45年から全国の警察署に配置されている。

2 少年の保護

 心身が未熟で環境の影響を受けやすい少年たちが、犯罪や事故等の危険にさらされているとき、これを保護するための活動も少年警察の重要な仕事である。
 少年の保護のための活動には、大別して直接少年を対象とする活動、すなわち、自己の無分別によって家出をした少年や暴力団員にだまされてか酷な労働を強いられているような少年を救出するための活動と、少年を取り巻く有害、危険な環境を除去するための活動とがある。
(1) 家出少年
 警察が発見・保護した家出少年数は、図4-35の示すとおり、ここ数年減少傾向にあったが、昭和49年は、前年に比べ若干増加し、4万6,822人(うち女子が46.2%)となっている。
 この家出少年を学生・生徒、有職、無職の別にみたものが表4-9であるが、学生・生徒では、男子の中学生、女子の高校生が多く、また、有職、無職の別では、男子の有職少年の多いのが目立っている。
 少年の家出は、一般に少年が心理的に動揺しやすい時期、すなわち、学年末の3月、4月及び夏休みの終った9月に多いところから、警察では、この時期に合わせて、春季(3月1日から4月30日までのうちの1箇月間)及び秋季(9月)に全国家出少年発見保護活動月間(以下「発見保護月間」という。)を設け、この活動を強化している。昭和49年にはこの月間中に1万652人(年間総数の22.7%)の家出少年が保護されている。
ア 目立つ受験勉強からの逃避
 家出の原因、動機を昭和49年の秋季発見保護月間中に保護した少年につい

図4-35 家出少年保護人員の推移(昭和45~49年)

表4-9 家出少年の学職別発見・保護の状況(昭和49年)

てみたものが表4-10であるが、52.6%が「遊び癖」、「都会にあこがれて」等ばく然とした理由によるものや「異性問題」によるものである。次に、「父兄等にしかられて」、「家族間の不和」等家庭関係を理由とするものが19.8%、「学校がきらいで」、「成績不振」等学校に関係するものが17.4%、「仕事が性格に合わない」等職場に関するものが6.7%となっている。
家庭及び学校関係を理由とする家出の中には、「受験勉強に耐えられず」、「教育熱心な家庭をきらって」等受験勉強からの逃避としての家出もかなりの数に上っている。
〔事例1〕 女子高校生(15)が教育熱心な両親から厳しく干渉されるのをきらって小遣い6,000円を持って家出し、東京駅構内をうろついていた際暴力団員に甘言をもって誘われ、新宿等を連れまわされているところを警ら中の警察官の職務質問により、発見救出された(警視庁)。
〔事例2〕 小学校4年生(10)と3年生(8)の姉妹が、親から勉強を強いられるのをきらって、両親の不在中、現金2万1,000円と毛布を持って家出し、近くの山に入って一夜を明かしたが、空腹のため食べ物を求めに街に出てうろついているところを、警ら中の警察官に発見救出され

表4-10 家出の原因・動機(昭和49年秋季発見保護月間)

た(長野)。
イ 現代っ子の奔放な家出
 家出に対する意識を昭和49年の秋季発見保護月間中に保護した少年について調査したものが図4-36であるが、「家出は良いか悪いか」の質問に対し、大半の者は「悪いことである」と答えているが、3人に1人は「理由があればよい」、「悪くない」と答えている。次に、「家出中に不安はなかったか」に対しては、半数以上が不安感を抱いているものの、全く不安感を抱かなかった者もかなりの数に上っている。また、「もし家出中に困ったことができたらどうしたか」に対しては、「なんとかなると思った」、「別に考えなかった」という者が62.0%となっており、現代っ子の無計画、無分別な家出の傾向がうかがわれる。
ウ 家出少年を待っているのは
 家出少年と非行との関係を昭和49年春季及び秋季発見保護月間中に保護した1万652人についてみると、表4-11のとおり、家出中に罪を犯した少年は978人で家出少年全体の9.2%を占め、ほぼ10人に1人の割合で罪を犯していたことになる。これは昭和49年中の犯罪少年が73人に1人の割合である

表4-11 家出少年の非行状況(昭和49年春季及び秋季発見保護月間)

図4-36 家出に対する意識(昭和49年秋季発見保護月間)

のに比べて7倍以上に当たり、家出少年が非行に走りやすいことを物語っている。
〔事例1〕 無職少年(16)が家庭の不和を苦に無一文で家出し、当初は食費を得るため空き巣ねらいをはたらいていたが、予想外の成功に自信を持ち、発見保護されるまでの約2箇月間に空き巣ねらい10件、学校荒らし20件の非行を重ねていた(京都)。
〔事例2〕 中学3年生の男子が、継父の厳しい干渉をきらって家出し、都内や川崎市付近を野宿しながら放浪していたが、食物代に困り、通り掛かりの中学生にがん具の手錠を示し現金を脅し取った(警視庁)。
 また、表4-12のとおりこの期間中に保護された家出少年のうち513人が犯罪の被害者となっていたが、その約8割に当たる421人が女子であり、家出した女子のうち11人に1人の割合で被害を受けていたことになる。
 なお、昭和49年に検挙したいわゆる人身売買等少年の福祉を害する犯罪の被害少年1万859人中2,688人(約25%)が家出少年であった。
〔事例〕 暴力団員が売春組織を作って資金をかせごうと計画し、家出中の女子高校生を誘惑したうえ、喫茶店に女店員として住み込ませ、会社社長らを相手に売春させていたほか、同女を利用して喫茶店に出入りする女子高校生4人に売春させていた(兵庫)。

表4-12 家出少年の被害状況(昭和49年春季及び秋季発見保護月間)

(2) 少年の福祉を害する犯罪
 福祉犯(注)として検挙した被疑者数及び保護した被害者数について、最近5年間の推移をみると図4-37のとおりであり、昭和49年は、前年に比べ減少した。この種の犯罪は、被害者自身が被害意識を持たない場合が多いこともあって、自ら訴え出ることが少なく、また、犯罪の手段も巧妙になっているため潜在性が強い。

図4-37 福祉犯の推移(昭和45~49年)

図4-38 福祉犯の罪種別構成比(昭和49年)

 昭和49年中の福祉犯検挙の端緒をみると、その96%以上が警察による家出少年の捜索や聞込み等によるものであって、被害者からの訴え出によるものは全体の2%にも満たない状況であった。
 昭和49年中に検挙した福祉犯の被疑者総数は6,304人であり、その内訳は図4-38のとおり主要福祉犯(児童福祉法、労働基準法、風俗営業等取締法等の違反をいう。)の被疑者は、3,618人(57.4%)であった。
 また、主要福祉犯を地域別にみたのが表4-13であり、東京等8大都道府県で2,680人(74.0%)が検挙され、5,315人の被害者中3,986人(75.0%)が保護されており、福祉犯の大都市集中の傾向は依然強いものがある。
ア 女子高校生の被害が増加
 昭和49年中の福祉犯による被害者総数は、1万859人であるが、このうち女子が57.5%(主要福祉犯では65.6%)を占めている。
 被害者を学生・生徒、有職、無職の別にみたものが表4-14であるが、前年より有職少年が8.1%、無職少年が9.3%いずれも減少しているのに対し、学生・生徒は若干増加しており、被害者全体に占める割合も前年の43.9%から46.0%へと増加している。

表4-13 主要福祉犯の都道府県別検挙状況(昭和49年)

(注) 福祉犯とは、少年の福祉を害する犯罪であるが、少年の福祉を守るために特に設けられた法令名及び禁止されている行為の概要は次のとおりである。
児童福祉法 …15歳未満の児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為等の禁止
労働基準法 …15歳未満の少年を労働させる行為等の禁止
風俗営業等取締法 …キャバレー等で18歳未満の少年を使用すること等の禁止
未成年者喫煙禁止法 … 少年に喫煙させること等の禁止
未成年者飲酒禁止法 …少年に飲酒させること等の禁止
学校教育法 …子弟就学義務違反等
青少年保護育成条例 … 知事が有害と指定した図書を少年に販売すること等の禁止

表4-14 福祉犯被害者の学職別状況(昭和48、49年)

 女子高校生の被害者は、前年より16.5%と著しく増加しているが、これは最近女子高校生の家出が増加していることによるものである。
イ 少年をねらう暴力団
 昭和49年中の福祉犯の総検挙人員中に占める暴力団員の構成比は5.6%(355人)であるが、福祉犯のうち最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」及び「いん行をさせる行為」の4種類についてみると、49年中に検挙した被疑者の中に占める暴力団員の数及び構成比は、表4-15のとおり164人、25.7%となっている。家出少女に言葉巧みに誘いかけて関係を持ち、結婚を口実に芸者、ソープランド従業員等に身売りさせて前借金を取り、資金源に充てるなどその手口も悪質化している。
〔事例〕 暴力団員が自分の入れ墨に必要な費用等をねん出するため、スナックでアルバイトをしていた女子高校生(17)に甘言をもって近づき、モーテルに連れ込んで関係を結んだうえ、更に暴行、脅迫を加え、同女を組員宅に1箇月間監禁した後、風俗営業者の間を転々と渡り歩かせ、給料の前借りをさせてその上前をはねていた(宮城)。

表4-15 悪質福祉犯被疑者中の暴力団員数及び構成比(昭和49年)

(3) 有害環境の排除
 わいせつな映画、図書等は、しばしば少年非行の誘因となり、少年の健全な育成にとって大きな障害となるものである。また、バー、キャバレー等享楽的色彩の強い風俗営業も少年にとって有害な環境となる場合が多い。
 昭和49年末現在、33の都道府県が青少年保護育成条例を制定し、少年の健全育成を目的とした少年の保護と有害環境の排除のための規定を設けている。
 青少年保護育成条例は、少年にとって有害なものとして知事が指定した映画、図書、広告物等を少年に観覧させたり、販売することなどを禁止し、違反した者には罰則が適用されることになっている。
 警察では、各種活動を通じて有害なものを発見し、有害指定等のための資料を関係機関に提供するよう努めている。例えば、大阪府警察では、少年係が中心になって、毎月3回(土曜日)府下いっせいに有害広告物の発見調査活動を実施し、有害広告物を発見した際には、関係機関に連絡し、撤去等の措置命令を促している。
 最近5年間の条例による有害指定の状況は、図4-39のとおりで、昭和49年は、前年に比べ有害図書の増加が目立ち、他はいずれも減少している。
 なお、この条例により昭和49年中に取締りの対象になった者は、有害映画等に関して343人、有害図書に関して98人、有害広告物に関して92人であった。

図4-39 青少年保護育成条例による有害指定件数(昭和45~49年)

(4) 子供を守る活動
 少年を取り巻く環境は、非行防止の面だけでなく、事故や犯罪による被害からの安全という面からみても悪化しつつある。交通事故はもとより、危険な遊び場所における事故や成人の犯罪による少年の被害は依然として跡を絶たない。
 このため、各都道府件警察では、それぞれ独自の方法で、少年係を中心に

子供を守る活動を推進している。
 例えば、山形県警察では、7月から8月にかけて「子供を守る運動」を展開したが、子供の遊び場を中心に貯水池、古井戸、放置冷蔵庫、木材置場等1,074箇所の危険箇所を発見し、関係機関等に改善を申し入れた結果、その約55%が改善された。また、期間中に60路線、約20キロメートルの道路を「遊戯道路」に指定して子供の遊び場として開放するほか、海水浴場やキャンプ場等に対するパトロール等を行った。

3 地域社会の活動

 最近における非行の質的な変化からみて、警察等の非行防止対策機関による活動だけではなく、むしろ家庭や学校あるいは地域社会による非行防止を目的とした教育や指導、少年に有害な影響を与える俗悪な図書、広告物等の有害環境の排除等が、一層重要性を増してきたといえよう。この意味で、非行防止対策における警察と関係機関、団体、有志等との連携をより緊密なものとするための努力が必要とされている。
 地域社会における非行防止に関する組織の主なものは、次のとおりであるが、このほかにも防犯協会、地域婦人会等がそれぞれ非行防止活動を行っている。
(1) 少年補導員
 地域社会における補導活動の中心となっているのは、ボランティアとして補導活動等に従事している少年補導員である。少年補導員の制度は昭和37年4月全国的に発足したものであり、49年9月末現在、警察等の委嘱を受けている者は約14万人である。
 少年補導員は、地域社会で自発的に補導活動や非行防止のための啓もう活動を行っており、例えば、神奈川県では昭和49年中、約1万4,000人の不良行為少年を発見し、補導しているが、これは同年中に神奈川県警察が扱った不良行為少年の31%強に当たっている。
(2) 少年補導センター
 少年補導センターは、警察職員、教育関係者、少年補導員等が協力して地域における非行防止活動を行うための拠点として地方公共団体等により設けられているものであり、昭和49年9月末現在、全国における設置数は476箇所で、約5万2,500人(うち警察職員470人)がここで活動している。最近の少年非行の傾向にもかんがみ、今後地域社会の非行防止組織の中核としての幅広い活動が期待される。
(3) 学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会
 児童や生徒の非行が増加し、また学校をきらって家出をする少年の多い最近の状況において、警察の活動と学校による生活指導との間の緊密な連携の必要性が高まっている。
 学校警察連絡協議会は、学校と警察とが協力して児童・生徒の非行を防止することを目的として設けられたものであって、昭和49年9月末現在、全国で約2,000組織、小学校、中学校及び高等学校の95%近くに当たる約3万6,000校が参加している。学校と警察はこの場を通じて非行防止活動の経験や資料の交換、具体的な対策の検討等を行うほか、協力して街頭補導等を行っている。
 また、両親の下を遠く離れて就職をした少年が、環境の変化による孤独感や生活の乱れから非行に走ったり、犯罪の被害者となったりする例は少なくない。職場警察連絡協議会は、職場と警察とが緊密に連絡して勤労少年の非行を防止し、その健全な育成に努めることを目的として設けられているものであって、昭和49年9月末現在、全国で約1,000組織あり、約4万1,000事業所が加入している。各事業所には補導責任者が指定されており、各種会合を通じて、勤労少年の非行防止対策について検討し、警察と協力して非行防止活動を行っている。


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