第2章 国民生活に密着した日常の警察活動

1 地域にとけ込んでいる外勤警察

(1) “常時活動”の外勤警察の仕組み
 外勤警察は、犯罪や事故から国民を守るために管内の実態掌握に努め、犯罪や事故の未然防止とその発生時の第一次的処理に当たっているところから、その活動がすべての警察活動の基盤となっている。
 その根本にあるものは外勤警察官の「受持責任」で、特定の外勤警察官が特定の区域における治安の第一次責任を負う仕組みが、我が国の警察制度の特色の一つとなっている。全国津々浦々に至るまで、所轄警察署の特定の外勤警察官が担当する区域に組み込まれており、この外勤警察官を「受持警察官」、担当区域を「受持区」又は「巡連区」と呼んでいる。
 受持警察官は、地域の要所に設置されている派出所又は駐在所を活動の拠点として、街頭における警戒監視、パトロール、各家庭等への巡回連絡等を行い、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、少年補導、各種危険の防止、公衆に対する保護、困りごと相談等に当たっている。
 このように外勤警察は国民と直接ふれあう日常活動を行っており、それを通じて警察に対する国民の評価を受ける立場にあるところから、「警察の顔」とも呼ばれている。
 外勤警察に関する各種の世論調査や座談会等において、住民が共通して希望していることは、
○ 身近に派出所等の警察施設が欲しい。
○ 派出所にはいつも警察官にいてもらいたい。
○ 警察官はパトロールを励行してもらいたい。
○ 何か起こったらすぐに適切な措置を講じてもらいたい。
に集約される。警察は、このような住民の期待にこたえるため、限られた人員、予算等の範囲内でいろいろろ工夫をして、少なくとも派出所には警察官が常時在所して警戒活動に当たるように努めるとともに、外勤警察の他の各種の機能との組織的な連携を図って、受持警察官の活動を補っている。具体的には、警ら用無線自動車(パトカー)による機動警らや移動交番、警備派出所、検問所等における活動がある。これらの活動に従事する外勤警察官は「受持区」を担当せず、特定の警ら区域や警戒対象を担当して常時活動を続けている。また、外勤警察部門で重要な地位を占めている通信指令室では、110番等の緊急通報の受理等を行っており、今や警察活動の中枢と呼ばれるまでに発展しいる。
ア 所管区」の“不寝番”派出所
 派出所は主として市街地に設置されており、昭和50年3月末現在、全国で5,780箇所あり、8大都道府県にその過半数が集中している。
 派出所には複数の外勤警察官が配置され、それぞれ「受持区」を担当しているが、これらの「受持区」を合わせた区域を派出所の「所管区」として、そこで発生した事件、事故の処理はもちろん、各種困りごとの相談等すべての警察事象の第一次的処理を派出所の当番勤務員が行うこととしている。
 派出所は「交番」又は「交番所」と呼ばれているとおり、そこでは外勤警察官が交替制勤務に就いている。通常、日勤日、当番日、非番日を繰り返す3交替制をとっており、7日に1日の割合で週休日がある。日勤日は8時間、当番日は16時間、1週平均44時間の勤務時間によって警戒監視、パトロール、巡回連絡等を実施している。日勤日は午前8時30分から午後5時30分まで、当番日は午前8時30分から翌朝8時30分まで継続する拘束を基本としているため、図2-1のとおり拘束時間は1週平均66~70時間にも及び、欧米の警察が主としてとっている1日3交替4班制という勤務方法に比べて、その拘束時間は極めて長い実情にある。また、外勤警察官は、1週平均44時間の勤務時間のみでは、多発する事件、事故を処理することができず、更に防犯座談会等各種会合への出席、警察官として必要な法令の研究、柔剣道の

図2-1 交替制勤務割り例

訓練等にも従事しなければならないので、過大な超過勤務を余儀なくされている。これらの実情にかんがみ、拘束時間の短縮等勤務条件の改善を図り、かつ所管区の“不寝番”としての機能を高めることができる新しい勤務制度の採用が検討されている。

イ 「受持区」居住の駐在所勤務員
 駐在所では、通常、1人の外勤警察官が家族とともに居住して、広大な「受持区」におけるすべての警察事象に第一次的に対処している。駐在所は主として市街地以外の地域に設置され、その数は昭和50年3月末現在、全国で1万154箇所あり、東京、大阪等の6大都市のある都府県以外では、その数は派出所より圧倒的に多い。
 全国の駐在所の受持区域の面積は、派出所のそれよりも広く、ほぼ8対2の割合になっているが、人口では逆に約34%を受け持っているにすぎない。しかし、全国の駐在所勤務員は1万919人であるのに対し、派出所勤務員は4万3,904人であり、その結果、勤務員平均1人当たりの負担をみると、駐在所勤務員が派出所勤務員より重いものになっている。例えば、面積負担は27平方キロメートル強で約16倍、人口負担は約3,500人で約2倍になっている。
 駐在所勤務員は原則として朝8時30分から午後5時30分までの通常勤務に就いているので、1週平均の勤務時間は44時間を建て前としているが、夜間にも事件、事故の発生に応じてその処理に当たるほか、夜間のパトロールを実施することも多く、特に「受持区」の住民とのふれあいが夜間にも多いため、勤務時間外にも努めて駐在所を離れないようにして常時待機の生活を送っている。
 また、駐在所勤務員が所外の活動等のために駐在所を留守にする場合の住民との応接は、勤務員の家族が行わなければならないので、一般に駐在所勤務員は家族ぐるみで職務に当たっている。
 このような努力によって地域における駐在所の存在が高く評価され、犯罪の予防や捜査活動をはじめ風水害等や遭難事故に際しての救助活動にも住民の積極的協力を得ているうえ、地方によっては「駐在さん」、「先生」等と呼ばれて敬愛されている。
 駐在所勤務員には、従来、巡査や巡査長を当てていたが、近年著しいモータリゼーションや地域開発の進展等の結果、駐在所の「受持区」における警察事象の複雑多様化に伴って、その重要性が増してきているので、最近では巡査部長を配置してその処理に当たらせている駐在所も全駐在所の15%以上に及んでおり、更に増加する傾向にある。
 一方、業務負担の過重な駐在所については、迅速的確な警察活動を推進するため、当面、勤務員の複数配置を図っている。このような複数勤務駐在所は全駐在所の7%を超えており、更に増加する傾向にある。
 巡査部長の配置や勤務員の複数配置にみられるように、駐在所の重要性や業務量の増加に伴い、従来、勤務員の住居部分を使用することが多かった住 民との応接は、事務室部分で行えるようにする必要があり、このため設備の拡充整備を図っている。

ウ 受持責任を補う移動交番、警備派出所等
 派出所、駐在所の勤務員のような「受持区」を担当してはいないが、事件事故の未然防止や初動措置、その他の業務を任務として、実質的に受持警察官の責任を補っている外勤警察官が、移動交番や警備派出所、その他で活躍している。
 移動交番は、団地等の人口急増地域に対する警察力確保の方策として推進され、もともと、派出所、駐在所の設置が困難な場所における警察活動の拠点として設けられるものであるところから、団地等で開設されることはもちろん、それ以外にも海水浴場、キャンプ場、祭礼等人出の多い場所で開設されることも多い。
 移動交番の活動は、通常、移動交番車等の車両を用いて行われ、数人の警察官が乗車して団地等を巡回し、防犯指導、困りごと相談等を行っているが、その効率を高めるために開設の日時等を予告したうえで巡回しているところもある。移動交番車、昭和49年末現在、全国で180台が配置されており、今後も増強が見込まれている。

 警備派出所は、空港、主要駅、繁華街、その他特殊な警察対象に対する警察活動の拠点でありそこに勤務する外勤警察官はラッシュ時の警戒活動や盛り場での集団パトロール等に従事している。また、県境の要衝や幹線道路の接点等に設置されている検問所にも「受持区」を持たない外勤警察官が配置され、主として交通の指導取締りや、犯罪に関係のある人、物、車両等の動きに対する警戒活動に従事しており、特に重要事件発生時の緊急配備に際しての検問所を拠点とする活動は、犯罪の早期検挙に効果をあげている。
エ 「パトカー」と通信指令室
 一般に「パトカー」の呼称で親しまれている警ら用無線自動車は、警察本部及び警察署に配置されており、通常、3交替制の外勤警察官が乗務して、自動車機動警らに従事している。
 警ら用無線自動車による警らは、徒歩あるいはバイクによる警らに比べ、事件、事故の発生に際し、その現場に急行する機動性において数段優れているうえ、積載している超短波無線電話を通じて、通信指令室と情報連絡、照会センター等への各種照会も可能であり、また、複数で勤務しているところから、警察措置を迅速的確に行える利点がある。
 警ら用無線自動車の勤務員は、運転担当と通信担当の2人1組で指定された警ら区域を警らしており、パトカーの安全運行と的確な初動措置の確保のため、この間おおむね2~3時間を限度に運転を交替したり、所要の休憩をとることに努めているが、パトカーは警察の第一線において重要な位置を占めているため、勤務員は休憩時間においても常に出動できるように待機しており、またしばしば出動しているのが実情である。
 警ら用無線自動車は、昭和49年末現在、全国で約2,600台あって、警察署の業務量に応じ、最低1台から最高6台までが配置されている。2台以上のパトカーが配置されている警察署では、パトカーごとに警ら区域を指定しており、例えば、大阪府警察では市部の警察署の派出所数箇所の所管区を1個のブロックとし、その拠点派出所を中心に1台のパトカーを配置して自動車警らを実施している。
 自動車警らの効果に着目して、昭和49年度からへき地駐在所に小型警ら車「ミニパトカー」が配置されることとなり、全国で100台が活動を開始した。
 パトカーの機動力をはじめ警察力を総合的に発揮させるためには警察通信の活用が不可欠であり、通信指令室がその衝に当たっている。
 通信指令室には3交替制の外勤警察官が勤務しており、110番通報その他の緊急通報等の受理及びこれらに基づく所要の指令、手配、照会等をはじめ、警察無線通話の統制業務等、警察力の総合的運用に必要な通信業務を行っている。
 通信指令室の機能の重要性に基づき、従来、警察本部の外勤課等に付設されていた通信指令室を組織上独立の課(室)に昇格させる府県が増加し、昭和49年末現在、警視庁、大阪府警察等11都道府県警察に及んでいる。更に夜間の指令体制を強化するため、夜間責任者として警視庁、大阪府警察等5都府県警察では警視の階級にある上級幹部を当てており、その他の県にあっても警部の階級にある幹部を当てるものが増えている。

(2) 受持警察官の基本的活動
 受持警察官の基本的活動を大別すると、各種届出の受理、書類整理等を行う所内活動と、「受持区」へ出かけての警ら、巡回連絡等の所外活動とがある。これらの活動を通じて取扱い件数の多いものは、職務質問、地理案内、遺失物届の取扱い等である。これらを概観すると次のとおりである。
ア 検挙に有効な職務質問
 犯罪者は警察官の姿を見ると本能的に警戒心を強め、追及を免れようと必死になるので、外勤警察官が職務質問によって犯罪者を検挙することは決して容易ではない。しかし、外勤警察官はわずかな不審点や犯罪のこん跡等を解明することによって犯罪者の発見に努めており、毎年、職務質問によって検挙される刑法犯事件(交通関係業務上(重)過失致死傷を除く。)の過半数は外勤警察官によるものである。昭和49年中についてみても、職務質問によって検挙された刑法犯被疑事件約5万6,000件のうち約4万2,000件が外勤警察官によるものであった。これは110番通報等に基づく指令を受けて現場へ急行するのがパトカーや派出所等の勤務員であることや、「受持区」の実情を掌握している受持警察官がパトロールという基本的な活動を通じて犯罪の予防に効果をあげていると同時に、検挙の端緒を得ることにも寄与していることを物語っている。
 職務質問は犯罪者の検挙に有効であるばかりではなく、犯罪の被害者の発見、保護、犯罪の目撃者等の発見による捜査資料の確保、家出人や困りごとを抱えて途方に暮れている人の発見、保護等にも成果をあげている。毎年、警察で保護、救護する迷い子、酔っぱらい、急病人等は約50万人で、その約44万人(88.0%)を外勤警察官が処理している。家出人や急病人は職務質問によって発見される者もかなりの数に上っているので、職務質問即犯人扱いという誤解から保護、救護の時機を失することのないよう職務質問の際の言動を通じて国民の正しい理解を得るように配意している。

イ 非常に多い地理案内
 地理案内は、警察官が所管区内の地理に通じているうえに案内図等の用意もあるため、道をきく人が派出所、駐在所等に集中する実情であるので、今や外勤警察官にとって相当の業務量を伴う重要な仕事になっている。特に大都市の中心街やターミナル付近の派出所、主要道路の要衝にある派出所、駐在所等ではその取扱いが多く、1日100件を超える派出所も少なくない。
 地理案内の件数は、派出所、駐在所の立地条件ばかりでなく、地域の実情等によっても格差があるが、特に東京都内の銀座、新宿、渋谷、池袋等の派出所では、表2-1のとおりその取扱い件数は極めて多く、その数はその他の大都市の中心街の派出所の数倍にも及んでいる。

表2-1 警視庁管内の地理案内件数の多い派出所ベスト10(昭和49年)

 他方、駐在所においても、主要道路の要衝にあったり、「受持区」に著名な観光地を抱えているところでは、地理案内が相当の業務量となるので、昭和49年度から全国的に地理案内板の設置を推進して成果を収めている。

ウ 遺失物、拾得物の取扱い
 昭和49年中の遺失届は154万8,510件、拾得届は278万483件で、前年とほぼ同数であるが、通貨についてみると、図2-2のとおり遺失金は約140億円、拾得金は約69億円で、いずれも前年より約20億円の増加となっている。
 遺失届は、駅その他へ連絡済みのものについても念のために警察にも届け出る人が多いので、派出所、駐在所の外勤警察官が遺失届のほとんどを取り扱うことになるが、一方拾得者は、国鉄、私鉄等の交通機関やタクシーの管理者を経由してなされるものが多く、例えば警視庁管内では、昭和49年中の拾得届約84万件のうち交通機関等の管理者を経由したものが約38万5,000件(45.8%)になっており、外勤警察官の取扱件数は全体の半数強となっている。
 通貨の拾得届は遺失届の半分にも達しないが、物品については拾得届が遺失届の倍以上にも及んでいて、遺失者が物品の回復をあきらめたり、警察への届出をしない場合が多いことを示している。拾得届のうち数の多いものは、かさ、かばん、腕時計等で、警察の保管場所に山積みになっている。
 拾得物は、遺失者が判明すれば返還され、その際、通常は遺失者から拾得

図2-2 遺失届・拾得届取扱状況(通貨・物品)(昭和45~49年)

者に遺失物の価格の5~20%の報労金が支払われている。拾得届出から6箇月と14日を経過しても遺失者が判明しないときは、拾得者に所有権が認められることになるが、その後2箇月以内に拾得者が引き取らないとその権利は消滅し、所有権は都道府県に帰属する。
〔事例〕 昭和49年6月13日、東京都台東区のビル建築現場の土中から、つぼに入れた二分金等の古銭(時価約1,400万円)が発掘され、これが報道されると、その所有権を主張する者が2人現れた。警察では明治初年の居住者を確定するため、区役所、法務局、図書館等で古文書を調査するなどして、6箇月後に2人とは別の真の所有権者を捜し出し、古銭を返還した。その際の報労金は20%相当の古銭の現物であった(警視庁)。
 昭和49年中における拾得物の取扱状況は、図2-3のとおりである。

図2-3 拾得物処理状況(昭和49年)

(3) 奉仕活動の推進
 派出所、駐在所の勤務員は、「受持区」の各家庭、事業所等を訪問して、住民の困りごとの相談にのったり、警察に対する要望等を積極的に聡くこととしているが、このような相談ごとや要望、意見等は、直接、派出所、駐在所へ持ち込まれたり、投書によることもある。受持警察官の平素の誠実な勤務状況が住民の信頼を深めている場合には、家庭内のもめごとの仲裁や就職、進学、縁談等の相談をもちかけられることも多い。
ア 一人暮らしの老人への奉仕
 老人のみの家庭あるいは老人と幼児のみの家庭では、健康がすぐれない場合の不安や事件、事故の被害に遭う不安が特に強いので、受持警察官がその実情をは握したうえで、地方自治体の福祉行政にゆだねたり、近隣者との連帯を深めるよう働きかけたり、定期的な家庭訪問を実施したりしている。また、警察官が個人的に援助の手を差し伸べていることも少なくない。
〔事例1〕 貞光警察署宗重駐在所のA巡査長は、「受持区」の一人暮らしの老婦人からただ一人の身寄りである消息不明の孫を捜してほしいと依頼され、各方面へ照会を続け、広島県呉市在住の孫を捜し出して、30年ぶりの再会を実現させた(徳島)。
〔事例2〕 青森警察署旭町派出所のM巡査長は、「受持区」の一人暮らしの病身の老人が日当たりの悪いアパートで先行き不安におびえながら生活していることを知り、環境の良いアパートを捜して転居させるなど親身になって世話をしている(青森)。
〔事例3〕 戸部警察署一本松派出所のT巡査は、「受持区」の老人夫婦宅を訪問したところ、病弱であった夫人がこたつの中で死んでおり、体の不自由な主人が放心状態でいるのを発見したので、直ちに所要の保護手続きをとり、夫人の葬儀後は主人に奉仕の手を差し伸べている(神奈川)。

イ 「あなたの声にこたえる運動」
 警察では、住民が行政機関の活動を期待しながらも、それをどこへ持ち込んでよいか分からないで困っているというような問題を積極的に取り上げて警察で処理できる問題は処理を急ぎ、他機関の処理にゆだねるべき問題はその措置を促すなど、「あなたの声にこたえる運動」、「地域住民の要望を解決する運動」という名の下にこれを推進し、着実に成果をあげている。
 この運動によって、住民が多年の懸案としていた大小様々の問題が徐々に解決されつつある。その主な事例は次のとおりである。
〔事例1〕 茨木警察署正雀派出所のK巡査は、駅周辺の路上に通勤用自転車が乱雑に放置されていて盗難等のおそれがあるところから、関係機関等に働きかけ、市有地に無料自転車置場の設置、警告立看板の掲出、防犯灯の設置等を促進させて、通勤者の利便の確保と駅周辺の住民の不便、不満の解消に成功した(大阪)。
〔事例2〕 鬼北警察署吉野駐在所のS巡査長は、「受持区」唯一の生活道路である県道「宇和島~窪川線」の落石、ガケ崩れを防ぐため、地元自治会やPTA等と協議して、その改修を道路管理者に訴えてきた。その結果、落石防止網設置の予算30万が決まりかかったが、同巡査長は落石防止網では軟弱な土壌に不適当と判断して関係者の再考を強く求め、総工費200万円でコンクリート防護壁の実現をみた。昭和49年8月の集中豪雨では県下各地で山崩れが発生したが、このコンクリート防護壁はガケ崩れを防ぎ、同巡査長に住民の感謝が寄せられている(愛媛)。
 この運動の結果、昭和49年中に全国で約7万5,000件の事案が解決をみており、前年に比べ約2万件(36.4%)増加している。

2 緊急事態への対応

(1) 110番通報の処理
ア 50人に1人の利用
 昭和49年中に全国の警察で受理した110番通報は、223万9,413件で、前年より1万5,810件(0.7%)多く、昭和49年を昭和40年と比べると、図2-4

図2-4 110番通報の推移(昭和40~49年)

のとおり、2倍強となり、毎年増え続けてしる。
 これは、国民5人に1人の割合で110番を利用していることになり、最も多い東京都で24人に1人、最も少ない岩手県で167人に1人の割合となっている。
イ ピークは午後8時から午前0時まで
 時間帯別受理状況をみると、図2-5のとおり午後8時~午前0時までの時間帯が最も多く、全体の23.7%を占め、10秒に1回の割合で利用されている。

図2-5 時間帯別110番受理件数(昭和49年)

ウ ビッグスリーは交通関係の通報、被害の届出、照会・連絡
 110番の受理状況を内容別にみると、図2-6のとおり、交通事故及び交通違反等の交通関係の通報が最も多く、次いで、殺人・強盗等の刑法犯被害の届出、免許の更新手続・地理案内等の照会・連絡等が多い。

図2-6 内容別110番受理件数(昭和49年)

エ リスポンス・タイムの短縮
 通信指令室で110番通報を受理し、直ちにパトカーに出動を指令してからパトカーが目的地に到着するまでの所要時間(リスポンス・タイム)が短ければ短いほど、事案の解決は早い。
 最近5年間における主要都市でのりスポンス・タイムの推移は、図2-7のとおりであるが、昭和49年中の平均所要時間は5分16秒であり、最近5年間で初めて前年より短縮された。特に札幌市で1分6秒、仙台市で44秒も短縮されたことが注目される。今後も警察は、リスポンス・タイムの短縮を図っていくこととしている。

図2-7 主要都市におけるリスポンス・タイム(昭和45~49年)

オ 検挙につながる早い通報
 事件が発生した場合に、素早い110番があると、より速くパトカーを現場に派遣し、犯人を現場近くで補堤でき事案の解決も早い。
 110番集中地域(注)における110番通報によってパトカーが出動した場合の全刑法犯の検挙率をみると、表2-2のとおり3分未満に現場到着した場合には約半数(45.7%)を検挙している。
(注) 110番集中地域とは、110番が警察本部の通信指令室又はその分室に入っている地域をいう。

表2-2 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙(昭和49年)

カ 非常通報装置
 犯罪や事故等が発生した際の有効な急訴手段として、多額の現金を取り扱う銀行、信用金庫等あるいは犯罪等の被害に遭うことによって大きな社会的不安を招くこととなる電話局、銃砲火薬類等の販売店等に、警察と直結する

図2-8 非常通報装置の設置状況(昭和49年6月)

非常通報装置が設置されており、その設置状況は、図2-8のとおりで、昭和49年6月現在、2万1,378箇所に及んでいる。
 非常通報装置は、通報ボタンを押すことによって、110番回線等有線を利用するものと、無線を利用するものの2種類あり、通信指令室又は警察署に通報される仕組みになっている。
 その他の非常通報の体制としては、官公庁、学校、事業所等の警備員や守衛からの通報、あるいは、ガードマン営業と呼ばれている警備業者からの通報、また、防犯ベルや防犯サイレンを設置した町内会、自治会等の自主防犯組織からの通報等がある。
 警察では、これらの通報を受けると直ちにパトカーや最寄りの警察官に指示して現場に急行させている。
(2) 機動警戒力の充実
ア 駐在所に“ミニパトカー”配置
 駐在所は、一般に派出所に比べて受持面積も広く、かつ、道路事情も悪い。特に、へき地に所在する駐在所にあっては、その多くは極めて広大な面積を受け持ち、また、山間部の劣悪な道路事情や厳しい気象条件下にありながら、その機動力といえばオートバイに頼るほかなかったため、積雪降雨等の場合にはその活動が非常に困難であった。そこで、このような悪条件下にある駐在所100箇所に、気象条件等に左右されず、小回りもきく“ミニパトカー”を昭和49年に初めて配置した。
 “ミニパトカー”は、普通のパトカーと同様、白と黒のツートンカラーで、大きさは一回り小さい(排気量1,000cc)が、緊急車両としての赤色回転灯、サイレン等を備えており、また、乗務中の勤務員はいつでも急訴に対応できるように、常時、受令機を携帯して活動に当たっている。
 この“ミニパトカー”の配置により、広い管内をくまなくパトロールしたり、交通事故の多いところでは交通の指導取締りを行い、また、事件、事故の届出に際しては、よりッ即く現場に到着することができるようになるなど、駐在所の機動力が飛躍的に高まっている。また、このほかにも“ミニパトカ

ー”は、酔っぱらい、負傷者等の保護・救護活動に当たるなど、多角的に活用されている。
イ 携帯無線機を持って活動する外勤警察官
 常に街頭で活動している外勤警察官との連絡手段を確保し、急訴等に迅速に対応するためには、通信機器が必要不可欠であるところから、昭和49年度から新たに外勤警察官の個人装備として、相互に通話ができる第一線活動用携帯無線機が東京、大阪、横浜市部の派出所に配置された。従来、派出所の勤務員が携行して

いた受令機は、通信指令室又は警察署からの指令を受けるだけの一方通話のものであったが、相互に通話のできる無線機を携行することによって“いつでも、どこからでも”警察署、あるいは他の警察官と連絡をとりあいながら活動することができ、急訴の届出があれば、現場に急行して“生”の情報を送るなど、必要な報告連絡を行うことができるようになった。また、逃走する犯人を捕捉するための手配連絡も迅速にできるので、この第一線活動用携帯無線機の増強を図る一方、効率的な活用に努めている。

3 身近な犯罪とその予防

(1) 防犯対策研究活動の積極化
 最近の我が国の犯罪情勢をみると、一般刑法犯の発生はここ数年間横ばいの傾向を持続しており、アメリカ、西ドイツ等の諸外国で殺人、強盗等の凶悪犯罪が多発しているのに比べ、犯罪に対する安全度は一応高いといえる。しかし、犯罪に対する安全度の問題は、単に発生件数の比較だけではなく、国民が日常の生活をとおして犯罪に対する不安をどの程度まで感じているかということが大きなポイントである。
 元来、犯罪は、社会、経済、文化等の変化を反映して、質、量の面で変化するものであり、最近の犯罪における変化もまた、都市化現象や市民意識の変化、生活様式の変化等が要因となっていることがうかがえる。
 試みに、最近の犯罪の内容をみると、爆破事件や連続女性殺人・放火事件、死体隠ぺい殺人事件等悪質巧妙な犯罪が目立つとともに、ピアノ殺人(ピアノの音がうるさいと隣人を殺害)、ペット殺人(ペットの犬が殺されたのを恨んで隣人を殺害)のように自我の主張、連帯意識の希薄化等社会の変化を背景とするような特異な事件も発生し、市民の不安感は増大しているものと思われる。このような情勢から、犯罪防止に当たっては、社会の変化に対応した効果的な施策の推進が必要となっており、都市化現象や市民意識の変化を的確にとらえ、犯罪の発生を促進する要因を除去しあるいは抑止要因を増大させる方法等を研究することが急がれている。
 このため、警察庁では、防犯対策研究会を設置し、各専門分野の学識経験者を委員に委嘱して、社会の変化に対応した防犯施策の在り方等を調査研究し今後の防犯施策に反映させるように努めている。
 また、例えば大阪府警察、神奈川県警察等では新興住宅地域等に居住する住民が犯罪に対してどのような不安を抱いているか、警察活動として何を望んでいるかなどの調査を行い、防犯施策への反映を図っている。神奈川県警察本部が新興住宅地城の居住者約700人を対象に、犯罪に対する不安意識を調査したところ、66.6%の者が家の付近が暗い、駅等から遠いなどの理由で不安を訴えている。また、警視庁では、都内の空き巣ねらいによる被害の57.8%が木造アパートで発生していることから、木造アパートの防犯設備の実態や居住者の防犯意識等を調査研究し、民間防犯活動の推進に役立てている。
(2) 金融機関をめぐる犯罪の未然防止
 昭和49年中の金融機関を対象とした強盗事件の発生は、表2-3のとおり47件で、最近の5年間で最も多い。

表2-3 金融機関の強盗事件年次別発生状況(昭和45~49年)

 最近のこの種の犯罪の特徴として、爆破事件による市民の恐怖心を利用してみせかけの爆発物で脅す手口や、巧妙な計画による事犯が目立っている。このような事犯を防ぐために、警察では「金融機関の保安基準」を策定し、各金融機関に対し防犯指導を行っている。その主な内容は、非常通報装置を設置するとともに、これを常に点検し、緊急時に必ず作動するようにしておくこと、休日等で無人になった事務所を守るために「自動警報装置」を設置すること、通用口の戸締まりや通行人を確認すること、警備員の配置やガードマンの委託による自主警備を強化することなどである。試みに、東京都内の3,565の金融機関について、昭和49年12月末現在の防犯体制を、警視庁の調査結果からみると次のとおりであった。
 非常通報装置の設置状況は表2-4のとおりで、銀行、信用金庫はかなり設置しているが、信用組合、郵便局では設置が少ない。自動警報装置については、各金融機関とも半数近くが未設置であり、監視テレビにいたってはまだほとんど設置されていない。また、警備員等を配置している金融機関は45.9%というように、総合的にみると、金融機関の防備は、必ずしも万全とはいえない状況であり、今後も防犯体制の拡充強化を図っていく必要がある。

表2-4 都内金融機関の防犯設備状況(昭和49年)

 各都道府県警察では、金融機関に対する防犯措置として、防犯設備の診断や防犯訓練等を実施するほか、歳末には特別パトロールを実施したり、金融機関との連絡会を開催して犯罪情報や具体的な防犯のアイデア等を提供し連携を密にしている。これらの防犯活動の効果的な事例として、昭和49年12月17日、横浜市と神戸市で相次いで発生した強盗事件の際に、事件発生を行員に周知させるため平素から指導していた「防犯合言葉」が役立ち、犯人をその場で逮捕することができた事案がある。
 また、昭和49年8月東京で発生した「真由子ちゃん(俳優津川雅彦氏長女)誘拐事件」のように、金融機関が顧客のサービスのために設置した通称CDとよばれているキャッシュディスペンサー(自動現金支払機)にからむ犯罪も現れている。
 このCDは、昭和49年12月末現在、全国で約3,000箇所(大蔵省銀行局調べ)に設置されているが、CDを利用する犯罪を防止するため、金融機関に対して架空名義のCDカードの発行防止等について要請や指導を行っている。

(3) 急増する自転車盗難とその予防
 最近の公害問題、交通情勢等から自転車の効用が再認識され、自転車の保有台数は、図2-9のとおり年々増加し、昭和49年12月現在で約4,200万台(日

図2-9 自転車保有台数、自転車盗発生状況の推移(昭和45~49年)

本自転車工業会調べ)となっている。また、これに伴って自転車盗の発生も逐年増加し、昭和49年中には前年より8.8%増加の約17万件を数えている。
 この自転車盗の発生を場所別にみると図2-10のとおりで、路上で盗まれたものが39.1%と最も多い。

図2-10 自転車盗発生場所別認知件数(昭和49年)

 そこで、自転車盗の被害防止活動の一環として、昭和49年秋の防犯運動を通じ、常時100台以上の自転車が置かれている自転車置場のいっせい点検を行ったところ、その結果は次のとおりであった。
ア 43%を占める青空置場
 100台以上の自転車が常時置かれている自転車置場は、全国で5,146箇所あり、この態様をみると

有料の置場 617箇所 (12.0%)
無料で指定した置場 2,300箇所 (44.7%)
事実上の置場(青空置場) 2,229箇所 (43.3%)

となっており、道路、広場、空地等を事実上の置場として使用しているいわゆる青空置場が43.3%もあり、更にその42.3%は国鉄(487箇所)、私鉄(456箇所)の駅前にあった。
イ ずさんな自転車の防犯管理
 5,146箇所の自転車置場にあった85万3,142台の自転車の施錠状況をみると、図2-11のとおり、無施錠車が30.6%にも及んでおり、盗難予防に有効なチェーン錠を使用していた車はわずか7.3%にすぎなかった。

図2-11 自転車置場の自転車の施錠状況(昭和49年)

 これらの自転車について、使用者の住所や氏名を記入していた車は、28万3,997台(33.3%)にすぎず、更に、盗難にあった際の被害回復に有効な自転車防犯登録(自転車小売商組合と防犯協会とが警察と協力して実施)を行っていない車は、37万9,088台(44.4%)もあった。
 このような実態から警察では、自転車盗の防犯活動として、自転車盗の多発する置場に対しては、パトロールを強化するほか、防犯点検を反復実施し、自転車診断カード等を活用して、盗難防止に有効なチェーン錠等による施錠や防犯登録を行うよう呼びかけている。また、周辺に青空置場のある国鉄や私鉄の駅については、市町村や土地管理者を含めて、具体的に青空置場の実態を説明し、管理人等を配置した自転車置場の整備を図るよう要請を行い、自転車盗の防止に努めている。
(4) 地域社会の自主防犯活動
ア 地域の安全を目指す防犯連絡所
 地域の自主防犯活動の中心的な組織として防犯協会があり、犯罪の防止のために警察の指導や協力を得て幅広い諸活動を行っている。その主な活動としては、「防犯の日」を定め住民に対する戸締まりの呼びかけや夜警パトロールの実施、「防犯モデル地区」を設定しての防犯施設の整備や住民の防犯意識の高揚、青少年の非行化防止のための諸活動の推進等がある。
 例えば、地域の防犯施設を整備する活動の一つとして、防犯協会では、警察と共同して関係機関に働きかけ、防犯灯の設置を促進している。この結果、防犯灯は、表2-5のとおり次第に増加し、暗い夜道の解消に寄与している。

表2-5 防犯灯年別設置状況

 防犯協会の末端組織に、実践的な防犯活動を行っている防犯連絡所がある。防犯連絡所は、昭和49年中に新興住宅地域等を中心に約3万箇所も増設され、昭和49年末現在、全国で約57万箇所を数えている。
 この防犯連絡所では、地域の防犯活動の拠点として、付近で起きた事件や事故を警察等へ通報したり、警察からの犯罪に関する情報を付近住民に伝達したり、警察の行う防犯診断等の活動の際に協力するなどして、地区の犯罪防止に寄与している。
 ちなみに、山口県下に設置されている約3,000箇所の防犯連絡所について、昭和49年中の活動状況をみると、図2-12のとおり、防犯連絡所の周辺地域のパトロールの実施や警察の行う防犯診断への協力、周辺の住民を集めて防犯映画会や防犯座談会等を開催するなどの活動を通じ、地域の犯罪防止に尽力していることがうかがえる。これらの防犯連絡所については、地域の自主的な防犯体制づくりのうえからも、また、警察と地域住民との連携を深めるうえからも、今後、幅広い住民の協力により、更に体制が強化され、活発な活動が行われることが期待される。
 このような防犯連絡所から、昭和49年中には、図2-13のとおり、約18万件(前年に比べ1.5%増)も警察に通報があり、これらのいろいろな有効な通報のうち、直接事件の検挙の端緒となったものは5,253件に上っている。

図2-12 山口県における防犯連絡所活動状況(昭和49年)

図2-13 防犯連絡所から警察への通報状況(昭和49年)

イ 期待される「防犯モデル地区」活動
 理想的な地域防犯活動の試金石として、犯罪のない模範的な街づくりのために、「防犯モデル地区」活動が推進されている。
 「防犯モデル地区」活動は、警察と防犯協会が協力して実施しているもので、犯罪が多発している地域にモデル地区を設定し、地域内の住民の参加を促しながら、地域ぐるみで犯罪を防止するために各種防犯資器材の組織的活用等による防犯活動を重点的に行うものである。
 昭和49年に、全国防犯協会連合会さん下の都道府県防犯協会と警察の協力の下に設定した「防犯モデル地区」は、表2-6のとおり、繁華街地区3箇所、住宅地区2箇所、旧市街地区1箇所である。これらの地区ではそれぞれの地区の特性に応じて、防犯テレビを設置したり、放送施設を設置して呼び掛けを行ったり、また、相互連絡用の防犯ベルを設置するなどして、町から犯罪をなくすために努力している。

表2-6 全国防犯協会連合会指定の「防犯モデル地区」実施状況(昭和49年)

 このほかにも、各地に「防犯モデル地区」が設けられているが、そのうち大きな成果を収めている横浜市神奈川区の上反町防犯モデル地区の活動を紹介してみよう。
 ここは、600世帯のうち80%がサラリーマン家庭であり、この小さな町に、昭和48年中に空き巣ねらいが32件も発生したことなどから、昭和49年5月、地元神奈川警察署ではこの地区を「防犯モデル地区」に指定して、地区防犯協会の協力の下に町ぐるみで犯罪防止に取り組むことになった。そこで警察では地区のパトロールを強化すると同時に、防犯診断を行ったり、防犯教室を開催するなどして住民の防犯意識の高揚に努めた。一方、モデル地区の指定を受けた地元自治会では、神奈川県防犯協会から交付された活動のための補助金以外に、自治会役員等が自主的に廃品回収や芝刈り作業を行って資金を作り出し、防犯活動を積極的に推進した。まず、住民への防犯情報を徹底するために機関紙「防犯上反町」を発行したり、役員等が率先してパトロ‐ルを行い、更に警察の協力を得て防犯教室の開催、防犯模擬訓練等を行ったほか、ち漢の被害防止のために貸出用携帯ブザーを50個備え付けるなどの活動を行った。この結果、昭和49年5月から同年12月までの間に刑法犯の発生をゼロにするという目覚ましい成果をあげた。
ウ 需要急増のガードマン営業
 いわゆるガードマン営業と呼ばれている警備業は、最近の一連の企業爆破事件の発生による世情不安あるいは不景気による経営合理化等を背景として、企業の自主警備の強化、人件費節減による宿直体制の肩代わり等に伴い、その需要が急増している。
 昭和49年末現在における警備業者数は1,434社を数え、警備員は6万4,474人となっている。最近5年間の推移をみると、図2-14のとおり、逐年増加を続けている。

図2-14 警備業者と警備員数の推移(昭和45~49年)

 警備業は、犯罪の未然防止はもとより、窃盗の現行犯人を逮捕して警察に協力したり、火災を早期に発見通報するなど、防犯、防災面に寄与しており、その協力件数は、表2-7のとおり、昭和49年中には4,784件となっている。

表2-7 勤務中の警備員の犯人検挙等協力状況(昭和49年)

 反面、勤務中のガードマンによる犯罪も、表2-8のとおり発生してし、る。また、無届営業、年少者の使用、職業安定法(労働者供給事業の禁止)違反等により、営業停止処分を受けるなど、警備業法に基づく行政処分を受けた警備業者が、昭和49年中に44社に上っている。
 警察としては、このような事犯の絶無を期して、警備業者に対し適正な警備業務の運営について指導を行っている。

表2-8 勤務中の警備員による犯罪件数(昭和49年)

4 保護活動

(1) 家出人保護
 家出人については、警察では、発見保護活動を通じてその生命、身体の安全確保に努めている。昭和49年中に警察に捜索願が出された家出人の数は、表2-9のとおり、8万4,331人であり、最近の5年間では減少をみている。

表2-9 家出人捜索願出状況

 昭和49年中に捜索願の出された家出人の実態をみると次のとおりである。
ア 女性の占める割合の増加
 捜索願出のあった家出人は、表2-10のとおり、男性は3万9,953人(47.4%)、女性は4万4,378人(52.6%)で、男女とも前年より減少しているが、男女別の構成比をみると女性の占める割合が前年の51.4%に比べ若干高くなっている。

表2-10 捜索願出のあった家出人男女別比較(昭和45~49年)

 男女の構成率を、年齢層別にみると、表2-11のとおり、60歳未満では各年齢層とも女性が高いが、60歳以上では逆に男性が高くなっている。

表2-11 捜索願出のあった家出人の男女別年齢層別比較(昭和49年)

 また、捜索願出のあった者の成人、少年別をみると、表2-12のとおり、成人は5万1,614人(61.2%)、少年は3万2,717人(38.8%)であり、ともに前年より減少している。
 これらの成人、少年の家出人数をそれぞれの人口1万人当たりで比較してみると、成人は6.9人であるのに対し、少年は20.6人とかなり高くなっている。

表2-12 家出人の成人、少年別比較(昭和45~49年)

表2-13 学生、生徒別家出人数(昭和45~49年)

 学生、生徒の家出についてみると、表2-13のとおり、いずれもおおむね前年に比べ減少している。
イ 家出人率(注)の高い沖縄、北海道、大阪
 家出人を原因、動機別にみると、図2-15のとおり、家庭不和、恋愛や結婚問題のもつれによるものが多いが、「蒸発」といわれる原因動機不明のものが、8.8%(7,445人)もある。

図2-15 家出の原因(昭和49年)

 都道府県別にみた家出人率は表2-14のとおり、沖縄、北海道、大阪が高く、低い方は島根、鹿児島、秋田の順である。なお東京は、家出人率の高さでは28番目となっている。
(注) 家出人率とは、人口1万人当たりの家出人の数である。

表2-14 都道府県別家出人率(昭和49年)

ウ 54%が警察活動による発見
 家出人の発見状況をみると、表2-15のとおり、昭和49年中に家出人とし

表2-15 家出人発見数(昭和45~49年)

て発見された者は8万3,987人で、前年より0.8%減少している。
 これらの者の発見の状況をみると、図2-16のとおり、警察活動により発見された者が53.9%で、他は自分から帰宅した者となっている。

図2-16 家出人の発見方法(昭和49年)

 このような家出人に対し、警察では、特に犯罪の被害者となって生命、身体に危険が及んでいる可能性のある家出人については、「家出人等重要手配」を行って早期発見に努めるほか、立ち回り先の予想される通常の家出人については、管轄警察署に「立ち回り先手配」を行って、その発見に努めている。
(2) 酔っぱらいの保護
 昭和49年中に、でい酔あるいはめいてい状態で、自己又は他人の生命、身体に危害を及ぼすおそれがあったり、粗野乱暴な言動で公衆に迷惑をかけるなどの理由で警察に保護された者は、表2-16のとおり、14万3,988人であり、最近の数年間ほぼ横ばいを続けている。これらの酔っぱらいのうち、アルコール中毒者又はその疑いのある者として、酩酊者規制法第7条に基づいて保健所長に通報し必要な治療を要請した者は、表2-17のとおり、2,527人となっている。

表2-16 酔っぱらい保護数(昭和45~49年)

表2-17 酔っぱらい保護者のうちのアルコール中毒者数(昭和45~49年)

 昭和49年中に酔っぱらいとして保護した者の身柄の取扱いの状況をみると、図2-17のとおり、警察の保護室等に保護した者が61.5%もあり、次いで家族や知人等に引き渡した者が37.3%となっている。
 昭和49年中に、警視庁が酔っぱらいとして保護した3万3,717人の実態を調査した結果についてみると、酔っぱらいの95.5%は男性であり、また、98.5%が成人であった。酔っぱらい保護の多い月は12月や3月であり、場所は都心の盛り場が多い。特異な例としては、酔っぱらいとして保護された回数が303回という超ベテランがいたり、保護室で大暴れを演ずる元キックボクシングの選手がいたりして係員の苦労は絶えない。
 警察では、これらの酔っぱらいがけがをしないように、またその取扱いが人権の侵害にわたらないように配慮しながら、適正な処遇に努めている。

図2-17 身柄保護の状況(昭和49年)

(3)迷い子、急病人等の保護
 昭和49年中に、酔っぱらい以外で警察で保護した者は、14万1,029人で、この内容は、図2-18のとおり、迷い子が最も多く、57.6%を占めている。
 最近5年間の保護の態様の推移は、表2-18のとおりで、迷い子が年々増加している。

図2-18 保護態様別状況(昭和49年)

 ちなみに、昭和49年中の迷い子の身柄の措置をみると、98.7%は家族等が分かり引き取られているが、1,066人(1.8%)が家族等が分からず福祉事務所、児童相談所等の関係機関に引き渡されている。
 警察では、これらの要保護者に対しては、早期に身元を調査し、家族に連絡をとる一方、適切な処置により生命、身体の安全確保に努めている。

表2-18 保護態様別年別状況(昭和45~49年)

5 地域住民とのふれあい

(1) 住民と警察との意思の疎通
 各都道府県の警察本部では、管内住民の代表者の出席を求めて「一日警察本部」等の名称の広聴会を開催し、治安状況や警察活動の実態を説明するとともに住民の意見や要望を聴き、本部長以下関係幹部が具体的に回答するなどして、警察に対する住民の理解と協力を得るよう努めている。
 また、警察署でも、管内の住民との懇談会をひん繁に開催したり、地域の各種会合へ積極的に出席したりして、警察に対する住民の意見や要望を聴き、建設的な提案については速やかに措置するなど警察活動へ反映させる努力を重ねている。
 昭和49年中に警察本部が開催した公聴会等において、住民から寄せられた要望とそれに対する警察措置のうちのいくつかを紹介すると次のとおりである。
○ 宮崎県「警察本部長と語る会」(5月19日)
 要望 国道10号線 北九州市~鹿児島市)の交差点で、出会い頭の事故が多い所があるので、そこに信号機を設置してもらいたい。

 措置 調査の結果、現場は県道が交差している国道で、県道の整備が進んでからは飛躍的に交通量が増えたものの、定時式の信号機を設置するまでには至らなかったので、新たに予算措置を講じて感応式信号機を設置したところ、その後、交通事故の発生をみていない。
○ 宮城県「民警懇談会」(7月24日)
 要望 松島が暴走族のたまり場にならないよう、取り締まってほしい。
 措置 早速、機動取締班を編成して集中取締りを実施したほか、指導警告を徹底して事件、事故の未然防止を図った。
○ 埼玉県「市民と警察の話す会」(2月17日)
 要望 地元民は警察署をよく知っているが、地元以外の者には、警察署の位置が分かりにくい。誰が見ても、一見して警察署と分かるような標示を出してほしい。
 措置 早速、地元署長と協議した結果、その必要性が十分認められたので、高さ3.3メートル、幅1メートルの照明つき標示板を設置した。
(2) 世論調査と広報紙の発行
ア 世論調査・アンケートの活用
 警察では、機会をとらえて世論調査やアンケート等を実施して住民の意見や要望を積極的に吸収し、これを警察活動に反映させるよう努力している。
 警察庁では、昭和49年7月、内閣総理大臣官房広報室に依頼して、全国の成人男女3,000人を対象とした「警察に関する世論調査」を行い、2,544人(84.4%)から回答を得たが、その内容の一つを紹介すると次のとおりである。
○ 警察に対する評価・要望
 犯罪捜査、交通の指導取締り、災害現場や雑踏等の警備、パトロール等の防犯活動の4点の質問について「大変よくやっている」及び「どちらかといえば、よくやっている」という積極的評価の回答の割合をみると、犯罪捜査65.2%、交通の指導取締り71.2%、災害現場や雑踏等の警備56.1%、パトロール等の防犯活動55.0%となっている。
 一方、警察本部で実施した世論調査等をみると、昭和49年中に、35都道府県で合計47回行われており、このうち警察独自の調査は約3分の2で、残りは県政世論調査や県政アンケートの中に警察関係のテーマを組み込んで実施している。そのうちには次のような調査がある。
○ 少年非行等の背景に関する意識調査(警視庁)
 中学生、高校生、成人等2,650人を対象に、青少年の遊び、人生観、悩み等について調査した。
○ 治安基準策定に関する住民の意識調査(神奈川県警察)
 10歳以上60歳未満の男女2,400人を対象に、犯罪への不安感、防犯対策に関する意識、警察への要望等について調査した。
○ 警察来訪者アンケート(福井県警察)
 警察への来訪者520人を対象に、警察職員の態度、服装の印象、警察への信頼度の評価、意見や要望等について調査した。
○ 警察に関する意識調査(京都府警察)
 成人男女2,000人を対象に、警察に対する評価や要望、警察官のイメージ、犯罪被害経験と捜査への協力度合い等について調査した。
○ 県政世論調査(山口県警察)
 成人男女1,200人を対象に、警察活動に対する要望、防犯連絡所の周知度、防犯診断や防犯の日の運動のあり方等について調査した。
○ 外勤警察官の勤務に関するアンケート(鹿児島県警察)
 県政モニター500人を対象に、交通取締り、犯罪捜査、外勤警察活動等における警察官の態度等について調査した。
イ 広報紙の発行
 警察署や派出所、駐在所では、広報紙を発行して住民に警察活動の実態を紹介したり、各種のお知らせ等を行っている。特に、ほとんどの派出所、駐在所では、住民との意思の疎通を図るため、地方の特色を盛り込んだミニ広報紙「派出所だより」、「駐在所だより」を発行しており、発行部数は増加の一途をたどっている。
 これらミニ広報紙は、受持警察官が多忙な勤務の合間に作成している手づくりの労作で、地域の行事、住民の善行等を含め「受持区」内の事件、事故の状況、遺失物、拾得物のニュース等地域住民の生活に密着した記事を掲載

しているため、住民の関心も高く、「回覧ではなく各家庭に配ってほしい。」「広報紙の記事は子供も素直に守ってくれる。」など、ミニ広報紙に期待する声が強い。受持警察官もミニ広報紙を巡回連絡の際の話題に活用しており、なかには受持警察官の自己紹介や住民有志の寄稿を収録して好評を博しているものもある。
 警察庁では、これら外勤警察官の努力を評価し、併せてミニ広報紙の内容と作成技術の向上を図るため、毎年1回、全国コンクールを開催しており、また、各都道府県警察でも、その充実に努めている。
(3) 各種相談業務の推進
ア 各種相談受理の体制づくり
 交通事故をめぐる困りごと、不動産取引きや金品の貸借をめぐる不安、家出人捜索願、少年問題、居住環境問題等の相談ごとなど、警察に持ち込まれる相談ごとは広範囲にわたっている。
 また、これらの相談ごとのなかには、警察活動になじまないものもあるので、警察ではこれらを窓口で選別し、警察活動の範囲内で行うことのできるものについては積極的にその解決に当たる一方、他の行政機関等にゆだねるべきものについては適当な窓口を紹介するなど、親身になって住民の相談に応ずることとしている。そのため、警察本部や警察署では住民からの要望、苦情、困りごと等の処理を一つの窓口で総合的に処理する体制をとって、相談業務に長じている職員を配置し、業務の適正処理を期している。その一部を紹介すると次のとおりである。
○ 青森県警察では、本部及び警察署に「住民コーナー」を設けて各種相談に応じており、昭和49年中に5,195件を受理し、その約94%を処理した。
○ 大阪府警察では、本部に警察相談室、警察署に警察相談所を設け、それぞれ専門の係員を置いて相談業務を行っており、昭和49年中に4万5,245件を受理し、その99%強を処理した。
○ 大分県警察では、本部及び警察署に生活相談係を置いて苦情や困りごとの相談に応じており、昭和49年中に4,459件を受理し約97%を処理した。
イ 「困りごと相談」の処理
 警察に持ち込まれる苦情や相談ごとの中で、「困りごと相談」として処理したものは、昭和49年中に約13万件を数え、前年に比べ約5,000件の増加となっている。
 昭和49年中に警察で受理した困りごと相談の主な内容は、図2-19のとおりで、離婚、内縁、相続等の身上問題、金銭貸借等の債務不履行や居住環境等の苦情の相談ごとが多い。
 これらの困りごと相談を持ちかけてくる人の年齢層をみると、図2-20のとおり、20~40歳未満層が41.8%を占めている。

図2-19 困りごと相談の内容(昭和49年)

図2-20 困りごと相談の相談者の年齢(昭和49年)

 また、職業別をみると、図2-21のとおり、サラリーマンや商店等の自営業者による相談ごとが多い。
 これらの相談ごとの処理結果は、図2-22のとおり解決と助言を合わせると90%を超え、警察の相談活動が実際に困りごとの解決に寄与している状況がうかがえる。
 更に最近では、市民の相談に応ずるため、19都道府県警察の本部や警察署

図2-21 困りごと相談の相談者の職業(昭和49年)

図2-22 困りごと相談の処理状況(昭和49年)

では、電話による相談業務を開始し、その処理体制の整備に努めている。
(4) 警察音楽隊の活動
 警察音楽隊は、昭和49年末現在、皇宮警察と都道府県警察を合わせて45隊、隊員数1,400人を数えており、日常の演奏活動を通じて“親しまれる警察”の有力な広報媒体となっている。

 音楽隊員の大部分は、他に本務をもつ兼務隊員で、厳しい勤務環境のなかにあって、常に技術の向上に努めている。
 警察庁では、昭和31年以降、全国警察音楽隊演奏会を毎年1回開催しているが、特に昭和49年は現行警察法施行20周年に当たるとともに、近代警察制度創設100年にも当たっていたので、5月17、18日の両日、21隊が参加して東京都で第19回全国警察音楽隊演奏会を開催した。両日の会場である日比谷公会堂と日本武道館はともに満員の盛況で、来場した愛好者は、各隊の競演に拍手を惜しまなかった。
 警察音楽隊は、それぞれの都道府県においても、防犯運動や交通安全運動等の警察関係行事に参加するばかりでなく、地方自治体等が主催する公共的な行事や小・中学校等で開催される音楽教室、福祉施設やへき地への慰問等にも幅広く参加して演奏を行っているが、昭和49年中は演奏回数約4,700回、聴衆約710万人を記録しており、音楽の演奏を通じて、警察に対する地域住民の理解と協力の確保に大きく貢献している。


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