第10章 警察管理

1 定員及び勤務制度

(1) 定員
 都道府県警察に勤務する警察官の数は昭和48年度において、4,500人の増員により、18万6,288人となった。都道府県別警察官定員は、表10-1のとおりである。
 この結果、現在、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で581人となっている。負担人口を欧米諸国と比較してみると、図10-1のとおりであり、我が国は、これら諸国に比べて負担が高い状況にある。

図10-1 各国別警察官1人当たりの負担人口

(2) 採用状況(男子警察官)
 警察官の採用状況は表10-2のとおりであるが、競争率は警察官増員の行われなかった昭和46年度を別とすれば、おおむね横ばいの状態であり、平均3.5倍である。これを都道府県ごとにみれば、九州、東北地方などにおいては高い競争率を維持しているが、東京都、埼玉県などの首都圏をはじめとする都市部においては、比較的低くなっている。
 こうした都市部における状況を考慮して、従来の各部道府県単位の採用試験に加えて、昭和45年からは、各都道府県が共同して募集・採用業務を行う警察官採用共同試験を実施している。

表10-1 都道府県別警察官定員(昭和48年度)

表10-2 警察官の採用状況(昭和44~48年度)

(3) 婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員
 従来、警察は「男の職場」とされていたのであるが、近時女性の特性を生かした活動も求められるようになってきた結果、現在、警察には、婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員が勤務しており、交通整理、駐車取締り、地理案内、少年補導等に従事している。最近、婦人警察官への希望者は多く、採用に際しては、高い競争率(全国平均5.0倍)を示している。
 全国都道府県警察に勤務する婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員の数は表10-3、採用状況は表10-4のとおりである。

表10-3 婦人警察官等の数(昭和48年末現在)

表10-4 婦人警察官等の採用状況(昭和48年中)

(4) 勤務制度の改善
 勤務制度、とりわけ勤務時間、休暇等の改善は、職員の士気高揚、職員の定着化、優秀な人材の確保などの点から極めて重要な問題である。
 従来から、職員の処遇改善については、給与、手当、住宅、公務災害補償などについて改善の努力が続けられてきているが、これらに比較して勤務時間や休暇、勤務外の私生活時間の確保などについては、なお不十分な点が多いのが現状である。警察庁ではこれらの勤務条件の改善と、最近民間企業で急速な普及をみせつつある週休2日制の導入等について検討するため、昭和47年9月、部外有識者からなる「警察官給与制度研究会」を設置した。同研究会は、1年余にわたる審議の結果、昭和48年12月20日、週休2日制導入の必要性、週休2日制導入の基本方針、導入の時期及び段階的導入に対する配慮、導入のための方策、給与上の措置、代休制度等について答申を行った。
 この答申により警察職員の勤務制度の改善に関する基本的指針と助言が示されたので、これに基づき警察庁に「勤務制度委員会」を設置(昭和49年1月)し、具体的な方策の検討を進めているところである。

2 教養

(1) 警察官の教養
 警察官は、広く国民の日常生活に接する立場にあり、その職務の執行に当たっては強い権限と重い責任が付与されているので、警察では、従来から警察官の教養に多大の力を注いでいる。特に、都道府県警察学校、管区警察学校、警察大学校等の各級警察学校では、新任及び現任の警察官に対し、いずれも全寮制度のもとで、警察官として必要な資質の育成と職務の遂行に必要な知識、技能の養成を図っている。
 なお、昭和47年9月に部外の有識者の参加を得て設置された「警察教養研究会」は、[1]初任教養の在り方、[2]幹部職員の養成体系、[3]専門職員の養成体系、[4]警察学校教官の養成及び選任、その他警察学校における教養について本格的な研究を進めており、昭和49年度中には、警察学校における教養の体系、内容、方法等に関する研究結果が示される予定である。
(2) 術科の訓練
 警察官は、その職務の特性から、常に充実した体力、気力を保持するとともに、職務の遂行に必要な技能を練磨しておかねばならないので、警察では、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法、救急法、体育等の各種術科の訓練を行っており、全警察官が、これらの技能に習熟できるように努めている。術科の段級位取得者の状況は、表10-5のとおりとなっている。

表10-5 各種術科の段級位取得者の状況(昭和48年4月1日現在)

 警察庁では、術科の訓練の推進を図るため、柔道、剣道、けん銃の3種目について、毎年、全都道府県警察参加のもとに全国大会を開催している。また、国外及び国内で開催される各種体育関係の大会へも、警察から多数の選手が参加しており、昭和48年中の入賞者は、表10-6のとおりである。
(3) 海外との交流
 昭和48年度は、警視庁、愛知県警察、大阪府警察等が13人の青年警察官を選抜して、FBI、ロスアンゼルス市警察、ロンドン警視庁等に派遣、3箇月間ないし6箇月間の長期の実務研修を行っている。また、新たに都道府県警察費補助金として海外研修に要する経費が認められたことに伴い、各都道府県警察の青年警察官約50人が、アメリカ等の諸都市に4週間派遣され、ニューヨーク、サンフランシスコ等で、それぞれの警察制度や警察活動の実際について研修を行っている。また、ロンドン警視庁のへンドン警察運転学校での白バイ、交通パトカー乗務員の運転訓練にも、約1箇月間、神奈川県警察、兵庫県警察、広島県警察等の警察官8人が派遣された。
 我が国の警察の術科、とりわけ柔道、逮捕術について、外国の警察官でそ

表10-6 主要な競技大会における警察参加選手の入賞者(昭和48年中)

の指導を受けるために来日する者は、昭和48年度は、アメリカから1人、セネガルから4人、マレーシアから2人あった。また、我が国の警察職員で外国に派遣され、その指導に従事する者もかなりの数にのぼっており、過去3年間の状況は、表10-7のとおりである。

表10-7 外国において柔道等の指導に従事している警察職員数(昭和46~48年度)

3 給与と福利厚生

(1) 給与
 警察官には、その職務の特殊性から、一般行政職の職員の俸給表とは体系の異なった公安職俸給表が適用されており、その初任給は、職務の複雑困難性等が考慮され、一般行政職員よりも有利に定められている。
 また、警察官は、犯人の逮捕及び交通の取締り等職務執行に当たって著しい危険を伴うなど一般に比べて特殊な条件の勤務が多いので、職種によって刑事手当、白バイ手当、鑑識手当等の特殊勤務手当が支給されているとともに、宿日直手当等についても特別の措置がとられている。
 なお、警察庁では、学識経験者等によって構成されている「警察官給与制度研究会」において警察官の給与制度の在り方について研究審議し、その報告に基づき、関係機関に要望を行って給与改善を進めている。
(2) 公務災害補償その他
ア 発生状況及び補償等の措置
 昭和48年度における都道府県警察官の公務災害及び通勤災害の発生状況は、表10-8のとおりである。
 これらの被災警察官に対しては、地方公務員災害補償法により、公務災害及び通勤災害の場合は他の地方公務員と同様の補償が行われ、特殊公務災害

表10-8 公務災害及び通勤災害の発生状況(昭和48年度)

の場合は遺族補償と障害補償について通常の公務災害の場合より50%以内増額した補償が行われている。
 なお、公務上の災害により重度障害を受け、ほとんど社会復帰が難しいと思われる症状の警察職員に対し、手厚い治療及び介護を行うための施設として東京警察病院多摩分院内に30人収容可能の警察公傷者ホームを設置することとし、昭和48年11月建築に着工し、近く開設の予定である。
イ 協力援助者災害給付
 昭和48年度中に警察官の職務に協力援助して災害を受けた人の数は、死亡8人、傷病63人の計71人である。これらの人々に対しては、警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律に基づき、公務災害補償の場合とほぼ同様の給付が行われている。
(3) 福利厚生
ア 住宅
 警察における住宅は、常時待機の体制、集団警備力の確保など警察職務の特殊性に基づく職務上の要請から建設される待機宿舎(国庫補助対象事業)、都道府県費による宿舎等があるが、警察職員の士気高揚と待遇改善という観点から重点的に推進されており、現在までに国庫補助対象事業により建設された住宅の状況は、表10-9のとおりである。

表10-9 待機宿舎建設状況

イ 宿泊保養施設等
 警察共済組合は、福祉事業として、宿泊事業、保健事業等の事業を行っているが、宿泊保養施設は全国で64箇所を所有し、年間の利用人員は、宿泊者約32万人、会議、会食、グリル利用者等127万人となっている。

4 予算

 警察予算は、国費(補助金を含む。)と都道府県費とに大別される。
 国費は、警察庁が所掌する事務を処理するために必要な人件費その他の経費と、都道府県警察に要する経費のうち、直接国庫が支弁する経費及び都道府県警察費に対する補助金をあわせて計上している。
 都道府県費は、都道府県警察の運営に必要な人件費、物件費などであるが、この経費の一部について国が補助することになっている。
 また、警察予算について、国の一般会計に占める国費(警察庁予算)の割合は、図10-2に示すとおり、おおむね0.4%であり、都道府県予算に占める都道府県警察費の割合は、図10-3に示すとおり、おおむね6.5%となっている。

図10-2 国の一般会計に占める主な経費の割合

図10-3 都道府県予算に占める主な経費の割合

 昭和48年度予算は、「70年代に対応する警察体制の確立」を柱として、地方警察官4,500人の増員をはじめ、第一線警察からの指名手配の照会を直ちに回答できる全国情報処理システムの整備などの施策を盛り込み、警察庁予算においては、図10-4のとおり、669億3,900万円(前年度568億3,600万円に比し、17.8%増)であり、都道府県警察予算においては、図10-5のとおり、6,043億5,800万円(前年度5,018億7,400万円に比し、20.4%増)となっている。

図10-4 警察庁の予算(昭和48年度)

図10-5 都道府県警察の予算(昭和48年度)

 次に、昭和49年度予算は、おおむね昭和48年度と同じく、激動と変化の時代に対応する警察基盤の整備を中心として、地方警察官4,500人の増員、警察通信の拡充整備のほか、前年度に引き続き、全国情報処理システムの充実などの諸施策が計上され、警察庁予算においては、図10-6に示すとおり、748億4,000万円(48年度669億3,900万円に比し、11.8%増)であり、都道府県警察予算においては、図10-7に示すとおり、7,495億9,200万円(48年度6,043億5,800万円に比し、24%増)となっている。

図10-6 警察庁の予算(昭和49年度)

図10-7 都道府県警察の予算(昭和49年度)

5 装備

(1) 車両
 警察車両は、刑事、保安、交通、警備の各部門における警察活動を機動化し、その迅速的確な運営を推進していくうえで不可欠の装備である。
 このため、図10-8のとおり、警察事象の量的な増大や質的な変化に対応して、計画的な拡充強化を図っている。
 警察用車両の主要なものは、捜査用車、パトカー、白バイ、交通パトカー、輸送車などであるが、捜査本部用車、緊急配備検問車、移動交番車、公害特科車、交通事故処理車、移動検問車、投光車、放水車などの特殊用途車両も保有している。
 昭和48年度においては、これらのうち所定の耐用年数を経過したものの更新のほか、特殊用途車両を中心に増強整備を行い、同年度末における保有台数は、1万7,617台となっている。また、その車種別構成は、図10-9のとおりである。

図10-8 主要車種の車両台数の推移

図10-9 警察用車両の車種別構成(昭和48年度末現在)

(2) 舟艇
 警察用舟艇は、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、湖沼などに配備し、水上のパトロール、水難者の捜索救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締りなどに効率的に運用している。
 これらの舟艇には、5トン級の小型艇から50トン級のものまであり、その整備に当たっては、使用水域や用途を考慮し、大型化、高速化を図るなど性能を高めることに努めている。
 昭和48年度においては、19隻の減耗更新と東京湾における水上警察活動の強化のため50トン艇1隻の増強建造が行われた。
(3) 航空機
 警察用航空機としては、ヘリコプターを表10-10のとおり昭和35年度から整備し、昭和48年度末現在で14機を保有している。
 これらは、警視庁、大阪、愛知、福岡、北海道、広島、宮城、愛媛などの主要都道府県警察に順次配備して、おおむね管区警察局単位での広域的運用を行っている。
 昭和48年度においても中型機1機及び小型機1機を増強整備しているが、ヘリコプターは、視界が広く、しかも、機動性に富むなど車両や舟艇にはない優れた特殊性能を保有しており、迅速、能率的な警察活動に大きな貢献をしている。また、その用途は、災害発生時の状況は握と救援救助、山岳遭難

表10-10 航空機の整備状況(昭和35~48年度)

者等の捜索救助、交通管制、高速道路網の監視、逃走犯人の捜索追跡、大規模警備事案の状況は握、公害取締りなど広範囲に及んでいる。

6 通信

(1) 日常警察活動と通信
ア 市民と警察を結ぶ110番
 110番は、従来、警察署に設置されてきたのであるが、最近では、110番による緊急、通報の受理及び処理を効率的に行うため、都市周辺の110番については、警察本部通信指令室への集中を重点的に推進している。昭和48年度には、約500回線を新設するとともに、警察署設置の約160回線を通信指令室に集中した。その結果、通信指令室へ自動的に接続される電話加入者は、全体の約70%に達している。
イ パトロール中の連絡は無線機で
 効果的な警察活動を行うためには、機動性のある通信を確保することが不可欠である。しかし、現在、パトカー等の車両(白バイを含む。)に積載している無線機は約6,800台で、全警察車両の約38%にすぎない。
 また、徒歩警察官用の携帯無線機は、現在、約1万3,000台で、警察官約15人に1台の割合となっている。
 なお、過去10年間における無線機の整備状況は、図10-10のとおりである。
ウ 全国を結ぶ警察電話
 警察電話は、全国すべての警察機関に設置しており、その電話回線は、管区警察局及び都道府県警察本部相互間は、警察自営のマイクロ多重回線で、また、警察本部と管内警察署間及び警察署と管内派出所・駐在所間は、日本電信電話公社からの専用回線で、相互につながっている。
 警察事象の広域化、スピード化に対処し、警察活動を効率的に行うために、警察電話の自動即時化が進められてきたが、現在、警察本部及び県庁所在都市等の警察署相互間では、自動即時通話が可能となっている。しかし、

図10-10 車載用・携帯用無線機整備状況(昭和39~48年度)

一般加入電話では97.8%と著しく普及している自動式ダイヤル電話機は、警察電話では、ようやく55%にすぎない状況であり、目下その自動化に努めているところである。
エ 文書や指紋はファクシミリで
 模写及び写真電送は、地名、人名、指紋等をそのまま送れること、秘匿性に優れていること等警察業務に適した通信方式である。このため、犯罪捜査活動等各種警察活動における通報連絡手段として、この方式は有効に活用されている。
 全国警察相互間におけるこれらの取扱枚数は、図10-11のとおり、警察活動の複雑、困難化に伴って、年々大幅な増加を示しており、過去10年間における年平均増加率は21%、昭和48年中の取扱枚数は約920万枚に達してい

図10-11 全国警察間電報取扱枚数の推移(昭和39~48年)

る。
 このような大量にのぼる情報を円滑に伝達させるため、各都道府県警察本部に模写電送機3台、写真電送機1台及び各管区警察局に専用の特殊自動交換機を設置し、処理を行っているところであるが、現状では、既に処理の限界に到達しているため、昭和48年度において、従来の機種の約4倍の高性能を持つ高速度模写電送装置28台を整備した。
(2) 大きな事件、事故と通信
 航空機のハイジャック事件をはじめ、デパート火災、石油コンビナート爆発事故など大きな事件、事故の発生時においては、事案に対する適切な指揮指令体制をいち早く確立しなければならず、機動性に富み、多種多様な情報を迅速に伝達し得る通信手段が必要とされる。
 このため、現地と警察本部を結ぶ通信手段として、移動無線多重電話車、可搬型臨時中継機、携帯用写真電送機、ヘリコプター用テレビ等の活用を図っている。

 昭和48年度には、これらのうち移動無線多重電話車15台及び可搬型臨時中継機17台を整備した。
 また、現場の通信手段としては、主としてパトカーや携帯用無線機等を有効に活用するほか、応急架設電話を利用している。この応急、架設用電話線は、全国に延べ820キロメートルを配備し、有事に備えている。
 なお、これらの事件、事故に際して、有・無線通信施設の仮設、調整、応急修理等、必要な通信を確保するため現場等へ出動した通信職員は、昭和48年中に延べ7万4,000人に及んだ。
(3) 広域化する犯罪と通信
 広域的な警察活動を効率的に展開するための通信手段として、現在、各都道府県警察本部に、隣接する警察の超短波移動通信を傍受できるモニター装置を設置しているほか、全国の警察本部に同時いっせいの連絡・手配等を行える斉報通信装置を設置している。
 また、高速道路上の通信連絡手段として、すでに、東名高速道路に専用の通信系を整備しているが、昭和48年度には、更に名神高速道路に専用通信系を整備した。
(4) 国際犯罪と通信
 ICPO東南アジア地域中央局としての東京無線局は、霞ヶ関通信所、中野及び小牧送信所等から成り、ソウル、マニラ、サイゴン、ジャカルタ及びバンコクの各東南アジア地域国家無線局並びにパリの中央無線局と交信を行っている。
 その取扱電報は、年々増加をみており、昭和48年中においては、約2,500通であった。
 近く、クメール、インド、オーストラリア等の各国がこの通信網への参加を予定しており、また、情報量の増大に伴い、高速度通信方式や写真、指紋を送受するファクシミリの採用等が検討されている。

7 警察とコンピューター

(1) 警察庁情報管理センター
 警察庁を中心とする全国情報処理システムは、逐年その整備が進められているが、昭和48年においては、全国警察情報管理システムの中枢施設として、1年余の歳月と12億2,000万円余の経費を投じて東京に建設中であった警察庁情報管理センター庁舎が、3月末日に完成した。
 同庁舎は、鉄筋コンクリート造り、地下1階地上6階、総床面積7,493平方メートルで、超大型級のコンピューター9台の収容能力を有するとともに、空調施設、非常用発電機等各種の設備を完備している。次いで、同庁舎では、昭和49年1月から開始したオンライン・リアルタイムによる指名手配照会業務の一部実施に備えて、リアルタイム処理用の超大型コンピューター

2台の設置を行い、警視庁、静岡、大阪の三都府県警察の照会センターに設置されたリアルタイム照会用端末装置15台と結んで、総合試験を行った。
 また、これと並行して、指名手配照会業務等の新規業務のシステム設計、プログラミング、マスターファイルの作成等の基礎的作業も着々と進めてきた。
(2) リアルタイム処理業務
 上記のとおり、リアルタイム処理業務としては、指名手配照会業務が昭和49年1月16日から、前記3都府県警察で8時間運用により開始され、同年10月からは、全都道府県警察で24時間運用により開始される。これは、指名手配内容をコンピューターに記録し、警察署、派出所、駐在所、パトカー等からの照会に対し指名手配の有無を即時に回答するものである。
 更に、昭和50年10月からは、自動車ナンバー照会業務も実施される予定となった。これは、自動車の登録番号、車台番号、車種、車名、使用者の住所、氏名等をコンピューターに記録し、第一線警察官からの照会に対し即時に回答するものである。この自動車ナンバー照会業務については、ナンバーの一部しか判明しないなどの不完全な照会に対しても回答することができる画期的なシステムにする予定である。
 なお、将来は、指名手配照会に加えて、暴力団員、家出人、犯罪前歴者等についての照会も行い、人に関する照会として総合化していく計画を検討中である。
(3) バッチ処理業務
 現在、警察庁で行っているバッチ処理業務(注)及びデータ取扱量等は、表10-11のとおりである。このうち、運転者管理センター業務については、6,000万件余のファイル量を有するとともに、年間4,000万件にのぼる大量のデータ処理を行っており、これが交通対策上に果たす役割は大きなものがある。
(注) バッチ処理は、事象の発生又はデータの発生を直ちにコンピューターに入力するのではなく、原票、紙テープなどの中間媒体の形で、一定量あるいは一定期間まとめてから、データを一括処理する方式である。

表10-11 バッチ処理業務及びデータ取扱量

 なお、将来は、これらの業務のほかに、重要な犯罪捜査資料として活用されている一指指紋をコンピューターに分類記録し、犯罪現場に残された遺留指紋との照合等を行う一指指紋照会業務についてもその実施を検討している。

8 セーフティ・ミニマム

 昨年の警察白書において、我々は警察行政の各分野に国民の要望にこたえて、警察が保障すべき安全に関する具体的水準、いわばセーフティ・ミニマムとでもいうべきものの導入を図るべきであるとの提言を行った。警察庁においては、その後セーフティ・ミニマムの策定について検討審議を重ねているところであるが、現段階まで取りまとめたセーフティ・ミニマムについての基本的な考え方及びそのねらい、策定の手法等は次のとおりである。
(1) セーフティ・ミニマムの内容
 国民にとって保障されるべき安全の領域は、生命、身体、財産の安全から、健康で文化的な生活を保障するための物質的基盤が整っていること、損失や損害に対する補償、回復のための制度、手段が整っていることなどまで広範、多岐にわたるのであるが、ここでいうセーフティ・ミニマムは、これらのうち警察の職務に関連する分野について策定されるものである。
 セーフティ・ミニマムは、国民の安全確保のために、警察が達成すべき水準を数量的に明確に定めようとするものであり、安全性に関する住民の求める水準と、専門家が現在の社会的諸条件を考慮して、将来実現可能な範囲で、かつ、最も好ましいと認めた水準とを勘案して策定されるものである。
 このセーフティ・ミニマムの策定によって、次のようなことを明確にすることができるものと考えている。
○ 具体的な安全の領域、例えば交通事故に遭わないこと、住居における平穏な生活を脅かされないこと、健全な風俗が害されないこと等各種の領域における警察の職務に関連する安全の範囲
○ これらの領域について達成すべき安全の水準
○ これらの領域について、現在どの程度安全であるかということ、換言すれば、達成すべき安全の水準に対する現在の達成率
○ 各種の領域のうち、どの領域を最も優先させて目標達成に努力すべきかという優先順位
○ 各領域がどのように相互に影響し合うかという相互関係、例えば、交通取締りのための警察官を街頭に出すことによって、交通事故の減少のほか、窃盗などの減少もみられるといった関係
(2) セーフティ・ミニマム策定の手法
 セーフティ・ミニマムの策定のためには、まず、セーフティ・ミニマムで取り上げるべき安全領域の具体的な決定が行われなければならない。そのためには、国民が安全について抱いている実感と要望を具体的には握することが必要であり、地域社会の人口、規模、密度などの特徴や地域住民の諸属性(性別、年齢、職業等)によって調査対象者を層化抽出し、アンケートによる意識調査を実施することとしている。この意識調査を参考にしたうえで、安全領域の整理分類を行って、警察行政に関係のないものや関係の浅いものを取り除き、警察として取り上げるべき安全領域の内容が決定されることとなる。次に、セーフティ・ミニマムを策定するための物差しとでもいうべきもの(指標)を作成することが必要である。つまり、取り上げた各領域について安全度がどの程度であるかを数量的に示そうとするところにセーフティ・ミニマムの眼目が存するのであるが、そのためには、安全に関する各々の項目に関し、数量化された指標を定める必要がある。この場合、犯罪の検挙率や交通事故の発生率など既存の統計資料を活用するとともに、このような資料のないものについては、特別に調査を実施して新たな統計数字の作成を行うこととしている。これらの手順を踏んだ上で、各安全領域に関し、専門家や地域住民の協力を得て、真に国民サイドに立ったセーフティ・ミニマムの策定を図っていく考えである。

9 研究体制

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全などに関する研究・実験及びその研究を応用した鑑定・検査を行っている。
 年間の研究件数についてみると、過去5年間の平均は89件、昭和48年は98件(うち新規は34件、前年度からの継続研究が64件)であった。昭和48年中の研究のうち、主なものは表10-12のとおりである。
 研究の成果は、混合体液からの血液型判定、飲酒検知法、放射化分析によ

表10-12 科学警察研究所の主要研究例(昭和48年)

る毛髪その他の異同識別、削り取られた刻印の顕出法など鑑識技術として生かされているほか、「現存暴力団の実態(第1次~第4次)」、「交通現象調査に関する資料」などの論文として発表されている。
〔研究例〕 「におい」の研究
 従来、警察犬のきゅう覚に頼ってきた「におい」による犯罪捜査を科学的合理的に行うため、生物体又は種々の物質から発する「におい」の成分を捕集、濃縮して分析する方法を研究中である。現在まで、独自に考案した「におい」成分濃縮装置と高感度の分析機器との組合せにより、「におい」を発した動物の種別を判定するまでに至っており、実際の鑑定に応用することも可能である。
 次に、鑑定・検査についてみると、科学警察研究所では、都道府県警察で行えない高度の技術を要する鑑定・検査を行っており、その状況は図10-12のとおりである。  また、以上に述べたほか科学警察研究所では、都道府県警察の鑑識技術の向上を目的とする各種講習会の開催や、都道府県警察及び外国政府の職員に

図10-12 科学警察研究所の鑑定・検査件数(昭和39~48年)

対する研修も行っている。なお、警察のポリグラフ検査担当者は、科学警察研究所における講習終了者に限られている。
(2) 警察通信学校
 昭和48年度における研究活動は、カラー写真を送受信する装置の調査研究、データ通信回線総合試験システムの調査研究、応急用無線電話機など第一線警察活動に密着した各種通信機器の開発研究等を実施した。
 今後の研究活動は、情報化時代に対応して、警察情報即時処理用データ通信システムに関する研究をはじめ、交通管制システムや自動動態表示システム等を総合した指令通信システムに関する研究など、一層広範な知識と高度な技術を要請されるところから、研究体制の充実強化を図ることが必要である。


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