第7章 交通安全と警察活動

1 道路交通の概況

(1) 自動車交通をめぐる諸情勢
 年々増加し続ける我が国の自動車保有台数は、昭和48年中に281万台増加して、年末には2,618万台に達し、国民4.2人に1台の割合となった。運転免許所持者数は、同年末に3,078万人と3,000万人を突破し、16歳以上の運転免許適齢者2.6人に1人の割合となった。このように、自動車は、国民生活に密着した存在となり、人と物の輸送に大きな役割を果たしている。
 自動車保有台数、運転免許所持者数などについて、過去10年間の推移をみると、図7-1のとおりであり、モータリゼーションの急速な進展を示している。
 しかし、他面において、自動車交通の急速な発展は、国民の生活環境に種々の弊害をもたらしており、近年大きな社会問題として、その対策が急がれている。交通事故による死者数をみると、昭和48年には、著しい減少を示したものの、なお1万4,574人の多数にのぼり、また、交通渋滞による輸送効率の低下や、交通騒音、排出ガスによる環境悪化も各地で顕著になりつつある。
(注) 本章において使用する統計上の数字は、特に明示のない限り、昭和47年1月1日以降の沖縄県の数字を含む。
ア 乗用自動車の増加
 我が国の自動車保有台数は、図7-1のとおり、急激に増加しているが、なかでも乗用自動車の増加が目立っている。昭和48年の乗用自動車保有台数は、昭和39年の8.7倍となり、全車種に占める割合も55.8%と、昭和39年の構成率24.7%の倍以上に上昇している。
 しかしながら、我が国の乗用自動車の構成率は、表7-1のとおり、欧米諸国がおおむね80%以上であるのに対して、相当低い水準にある。すなわち我が国の場合、依然として貨物自動車の比重が高く、このことが、我が国の事故類型を特徴づけ、独特の混合交通の流れを生み出す要因となっている。

図7-1 自動車保有台数、運転免許所持者数等の推移(昭和39~48年)

表7-1 諸外国における自動車保有台数

イ 自動車輸送の増大
 輸送機関別の輸送量の推移は、表7-2のとおりであり、自動車による旅客輸送(人キロ)について、昭和38年度と47年度を比較すると、輸送量で3.7倍に、輸送分担比率は、28%から51%に増大している。
 また、自動車による貨物輸送(トンキロ)についても、昭和38年度に比べ3.7倍の増加であり、輸送分担比率は23%から45%に増加している。
 このように、旅客、貨物のいずれの輸送面においても、自動車の役割が大きくなり、しかも年々増大の傾向にある。
ウ 石油危機と自動車交通
 昭和47年度中に自動車が消費した燃料費は、全燃料油の18%(ガソリンの98%、軽油の91%)であった。自動車燃料消費量の推移をみると、表7-3のとおりであり、昭和47年度を昭和43年度と比較すると、ガソリン消費量は51%、軽油消費量は41%増加している。
 昭和48年10月にぼっ発した第四次中東戦争に際して、OAPEC(アラブ石油

表7-2 輸送機関別輸送量の推移(昭和38~47年度)

表7-3 自動車燃料消費量の推移(昭和43~47年度)

輸出国機構)のとった石油供給削減措置は、石油全消費量の99.7%を輸入に依存している我が国に深刻な影響を及ぼした。
 この緊急事態に対処するためにとられた石油節減策の一環として、不要不急のマイカーを自粛し、休日のマイカードライブの高速道路への乗り入れを自粛する運動が展開され、表7-4のとおり、年末における交通量の減少がみられた。また経済速度での走行が呼びかけられたことともあいまって、交通流の安定化という現象が全般的にみられた。
 また、乗用車及びトラック輸送のエネルギー効率は、バス、鉄道等の大量輸送機関に比べて相当低いことから、省資源型の交通体系の整備が、長期的な課題として見直されている。

表7-4 自動車交通量の変化(昭和47、48年)

(2) 交通事故の特徴
ア 3年連続の減少
 昭和39年以降の交通事故の推移は、図7-2のとおりであり、昭和46年以降3年連続して、発生件数、死者数、負傷者数ともに減少している。特に、昭和48年の死者数は、1万4,574人と昭和43年以降初めて1万4,000人台に減少し、前年に比較して1,344人減と昭和37年に次ぐ史上2番目の減少数を示した。また、負傷者数については、対前年比9万9,250人減と史上最高の減少数を記録した。

図7-2 交通事故の推移(昭和39~48年)

イ 死者の半数は歩行者と自転車利用者
 状態別の死者数の推移は、表7-5のとおりである。昭和48年は前年に比べ、歩行中と自転車乗車中の死者数は若干減少しているが、全体に占める構成率は、それぞれ36.9%、11.7%であり、両者で全死者数の48.6%と、依然として高い割合を占めている。

表7-5 状態別死亡事故の推移(昭和46~48年)

ウ 最も危険な17歳
 昭和48年中の人口10万人当たりの男子死者数を、年齢別、状態別にみると、図7-3のとおりである。年齢別では3~5歳の幼児、16~18歳のハイティーン、70歳以上の老人層が比較的高い死者率を示しているが、最も高いのは17歳の54.2人で、最も低い14歳の3.6人の15倍である。また、状態別の

表7-6 原因別死亡事故発生の推移(昭和46~48年)

中で二輪車、原付運転中の死者率が最も高いのは、17歳で、これが17歳の死者率を高くしている主要な原因である。自動車運転中の死者率は、免許適齢の18歳から急に高くなり、20歳で最高となっている。
エ 減らない酒酔い運転
 死亡事故を原因別にみると、表7-6のとおりであり、昭和48年中の死亡事故のうち、酒酔い運転、最高速度違反、わき見運転による事故が、構成率でそれぞれ8.6%、11.4%、12.3%、合計で32.3%と依然高い割合である。なかでも、酒酔い運転と最高速度違反の構成率が、ここ3年間漸増しているのは、注目すべき傾向である。
オ 人口集中地区では交差点が危険
 昭和48年中の死亡事故を形態別、道路形状別にみると、表7-7のとおり

表7-7 形態別・道路形状別死亡事故発生状況(昭和48年)

図7-3 状態別、年齢別人口10万人当たりの交通事故死者数(男)(昭和48年)

である。
 市街地では、死亡事故の43.5%、人口集中地区では26.0%が発生している。また、人口集中地区での死亡事故のうち、その半分以上が、交差点やその付近で発生しており、人口集中地区では、交差点が特に危険であることが分かる。他方、非市街地においては、単路部分で、死亡事故が最も多く発生しており、これは、全死亡事故の41.9%にも及んでいる。
カ 多い貨物自動車関与の死亡事故
 昭和48年中の交通事故死亡者を当事者区分別の組み合せでみると、表7-8のとおりである。

表7-8 当事者区分別の組合せによる交通事故死者数(昭和48年)

 これによると、歩行者対乗用自動車による死者が、2,595人(21.7%)と最も多いが、歩行者対貨物自動車による死者が、1,898人(15.9%)とこれに次いでいることが注目される。
 貨物自動車が、当事者として関与した事故死者数は、5,482人で、このうち34.6%が歩行者を相手方とするものである。また、自動二輪車、自転車の関与した死者数をみると、貨物自動車を相手方とするものが最も多く、自動二輪車や自転車にとって貨物自動車が危険な存在であることが分かる。
キ 都道府県間の格差
 都道府県別に昭和48年の死者数を前年と比較すると、42都道府県で減少したが、京都で横ばい、岩手、秋田、熊本、沖縄で増加した。
 全国の死者数が最高に達した昭和45年を境として、前後3年間の10万人当たり死者数の増減率を図示したものが、図7-4である。昭和42年から48年にかけて増加の傾向にあるのは、熊本ほか8県であるが、減少傾向に転じた都道府県の中でも減少率に格差のあることが分かる。例えば、福岡と神奈川は、昭和42年から45年にかけてはほぼ同じ増加率を示していたが、昭和45年から48年にかけては、後者の減少率が上回っており、都市の交通環境の格差がうかがわれる。
 なお、昭和48年の都道府県別の人口10万人当たりの死者数は、図7-5のとおりであり、死者数が20人を超えている県は、前年は12県であったが、昭和48年には5県に減少している。
(3) 都市交通
 大都市においては、交通事故の多発や、交通渋滞の慢性化、自動車排出ガス、騒音などにより生活環境が悪化している。しかも、これらの現象は大都市ばかりでなく、程度の差はあっても地方都市にまで広がりつつある。
ア 都市別の交通事故率の格差
 昭和48年中の全国の交通事故による死者数は大幅に減少し、47都道府県中増加した県は、わずか4県にすぎない。しかし、全国の人口10万人以上の都

図7-4 人口10万人当たりの死者率の増減傾向(都道府県別)

図7-5 都道府県別人口10万人当たり死者数(昭和48年)

市168市についてみると、死者数が、前年と比べて増加した市が59市、減少した市が98市、増減なしの市が11市となっており、約3分の1の市において増加している。しかも、大都市における死者数の全国死者数に占める割合は、表7-9のとおりおおむね漸減しており、死亡事故が地方都市へ拡散している傾向がうかがわれる。

表7-9 10大都市の交通事故による死者数の推移(昭和45~48年)

 また、人口20万人以上の83市について、人口10万人当たりの死者数を比較すると、表7-10のとおり、最高は福山市(広島県)の23.5人、最低は東京23区の4.2人であり、その差は5.6倍に及んでいる。
 同様に、人口10万人以上20万人未満の85市については、表7-11のとおり、最高が小山市(栃木県)の34.3人、最低は三鷹市(東京都)の0.6人と、その間には実に57倍の開きがある。
 このように、交通事故による死者の発生率が都市によって著しく異なるという現象は、全国の同じような都市の中で、交通安全水準に大きな格差があ

表7-10 人口20万人以上の都市の交通事故死者の比較(昭和48年)

表7-11 人口10万人以上20万人未満の都市の交通事故死者の比較(昭和48年)

ることを意味している。
 これらの都市別の交通事故の発生状況は、一般的にその都市の地域内交通に対して通過交通の量が多くかつその両者が混在している都市では、事故率が高く、逆に大都市周辺の住宅都市のように通過交通量が少ない都市では、事故率が低いという傾向を示している。
イ 交通渋滞
 交通渋滞は年を追って激化しており、しかもそれは地方都市にまで及びつつある。
 東京都の場合、過去9年間の道路面積、自動車保有台数及び交通渋滞の発生状況の相関関係は、図7-6のとおりであり、自動車1台当たりの道路面積の減少に伴い、交通渋滞の発生は増加している。

図7-6 交通渋滞発生状況の推移(東京都)(昭和40~48年)

表7-12 公営バスの走行速度の推移(昭和35~47年)

 また、大都市においては、交通混雑等のため、表7-12のとおり、公営バスの走行速度が次第に低下してきている。
(ア) 渋滞時間帯の拡大
 交通渋滞の現状について、東京を例にとると、昭和48年中の都内主要交差 点268箇所の1日平均渋滞時間は817時間であり、前年の783時間に対して4.3%の増加となっている。また、時間別交通渋滞発生状況は図7-7のとおりであり、渋滞時間のピークは午前中が10時30分から11時30分の間で、午後は15時30分から16時30分の間となっている。

図7-7 時間別交通渋滞発生状況(東京都)(昭和48年)

(イ) 渋滞の発生原因
 交通渋滞の発生原因は、東京では全体の92%が、また大阪では全体の60%が自然発生によるものであり、いずれも道路の容量を超えた自動車が集中していることが原因である。
 また、最近においては、レジャー目的の交通による渋滞が都市交通にも影響を及ぼし、これが新たな形態の渋滞として注目されている。
(ウ) 都市高速道路の渋滞
 自動車の高速交通を目的として建設された都市高速道路においても、交通量の増加によって、年々渋滞が激しくなっている。例えば、首都高速道路における過去5年間の渋滞発生状況と1日平均交通量(料金所通過車両数)の推移は、図7-8のとおりである。

図7-8 首都高速道路の1日平均渋滞時間及び1日平均交通量(昭和44~48年)

(4) 交通公害
ア 騒音と振動
 自動車の通行に伴って発生する騒音や振動による被害は、市街地や幹線道路の沿線はもとより、周辺の住宅地域にも広がりつつあり、昭和48年中に警察が受理した関係住民からの苦情や陳情は、騒音に関するもの4,357件、振動に関するもの578件に及んでいる。騒音は、その発生源からの距離、走行速度、エンジンの構造等によって左右されるため、総合的な防止対策が必要であり、警察においても速度規制の強化、通行区分の指定等各種の交通規制を実施している。
〔事例1〕 昭和48年3月、東京都内の環状7号線の騒音を防止するため、午前0時から5時までの間、図7-9のような通行区分の指定を行い、大型車は中央寄りの車両通行帯を通行しなければならないこととし、更に、信号制御による速度抑制方式(毎時50キロメートルの速度で走れば、ノン・ストップで走行できるという信号制御の方式)を採用しているが、その結果、環状7号線沿線の深夜騒音は、6~7ホン減少した。

図7-9 環状7号線の交通規制

〔事例2〕 昭和48年7月、神戸市、芦屋市、西宮市及び尼崎市を通過している国道43号線の沿線地域の騒音、振動対策として、信号機を系統化し、速度規制(毎時50キロメートル)を実施した。その結果、振動については、各市とも著しく減少しており、特に神戸市においては、ほぼ半減するという顕著な効果が現われている。
イ 大気汚染
 自動車の排出ガス中には、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)等が含まれており、これらは大気汚染の一因となっている。これら第1次汚染物質については発生源対策に並行して、交通規制による交通総量の削減、道路環境の整備、都市施設の再配置等の関連対策が推進されている。
 光化学スモッグは、昭和45年以来各地に続発しており、また第2次汚染物 質であるオキシダントについても、表7-13のとおり、注意報発令回数が全国的に急増するとともに、発令地域が拡大している。
 警察としては、このような大気汚染防止のために、各都市の総合交通規制計画に基づいて、交通量を削減し、交通の流れのパターンを改善することにより、良好な居住環境の実現に努めている。
〔事例〕 昭和48年2月、東京都においては、青梅街道の五日市街道入口から柳窪交差点までの2.8キロメートルの区間について、一酸化炭素による大

表7-13 オキシダント注意報発令回数の推移(昭和45~48年)

気汚染を防止するため、午前7時~9時、午後5時~9時の間、3トン以上の貨物自動車の通行禁止、駐車禁止などの交通規制を実施した。
ウ 破壊される自然環境
 自然環境地域における道路の整備が進むにつれて、自動車を利用した観光客が急激に増加しており、植物生態の破壊等自然環境の悪化が問題となっている。これらの地域において、警察としても、自動車の乗り入れ制限を含めた諸対策を積極的に進めている。
〔事例〕 奈良県においては、奈良公園の自然環境悪化を防止するため、毎年4月、5月、10月、11月中の日曜、休日の午前10時から午後5時までの間、延長約2,500メートルの道路を対象として、車両通行止めの交通規制を行っている。

2 交通規制と交通安全施設の整備

(1) 交通規制の推移
 道路交通法による交通規制は約30種類あるが、そのうち、最高速度、駐(停)車禁止、一方通行など主な交通規制について、昭和48年3月末現在の実施状況をみると、表7-14のとおりである。駐停車禁止路側帯、歩行者用路側帯、歩行者用道路及び自転車通行可歩道の延長は、昭和46年3月末に比べて、それぞれ、4.4倍、4.9倍、2.2倍、2.1倍と著しい増加を示しているが、これは、歩行者と自転車利用者の保護を目的とした規制を重点的に実施したことによるものである。また、最近、都市内の交通量を抑制する趣旨から、駐車規制が強化され、これに伴って、パーキング・メーターが多数設置された。このほか、バスの優先通行を確保するためのバス専用・優先通行帯も大幅に増加しており、今後、更に拡大することが予定されている。
(2) 歩行者と自転車利用者の保護
ア 各地に広まるスクール・ゾーン
 幼児や児童は、交通事故の被害者となる率が高いため、幼稚園、保育所、小学校などの周辺では、特にその保護に努める必要がある。スクール・ゾー

表7-14 主要交通規制の推移(昭和46~48年)

ンとは、これらの施設を、中心とする半径約500メートル以内の地域を設定して、速度規制、歩行者用道路など各種の交通規制をシステム的に組み合わせ、地域ぐるみの交通安全活動を実施しているものである。
 このスクール・ゾーンは、昭和47年春の全国交通安全運動以来、全国的に推進されてきており、昭和48年11月末現在、全国で1万9,159箇所となっている。
 スクール・ゾーン内における交通規制の実施状況は、表7-15のとおりであり、ゾーン内の道路総延長に対する規制実施率は、速度規制32.0%、歩行者用道路5.9%などと、全国平均に比べて、相当高い数値を示している。

表7-15 スクール・ゾーン内における交通規制実施状況(昭和48年11月末現在)

 昭和48年中に、スクール・ゾーン内で発生した交通事故の状況は、表7-16のとおりであり、スクール・ゾーン設定前に比べて大幅に減少している。
イ 歩行者用道路の拡大
 我が国では、自動車交通に適しない幅員3.5メートル未満の未改良道路が、実延長の55.5%を占めている。このような狭い道路からは、自動車交通を排

表7-16 スクール・ゾーン内における交通事故発生状況(昭和48年11月末調べ)

除又は削減して、歩行者が安全に通行できるようにすることが必要である。
 昭和48年は、狭幅員道路のほか、通学通園や買物に使われる生活道路についても、歩行者用道路としての交通規制を推進し、地域居住環境の改善を図った。
 歩行者用道路の設定状況は、表7-17のとおりであり、昭和48年12月末現在における全国の総延長は、5,633キロメートルである。

表7-17 歩行者用道路の設定状況

ウ 自転車利用の促進
 自家用乗用車の普及に伴い、ごく短距離の移動にも自動車が利用される傾向にあり、そのことが都市の道路交通事情を一層悪化させている。
 これに対して、短距離交通手段としての自転車の機能を再評価し、通勤、通学、買物などの日常生活における自転車の利用を促進することが、交通総量削減の有効な手段として期待されている。
 そのためには、自転車が安全に通行できる道路網の確保や自転車駐車場の整備が不可欠であり、昭和48年7月以降、全国64のモデル都市を対象とし て、自転車安全利用3箇年計画が策定され、現在、実施に移されつつある。
 モデル都市における自転車道整備のための事業計画は、表7-18のとおりであり、公安委員会が行う事業の延長は、全国で6,680キロメートルとなっている。

表7-18 モデル地域における自転車安全利用計画(昭和48~50年度)

(3) 都市総合交通規制の展開
 都市交通問題を根本的に解決するためには、都市構造の改善、交通需要に見合った交通手段の確保など、根源にさかのぼった対策が必要であることはいうまでもないが、これらの対策は、事柄の性格上、早急な実施を期待できず、当面の解決策として、比較的早急にできる交通規制に対する期待が高まりつつある。最近の都市においては、道路交通事情の悪化が著しく、従来の個別的な地点、路線を対象とした個々の規制のみによっては、安全で円滑かつ公害のない道路交通環境の実現が困難になってきている。都市総合交通規制は、このような都市の交通事情に着目して、都市の交通の流れの実態は握に基づいて、自動車交通総量の削減、道路利用の合理的配分及び交通流のパターンの改善を目的とした各種の規制を組み合わせ、システム的な交通規制 を実施しようとするものである。
ア 交通総量の削減
 都市の自動車交通量が、その適正容量を超えている場合には、自動車交通のうち不要不急のものを抑制し、これを他の交通手段に転換させることが必要である。その対策の一環として、都心部を中心とする面的駐車規制、バス優先対策等により、都市の自動車交通量の削減を図っている。
 駐車規制については、従前の路線単位から地域単位へと面規制を強化しつつあり、これによって、路上駐車スペースを減少させ、自動車交通の抑制を図っている。警視庁においては、都心流入交通量を削減するため、昭和47年8月の都心3区内(40.8平方キロメートル)全面駐車禁止に引き続き、昭和48年7月これを135平方キロメートルの中心地域にまで拡大したが、その効果は表7-19のとおりである。

表7-19 駐車実態調査結果(明治通り、山手通り以内)

 バス優先対策としては、バス優先、専用レーンやバス以外の車両通行禁止などの規制があり、昭和48年12月末現在の実施状況は、表7-20のとおりである。これらのバス優先対策の実施によって、表7-21のとおり、バス走行時間の短縮や利用客の増加などの効果が現われている。
 また、バスレーンの設置が不適当な場所等においては、バス優先信号によ

表7-20 バス優先(専用)レーン等の実施状況(昭和48年12月末現在)

表7-21 バス専用レーンの効果

り、信号停止時間の短縮が図られている。バス優先信号は、超音波等によってバスを選別し、速やかに交差点を通過させるような信号制御方式であり、愛知県では、昭和48年12月から、1路線9交差点において運用を開始しているが、信号待ち時間が48.6%、運行時間が11.8%短縮されたほか、運行間隔が規則的になるなどの効果をあげている。
 これらの施策を効果的に進めるためには、都市計画の段階で、公共輸送システムとの関連を考慮して、団地、事務所等の施設配置を行っていくことは もちろん、バスの増発、終バスの時間延長、乗降方法の改善など、幅広いサービスの改善を併せて行うことが必要であり、このことを関係方面に要請している。
イ 道路利用の合理的配分と交通流のパターンの改善
 都市の交通事故や交通混雑の主な原因は、通過交通と地域交通の混在と高速車、中速車、低速車の混在により、交通流が不安定な状態になっているところにある。したがって、都市内の道路を、通過交通用、地域交通用、地域の日常生活用等機能別に分類し、これに応じて、指定方向外進行禁止、一方通行、通行禁止等の規制(アクセス・コントロール)を行い、道路の機能に応じて交通量を配分するとともに、流れのパターンを最適化することが必要である。都市総合交通規制は、現在、各都道府県警察において、それぞれ具体的計画を策定し、実施に移しつつある。
〔名古屋市における都市総合交通規制の事例〕
 愛知県警察は、昭和47年10月から、3箇年計画で、名古屋市を対象とした都市総合交通規制を開始した。具体的には、次の施策を実施した。
○ 右左折禁止、中央分離帯閉鎖、一方通行等によって、環状線を通過交通用に整備し、都心部を通過している交通を環状線に誘導する。
○ 事故多発地域を対象とするユニット規制(組合せ規制)、小学校周辺を対象とするスクール・ゾーン規制によって、生活圏域の安全を確保する。
○ 面的駐車禁止とバスレーンの拡大によって、都心部に流入する自動車交通量を削減する。
○ ルートナンバーシステム及び交通管制センターの整備によって、通過交通を幹線道路に誘導し、生活道路への流入を抑制する。
 以上のような施策の結果、昭和48年11月現在、前年同期に比べ、朝のピーク1時間に都心に流入する自動車が15.8%、スクール・ゾーン規制地区内の交通事故死者が58.5%、騒音が3ホン(12地点平均)とそれぞれ減少するなど多くの成果をあげている。
(4) 交通管制センター
ア 21都市に設置
 交通管制センターは、交通安全施設等整備事業五箇年計画により、昭和50年度までに全国で28都市に整備されることになっている。
 昭和48年度には、水戸、浦和、岐阜、名古屋、和歌山、熊本、鹿児島の7都市に新たに設置され、この結果、昭和48年度末現在、21都市に交通管制センターが置かれている。
 交通管制センターは、都市交通の流れを安全かつ効率的に誘導するため、電子計算組織によって信号機や道路標識を広域的に操作する交通管制システムの中枢となるものである。
イ 効果
 交通管制センターを設置した都市においては、走行時間の短縮、交通事故の減少、排出ガス及び燃料消費量の減少など多くの効果をあげている。
(ア) 走行時間の短縮
 札幌市を例にとると、表7-22のとおり、運用開始後の平均走行時間は運用開始前に比べて16.4%短縮され、平均停止回数は38.3%減少した。

表7-22 走行時間の短縮効果(札幌市交通管制センター)

(イ) 交通事故の減少
 同じく札幌市の交通管制センターの例であるが、管制区域内の交通事故を 運用開始の前後各1年間についてみると、表7-23のとおり、発生件数で25.7%、死者数で45.0%、負傷者数で25.3%の減少となっている。停止回数の減少等による交通の流れの円滑化が事故防止に寄与しているものとみられる。

表7-23 運用開始前後の事故発生状況(札幌市交通管制センター)

(ウ) 排出ガスと燃料消費量の減少
 交通管制システムは、排出ガスの減少にも好影響を与えている。例えば、横浜市の交通管制センターの適用開始後の排出ガスは、表7-24のとおり、一酸化炭業(CO)、炭化水業(HC)とも、それぞれ14%以上減少している。

表7-24 排出ガスの減少効果(横浜市交通管制センター)

 また、警視庁の実験結果をみると、円滑な走行状況下における排出ガスは、表7-25のとおり、一酸化炭素、炭化水素、二酸化炭素とも20%以上減少し、燃料消費量も21%減少している。

表7-25 排出ガスと燃料消費量の比較(警視庁による実験結果)

(5) 交通安全施設の整備
ア 五箇年計画
 昭和46年度を初年度とする交通安全施設等整備事業五箇年計画(表7-26)に基づき、安全施設の整備充実に努めている。
 昭和48年度における交通管制センター、信号機など国が補助する特定事業の実施計画は、表7-27のとおりであり、事業費は160億7,200万円で、昭和47年度に比べて約33%増加している。
 なお、このほか、地方財政計画上予定された道路標識や道路標示の地方単独事業費は、199億円である。

表7-26 交通安全施設等整備事業五箇年計画(昭和46~50年度)

表7-27 交通安全施設等整備事業実施計画(特定事業)(昭和48年度)

イ 信号機の整備状況
 全国の信号機設置数は、表7-28のとおりであり、昭和48年度末で、4万6,824基が設置されている。
 昭和47年中に信号機を設置又は改良した場所について、その前後各6箇月間の交通事故発生状況を比較した結果は、表7-29のとおりである。

表7-28 信号機の整備状況の推移(昭和40~48年度)

表7-29 信号機の効果

 信号機を新設した場合、歩行者事故で82.5%、車両事故で70.1%それぞれ死者数が減少している。
 また、信号機を系統化した場合には、歩行者事故で51.9%、車両事故で48.9%死者数が減少しており、系統化が、交通の円滑だけでなく、安全に寄与するところも大きいことを示している。

表7-30 道路標識・道路標示整備状況(昭和46~48年度)

ウ 道路標識と道路標示
 全国の道路標識と道路標示の設置状況は表7-30のとおりである。
 道路標識は視認性を確保するため、原則として全面反射式のものを採用するとともに、交通量の多い主要幹線道路を中心に、燈火式、大型路上式、可変式など道路環境に適したものを積極的に導入している。
 道路標示については、歩行者の安全上必要な場所に横断歩道、路側帯を設置するほか、交差点における右左折の方法、進行方向別通行区分、停止線などの表示を増設し、常に鮮明さを保つように努めている。

3 交通指導取締りと交通事故捜査

(1) 事故抑止につながった交通指導取締り
 交通事故の死者数を年間1万5,000人以下に抑えるという目標を達成するため、昭和48年中は警察の総力を挙げて交通指導取締活動を強化した。その結果、交通違反の検挙(告知)件数は、815万6,440件で、前年に比較して11.4%増加し、他の諸施策とあいまって交通事故死者を大幅に減少させることができた。
 昭和48年中における罪種別交通違反取締状況は、表7-31のとおりであり、運転者の違反種別では、最高速度違反が37.5%と最も多く、次いで駐停

表7-31 罪種別交通違反取締状況(昭和47、48年)

車違反が21.8%で、この二つの違反で全体の59.3%を占めている。また、前年比では、最高速度違反、追越違反、歩行者保護義務違反など死亡事故に直結する違反の検挙(告知)件数の増加が目立っている。
 検挙(告知)件数と交通事故発生状況との関係をみると、図7-10のとおりの傾向を示し、交通指導取締りのもつ事故抑止効果がうかがわれる。

図7-10 交通取締りと交通事故死傷者数との関係(昭和23~48年)

(2) 主な違反の取締り
ア スピード違反
 死亡事故を抑止するためには、適正な速度で走行させることが効果的であるので、白バイやパトカーによる取締りのほか、レーダースピードメーターなどの新しい器材を活用して、取締りの強化を図っている。
 最高速度違反の内容は、表7-32のとおりであり、指定速度違反の検挙が増加しているのは、都市部を中心とした速度規制の強化に伴うものである。

表7-32 最高速度違反の取締状況(昭和47、48年)

イ 駐車違反
 都市交通の効率化と事故防止のため、駐停車規制が強化されているが、この取締状況は、表7-33のとおりである。近年は、単に駐停車違反を取り締まるだけではなく、悪質な違法駐車車両については、レッカー車による排除を強力に行っている。

表7-33 駐停車違反の取締状況(昭和44~48年)

ウ 自動車排出ガス
 自動車排出ガスのうち、一酸化炭素(CO)については従来から取締りの対象としていたが、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)についても、昭和48年5月1日から減少措置が義務づけられ、取締りの対象となった。
 規制強化後の自動車排出ガス取締状況は、表7-34のとおりである。これ

表7-34 自動車排出ガスの取締状況(昭和48年5~12月)

表7-35 警視庁における変形ハンドル取付け車の取締状況(昭和48年)

らの取締り等の結果、HC、NOxの規制については、昭和48年5月から12月の間、検査対象となった車両の97.1%が、規制適合車両であった。
エ 変形ハンドル車
 昭和48年秋、東京を中心に自動二輪車の変形ハンドルが流行し、変形ハンドル車の事故が目立った。
 同年10月11日警視庁交通安全指導所における操縦安定性試験により、変形ハンドル車の危険性が明らかとなったので、11月から東京を中心にその指導取締りに乗り出した。その結果、マスコミのキャンペーンにも支えられて、表7-35のとおり、変形ハンドル車はほとんど見られなくなった。
(3) グループ化の進む暴走族
 昭和38年ごろから、スピードとスリルを求めて車を乗り回す若者達が現われ、「カミナリ族」と呼ばれた。昭和47年ごろからは二輪車のみでなく四輪車も使用し、見物の群衆と結びついて、異様な騒ぎを巻き起こすようになり「暴走族」とか「狂走族」と呼ばれるようになった。
 更に、最近はグループ化が進んでおり、グループ同士の対立抗争事件まで発生するに至っている。昭和48年末現在の暴走族のグループ化の実態は、表7-36のとおりである。
 これに対して、警察としては交通部門のみならず、総合力を発揮した体制により、暴走族騒ぎの予防鎮圧、不法事案の検挙とグループの解体に努めている。

表7-36 暴走族の規模別グループ数(昭和48年末全国)

(4) 親しまれる交通巡視員
 交通巡視員制度は、歩行者の保護と駐停車規制の指導取締りを中心任務として、昭和45年8月誕生し、昭和48年末現在の定員は、全国で4,520人である。
 いわゆるミニパトを利用した交通巡視員の指導取締りは、街頭に明るさを添える一方、駐停車違反の検挙(告知)にも大きな役割を果たしており、交通巡視員による検挙(告知)件数は、全体の33.6%を占めるに至っている。
 朝夕は、子供や老人の保護誘導活動に専従しており、小学校や幼稚園において、自作の紙芝居、腹話術、スライドを活用して交通安全教育に努めており、各地で親しまれる存在となりつつある。

(5) 交通事故の捜査
 昭和48年中の交通事故(過失)事件の送致件数、送致人員は、表7-37のとおりであり、送致件数は53万8,192件、送致人員は57万3,591人となっている。

表7-37 交通事故(過失)事件の送致件数・人員(昭和47、48年)

 また、罪種別の送致状況は、表7-38のとおりであり、業務上過失致死傷罪が圧倒的に多いが、交通事故を故意に起こしたものや、衝突後の引きずり行為に未必の故意が認められたものなど、殺人罪、傷害罪で送致したものが84件もある。

表7-38 交通事故事件の罪種別送致件数(昭和48年)

ア ステレオカメラで迅速処理
 大量に発生する交通事故事件を効率的に捜査するため、ステレオカメラの活用を図っている。
 昭和48年末には、全国の主要警察署にステレオカメラ車272台が配置されており、ステレオカメラ車の出動件数は、17万2,837件にのぼっている。
イ ひき逃げ事件
 ひき逃げ事件の発生と検挙状況は、表7-39のとおりである。死亡ひき逃げ件数は減少したが、ひき逃げ総件数は、逆に若干増加している。ひき逃げ事件を装った殺人事件(4月兵庫、11月函館、埼玉)、死体を自動車のトランクに詰めて運び公園に埋めた事件(3月岩手)など残忍悪質な犯行や、巧

表7-39 ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和47,48年)

妙な擬装工作を行う事件も目立っている。
 ひき逃げ事件の検挙率は、おおむね横ばいの状況にあり、昭和48年の検挙率は86.0%、そのうち死亡ひき逃げ事件は84.2%となっている。
ウ 背後責任の追及
 多発する交通事故の中には、単に運転者の責任のみでなく、雇用者や連行管理者の責任が大きい場合もある。こうした実情から、違反や事故について現象面のみの処理にとどまらず、運転者の行為の背後にある潜在的な要因を追及していくことが極めて重要である。
 雇用者、安全運転管理者などの義務違反の取締状況は、表7-40のとおりであり、昭和48年中には1万6,275件を検挙している。

表7-40 雇用者、安全運転管理者等の義務違反取締状況(昭和47,48年)

(6) 被害者救済への寄与
ア 被害者搬送謝金制度
 交通事故の処理に当たっては、人命尊重の見地から負傷者の救護を最優先させている。
 警察の救護活動の実施状況は、市町村の救急体制の整備状況などにより異なるが、大阪府に例をとると、表7-41のとおりであり、これでも明らかなように現在の救護活動は一般人に頼っている面がかなりあるので、これらの救護者の善行に報いるため、全国30都道府県において、「被害者搬送謝金制度」が設けられている。

表7-41 大阪府における交通事故被害者の救護活動状況(昭和48年)

イ 事故相談
 被害者救済の見地から、昭和42年以来、警察本部や各警察署に交通事故相談所を設け、交通事故相談活動を行っているが、昭和48年中に取り扱った件数は18万2,166件に達している。このほか、地方公共団体、交通安全協会などが実施している交通事故相談業務に関して、資料の提供その他の協力をしている。

4 ハイウエイ・パトロール

(1) 伸びるハイウエイ
 昭和38年に名神高速道路の一部(尼崎~栗東間71.1キロメートル)が開通して以来、高速道路の建設は進み、昭和48年末に供用中の高速道路は表7-42のとおり高速自動車国道が1,213.9キロメートル、自動車専用道路(道路交通法施行令第42条第1項の道路)が345.6キロメートル、合計1,559.5キロメートルとなっている。
 更に、第七次道路整備五箇年計画によると、昭和52年までに3,200キロメートルの供用が計画されている。

表7-42 供用中の高速道路(昭和48年末)

(2) ハイウエイの交通事故
ア 低い事故率
 高速道路における交通事故の推移は、表7-43のとおりである。供用延長が増すにつれて、交通事故発生件数も増加し、昭和48年には人身事故2,625件、物損事故8,045件、合計1万670件に達している。
 高速道路と一般道路の事故率を比較すると、高速道路の場合立体交差であること、自動車専用であることなどのため、1億台キロ当たりの人身事故率は、一般道路の約8分の1であるが、高速走行のため事故が発生すれば大事故となること、続発事故の危険性があることなど、一般道路よりも危険な面もある。

表7-43 高速道路における交通事故発生状況(昭和44~48年)

イ 4割が車両単独事故
 高速道路における交通事故を類型別にみると、図7-11のとおりで、車両相互事故59.3%、車両単独事故39.2%、その他1,5%の割合であり、車両単

図7-11 高速道路交通事故の類型別状況(昭和48年)

独事故の構成比は、一般道路での割合(歩行者事故、踏切事故を除いた全車両事故のうち9.3%)に比べ約4.2倍と著しく高い。
ウ 故障車両の多発
 高速道路における故障車両の発生状況は、表7-44のとおりであり、これ

表7-44 原因別故障車両発生状況(昭和48年)

が渋滞や交通事故を誘発する一つの原因となっている。
 故障原因別では、オーバーヒート、タイヤ破損、燃料切れが上位を占めている。
(3) ハイウエイ・パトロールの活動
ア 高速道路の警察体制
 高速道路は、その道路構造と交通の特殊性から、警察署を単位とする警察体制ではカバーできないので、高速道路を管轄する都道府県警察には、高速道路交通警察隊、同分駐隊(おおむね50キロメートルごと)を設けるとともに、管区警察局に高速道路管理室を設けて、関係都道府県警察の高速道路交通警察隊に対する連絡・調整・指示に当たらせている。
 昭和48年末の各都道府県警察の高速道路交通警察体制は、27都道府県52隊であり、管理室は、東名(川崎)、名神(一宮、吹田)、中央(八王子)、東北(岩槻)、九州(福岡)の6管理室が設けられている。
イ 交通指導取締り
 昭和48年中の高速道路における交通違反取締状況は、表7-45のとおりであり、違反種別では最高速度違反が35.3%、積載違反が24.3%と、この一つの違反で59.6%と過半数を占めている。このため、各高速道路交通警察隊には、高速道路専用の高性能パトカーを配置して、無謀運転や過積載に対する機動的監視を強化している。
ウ 交通事故処理
 高速道路の交通事故は、多重衝突事故につながる危険性が高いので、誘導標識車などを用いて、事故現場の数百メートル手前から必要な規制を講じ、ときにはインターチェンジの閉鎖を行うとともに、交通事故の処理をできるだけ迅速にするようにしている。
 また、高速道路上では、衝突車両からの負傷者の救出が困難な事故が、しばしば発生しているので、レスキューセット(油圧ジャッキ、中型消火器、大型カッター等)を高速道路交通警察隊に配備して、負傷者の迅速な救出に努めている。

表7-45 高速道路における罪種別交通取締件数(昭和48年)

エ 交通規制
 高速道路における交通規制は、速度規制などの恒常的な規制のほか、交通事故発生時、異常気象時の臨時的交通規制についても、隣接各都道府県や一般道路との間における広域的、一体的な運用が必要であるので、高速道路管理室において調整し、迅速、的確な実施に努めている。

5 運転者の資質の向上のために

(1) 免許証に関する制度の改善
ア 免許証の更新は誕生日までに ~誕生日更新制度~
 従来、免許証の有効期間を忘れ、いわゆる「うっかり失効」となる事例が、全国で年平均8万件もあった。この「うっかり失効」を防止するため、 昭和48年4月から、免許証の有効期間をその者の誕生日までとする制度を実施した。すなわち、新たに運転免許を受ける者の免許証については、その運転免許試験(適性試験)を受けた日の後の3回目の誕生日まで、また、その後免許証が更新された場合には、更新前の免許証の有効期間が満了した日の後の3回目の誕生日までを有効期間とした。
イ 免許証のカラー写真化
 免許証について耐久性をもたせ、体裁をよくするとともに、偽造や変造を防止するため、昭和48年10月から免許証のカラー写真化を実施した。これは、顔写真と住所、氏名、年齢などの記載事項を、1枚のカラー写真に撮影して、免許証を作成する方式である。

(2) 初心運転者
ア 路上試験の実施
 初心運転者の事故率が、一般的に高いことから、昭和47年10月の初心者マ-クの実施に引き続いて、昭和48年4月からは、普通免許の技能試験を道路において行うこととするとともに、その試験を受けようとする者は、仮免許 を受けて、5日間以上道路上で運転の練習をしなければならないこととした。これは、実際の交通の場において、交通の状況に応じた安全運転をする能力を有するかどうかを適正に判断しようとするものである。
イ 受験者の減少した普通免許試験
 昭和48年中の運転免許種別ごとの受験者と合格者は、表7-46のとおりであり、普通免許が最も多く、ニ輪免許、原付免許がこれに次いでいる。
 昭和47年との比較において大きな特徴は、受験者が合計で124万人(15.4%)、普通免許の受験者では131万人(26.8%)それぞれ減少したことである。普通免許の受験者が前年より減少しているのは、昭和48年4月以降、路

表7-46 運転免許種別ごとの受験者数と合格者数(昭和47、48年)

上試験制度の実施に伴い、普通免許の受験資格に、仮免許を受け所定の練習をすることを加えたため、仮免許試験の段階で不合格となり、普通免許の試験を受けられなかった者が多かったことなどによる。
ウ 難聴者にも免許を ~聴力検査に補聴器の使用~
 難聴者の運転免許の受験資格については、福祉の増進と交通安全の確保の両面から検討を進め、昭和48年8月から、聴力試験に補聴器の使用を認めることとした。この結果、昭和48年12月末現在で、難聴者924名が、新たに運転免許を取得した。また、各都道府県警察においては、難聴者に対して予備適性検査を行うなどの便宜を図っている。
エ 指定自動車教習所の役割
 現行の指定自動車教習所制度が昭和35年に創設されてから、指定自動車教習所の数は年々増加し、昭和48年12月末現在、1,304箇所に達し、その卒業者の数も年間約180万人にのぼっている。昭和48年中の運転免許試験合格者に占める指定自動車教習所の卒業者の割合は72.6%であり、なかでも普通第1種免許については、卒業者は79.9%を占めており、指定自動車教習所が運転者教育において果たしている役割は、極めて大きいものがある。また、指定自動車教習所の教習水準を高めるため、指導員に対する講習内容を充実したほか、各種視聴覚設備の備え付け、運転適性検査の実施などを指導している。
 なお、昭和46年以降の指定自動車教習所の状況は、表7-47のとおりである。

表7-47 指定自動車教習所の状況(昭和46~48年)

(3) 一般運転者
ア 運転者の再教育
 一般運転者に対する再教育としては、3年ごとの免許証の更新に際して行 う更新時講習と、交通違反や交通事故により免許の停止などの処分を受けた際に行う処分者講習とがある。これらの講習は交通事故の実態、交通法令の改正点、安全運転の知識などについて、更新時講習は2時間程度、処分者講習は6時間ないし12時間行っている。
 また、講習効果を高めるため、視聴覚教育機材を活用しているが、特に処分者講習では、受講者の運転適性をみるため、反応分析装置や模擬運転装置の活用や、運転技能の実地指導など個別指導を実施している。
 更新時講習と処分者講習の実施状況は、表7-48のとおりであり、受講率も増加している。

表7-48 更新時講習及び処分者講習の受講者(昭和46~48年)

イ 二輪運転者の安全教育
 二輪車事故を防止するため、各都道府県の二輪車安全運転推進委員会の指導員や白バイ隊員により、昭和48年中、主に高校生を対象として、138万人(20歳未満の二輪免許及び原付免許所持者の86.3%)に安全教育を行った。
 昭和48年中の二輪車事故による死者数は、表7-49のとおり、前年に比べ大幅に減少したが、1万台当たりの死者数では、依然排気量125ccを超える車によるものが多い。また、16歳、17歳の免許所持者の死者率が、表7-50のとおり高いため、当面、二輪免許を持っている全高校生に対し、運転実技の再教育を行うこととしている。

表7-49 二輪車運転中・同乗中の死者数(昭和47、48年)

表7-50 二輪車運転中の年齢別死者数(昭和48年)

(4) 危険運転者の排除
 警察庁の運転者管理センターでは、個々の運転者の交通違反や交通事故の経歴などの資料を集中管理している。交通違反や交通事故には、それぞれの点数が付されており、過去3年以内の累積点数が一定の基準に達すれば、運転者管理センターからの通報に基づき、各都道府県警察は、運転免許の取消しや効力の停止などの行政処分を行っている。
 昭和48年中の行政処分の実施状況は、表7-51のとおりであり、処分件数は、前年より3.5%増加している。

表7-51 行政処分の実施状況(昭和46~48年)

6 交通安全思想の普及

(1) 全国交通安全運動 ~歩行者事故の防止~
 昭和48年の春と秋の全国交通安全運動は、歩行者特に子供と老人の事故防止を重点として実施され、幅広い国民運動として展開された。
 運動期間中は、講習会、座談会、交通教室などにより、交通安全指導を行ったほか、全国各地において、各種の行事を行い、交通安全思想の普及に努めた。
〔事例1〕 交通安全ぬいぐるみ人形劇(春、北海道警察)
 交通巡視員が、各幼稚園、保育所などを訪問し、ぬいぐるみ人形劇「ゆかいなパンダちゃん」を上演した。
〔事例2〕 交通安全キャラバン隊(秋、京都府警察)
 婦人交通指導員16名、車両4台による交通安全キャラバン隊を編成し、死亡事故多発地域、バスターミナルなどにおいて交通安全教室を開いた。

(2) 母と子の交通安全クラブ
 幼児に対する交通安全教育は、各家庭におけるしつけに加えて、専門家により計画的に行われることが、その効果を高めるうえで必要と考えられる。
 そのための組織として、幼児の交通安全教育について成果をあげているイギリスのタフティ・クラブに範を求め、昭和46年に岐阜で「ぞうさんクラブ」、山形で「カモシカクラブ」が結成されたのに続いて、地域や幼稚園、保育所などを単位とした母親ぐるみの交通安全クラブの結成が全国各地で進められつつある。
 昭和48年10月末現在で、46都道府県に4,972クラブが組織され、幼児53万2,000人、母親46方6,000人が加入している。各クラブの名称には、かめさん、うさちゃん、バンビなど幼児に親しみのある動物の愛称がつけられ、また、会員相互の連帯意識を高めるため、ワッペンやバッジを着用しているところもある。
 クラブの活動は、おおむね月1回、会員の幼児と母親双方が参加して、クラブ・リーダーのほか、婦人警察官、交通巡視員などの指導で、実地訓練により基本的な交通ルールを体得させるとともに、人形劇、ゲームなどを通じ て正しい交通マナーを理解させるなど、組織的、計画的な指導を行っている。
(3) 老人に対する交通安全指導
 60歳以上の老人の人口10万人当たりの死者数は、一般成人に比較して異常に高く特に歩行中、自転車乗車中の事故が多い。
 老人の交通事故を防止するため、全国交通安全運動期間中には、講習会、座談会、交通教室などの機会を設け、老人145万人に対し交通安全指導を行った。また、日常の生活行動から判断して、交通事故に遭う危険の高い老人に対しては、警察官が、個別に家庭訪問を行い、具体的な交通安全指導を行っている。


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