第6章 生活の安全と環境の浄化

1 日常生活を守る警察活動

(1) 物価高・物不足と警察
 昭和48年は、物価高騰、物不足をはじめとする異常な経済変動が国民生活全般に深刻な影響を与え国政上の大きな問題となった。警察としても「物価の安定、物資需給の適正化は、事柄の性質上、主管行政庁の行政措置によって達成されるべきものであるが、その実効を担保するため警察の取締りを必要とするものについては、悪質又は重要な違反に重点を置いて厳正な取締りを行う。」との基本方針でこれに対処した。
 国民の主食である米穀については、年初から一部商社による買占めがうわさされ、特に、もち米は価格の高騰が著しくその原因が買占めによる流通阻害にあるとみられたので、警察においては関係機関と協力のうえ、北海道、福島、茨城の3道県警察を中心に捜査を行った結果、大手商社による未検査もち米など約3,600トンの不正売買事犯を解明し、食糧管理法違反等で30法人、199人を検挙した。
 また、年後半には、第4次中東戦争を契機とするいわゆる石油危機が、我が国経済に大きな衝撃を与え、燈油、プロパンガス、トイレットペーパー、合成洗剤等生活関連物資の価格の急騰と品不足をもたらし、これら物資の売惜しみや買いだめが各地で起こるなど国民生活に不安を与えた。このような事態に対処するため11月16日「石油緊急対策要綱」が閣議決定され、国民的節約運動の実施、各省庁の行政指導の徹底、「国民生活安定緊急措置法」及び「石油需給適正化法」の緊急立法などの施策が講じられたが、警察においても「警察庁緊急石油対策委員会」を設置するほか「生活安定二法対策準備班」を警察庁はじめ全国の警察本部に設置し、石油危機下に発生が予想された各種警察事象に対処した。
 石油の供給に対する先行き不安を背景に石油業者等の中には品不足と値上りを見越してガソリン、燈油等の石油類を多量に買い占め、正規の貯蔵場所以外に不法に貯蔵するものが増加した。これら不法貯蔵の石油類による不測の事故を防止し国民の不安を解消するため、全国的に取締りを強化し、11月1日から年末までの間に、この種事犯を消防法違反で325件検挙し、石油類4,922キロリットル(ドラムかんで2万4,609本分)を摘発した。
 また、生活関連物資の価格の急騰、品不足の現象は国民の不満や不安感をつのらせ、これら物資をめぐる苦情が数多く警察に寄せられた。その内容は表6-1のとおりである。

表6-1 生活関連物資関係苦情内容(昭和48年11月1日~同年12月25日)

 このような苦情を適切に処理し国民の不安感を解消するため、その内容に応じて、67件を消防法違反等で検挙したほか、必要と認められたもの822件については関係行政機関に通報してその措置を促した。
 また、品不足商品の販売をめぐる紛議等が各地で発生したが、これら紛議等を早期に処理し被害の発生・拡大を防止するため、現場における警告、指導等積極的な活動を推進した。
(2) 経済事犯の取締り
ア 激増した農地法違反
 過去5年間の主な不動産関係事犯の検挙状況は、図6-1のとおりである。

図6-1 不動産関係事犯検挙状況(昭和44~48年)

 不動産関係事犯は、土地開発事業に進出した大手企業の系列下にある不動産業者による大規模な工場団地、住宅団地、総合レジャーランド、ホテル、ゴルフ場等の開発、新幹線用地、高速自動車道用地の買収等に伴い多発した。
 従来、不動産関係事犯の取締りについては悪質不動産業者による宅地建物取引業法違反を重点的に取り締まってきたが、昭和48年はこれに加えて大規模な土地の売買と開発行為をめぐる犯罪を重点に取り上げ、強力な取締りを推進した。
 その結果、昭和48年中に、2,326件を検挙しており、前年に比べて815件、53.9%と著しく増加している。特に農地法違反事件の増加が著しく、昭和46年に55件、昭和47年に424件、昭和48年に1,045件と急増している。これはレジャーブームを反映して、ゴルフ場、ホテル、総合レジャーセンターなどの建設を目的とした大規模な土地の買収、開発に伴って農地あるいは採草放牧地を無許可で売買する事犯が多発したことによる。
 宅地建物取引業法違反の主な違反態様は、図6-2のとおり、依然として、モグリ業者による無免許営業違反が多いが、土地、建物の販売に当たって抵当権の設定、法令上の制限など取引上重要な事柄を告げず、又は、偽って販売する業務上禁止事項違反も多い。

図6-2 宅地建物取引業法違反態様別検挙状況(昭和48年)

イ 悪質金融事犯の取締り
 庶民の家庭生活を崩壊させたり、中小企業を倒産に追い込む犯罪の一つに金融犯罪がある。この種事犯は、「元金保証、利息月5分」などと有利な利殖のごとく宣伝して、一般大衆から金を集めた後倒産し利息はおろか元金をも返還しない「預り金」事犯や、また反対に「即融資担保不要、利息低率、電話乞う。」などとチラシ、新聞広告等で有利な融資を宣伝し、サラリーマン、家庭の主婦あるいは資金繰りに悩む中小企業者等を相手に10日に1割といった法外な利息で融資したうえ、元利金の返済が1日でも遅れると家庭、勤務先まで乗り込み、いやがらせをする等の方法で取り立てる暴力金融事犯がその代表的なものである。警察は、平穏な市民生活を守る立場から、これらの金融犯罪に対して「出資等取締法」(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律)等の金融関係法律を適用して取締りを実施している。その検挙状況は、図6-3のとおりである。
 昭和48年中に検挙された金融犯罪の約91%が「出資等取締法」違反である

図6-3 金融犯罪検挙状況(昭和48年)

が、その74.3%が法定の利率(1日当たり0.3%)を上回る率の利息を取った高金利違反事件である。
 これらの犯罪を検挙するに至った端緒をみると、警察への投書あるいは苦情相談等で事犯が発覚した事例は全体の23.6%にすぎず、その他は、警察の積極的な聞込みなどの捜査活動で事件の端緒をつかみ検挙に至っている。
 また、「出資等取締法」違反で検挙した事件の中には、山口組等の暴力団員による事件が59件(総数の12.3%)も含まれている。これらの中には、高金利違反を隠ぺいするために融資の契約をする際、「無利息で融資しますが融資金を返済するとき融資額相当の商品を買って下さい。」などと言って市価の倍の値段で不必要な商品を無理に買わせるなどの脱法的手段によった事件や、最初は顔見知りの金融業者から融資を受けたが返済期限が過ぎると、「○○金融から借りて返しなさい。」と同業者を紹介され、更にその返済期限が過ぎるとまた同様に別の業者を紹介され元利金が雪だるま式に増額されていたというように、金融業者がグループを結成し融資客をたらい回しにして暴利を得た事件等悪質なものが多い。
ウ 危険な“相場”への誘い
 株式ブームに便乗し、庶民の財産づくりをキャッチフレーズにダイレクトメール、新聞広告、チラシあるいはセールスマンを使っての勧誘などにより「頭金2割で株が買えます/残金は当社が月○分で融資します/1億円のもうけも夢じゃない。」などと一般投資家を募りながら、実際には契約どおり株の買付けを行わず、その一部についてのみ買付けを行い、株は会社に保管しているようにみせかけ、頭金、融資金利息、売買手数料の名目で金銭をだまし取るなどの詐欺、証券取引法違反事件が各地で発生している。
 一方、商品取引についても、一般家庭の主婦、サラリーマン等を対象に、「元金保証、利益保証、絶対安全有利」などと甘い言葉で商品取引に誘い込み、証拠金などの名目で金銭をだまし取る詐欺事件や商品取引所法違反事件もみられた。
 警察としては、このような顧客の知識・経験不足に乗じて行われる証券・商品の取引に関する悪質事件について重点的取締りを行った結果、昭和48年中に、証券取引法違反、商品取引所法違反、詐欺などにより、99人を検挙した。

2 公害と取り組む警察

(1) 公害に対する基本方針と体制の整備
ア 情勢の悪化と基本方針
 公害問題は、国、地方公共団体等の努力にもかかわらず、昭和48年に入るとPCBと水銀による魚介類の汚染で漁業者と企業との間に紛争が続発し、更に夏季の異常高温により、光化学スモッグによる被害が続出するなど一層深刻化した。
 警察は、このような情勢の悪化に伴い、公害防止に果たす警察の役割の増大と国民の要望にそうため、より積極的に取り組むこととし、昭和48年8月、新たに、次のような基本方針を各都道府県警察に示すとともに、警察庁をはじめ都道府県警察本部において、公害に対する諸施策を総合的に推進することとした。
○ 公害問題の解決は、行政機関を中心とする施策と企業の自覚に期待すべきものであるが、警察としては、公害の防止に寄与する立場から関係行政機関と緊密な連絡をとり、事犯の検挙、警告、指導等の措置を積極的に行うこと。
○ 取締りに当たっては、事犯に即し、行政機関の措置により目的を達すると認められるものについては、その措置にゆだね、国民の健康を害し、又は日常生活に被害を与える事犯及び行政機関の指導を無視して行われる事犯に重点を置き、特に、罪質、罪情、被害の状況等からみて、悪質又は重要と認められる事犯は、厳しく取り締まること。
○ 交通公害については、夜間の自動車騒音、都市部における自動車の排出ガス等による公害を重点とし、必要な交通規制及び指導取締りを積極的に推進すること。
○ 公害をめぐる紛争事案の処理に当たっては、違法行為に発展することを未然に防止するため、早期に的確な措置を講ずること。
○ 公害をめぐる苦情は、届出者の立場に立って幅広く扱うこととし、警察独自で措置し得る事案については、指導、警告等の措置を行い、また、関係機関等に対し、必要な措置を求めるなど適切に処理すること。
イ 整備される取締体制
 公害問題への世論の関心と、警察に対する取締りの要望の高まりにより、都道府県警察本部には、公害事犯の取締りを担当する公害調査官等が置かれ、また、公害事犯の鑑定、検査のための器材の整備が図られるとともに取締要員も増員されるなど、逐次、取締体制が整備されてきた。
 また、昭和49年度予算において、警察庁保安部に公害課の新設、関東、近畿両管区警察局には公害調査官が置かれることとなったのをはじめとし、都道府県警察における公害事犯の捜査要員及び鑑定検査要員の増員並びに資器材の整備が認められた。
(2) 激増した公害事犯
ア 取締件数は倍増
 昭和48年中に検挙した公害事犯は、図6-4のとおり、1,727件で、前年

図6-4 公害事犯年次別検挙状況(昭和44~48年)

の791件に比して、936件(120%)の増加を示し、昭和44年から昭和47年までの4年間に検挙した事件の総数に匹敵する検挙数となっている。
イ 多い「水質汚濁」と「ゴミの大量投棄」
 昭和48年中に検挙した公害事犯を公害の態様別にみると、図6-5のとおり、総数1,727件のうち水質汚濁事犯が919件(53.2%)、悪臭事犯が59。件(34.2%)であり、この2態様で全体の87.4%を占めている。
 検挙した事犯を適用法令別にみると、図6-6のとおりであり、「廃棄物処理法」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が1,056件と最も多く、次いで河川法266件、水質汚濁防止法134件の順となっている。
 また、端緒別にみると、

警察活動によるもの 1,057件 (61.2%)
被害者又は第三者の通報によるもの 478件 (27.7%)
行政機関等からの告発によるもの 192件 (11.1%)

となっており、警察が自らの捜査活動による端緒で事件を検挙する場合が極めて多い。また、行政機関からの告発が全体の11%に達していることも注目されるところである。

図6-5 態様別検挙状況(昭和48年)

図6-6 法令別検挙状況(昭和48年)

 なお、「公害罪法」(人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律)を適用した事例として、昭和48年5月大分県の化学工場がその製造工程で生じた有害物質の処理を誤り毒性ガス(メチルメルカプタン等)を排出させたことにより、付近住民54人に毒性皮膚炎、急性いん頭炎、口しん炎による5日から2週間の傷害を与えた事犯がある。
(ア) 水質汚濁事犯の実態

図6-7 事業場の従業員数(昭和48年)

図6-8 事業場の資本金(昭和48年)

図6-9 事業場の業種別分類(昭和48年)

 昭和48年中に水質汚濁防止法を適用して検挙した事犯(134件)について対象事業場の規模を従業員数、資本金別にみると、図6-7、図6-8のとおりであり、小規模のものが多い。
 業種別にみると、図6-9のとおりであり、金属製品製造業(メッキ業)が最も多い。
 排出された有害物質等についてみると、図6-10のとおりであり、シアンが多く、汚染状態を示す項目については、水素イオン濃度(PH)の違反が多い。

図6-10 違反態様別検挙状況(昭和48年)

〔事例1〕 庄内川水域の水質汚濁工場集中取締り
 昭和48年4月から昭和49年1月にかけ、愛知県下で最も汚濁の著しい庄内川水域に所在する142事業場について内偵し、うち58法人に警告、26法人を検挙した(愛知)。
〔事例2〕 大手鋼板工場による六価クロムの排出事犯
 昭和48年10月、法定の約10倍に及ぶ六価クロム含有の汚濁水を(日間平均約5万トン)を瀬戸内海へ排出していた鋼板製造工場(資本金50数億円、下請関連会社30数社)を検挙した(山口)。
(イ) 廃棄物不法投棄事犯の実態
 昭和48年中に廃棄物処理法を適用して検挙した事犯(1,056件)について、投棄された廃棄物を種類別にみると、図6-11のとおりであり、総量27万2,945トンで、動物のふん尿等が34.4%で最も多く、汚でい、鉱さい、廃油等有害物質(重金属)を含有するおそれのあるものが32.6%に達している。

図6-11 投棄された廃棄物の種類別状況(昭和48年)

 昭和48年中に廃棄物処理法違反で検挙した人員は、図6-12のとおり、1,605人であり、無許可のもぐり業者による不法投棄が圧倒的に多い。
〔事例1〕 宅地造成地等における廃油ドラムかんの不法投棄事犯
 昭和48年8月、モグリ処理業者が廃溶剤の再生加工会社と結託し、茨城、埼玉、栃木県下の宅地造成等に廃油入りドラムかん約2,000本、石油かん約800本を埋立て処分していた事犯(茨城)。
〔事例2〕 モグリ業者による廃油等の不法投棄事犯
 昭和48年3月、3府県の無許可の産業廃棄物処理業者等が化学薬品会社から廃油等の処理を依頼され、シンナーを含有する廃油ドラムかん4,900本(約100万リットル)を河川敷等に捨てるなどして不法投棄した事犯(兵庫)。

図6-12 廃棄物処理法違反者の状況(昭和48年)

ウ 公害をめぐる紛争
 公害をめぐる紛争は、公害問題の深刻化と住民の生活防衛意識や、権利意識の高まりと相まって増加している。特にPCBや水銀による魚介類の汚染をめぐり企業と漁業者との紛争が多くなった。また、終末処理場等の公共事業をめぐる地方自治体と地域住民との紛争も増加する傾向にある。
 PCB汚染については、大阪湾、敦賀湾、琵琶湖等で、水銀汚染については、千葉港沖、富山湾、水島湾、徳山湾、有明海等で問題となった。
 なお、昭和48年中に警察の警備活動を必要とした紛争事案は、63件(昭和47年24件)であった。
(3) 公害関係の苦情処理
ア 3万8,000件に及ぶ苦情を受理
 警察に寄せられた公害関係の苦情は、表6-2のとおり、逐年増加し、特に昭和48年は前年より1万1,725件(43.3%)の著しい増加を示した。これは、水銀汚染やごみ処理問題等を中心とした公害問題の深刻化に伴い、国民の関心が高まったこと、また、これらの公害が国民の日常生活に深いかかわりを持ち、その解決の糸口を警察にも期待していることを示すものといえよう。

表6-2 公害関係苦情受理件数(昭和44~48年)

イ 8割を占める騒音と悪臭
 受理した苦情を態様別にみると、図6-13のとおりであり、騒音、悪臭に関するものが多く、全体の80%を占めている。
 これらの年次別の推移は、表6-3のとおりで、いずれも激増している。

図6-13 苦情の態様別受理件数(昭和48年)

表6-3 苦情の態様別受理件数の推移(昭和44~48年)

ウ 8割を警察で解決
 受理した苦情の処理状況は、図6-14のとおりであり、このうち、80%は、警告、検挙、話合いのあっ旋により警察において解決をしている。

図6-14 苦情の処理状況(昭和48年)

(4) 薬事、衛生事犯の取締り
 過去5年間の薬事、衛生事犯の検挙状況は、表6-4のとおりである。昭和48年の特徴は、毒物及び劇物取締法違反の検挙が前年に引き続き増加したこと、昨年まで全国的に多くの検挙をみたにせ医師事犯が取締りの徹底により減少したことである。また、食品、医薬品関係事犯については、減少傾向にあるが、違反の内容をみると、千葉ニッコー(株)における食用油汚染事件など食品製造会社における有毒物質混入事犯や有害な食品添加物使用事犯が目立ち、更には、最近の健康食品の流行や医薬品多用の風潮を背景に大量のにせ薬を製造し、いかにも万能薬であるかのごとき虚偽広告を用い、全国の老人、病弱者等を対象として組織的に販売するなどの悪質な事犯がみられた。

表6-4 薬事・衛生事犯検挙状況(昭和44~48年)

3 麻薬・覚せい剤犯罪とのたたかい

(1) 麻薬犯罪の根絶をめざして
ア 麻薬犯罪の情勢
 我が国で麻薬犯罪が最も多かったのは、昭和30年代の後半であった。そのころから、全国的な麻薬撲滅運動が起こり、警察も強力な取締りを行ったが、その結果、昭和40年代前半は、漸次減少の傾向にあった。しかし、このような傾向の中で、大麻の乱用が増加したり、新しくLSDの乱用が始まるという現象がみられた。
 その後昭和47年、48年と連続して増加し、再び麻薬犯罪が多発する兆しをみせ始めた。検挙事例からみると、東南アジア地域をはじめ、世界の各地から、ヘロイン、LSD、大麻などの麻薬が我が国へ持ち込まれており、世界的な薬物乱用の傾向や、旅行、貿易による海外交流の活発化を考えると、我が国の麻薬犯罪情勢は、今後なお楽観を許されないものと思われる。
 過去5年間における麻薬犯罪の推移は、図6-15のとおりである。

図6-15 麻薬犯罪検挙人員の推移(昭和44~48年)

 昭和47年に復帰した沖縄県では、特に麻薬犯罪が多発しているため、捜査体制を整備して強力な取締りを行った。その結果、昭和48年中の麻薬犯罪の検挙人員は302人にのぼり、前年に引き続き全国都道府県の中で最も多くの数を示している。ちなみに、昭和48年中の沖縄県における麻薬犯罪の検挙人員及び麻薬の押収量を、全国のそれと対比すると表6-5のとおりである。

表6-5 沖縄県における麻薬犯罪の検挙状況と押収量(昭和48年)

イ 水際検挙
 我が国で発見された麻薬のほとんどは、海外から密輸入されたものである。
 このような密輸入事犯は、横浜港、神戸港、東京国際空港等の主要な開港地を利用するだけでなく、昭和48年には地方都市に進出した企業岸壁を利用して麻薬を陸揚げしようとした例もあった。
 我が国に密輸入された麻薬は、密売のルートに乗って国民の中に浸透していくのであるが、麻薬禍を防止するためには、我が国に入って来る段階、すなわち水際でこれを捕捉し検挙することが必要であって、警察では、税関など関係機関と協力して「水際検挙」に努めている。
〔事例〕 外国貨物船の船員2名が、バンコクであへん煙こう1キロ800グラムを買い入れ、航海中一部を自分たちが使用したうえ、残りの1キロ747グラムを我が国に持ち込もうとしたのを、神戸港において発見検挙した(兵庫)。
 昭和48年中に、警察の検挙により押収した密輸入麻薬のうち、ヘロイン、LSD、あへんについては、図6-16のとおり、押収量の大部分が密輸入の直後に捕捉されたものである。

図6-16 水際検挙による麻薬の押収量(昭和48年)

ウ 幻覚型麻薬と青少年
 我が国で乱用されている幻覚型の麻薬は、現在、大麻とLSDが主なものである。大麻は、大麻草から採れる乾燥大麻や大麻樹脂であり、LSDは、らい麦につく菌(麦角)をもとにして合成された麻薬である。
 大麻事犯は、図6-17のとおり、昭和42年から増加の傾向がみられ、昭和48年には617人が検挙されている。

図6-17 大麻事犯検挙の推移(昭和41~48年)

 昭和48年中に大麻事犯で検挙された者の年齢層は図6-18のとおりであって、25歳未満の青少年が大半を占めている。大麻の乱用は、ヒッピー族のほか、大学生、高校生等の一般青少年にまで及んでいる。使用される大麻は、密輸入によるもののほか国内に自生する野生大麻の採取によるものもみられ、国内産大麻の乱用にも注意を払わねばならぬ情勢である。

図6-18 大麻事犯年齢別検挙人員(昭和48年)

 一方、LSD事犯は、昭和45年LSDが麻薬に指定されて以来、表6-6のとおり、押収量は増加の傾向にある。LSDは主として米軍人やヒッピー等の間で乱用されているが、これらはすべて密輸入されたものである。

表6-6 LSDの検挙状況(昭和45~48年)

〔事例1〕 ヨーロッパ方面を旅行中の日本人ヒッピーグループが、ストックホルムの密売組織から入手したLSD70錠のうち42錠を、航空郵便を利用して国内のヒッピー仲間に郵送していた(千葉)。
〔事例2〕 在日米軍の軍人が、本国の密売人と連絡して、小包の中にLSD997錠を隠し、軍事郵便を利用して送付させていた(神奈川)。
エ 麻薬犯罪取締りセミナー
 麻薬犯罪取締りセミナーは、ヘロイン事犯が横行した昭和37年に、コロンボ計画の一環として、警察庁と海外技術協力事業団の共催により、東京において開かれた「第1回東南アジア麻薬犯罪取締りセミナー」が、その始まりである。このときは、インド等の東南アジア6箇国から8名の麻薬犯罪捜査担当警察官の参加を得て、麻薬犯罪に関する情報交換、相互理解による積極的協力関係の保持及び捜査技術の向上を図った。
 以来、毎年1回同様のセミナーを東京において開催しているが、昭和48年には12回目のセミナーが開かれ、正式参加13箇国19名、オブザーバー3箇国4名の計16箇国23名が参加した。
(2) まんえんしつつある覚せい剤犯罪
ア 覚せい剤の害悪
 覚せい剤は、昭和20年代に青少年の間で乱用が広がって問題となった「ヒロポン」に代表される薬物であって、麻薬と同じように習慣性があるため.連用すると中毒となり、極端な場合には精神障害に陥り、一生廃人として惨めな生活を送ることもある。覚せい剤乱用の影響はこのような中毒者自身の破滅だけでなく、社会的にも大きな弊害をもたらしている。すなわち、覚せい剤を求める金欲しさのために、窃盗、詐欺、恐喝などの犯罪を犯し、また、覚せい剤中毒による幻覚、もう想等から発作的に、殺人、傷害、放火等の犯罪を犯す者もある。
〔事例1〕 好奇心から覚せい剤を使用した男(36歳)が、中毒になって精神錯乱に陥り、自宅で暴れ出して自分の長男(11歳)を出刃包丁で刺殺したうえ自殺を図った(和歌山)。
〔事例2〕 覚せい剤中毒の男(26歳)が強度の被害もう想になり、「部屋の外からだれかが自分をねらっている。」と口走りながら、室内にまき散らした原稿用紙に火をつけマンションの居室を全焼させた(千葉)。
イ 覚せい剤犯罪の傾向
 覚せい剤犯罪は、昭和20年代に青少年を中心として激増し、最も多かった昭和29年には約5万5,000人が検挙されたが、昭和30年代に入ってからは鎮静し、昭和33年には検挙人員が271人にまで減少して、その後昭和44年までは、毎年検挙人員が1,000人未満でおおむね横ばいの傾向を示してきた。しかし、昭和45年からは再び増加の傾向に転じ、その後年々倍増に近い勢いで増加し続け、昭和48年には前年の1.8倍に当たる8,301人が検挙されている。
 過去5年間における覚せい剤犯罪の推移は図6-19のとおりである。

図6-19 覚せい剤犯罪検挙の推移(昭和44~48年)

 検挙された者のうち、暴力団関係者の占める割合は、例年高く、昭和48年には検挙人員全体の61.3%に当たる5,092人が暴力団関係者となっている。しかし、前年に比べれば暴力団関係者の占める割合はやや減少しており、暴力団関係者以外の一般市民による事犯の増加傾向がうかがえる。ちなみに、昭和48年中に検挙された者の中には、家庭の主婦130人、公務員18人、学生・生徒16人が含まれていた。
〔事例1〕 サラリーマンの妻(39歳)が、好奇心で知人に覚せい剤を注射してもらったことから病みつきとなり、覚せい剤の代金の支払いに預金を便い果たし、ついには家庭を顧みなくなって家出した(京都)。
〔事例2〕 市役所吏員(40歳)が競輪にこって金に困り、覚せい剤を密売して一もうけしようとし、マージャン友達から覚せい剤粉末30グラムを譲り受け、これを知人に密売していた(警視庁)。
 覚せい剤犯罪の地域別検挙人員の推移は、表6-7のとおりであって、全国的に増加している。

表6-7 覚せい剤事犯地域別検挙人員(昭和44~48年)

 覚せい剤、同原料の押収量は、図6-20のとおり、いずれも検挙の伸長とともに増加しており、昭和48年の押収量は、覚せい剤34キロ6グラム、同原料16キロ205グラムとなっている。ちなみに、覚せい剤の34キログラムは、注射回数にして約113万回分、密売価格にして約68億円に相当する。
ウ 覚せい剤密輸入の検挙
 図6-21のとおり、昭和44年ごろには密輸入事犯の検挙人員より密造事犯

図6-20 覚せい剤、同原料の押収状況(昭和44~48年)

の検挙人員の方が多かったのが、最近はそれが逆転していることからうかがわれるように、覚せい剤の供給源は、国内における密造よりも、海外からの密輸入が主体になっているものと思われる。

図6-21 覚せい剤の密輸入事犯・密造事犯の推移(昭和44~48年)

 覚せい剤の密輸入は、関釜フェリー、大阪空港、福岡空港を利用して行われることが多いようであるが、このような事犯を封圧するため、麻薬の場合と同様に、水際検挙に努めており、図6-22のとおり、昭和48年における全押収量の約半数は、密輸入直後に水際で捕捉されたものである。

図6-22 覚せい剤、同原料の水際検挙による押収量(昭和48年)

 覚せい剤密輸入事犯は、最近、近隣諸国からのものが目立っていることから、関係国における覚せい剤犯罪取締状況の視察、取締りに関する協力方策の協議のため、昭和48年7月、警察庁係官を韓国に派遣したほか、ICPO等 を通じて関係の外国警察との連携を保ち、情報の交換、捜査の協力を行うなど、国際協力の緊密化に努めている。
〔事例1〕 タイ国チェンマイの派手な生活ぶりで有名になった日本人T(39歳)ほか7名の者が、航空機で韓国との間を往復し、その間11回にわたって、覚せい剤8キロ600グラム、同原料500グラムを腹に巻いて密輸入した(兵庫、福岡、和歌山)。
〔事例2〕 香港の貿易商(38歳)が仲間5名と共謀して、覚せい剤39キロ200グラム、同原料10キログラムをかん詰、梅干箱などに隠し、11回にわたって航空機を利用し密輸入した(大阪)。
エ 覚せい剤対策
 警察は覚せい剤犯罪に対処し、年々その取締りを強化してきたが、昭和48年は、特にここ数年の覚せい剤犯罪の増加傾向にかんがみ、これに強力な歯止めをかけるための各種の対策を打ち出した。
 すなわち、覚せい剤の供給源となる密輸、密造、密売組織に対する組織ぐるみの検挙と、不正使用者の早期検挙による覚せい剤禍からの隔絶を重点に取締りを一層徹底強化した。
 また、総理府の薬物乱用対策推進本部でも、昭和48年7月「覚せい剤乱用対策実施要綱」を定め、関係行政機関をあげて、全国的に覚せい剤の乱用防止に関する啓発活動と覚せい剤犯罪の取締りを強化することとした。このほか、覚せい剤犯罪の罰則の強化を中心とした覚せい剤取締法の一部改正が行われ、同年11月15日から施行された。
 しかしながら、従来の経験にかんがみてもこの種薬物乱用の風潮は根強いものがあるので、警察は、関係機関と緊密な連携の下に今後なお強力な取締りを継続していく必要がある。

4 銃砲火薬類の取締り

(1) 銃砲の取締り
ア 銃砲所持の現状
 銃砲による危害を防止するため「銃刀法」(銃砲刀剣類所持等取締法)によって、銃砲の所持は原則的に禁止され、狩猟、有害鳥獣駆除、標的射撃等のため都道府県公安委員会の許可を受けた場合に限り認めることとされている。各都道府県公安委員会が所持許可を与えている銃砲の数は、表6-8のとおりである。

表6-8 銃砲所持許可状況(昭和44~48年)

 銃砲の新規許可は、毎年10万件以上あるにもかかわらず、現在数がおおむね80万件台にとどまっているのは、銃砲の所持許可を与えた後も、その銃砲所持者について毎年1回以上全国いっせいに検査を実施して、銃砲を適正に所持しているかどうかを確認し、不適格者の取消し処分を積極的に行っているほか、所持許可を受けながら狩猟や標的射撃に使用したことのない、いわば眠り銃ともいえるものについては、許可の不更新、銃の廃棄などの指導を積極的に実施しているためである。その状況は、表6-9のとおりである。

表6-9 銃砲の所持許可異動状況(昭和44~48年)

イ 跡を断たない狩猟事故
 狩猟は、毎年11月1日(ただし北海道は10月1日)から翌年2月15日まで行われることになっているが、この狩猟期間中、流れ弾が狩猟仲間や通行人に当たったり、猟銃が暴発して受傷する等の事故が多発しており、過去5年間におけるその発生状況は、表6-10のとおりである。

表6-10 狩猟期間中における猟銃事故発生状況(昭和44~48年度)

 狩猟事故の被害者の状況は、表6-11のとおりであり、昭和48年度は、農作業中の農夫や、通学時の学童など一般人及び同行ハンター以外のハンターに対する事故が増加している。事故の原因は、図6-23に示すように銃の発射の際、矢先(銃の向けられた方向)の確認が不十分であるものが一番多い。
 警察としては、このような不幸な事故を未然に防止するため猟銃等講習会を実施して、猟銃の取扱方法や発射時の注意事項を指導したり、防犯協会の機関紙や狩猟団体の各種会合を通じ注意を促している。

表6-11 狩猟事故被害者状況(昭和44~48年度)

図6-23 狩猟事故原因別割合(昭和48年)

ウ 改造けん銃の増加
 モデルガンを改造し、弾丸発射の機能を有するようにしたいわゆる改造けん銃は、年々増加の傾向にあって、昭和48年中には、798丁が押収されている。その状況は、図6-24のとおりである。
 このように、多数の改造けん銃が押収されたのは、極めて容易に改造できる精巧なモデルガンが一般市場に出回り、暴力団が武器入手の必要からこれに着目し、機械・工作に相当な知識を有する者に大量に改造させていた事犯が摘発されたことなどによるものである。
 このような改造けん銃を使用した暴力団相互間の抗争事件の増加や一般市民に対する乱射事件の発生なども増加したこともあって、昭和48年の後半には、改造けん銃の危害が問題となり、素材となるモデルガンに対する規制の強化が論議された。

図6-24 改造けん銃押収丁数(昭和44~48年)

(2) 火薬類の取締り
 火薬類は、いったん凶器として犯罪に使用され、あるいは、事業所等において誤った取扱いがなされるときは、人命の損傷はもちろん、公共の安全に重大な影響を与える結果になる。
 過去5年間の火薬類使用犯罪及び火薬類による事故の発生状況は、図6-25のとおりである。
 これらの事件・事故を防止するため、警察では通商産業省等の関係機関と緊密な連絡を保ち、全国に約3万箇所に及ぶ火薬類の製造所、火薬庫、土木工事現場等の火薬類取扱場所に対して立入検査し、火薬類の保管管理の徹底と火薬類の安全な取扱いについて火薬類取締法に基づく指導取締りを実施している。
 過去5年間における火薬類取締法違反の取締状況及び火薬類盗難事件の発生状況は、表6-12,表6-13のとおりである。

図6-25 火薬類使用犯罪及び火薬類による事故発生状況(昭和44~48年)

表6-12 火薬類取締法違反取締状況(昭和44~48年)

表6-13 火薬類盗難事件の発生状況(昭和44~48年)

(3) 高圧ガスその他危険物の取締り
 高圧ガス(プロパンガス、塩素、水素等)、消防法上の危険物(塩素酸塩類、黄りん、ガソリン等)及び放射性物質(二酸化ウラン、イリジウム、ラジウム等)などの危険物は、戦後における化学工業及び原子力産業の発展に伴い流通消費量が急速に増加し、国民生活の向上に貢献しているが、反面その危険性に起因する死傷事故も増加している。
 過去5年間における危険物による事故の発生状況は表6-14のとおり逐年増加の傾向にある。昭和48年に非事業所における事故が急増しているのは後に述べるように家庭等の消費場所におけるプロパンガスの事故が急増したことによるものである。

表6-14 危険物事故発生状況(昭和44~48年)

 警察では、通商産業省、消防庁等の関係各行政機関と緊密に協力して危険物事故のうち特に運搬中の事故及び一般消費者等のプロパンガスによる事故の防止を重点に従来から指導取締りを実施してきたが、昭和48年は石油コンビナートにおける爆発事故の続発及び年末の石油危機問題にからむ石油類の不法貯蔵等が社会問題となり、これらに対する捜査活動を実施した。
ア 危険物運搬車両の取締り
 プロパンガス、塩素、ガソリン等を運搬するタンクローリー等の事故が道路上で発生したときは、付近居住者等に大きな被害をもたらすこととなるので、警察は、この種の事故を防止するための指導取締りを毎年2回全国的に実施している。昭和48年は、7月と11月に全国いっせい指導取締りを実施し、1万2,633台のタンクローリー、3,925台の貨物自動車を検査し、タンクローリー2,610台、貨物自動車1,055台の違反について検挙又は指導の措置を講じている。
イ プロパンガスの事故防止
 家庭等の消費場所におけるプロパンガスの爆発事故は、最近、プロパンガスの需要の増加に伴って急速に増加しており、図6-26に示すとおり昭和45年には、事故件数477件、死傷者数641人であったが、昭和48年には、事故件数970件、死傷者数1,315人となっている。

図6-26 消費場所におけるプロパンガス事故発生状況(昭和45~48年)

 また、この種事故は、鉄筋コンクリート製の建造物をも破壊するような強力な爆発を伴うことが特徴であり、近隣の住宅にまで被害を及ぼすような大規模な事故が多い。
 警察では、この種事故を防止するため、プロパンガスの販売業者等に対する指導取締りを実施しており、昭和48年中に関係法令違反で38件42人を検挙している。
ウ 石油コンビナート等の爆発
 石油コンビナートにおいて発生する高圧ガス等の爆発事故は、昭和48年7月7日の出光石油化学徳山工場の事故にみられるように大規模な災害に発展し、公共の安全に重大な影響を及ぼすこととなる。昭和48年は、このほか、10月8日にチッソ石油化学五井工場、10月18日には日本石油化学浮島工場など、この種の事故が相次いで発生した。このため、各石油コンビナートごとに危険物施設の状況、事故発生時に危険の及ぶ範囲、避難通路等の実態を調査し、効果的な警察活動を実施しているほか、事故発生時の出動体制の整備を図った。昭和48年中の石油コンビナート等の事故の主なものは、表6-15のとおりである。

表6-15 石油コンビナート等の主な事故(昭和48年)


5 風俗環境の変化に対応して

(1) 風俗営業等の健全化
ア あの手この手の風俗営業
 都道府県公安委員会が営業の許可を与えているバー、キャバレー、料理店、遊技場等の風俗営業の数は、表6-16のとおり、過去5年間ほとんど変動がない。

表6-16 風俗営業の推移(昭和44~48年)

 ただ、これらの営業を業態別にみると、風俗営業全体の約33%を占めている料理店営業と、これに次いで多いバー営業が、この5年来、毎年1,000軒以上の減少を続けているのに対し、マージャン屋営業が、表6-17のとおり、マージャン人口の急増を反映して、毎年2,000軒近い増加を続けているのが特徴的である。
 また、風俗営業は、概して変動が激しいが、昭和48年中における風俗営業

表6-17 マージャン屋営業の推移(昭和44~48年)

の新規許可及び廃業の状況は、表6-18のとおりで、新規に許可を得た営業が、2万898軒(昭和47年末営業所総数の約12%)である一方、2万1,565軒(同営業所総数の約13%)が廃業している。
 この中で、特に変動の激しい業態は、バー営業とマージャン屋営業である。

表6-18 風俗営業の新規許可等の状況(昭和48年)

 バー、キャバレー等の風俗営業は、最近では、享楽的な社会の風潮を背景に、あの手この手と新奇な商法を用いて、客の好奇心をそそる傾向が強い。例えば、海の向こうから来た目の色、毛色の変ったホステスが登場し、エキゾチックな雰囲気を売り物にしている。また、男性が接待をするいわゆる“ホストクラブ”と称する女性客目当ての営業も次第に多くなっており、女装の男性が客の接待をするいわゆる“ゲイバー”も、昭和48年末の調査では、220軒に及んでいる。更に、バー、キャバレー等の中には、ホステスが本来の接待行為を逸脱し、卑わいな行為を売り物にするものや、ストリップショウに近いきわもの的ショウを看板にするものなどが多くなっている。
 一方、パチンコ屋営業も、駐車場の確保が困難な都心部の繁華街から郊外の田園地域へと進出し、主要幹線道路沿いに広大な駐車場を備えた店が出現、してきており、その営業規模も大型化している。
 また、マージャン屋営業においては、“麻雀まつり”と称するような催し物を開き、遊技客に抽せん券をプレゼントし、定期的に抽せん会を開いて、当選者には豪華な商品を提供する店、会社の重役並みのいすなどデラックスな設備を看板にする店などが多くなっている。
 このような新たな形態で行われる風俗営業は、往々にして各種の風俗犯罪を生みだし、善良な風俗保持上なおざりにできないところから、警察は、その営業内容等の実態をは握する活動を進めるとともに風俗営業等取締法等の各種法令を多角的に活用して強力な取締りを推進している。
 過去5年間における風俗営業による違反の検挙状況は、表6-19のとおり

表6-19 風俗営業による違反の検挙状況(昭和44~48年)

である。
 また、法令に違反した業者に対しては、都道府県公安委員会が、許可の取消し又は最高6箇月の範囲内の営業の停止を命じており、これらの処分を通じて、風俗秩序の維持に努めている。
 過去5年間の、これら営業に対する行政処分の状況は、表6-20のとおりである。

表6-20 風俗営業の行政処分件数(昭和44~48年)

イ 風俗営業まがいの深夜飲食店
 生活様式の変化、特に夜間生活の拡大による深夜族の増加に伴って、深夜における飲食店あるいは社交場の需要が増大していることなどもあって、午後11時以降営業しているスタンドバー、スナックバー、サパークラプ、酒場等の深夜飲食店営業が、表6-21のとおり、逐年激増している。

表6-21 深夜飲食店営業の推移(昭和44~48年)

 これら深夜飲食店営業は、業態別にみると、バー、酒場等もっぱら酒類を提供している営業(10万9,829軒)と、喫茶店、すし屋、食堂等酒類以外の飲み物や食事を提供している営業(10万9,056軒)に大別される。
 これらの深夜飲食店営業では、風俗営業と異なり、客に酌をしたりあるいは客の相手となってダンスをするなどの接待行為は、法律上許されていないにもかかわらず、近年、過当競争と利潤追求の結果、バー、キャバレー等の勤め帰りのホステスを雇って、同伴客を装い堂々と客に接待をさせるもの、あるいは室内は暗く、バンド演奏もあってダンスもできるものなど、風俗営業と同様あるいはそれ以上の享楽的な営業形態が増えており、両者の差異が極めて紛らわしいのが現状である。
 また、これら営業の中には、会員制を採って会員以外は入店を断り、警察官が容易に違反を発見できない仕組みにしているもの、あるいは案内係を装った見張り人を入口に配置し、トランシーバー等で店内と緊密な連絡をとりながら取締りを免れるための工作を講じているもの等も出現し、総体的に違反内容が悪質、巧妙となる傾向にある。
〔事例〕
 「広小路沿線ナイトレストラン集中取締本部」を設置して、暗やみに近いほどの照度の下でバンド演奏をして、深夜族に夜明けまでダンスをさせていたナイトクラブまがいの深夜飲食店61軒を検挙した(愛知)。
 深夜飲食店営業におけるこのような違法営業は、風俗秩序の保持上大きな問題であり、法を守って営業している風俗営業や深夜飲食店の業者などにとって「正直者が馬鹿をみる」結果を招来するばかりでなく、暴力団関係者の資金源、あるいは少年非行の温床ともなりやすい。
 一方、酔っぱらいのわめき声や自動車の騒音によって、付近住民の安眠を妨害しているケースも目立っている。
 このような現状から、深夜飲食店営業に対しては、その業態の健全化のため、平素から指導取締りを推進している。特に昭和48年11月、無許可風俗営業とみられる深夜飲食店を中心に全国いっせいの取締りを実施したが、その結果、風俗営業等取締法違反等で総計1,807件を検挙した。これを違反態様別にみると、最も多いのが時間外営業865件(48%)、次いで無許可の風俗営業385件(21%)となっている。
 警察は、今後ともこれらの悪質な業者について監視を強化し、プロジェクト・チーム等を編成して重点的かつ集中的な取締りを強力に推進することにしている。
 過去5年間における深夜飲食店営業の検挙状況は、表6-22のとおり、違反態様別では時間外営業、無許可の風俗営業、18歳未満の従業員の使用が大半を占めている。

表6-22 深夜飲食店営業の検挙件数(昭和44~48年)

 また、法令に違反した深夜飲食店営業者に対しては、都道府県公安委員会が、最高6箇月の範囲内で営業の停止を命ずることができることになっており、悪質な違法営業者に対しては、まず、なによりもこの処分を優先させて、健全な風俗秩序の維持確立に努めている。
 過去5年間の、これら営業に対する行政処分の状況は、表6-23のとおりである。

表6-23 深夜飲食店営業の行政処分件数(昭和44~48年)

(2) 悪化する性風俗の浄化
ア 組織的売春の追跡
 売春防止法が完全施行されてから昭和48年で15年になるが、この間の時の流れは、売春の形態を大きく変化させている。
 最近における売春は、パンマ売春、ソープランドにおける売春、コールガール売春等のようにその形態は多様化し、組織化されている。
 売春を行う婦女も、かつてのように必要やむを得ず生きるために売春婦に転落した者は少なく、最近では、性を金銭欲や好奇心を満たす手段として割り切る傾向が強い。
 これをあやつる売春業者は、利益をあげるために組織の維持、統制を図っているが、ソープランド売春等においては、売春料を直接搾取するような方法を避け、売春婦と共存共栄を図って多額の収入を得ている。
 しかし、暴力団の介入する売春では、相変らず暴力を背景にか酷な搾取が行われている。
 売春の取締りは、このような売春形態の変化に対応して、組織的に行う暴力団の関係する事犯あるいはソープランド業者等による悪質事犯を重点に取締りを実施している。
 売春防止法違反の検挙状況は、表6-24のとおり、逐年減少の傾向にある

表6-24 売春防止法違反検挙状況(昭和44~48年)

が、内容的には組織的売春等の検挙が多い。
 売春問題をめぐる当面の問題の一つは、ソープランドを舞台とする売春の横行である。
 ソープランド営業は、売春及び性的行為が行われやすい特殊な業態であるところから、売春防止法の施行後、売春の場所として利用されることが多い。
 特に最近の傾向としては、ソープランドで働くソープランド従業員には、固定給がなく客のサービス料が唯一の収入となっているところから、多くの収入を得るために、“ボディ洗い”などの刺激的なサービスや売春を行わざるを得ない仕組みになっている。
 ソープランド営業所及びソープランド従業員の数は、表6-25のとおりで、逐年増加している。

表6-25 ソープランド営業所及びソープランド従業員の状況(昭和44~48年)

 このような現状にかんがみ、平素からこの種営業に対しては、厳しい取締りを行っているが、特に昭和48年は、10月から11月にかけて全国的にいっせい取締りを実施するなど、取締りに努めた結果、表6-26のとおり、前年の3倍以上の検挙件数となっている。
 一方、最近の特徴として営業者がソープランド従業員に対して、口止め、衛生器具類の厳重な処理等の証拠いん滅を指示し、あるいは警報装置の設置、見張り人の配置等取締りに対するいろいろな工作が講じられるようになったため、取締りの困難性が一段と増している。
 なお、ソープランド従業員には、暴力団員等の「ひも」がつき、これが送り迎え等を行うとともに、ソープランド従業員から売春料をピンハネするなどして生活している状

表6-26 ソープランド売春事犯の検挙状況(昭和44~48年)

況がうかがえる。
 昭和48年末の調査結果では、ソープランド従業員1万7,832人のうち、24.8%にあたる4,418人に「ひも」かついており、このうち暴力団員の「ひも」がついている者が2,666人(約60%)で、暴力団対策の面からも、今後も一層取締りを強化する必要があることが痛感される。
イ “わいせつ物”に歯止めを
 “性風俗”に対する考え方は、時代とともに変化するものであり、“わいせつ”についての判断基準も10年、20年前に比べれば、今昔の感がある。
 最近は、欧米諸国からの影響等もあって、従来タブーとされていたものが、徐々に容認されるようになるなど、解放的な方向に向かう状況にある。
 ブルーフイルム、春本、春画のたぐいも相変らず暴力団等によって、ひそかに製作、販売されている。
 警察としては、公刊物については社会、特に青少年に及ぼす影響を考え、また、ブルーフイルム等については暴力団対策の一環として、間断のない取締りを実施しているが、過去5年間における刑法第175条(わいせつ物罪)の検挙状況は、表6-27のとおりである。
 特に、刑法第175条(わいせつ物罪)を適用して暴力団員を検挙した状況は、表6-28のとおりであり、その全体に占める割合は高い。
 これは、いわゆるブルーフイルム等のわいせつ物の製作、販売には、一定の地下組織と非公然流通ルート及び販売先の開拓、保持が必要であり、暴力団組織がこれらの条件を備えていることによるものと思われる。

表6-27 刑法第175条(わいせつ物罪)検挙状況(昭和44~48年)

表6-28 刑法第175条(わいせつ物罪)暴力団員検挙状況(昭和44~48年)

 最近流通しているブルーフイルムやわいせつ写真及び写真誌等には、外国で製作、印刷されたものや、あるいはその複製が多い。
 これは、欧米諸国におけるポルノ解禁と国際交流の活発化を反映する現象であって、特徴的な傾向といえる。
 外国製のいわゆるポルノ雑誌の我が国への上陸は、通関の段階で捕捉されるのが通常であるが、通信販売による郵便形態で潜入するケースや通関をパスするために局部的にマジックで塗りつぶして、わいせつ性を除去し上陸するケースがある。輸入業者の中にはこのマジックによる消去方法に工夫を凝らし、ベンジン、シンナー等で容易に復元できる特殊なマジックを使って塗りつぶし、その復元方法を教示して販売する悪質業者もある。
 警察は、ポルノ雑誌等の公刊物については、慎重にわいせつ性の判断を行うとともに、わいせつ性のあるものが一般書店等で公然と販売された場合には、社会に及ぼす影響が大きいので、その押収については、迅速な措置をとることとしている。
 昭和48年中、取締りによって押収したわいせつ物は、図6-27のとおりである。

図6-27 押収したわいせつ物の状況(昭和48年)

ウ 発効したモーテル営業規制
 いわゆるワンルーム・ワンガレージ(車庫付き個室)のモーテル営業に対する住民の設置反対や批判の声が盛り上がり、その結果、昭和47年7月5日に公布施行された風俗営業等取締法の一部を改正する法律によって規制されることになり、都道府県が条例で定める禁止地域内においては、条例の施行後1年以内にワンルーム・ワンガレージのモーテル営業は、姿を消すこととなった。
 都道府県条例で定める禁止地域内のモーテル営業の営業所数は、条例施行時は、全国で4,856軒あったが、昭和48年末には、108軒が会社の保養所等に転売されたり、あるいは一般飲食店、ドライブイン、下宿屋、アパート等に転業しており、その結果、法の対象となる営業所は、4,748軒になっている。
 なお、モーテル営業者の中には、法令の規制による施設改造と併せて、けばけばしい看板を取りはずしたり、あるいは客室に備え付けていたピンク映画専門の放映設備やローリングベッド、鏡の間などの設備を撤去して、セックス産業から自動車旅行者のための健全な宿泊施設への転換を図っているものも相当数見受けられる。
 このように、条例の発効によるモーテル営業の正常化の実現によって、地域環境の浄化が進められたほか、これまで多発傾向にあったモーテル営業施設内での性犯罪等は、表6-29のとおり、減少している。

表6-29 モーテル営業施設内における性犯罪等の認知状況(昭和47、48年)

(3) ギャンブルブームとその周辺
ア 一かく千金を夢見る人たち
 最近の社会風潮を反映してか、運、不運を一瞬にかけて勝負を行うギャンブルがブームを呼んでいる。
 公に認められた競馬、競輪、競艇、オートレースなど公営競技場入場者は、図6-28のとおり、漸増し、年間売上げ高も3兆円に達している。
 一かく千金を夢みてギャンブルに熱中したあげく、働く意欲を失い、中には財産の滅失、家族離散の悲劇の主人公となる例のほか、殺人、強盗、業務上横領等の犯罪を犯す者の数も少なくない。
イ 増加した公営競技法違反
 競馬、競輪、競艇及びオートレースファンの増加を背景に「ノミ屋」の横行が、健全な競技環境を阻害する一因として問題視されている。とりわけ、

図6-28 公営競技場入場者数及び売上高の状況(昭和44~48年)

ノミ行為は、暴力団にとって格好の資金源となっており、暴力団の組織的介入がみられるだけに、ノミ行為の追放は、暴力団対策のうえでも重要な施策の一つとなっており、過去5年間におけるノミ行為の検挙状況は、表6-30のとおりである。

表6-30 ノミ行為の検挙状況(昭和44~48年)

 昭和48年中には、ノミ行為追放のために、強力な取締りの実施と公営競技施行者側による環境改善など締め出し措置の実施との両面作戦を展開することとした。すなわち、防犯部門のみならず刑事、外勤部門を含めたノミ行為取締りのためのプロジェクト・チームの編成等取締体制を強化し、集中的取締りを反復する一方、通産省、農林省など公営レース監督官庁との協議や公営レース関係団体とのノミ行為防止対策会議を数回にわたり開催し、各種の監視用テレビカメラの設置、自主警備の強化などを促した。
 一方、公営競技をめぐるいわゆる「八百長」事犯など、競技の公正を害する不正行為事犯も目立った。警視庁が昭和48年前半、6箇月を費やして全ぼうをあばいた船橋、大井、川口、浜松の各オートレースをめぐる暴力団員らによる八百長事件は、社会的に大きな反響を呼び関係者に反省を促した。
 ちなみに、過去5年間の八百長事件の検挙状況は、表6-31のとおりである。
ウ 外国製ギャンブル機具の横行
 公営競技以外のギャンブルについては、刑法第185条(と博罪)等によって取締りを行っているが、過去5年間の検挙状況は、表6-32のとおり、逐年増加している。

表6-31 八百長競技等検挙状況(昭和44~48年)

表6-32 と博事犯検挙状況(昭和44~48年)

 特に最近、バー、スナック等の深夜飲食店営業や喫茶店等を舞台に外国製のギャンブル機具を使用したと博事犯が増加しており、なかんずく暴力団による組織的なものが目立っている。
 昭和48年2月にはこの種事犯の全国いっせい取締りを行うなど、取締りの強化を図ったが、昭和48年中における外国製ギャンブル機具等を使用したと博事犯は、表6-33のとおり、前年の取締りに比較すると大幅に増加している。

表6-33 外国製ギャンブル機具によると博事犯の検挙状況(昭和47、48年)

図6-29 押収ギャンブル機具の種類(昭和48年)

 押収したギャンブル機具の種類は、図6-29のとおりである。
 これらのギャンブル機具のほとんどは、暴力団組織によるリ一ス方式で設置されているが、その場合の利益分配は、設置業者が3ないし4割、リース業者が6ないし7割となって、暴力団にとって少なからぬ資金源となっている。


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