第4章 少年の補導・保護

1 少年の非行と補導

 大多数の少年が健全に成長の過程をたどっているなかで、非行に陥って他の少年達から取り残されていく多くの非行少年(注1)がいる。少年の非行の防止は、犯罪の予防という観点からはもとより、次代を担う少年の健全育成の観点からゆるがせにできない重要な問題である。
 少年は、心身ともに未成熟であり、環境の影響も受けやすいため、ささいなことから非行に走りやすい反面、教育による矯正の可能性が高いという特性を有している。
 このような少年の特性に着目して、少年法は、罪を犯した少年に対して直ちに刑罰を科することなく、保護処分(注2)によって少年の矯正と環境の改善に努めることを原則とし、その罪質や情状からみて特に刑罰を科することが相当と認められる少年についてのみ刑事処分を行なうこととしており、その場合においても成人とは異なった特別の配慮のもとに行なうこととしている。
 また、児童福祉法は、児童の福祉を守るため、児童の虐待防止、不良行為をした児童の教護等の面についても、特別の考慮を払っている。
 更に、青少年にとって有害な環境を排除するため、昭和47年末現在33の都道府県において、青少年保護育成条例が制定されている。この条例は、著しく少年の性的感情を刺激したり、あるいは残虐性を有する映画、図書、広告物等を少年に有害なものとして知事が指定し、この指定を受けた映画を少年に見せたり、図書を販売したりした者や、広告物の撤去命令に従わない者等を刑罰に処することとしている。
 警察においては、少年の特性を考慮して、犯罪捜査規範(昭和32年に制定された犯罪捜査全般について規定する国家公安委員会規則)に少年事件に関 する特則を設け、少年事件の捜査は少年の健全な育成を期する精神をもってあたり、できる限り身体の拘束を避け、取調べを行なう場合には保護者に連絡し、特に取調べの言動等に注意してその心情を傷つけないようにするなど成人事件とは異なる特別の考慮を払っている。更に、少年警察活動全般について、少年警察活動要綱(昭和35年警察庁次長通達)を設け、少年警察活動は少年の非行の防止を図り、その健全な育成に資するとともに、少年の福祉を図ることを目的とすることを明示し、非行少年等の発見や処遇の方法、心構えなどについて特別の配慮をしている。
 少年警察活動を適切に遂行するための体制としては、都道府県警察本部及び警察署にそれぞれ少年警察担当の課・係を置き、少年事件選別主任者(注3)、少年担当婦人警察官、婦人補導員(注4)等を含む少年警察専従員を配置して、非行少年の補導活動(注5)などを行なっている。
(注1) 非行少年とは、少年法第3条第1項に規定されている少年、すなわち、犯罪少年(罪を犯した14歳以上20歳未満の者)、触法少年(刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者)及びぐ犯少年(性格、行状などから判断して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳未満の者)をいう。
 なお、非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、けんかその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている20歳未満の者を不良行為少年という。
(注2) 保護処分には、保護観察所による保護観察、教護院又は養護施設への収容及び少年院への収容がある。
(注3) 少年事件選別主任者とは、少年事件の内容、非行の原因及び動機、再非行の危険性の有無、保護者の実情等を検討し、非行少年の処遇を正しく判断するための専門警察官であり、昭和45年から、全国各警察署に配置されている。
(注4) 婦人補導員とは、道府県警察の職員であって、一般にママ・ポリスと呼ばれ、婦人の特性を生かして、街頭等において少年の補導にあたっている者である。
(注5) 補導活動とは、非行少年又は不良行為少年について、捜査又は調査を行ない、家庭裁判所、検察官、児童相談所、福祉事務所等に送致又は通告し、あるいは家庭、学校、職場等へ連絡、注意、助言する等少年について適切な処遇を行なう活動をいう。なお、保護者等の依頼があり、又は、特に必要があって、引き続き一定期間継続して非行防止のために必要な指導、助言等を行なう活動を継続補導という。
(1) 戦後の少年非行の推移(注)
 戦後の少年非行の推移を、主要刑法犯(刑法犯のうち凶悪犯、粗暴犯、窃盗、知能犯及び風俗犯をいう。)を犯して補導された少年(以下「主要刑法犯少年」という。)の人員及び人口比(少年人口1,000人当たりの数。人口は厚生省人口問題研究所推計による。以下同じ。)でみたものが図4-1であるが、そこには2つの大きな山が認められる。第1の山は昭和26年をピークとする時期であり、次の山は昭和39年をピークとする時期である。
 昭和39年以降、主要刑法犯少年は、少年人口の減少もあって逐年減少し、昭和47年には過去10年間の最低を記録したが、人口比においては、昭和45年以降横ばいの状況にある。
 終戦直後の少年非行の増加は、敗戦による混乱すなわち、経済的な困窮や、親と死別するなどのいわゆる家庭の欠損が多くの少年に深刻な影響を与え、それが非行にあらわれたといえよう。その後、我が国の経済が回復し、社会が徐々に安定をとりもどすにつれて非行は減少し、昭和29年頃にはこの第1の山は終わった。
 従来、貧困や家庭の欠損が少年非行の大きな原因であると考えられ、このよ

図4-1 主要刑法犯少年の人員及び人口比の推移(昭和24~47年)

うな問題が解消されるならば非行を大幅に減少させることができると考えられていた。少年非行の第1の山については、この説明があてはまると考えられる。しかしその後、我が国の経済が高度成長をとげてきた昭和30年代に少年非行が急激に増加し、人員においても人口比においても戦後最高を記録した昭和39年の第2の山については、このような考え方では説明はつかない。
 もちろん、この時期においても貧困や家庭の欠損が少年非行の一つの原因であることは無視できないが、もう一つの新しい側面として、社会の急速な発展と複雑化に伴う価値観の多様化を背景として、自律性が十分確立されていない少年が激しいコマーシャリズムによる欲望の拡大や享楽的な環境の中で、他人の行動に付和雷同的に追随して非行に走る傾向が認められる。
 ちなみに、図4-2は大阪府警察で取り扱った刑法犯(道路交通に起因する業務上(重)過失致死傷罪を除く。以下同じ。)を犯して補導された犯罪少年(以下「刑法犯少年」という。)のうち、生活保護世帯の者及び欠損家庭の者

図4-2 刑法犯少年のうち生活保護世帯の者及び欠損家庭の者の推移(大阪府警察調べ)(昭和31~47年)

の占める割合の推移を示したものであるが、いずれもおおむね減少傾向にある。
(注) 本章における昭和47年の数字は、特記する場合を除き、沖縄を含まない。
(2) 少年非行の現況
 昭和47年中警察において補導した非行少年数は表4-1のとおりである。
 なお、このほか昭和47年中に約72万人の不良行為少年を補導している。
ア 少年犯罪の人口比は成人の3倍
 刑法犯少年、触法少年及び成人犯罪者(いずれも刑法犯に限る。以下同じ。)の人員及び人口比の最近5年間の推移をみたものが図4-3である。
 最近5年間、成人犯罪者数が一貫して減少しているのに対し、刑法犯少年数は横ばいの状態にあり、昭和47年中の成人を含めた全刑法犯検挙人員(34万8,788人)の中に少年の占める割合は、28.9%となっている(復帰後の沖縄を含む。)。
 なお、14歳以上20歳未満の少年人口は昭和47年は約998万人であって、14歳以上の総人口約8,295万人の12%であるが、この割合は最近5年間減少の傾向にある。
 刑法犯少年の人口比は、図4-3のとおり、昭和45年以降ほぼ横ばいの

表4-1 非行少年の補導数(昭和47年)

図4-3 刑法犯少年、触法少年及び成人犯罪者の人員及び人口比の推移(昭和43~47年)

状態にあるが、昭和47年は10.1人で成人犯罪者3.4人に比較し、約3倍の高い比率になっている。
 また、触法少年の人口比も昭和44年以降成人犯罪者の人口比を上回って漸増傾向にあり、昭和47年には5.8人となって成人犯罪者の人口比との差が逐年ひろがっている。
イ 非行の低年齢化
 最近5年間の刑法犯少年の人口比の推移を年齢層別にみたものが図4-4である。
 刑法犯少年の人口比は、18歳以上の年長少年の場合は最近5年間一貫して減少し、また、16・17歳の中間少年の場合も昭和45年以降減少しているのに対し、14・15歳の年少少年の場合には、昭和44年以降急上昇し、昭和47年は12.4人であって、前年同様年齢層別にみて全刑法犯少年中最高の人口比を記録している。また、図4-3に示したとおり、10歳から13歳までの触法少年の人口比も最近5年間漸増しており、低年齢の少年における人口比の

図4-4 刑法犯少年の年齢層別人口比の推移(昭和43~47年)

増加が注目される。
 図4-5は昭和47年中の刑法犯少年人員の年齢層別の割合をみたものであるが、年少少年が全体の38.2%を占めて最も多く、以下、中間少年、年長少年の順になっている。

図4-5 刑法犯少年人員の年齢層別構成比(昭和47年)

 ちなみに、最近5年間の年齢別刑法犯少年人員の推移をみたものが表4-2であるが、昭和43年から45年までは17歳が最も多かったのに対し、昭和46年、47年は15歳が最も多くなっている。
 また、刑法犯少年と触法少年の総人員中に小学生、中学生及び高校生の占める割合は図4-6のとおり、最近5年間逐年増加しており、昭和47年には全体の約7割となっている。
 図4-7は、小学生、中学生及び高校生のそれぞれについて、刑法犯少年と触法少年の人員及び生徒・学生人口1,000人当たりの人口比の推移をみたものである。
 人員についてみると、小学生と高校生は昭和45年以降おおむね横ばいであるのに対し、中学生は昭和44年以降増加しており、昭和47年には中学生

表4-2 年齢別刑法犯少年人員の推移(昭和43~47年)

図4-6 刑法犯少年及び触法少年中に占める小・中・高校生の割合(昭和43~47年)

が全体の49.5%を占め、以下、高校生の31.6%、小学生の18.9%の順になっている。
 また、人口比においても中学生が最も高く、以下高校生、小学生の順であり、しかも昭和44年以降の中学生の増加傾向が顕著である。
ウ 女子の割合は増加
 刑法犯少年中に占める女子の割合は最近3年間増加しているが、その状況は表4-3のとおりである。
 女子の占める割合は、昭和45年以降おおむねいずれの年齢においても増加の傾向にあるが、昭和47年は17歳が最も高く16.1%を占め、以下16歳、18歳の順になっており、全体では12.1%となっている。
 次に、罪種別にみると、女子少年による刑法犯の約9割が窃盗であって、男子少年の場合に窃盗が約7割であるのに比べて著しく高くなっている。
エ 少年犯罪の3割が再犯
 初犯、再犯別(注)に刑法犯少年をみると、図4-8のとおり最近5年間再犯少年の割合は3割を前後している。ちなみに、成人犯罪者の場合には、

図4-7 小学生、中学生及び高校生別の刑法犯少年と触法少年の人員及び人ロ比の推移(昭和43~47年)

表4-3 刑法犯少年に占める女子の割合の推移(昭和43~47年)

図4-8 刑法犯再犯少年の人員及び割合の推移(昭和43~47年)

図4-9 刑法犯少年に占める再犯少年の罪種別割合(昭和47年)

再犯者の割合は31.9%である。
 また、図4-9は、昭和47年中の少年による刑法犯について、罪種別に再犯少年の占める割合をみたものであるが、強盗、強かん、殺人などの凶悪犯に再犯少年が多く、以下恐喝、脅迫などの順になっている。
 また、初犯少年による全刑法犯のうち凶悪犯の占める割合は2.1%、粗暴犯は16.3%であるのに対し、再犯少年の場合にはそれぞれ4.5%、24.8%であって、再犯少年の犯罪は初犯少年の犯罪に比べて凶悪犯及び粗暴犯が多くなっている。
 次に、初めて罪を犯した少年がその後6箇月以内にどの位の割合で再犯す

表4-4 年齢別再犯状況(昭和47年)

るかを年齢別にみるために、昭和47年4月中に犯罪を犯した初犯男子少年3,372名について調査した結果が表4-4であるが、再犯者は205名(6.1%)で、年齢別の再犯者率は、年齢が低いほど高く、14歳では9.3人に1人の割合で再犯している。
(注) 本章でいう再犯とは、罪を犯して送致されたことのある者が再び罪を犯すことをいう。
オ 7割以上が窃盗
 窃盗、粗暴犯、凶悪犯及び性犯(注)の罪種別にそれぞれ最近5年間の補導人員と人口比の推移をみたものが図4-10、11、12、13であるが、人員、人口比ともおおむね減少傾向にあるなかで、窃盗により補導された少年(以下「窃盗少年」という。同様に「粗暴犯少年」、「凶悪犯少年」及び「性犯少年」を用いる。)の人口比が最近増加の傾向にあることが注目される。
(注) 性犯とは、強かん及びわいせつ犯をいう。
 次に、昭和47年中の少年による刑法犯を罪種別にみると、図4-14のとおり窃盗が71.2%を占め、図4-15に示す成人の刑法犯の罪種別状況に比較しても窃盗の占める割合が著しく高い。また、少年による窃盗の内容をみると、万引、オートバイ盗、自転車盗等が多い。
 更に、昭和47年中の窃盗少年(触法少年を含む。)を年齢層別にみると、図4-16に示すとおり、低年齢ほどその人員が多く、また、それぞれの年齢層ごとの刑法犯(触法少年を含む。)総数に占める窃盗の割合も年齢が低

図4-10 窃盗少年の人員及び人口比の推移(昭和43~47年)

図4-11 粗暴犯少年の人員及び人口比の推移(昭和43~47年)

図4-12 凶悪犯少年の人員及び人口比の推移(昭和43~47年)

くなるほど高くなっている。
 窃盗少年の非行動機をみるために、兵庫県警察が昭和47年1月から7月の間に扱った窃盗少年400人について調査した結果は図4-17のとおりであり、大半が単純な動機によるものであることを示している。
カ 性の逸脱行動
 性犯罪そのものは減少傾向にあるが、犯罪にまでは至らないぐ犯行為及び不良行為段階の性の逸脱行動は悪質なものが多く、しかも中学生のような低年齢少年にまで及んでいる。昭和47年9月に愛知県で高校生の男女44人が下宿やアパートで酒を飲んだり、シンナーを乱用しながら乱交を行なっていた事例があるが、同年中にこのような特異なケース84件が警察庁に報告されている。

図4-13 性犯少年の人員及び人口比の推移(昭和43~47年)

 ポルノブームに象徴される性解放の気運が少年の意識にも影響し、このような性の逸脱行動を助長しているといえよう。
キ シンナー等の乱用
 昭和37年頃に最も激しかった睡眠薬乱用に代わり、昭和39年頃から始まったシンナーやボンドの乱用は、昭和42年に広島県で一挙に5人の少年が乱用死して以来大きな社会問題に発展した。図4-18に示すようにシンナー等の乱用は毎年うなぎ昇りに増加し、昭和46年には乱用によって補導された少年は4万9,587人にも達し、これを乱用して婦女暴行などの悪質な非行を行なう事件も発生した。
 また、シンナー等の乱用による死者は、シンナーによる自殺を含めて、図4-19に示すように昭和43年以降急激に増加し、昭和46年までの4年間

図4-14 少年による刑法犯の罪種別構成比(昭和47年)

図4-15 成人による刑法犯の罪種別構成比(昭和47年)

図4-16 少年による窃盗の年齢層別割合(昭和47年)

図4-17 窃盗少年の非行動機(兵庫県警察調べ)(昭和47年1~7月)

毎年100人を越えた。
 シンナーやボンドは一般の文房具店、雑貨店等で容易に購入できるため小学生や中学生などの低年齢の少年までもこれを乱用し、心身がむしばまれている状況がみられたため、警察は乱用行為と乱用を知っての販売行為に対し法律による規制を行なうことを強く主張してきたが、昭和47年8月1日からいわゆるシンナー規制法(毒物及び劇物取締法等の一部を改正する法律)

図4-18 シンナー等乱用少年補導人員数(昭和43~47年)

により、これらの行為(注)が罰則をもって禁止された。
 法律による規制と取締りの効果は顕著にあらわれて、図4-18、19のとおり、乱用少年補導数、死者数のいずれも昭和47年には減少している。
 表4-5は、法律施行後の5か月について前年同月と比較してシンナー等

図4-19 シンナー等乱用による死者数(昭和42~47年)

表4-5 シンナー等乱用少年補導人員数(昭和46、47年)

の乱用少年の補導状況をみたものである。
 なお、法律の規制によりシンナー等の乱用は減少したが、規制を受けない有機溶剤の原体であるトルエン、ニス等の乱用が増加しつつあるとともに、覚せい剤、マリファナ、LSD等の不正使用に移行する傾向も見受けられるので注意を要する。
(注) シンナー規制法では、酢酸エチル、トルエン又はメタノールを含有するシンナー(塗料の粘度を減少させるために使用される有機溶剤)と接着剤について、その乱用行為、乱用目的の所持及び乱用を知っての販売行為等を禁止している。
ク 交通違反、交通事故とも率の高い少年
 少年の道路交通法令違反の検挙件数は、最近5年間、図4-20に示すように推移し、昭和47年には成人を含めた総検挙件数の9.5%となっている。
 しかし、この検挙件数を、それぞれの免許所持者数(昭和47年には少年約182万人、成人約2,766万人)に対する割合でみると、成人の場合が23.6%であるのに対し、少年の場合には37.8%であってはるかに高い。

図4-20 道路交通法令違反検挙件数の推移(昭和43~47年)

図4-21 少年による交通法令違反の態様別状況(昭和47年)

 また、少年による道路交通法令違反を態様別にみたものが図4-21であるが、交通事故に直結するおそれのある最高速度違反と無免許運転の合計が47.8%を占め、成人の38.5%を上回っており、スピードとスリルを求めて暴走しやすい少年の特質をよく物語っている。
 次に、少年の交通事故をみると、昭和47年の事故数(少年に主たる原因のあるもの)は7万1,812件(成人約53万件)であり、免許所持者に対する比率は3.9%となって、成人の1.9%に比べて著しく高い。
 更に、昭和47年にはサーキット族と呼ばれる暴走族が現われ、富山で175人、高知で101人など各地で多数の少年が検挙されている。(第6章「交通安全と警察活動」4(5)参照)
ケ モータリゼーションと少年非行
 モータリゼーションの波は、少年非行にも大きな影響を与えている。図4-22は、昭和47年中の少年による凶悪犯、粗暴犯及び窃盗について犯行の際に自動車を利用したものの件数及び割合をみたものであるが、強かんと強盗に自動車利用のケースが多いのが注目される。

図4-22 少年による自動車利用犯罪件数及び罪種別犯罪少年事件総数に占める割合(昭和47年)

 昭和47年11月には、神奈川県足柄下郡箱根町において、暴走族による集団強盗事件が発生したが、これも少年によるものであり、その内訳は、17歳1人、18歳7人、19歳5人であった。
(3) 少年補導
 非行少年や不良行為少年は、早期に発見して再犯防止等の措置をとることが重要であるが、特に最近のように低年齢の少年による非行が増加している場合には、早く発見すればするほど、その矯正は容易であるので、早期補導の要請は以前にも増して強いといえよう。
ア 「うちの子に限って」
 少年補導活動は、少年係の警察官や婦人補導員を中心として行なわれ、特に年末年始、春季(3月・4月)、夏季(8月・9月)などには少年補導特 別月間を設け、各都道府県警察ごとに地域の人々の協力を得て街頭補導などの活動を強化している。
 この活動によって昭和47年中に発見補導された少年は、非行少年と不良行為少年をあわせて延べ人員約86万人である(道路交通法令違反を除く。)。現在我が国の10歳以上の少年数は約1,600万人であるが、補導された少年の大半が10歳以上の少年であることを考えると、約19人に1人の割合で説諭等を含めなんらかの形で警察の補導を受けたことになる。警察で子供が補導されたことを知らされた親がしばしば口にするのは「まさかうちの子が」とか、「うちの子に限ってそんなこと」という言葉であり、子供の日常生活に対して無関心な親や、子供を過信している親の多いことを物語っている。
 昭和47年中の非行少年の補導状況を地域別にみると、東京で全刑法犯少年の約15%、全触法少年の約11%が補導され、以下大阪、北海道、福岡、神奈川、兵庫、愛知の順に多く、全刑法犯少年の約46%、全触法少年の約45%が東京、大阪等の7大都道府県で補導されている。
 なお、婦人補導員の活動の成果も大きく、例えば大阪においては昭和47年中2,895人(全体の約10%)福島においては2,789人(全体の約18%)の少年を補導している。

イ 非行少年の処遇
 非行少年を発見すると、警察ではその非行の内容を解明するとともに、どのような処遇がその少年の再非行の防止と健全育成のために適当であるかを判断し、意見を付して、少年法、児童福祉法の規定に従って、犯罪少年については検察官又は家庭裁判所に送致し、触法少年については保護者がいないか、又は保護者に監護させることが不適当な場合に、児童相談所に通告する。ぐ犯少年については、家庭裁判所又は児童相談所に送致、通告する。触法少年のうち児童相談所に通告しない少年については、少年に対する説諭指導と保護者等に対する事後の指導についての注意指導を行なうほか、保護者からの依頼があり必要と認めるときは、おおむね6箇月程度継続して補導にあたるなどの措置を講じている。

表4-6 警察による非行少年送致通告の状況(昭和47年)

 昭和47年中に警察が補導した犯罪少年、触法少年及びぐ犯少年の送致と通告の状況は表4-6のとおりである。
ウ 少年相談
 自分の子供が親の説得もきかずに不良少年達と交際している、学校を怠けるようになった、近所の店先で物を盗んでくることがあるなど、子供の非行等に関する様々な親の悩みを聞き、相談相手となるために、全国の警察署で少年相談を行なっているが、昭和47年中には、警視庁の2,397件を筆頭に全国で約3万3,000件の相談を行なった。
 この相談には、経験の豊かな少年係警察官や少年心理を鑑別する専門技術者などがあたっており、保護者などから相談を受けると、助言や指導のほか、必要と認められる場合には少年に直接面接して調査を行なうなど、できる限りの方法で、一人一人の少年に最も適した非行防止の措置を検討し、少年の心を傷つけることのないよう周囲の人々と十分に協力して少年の非行防止と健全育成に努めている。

2 少年の保護

 家出をして泊まる所もなく街をさまよう少年や、暴力団員などのえじきとなって売春などをしいられている少女を保護したり、少年を非行に誘うさまざまの有害な環境を排除したりすることもまた重要な警察活動の一つである。
(1) 家出少年
 最近5年間に警察が発見保護した家出少年数の推移をみたものが図4-23

図4-23 家出少年の保護人員の推移(昭和43~47年)

であるが、家出少年は一貫して減少し、昭和47年には4万8,605人(うち女子が44%)となっている。
ア 男子中学生、女子高校生に多い家出
 昭和47年中に保護した家出少年を学生・生徒、有職、無職の別にみたものが表4-7であるが、学生・生徒のうち男子では中学生、女子では高校生が多く、また、全体では有職少年の多いのが目立っている。
イ 春と秋に多い家出
 少年の家出は学年末の3月,4月及び夏休みの終わった9月に多いが、警察ではこの時期にあわせ、春季(3月4日~4月3日)及び秋季(9月)全

表4-7 家出少年の学識別発見保護の状況(昭和47年)

国家出少年発見保護月間を設け、この活動を強化している。昭和47年には、この月間中に1万2,217人(全体の約25%)の家出少年が保護されている。
 ちなみに、この月間中に保護した少年の家出の動機をみると、全体の約50%は「都会にあこがれて」などばく然とした理由のものであり、次に、「家庭の不和」など家庭の問題を理由にするものが約21%、「学校が嫌い」など学校関係のものが約18%、「仕事に将来性がない」など職場関係のものが約10%であった。
 なお、この月間中に保護した家出少年の約18%が家出の後就職していたが、女子の場合にはその就職先の約72%が喫茶店、バー、キャバレー等であった。
 また、この月間中に保護した家出少年のうち、保護者から警察に捜索願のあったものは、男子の場合が全体の45.2%、女子の場合が62.5%という状況であった。
ウ 東京と大阪で35%を発見
 地域的に家出少年の発見保護の状況をみると表4-8のとおりであって、東京と大阪で全体の約35%が発見されている。
エ 家出少年を待っているのは…
 家出少年と非行との関係を昭和47年秋季全国家出少年発見保護月間中に

表4-8 家出少年発見保護の多い都道府県(昭和47年)

表4-9 家出少年の非行状況(昭和47年秋季家出少年発見保護月間)

保護した家出少年7,402人についてみると、家出中に罪を犯した少年は617人で全体の8.3%を占め、12人に1人の割合で罪を犯していたことになる。これは、昭和47年中の刑法犯少年全体の人口比が、前述したとおり、約100人に1人の割合であるのに比べて8倍以上であり、家出少年が非行に走りやすいことを物語っている。表4-9は、この月間中に保護した家出少年について男女別に非行内容をみたものである。

表4-10 家出少年の被害状況(昭和47年秋季家出少年発見保護月間)

 また、この月間中に保護された家出少年のうち393人が犯罪の被害者となっていたが、その8割以上の329人が女子であり家出した女子のうち9人に1人の割合で被害を受けていたことになる。表4-10は、この月間中に保護した家出少年について男女別に被害内容をみたものである。
 なお、昭和47年中の人身売買等による被害少年総数1万1,026人中3,070人(約28%)が家出少年であった。
(2) 少年の福祉を害する犯罪
 最近5年間の福祉犯(少年の福祉を守るため特に設けられた法令の規定に違反する行為)(注)として検挙した被疑者数及び保護した被害者数の推移をみると図4-24のとおりであり、いずれも減少傾向にある。
 しかし、この種の犯罪は被害者が少年であるため自ら訴え出ることも少なく、また、犯罪の手段等も巧妙化しているため、必ずしも実態が好転しているとはいえない。昭和47年中の福祉犯検挙の端緒をみると、その95%以上が警察による家出少年の捜索や風評からの聞込みによるものであって、被害者からの訴え出は全体の2%にも満たない状況であった。
(注) 福祉犯とは、少年の福祉を害する犯罪であるが、少年の福祉を守るため特に設けられた法令名及び禁止されている行為の概要は次のとおりである。

児童福祉法 身体障害の児童を公衆に観覧させる行為等の禁止
労働基準法 15歳未満の少年を労働させる行為等の禁止
風俗営業等取締法 キャバレー等で少年を使用することなどの禁止
未成年者喫煙禁止法 少年に喫煙させること等の禁止
未成年者飲酒禁止法 少年に飲酒させること等の禁止
青少年保護育成条例 知事が有害と指定した図書を少年に販売すること等の禁止
薬事法 特定の薬品の少年への販売等の禁止
学校教育法 子弟就学義務違反等

図4-24 福祉犯の推移(昭和43~47年)

 昭和47年中に検挙、送致した福祉犯の被疑者総数は6,029人で、このうち主要福祉犯(児童福祉法、労働基準法、風俗営業等取締法等違反をいう。)の被疑者は、3,589人(59.4%)であった。その内訳は図4-25のとおりで

図4-25 福祉犯の罪種別構成比(昭和47年)

ある。
 一方、昭和47年中の福祉犯による被害者総数は1万1,008人で、女子が66.8%(主要福祉犯では78.3%)を占めている。
ア 暴力団のえじきになる少年
 昭和47年中の福祉犯の総検挙人員中に占める暴力団員の割合は6.4%(386人)であるが、福祉犯のうち最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取、いわゆるピンハネ」、「売春をさせる行為」及び「淫行をさせる行為」の4種類についてみると、昭和47年に検挙した被疑者の中に占める暴力団員の人員及び割合は表4-11のとおりであり、他に比較して著しく高い。

表4-11 悪質福祉犯被疑者中の暴力団員の人員及び割合(昭和47年)

イ 主要福祉犯の過半数は大都市に発生
 昭和47年中に全国で検挙された主要福祉犯の被疑者3,589人中、東京ほか7大道府県で2,002人(55.8%)が検挙され、5,792人の被害者中、2,919人(50.4%)が保護されている。その内訳は表4-12のとおりである。

表4-12 主要福祉犯の都道府県別検挙状況(昭和47年)

(3) 有害環境の排除
ア 映画、図書、広告物等
 青少年保護育成条例により、青少年にとって有害なものとして知事の指定を受けた映画、図書、広告物等の状況は図4-26のとおりである。
 広告物が横ばいであるほかは、いずれも増加の傾向にあるが、特に最近のポルノ映画ブームを反映して映画等の増加が著しい。なお、この条例により昭和47年中に、有害映画等に関して369人、有害図書に関して75人、有害広告物に関して97人に対し注意指導を行ない、有害広告物の掲出に関して6人を検挙している。
 また、映画業者の自主的な審査機関である映倫によって少年には観覧させないこととされた映画(成人向指定映画)は、日本映画、外国映画あわせて363件、審査総数の57%(前年298件、46%)であり、最近5年間において、成人向き指定映画本数は急増している。
イ バー、キャバレー等
 バー、キャバレー等のいわゆる風俗営業に関して風俗営業等取締法では、18歳未満の者を従業員として使用してはならないこと(従業者制限)、18歳

図4-26 青少年保護育成条例による有害指定件数(昭和38~47年)

未満の者を客として立ち入らせてはならないこと(客の制限)及び20歳未満の者に酒類を提供してはならないこと(酒類提供制限)を定め、風俗営業者がこれに違反した場合には営業の停止処分あるいは刑罰の適用を行なうことによって少年の保護を図っている。
 これらの違反による最近5年間の検挙人員の推移は表4-13のとおりであり、減少傾向にある。

表4-13 風俗営業等取締法による従業者制限等の違反検挙人員の推移(昭和43~47年)

3 警察と地域社会との連携

 最近のように非行が低年齢化し、児童や生徒の非行が増加してくると、家庭や学校における教育が以前にも増して重要なものとなってくる。
 また、少年の非行を防止するためには、それを早く発見して適切な処遇を行なうことがなによりも大切であるが、そのためには地域社会における自発的な非行防止活動が活発に行なわれる必要があるとともに、警察と地域社会とが常に十分に連携して補導活動を行なうことが必要である。
(1) 少年補導員などによる非行防止
 少年補導員の制度は、昭和37年4月、ボランティア活動の中から全国的な制度として発足したものであり、少年補導員数は昭和47年9月現在、警察等の委嘱を受けた者13万6,410人である。
 少年補導員の特色は、地域社会に密着して活動しているところにあり、少年補導員は非行防止のための啓蒙活動、民間補導活動等の中核となって活躍している。例えば、昭和47年中北海道において警察が扱った非行少年、不良行為少年2万8,907人中2,418人(8.3%)、同じく福島において1万5,327人中1,320人(8.6%)が少年補導員により補導されるなど全国で成果をあげている。
 また、少年補導員のほかにも、東京、大阪等における「母の会」や喫茶店を中心とした少年非行の防止を目的とする「少年を守る店」など、さまざまの立場で一般の人々が非行防止活動を行なっている。
(2) 少年補導センター
 少年補導センターは、警察職員、教育関係者、少年補導員等が協力して一定の地域における非行防止活動を行なうための拠点として地方公共団体等により設けられているものであり、昭和47年12月現在全国に4箇所ある。
 ここで活動している者は4万3,714人(うち警察職員519人)であるがその大半はボランティアの少年補導員である。
 その活動の実態を名古屋市少年センターについてみると、昭和47年には、非行少年の補導41人、不良行為少年の補導2,803人、少年相談を受け継続して少年の補導を行なったもの1,473人となっている。
(3) 学校及び職場と警察
 児童や生徒の非行が増加し、また学校を嫌って家出をする少年などの少なくない最近の状況において、学校教育、特にその生活指導のあり方は重要な問題である。
 学校警察連絡協議会(一般には「学警連」と呼ばれている。)は、学校と警察とが協力して児童生徒の非行を防止していくことを目的として設けられたものであって、昭和47年9月現在、全国で2,109組織あり、小学校、中学校及び高校の90%以上にあたる3万6,270校が参加し、各地域ごとの総会や個別にもたれる数多くの協議会を通じて非行防止活動の経験や資料の交換、具体的な対策の検討などを行なうほか、警察と協力して街頭補導などを行なっている。
 また、両親のもとを遠く離れて集団就職した少年や職場における生活指導等の十分でない事業所に就職した少年が、環境の変化による孤独感や生活の乱れから非行に走ったり犯罪の被害者となったりする例は多い。
 職場警察連絡協議会(一般には「職警連」と呼ばれている。)は、職場と警察とが緊密に連絡して勤労少年の非行を防止し、その健全な育成に努めることを目的として設けられているものであって、昭和47年9月現在、全国986組織に4万2,309の事業所が加入し、各事業所に補導責任者を指定して勤労少年の非行防止対策の検討、具体的な補導活動などを警察と協力して行なっている。
 なお、警察庁では、昭和34年以来全国防犯協会連合会への委託事業として毎年パンフレット「働く少年のしおり」を作成し、全国の就職予定の中学生約30万人に配布して、有職少年の非行防止に役立てている。

4 展望と課題~少年非行の低年齢化と多様化への対応~

 発達したマス・メディアや家庭・学校における教育の変化など少年をとりまく環境の変化は、少年のなかでも最も未熟な低年齢層に深刻に影響し、なかんずく、わいせつなあるいは暴力性を助長するような映画出版物等や保護者の過保護、放任などがその非行を促進してきたと思われる。また、物質的に豊かな社会は、かえって少年にさまざまな面で相対的な欲求不満をもたらし、年少少年による爆破予告事案、暴走族による交通非行等に見られるように非行の多様化を生みだしたといえよう。
 そして、このような現在の少年非行の傾向は今後も続いていくことが予想される。しかしながら、少年非行の大半が少年期の過ちにすぎない一過性のものであるという事実は変らないと考えられる。
 警察としてなによりも重要なことは、非行を早期に発見するとともに、非行に陥った少年を適切に取り扱い、個々の少年にその非行防止と健全育成のために最もふさわしい処遇を保障することである。
 このため、少年係警察官、婦人補導員等の充実を図り、また、心理鑑別、少年事件の選別等の分野における専門官の養成等によって少年警察体制を整備して、早期発見活動を強化するとともに、処遇にあたってより科学的な技法を導入していくことが必要である。
 その一つとして、警察庁では、少年事件処理の適正化に資するため、男子初犯少年に対する措置の選別及び処遇上の意見の決定に当たって考慮されなければならない重要な要素である再犯危険性の判定を客観的、かつ、能率的に行なうことを目的とした「男子初犯少年再犯危険性判定法」を昭和48年度から採用することとした。今後は、これとの関連において少年事件の選別基準や、交通違反、事故その他自動車と関連する非行についても有効な個別処遇を行なうための選別基準等について検討を進めることとしている。
 次に、非行の低年齢化により児童、生徒の非行が相対的に増大している現状にかんがみ、学校警察連絡協議会や地域の非行防止組織を通じて学校及び家庭との連携を一層緊密にし、非行の実態を教師や保護者によく知らせて、学校における生活指導や保護者の監護が適切に行なわれるよう協力するとともに、地域社会による自発的な非行防止と保護のための活動を一層促進するよう努力する必要がある。
 また、少年をとりまく環境が少年非行に大きな影響をもつことは前述したが、現在の社会環境は、この面からみて各関係機関や地域社会の努力により改善が図られつつあるものの、大都市等においては決して好ましい状況にあるとはいえず、非行少年、家出少年等の大きな誘因となっている。
 したがって、警察としては、少年の福祉を害する犯罪の取締りを強力に推進することはもとより、有害な広告物、図書、映画あるいは享楽的諸営業等に関して、有害環境排除の活動を関係機関と協力のうえ積極的に推進することが必要である。更に、少年が犯罪の被害にかかり、又は交通事故や危険な遊び場所などにより生命、身体などの被害を受けることが少なくない現状にかんがみ、地域社会と一体となった少年を守るための幅広い保護活動をも展開していく必要があると考える。


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