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トピックスV 国際テロ情勢と警察の取組~2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて~

現在、我が国を始め国際社会は、様々な国際テロの脅威に対峙(じ)している。平成28年(2016年)中は、同年7月に発生したフランス・ニースにおける車両等使用テロ事件を始め、世界各地でテロ事件が相次ぎ、海外において邦人がテロの被害に遭う事件も発生した。また、ISIL(注1)が我が国や邦人をテロの標的として繰り返し名指ししているほか、我が国においても、ISILへの支持を表明する者等が存在している(注2)

このような情勢の下、我が国において32年に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下この項において「東京大会」という。)が開催されることを踏まえると、我が国は、開催国としての治安責任を全うするために、万全の警備措置を講ずる必要がある。

注1:Islamic State of Iraq and the Levantの頭字語。いわゆるイスラム国
注2:170、171頁参照

(1)大規模スポーツイベントを狙ったテロ事件

我が国においては、平成31年にラグビーワールドカップ2019日本大会の開催が、32年に東京大会の開催が予定されている。こうした国際的な大規模スポーツイベントは、世界中から多数の外国要人、選手団、観客等が集まり、大きな注目を集めることから、テロの攻撃対象となることが懸念される。

実際、過去には、平成22年(2010年)のサッカーワールドカップ南アフリカ大会の開催中、ウガンダの首都カンパラのレストラン等2か所において、同大会決勝戦の中継を観戦していた客を狙ったとみられる爆弾テロ事件が発生し、76人が死亡した。また、平成25年(2013年)4月に発生した米国・ボストンにおける爆弾テロ事件では、2万人以上が参加して開催されていたボストンマラソンのゴール付近2か所において爆弾が爆発し、3人が死亡した。さらに、平成27年(2015年)11月に発生したフランス・パリにおける同時多発テロ事件では、サッカーのフランス対ドイツの親善試合開催中に競技場付近において自爆した実行犯の一部は、フランス大統領及びドイツ外相も観戦していた競技場への入場を試みたとみられている。このように、海外では、大規模スポーツイベントを狙ったテロ事件が発生している。

また、ISILは、インターネット上の機関誌で、屋外でのイベントや集会等をテロの標的とするよう呼び掛けるなどしており、今後も、大規模スポーツイベント等において、このようなプロパガンダに呼応したテロが発生することは否定できない。

 
フランス・パリにおける同時多発テロ事件(AFP=時事)
フランス・パリにおける同時多発テロ事件(AFP=時事)

コラム 伊勢志摩サミット等警備

伊勢志摩サミットは、平成28年5月26、27日、三重県志摩市賢島において開催された。また、オバマ大統領(当時)は、27日のサミット終了後に、現職米国大統領として初めて被爆地・広島を訪問した。さらに、サミットの関係閣僚会合として、4月10、11日に広島市で開催された外務大臣会合を皮切りに、5月20、21日に仙台市で開催された財務大臣・中央銀行総裁会議までのおよそ1か月半に8つの会合が集中的に開催されたほか、9月中にも神戸市で保健大臣会合が、長野県軽井沢町で交通大臣会合が開催された。

警察庁では、27年6月、警察庁次長を長とする「伊勢志摩サミット等警備対策委員会」を設置したほか、都道府県警察においては、三重、広島、宮城及び愛知の4県警察がサミット対策課を、その他全ての都道府県警察が警備対策委員会等を、それぞれ設置して体制を確立し、全国警察が一体となって総合的な警備諸対策を強力に推進したことにより、開催国としての治安責任を全うした。警察では、伊勢志摩サミット等警備で推進した警備諸対策の効果を綿密に検証した上で、今後の施策に的確に反映させ、東京大会警備に万全を期していくこととしている。

 
第42回伊勢志摩サミット(提供:外務省)
第42回伊勢志摩サミット(提供:外務省)

(2)東京大会に向けた警察の取組

警察では、平成26年1月、警察庁に2020年オリンピック・パラリンピック東京大会準備室を、警視庁に警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部を設置し、東京大会における警備諸対策について検討を進めている。また、警察庁次長が「シニア・セキュリティ・コマンダー」として、同大会の警備の計画・運営段階において関係機関を主導する役割を担うこととされているほか、同大会の安全に関する情報集約、リスク分析等を行うセキュリティ情報センターが警察庁に設置されるなど、必要な各種諸準備を推進している。

また、平成28年(2016年)夏に開催されたブラジル・リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「リオ大会」という。)においては、東京大会での警備等にいかすべく、現地の警備状況等を確認した。

東京大会では、競技会場が4つの地区に集約されたリオ大会と異なり、競技会場が都内及び都外に分散配置されることから、会場ごとに高いセキュリティレベルを確保するため、警戒力の効果的かつ効率的な投入等について検討を進めていく必要がある。また、東京大会前に行われる聖火リレーが全都道府県を巡ることが検討されており、これまでの大会において聖火リレーに対する妨害事案が発生していることから、全国警察においてその対策について検討を進めていく必要がある。

さらに、インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着する中、社会機能を麻痺(ひ)させるサイバー攻撃の脅威にも備えなければならないところ、リオ大会では、開催期間中に行政機関やリオ大会の関係機関等において、ウェブサイトの閲覧障害、情報窃取の被害が発生するなど、国際的な大規模スポーツイベントを狙ったサイバー攻撃の脅威が高まっている。警察では、東京大会に向けて、関係機関と連携して、サイバー攻撃及び攻撃者に関する情報収集・分析等を推進するとともに、サイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練を実施している。



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