特集 交通安全対策の歩みと展望

2 対象者の特性等に応じたきめ細かな対策の強化

緻密な交通事故分析に基づく効果的な対策の効率的推進に当たっては、多様な対象者の実像を踏まえ、それぞれの特性等に応じたきめ細かな対策の強化を図っていくという視点が極めて重要である。

例えば、児童については、小学校入学後、活動範囲が拡大し、保護者から離れて道路を通行する機会が増加する一方で、危険を予測し、これを回避して安全に通行する意識及び能力が十分ではないことから、道路横断中の事故や飛出しによる事故が他の年齢層よりも格段に多くなる傾向にある(注1)。児童の交通事故防止対策としては、児童に交通ルールやマナーを覚えさせるだけでなく、児童にとって身近な小学校周辺の道路の危険箇所等を題材として交通安全教育を実施するほか、保護者に対して交通安全教育を実施する機会を設けたり、児童に対する交通安全教育を実施する場合に保護者の同伴を求めたりするなど、その特性等を踏まえた交通安全教育を推進する必要がある。

また、超高齢社会が到来した我が国において、死者数全体に占める高齢者の割合及び死亡事故件数全体に占める高齢運転者によるものの割合が増加している中、その対策は喫緊の課題であるが、対策の検討に当たっては、歩行中・自転車乗用中と自動車運転中というそれぞれの状態における高齢者の特性等について理解する必要がある。

特に高齢運転者の交通事故防止対策に関しては、改正道路交通法が平成29年3月に施行され、臨時認知機能検査の導入等によって、その認知機能の状況に応じて適時適切な対応をとることが可能となったが(注2)、高齢者の特性が関係する事故は、必ずしも認知機能の低下に起因するものに限られない(注3)

「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」(注4)では、医師の診断体制の確保、高齢者講習の実施体制の充実等の改正道路交通法の確実な施行に関する取組を引き続き推進すべきとされた一方、高齢者の運転リスクとして、認知症や視野障害のほか、反射神経の鈍化や筋力の衰え等の加齢に伴う身体機能の低下について指摘がなされ、運転免許証の自主返納、高齢者の移動手段の確保、衝突被害軽減ブレーキ等の先進安全技術の普及啓発等に向けた取組を推進すべきとされるなど、多角的かつ幅広い議論が行われた。

このため、警察では、運転を継続する高齢者に対しては、高齢者講習を適切に実施するなどして、加齢に応じた望ましい運転の在り方等について交通安全教育等を推進し、また、運転に不安を有する高齢者に対しては、運転適性相談(注5)の充実・強化を図るなどして、それぞれの高齢者が抱える運転リスクに応じたきめ細かな対応を実施できるよう、関係機関・団体等と緊密に連携しながら、高齢運転者に関する施策を充実させるとともに、今後も、総合的な交通事故防止対策について検討していく。

注1:8頁参照
注2:30頁参照
注3:9頁参照
注4:31頁参照
注5:32頁参照


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