特集 交通安全対策の歩みと展望

5 道路交通秩序の維持

(1)交通事故防止に資する交通指導取締り

① PDCAサイクルによる交通指導取締り

警察では、平成25年12月に取りまとめられた「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する提言」(注)を踏まえ、交通事故の発生状況等を分析し、取締りを実施する時間、場所等の交通指導取締りに関する方針を策定した上で、計画的に取締りを実施するとともに、その効果を検証し、検証結果を次の対策に反映するというPDCAサイクルを機能させることによって、交通事故防止に資する交通指導取締りを推進している。

注:19頁参照
 
図表特-73 PDCAサイクルによる交通指導取締り
図表特-73 PDCAサイクルによる交通指導取締り

また、交通指導取締りの必要性について国民の理解を深めるため、最高速度違反に起因する交通事故の発生状況や地域住民からの要望等を踏まえた速度取締りに関する指針を策定し、速度取締りを重点的に実施する路線や時間帯等をウェブサイト等により公表している。

 
重点取締り場所の公表(警視庁のウェブサイト)
重点取締り場所の公表(警視庁のウェブサイト)

コラム 新たな速度違反取締装置の整備

警察では、取締りスペースの確保が困難な生活道路や警察官の配置が困難な深夜等の時間帯において速度取締りが行えるよう、新たな速度違反取締装置の整備を進めており、埼玉県及び岐阜県における試行的運用の結果を踏まえつつ、全国的な整備を図ることとしている。

 
新たな速度違反取締装置の例
新たな速度違反取締装置の例
② 悪質性・危険性・迷惑性の高い運転行為への対策

警察では、交通街頭活動を推進し、違法行為の未然防止に努めるとともに、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、交差点関連違反等の交通事故に直結する悪質性・危険性の高い違反及び駐車違反等の迷惑性が高い違反に重点を置いた取締りを推進している。

また、近年、スマートフォンの画面を注視していたことに起因する交通事故が増加傾向にあり、運転中に携帯電話等を使用することは重大な交通事故につながり得る極めて危険な行為であることから、関係機関・団体等と連携し、運転者等に対して広報啓発を推進するとともに、携帯電話使用等の交通指導取締りを推進している。

28年中は、673万9,199件の道路交通法違反を取り締まっている。

 
図表特-74 主な道路交通法違反の取締り状況(平成28年)
図表特-74 主な道路交通法違反の取締り状況(平成28年)
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携帯電話使用等の防止に関する広報啓発用ポスター
携帯電話使用等の防止に関する広報啓発用ポスター
 
図表特-75 携帯電話使用等に係る交通事故の発生状況の推移(平成24~28年)
図表特-75 携帯電話使用等に係る交通事故の発生状況の推移(平成24~28年)
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コラム 英国における速度取締り

英国では、高速道路だけでなく、一般道路においても、固定式カメラを用いた速度取締りが行われている。

また、「コミュニティ・ロード・ウォッチ」と呼ばれる訓練を受けたボランティアが、スピードガンを使用して発見した速度超過車両の情報を警察に提供し、情報提供を受けた警察が、違反者に警告文書を送付するという取組が行われている。

 
速度取締りの固定式カメラ
速度取締りの固定式カメラ
③ 使用者等の責任追及等

事業活動に関して行われた過労運転、過積載運転、放置駐車、最高速度違反等の違反やこれらに起因する事故事件について、運転者の取締りにとどまらず、使用者に対する指示や自動車の使用制限命令を行っているほか、これらの行為を下命・容認していた使用者等(注)を検挙するなど、使用者等の責任も追及している。

また、タクシーやトラック等の事業用自動車の運転者が、その業務に関して行った道路交通法等に違反する行為については、運輸支局等に通知して所要の行政処分等を促し、事業用自動車による交通事故防止を図っている。

さらに、自動車整備業者等による車両の不正改造等、事業者による交通の安全を脅かす犯罪に対しても、取締りを推進している。

注:使用者のほか、安全運転管理者その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む。

事例

27年9月、タクシー運転手の男(54)が運転中に失神状態に陥る発作を発症するおそれを認識していたにもかかわらず、乗客を輸送中に発作を発症して正常な運転ができない状態に陥り、対向車と衝突して、同乗客及び対向車の運転者を負傷させた。

この交通事故を端緒に、同男が正常な運転ができない状態で自動車を運転することを容認していたとして、28年3月、同男が勤務する会社の運行管理者の男(35)を道路交通法違反(自動車の使用者の義務違反)で検挙するとともに、同社に両罰規定を適用した(広島)。

 
タクシーの交通事故状況
タクシーの交通事故状況
④ 暴走族等対策

暴走族は、減少傾向にあるものの、都市部を中心に、地域住民や道路利用者に多大な迷惑を及ぼしている。

警察では、共同危険行為、騒音関係違反(注)、車両の不正改造に関する違反等の取締りを推進するとともに、家庭、学校、保護司等と連携し、暴走族から離脱させるための措置をとるなど、総合的な暴走族対策を推進している。

また、元暴走族等が中心となって結成された「旧車會」等と呼ばれる集団の中には、暴走族風に改造した旧型の自動二輪車等を連ねて、大規模な集団走行を各地で行うなど、迷惑性の高いものもあることから、都道府県警察間での情報共有を図るとともに、関係機関と連携して騒音関係違反等に対する指導取締りを行っている。

注:道路交通法違反のうち、近接排気騒音に係る整備不良、消音器不備及び騒音運転等をいう。
 
図表特-76 暴走族等の人員及び検挙人員の推移(平成24~28年)
図表特-76 暴走族等の人員及び検挙人員の推移(平成24~28年)
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共同危険行為を敢行する暴走族
共同危険行為を敢行する暴走族
 
旧車會に対する取締り
旧車會に対する取締り

(2)適正かつ緻密な交通事故事件捜査

① 交通事故事件の検挙状況

平成28年中の交通事故事件の検挙状況は、図表特-77のとおりである。

 
図表特-77 交通事故事件の検挙状況(平成28年)
図表特-77 交通事故事件の検挙状況(平成28年)
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② 適正かつ緻密な交通事故事件捜査

警察では、一定の重大・悪質な交通事故の発生に際しては、交通事故事件捜査の豊富な経験を有する交通事故事件捜査統括官等が現場に臨場して、初動段階から捜査を統括するとともに、科学的な交通事故解析の研修を積んだ交通事故鑑識官が現場で証拠収集に従事するなど、組織的かつ重点的な捜査を推進している。

特に、飲酒運転、信号無視、無免許運転等が疑われるものについては、一般的に交通事故に適用される過失運転致死傷罪より罰則の重い危険運転致死傷罪や過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の立件を視野に入れた捜査を推進している。

また、ひき逃げ事件については、交通鑑識資機材や常時録画式交差点カメラの有効活用による被疑者の早期検挙を図っており、28年中の死亡ひき逃げ事件の検挙率(注)は、100.7%であった。

注:検挙件数には、28年の前年以前の認知事件の検挙が含まれることから、検挙率が100%を超える場合がある。

事例

28年4月、普通乗用自動車を運転して、歩行者をひいて逃走した死亡ひき逃げ事件について、運転者の男(40)を過失運転致死罪及び道路交通法違反(救護義務違反等)で逮捕した。その後、被疑者の取調べや実況見分等の捜査を実施した結果、事件当時、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させていたことを立証(同年5月、より罰則の重い危険運転致死罪で起訴)した(広島)。

 
交通事故現場の状況
交通事故現場の状況
③ 交通事故事件捜査の科学化・合理化

緻密で科学的な交通事故事件捜査を推進するため、警察庁では、交通鑑識に携わる都道府県警察の警察職員を対象とした研修を行っている。研修内容は、様々な状況を想定した車両の衝突実験を行い、衝突後の状況のみを見分させた上で交通事故の発生時における車両の状況や速度を究明させるなど、実践的・専門的なものとなるよう工夫している。

また、客観的な証拠に基づいた事故原因の究明を図るとともに、交通事故当事者の負担を軽減するため、常時録画式交差点カメラや3Dレーザースキャナ(注)を始めとする各種の機器の活用を図っている。

他方で、重大な交通事故事件の捜査に集中することができるよう、軽微な交通事故に関しては、検察庁への送致書類の簡素化を図るなど、業務の合理化も進めている。

注:レーザー光線を周囲に照射することで、事故現場における道路構造や路面の痕跡、遺留品の散乱状況等を自動的かつ正確に計測し、三次元点群データを作成する機器。同データは、専用のシステムにより、三次元画像処理や図化ができる。
 
事故解析に関する研修の状況
事故解析に関する研修の状況
 
3Dレーザースキャナによる測定状況
3Dレーザースキャナによる測定状況
 
3Dレーザースキャナによる三次元画像
3Dレーザースキャナによる三次元画像

コラム 交通警察官の声②

第一線の交通警察官に対するアンケート(注)では、「10年前と比べ、国民の理解や協力は得られやすくなったと思うか」との質問に対し、「ひき逃げ事件の捜査」については、約3割の者が「得られにくくなった」又は「やや得られにくくなった」と答えているが、「得られやすくなった」又は「やや得られやすくなった」と答えた者も2割を超えていた。

また、「交通違反に対する指導取締り」については、半数近くの者が「得られにくくなった」又は「やや得られにくくなった」と答え、「得られやすくなった」又は「やや得られやすくなった」と答えた者は6.9%にとどまっており、交通事故事件捜査や交通指導取締りについての国民の理解を深めるための更なる努力が必要だと考えられる。

注:19頁参照
 
図表特-78 10年前と比べ、国民の理解や協力は得られやすくなったと思うか
図表特-78 10年前と比べ、国民の理解や協力は得られやすくなったと思うか
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(3)交通事故被害者等(注)の支援

注:交通事故事件の被害者及びその家族又は遺族
① 交通事故被害者等の心情に配慮した相談活動

警察では、「警察庁犯罪被害者支援基本計画」(注)に基づき、交通事故被害者等に対し、きめ細かな支援を推進している。

具体的には、交通事故被害者等に対して、「被害者の手引」等を活用して、刑事手続の流れ、交通事故によって生じた損害の賠償を求める手続、ひき逃げ事件や無保険車両による交通事故の被害者に国が損害を填補する救済制度、各種相談窓口等について説明を行うとともに、交通事故被害者等からの要望を聴取するなど、その心情に配慮した相談活動を推進している。

注:平成28年4月に第3次犯罪被害者等基本計画が閣議決定されたことを受け、32年度末までの5年間において、警察庁が講ずるべき具体的な取組内容等について定められている。
② 交通事故被害者等に対する適切な情報の提供等

交通事故事件に関しては、長期間の捜査を要することも少なくなく、この間、交通事故被害者等からは、自らの被害に係る交通事故の捜査経過や手続等について、詳細な情報提供を求められることが多い。

そこで、警察では、ひき逃げ事件、死亡又は全治3か月以上の重傷の被害が生じた交通事故事件、危険運転致死傷罪の適用が見込まれる事件等を中心として、交通事故被害者等に対して、捜査への支障の有無等を勘案しつつ、できる限り、交通事故事件の概要、捜査経過、被疑者の検挙や運転免許の停止・取消処分等に関する情報を提供するよう努めている。このような交通事故被害者等への連絡を総括する者として、各都道府県警察に被害者連絡調整官を配置している。

また、交通事故被害者等が適正な経済的補償を迅速に受けられるよう、自動車安全運転センターから交通事故証明書の発行に必要な事項について照会を受けた場合は、迅速かつ正確な回答に努めている。

③ 関係機関等との連携

交通事故被害者等を含め犯罪被害者やその遺族等が必要とする支援は多岐にわたるため、警察では、各都道府県で設立されている「被害者支援連絡協議会」に参画する検察庁、弁護士会、医師会、地方公共団体、民間被害者支援団体等の関係機関・団体と連携しつつ、交通事故被害者等の支援の充実を図っている。

また、交通事故被害者等が深い悲しみやつらい体験から立ち直り、回復に向けて再び歩み出すことができるよう、交通事故被害者等の権利及び利益の保護を図ることを目的とする交通事故被害者サポート事業が、28年4月、内閣府から警察庁に業務移管され、同事業の一環として、交通事故被害者等の支援に携わる関係者の意思疎通を図るための意見交換会等を開催している。

事例

28年1月に長野県で発生し、多数の死傷者を出した大型貸切バス転落事故において、長野県警察では、所有者が判明しない衣服等の遺留品を交通事故被害者等に返却するために写真台帳を作成し、交通事故被害者等に示して、持ち主が判明した遺留品を順次返還した。

 
写真台帳の作成状況
写真台帳の作成状況


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