特集 交通安全対策の歩みと展望

3 きめ細かな運転者施策による安全運転の確保

(1)運転者教育

① 運転者教育の体系

運転者教育の機会は、運転免許を受ける過程及び運転免許を受けた後における各段階に体系的に設けられており、その流れは次のとおりである。

 
図表特-53 運転者教育の体系
図表特-53 運転者教育の体系
② 運転免許を受けようとする者に対する教育の充実

運転免許を受けようとする者は、都道府県公安委員会の行う運転免許試験を受けなければならないが、指定自動車教習所(注1)の卒業者は、このうち技能試験が免除される。

指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を担うことから、警察では教習指導員の資質の向上を図るなどして、指定自動車教習所における教習の充実に努めている。

全国で平成28年末現在1,332か所ある指定自動車教習所の卒業者で、28年中に運転免許試験に合格した者の数は、154万8,685人(合格者全体の97.1%)となっている。

また、運転免許を受けようとする者は、その種類に応じ、安全運転に関する知識や技能等を習得するための講習(取得時講習)を受講することが義務付けられているところ、指定自動車教習所又は特定届出自動車教習所(注2)を卒業した者はこれと同内容の教育を受けているため、受講が免除される。

注1:職員、施設及び運営方法が一定の基準に適合するものとして都道府県公安委員会が指定した自動車教習所
注2:届出自動車教習所(所在地を管轄する都道府県公安委員会に対して、名称や所在地等の届出を行った自動車教習所)のうち、職員、施設、教習方法等が一定の基準に適合するものとして都道府県公安委員会が指定した教習課程を行う自動車教習所
 
図表特-54 取得時講習の実施状況(平成28年)
図表特-54 取得時講習の実施状況(平成28年)
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③ 運転免許取得後の教育の充実
ア きめ細かな更新時講習の実施

更新時講習は、運転免許証の更新の機会に定期的に講習を行うことにより、安全な運転に必要な知識を補い、運転者の安全意識を高めることを目的としている。この講習は、受講対象者を法令遵守の状況等により優良運転者、一般運転者、違反運転者及び初回更新者に区分して実施している。

 
図表特-55 更新時講習の実施状況(平成28年)
図表特-55 更新時講習の実施状況(平成28年)
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イ 危険運転者の改善のための教育

道路交通法等に違反する行為をし、累積点数が一定の基準に該当した者や行政処分を受けた者に対しては、その危険性の改善を図るための教育として、初心運転者講習、取消処分者講習、停止処分者講習及び違反者講習を実施している。

特に、飲酒運転者対策として、飲酒運転違反者に対する一層効果的な教育を目的とした、AUDIT(注1)、ブリーフ・インターベンション(注2)等の飲酒行動の改善のためのカリキュラムを盛り込んだ取消処分者講習(飲酒取消講習)を全国で実施し、受講者の飲酒行動の改善や飲酒運転に対する規範意識の向上を図っている。また、停止処分者講習等において、飲酒運転違反者を集めて行う飲酒学級を設け、運転シミュレーター、飲酒体験ゴーグル等を活用した酒酔いの疑似体験、飲酒運転事故の被害者遺族による講義を実施するなど、教育内容の充実を図っている。

注1:Alcohol Use Disorders Identification Testの略。世界保健機関(WHO)がスポンサーになり、数か国の研究者によって作成された「アルコール使用障害に関するスクリーニングテスト」で、面接又は質問紙により、その者が危険・有害な飲酒習慣を有するかどうかなどを判別するもの
注2:受講者に、自身が設定した日々の飲酒量等に関する目標の達成状況を一定期間記録させた上で、その記録内容に基づき、受講者ごとに問題飲酒行動及び飲酒運転の抑止のための指導を行うもの
 
図表特-56 危険運転者の改善のための教育の実施状況(平成28年)
図表特-56 危険運転者の改善のための教育の実施状況(平成28年)
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ウ 自動車教習所における交通安全教育

自動車教習所は、いわゆるペーパードライバー教育を始めとする運転免許保有者に対する交通安全教育も行っており、地域における交通安全教育センターの役割を果たしている。都道府県公安委員会は、認定制度により、こうした教育の水準の向上と普及を図っている。

(2)高齢運転者の交通事故防止対策の推進

① 高齢運転者に対する教育等

更新期間が満了する日における年齢が70歳以上の者は、運転免許証を更新する際、高齢者講習の受講が義務付けられている(注1)。同講習では、安全運転に必要な知識等に関する講義のほか、実車指導や運転適性検査器材(注2)による指導等を通じ、受講者に自らの身体機能の変化を自覚させるとともに、その結果に基づいた安全な運転の方法について、具体的な指導を行っており、平成28年中は253万3,417人が受講した。

また、更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者は、満了する日より前の6月以内に、認知機能検査を受けることが義務付けられている(注3)。同検査は、高齢運転者に対して、自己の記憶力・判断力の状況を自覚させることや、引き続き安全運転を継続することができるよう支援することなどを目的とし、同検査の結果に応じた高齢者講習を行っており、28年中は166万2,512人が受検した。

注1:16頁参照
注2:視覚を通じた刺激に対する反応の速度及び正確性を検査する器材、動体視力検査器、夜間視力検査器及び視野検査器
注3:18頁参照
② 臨時認知機能検査の導入等

高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(以下「改正道路交通法」という。)が、29年3月に施行された。

改正道路交通法により、一定の違反行為(注1)をした75歳以上の運転者に対して臨時認知機能検査を行い、その結果が直近の認知機能検査の結果と比較して悪化した者については、臨時高齢者講習が実施されることとなった。

また、運転免許証の更新時の認知機能検査又は臨時認知機能検査の結果、認知症のおそれがあると判定された者については、その者の違反状況にかかわらず、医師の診断を要することとなった。

さらに、改正道路交通法の施行に合わせて、運転免許証の更新時の高齢者講習について、認知機能検査で認知症のおそれがある又は認知機能が低下しているおそれがあると判定された者に対しては、ドライブレコーダー等で録画された受講者の運転状況の映像を用いた個人指導を講習内容に含むこととし、講習時間を3時間として高度化を図る一方、このほかの者に対する講習は、講習時間を2時間として合理化を図った(注2)

注1:信号無視、通行区分違反、一時不停止等の認知機能が低下した場合に行われやすい違反行為
注2:視覚を通じた刺激に対する反応の速度及び正確性に関する検査項目については、従来は運転適性検査器材を用いて確認していたが、実車指導を通じて確認することとなった。
③ 申請による運転免許の取消し(運転免許証の自主返納)

身体機能の低下等を理由に自動車の運転をやめる際には、運転免許の取消しを申請して運転免許証を返納することができるが、その場合には、返納後5年以内に申請すれば、運転経歴証明書の交付を受けることができる。この運転経歴証明書は、金融機関の窓口等で犯罪収益移転防止法(注1)の本人確認書類として使用することができる。

警察では、申請による運転免許の取消し及び運転経歴証明書制度の周知を図るとともに、運転免許証を返納した者への支援について、地方公共団体を始めとする関係機関・団体等に働き掛けるなど、自動車の運転に不安を有する高齢者等が運転免許証を返納しやすい環境の整備に向けた取組を進めている(注2)

注1:犯罪による収益の移転防止に関する法律
注2:一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会のウェブサイト(http://www.zensiren.or.jp/kourei/)において、運転免許証を自主返納した者等を対象とした各種支援施策について紹介している都道府県警察等のウェブページを集約し、高齢者等への情報提供に取り組んでいる。
 
運転経歴証明書の様式
運転経歴証明書の様式
 
図表特-57 申請による運転免許の取消し件数及び運転経歴証明書の交付件数の推移(平成24~28年)
図表特-57 申請による運転免許の取消し件数及び運転経歴証明書の交付件数の推移(平成24~28年)
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コラム 高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の開催

高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ、高齢運転者の交通事故防止対策に政府一丸となって取り組むため、平成28年11月に、「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催された。同会議において、安倍首相から、「改正道路交通法の円滑な施行」、「社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備」及び「更なる対策の必要性の検討」について指示があり、同月には、高齢運転者の交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講ずるため、中央交通安全対策会議交通対策本部の下に、関係省庁の局長等から構成される「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」が設置された。

 
高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議(提供:内閣広報室)
高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議(提供:内閣広報室)

警察庁では、29年1月から、法学、社会学、自動車工学、交通心理学等の学識経験者や医療・福祉等の関係団体の代表者等から構成される「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」を開催し、高齢運転者に係る詳細な事故分析(注)を行い、専門家の意見を踏まえ、高齢者の特性が関係する事故を防止するために必要な方策を幅広く検討している。

注:9頁参照

コラム 交通安全に関する世論調査②

交通安全に関する世論調査(注)では、高齢運転者の事故を防ぐために重要なことについて「運転免許を保有している高齢者の身体機能のチェックの強化」を挙げた者が最も多かった。

注:22頁参照
 
図表特-58 高齢運転者の事故を防ぐために重要なこと(複数回答)
図表特-58 高齢運転者の事故を防ぐために重要なこと(複数回答)
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(3)様々な運転者へのきめ細かな対策

① 運転者の危険性に応じた行政処分の実施

警察では、道路交通法違反を繰り返し犯す運転者や重大な交通事故を起こす運転者を道路交通の場から早期に排除するため、行政処分を厳正かつ迅速に実施している。

 
図表特-59 運転免許の行政処分件数の推移(平成24~28年)
図表特-59 運転免許の行政処分件数の推移(平成24~28年)
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② 運転適性相談の充実等

警察では、障害者及び一定の症状を呈する病気等にかかっている者が安全に自動車等を運転できるか個別に判断するため、運転適性相談窓口を運転免許センター等に設置し、運転者本人だけでなく、その家族等からも相談を受け付けている。運転適性相談窓口では、専門知識の豊富な職員を配置するとともに、適切な相談場所を確保するなどして、相談者のプライバシーの保護のために特段の配慮をしている。また、患者団体や医師会等と密接な連携を取りながら、必要に応じて相談者に専門医を紹介するなど、運転適性相談の充実を図っている。あわせて、運転免許センターや警察署におけるポスターの掲示、都道府県警察のウェブサイトの活用等により、運転適性相談窓口の周知徹底を図っている。

 
運転適性相談の広報ポスター
運転適性相談の広報ポスター
 
図表特-60 運転適性相談受理件数の推移(平成24~28年)
図表特-60 運転適性相談受理件数の推移(平成24~28年)
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コラム 医療系専門職員の運転適性相談窓口への配置

身体の障害や病気の症状が自動車等の運転に及ぼす影響は様々であり、運転免許に一定の条件を付すことにより補うことができる場合や治療により回復する場合等もあることから、運転適性相談窓口では、運転免許の取得や運転を続けることに不安を有する者及びその家族等からの相談に対し、個別具体的な事情に応じてきめ細かな対応を行っている。

 
運転適性相談の状況
運転適性相談の状況

特に、看護師等の医療系専門職員が運転適性相談に当たることで、その専門知識をいかした対応が期待されるところ、今後、高齢化に伴い、更なる運転適性相談受理件数の増加や相談内容の複雑化が予想されることから、医療系専門職員を運転適性相談窓口に配置するなどして、その体制の確保を図っている。

平成29年4月現在、17都県で30人の医療系専門職員が配置されている。

③ 聴覚障害者への対応

聴覚障害者(注1)については、平成20年6月から、特定後写鏡(注2)を使用することを条件に、普通自動車免許を取得することができるようになり、運転の際には聴覚障害者標識を表示することが義務付けられている。

聴覚障害者が運転できる車両の種類については、当初、普通乗用車に限られていたところ、24年4月には、全ての普通自動車並びに大型自動二輪車、普通自動二輪車、小型特殊自動車及び原動機付自転車に拡大され、29年3月には、新設された準中型自動車も加わった(注3)

聴覚障害者標識を表示した自動車に対する幅寄せや割込みは禁止されており、警察では、関係団体等と連携しながら、運転免許取得時の教習等を充実させるとともに、聴覚障害者標識や運転者が配慮すべき事項について広報啓発を推進している。

注1:両耳の聴力が、補聴器を使用しても、10メートルの距離で、90デシベル以上の警音器の音を聞くことができない者
注2:後方及び運転者席と反対側の斜め後方の交通の状況を運転者席から容易に確認することができる後写鏡(ワイドミラー又は補助ミラー)
注3:29年3月から、普通自動車及び準中型自動車を運転する条件として、後方等確認装置の使用を特定後写鏡の使用に代替することが可能となった。
④ 国際化への対応

警察では、日本語を解さない外国人に対し、運転免許学科試験の外国語による実施、更新時講習等における外国語版教本の活用等を推進している。

また、外国等の行政庁等の運転免許証を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験の一部を免除できる制度(注)があり、28年中の同制度による運転免許証の交付件数は3万7,256件であった。

注:https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/have_DL_issed_another_country.html/
 
図表特-61 外国等の行政庁等の運転免許証を有する者に対する運転免許試験の一部免除の流れ
図表特-61 外国等の行政庁等の運転免許証を有する者に対する運転免許試験の一部免除の流れ

このほか、外国人運転者のための安全教育DVDを作成し、その活用を図るとともに、地域の実情に応じ、外国人運転者に対する安全教育の充実を図っている。

⑤ 貨物自動車に係る交通事故防止対策

改正道路交通法により、免許区分として18歳で取得可能な準中型免許が新設された。

準中型免許は、貨物自動車に係る交通事故防止対策と共に、若年者が貨物自動車を運転することが可能となる運転免許の必要性という社会的要請に応えることを目的として新設され、就職を希望する高校生や事業者を中心に、その趣旨及び内容が周知されるよう、関係機関・団体と連携して広報啓発活動を推進している。

 
図表特-62 準中型免許の新設
図表特-62 準中型免許の新設
⑥ 運転免許手続等の利便性の向上と国民負担の軽減

警察では、運転免許証の更新に係る利便性の向上と国民の負担の軽減のため、更新免許証の即日交付、日曜日の申請受付、警察署における更新窓口の設置、申請書の写真添付の省略等の施策を推進している。

28年中は、全国で1,085か所の運転免許証の更新窓口において、1,834万3,489件の更新免許証を交付しており、このうち即日交付は1,455万4,653件であった。

また、障害者の利便性向上のため、試験場施設のバリアフリー化等の整備・改善、漢字に振り仮名を付けた学科試験の実施、字幕入り安全教育DVDの活用、身体障害者用に改造された持込車両を用いた技能試験の実施等を推進するとともに、指定自動車教習所等に対して、身体障害者の教習に使用できる車両や取付部品の整備を促すなど、障害者に係る教習体制の充実について指導している。



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