第6章 警察活動の支え

7 研究機関の活動

(1)警察政策研究センター

警察大学校に置かれている警察政策研究センターは、様々な治安上の課題に関する調査研究を進め、政策提言を行うとともに、警察と国内外の研究者等との交流の拠点として活動しており、平成28年で発足から20年を迎えた。

① フォーラムの開催

関係機関・団体等と連携し、国内外の研究者・実務家を交えて社会安全等に関するフォーラムを開催している。

 
フォーラムの開催
フォーラムの開催
 
図表6-23 フォーラムの開催状況(平成28年度)
図表6-23 フォーラムの開催状況(平成28年度)
② 大学関係者との共同研究の推進

大学関係者と共同して研究活動を行っている。これまでに、例えば、慶應義塾大学大学院法学研究科との間で、テロ等の各種治安事象への対策を講ずるに当たり、憲法学的見地から、国民の自由と安全をいかにバランスよく保障していくかについて共同研究を行っている。

③ 大学・大学院における講義の実施

警察政策に関する研究の発展及び普及のため、東京大学公共政策大学院・法科大学院、京都大学公共政策大学院・法科大学院、一橋大学国際・公共政策大学院、早稲田大学法科大学院、中央大学法科大学院、首都大学東京都市教養学部、法政大学法学部等に職員を講師として派遣している。

 
大学・大学院での講義(首都大)
大学・大学院での講義(首都大)
④ 警察に関する国際的な学術交流

海外で開催される国際的な学術会議に参加し、日本警察に関する情報発信を行っている。また、韓国警察庁警察大学治安政策研究所、フランス高等治安・司法研究所、フランス・トゥールーズ第一社会科学大学警察学研究センター及びドイツ・フライブルク大学安全・社会センターとの間で協定を締結し、警察に関する国際的な学術交流を実施している。

事例

28年7月、米国・ヒューストンで開催された第17回アジア警察学会に参加し、日本における薬物乱用の現状と対策について発表を行うとともに、同学会のカリキュラムの一環として地元警察署を訪れ、同署長と意見交換等を行った。

事例

28年11月、米国・ニューオーリンズで開催された第72回米国犯罪学会に参加し、日本における薬物乱用の現状と対策について発表を行った。

 
国際的な学術会議での発表(米国)
国際的な学術会議での発表(米国)

事例

28年11月、公益財団法人日工組社会安全研究財団との共催により、都内において「女性に対する暴力対策の現状と今後を考える」をテーマとするフォーラムを開催した。カナダの大学教授、イタリアの首相府職員、科学警察研究所職員等がパネリストとして参加し、活発に意見交換した。

(2)警察情報通信研究センター

警察大学校に置かれている警察情報通信研究センターでは、警察活動に関わる情報通信技術について研究しており、その成果は、犯罪捜査の効率化や警察における情報通信システムの整備に活用されている。

例えば、犯罪捜査等の効率化のため、防犯カメラ等に記録された低照度・低画質な画像の鮮明化技術、多数の画像から人物や車両等を識別し画像を効率的に解析する技術、画像から人物等を特定する識別技術等の画像処理に関する技術の研究や、事件、事故又は災害の際に、明瞭な音声通話や迅速な現場映像の伝送が可能となる、小型で持ち運び可能な無線通信機器の高度化に向けた研究を行っている。

 
画像鮮明化処理の状況
画像鮮明化処理の状況

(3)科学警察研究所

科学警察研究所は、警察活動を最新の科学技術に基づいて支えるため、警察庁に附置されている研究機関であり、その業務は、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修という3つの柱から構成されている。

科学警察研究所の研究領域は極めて広く、医学、生物学、薬学、化学、物理学、工学、心理学、社会学等の多様な専門性を有する約100名の研究員を擁している。

① 犯罪捜査等のための研究

科学技術を犯罪捜査や刑事事件の立証等に利用するためには、その有効性、信頼性等を厳格に検証する必要がある。科学警察研究所では、犯罪捜査を始めとする警察活動への実用化の観点から科学技術の研究を行うとともに、鑑定等に利用する技術、資機材等についての検証等を行っている。科学警察研究所の研究によって確立・実証された知識や技術は、犯罪捜査における鑑定・検査に活用されており、DNA型鑑定、違法薬物の分析、画像解析、ポリグラフ検査、プロファイリング等を通じて、事件の解明、被疑者の検挙等に貢献している。

また、良好な治安を確保するためには、事件・事故の発生を未然に防ぐことが極めて重要であることから、科学警察研究所では、社会学、心理学、工学等の知見を活用して、人身安全関連事案等の未然防止及び交通事故の被害軽減のための研究を行っている。

コラム 潜在指掌紋の可視化

指掌紋が光に反応して発光することを利用し、指掌紋が付着した資料にレーザー光線を当てることで、資料に接触する又は資料を破壊することなく指掌紋を検出することを可能にするための研究を行っている。この手法による検出は、従来の指掌紋の検出手法とは異なり、指掌紋が付着した資料の成分を変化させることがないため、検出後のDNA型鑑定、薬物鑑定等に影響を与えない指掌紋の検出が可能になると期待されている。

 
レーザー光線を用いた指掌紋の検出
レーザー光線を用いた指掌紋の検出

コラム 毛髪に取り込まれた薬物の検出

覚醒剤等の薬物は、摂取から数日経過すると尿や血液から消失するが、毛髪には長期間残存していることから、毛髪を微細に砕くことによって毛髪中の薬物を検出することを可能とするための研究を行っている。また、毛髪を一定の間隔で断片化し、検出された薬物の毛根からの距離から、摂取時期を特定する方法の研究を進めている。

コラム 火災のシミュレーション

建物等の大きな構造物の火災を実際の規模で再現実験することは多大な費用を要し、実施が困難な場合があるため、コンピュータを用いたシミュレーション技術を活用して、燃焼性状や煙の流れ等を実証的に推測することを可能とするための研究を行っている。

 
建物の燃焼性状に関するシミュレーション
建物の燃焼性状に関するシミュレーション
② 鑑定・検査

科学警察研究所では、ミトコンドリアDNA検査(注)、薬物の微量成分分析等の高度な専門的知識や技術が必要とされる鑑定及び火災の再現実験等の特殊な設備や技術が必要とされる鑑定を実施している。また、偽造通貨及び銃器の弾丸・薬きょう類については、全て科学警察研究所が資料の鑑定を行っている。

注:細胞核ではなく、細胞内のミトコンドリアに存在するDNAの塩基配列を分析する検査。同配列は、男女を問わず母親の配列と同一となるため、母子や兄弟姉妹間の比較に有効とされる。

事例

土中から男性の遺体が発見された死体遺棄事件において、被疑者の居宅から押収したスコップに付着していた土砂及び遺体遺棄現場の土砂について、X線回折等を活用して異同識別を行い、両者が同一場所に由来する可能性があるという鑑定を行った。

事例

母親とその幼児に対する殺人事件において、両者の骨のDNA型鑑定を実施したが、母親の骨についてはDNA型を特定できたものの、約10年間遺体が土中に埋められていたことから、幼児の骨からはDNA型を特定することができなかった。このため、両者の骨について、ミトコンドリアDNA検査を実施し、両者が同一母系親族に由来するものとして矛盾しないという鑑定を行った。

③ 法科学研修所における研修

科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的知識に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に研修生を3か月から6か月の期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。



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