第5章 公安の維持と災害対策

3 右翼等の動向と対策

(1)右翼の動向

① 批判活動の展開

右翼は、平成28年中、領土問題、歴史認識問題等を捉え、活発な街頭宣伝活動等に取り組んだ。

 
右翼の街頭宣伝活動(8月、静岡)
右翼の街頭宣伝活動(8月、静岡)

中国をめぐっては、同年7月、南シナ海の領有権に関するオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判断を中国が受け入れない立場を表明したこと(注1)や、中国公船が尖閣諸島周辺の領海に繰り返し侵入していること(注2)を捉えた活動を行った。北朝鮮をめぐっては、核実験、ミサイル発射及び拉致問題を捉えた活動を行った。韓国をめぐっては、慰安婦問題や、竹島問題等を捉えた活動を、ロシアをめぐっては、北方領土問題等を捉えた活動をそれぞれ行った。右翼は、これらの活動により、関係国、日本政府等を批判した。

右翼が上記の街頭宣伝活動等に動員した団体数、人数及び街頭宣伝車数は、図表5-9のとおりである。

注1:179頁参照
注2:180頁参照
 
図表5-9 右翼による街頭宣伝活動等に伴う動員数(平成28年)
図表5-9 右翼による街頭宣伝活動等に伴う動員数(平成28年)
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② 右翼関係事件の状況

28年中は、皇室関連記事を掲載した月刊誌の出版社に抗議する目的で、同社事務所出入口ドアのガラスを割って室内に侵入し、黒色ペンキをまくなどした「テロ、ゲリラ」事件が発生し、右翼関係者1人を逮捕した(警視庁)。

近年の右翼による違法行為の検挙状況の推移は、図表5-10のとおりである。

 
図表5-10 右翼関係事件の検挙状況の推移(平成24~28年)
図表5-10 右翼関係事件の検挙状況の推移(平成24~28年)
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このうち、右翼運動に伴う事件(注)の検挙状況、右翼による恐喝事件や詐欺事件等の資金獲得を目的とした事件の検挙状況並びに右翼及びその周辺者からの銃器押収状況は図表5-11のとおりである。

注:右翼が街頭宣伝活動、抗議活動等を行う過程で引き起こした事件
 
図表5-11 右翼運動に伴う事件の検挙状況等(平成28年)
図表5-11 右翼運動に伴う事件の検挙状況等(平成28年)
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(2)右翼対策の推進

① テロ等重大事件の未然防止

警察では、銃器犯罪や資金獲得等を目的とした違法行為に対し、様々な法令を適用した取締りを行い、右翼によるテロ等重大事件の未然防止に努めている。

② 街頭宣伝車対策の推進

警察では、右翼が街頭宣伝車を用いて行う活動のうち、国民の平穏な生活に影響を及ぼす悪質なものについては、様々な法令を適用して徹底した取締りに努めている。

 
図表5-12 街頭宣伝活動に対する取締り状況(平成28年)
図表5-12 街頭宣伝活動に対する取締り状況(平成28年)
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街頭宣伝活動に対する取締り状況(8月、東京)
街頭宣伝活動に対する取締り状況(8月、東京)

事例

右翼団体代表(67)ら3人は、薬品販売会社の会長に対し、同社の取引先との取引自粛を求める「警告書」と題する文書を郵送するとともに、同社の販売店舗付近の路上において、政治団体名が表記された街頭宣伝車に装備された拡声機を用いて、「○○社は、暴力団と密接な関係にある悪徳企業と取引を行っている」などと演説し、同会長の名誉及び財産に危害を加えるような威勢を示し、団体の威力を示して脅迫した。平成28年4月、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反で同代表らを逮捕した(埼玉、警視庁、千葉、長崎)。

(3)右派系市民グループをめぐる情勢と警察の対応

平成28年中、在特会(注)を始め、極端な民族主義・排外主義的主張に基づき活動する右派系市民グループは、韓国や北朝鮮との問題等を捉えたデモや街頭宣伝活動等に各地で取り組み、全国におけるデモは約40件に及んだ。

また、右派系市民グループの活動に対して抗議する勢力(以下「反対勢力」という。)が、参加者による過激な言動について、「ヘイトスピーチ」であると批判するなどして、抗議行動に取り組んだ。

このような情勢の下、同年6月、本邦外出身者に対する不当な差別的言動が許されないことを宣言し、その解消に向けた取組の基本理念を定めることなどを内容とする本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律が施行された。

警察では、引き続き、右派系市民グループと反対勢力とのトラブルに起因する違法行為の未然防止の観点から、厳正公平な立場で必要な警備措置を講じ、違法行為を認知した場合には、法と証拠に基づき厳正に対処するとともに、警察職員に対する必要な教育を推進することとしている。

注:在日特権を許さない市民の会
 
右派系市民グループのデモ(2月、大阪)
右派系市民グループのデモ(2月、大阪)

事例

右派系市民グループ関係者の男(64)は、28年3月、東京都新宿区内においてデモ行進中、デモに抗議する男性の右肩部分を所持していたバッグで殴打する暴行を加えたことから、同関係者の男を暴行罪で現行犯逮捕した(警視庁)。



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