第4章 組織犯罪対策

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

平成28年中の薬物事犯の検挙人員は1万3,411人と、引き続き高い水準にあるほか、船舶を利用した覚醒剤の大量密輸入事犯が相次いで検挙されるなど、我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。

 
図表4-8 薬物事犯の検挙人員(平成28年)
図表4-8 薬物事犯の検挙人員(平成28年)
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(1)各種薬物事犯の状況

① 覚醒剤事犯

平成28年中の覚醒剤事犯の検挙人員(注1)及び押収量(注2)は図表4-9のとおりである。検挙人員は前年より減少したが、全薬物事犯の検挙人員の78.0%を占めている。また、押収量は1,495.4キログラムと、前年より1,065.7キログラム(248.0%)増加し、過去最多となった11年(1,975.9キログラム)に次ぐ押収量となった。近年の覚醒剤事犯の特徴としては、検挙人員のうち半数程度を暴力団構成員等が占めていることのほか、他の薬物事犯と比べて再犯者の占める割合が高いことや30歳代以上の検挙人員が多いことが挙げられる。

注1:国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)違反の検挙人員のうち、覚醒剤事犯に係るものを含む。
注2:覚醒剤の押収量は、錠剤型覚醒剤を含まない。
② 大麻事犯

28年中の大麻事犯の検挙人員及び押収量は図表4-9のとおりである。検挙人員は2,536人と、前年より435人(20.7%)増加し、最近5年間で最多となった。また、全薬物事犯の検挙人員の18.9%を占めており、覚醒剤事犯に次ぐ高水準で推移している。近年の大麻事犯の特徴としては、全検挙人員のうち初犯者や20歳代以下の若年層の占める割合が高いことが挙げられる。

③ その他の薬物事犯

最近5年間のMDMA(注)等合成麻薬事犯、あへん事犯等の各種薬物事犯の検挙人員及び押収量は、図表4-9のとおりである。

注:化学名「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(3,4-Methylenedioxymethamphetamine)」の略名。本来は白色粉末であるが、様々な着色がなされ、文字や絵柄の刻印が入った錠剤の形で密売されることが多い。
 
図表4-9 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成24~28年)
図表4-9 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成24~28年)
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(2)薬物密輸入事犯の状況

平成28年中の薬物密輸入事犯の検挙件数は201件と、前年より39件(16.3%)減少し、検挙人員は217人と、前年より32人(12.9%)減少した。

覚醒剤密輸入事犯の検挙状況の推移は、図表4-10のとおりである。28年には、いわゆる運び屋(注)による航空機を利用した覚醒剤密輸入事犯のほか、洋上取引や海上コンテナ貨物の利用等の巧妙な手口により覚醒剤を大量に密輸入する事犯を相次いで検挙したことなどにより、覚醒剤の押収量は大幅に増加した。

その背景には、我が国に覚醒剤に対する根強い需要が存在していることのほか、国際的なネットワークを有する薬物犯罪組織が、アジア・太平洋地域において覚醒剤の取引を活発化させていることがあるものと考えられる。

注:航空機等を利用して薬物を密輸する役割を担う者をいい、薬物犯罪組織とつながりの薄い者がこれに当たることが多い。
 
図表4-10 覚醒剤密輸入事犯の検挙状況の推移(平成19~28年)
図表4-10 覚醒剤密輸入事犯の検挙状況の推移(平成19~28年)
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事例

中国(台湾)人の男(37)らは、28年7月、照明器具に覚醒剤を隠匿し、中国から海上コンテナで密輸入した。同年8月までに、同男ら中国(台湾)人4人、日本人1人及び中国人1人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)等で逮捕し、覚醒剤約168.4キログラムを押収した(警視庁、神奈川)。

 
覚醒剤が隠匿された照明器具
覚醒剤が隠匿された照明器具

(3)薬物犯罪組織の動向

① 薬物事犯への暴力団の関与

平成28年中の暴力団構成員等による覚醒剤事犯の検挙人員は5,067人と、前年より645人(11.3%)減少したものの、覚醒剤事犯の全検挙人員の48.5%を占めていることから、依然として覚醒剤事犯に暴力団が深く関与していることがうかがわれる。また、28年中の暴力団構成員等による大麻事犯の検挙人員は649人と、前年より58人(9.8%)増加し、大麻事犯の全検挙人員の25.6%を占めていることから、暴力団構成員等が薬物事犯に幅広く関与していることがうかがわれる。

② 来日外国人による薬物事犯

28年中の来日外国人による薬物事犯の検挙人員は465人と、前年より55人(13.4%)増加した。国籍・地域別でみると、ブラジル、フィリピン及び台湾の比率が高く、合わせて全体の39.6%を占めている。また、28年中の来日外国人による覚醒剤事犯の営利犯(注)の検挙人員は37人と、前年より18人(94.7%)増加した。国籍・地域別でみると、イランの比率が最も高く、全体の51.4%を占めており、イラン人による覚醒剤の密売ルートが根強く存在していることがうかがわれる。

注:営利目的所持、営利目的譲渡し及び営利目的譲受け


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