2 サイバー犯罪への対策
(1)インターネットバンキングに係る不正送金事犯への対策
① 発生状況
不正送金事犯の被害額は、平成25年に約14億600万円、26年に約29億1,000万円と急増し、27年には約30億7,300万円と、過去最高となった。しかし、不正プログラムに感染したコンピュータからのアクセスを検知するウイルス対策ソフトを活用した対策等による信用金庫の被害の減少等を受けて、28年の被害額は大きく減少し、約16億8,700万円(前年比45.1%減少)となった。
一方、28年中は、新たな不正送金ウイルスが検出されたほか、インターネットバンキングの電子決済サービスにおいて電子マネー等が不正に購入されるといった被害が多発するなど、予断を許さない状況にある。また、不正送金先の口座名義人については中国籍の者の割合が高いことが特徴として挙げられる。
② 不正送金事犯に対処するための取組
ア 不正送金事犯に関与した者の検挙状況
警察では、28年中、不正送金事犯に関連して、金融機関のサーバに不正アクセスして不正送金を行った者を始め、他人に利用させる意図を隠して口座を開設した者、口座を売買した者、不正に送金された資金を引き出した者、現金を回収した者、これらを指示した者等合計117人を検挙した。
イ 金融機関等と連携した抑止対策
警察では、金融機関に対し、フィッシングサイト対策やモニタリング(注1)等の被害防止対策の強化を要請しているほか、不正送金に利用されたレンタルサーバや口座に関する情報、JC3(注2)と連携して把握したフィッシングサイトに関する情報等を提供するなどしている。
注2:145頁参照
(2)コンピュータ・ウイルス対策
警察では、コンピュータ・ウイルスに関する罪の取締りを推進するとともに、民間事業者と連携したコンピュータ・ウイルスによる被害拡大防止のための対策を講じている。
警察庁では、犯罪捜査の過程で警察が把握した新たなコンピュータ・ウイルスに関する情報をウイルス対策ソフト事業者等に提供し、当該コンピュータ・ウイルスによる被害の拡大防止を図るための枠組み(注)を構築している。
事例
男子中学生(14)は、平成27年6月から同年8月にかけて、匿名掲示板に不正送金ウイルスや遠隔操作ウイルス等を販売する旨の書き込みを行って顧客を募り、購入を申し込んだ少年らにコンピュータ・ウイルスを提供するなどした。同年11月から28年3月にかけて、同男子中学生を不正指令電磁的記録提供罪等で逮捕するとともに、コンピュータ・ウイルスの提供を受けた少年ら6人を不正指令電磁的記録取得罪で検挙した。また、同年5月、同男子中学生の依頼を受けて、コンピュータ・ウイルスの動作の検証等を行った大学職員の男(26)を、不正指令電磁的記録提供幇助罪等で逮捕した(警視庁、福島、千葉、愛知、滋賀)。
(3)不正アクセス対策
① 発生状況等
平成28年における不正アクセス行為の認知件数(注)は1,840件であり、これを不正アクセス行為後の行為別にみると、「インターネットバンキングでの不正送金」が1,305件(70.9%)と最多であった。
また、検挙した不正アクセス禁止法違反における不正アクセス行為の手口は、「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだもの」が244件(52.8%)と最多であった。
② 不正アクセス防止対策に関する官民連携
不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会(注1)における「不正アクセス防止対策に関する行動計画」に基づき、情報セキュリティに関する情報を掲載した情報セキュリティ・ポータルサイト「ここからセキュリティ!」(注2)を公開するなど、不正アクセスを防止するための官民連携した取組を実施している。
注2:https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/
事例
無職の少年(17)らは、28年1月から同年5月にかけて、他人のID・パスワードを用いるなどして、佐賀県教育情報システムに不正アクセスを行った。同年6月、同少年ら2人を不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為の禁止)で検挙した。また、佐賀県教育委員会にシステムのぜい弱性に関する情報を提供するなど、被害の再発防止対策を推進した(警視庁、佐賀)。
(4)通信事業者における通信履歴等(ログ)の保存
通信履歴等(ログ)は、サイバー空間における事後追跡可能性を確保するために必要であるが、我が国では事業者に平素からログの保存を義務付ける制度が存在しておらず、サイバー犯罪捜査等を行う上で大きな課題となっている。
警察では、ログの保存が許容される期間を具体的に例示した総務省による「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」の解説を踏まえ、総務省と連携し、関係事業者における適切な取組が推進されるよう、必要な対応を行っている。
(5)インターネット上の違法情報・有害情報対策
インターネット上には、児童ポルノや覚醒剤等規制薬物の販売に関する情報等の違法情報や、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することができない有害情報が氾濫している。
① インターネット・ホットラインセンターにおける取組等
警察庁では、一般のインターネット利用者等から、違法情報等に関する通報を受理し、警察への通報やサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用している。平成28年中にIHCが削除依頼を行った違法情報1万7,106件のうち1万6,838件(98.4%)が削除された。
IHCに通報された違法情報等の中には、外国のサーバに蔵置されているものがある。このうち児童ポルノについては、各国のホットライン相互間の連絡組織であるINHOPE(注)の加盟団体に対して、削除に向けた措置を依頼している。
② 効果的な違法情報等の取締り
警察では、サイバーパトロール等により違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、IHCからの通報に対して全国協働捜査方式(注)を活用し、効率的な違法情報の取締り及び有害情報を端緒とした取締りを推進している。
また、警察では、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者については、検挙を始めとした積極的な措置を講じている。
(6)コミュニティサイト等に起因する事犯への対策
① コミュニティサイト等に起因する事犯の発生状況
コミュニティサイト(注1)に起因して犯罪被害に遭った児童の数は、平成20年以降増加傾向にあり、28年中の被害児童数は1,736人で、過去最多となった。
一方、出会い系サイト(注2)に起因して犯罪被害に遭った児童の数は、20年の出会い系サイト規制法の改正以降、届出制の導入により事業者の実態把握が促進されたことや、事業者の被害防止措置が義務化されたことなどにより減少傾向にあり、28年中の被害児童数は42人となった。
注2:面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれを伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するウェブサイト等
② 被害児童の状況
28年中、被害児童の最も多い罪種は、コミュニティサイトに起因する事犯では、青少年保護育成条例違反662人(38.1%)、出会い系サイトに起因する事犯では、児童買春29人(69.0%)となっている。
また、28年中、コミュニティサイトに起因する事犯では、フィルタリングの利用の有無が判明した被害児童のうち、約9割がフィルタリングを利用していなかった。
③ コミュニティサイト等への対策
警察では、コミュニティサイトに起因する児童の犯罪被害の防止に向けた対策として、サイト事業者の規模や提供しているサービスの態様に応じて、投稿内容の確認を始めとするサイト内監視の強化や実効性あるゾーニング(注1)の導入に向けた働き掛けを推進している。また、出会い系サイトに起因する児童の犯罪被害の防止に向けた対策として、無届け等の悪質出会い系サイト事業者や、出会い系サイトにおいて禁止誘引行為(注2)を行った者に対する取締り等を徹底している。
さらに、コミュニティサイト等において、サイバー補導(注3)を実施しているほか、関係機関・団体等と連携し、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進や、児童、保護者、学校関係者等に対する児童の犯罪被害の防止に関する広報啓発等の取組を推進している。
注2:出会い系サイト規制法第6条各号に掲げる行為
注3:109頁参照
(7)サイバー防犯ボランティアに対する支援
サイバーパトロールにより発見した違法情報・有害情報をIHCやサイト管理者等に通報する取組やインターネット利用者に対する講演活動等を行うサイバー防犯ボランティアは、全国で202団体、8,598人(平成28年末現在)となっており、警察では、研修会の開催等を通じて、こうした活動を行う団体の拡大と取組の活性化を図っている。