第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 子供の安全を守るための取組

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は、図表2-66のとおりである。子供の被害件数は、平成14年以降は減少傾向にあり、28年中は1万7,252件と、前年より2,854件(14.2%)減少した。刑法犯の認知件数に占める子供の被害件数の割合の高い罪種は、28年中は略取誘拐が46.5%(認知件数228件のうち106件)、強制わいせつが14.4%(認知件数6,188件のうち893件)であった。

 
図表2-66 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成19~28年)
図表2-66 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成19~28年)
Excel形式のファイルはこちら
② 子供の生活空間における安全対策
ア 学校や通学路の安全対策

警察では、子供が被害者となる犯罪を未然に防止し、子供が安心して登下校することなどができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーターとして委嘱し学校へ派遣するなど、学校と連携して学校や通学路等における子供の安全確保を推進している。

イ 被害防止教育の推進

警察では、子供に犯罪被害を回避する能力等を身に付けさせるため、小学校、学習塾等において、学年や理解度に応じ、紙芝居、演劇やロールプレイング方式等により、危険な事案への対応要領等について子供が考えながら参加・体験できる防犯教室、地域安全マップ作成会等を関係機関・団体と連携して開催している。また、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。

ウ 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、警察署と教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、21年4月、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙・指導・警告等の措置を講ずる子供女性安全対策班(JWAT(注))を警視庁及び道府県警察本部に設置した。従来の検挙活動等に加え、これらの先制・予防的活動を積極的に推進していくことによって、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略

事例

28年5月、帰宅途中の女子高校生が、自転車に乗った見知らぬ男から卑わいな言葉を掛けられ、つきまとわれるという事案が発生した。同年6月、子供女性安全対策班が、同男(66)を宮城県迷惑防止条例違反(卑わいな行為の禁止)により逮捕した(宮城)。

④ 子供対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の強化

警察では、13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その出所者の所在確認を実施している。また、23年4月からは、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置の強化を図っている。

(2)児童虐待対策

① 検挙・通告の状況

平成28年中の検挙件数は1,081件、検挙人員は1,113人と、統計をとり始めた11年以降、過去最多となった。近年の態様別検挙件数をみると、身体的虐待が全体の7割以上を占めている。

また、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加し、28年中は過去最多となった。態様別では、特に心理的虐待の増加が著しく、28年中は3万7,183人と全体の6割以上を占めている。

 
図表2-67 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成24~28年)
図表2-67 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成24~28年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表2-68 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成24~28年)
図表2-68 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成24~28年)
Excel形式のファイルはこちら
② 関係機関と連携した取組

児童を迅速かつ適切に保護するためには、関係機関がそれぞれの専門性を発揮しつつ、連携して対処することが重要となる。警察では、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した際の児童相談所への確実な通告の実施、通告に際しての事前照会の徹底等、児童相談所等との情報共有を図るとともに、必要に応じて地域の要保護児童対策地域協議会(注)に参加するなど、関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じている。

注:児童福祉法第25条の2において、地方公共団体は、単独で又は共同して、要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者により構成される要保護児童対策地域協議会を置くように努めなければならないとされている。

事例

28年4月、小学校の教員が生徒の顔にやけどがあるのを発見したため、同生徒から事情を聴いたところ、同生徒が父親から暴行を受けた旨を説明したことから、スクールソーシャルワーカー(注)を通じて警察署に連絡した。同警察署では、同生徒について児童相談所に通告するとともに、児童相談所及び検察庁と協議して三者の代表者により同生徒から事情聴取を行い、同年5月、同生徒の父親(49)を傷害罪等で逮捕した(福島)。

注:教育機関等において、教育分野に関する知識に加えて、福祉の専門的な知識・技術を用いて児童生徒を支援する者

(3)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数は図表2-69のとおりであり、28年は149件であった。また、28年中の検挙・補導人員は267人であり、その約7割を中学生が占めている。

警察では、いじめ防止対策推進法の趣旨に基づき、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、被害少年及びその保護者等の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、的確な対応を推進している。

注:平成25年以降の数値は、「いじめ」の定義を、25年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。また、24年以前の数値は、「いじめ」の定義を「単独又は複数で、単数又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を一方的に反復継続して加えることにより苦痛を与えることをいい、暴走族等非行集団間における対立抗争に起因する事件を含まないもの」としている。
 
図表2-69 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成24~28年)
図表2-69 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成24~28年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表2-70 警察によるいじめ事案への対応
図表2-70 警察によるいじめ事案への対応

(4)少年(注1)の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

警察では、福祉犯(注2)の取締り、被害少年の発見・保護、インターネット上の違法情報・有害情報の取締り等少年を取り巻く有害環境の浄化対策を推進している。このうち、児童買春、児童ポルノの製造等の子供の性被害(注3)に係る対策については、平成28年4月以降、国家公安委員会が政府内における同対策の企画・立案及び関係機関との総合調整の業務を行っており、政府全体の取組を推進している。

注1:20歳未満の者
注2:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。
注3:児童に対する性的搾取(児童に対し、自己の性的好奇心を満たす目的又は自己若しくは第三者の利益を図る目的で、児童買春、児童ポルノの製造その他の児童に性的な被害を与える犯罪行為をすること及び児童の性に着目した形態の営業を行うことにより児童福祉法第60条に該当する行為をすること並びにこれらに類する行為をすることをいう。)及びその助長行為(児童買春の周旋、児童買春等目的の人身売買、児童の性に着目した形態の営業のための場所の提供及び児童ポルノの提供を目的としたウェブサイトの開設等をいう。)をいう。
① 少年の福祉を害する犯罪への対策

福祉犯の被害少年数は図表2-71のとおりであり、23年以降は減少しているが、スマートフォン等の普及により、インターネットの利用に起因する福祉犯が発生するなど、深刻な状況にある。

被害少年を早期に発見・保護するとともに、新たな被害を発生させないため、警察では積極的な取締りと被害少年に対する支援のほか、援助交際を求めるなどのインターネット上の不適切な書き込みをサイバーパトロールによって発見し、書き込みを行った児童と接触して直接注意・助言するサイバー補導を推進している。

 
図表2-71 福祉犯の検挙件数等の推移(平成24~28年)
図表2-71 福祉犯の検挙件数等の推移(平成24~28年)
Excel形式のファイルはこちら
ア 悪質性の高い福祉犯

近年、コミュニティサイト(注)等を利用して児童買春の周旋を行う事犯や、児童の性に着目した形態の営業に児童を従事させる事犯等、児童の心身に有害な影響を与える事犯が発生しており、中には、暴力団の資金獲得活動として行われる場合もある。このような悪質性の高い福祉犯に対して、警察では、実態の把握と情報の分析、積極的な取締り等を推進している。

注:138頁参照

事例

27年12月頃から28年4月にかけて、暴力団構成員の男(26)らは、家出中の少女をマンションに住み込ませた上、出会い系サイト等で募った不特定多数の客を相手に売春をさせた。同年7月、同男ら4人を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)等で逮捕した(神奈川)。

事例

28年6月頃、「学生カウンセラー」と称して女子高校生と個室で会話するサービスを提供する店舖を経営する男(57)らは、少女(17)らを雇い入れ、店舗内において男性客を相手に性的な業務に従事させた。同年9月、同男ら2人を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)等で逮捕した(大阪)。

イ 児童ポルノ

児童ポルノ事犯は近年増加傾向にあり、28年中の検挙件数は2,097件、検挙人員は1,531人、被害児童(注)数は1,313人と、いずれも過去最多となった。被害態様別でみると、だまされたり、脅されたりして児童が自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされるもの(以下「自画撮り被害」という。)が約4割を占め、被害児童数は24年以降4年連続で増加している。自画撮り被害については、スマートフォンを使用したコミュニティサイトの利用に起因するものが約7割を占めている。また、小学生以下の被害児童のうち、約4割が強姦・強制わいせつの手段により児童ポルノの製造の対象とされているなど、児童ポルノをめぐる情勢は深刻な状況にある。

警察では、このような情勢を踏まえ、関係機関・団体と緊密な連携を図りながら、低年齢児童を狙ったグループや児童ポルノ販売グループによる悪質な事犯等に対する取締りの強化、国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像の削除依頼、被害児童に対する支援等を推進している。

また、警察庁では、29年2月、国内外の関係機関・団体が参加する子供の性被害対策に関するセミナーを開催し、政府の取組を紹介するとともに、関係機関・団体との情報交換を行うなどの連携強化に努めている。さらに、プロバイダによる閲覧防止措置(ブロッキング)について、アドレスリスト作成管理団体に情報提供や助言を行うなどの流通・閲覧防止対策を推進している。

注:児童ポルノ事犯の検挙を通じて、新たに特定された被害児童
 
図表2-72 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成24~28年)
図表2-72 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成24~28年)
Excel形式のファイルはこちら

事例

25年1月から28年10月頃にかけて、低年齢児童を狙ったグループのメンバーであるダンサーの男(27)らは、男児を自宅等に誘い込み、わいせつな行為をし、その状況を撮影して児童ポルノを製造した上、互いに児童ポルノを提供し合うなどしていた。ICPO(注)から提供された情報等に基づいて、29年3月までに、同男ら14人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)等で検挙した(京都、大阪)。

注:International Criminal Police Organization(国際刑事警察機構)の略
② 少年を取り巻く有害環境の浄化対策

近年、スマートフォン等の普及に伴い、コミュニティサイト等のインターネットの利用に起因する少年の犯罪被害が増加しているほか、繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業が出現しているなど、少年を取り巻く社会環境は深刻な状況にある。

警察では、インターネットの利用に起因する少年の犯罪被害の発生状況を踏まえ、関係機関・団体等と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、携帯電話事業者等に対するフィルタリング(注)等の普及促進のための要請等の取組を推進している。

また、児童の性に着目した新たな形態の営業については、少年の保護と健全育成の観点から、あらゆる警察活動を通じて、各地域の実態の把握に努めるとともに、これらの営業において稼働している女子高校生等に対する補導、立ち直り支援等の取組を推進している。

このほか、少年に有害な商品等を取り扱う店等に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境の浄化に努めている。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

コラム 「児童の性的搾取等に係る対策の基本計画」(子供の性被害防止プラン)の策定

我が国では、児童ポルノ事犯に係る被害児童数が近年増加しており、コミュニティサイト等の利用に起因して性的な被害に遭う児童も多く認められるほか、児童の性に着目した新たな形態の営業が出現しているなど、子供の性被害をめぐる情勢は引き続き深刻な状況にある。

こうした認識の下、平成29年4月、犯罪対策閣僚会議において「児童の性的搾取等に係る対策の基本計画」(子供の性被害防止プラン)が策定された。

同計画には、警察の主な施策として、子供の性被害に係る事犯に対する取締りの強化等の厳正な対応、児童や保護者等が相談しやすい環境の整備、コミュニティサイト及び出会い系サイトに対する事業者対策等が盛り込まれており、警察では、同計画に即し、関係機関・団体と協力して対策を推進している。

事例

愛知県では、児童の性に着目した新たな形態の営業による性犯罪被害等を防止するため、27年に愛知県青少年保護育成条例を改正し、青少年を接客業務に従事させる行為を禁止するなど、いわゆるJKビジネスと呼ばれる営業に対する規制を開始した。また、警察、地方公共団体、学校、事業者等が連携して「JKビジネス撲滅等非行防止キャンペーン」を開催し、同営業の撲滅に向けた気運の醸成を図っている。

また、東京都においても、同営業の届出義務、青少年を接客業務に従事させる行為の禁止等を内容とする特定異性接客営業等の規制に関する条例が29年7月に施行され、同営業に対する規制が強化されている。

 
JKビジネス撲滅等非行防止キャンペーン
JKビジネス撲滅等非行防止キャンペーン

(5)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、少年補導職員(注)を中心としてカウンセリング等の継続的な支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成29年4月1日現在、全国に約890人の少年補導職員が配置されている。
 
図表2-73 被害少年の支援
図表2-73 被害少年の支援

事例

秋田県警察では、秋田市内に借り受けた畑を「チャイルド・ファーム」と命名して被害少年の支援に活用しており、警察官や大学生ボランティアが被害少年やその家族と共に農業を体験するなどして、被害少年の精神的被害の回復に向けた継続的な支援活動を行っている。



前の項目に戻る     次の項目に進む