第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 新たな刑事司法制度に対応した警察捜査

平成28年5月に成立し、同年6月に公布された刑事訴訟法等の一部を改正する法律は、取調べの録音・録画制度や証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設、通信傍受の合理化・効率化等を内容とするものであり、刑事司法の重要かつ多岐にわたる課題に対処するものである。警察では、これらの新たな制度に対応した警察捜査の構築に向けた取組等を推進している。

(1)取調べの録音・録画に係る取組

① 取調べの録音・録画の試行の拡充

警察では、平成21年4月に全ての都道府県警察において、裁判員裁判対象事件について、取調べの録音・録画の試行を開始し、現在では、知的障害、発達障害、精神障害等の障害を有する被疑者についても、同試行を実施している。

また、刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、逮捕又は勾留をされている被疑者を裁判員裁判対象事件等について取り調べる場合には、原則として、その全過程を録音・録画することを義務付ける制度が、31年6月までに施行されることを見据え、警察庁では、28年9月に新たな取調べの録音・録画の試行指針を策定した。

同指針は、取調べの録音・録画制度の対象となる取調べ及び弁解録取手続について、原則として、その全過程を録音・録画することなどを内容としており、都道府県警察では、同年10月から、同指針に基づく新たな試行(以下「新試行」という。)を開始している。

警察においては、取調べの録音・録画制度に適切に対応できるよう、同指針に基づき、取調べの録音・録画の試行に更に積極的に取り組むことなどにより、録音・録画の下での取調べの経験の蓄積及び技能向上に努めているほか、録音・録画装置の計画的な整備に努めるなど、必要な準備を進めている。

② 取調べの録音・録画の試行の実施状況

裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行(28年10月からは新試行)の実施状況については、図表2-58及び図表2-59のとおりであり、取調べの録音・録画制度の施行に向けて、原則全過程の録音・録画の実施の徹底に努めている。

 
図表2-58 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行の実施件数の推移(平成21~28年度)
図表2-58 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行の実施件数の推移(平成21~28年度)
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図表2-59 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画実施事件1件当たりの平均実施時間の推移(平成21~28年度)
図表2-59 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画実施事件1件当たりの平均実施時間の推移(平成21~28年度)
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(2)証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度

証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度は、一部の財政経済犯罪(注)と薬物銃器犯罪について、弁護人の同意の下、検察官と被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述をすることなどの協力を行い、検察官が被疑事件・被告事件について不起訴処分や軽い求刑等をすることを内容とする合意をすることができる制度であり、平成30年6月までに施行される。

本制度では、合意に向けた協議における必要な行為は、検察官から授権された司法警察員もその授権の範囲で行うことができることとされており、警察としては、本制度に関する指導・教育を徹底するなど、必要な準備を進め、検察官とも緊密に連携を図りつつ、本制度が適正かつ効果的に運用されるよう努めることとしている。

注:文書偽造、贈収賄、詐欺、横領、租税に関する法律違反、金融商品取引法違反等

(3)通信傍受の合理化・効率化

刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、通信傍受法(注1)も改正され、平成28年12月から、特殊詐欺や組織窃盗、暴力団等の犯罪組織による殺傷事件等の一般国民に重大な脅威を与えている組織犯罪についても新たに通信傍受が活用できることとなった(注2)

また、現行法では、通信傍受を行う際の通信事業者職員等による立会いが義務付けられているほか、通信事業者の施設において傍受を行うこととなるため、多数の捜査員を相当期間派遣する必要があるなど、通信事業者、捜査機関双方に大きな負担が生じていたところ、31年6月までには、通信内容の暗号化等の技術的措置を講ずることで通信傍受の適正性を担保しつつ、通信事業者による立会い・封印を不要とし、また、警察の施設での通信傍受を可能とする手続を新たに導入するなど、手続の合理化・効率化が図られることとなる。

通信傍受は、他の捜査手法のみでは困難な組織的犯罪の全容解明や真に摘発すべき犯罪組織中枢の検挙に有用な捜査手法となり得ることから、警察では、引き続き法の定める厳格な要件・手続に従いつつ、通信傍受の有効かつ適正な実施に努めていくこととしている。

注1:犯罪捜査のための通信傍受に関する法律
注2:新たに対象犯罪に追加されたのは、殺人、傷害、逮捕・監禁、略取誘拐、人身売買、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、爆発物の使用、児童ポルノ等の不特定多数者への提供等。また、追加された犯罪で通信傍受を実施するためには、従来の実施要件に加え、一定の組織性(当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があること)を有することを要する

(4)その他

上記のほか、刑事訴訟法等の一部を改正する法律には証拠の一覧表の交付手続の導入等を内容とする証拠開示制度の拡充(注1)、被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大(注2)等を内容とする弁護人による援助の充実や、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充(注3)等を内容とする犯罪被害者等及び証人を保護するための措置等の新たな制度が盛り込まれており、全ての制度を一体として整備することにより、時代に即した新たな刑事司法制度が構築されることとなる。

注1:平成28年12月に施行
注2:30年6月までに施行
注3:30年6月までに施行


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