第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 構造的な不正事案への対策

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法(注)違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。第24回参議院議員通常選挙(平成28年7月10日施行)における選挙期日後90日現在(28年10月8日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は107件、検挙人員は117人(うち逮捕者は33人)であった。

注:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律
 
図表2-30 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移(平成19~28年)
図表2-30 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移(平成19~28年)
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事例

姫路市建設局長(60)は、26年11月頃及び27年6月頃の2回にわたり、元建設会社社員から、同市が発注する橋補修工事の受注に関して、職務上不正な行為をしたことの謝礼等として、現金合計100万円を収受した。28年10月、同局長を収賄罪等で逮捕した(兵庫)。

事例

大阪大学大学院工学研究科の教授(57)は、24年1月から28年9月にかけて、数回にわたり、建設会社2社の社員2人から、同大学と外部機関等との共同研究に関して、同2社との共同研究の受入れを決定し、同研究の結果の情報を提供したことなどへの謝礼等として、現金合計約780万円を収受した。同年11月、同教授を収賄罪で逮捕した(大阪、千葉、神奈川)。

事例

第24回参議院議員通常選挙の際、選挙運動員(62)は、28年7月、他の選挙運動員4名に対し、投票を呼び掛ける選挙運動をしたことなどの報酬として、現金合計約30万円を供与した。同年8月、現金を供与した選挙運動員を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(熊本)。

(2)経済をめぐる不正事案

金融機関等の企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事犯のほか、国及び地方公共団体の補助金の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、地方議会議員、弁護士、司法書士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。

警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

 
図表2-31 経済をめぐる不正事犯の検挙事件数の推移(平成24~28年)
図表2-31 経済をめぐる不正事犯の検挙事件数の推移(平成24~28年)
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事例

森林組合の元専務理事(54)は、平成23年3月頃から26年3月頃にかけて、県地方事務所に対し、国庫補助事業の対象である森林作業道の開設等を実施したように装った書類を提出するなどして補助金の交付を申請し、同事務所から補助金合計約2億4,900万円の交付を受けた。また、22年5月頃から26年11月頃にかけて、下請会社の代表取締役らと共に、工事請負代金を水増しして請求し、同組合から合計約4億6,200万円をだまし取った。27年12月までに、同元専務理事を補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反及び詐欺罪で逮捕した(長野)。

事例

投資スクール会員を募集するグループの主催者の男(47)らは、外国為替証拠金取引(FX取引)への投資名目で現金をだまし取ろうと考え、同スクールの会員になれば同取引によって運用利益を上げている投資ファンドを購入でき、運用に充てられるなどと虚偽の事実の話を持ちかけ、22年6月から27年8月にかけて、同スクールの会員約160人から合計約19億円をだまし取った。同年11月、同男ら2人を詐欺罪で逮捕した(愛知)。



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