トピックス

トピックスIII 新たな刑事司法制度に対応した警察捜査の構築に向けて

平成28年5月、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、同年6月公布された。この法律は、刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実を図るため、取調べの録音・録画制度や証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設、通信傍受の合理化・効率化等を内容とするものであり、警察においても、これらの新たな制度に適応した警察捜査の構築に向けた取組を推進している。

(1)取調べの録音・録画制度

取調べの録音・録画制度は、逮捕又は勾留をされている被疑者を裁判員裁判対象事件等について取り調べる場合に、原則として、その全過程を録音・録画することを義務付けるものである。

録音・録画を義務付けられた事件の公判において供述調書等の任意性が争われた際、検察官は、その供述調書等が作成された取調べ等の録音・録画記録を証拠調べ請求しなければならないこととされ、被疑者の供述の任意性等の的確な立証のために活用されることが期待されている。

警察では、これまでも裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行に積極的に取り組んできたところであるが、本制度の導入に向けて、録音・録画の下での取調べに習熟させるなど捜査員の指導・教育等を推進し、更なる取調べ能力の向上を図るとともに、録音・録画装置の仕様等の見直しや整備に努めることとしている。

 
図表III-1 取調べの録音・録画制度
図表III-1 取調べの録音・録画制度

(2)証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度

証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度は、一定の財政経済犯罪(注)と薬物銃器犯罪について、弁護人の同意の下、検察官と被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述、証拠物の提供その他の協力を行い、検察官が被疑事件・被告事件について不起訴処分や軽い求刑等をすることを内容とする合意をすることができることとする制度であり、また、合意に向けた協議における必要な行為は、検察官から授権された司法警察員もその授権の範囲内で行うことができることとされている。

警察としては、本制度に関する指導・教育を徹底するなど、必要な準備を進め、検察官とも緊密に連携を図りつつ、本制度が適正かつ効果的に運用されるよう努めることとしている。

注:文書偽造、贈収賄、詐欺、横領、租税に関する法律違反、金融商品取引法違反等
 
図表III-2 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度
図表III-2 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度

(3)通信傍受の合理化・効率化

警察では、平成12年の通信傍受法(注1)の施行以来、他の捜査手法では犯人の特定が著しく困難であることなどの厳格な要件の下、裁判官による審査を経て発付される令状に基づき、組織的な犯罪の捜査に通信傍受を活用している。

現行法では、通信傍受の対象犯罪は薬物犯罪等の4罪種(注2)に限定されているが、本改正により、一定の組織性(注3)を有する殺傷犯、詐欺等(注4)が新たに対象犯罪に追加された。これにより、一般国民に重大な脅威を与えている暴力団等による組織的な殺傷事件や振り込め詐欺等の犯罪の捜査に通信傍受を活用できることとなる。

また、現行法では、通信傍受を行う際の通信事業者等による立会い及び傍受結果の記録の封印が義務付けられているほか、通信事業者の施設において傍受を行うこととなるため、多数の捜査員を相当期間派遣する必要があるなど、通信事業者、捜査機関双方に大きな負担が生じていたところ、本改正では、通信内容の暗号化等の技術的措置により記録の改ざんを防止することで通信傍受の適正性を担保しつつ、通信事業者による立会い・封印を不要とし、また、警察の施設での通信傍受を可能とする手続を新たに導入するなど、手続の合理化・効率化が図られることとなった。

通信傍受は、他の捜査手法のみでは困難な組織的犯罪の全容解明や真に摘発すべき犯罪組織中枢の検挙に有用な捜査手法となり得ることから、警察では、新たな制度の下でも、引き続き法の定める厳格な要件・手続に従いつつ、通信傍受の有効かつ適正な実施に努めていくこととしている。

注1:犯罪捜査のための通信傍受に関する法律
注2:薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航及び組織的殺人
注3:当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があること
注4:殺人、傷害、逮捕・監禁、略取・誘拐、人身売買、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、爆発物の使用、児童ポルノ等の不特定多数者への提供等
 
図表III-3 改正後の通信傍受運用イメージ
図表III-3 改正後の通信傍受運用イメージ

(4)その他の制度

上記のほか、本改正法には証拠の一覧表の交付手続の導入等を内容とする証拠開示制度の拡充、被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大等を内容とする弁護人による援助の充実や、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充等を内容とする犯罪被害者等及び証人を保護するための措置等の新たな制度が盛り込まれており、全ての制度を一体として整備することにより、時代に即した新たな刑事司法制度が構築されることとなる。

 
図表III-4 主な制度及び公布から施行までの期間一覧
図表III-4 主な制度及び公布から施行までの期間一覧


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