特集 国際テロ対策

4 我が国に対する国際テロの脅威

平成25年1月に発生した在アルジェリア邦人に対するテロ事件、27年1月及び2月に発生したシリアにおける邦人殺害テロ事件、同年3月に発生したチュニジアにおけるテロ事件を始め、現実に我が国の権益や邦人がテロの標的となる事案等が発生していることから、今後も邦人がテロや誘拐の被害に遭うことが懸念される。

(1)国際テロ組織による我が国への言及

前述のとおり、シリアにおける邦人殺害テロ事件において、27年2月1日にISILによって配信された動画には、日本政府を名指しして、今後も邦人をテロの標的とすることを示唆するメッセージが含まれていた。その後も、図表特-7のとおり、ISILは、オンライン機関誌「ダービク」において、我が国や邦人をテロの標的として繰り返し名指ししている。

AQについても、24年5月に米国が公開したオサマ・ビンラディン殺害時の押収資料によれば、「韓国のような非イスラム国の米国権益に対する攻撃に力を注ぐべき」と同人が指摘していたことが、明らかになった。また、米国で拘束中のAQ幹部のハリド・シェイク・モハメドの供述によれば、我が国に所在する米国大使館を破壊する計画等に関与したことなども明らかになっている。こうした資料や供述は、米軍基地等の米国権益が多数存在する我が国に対するイスラム過激派組織によるテロの脅威の一端を明らかにしたものといえる。

 
図表特-7 ダービクにおける日本への言及
図表特-7 ダービクにおける日本への言及

(2)日本国内におけるテロ組織への共鳴

欧米諸国においては、シリアに渡航してISILに参加していた外国人戦闘員とみられる者が帰国後にテロを敢行した事件や、テロ組織とは直接の関わりはないとみられる者がISILやAQ関連組織等によるインターネット上のプロパガンダに影響されて過激化し、自国内においてテロを引き起こす、いわゆるホームグローン・テロリスト(注)による事件が数多く発生している。

我が国においても、ISIL関係者と連絡を取っていると称する者や、インターネット上でISILへの支持を表明する者が存在しており、日本国内においてもISILやAQ関連組織等の過激思想に影響を受けた者によるテロが発生する可能性は否定できない。

注:7頁参照

(3)テロリストの侵入

殺人、爆弾テロ未遂等の罪でICPOを通じ国際手配されていた者(注)が、過去に不法に我が国への入出国を繰り返していたことが判明しており、過激思想を介して緩やかにつながるイスラム過激派組織のネットワークが我が国にも及んでいることを示している。

これらの事情に鑑みれば、我が国に対するテロの脅威は正に現実のものとなっているといえる。

注:同人は、国際連合安全保障理事会アル・カーイダ制裁委員会から、制裁対象として指定されている。
 
殺人、爆弾テロ未遂等の罪でICPOを通じ国際手配されていたにもかかわらず、偽造旅券を利用するなどして我が国に入出国を繰り返していた者(EPA=時事)
殺人、爆弾テロ未遂等の罪でICPOを通じ国際手配されていたにもかかわらず、偽造旅券を利用するなどして我が国に入出国を繰り返していた者(EPA=時事)

コラム 私戦予備陰謀被疑事件

平成26年10月、警視庁は、ISILに戦闘員として加わることを目的として、我が国からシリアへの渡航を企てた私戦予備及び陰謀の容疑で、大学生ら複数の関係者から事情聴取を行うとともに、都内の関係先数か所の捜索差押えを行った。ISILに参加しようとする日本人の存在が確認されたのはこの事件が初めてであり、我が国においても外国人戦闘員問題が現実の脅威であることが明らかとなった。

 
図表特-8 我が国に対する国際テロの脅威
図表特-8 我が国に対する国際テロの脅威


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