特集 国際テロ対策

第1節 国際テロ情勢

1 国際テロ情勢の推移

(1)イスラム過激派

① AQ(注)の台頭

平成13年9月に発生した米国における同時多発テロ事件で世界に衝撃を与えたイスラム過激派AQは、ソ連のアフガニスタン侵攻に対して戦ったアラブ人を集めて、オサマ・ビンラディンによって結成された。

AQの目標は、彼らが非イスラム的とみなす政権を転覆させ、イスラム諸国から西洋人や非イスラム教徒を追放することを通じて世界中に汎(はん)イスラム主義のカリフ統治国を樹立することにあるとされる。

とりわけ、その反米思想については、サウジアラビアへの米軍駐留に対する反発が契機となっており、オサマ・ビンラディンは、10年、「米国がイスラムの地から出ていくまでは、米国人とその同盟者に関しては、市民であろうと軍人であろうと、いかなるところでもこれを殺害せよ。これは聖戦(ジハード)である」との宗教令(ファトワ)を発するなど、その反米姿勢を明確にした。

AQは、アフガニスタンにおいて多数の外国人戦闘員を受け入れてテロ訓練等を実施し、AQの下でテロ訓練を受けた者が後に世界各地でAQ関連組織の幹部となるなど、イスラム過激派のネットワークの拡大に影響を与えた。

AQ関連組織は、中東、北アフリカ、東南アジア等世界各地に存在している。

注:Al-Qaeda(アル・カーイダ)の略
 
オサマ・ビンラディン(AFP=時事)
オサマ・ビンラディン(AFP=時事)
② 米国における同時多発テロ事件等

13年9月11日に発生した米国における同時多発テロ事件は、テロリストが、旅客機4機を同時にハイジャックし、乗員・乗客と共にニューヨークの世界貿易センタービル等に激突させるという前例のない手口により、約3,000人の犠牲者を出し、世界に衝撃を与えた。

ニューヨークでは、同日午前8時46分(日本時間午後9時46分)頃、マンハッタン島南端にある超高層ビルである世界貿易センタービルの北棟にアメリカン航空11便(ボストン発ロサンゼルス行き)が激突、さらに午前9時3分(日本時間午後10時3分)頃、南棟にユナイテッド航空175便(ボストン発ロサンゼルス行き)が激突した。航空機は、ビルに激突後爆発炎上し、世界貿易センタービルは両棟とも倒壊した。

ワシントンでは、同日午前9時37分(日本時間午後10時37分)頃、アメリカン航空77便(ワシントン発ロサンゼルス行き)が国防総省ビルに激突し、同ビルが炎上した。また、ペンシルベニア州では、同日午前10時3分(日本時間午後11時3分)頃、ユナイテッド航空93便(ニューアーク発サンフランシスコ行き)が墜落した。

携帯電話で地上と連絡を取っていた同機の乗客らは、世界貿易センタービルに対するテロの発生を知り、ハイジャック犯に抵抗したものとみられており、同機は、乗客とハイジャック犯が操縦かんを奪い合ったことを示す異常な動きを何度も見せながら飛行を続けた後、同州ピッツバーグ近郊に墜落した。

米国は、同月、この事件にAQの指導者であるオサマ・ビンラディンが関与していることを公表し、同年10月には、同人を庇護下に置いているとして、当時アフガニスタンを実効支配していたタリバーン政権に対して軍事行動を開始した。

また、この事件を契機に、イスラム諸国を含む多くの国々が、AQを始めとするイスラム過激派によるテロの脅威を改めて認識し、各種のテロ対策が進められることとなった。その結果、AQ最高幹部の1人であり、同時多発テロ事件の計画立案者であるとされるハリド・シェイク・モハメドを始め、多くのAQメンバーの身柄が拘束され、世界に広がったテロリストのネットワークの一端が明らかにされるなど、各国のテロ対策は一定の効果を上げた。

一方、米国における同時多発テロ事件の発生以降も、14年10月に発生したインドネシア・バリ島における爆弾テロ事件、16年3月に発生したスペイン・マドリードにおける同時多発列車爆破テロ事件、17年7月に発生した英国・ロンドンにおける同時多発テロ事件等、AQと関係を有するとされるイスラム過激派等によるテロ事件が、世界各地において多数発生した。

 
米国における同時多発テロ事件(Chao Soi Cheong/AP/アフロ)
米国における同時多発テロ事件(Chao Soi Cheong/AP/アフロ)
③ オサマ・ビンラディンの死亡

23年5月、米国の作戦によりオサマ・ビンラディンが死亡した。その後AQの新たな指導者となったアイマン・アル・ザワヒリは、欧米諸国等に対するジハードの継続を表明した。その後も、紛争が続く中東・北アフリカ地域を中心に、複数のAQ関連組織が活発に活動している。

(2)イスラム過激派以外の国際テロ組織

一方、このようなイスラム過激主義に基づくテロ組織のほかに、過激な政治思想に基づくテロ組織も存在する。例えば、左翼テロ組織として、「コロンビア革命軍」、ペルーの「センデロ・ルミノソ」等を挙げることができる。

 
オサマ・ビンラディンが潜伏していた建物(時事)
オサマ・ビンラディンが潜伏していた建物(時事)


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