第3章 サイバー空間の安全の確保

3 サイバー攻撃への対策

警察庁及び各都道府県警察では、サイバー攻撃対策を担当する組織を設置しているほか、各部門が連携し、サイバー攻撃の実態解明や被害の未然防止等を推進している。また、外国治安情報機関との捜査や情報収集に関する協力を強化したり、民間事業者等との協力関係を確立して被害の未然防止を図ったりするなど、サイバー攻撃をめぐる新たな情勢に対処するための対策に取り組んでいる。

(1)サイバー攻撃対策の推進体制

警察庁では、サイバー攻撃対策官が、都道府県警察が行う捜査に対する指導・調整、官民連携や外国治安情報機関との情報交換に当たるとともに、これを長とするサイバー攻撃分析センターにおいて、サイバー攻撃に係る情報の集約・分析を実施している。

また、政府機関、重要インフラ事業者、先端技術を有する事業者等が多く所在する13都道府県警察には、サイバー攻撃特別捜査隊を設置している。サイバー攻撃特別捜査隊は、サイバー攻撃に係る捜査に関する専門的な知識、技能及び経験をいかし、設置された都道府県におけるサイバー攻撃対策のみならず、他の都道府県警察に対して技能・技術・体制面の支援を行うことにより、全国のサイバー攻撃事案に対する捜査能力の向上を図っている。このほか、情報収集活動の推進や民間事業者等との協力関係の確立においても、中核的な役割を果たしている。

さらに、警察では、サイバー攻撃対策の技術的基盤として、警察庁及び地方機関(注)にサイバーフォースと呼ばれる技術部隊を設置しており、都道府県警察に対する技術支援を実施している。また、警察庁のサイバーフォースセンターは、全国のサイバーフォースの司令塔の役割を担っており、サイバー攻撃発生時においては技術的な被害状況の把握、被害拡大の防止、証拠保全等を行う拠点として機能するほか、24時間体制でのサイバー攻撃の予兆・実態把握、標的型メールに添付された不正プログラム等の分析、全国のサイバーフォースに対する指示等を行っている。

注:206頁参照
 
図表3-14 サイバー攻撃対策の推進体制
図表3-14 サイバー攻撃対策の推進体制

(2)サイバー攻撃の予兆・実態の把握

① 実態解明の推進

警察では、違法行為に対する捜査を推進するとともに、サイバー攻撃を受けたコンピュータや不正プログラムを解析するなどして、攻撃者及び手口に係る実態解明を進めている。また、外国治安情報機関との情報交換を行うとともに、ICPOを通じるなどして、海外の捜査機関との間で国際捜査協力を積極的に推進している。

事例

我が国の政府機関に対する不正アクセス事件に関して警視庁が捜査を進めたところ、犯行に使用されたレンタルサーバの契約に際し、当時日本に留学生として滞在していた中国人の男が、氏名、住所、生年月日等を偽って会員登録を行っていた事実が判明したことから、27年11月、同男を私電磁的記録不正作出・同供用罪により検挙した。また、同男は、これまで1,000台以上のレンタルサーバを契約した上、主に海外に居住する利用者に転売して利益を上げていたとみられ、転売されたレンタルサーバのなかには、他のサイバー攻撃において踏み台として悪用されたとみられるものが含まれていることから、実態の解明を進めている。

② リアルタイム検知ネットワークシステム

サイバーフォースセンターでは、インターネットとの接続点に設置したセンサーに対するアクセス情報等を集約・分析することで、DoS(注1)攻撃の発生や不正プログラムに感染したコンピュータの動向等の把握を可能とするリアルタイム検知ネットワークシステムを24時間体制で運用している。このシステムにより分析した結果をインターネット観測結果として重要インフラ事業者等への情報提供に活用するほか、警察庁セキュリティポータルサイト「@police」(注2)で広く一般に公開している。

注1:Denial of Serviceの略。特定のコンピュータに対し、大量のアクセスを繰り返し行い、コンピュータのサービス提供を不可能にするサイバー攻撃
注2:http://www.npa.go.jp/cyberpolice/
 
サイバーフォースセンターにおけるリアルタイム検知ネットワークシステムの運用状況
サイバーフォースセンターにおけるリアルタイム検知ネットワークシステムの運用状況

コラム 平成27年中のインターネット観測結果

サイバーフォースセンターでは、平成27年中に、インターネットとの接続点に設置したセンサーに対して、一つのセンサー当たり約2分に1回の割合という高い頻度で日本国内のみならず世界中から不審なアクセスが行われていることを観測した。

特に、27年中は、インターネット接続が可能な家電等の機器を発信元とする不審なアクセスの増加が顕著であった。これらのアクセスを分析したところ、発信元の機器と同様のインターネットに接続された家電等の機器を主な標的として、不正プログラムに感染させることを企図したとみられる攻撃が行われていることが判明した。この攻撃を受けて家電等の機器が不正プログラムに感染すると、当該機器は攻撃者の命令に基づいて動作する「ボット」となり、不正プログラムの更なる感染拡大や、DoS攻撃等に悪用されるおそれがある。

今後、インターネット接続が可能な家電等の更なる普及に伴い、このような攻撃の脅威が一層高まると予想されることから、警察庁においては、これらの機器の利用者に対して、意図せず攻撃に加担しないよう、利用する機器のソフトウェアを最新に保つなど、適切なセキュリティ対策を講じるよう注意を呼びかけている。



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