第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

第5節 将来にわたる良好な治安確保のための基盤構築に向けた取組

1 犯罪抑止に向けた取組

(1)地域社会との協働

良好な治安は、社会・経済の発展の礎であるが、その確保は、独り警察のみによって達せられるものではない。警察は、地域社会や関係機関・団体等との連携の下、社会全体で良好な治安が保たれるよう取り組んでいる。

① 社会の犯罪予防機能の高度化
ア 安全安心なまちづくり

政府では、平成17年6月に犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の合同会議において決定された「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」及び都市再生プロジェクト「防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全・安心の再構築」に基づき、官民連携した安全で安心なまちづくりを全国で推進している。

今後は、25年12月に閣議決定された「「世界一安全な日本」創造戦略」(注)も踏まえ、関係機関・団体等と連携して、引き続き全国で安全安心なまちづくりを推進していくこととしている。

注:213頁参照
イ 安全安心なまちづくりを推進する気運を高めるための取組

犯罪対策閣僚会議において定められた「安全安心なまちづくりの日」(毎年10月11日)の前後の期間を中心に、安全で安心なまちづくりの気運を高めるための様々な取組が行われており、その一環として、顕著な功績等のあった団体・個人を首相が表彰する「安全安心なまちづくり関係功労者表彰」が毎年首相官邸において行われている。

また、警察庁では、「安全安心なまちづくりの日」関連行事として、27年10月、優れた活動を行う防犯ボランティア団体と防犯まちづくりに積極的な取組を行っている地方公共団体がそれぞれ取組内容を発表する「防犯ボランティアフォーラム2015」を開催した。

 
安全安心なまちづくり関係功労者表彰(提供:内閣広報室)
安全安心なまちづくり関係功労者表彰(提供:内閣広報室)
ウ 繁華街・歓楽街の安全安心の確保に向けた総合対策の推進

警察では、健全で魅力あふれるまちづくりを推進するための施策を講じている。具体的には、繁華街・歓楽街の安全安心の確保に向け、商店街、商工会議所、商工会、地域住民、自治体等と問題意識を共有し、自治体が行うまちづくり事業に計画段階から積極的に関与するほか、客引きやスカウト行為、非行少年や不良行為者のい集、違法広告物の設置、ゴミや自転車の放置、違法駐車、落書き等の迷惑行為の取締り等を通して街並みの改善を図っている。また、繁華街・歓楽街において犯罪組織が暗躍することのないよう、雑居ビル、広告宣伝媒体等から犯罪組織を排除する取組を推進するとともに、違法風俗営業等の風俗関係事犯や不法就労、人身取引事犯、少年の健全育成を阻害する事犯、組織的な資金獲得犯罪等の取締りを推進している。

② 防犯ネットワークの整備と活用促進

治安を取り巻く情勢が依然として厳しいことに加え、人口・家族構造の変化等により社会情勢が変化している中で、かつて良好な治安を支えてきた社会の連帯感が希薄化している。このような現状を踏まえ、警察は、地方公共団体、地域住民、事業者等の各主体を包括する防犯ネットワークを整備し、これを有効活用した積極的な情報交換や、地域住民による防犯パトロール等の防犯ボランティア活動、事業者による防犯に関するCSR(注)活動に対する支援等を行うことで、地域社会が一体となった犯罪抑止対策の推進と連帯感の向上を図っている。

注:Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任と訳される。法令遵守、環境保護、地域貢献等、純粋に財務的な活動以外の分野において、企業が持続的な発展を目的として行う自主的取組
ア 防犯ボランティア団体の活動

27年末現在、警察が把握している防犯ボランティア団体は全国で4万8,060団体(注)となっている。これらの団体の多くは、町内会、自治会等の地域住民による団体や子供の保護者の団体であり、その構成員数は約276万人となっている。

多くの団体で防犯パトロールや通学路における子供の見守り活動を行っているほか、最近の犯罪情勢を踏まえ、振り込め詐欺等の特殊詐欺の被害防止のため、警察と連携した金融機関を対象とする被害防止訓練や高齢者の居宅の訪問を通じた防犯指導等を実施している団体もみられる。

注:平均月1回以上の活動実績(単に意見交換や情報交換のみを行う会議を除く。)があり、かつ、構成員が5人以上の団体
 
図表2-81 防犯ボランティア団体・構成員の推移(平成18~27年)
図表2-81 防犯ボランティア団体・構成員の推移(平成18~27年)
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イ 自主防犯活動に対する支援

警察では、防犯ボランティア団体に対し、犯罪情報の提供、防犯ボランティア保険の経費負担等を通じた経済的支援、合同パトロールの実施等の活動支援を行っているほか、自主防犯パトロールに使用する自動車に青色回転灯を装備することができる仕組みづくりを行い、27年末現在、全国で9,620団体、4万4,748台の青色回転灯装備車が活動している。

また、警察庁ウェブサイト上に「自主防犯ボランティア活動支援サイト」を開設し、防犯ボランティア団体相互のネットワークづくりを推進している。

 
図表2-82 青色回転灯を装備した自動車数(平成18~27年)
図表2-82 青色回転灯を装備した自動車数(平成18~27年)
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青色回転灯装備車
青色回転灯装備車
ウ 犯罪情報や地域安全情報の提供

警察では、地域住民が身近に感じる犯罪の発生を抑止し、犯罪被害に遭わない安全で安心なまちづくりを推進するため、地域住民に向けて、警察の保有する犯罪発生情報や防犯情報等を様々な手段・媒体を用いて適時適切に提供し、自主防犯活動の促進に努めている。

コラム 持続可能な安全安心まちづくりの推進方策に関する調査研究

警察庁では、平成26年度から27年度にかけて、持続可能な安全安心まちづくりの推進方策に関する調査研究を行った。当該調査研究における有識者検討会では、自主防犯活動の持続的発展のための課題や行政に求める支援等について、防犯ボランティア団体への実態調査を踏まえて検討がなされ、28年3月、その結果が報告書として取りまとめられた。報告書では、後継者の不在による構成員の高齢化という課題の解決策として他の団体との連携等が挙げられ、行政に対しては、連携のきっかけとなる場の構築等が求められた。警察庁では、これを踏まえ、自主防犯活動に対する支援の一層の充実を図っていくこととしている。

(2)犯罪防止に配慮した環境設計

犯罪を抑止するためには、都市の構造の在り方を見直し、都市のハード面から物理的に犯罪が行われにくい環境を創出することが重要であり、これにより犯罪が発生するリスクを長期にわたり抑制することができる。

① 公共施設や住宅の安全基準の策定等

警察庁では、犯罪防止に配慮した環境設計による安全安心なまちづくりを推進するため、住宅の防犯性能の向上や防犯に配慮した公共施設等の整備等に関する安全基準を策定し、その普及に努めている。

② 共同住宅や駐車場の防犯性能の認定・登録制度

警察では、関係団体と協力して、防犯に配慮した構造や設備を有するマンションや駐車場を防犯優良マンション、防犯モデル駐車場として登録又は認定する制度の普及を図っており、平成28年3月末現在、防犯優良マンション制度は24都道府県(注1)で、防犯モデル駐車場制度は13都府県(注2)で整備されている。

注1:北海道、埼玉、東京、千葉、神奈川、山梨、長野、静岡、福井、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、鳥取、広島、山口、愛媛、大分、熊本及び沖縄。平成28年3月末で、2,261件の登録又は認定がされている。
注2:東京、千葉、神奈川、福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、鳥取、広島、愛媛、大分及び沖縄。28年3月末現在で、285件の登録又は認定がされている。
③ 街頭防犯カメラの設置

街頭防犯カメラは、被害の未然防止や犯罪発生時の的確な対応に有効である。警察では、28年3月末現在、26都道府県で1,530台の街頭防犯カメラを設置しているほか、民間事業者等による街頭防犯カメラの設置を促進している。また、民間事業者等による設置・運用について支援を行っている。

④ 都市再構築の機会等を捉えた犯罪の起きにくいまちづくり

警察では、平素から自治体が主催する各種会議等に参画し、関係部門との意見調整等を継続的に行って、自治体の都市整備に向けた主体的行動を促すとともに、復興、防災等の観点から行われる都市再構築の機会を捉えた犯罪の起きにくいまちづくりを推進している。 

⑤ 防犯設備関連業界との連携

警察では、最新の犯罪情勢や手口等を事業者に提供するなどして社会のニーズに応じた優良な防犯設備の開発を支援している。また、公益社団法人日本防犯設備協会が認定している防犯設備士等(注)と協働し、防犯設備の効果的な設置及び適正な管理に向けた取組を推進している。

注:防犯設備士(28年4月1日現在2万5,817人)、総合防犯設備士(同341人)

事例

愛媛県警察では、25年7月から、「愛媛まるごとセーフティ」事業の一環として、街頭防犯カメラ等の防犯インフラの整備等を図っている。事業者等への働き掛け、地区防犯協会による基金の創設等により、事業開始から27年末にかけて約1,300台の街頭防犯カメラが設置されるなど、地域社会が一体となって防犯環境の整備が進められている。

 
基金に対する寄付金贈呈式
基金に対する寄付金贈呈式

(3)地域の犯罪情勢に即した犯罪抑止対策

犯罪情勢や社会構造の変化に伴って、警察に対する国民の要請が多様化している。これに応えるため、警察では、地域の犯罪情勢に即して警察活動を戦略的に展開し、地域住民に不安感を生じさせる身近な事案や事件に迅速かつ的確に対応することを目的とした、以下のような内容を大きな柱とする犯罪抑止に向けた取組を推進している。

① 犯罪抑止計画の策定

地域の犯罪情勢に即した効果的な犯罪抑止対策を推進するため、警察署ごとに、相談、警ら、捜査その他の警察活動により収集した情報等を分析し、その管轄区域において重点的に抑止すべき種類の犯罪を定め、犯罪抑止計画を策定している。また、警察本部においても、全国的な犯罪情勢を勘案し、関係する警察本部及び警察署が連携して広域的な抑止活動を行う必要がある種類の犯罪を定めて、犯罪抑止計画を策定している。

② 地域住民等との連携協働

治安上の脅威に対して十分な耐性のある地域社会を構築するためには、地域住民、事業者、関係団体、自治体等と連携協働した取組が必要不可欠である。したがって、犯罪抑止計画には、犯罪抑止における地域住民等の役割や、警察が行う地域住民等に対する地域の犯罪情勢等の情報提供等の支援について、できる限り具体的に定めることとし、また、地域住民等との連携協働を図る際には、既に警察と協力関係にある者・団体にのみ依存することなく、より広範な連携協働関係の構築を目指すこととしている。

事例

岡山県警察では、平成26年12月の大型商業施設の開業に伴い、事業者、自治体及び地域住民と連携した先制的な防犯対策を実施し、開業後においても継続した取組を推進している。

具体的には、開業前の計画段階から、自転車盗を始めとする犯罪の発生等を防止するため、防犯カメラの設置、自動ロック式駐輪場の整備、自転車放置禁止区域の拡大等について事業者及び自治体に働き掛けたほか、地域住民の意見・要望を対策に反映させるため、地元町内会と協働して連絡協議会を発足させるなどの取組を実施した。

開業後は、施設内の犯罪発生の状況を詳細に分析した結果を警察から事業者や防犯ボランティア団体に提供することによって自主防犯活動の活性化を図っている。

こうした取組の結果、施設周辺地域における刑法犯認知件数は開業前よりも大幅に減少した。

 
防犯ボランティア団体との防犯活動
防犯ボランティア団体との防犯活動


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