トピックス

トピックスIII サイバー空間の脅威に対する新たな産学官連携の枠組み

(1)脅威の現状と新たな取組の必要性

我が国におけるサイバー空間の脅威への対応には一定の成果が見られるものの、いずれも個別の事案に対する事後的な対処にとどまっている上、日々変化する脅威に対して先制的・包括的な対応を行い、以後の事案の発生を未然に防止できているとはいえない状況にあった。また、サイバー空間の脅威に対処する主体である産業界・学術機関・法執行機関(警察)は、それぞれの立場で各種取組を推進し、豊富な知識・経験を蓄積してきたが、それらを一元的に集約・分析し、対策に活用するための取組が必ずしも十分ではなかった。このため、平成25年に閣議決定された「「世界一安全な日本」創造戦略」や総合セキュリティ対策会議(注1)において、米国で産学官連携の枠組みとして成果を上げている非営利組織であるNCFTA(注2)に類似の新たな組織を構築する必要性が繰り返し指摘されていた。

注1:警察庁において、情報通信ネットワークの安全性・信頼性を確保することを目的として13年度から開催し、情報セキュリティに関する産業界等と政府機関との連携の在り方、特に警察との連携の在り方について有識者等による検討を行っている。
注2:National Cyber-Forensics & Training Allianceの略
 
図表III-1 サイバー空間の脅威への対処上の課題
図表III-1 サイバー空間の脅威への対処上の課題

(2)NCFTAの概要

NCFTAは、急速に複雑化するサイバー空間の脅威に効果的に対処するため、産業界、学術機関、法執行機関が保有する脅威に関する情報を業界横断的かつリアルタイムに収集・分析し、脅威に対して共同で対処するため、平成9年、米国に創設された(注)

NCFTAでは、収集した情報を集約・分析して法執行機関や企業に提供したり、捜査機関等の職員に対する捜査実習を実施するなどしている。このように産学官が一体となって先制的・包括的な対応を行うことで、例えばサイバー空間における金融サービスを悪用した犯罪の捜査に関連して犯罪収益の押収や被害の未然防止に貢献するなど、多大な成果を上げたことから、米国内外で高い評価を得、米国外においても同様の取組が試みられている。

注:米国における非営利団体法人の資格取得は14年
 
図表III-2 NCFTAについて
図表III-2 NCFTAについて

(3)我が国における新たな産学官連携の取組

① JC3の創設

以上の状況を踏まえ、新たな組織の創設に向けた警察庁等における検討を経て、「一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3(注))」が設立され、平成26年11月13日、業務を開始した。

JC3では、産学官の情報や知見を集約・分析し、その結果等を還元することで、脅威の大本を特定し、これを軽減及び無効化することにより、以後の事案発生の防止を図ることとしている。また、集約された情報を社会に発信するなどし、国民が安全かつ安心してインターネットを利用できる環境の構築に貢献することとしている。さらに、その機能を最大限に発揮するため、NCFTA等の海外の関係機関とも情報共有や協力関係の構築を行うこととしている。

注:Japan Cybercrime Control Centerの略
② 警察とJC3の連携

警察では、25年1月に「サイバー犯罪対処能力の強化等に向けた緊急プログラム」を策定して以降、サイバー犯罪対策における民間事業者等との連携を強く推進してきたが、JC3の創設を契機として、個々の企業等と事後的に連携するだけでなく、JC3を結節点とし、産学のより多くのパートナーと平素から連携することにより、産学官が一体となった態勢の構築に努めていくこととしている。

これまでに、警察は、27年2月に開催されたJC3主催のフォーラムに参加するなどして、金融犯罪、情報流出等について、産学の関係者と活発な意見・情報の交換を行っている。

今後、JC3との緊密な連携により、サイバー空間における脅威への先制的・包括的な対処が可能となることが期待される。例えば、JC3において、不正プログラムに関する産学官の情報が集約・分析され、これらの不正プログラムをコントロールする指令サーバが特定されることにより、警察では、捜査権限の行使等を通じた指令サーバの無害化や被害防止を図ることが可能となる。警察としては、捜査関連情報等をJC3において共有し、産学におけるサイバーセキュリティに関する取組に貢献するとともに、JC3において共有された情報を警察活動に迅速・的確に活用することにより、安全・安心なサイバー空間の構築に向けた取組を加速させていくこととしている。

 
フォーラムにおける意見交換の状況(提供:一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター)
フォーラムにおける意見交換の状況(提供:一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター)
 
図表III-3 日本サイバー犯罪対策センター(JC3)の概要
図表III-3 日本サイバー犯罪対策センター(JC3)の概要


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